緩やかな助走から後半に爆発する“Henceforth”、ギターをフィーチャーした“霽れを待つ”や“快晴”といったキャッチーな楽曲で耳馴染み抜群の今作。これぞアルバム!な隙なしの作りになっている中で印象深いのは、サウンドを牽引するピアノの存在。……元々ボカロシーンではピアノが多く取り入れられており、“千本桜”然り“Tell Your World”然り、いつしかピアノはボカロの必須楽器として君臨した感がある。ではOrangestarの今作はどうかと言えば、全てにおいてピアノを最優先に聴かせる形を取っていることが分かる。このアルバムを聴くと改めて「初音ミクの機械的な声に合うのはやっぱりピアノだなあ」とも思うし、また1曲ごとに挟まれるインタールードも、次曲に続く布石となっている点でも素晴らしい。
ライブは非常にマニアックなサイケ曲“憂兵衛no幽鬱”から、“IT'S a 魔DAY”、“赤い衝動 -R.I.P-”と続く一風変わった幕開け。ノイズ系のエフェクターを複数接続した殺人的な音に呑まれながら、一気に異世界へと誘われる会場である。中でも異常なテクニックを見せたのはShimizuのギターで、タッピングやハーモニクス、高速カッティングなど、どのバンドでも基本見たことのないテクニックを次々繰り出すカオスが会場を一気に彼ら色に染めていく。しかもこれらの演奏は真上を見ながらノールックで弾いていたり、通常のコードに関しても普通の弦の押さえ方(左手を下から握るようにする)ではなく真上から握り込むように押さえたりもしていて、総じて意味不明なバカテクが炸裂しまくる演奏が凄い。もちろん歌いながら可動域の多いベースを弾き倒す廣井も、手数の多いドラムをこなすKenzooooooも手が2本とは思えない演奏ぶり。一体我々は何を観ているのだろう……。
思えば彼らのそうした『言いたいことはあるが直接的には言わない』という恥ずかしがりな性格は、この日演奏された多くの楽曲に表れていた。そもそも彼らの楽曲は何を示しているのかを意図的に不明瞭にしている節があるが、何故なら実際のところコロナ禍にリリースされた『幻魔大祭』における“IT'S a 魔DAY”は『いつまで』、“M.O.8”は『モヤモヤ』、“狂感できない”は『共感できない』など、コロナ禍における世間の動きも暗喩している。彼らがミステリアスなバンドとされているのは楽曲に含まれる内容をはっきり語らないからだろうけれど、それも八十八ヶ所巡礼の良さというもの。
爽のCMでも知られるボン・ジョヴィの“Livin' on a Prayer”、ハム太郎の“ハム太郎とっとこうた”といったカオスすぎるチョイスのBGMが流れる中、ライブ時刻になると会場が暗転。いつもの教育系テレビ番組『ネッキーとあそぼう わんぱく☆パラダイス』の主題歌である“はじまるよ”が流れると、こやまたくや(Vo.G)、しばたありぼぼ(Vo.B)、もりもりもと(Dr.Cho)の3名前が袖から登場。もりもとに至っては早くも前方まで進み出てファンを「もっとこっち来て!」と言わんばかりにジェスチャーで誘導していて、それを見て更におしくらまんじゅう状態になる我々である。
今年の漢字が『税』に決まった抜群のタイミングでの“NO MONEY DANCE”、こやまが「島根に来るのは10-FEETの対バンで誘ってもらった以来なんですよ。なのでいきなりですけど10-FEETの曲やってもいいですか?」と語って雪崩れ込んだサプライズカバー“JUST A FALSE! JUST A HOLE!”と続き、熱狂は最高潮へ。これは誇張でも何でもなく本当に全員が汗まみれ、ステージは白い靄がかかってボヤけて見えるレベルの熱気であり、しばたも「マジで暑い……。みんなホンマに水飲みや?」と注意を促すほど。これまで何度もこのライブハウスに赴いたことはあれど、ここまでの暑さは初体験だ。
【ヤバイTシャツ屋さん@松江Canova セットリスト】 ちらばれ! サマーピーポー 喜志駅周辺なんもない 無線LANばり便利 BEST かわE 日本の首都、そこは東京 俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ リセットマラソン DANCE ON TANSU NO MONEY DANCE JUST A FALSE! JUST A HOLE!(10-FEETカバー) Tank-top Festival 2019 dabscription Blooming the Tank-top Tank-top of the world 癒着☆NIGHT ヤバみ ハッピーウェディング前ソング
「銀杏BOYZです。踊ってもいいし、座ってもいいし。歌える人は歌ってください。好きなように楽しんでください」。峯田は“新訳 銀河鉄道の夜”を歌い終えると、山形弁の主張が強いあの独特の語り口ではじめてファンに語り掛ける。次なる楽曲“NO FUTURE NO CRY”では早くもそのMCに触発されたのか、涙を流すばかりだったファンもサビを大熱唱。そしてぐっちゃぐちゃのライブアンセム“若者たち”では、前で着席して楽しんでいたファンも次々立ち上がり、拳を上げたり歌ったりと最高の環境に。演奏形態こそアコースティックだが、その熱量はかつてライブハウスで見たそれと同等の盛り上がりだ。
【銀杏BOYZ@出雲APOLLO セットリスト】 新訳 銀河鉄道の夜 NO FUTURE NO CRY 若者たち 夢で逢えたら 援助交際 アーメン・ザーメン・メリーチェイン エンジェルベイビー 骨 恋は永遠 いちごの唄 GOD SAVE THE わーるど 光 少年少女 BABY BABY 僕たちは世界を変えることができない