キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

個人的CDアルバムランキング2021 [10位〜6位]

こんばんは、キタガワです。


街中で、YouTubeで、友人との語らいで……。日々を生きていれば必ず新たな曲に出会う。それが音楽の素晴らしさであると個人的には信じて疑わない。それこそ一度自分の大好きなアーティストと出会ったきっかけを思い返してみてほしいけれど、それは一度は単なるBGMとして流していたものの何度も聞くうちに心酔し、それから他の楽曲も聴くようになったという流れもきっと多いはず。……それは筆者が感情の赴くままに書き殴る今記事『CDアルバムランキング』も同様で、どんな出会いでも貴方のアンテナのどこかにヒットする可能性は、十二分にあると思うのだ。


……前回までを通して、20位〜11位を発表し終えた今企画も、今回をもって遂にトップ10の発表である。音楽シーンきっての大問題作を皮切りに、方向性をガラリと変えたロックバンド、今企画初となる男性アイドルグループにも切り込み、様々な方面への更なる音楽認知の契機としたい。

→20位〜16位はこちら
→15位〜11位はこちら

 

10位
MOVING DAYS/Homecomings
2021年5月12日発売

f:id:psychedelicrock0825:20220103034247j:plain【日本語詞への変遷とその極地】

思えばこれまで一貫して英語詞で楽曲を歌詞を作っていたHomecomingsが突如日本語詞への傾倒を見せたのは2018年、サードアルバム『WHALE LIVING』をリリースした頃だった。何故彼らが日本語詞を選んだのか、その理由については様々なメディアで語られている通り「最後のアルバムは日本語で歌いたいと思った」という解散を前提にした考えがあったためだが、そうしたある種自暴自棄な前傾姿勢が功を奏し、結果として多くのタイアップに繋がりバンドは継続。メジャーデビューも果たす快進撃を見せた。


彼らが日本語詞に変遷してから2作目となる『MOVING DAYS』は、Homecomingsを語る上で今後重要になり得る1作として位置している。というのも、サウンド面も前作のカントリー的なサウンドよりは明らかにソウル色強め、全体を通して思わず体を動かしたくなる浮遊感が心地良い作品に仕上がっていて、Homecomingsの長きに渡る活動の集大成感も思わせるため。歌詞については英語詞と日本語詞、どちらが良いと議論するのはもはや野暮だが、畳野彩加(Vo.G)が綴る歌詞が精神の浄化とも言うべきストレートさでスッと耳に入る意味では、やはりこの方向転換は最高の決定であろうと思う。


特に彼らの思考を強く象徴しているのがリード曲“Here”と“Continue”。どれだけ普遍的な風景もつまらない日常も。突き詰めればこうした吹けば飛んでしまいそうな日常こそが幸せなのだと、彼らはしっかりと歌っている。これまで日本におけるメッセージソングと言えば「生きろ!」との暑苦しい叱責じみたものだったり、はたまた心に寄り添い共感を得るものが大半だったが、今作はそのどれとも違って、年配の人がゆっくり自分の気持ちを若者に吐露する感覚に似ている。……どこまでも続く旅路をマイペースに進み続けるHomecomingsの動きを今後も眺め続けていたい、そう感じてしまう程の自然的作品。きっと再生したが最後、生活にまつわる全てのシーンで素晴らしいBGMとして機能してくれるはずだ。

Homecomings - Here(Official Music Video) - YouTube

Homecomings - Continue(Official Music Video) - YouTube

 

 

9位
L∞VE/浦島坂田船
2021年7月7日発売

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【考え得る全ての物事に無限大の愛を】

『うら』たぬき、『志麻』、となりの『坂田』、『セン』ラら人気歌い手4名により結成された浦島坂田船による通算6枚目となるオリジナルアルバム。今作はタイトルにもある通り、全編通して『愛(LOVE)』をテーマに描かれているのが大きな特徴。ダンサブルなビートでテンションを上げる“SWEET TASTE PRESENT”の愛、淫靡な口調で調教するドSとしての愛、果てはメンバー間での些細な闘争を逆説的に愛と見なす……。つまりは考え方次第で全ては愛になり得るのだと、彼らは信じて疑わない。


