キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

個人的CDアルバムランキング2021 [15位〜11位]

こんばんは、キタガワです。


音楽を聴く人、そうでない人の格差が急激に広がりつつある現在、「音楽の存在意義って何だろう」と考えることが時たまある。そもそも生活にとってさして重要ではないとされるそれを定義するのは野暮だけれど、ひとつ間違いないことがあるとすれば、ある人にとっては音楽とは日々を彩り、活力を与えてくれる最高の媒体であるということ。そしてそれは自由気ままに思いを書き殴る当企画『個人的CDアルバムランキング』にも表れている。世間一般的な知名度に照らせば明らかに異質なこの企画だが、記事を通して音楽に対して何らかの興味・関心を抱いて、あわよくば楽曲を何個か聴いて貰うことが執筆者としての喜びなので、気にいった楽曲があれば是非とも一聴願いたい。


……という前置きを経て、『個人的CDアルバムランキング2021』2巡目。今回は今年リリースされたアルバムから15位〜11位をピックアップし、簡単な評論と共に紹介していく。テレビで見ない日はない売れっ子女優から、ギター1本だけで楽曲を紡ぐTikTok再生数3億回超えのSSW、ツイッターフォロワー数60万超えのYouTuberなど多種多様な5組の音楽に、どうか心から浸ってほしい。(20位〜16位はこちらから)

 

15位
adieu 2/adieu
2021年6月30日発売

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【上白石萌歌のアーティストサイド】

今や番組MCやドラマ出演に引っ張りだこの女優・上白石萌歌がadieu(アデュー)としての音楽活動を始めたのは2017年で、初アルバムのリリースは昨年。そして注目度の高まりと共に多忙を極める中生み落とされた『adieu 2』と名付けられた今作はそのタイトルの通り、彼女にとって通算2枚目のミニアルバムとなる。


年末の紅白歌合戦への初出演が内定している姉の上白石萌音の楽曲と同様、adieuの楽曲も基本的には著名なミュージシャンが制作している。正直今作に収録されている楽曲を提供者本人が歌えば明らかにそのアーティストの名曲になり得るのだけれど、今回提供された楽曲群を『adieuの作品』としてリリースするということはつまり、このアルバムを彩る最大の要素として絶対的に『上白石萌歌の歌声』が大切になってくるということでもある。それらを踏まえて今作を見てみると、どこを切っても彼女特有のふわりとした歌声が包み込む極上のバラードアルバムに。ただバラード一辺倒にならないのもアルバムらしさで、adieu史上最も明るい“天使”や、話題沸騰中の『THE FIRST TAKE』で披露された楽曲を再録したりもしつつ、どんな環境にもマッチする雰囲気が全体を漂っている。


adieuの楽曲を初めて聴く人の大多数は、おそらく『今話題の女優・上白石萌歌がアーティスト活動をしている』との色眼鏡から入る。もちろんこれを否定している訳では全くなく、むしろ興味を抱かせるという点においては最適解なのだろうと思う。ただ演技の面のみならずその歌声もアーティスト離れした才能として位置しており、結果上がりに上がったハードルを軽々超えていったこのアルバムは評価されて然るべき。加えて歌い方も前作『adieu 1』と比べて自信たっぷりで、総じてアーティスト・adieuは今作を以って新たなフェーズに突入したと断言できる、そんな飛躍作。

adieu [ 天使 ] - YouTube

adieu [ 春の羅針 ] - YouTube

 

 

14位
I believe in you/川崎鷹也
2021年5月26日発売(※オリジナル版は2018年7月25日)

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【ギター1本、裸の恋愛歌】

去る11月に放送された『行列のできる相談所』にて、川崎が自身の楽曲について「ほとんどの曲は妻への想いです」と語っていたのを見て、何だか妙に納得したのを覚えている。彼の楽曲が鼓膜を通して直接訴えかけるが如くの説得力を携えているのは、このためだったのだと。


川崎の楽曲“魔法の絨毯”がLINE MUSIC『アルバムトップ100』で1位を獲得、YouTubeの総再生数5500万回超え、更にはTikTok上でこの楽曲を使った動画が数万本アップされるバズを記録したことは、今年の音楽シーンにおける大きな話題となった。今作『I believe in you』はそんな“魔法の絨毯”の人気を受け、急遽2018年に発売されていたインディーズ時代のアルバムを全国流通作品として改めてリリースしたものである。まず綴っておくと、このアルバムには川崎のボーカルとギター以外に一切の音は入っていない。ベースもキーボードもドラムも、本来ポップスを鳴らす上で必要不可欠とされるサウンド的な物量が全てないのだ。だからこそ変な言い方をしてしまえば、我々はこのシンプルに研ぎ澄まされたアルバムで声・ギター・歌詞以外の情報を得ることもまた、出来ない。


