キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

個人的ベストCDアルバムランキング2022 [10位〜6位]

こんばんは、キタガワです。

コロナや悪い事件など様々なことがあった2022年。ただ辛いこともあった中で、我々を救ってくれるのはやはり音楽だった。……ということで当ブログ恒例企画『個人的ベストCDアルバムランキング2022』、第10位〜6位までの発表である。今回はサマソニに出演が決定したあの人から、紅白連続内定のグループ、新進気鋭のボカロクリエイターまで多種多様な5組を紹介。前回前々回の記事も合わせて、ある種穿った形ではあるが2022年の音楽の総浚いとして活用していただきたいところ。それでは以下より続きをどうぞ!

→20位〜16位はこちら

→15位→11位はこちら

10位
Cとし生けるもの/リーガルリリー
2022年1月19日発売

【ギターロックというもの】
前作『bedtime story』でメジャーデビューを果たしたリーガルリリーのセカンド。リリースペースも例年通り、もはや安定の彼女たちらしく、今作では『bedtime Story』の延長線とも言えるロック色強めの楽曲が主だ。それでいて小さい子供が読んでも理解できるシンプルワードで日常を切り取る視点は、今作では更に研ぎ澄まされているのもポイント。

《言葉の銃弾》を含めハッとするワードがSNS社会の今に刺さる“たたかわないらいおん”、他者の思いに間接的に触れる“中央線”、再生した瞬間に轟音に呑み込まれるシューゲイザーロック“東京”……。これまで培われてきたリーガルリリーの武器が集合体となって、耳に迫る極上体験が出来る魅力が今作にはある。たかはしほのか(Vo.G)の歌声との親和性も素晴らしく、取り分け“中央線”や“東京”といったロック曲ではその奇跡的なマッチ度に驚くはずだ。

リーガルリリーはスリーピースでありながら、リリースの度にそのサウンドに驚かされるバンドである。もちろん鳴っている楽器はギター、ベース、ドラムの3種類のみではあるのだが、ミキサー的に極限まで音圧を上げる手法でもって、特にCD音源は他のバンドとも比較できない迫力を宿している。そんな彼女たちのニューアルバムは結果的にどこまでも愚直で、歌詞的には抽象的で、そして歌声はクリアな名盤となった。この作品は一気に化ける代物と言うよりは、ふとした時に聴きたくなって最高を更新し続ける、そんな不思議なアルバム。

リーガルリリー - 『東京』Music Video - YouTube

リーガルリリー - 『たたかわないらいおん』Music Video - YouTube


9位
C'mon You Know/Liam Gallagher
2022年5月27日発売

【覚醒する一本柱】
オアシス解散後、絶対的ボーカリストだったリアム・ギャラガーがソロに転向したのは早いものでもう5年前。以降もアルバムをリリースし続け、都度売上トップを記録してきた彼にとっては通算3枚目のアルバムとなる。

大前提として、リアムはロック以外の楽曲は絶対に歌わない。そのためある意味では限られた制約の中で成長せざるを得ないのがリアムのソロ活動なのだけれど、今作に関してはロックの中にもアレンジを加えている点で、ひとつの分岐点になるべき1枚。女性のコーラス隊による歌声(!)から始まる驚きの“More Power”を皮切りに、ピアノの使用や美メロで攻める手法は新機軸ながら、全てがガチッとハマる痛快さもある。なおこれらの試みは共同作業者を変化させたために起こったとされ、結果的に新たな扉を開いた感も。

活動が長くなるにつれ、往年のシンガーでも浮き沈みはあるものだ。ただリアムのアルバムは徹底してロック、更にはオアシスファンの期待も裏切らない点において、とても安定したアルバムと言える。個人的にはamazarashi然りリアム然り、特にここ最近は個人的に大好きなアーティストはファン視点で高評価になってしまう可能性を鑑みてランキング入りを極力しないようにしていたのだが、この作品はそんな思いを「うるせえ馬鹿!」と一蹴する力強さがあった。2023年8月にはサマソニ来日も決定しているリアムさん、今後の活動にも期待大だ。

Liam Gallagher - Everything's Electric (Official Video) - YouTube

Liam Gallagher - C'mon You Know (Visualiser) - YouTube

 

8位
PLASMA/Perfume
2022年7月27日発売

【ちょっとオトナなPerfume、新境地へ】
これまでの自分自身を新解釈・最先端技術で落とし込んだ全国ツアー『Reframe』を終え、ネクストステージへと進むPerfume。前作から2年10ヶ月、新たな一手としてリリースされたのが、通算8枚目となるオリジナルアルバム『PLASMA』だ。