なお歌詞以外の部分に目を向けても抜かりないのが今作であり、秀逸なのは収録された全ての楽曲が、ひとりひとりの個性をしっかりと活かしている点だ。そもそもの話、多人数グループはメンバーごとの住み分けが極めて難しいとされ、例えば紅白に出場したBiSHは敢えてサビをひとりひとりが歌うパターンにして強制的にメンバーの色を出しているし、海外バンドのThe Vampsなどはその逆で、ボーカルが印象的すぎるあまりボーカルだけが有名になってしまったことだってある。翻って浦島坂田船はどうかと言えば、各自クール、キュート、ハスキーなど歌声的な存在感を付与しつつ、それら5つの声を楽曲ごとに固定化。更にはメンバーカラーによる新たな楽しさやキャラクター性も合わせ、5人全員が『魅せる』アルバムにしていることも、高評価の大きな要素だ。


浦島坂田船が今や公式・個人アカウント問わずツイートひとつで数百リツイートを記録する、若者にとっての最重要人物に目されているのは間違いない。ただその背景には必ず彼らが売れている理由も存在する訳で、『L∞VE』がその真髄を多方面から見せ付ける代物となったことには、改めてぐうの音も出ない感覚にも陥る。彼らを取り巻く環境の全てに理由が付く、最強の1枚。

SWEET TASTE PRESENT/浦島坂田船 - YouTube

世界で一番好きな名前/浦島坂田船 - YouTube

 

 

8位
evermore/Taylor Swift
2021年1月22日発売

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【娯楽としての音楽、現実逃避としての音楽】

孤高のシンガー、テイラー・スウィフトにとって前作『folklore(フォークロア)』は、まさしく彼女の人気の高さを見せ付けるアルバムだった。発売24時間以内に全世界で130万枚相当以上のセールスを記録し、全世界80か国のiTunes上で1位を獲得。結果として2020年に最も再生されたポップアルバムに認定されたことで、改めてテイラーの凄さに舌を巻いた人は多かったはず。


そしてコロナ禍に憂う某日、またもサプライズ的なリリース発表で騒然となった今作『evermore(エヴァーモア)』はテイラーいわく「folkloreの姉妹的作品」とされる。果たしてどこが姉妹的なのかと言えば答えは単純で、『folklore』リリース以降、本来であれば数カ月間の休みを挟む計画だったテイラーがそのまま制作の続行を希望したためだ。そのため歌詞もサウンドも前作に寄ったものになっていて、取り分け詐欺師が富裕層に取り入るも次第に行為を抱いてしまったり、いつも一緒にいる恋人の片方が別れを、もう片方が結婚を切り出そうとしていたりと、フィクションを歌う楽曲が多い傾向にある。『evermore』がコロナの世を示したものなのかは不明だが、きっとそれは我々が最も求めていた現実逃避の手段でもあると彼女は理解している。


そんなどこか取り留めもない今作に付属している自身が綴ったライナーノーツで、彼女はこう締め括っている。「次に何が起こるのか、私には見当もつきません。近頃は思ってもみないことばかりなので、皆さんとの繋がりを保つことのできるたった一つのことに、私はしがみついています。そのたった一つのこととは、今まで常に音楽でした。そしてこの先もずっと音楽でしょう」……。様々な痛みを経験した彼女が生み出してきたアルバムの中でも、最もフィクション色の強い今作が示すもの。それは音楽という娯楽の再認識と、困難な時代の現実逃避としての役割だったのだ。

Taylor Swift - willow (Official Music Video) - YouTube

Taylor Swift - champagne problems (Official Lyric Video) - YouTube

 

 

7位
Who Am I?/Pale Waves
2021年4月6日発売

f:id:psychedelicrock0825:20220103034614j:plain【私が本当に作りたかったもの】

ゴス・メイクという衝撃的な風貌でありながら、そのイメージとは対照的なキラキラポップでバズを記録したバンド……。ペール・ウェーヴスのバイオグラフィーとして語られる時に基本的にはこのフレーズばかりが使われていたことに、特段異論がある人はいないだろう。故に彼らの次回作も同系統のものになると誰もが思っていたはずだが、結果本人たちも予想しなかったアルバム完成に至ったのである。


まず大前提として、今作は言わずと知れたソロシンガー、アヴリル・ラヴィーンのファーストアルバム『Let Go』とセカンドアルバム『Under My Skin』に多大な影響を受けている。これについては本人たちもはっきりと認めていて、特に以下の“Change”と“Easy”は一聴した瞬間にアヴリルが頭を過るし、今作のジャケットもアヴリルの『Let Go』に意図して寄せている節がある。今作がこうした作風となった背景にあるのは「長い間一緒に作業したんだけど、得たいものが得られなかったのよね。だからちょっとお互いに離れてみないかと私が言ったの」というヘザー・バロン・グレイシー(Vo.G)の発言の通り、単独で制作に挑むこととなった彼女のバックボーンが大きく関係している。彼女は今作を作る際、元々「前作と同じものは作りたくない」と自問自答していたそうで、とにかく自分が作りたい音楽のみを考えたところ本当に結果的にだが、学生時代から大ファンでよく聴いていたアヴリルに似たサウンドになったのだという。