以上のことから今作がここまで跳ねた理由を考えれば川崎が紡ぐ楽曲と声、そしてストレートな歌詞にあるとの結論に至るのは必然なのだが、そんな折に語られたのが冒頭の言葉。そう。本人の心に届くよう真摯に歌い上げた結果、巡り巡って心を打たれたリスナーがどんどん楽曲を広げていく最高の循環によって、彼のバズは成り立っていたのである。……音数の少ないミニマルなアルバムに見えて、川崎のSSW然とした魅力とこれ以上ないメッセージ性で情報を補完する『I believe in you』。なお今後川崎の名刺代わりとして語られるに相応しいこのアルバムを経て、最新曲“カレンダー”を筆頭とした楽曲、そしてリマスタリングされたYouTube上の“魔法の絨毯”では現在多くの楽器が用いられていることからも、今後の川崎はきっと音数を増やしたサウンドで攻める算段のはず。となれば今作は更なるフェーズに移動するための試金石とも取れる。改めて、音楽の可能性に気付かされた名作ポップだ。

川崎鷹也-魔法の絨毯【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube

川崎鷹也-幸せあれ【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube

 

 

13位
ZURUMUKE/変態紳士クラブ
2021年6月16日発売

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【苦境に立たされる今こそヒップホップを】

「日本で売れている音楽ジャンルは何?」……酷く抽象的にも思えるこの質問に、貴方なら何と答えるだろう。ポップス、ロック、K-POP。人によってはボカロやEDMと答える人もいるかもしれない。そんな中でこれまでにない程の苦境に立たされているジャンルがある。そう。ヒップホップである。……そもそもヒップホップは海外ならいざ知らず、日本では長らくマイナーな存在だった。フリースタイルダンジョンが流行った時期があったがそれも一過性だったし、特に今年はヒップホップフェス『NAMIMONOGATARI 2021』の大炎上でメディアが袋叩きにしたこともあり、ヒップホップの偏見をなかなか崩せないでいるというのが正直なところ。
 
翻って、“YOKAZE”がもたらした突然の大躍進を経てリリースされた変態紳士クラブのファーストアルバム『ZURUMUKE』は彼らの主戦場でもあるヒップホップシーンの要素をポップスに落とし込み、明らかに目標を一般層に定めた策略的な1作になっている。楽曲を聴けば確かにヒップホップ。ただし定義するとすればどちらかと言えばポップスという、売れるためにどうすれば良いのかを考えた結果の折衷案を彼らは成し遂げたのだ。


チャート成績として総合アルバムランキングで1位を獲得した今作で歌われる内容はエロ、楽しい日常などざっくばらんだが、変態紳士クラブがここまでの知名度を得た背景には、それらを超えてリスナーに絶大な印象を与える“Sorry”や“YOKAZE”といったダウナーな楽曲の存在が強いものと推察する。普段は明るい俺たちもひとりの人間。毎日辛いし死にたいし、生きる意味もないような気がする。しかしながら現実を直視することで人生はまた輝くのだと、彼らは本気で歌っている。それはこのコロナ禍に憂う我々にとって最も聴きたかった一幕でもあったし、もっと言えば本来相手を貶し合って勝ち負けを決定するストリート・ヒップホップシーンに象徴された傍若無人感とは対極に位置する代物で、思わずハッとさせられる。オートチューンと低音、耳馴染みの良い打ち込みサウンドで突き抜ける『ZURUMUKE』。是非とも普段ヒップホップを聴かない層に浸透させたい珠玉の処女作。

変態紳士クラブ - YOKAZE (Official Music Video) - YouTube

変態紳士クラブ - Sorry (Official Lyric Video) - YouTube

 

 

12位
Sunny!!/P丸様。
2021年3月17日発売

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【千変万化の声色で魅せる、ひとりキャラクターショー】

YouTube登録者数225万人。動画総再生数13億回。ツイッターフォロワー数68万人……。現代に生きる若者に多大な影響力を誇るバーチャルYouTuber・P丸様。が遂に降り立った音楽業界。その結果はもちろん大成功で“シル・ヴ・プレジデント”は6000万再生、その他楽曲も安定して数百万再生をキープと、もはや出せば売れる絶頂期に到達した感のあるインフルエンサーのファーストアルバム。