『PLASMA』とは科学用語で『固体・液体・気体に次ぐ物質の第4の状態』を意味する。つまるところ今作が目指したのは新たな音楽性で、これまでのPerfume像を変えるよう作られたアルバムとの見方も出来る。……翻って『PLASMA』を聴いてみるとBPM遅め、何処か落ち着いた雰囲気の楽曲が光っていて、リード曲たる“Spinning World”や“ポリゴンウェイヴ”を含め、電子音がぐるぐる回る“再生”、ダークな“マワルカガミ”など、良い意味でアッパーアッパーしていない今作。ただアルバム全体を通して感じるダウナー的なイメージは言わば『大人なPerfume』として、日常のどんな環境にも合う代物に仕上がった。

特に秀逸なのは、アルバム後半からの流れ。ここからは明らかに前半部と比べて歌詞を聴かせる流れに終始していて、キラキラした楽曲は鳴りを潜める。ただそうした一面さえもどこか彼女たちが達観したようにも、世情を反映しているようにも取ることができ新鮮。相変わらず他のアーティストの楽曲と比べて音圧もあり、改めてテクノポップ強者を感じさせるPerfumeは、約3年ぶりのアルバムでまたひとつ成長したのだ。

[Official Music Video] Perfume 「Spinning World」 - YouTube

[Official Music Video] Perfume 「ポリゴンウェイヴ」 - YouTube


7位
ウェザーステーション/稲葉曇
2022年3月23日発売

【キャッチーな中毒性で攻めるボカロ・ニューカマー】
新進気鋭のボカロクリエイター・稲葉曇(いなばくもり)初となる全国流通盤。今作はYouTubeでバズを記録した“ラグトレイン”や“レイニーブーツ”をはじめ、これまでリリースされた楽曲の現在地を収める渾身の1作に仕上がっている。

楽曲のボーカルは2009年より普及した、小学校低年齢の少女の声をイメージした歌愛ユキを使用。変な言い方をしてしまえば歌声は機械的であるために、アルバム全体の魅力を考えたとき稲葉雲に関しては、サウンドに焦点を当てる形になってくる。そこで『ウェザーステーション』を聴いてみると、アッパーなBPMを基調としたキャッチーな音が印象深く映る。これは本人いわくボカロの第一人者・wowakaへのリスペクトによるものらしいが、なるほど確かに。意図的に構成された歌詞然り、これまでのボカロ市場を自身の才能と合致させた、結果独自性の高い楽曲の宝庫だ。

ネットを介して作品を表現することがスタンダードになった昨今では、ジャンルを問わず『良いものは良い』と評価される。では最も人の心を虜にするものは何かといえば、それはサウンドの中毒性なのかなとも思うのだ。ボカロシーンの新星たる稲葉曇にとっての『ウェザーステーション』、それは聴く者の心を一気に晴天に持っていく、極上のポップアルバムだった。

稲葉曇『ラグトレイン』Vo. 歌愛ユキ - YouTube

稲葉曇『レイニーブーツ』Vo. 歌愛ユキ - YouTube

 

6位
素晴らしい世界/森山直太朗
2022年3月16日発売

【フィルターを通して見るコロナ禍】
「森山直太朗はどんなアーティスト?」という問いに対して多くの人が思い描くのは、おそらくバラードのイメージだろう。では森山のスタンスとしては正しいこの事実を『世間的な現在地に当て嵌めてみたらどうなった?』というひとつの解が、今作の意味するところ。

『素晴らしい世界』は端的に言えばコロナ前後を映し出すタイムリーなアルバムである。オープナーの”カク云ウボクモ”で愛する人の大切さを改めて説き、緊急事態宣言下の生活は“最悪な春”で笑い飛ばす。かたや“花”や“さくら”といった代表曲はニューアレンジでもって『コロナ』のコンセプトに寄り添う形で奏でられていて、思わずグッと来る。中でも象徴的なのは7分超えの長尺曲“素晴らしい世界”。彼の歌詞はあえて曖昧に作られているため、それが何を指しているのかは不明瞭。ただ全体を通して聴いたとき、はっきりとした憂鬱が感じられる名曲だ。

何かをストレートに歌詞におこすことは、アーティスト的にも確かに大切だと思う。それこそ『コロナ禍』のテーマひとつ取っても、失われた事象を多く列挙することの方が心を打つだろう。ただ森山は卒業について直接的に示していない“さくら”が卒業ソングとして広がったように、そのワードを使わずにどう『それ』として届けるかに長けたアーティストである。今作は単純に森山直太朗の名盤としても、あの暗かったコロナ禍を回顧するためにも、とても重要な1枚。

森山直太朗‐素晴らしい世界 Music Video - YouTube

森山直太朗 - カク云ウボクモ 〜春〜 Music Video - YouTube

 

さて、10位〜6位までのランキングはここで終了。次回は遂にトップ5の発表である。過去今企画でもお馴染みだったあのアーティストから、今話題沸騰中のソロアーティストまで選り取り見取りな5枚を紹介する。乞うご期待。