そんな前作とはガラッと変わったこのアルバムに、ヘザーは当然大満足。ともすれば批判に晒される可能性もあった中でファンからも好意的な意見が多く、現在でもYouTubeのコメント欄では「アヴリルの後継者だ!」「俺はペール・ウェーヴスのこんなサウンドが聴きたかった!」など元々のファンに加えてアヴリル好きも反応する、凄まじい熱狂が繰り広げられている。余談だが、歌詞においてもこれまでの失恋から新たな恋愛の炎を燃やす一幕も描かれている(ロスで出会った同性のパートナーと出会ったことが関係している)ことも、これまでのPWと違ったポイントであることは特筆しておきたい。絶対的なポジティブぶりで何でもクリアする、今の無敵感を表した最高のロックアルバム。 

Pale Waves - Change - YouTube

Pale Waves - Easy - YouTube

 

 

6位
バイエル/ドレスコーズ
バイエル(Ⅰ.)2021年4月7日発売・バイエル(Ⅱ.)2021年4月23日発売・バイエル(Ⅲ.)2021年5月20日発売・バイエル(Ⅳ.)2021年6月16日発売

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【音楽シーンを引っ掻き回す大問題作、ここに】

このアルバムのリリースの動きは、ここ何十年の音楽シーンの通例と比較しても、異常極まりないものだった。ドレスコーズのフロントマンであり全ての決定権を持つ志磨遼平(Vo)が考案した今作のコンセプトはズバリ、『まなびと成長』。それに伴ってリリースは合計4形態に分けられた。まずは事前情報なしのサプライズリリースされた『Ⅰ.』では何と全曲がピアノ演奏のみ、ボーカルもギターもなしでタイトルには“練習曲 第1番”など番号が振り分けられており、多くのファンを困惑させた。そして同月23日には新たに志磨のボーカルが乗っかる『Ⅱ.』がリリースされ、翌5月に楽器隊を加えた『Ⅲ.』を経て、遂に完成形として世に送り出されたのがリパッケージ版『Ⅳ.』という訳だ(詳細は以下の“ちがいをみとめる”動画参照)。


『Ⅰ.』『Ⅱ.』『Ⅲ.』『Ⅳ.』を通して彼がこのアルバムで体現したのは、単なる音楽実験ではない。悲しい旋律から徐々に勢いづき、最後はひとつになるこの動きは、そう。コロナ蔓延に憂う心を何とか前向きにさせようとしていた、ここ数ヶ月の我々の感情とも深くリンクしている。ギターロックバンド・ドレスコーズとしてはほぼ有り得なかったピアノバラードの形態になったことも、そんな我々リスナーの心に寄り添った結果なのだろう。収録曲についても、まるで讃美歌のように壮大かつ物悲しさを覚えるものばかり。これまでのコロナの生活を想像させる“大疫病の年に”に始まり、高らかに歌われるサビが印象的な“ちがいをみとめる”、最終曲“ピーター・アイヴァース”まで……。これまでのドレスコーズと全く違うこれらの楽曲群をどう捉えるかは聴き手次第とはいえ、志磨がこの時代だからこそ向けた明確なメッセージがそこにはある。


実験作にして極上のピアノバラード集『バイエル』。コロナが収束した後にこのアルバムの楽曲がライブで演奏されることはおそらく少ないことと推察するが、たとえ収束しても聴き続ける人がいる限り、今作はこれからも成長を続けていく。そう。彼はこのアルバムを一言で『まなびと成長』であると形容したけれど、成長するのはもしかするとアルバムだけではなく、今作を聴いて心移り変わる我々も同様なのかもしれない。

ドレスコーズ「ピーター・アイヴァース」MUSIC VIDEO - YouTube

『バイエル』「ちがいをみとめる」聴き比べMOVIE - YouTube

 


次回はいよいよトップ5の発表をもって、今企画の締め括りとする。……結果的に2021年内に書き終えること叶わず来年に持ち越してしまったことだけは残念だけれど、それでも作品の素晴らしさにはさして問題はない。なので2022においても今企画の結末をフワッと鑑賞してもらえれば幸いである。2年連続でトップ5に名を連ねたユニットを筆頭に、最終的に海外で最もバズったティーンアルバム、そして第1位には日本国民誰もが知る、あのアーティストの年明け1月1日リリースのアルバムが、そのままの勢いでゴールテープを切ることとなる。気になる続きはまた時間のアナウンスにて。