今作は兎にも角にも、楽曲ごとに全く違った雰囲気を纏う声色が印象的だ。元々彼女は作画・CVを自身が務める代表的イラスト作品『ゆるふわ』やモノマネ動画、昨年のCDアルバムランキング入りも果たした輝夜月名義での活動など声優顔負けの自由自在な声が注目を浴びていたけれど、今作は言うなれば『P丸様。のひとりキャラクターショー』。オープナーの“ならばおさらば”で中性的な歌声を響かせたかと思えば、“メンタルチェンソー”では様々な声が鼓膜を蹂躙。カンザキイオリ”命に嫌われている。“のカバーで暗く深い歌唱に徹し、今作きってのカオス曲“ガチやべぇじゃん”に関してはほぼ深夜のカラオケテンションのはっちゃけた歌声でサビがぐるぐる回る……。もちろん楽曲におけるサウンドも全てバラバラで、ポップもロックもEDMもおかまいなしのビックリ箱的な楽しさもあり。次のトラックに進むたびに思わず笑ってしまう無限のキャラクター性には、感服するばかりである。


そのためか、今作ではカバー曲“命に嫌われている。”を除いて圧倒的なまでの『陽』のエネルギーが満ち満ちているのも注目すべきポイントだ。ネガティブなフレーズを徹底して省いた中で、大統領になった際のマニフェストやら意味不明な若者言葉やら魔法少女やらYouTube登録者やらについて捲し立てる様は、完全に我々がイメージするP丸様。そのもの。ただこうしたカオティックなアルバムはよくよく考えれば、メッセージ性の大切さや独自の歌声が大切とされる音楽シーンにおいて異端な作品であったりもする訳で、ある意味では彼女にしか絶対に歌えない今作がここまでの広がりを見せたことは、YouTuberの作品として以上に音楽的にも大成功だと思う。なお現時点で新曲も多数公開中のP丸様。、これは来年リリースされるであろう次回作にも期待出来そうだ。

【MV】シル・ヴ・プレジデント/P丸様。【大統領になったらね!】 - YouTube

【MV】ガチやべぇじゃん feat.ななもり。/ P丸様。 - YouTube

 

 

11位
心理/折坂悠太
2021年10月6日発売

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【平熱の男、歌う】

この未曾有の時代に鳴らされるべき音楽、歌われるべき歌詞は一体何なのだろうと考える。政府への怒り?人々の焦燥?鬱屈した心情?もちろんいくら考えても答えはないけれど、まずもって間違いないのは、これらの心情を網羅する歌があれば、それは何よりもこの時代を象徴する代物になるだろうということだった。


鳥取県出身のSSW・折坂悠太によるフルアルバム『心理』をリリースするにあたり彼の心はぐちゃぐちゃに混乱し、もはや情報を詳細に記述することは困難だった。結果彼が用いた手段こそ、悩み抜いた歌詞について『考え得る限りの情報を抽象的なものとして綴る』という予想外のアプローチだったのである。《お前だけだ あの夜に/あんなに笑っていた奴は/お前だけだ この街で/こんな思いをしてる奴は》とする“トーチ”も、子どもと社会人との対比を描く“星屑”も、《もういいかい》と連呼する“爆発”も……。このアルバムで歌われている内容を我々が完璧に理解するのは困難で、例えば“トーチ”の歌詞を見ても人によってはコロナ禍だったり嫉妬だったりとネガティブな意味もありつつ、中には前向きなものとして捉える意見もあるだろう。歌詞の意味するところを聴き手に大きく左右させ、各自が考える解釈で咀嚼することを大前提とした『心理』。正直なところ、今でも果たして今回のランキング付けで11位で良かったのかと悩んでいる。また数日後には解釈が変わって上位に食い込むかもしれないと危惧してのこの順位だが、個人的には日本音楽シーンきっての大名盤と称して然るべき作品であろうと思う。


実際折坂は現状のインタビューでも、このアルバムを明確に言い表すことはしていない。ただ公式サイトにアップされた「何かに例えることができない。このアルバムは、簡単な物語に消化される事を拒んでいます。それでも私は表現者なので、表現できなければ終わりです」とする折坂が記した一文は、何よりもこのアルバムのメッセージ性を体現しているようでもあった。説得力のある言葉を頑として語らず、楽曲のみに落とし込む平熱の男が生み出した無機質なメッセージアルバムに、果たして貴方は何を思う。

折坂悠太 - トーチ (Official Visualizer) - YouTube

折坂悠太 - 星屑 (Official Music Video) - YouTube

 

 

感情の赴くままにつらつらと書き綴り、第15位〜11位までを列挙した今記事。その全てが初登場、ジャンルも異なり結果として上手くバラけた印象があるが、次回からはいよいよトップ10。長らく続いてきた当企画で遂に初めてとなる男性アイドルグループのアルバムから、事前情報なしで当日リリースされたサプライズ作品、そしてこれまで名前が挙がっていなかった洋楽シーンからは2組が台頭する。無論全員が当記事で取り上げるのは初のアーティスト。続報はもうすぐだ。