キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】銀杏BOYZ・柴田聡子『世界ツアー弾き語り23-24 ボーイ・ミーツ・ガール』@出雲APOLLO

様々なライブに参加してきた自負はあったが、ここまでの熱量を持ったアコースティックライブは観たことがない。……そもそも『銀杏BOYZが全国ツアーを開催する』という時点で相当に久々なのだけれど、なんと今回は長い期間を掛けて全国47都道府県を回るというアコースティックライブ。この日参加したのは地元・島根県の公演で、チケットは一般発売の瞬間に秒でソールドアウト。地方公演自体が珍し過ぎる銀杏、既に会場の外まで異様な熱気が立ち込めるライブハウスである。

会場に入ると、そこは本来のライブハウスとは一風変わった作りに目を奪われる。客席は前方2列のみに椅子が設置されており、整理番号の早かった幸運な20名程度が着席型で楽しめる形(それ以外のファンは全員スタンディング)。またステージに置かれているのは譜面台とアンプ、スタンドマイク程度で、ライブにありがちな背後の垂れ幕なども一切なし。全体としては非常に簡素で、まさしくアコースティックライブという印象。

 

定刻になると、まずはゲストアクトとして柴田聡子のライブがスタート。袖からギターを携えてフラっと登場した柴田は赤を貴重とした普段着であり、肩肘張らないフラットさで、元々4分の1程度まで減っていたステージドリンクのお茶を一口。ちなみに足元のエフェクターも皆無で、純粋にギターをアンプに直で繋いだ裸一貫のスタイルである。

柴田聡子 - ぼくめつ (Official Music Video) - YouTube

「こんばんは、柴田聡子です。“ぼくめつ”という曲をやります」との一言から、オープナーは“ぼくめつ”。柴田は基本的にはギターをつま弾きながら歌唱するスタイルで、この楽曲ではコード進行をほぼ使わず、ポロポロとした耳馴染みの良い音の広がりが楽しい。また歌詞の数々も難しい表現は一切用いず、それでいて複数の解釈の出来る仕組みになっていることにも驚いた。例えば《具合がすごくすごく悪い》とする歌詞ひとつ取っても、それがメンタルなのか肉体的なのかは明確化されていない。MVではその答えとして『コロナ禍で強行されるオリンピック』として描かれていた訳だが、ライブにおいては「あなたにとってはどう?」という問いを投げかけられている感覚もあり、我々自身が補完してはじめて完結する“ぼくめつ”は弾き語りとしてピッタリだなと。

柴田聡子 - 後悔 (Official Music Video) - YouTube

先述の通り、この日のライブはアコギをアンプに直で繋いだ小細工なしの一発勝負。ゆえに演奏は徹底してシンプルである。そんな中で“いきすぎた友達”ではグルグル回るサビのフレーズが中毒性を伴って聴こえたり、“後悔”ではストロークを調節しながら音の聴こえ方をコントロールする場面も見られ、総じてシンガーソングライターとしての力量を様々な部分で感じた次第だ。……かと思えばMCでは「センキュー!」と語る程度で、“旅行”前には「みなさん旅行とか行きますか?」の問いで静まり返る客席を観て苦笑いするなど、一気にシャイになるのはギャップも相まって最高。

中盤からは出雲観光のMCを挟みつつ“後悔”、“涙”といったポップナンバーを投下。この頃になると直立不動で聴き入っていた観客も体を無意識に揺らすようになり、ライブとして環境的にも抜群のものに。そこからのアップテンポな“24秒”、“ワンコロメーター”はそのキャッチーさからも素晴らしい求心力で、多くの観客の心に爪痕を残したことだろう。

柴田聡子 - ワンコロメーター (Official Music Video) - YouTube

最後の楽曲は“芝の青さ”。昔からの言葉に『隣の芝生は青く見える』というものがあるけれど、この楽曲では逆に他者と比較して見えてくる、自分自身のネガティブなリアルについて歌われている。そのメッセージ性もさることながら、前曲“ワンコロメーター”とはまた異なったテイストの楽曲でラストを飾ることについても、彼女自身の挑戦の気持ちと強気な姿勢を感じた。銀杏BOYZの峯田はかつて彼女を「僕が一番好きな女性アーティスト」と紹介していたことがあったが、なるほど。この場はライブハウスだったが、まるで草木生い茂る公園で聴いているような爽やかささえ錯覚する、極上のひとときだった。

【柴田聡子@出雲APOLLO セットリスト】
ぼくめつ
いきすぎた友達
旅行
後悔

24秒
ワンコロメーター
芝の青さ

 

柴田聡子の最高過ぎるライブが終わると、直ぐ様ざわつき出す場内。それもそのはず、次は待ちに待った銀杏BOYZ……もとい峯田和伸を目撃することが出来るのだから。冒頭で『銀杏BOYZが全国ツアーを開催することはレア』と綴ったが、そもそも峯田を観たことのある人はコアなファンはともかく、一般的にはかなり少ないことと推察する。それは近年の峯田が連続テレビ小説『ひよっこ』を始めとした俳優業の活躍による部分もあるが、アルバムのリリース期間が通常ではあり得ないスパンの長さになったり、久々にライブをしたとしても、その倍率の高さから落選した人も存在するからだ。

しかもいわゆる『地方都市』と呼ばれる過疎の地域で暮らしている人に関しては、更に銀杏BOYZのライブは縁遠いものに。実際、周囲の人からは「俺銀杏BOYZのライブ観るの12年ぶりだよ」「ゴイステ(峯田が以前組んでいたバンド・GOING STEADY)めっちゃ聴いてた」なんて声も聴こえてくる。集まった全員がそれぞれの思いでこの場に集まっているのだと分かり、グッと来たり。

定刻になり、これまで流れていたBGMが突如として、ひとりの一般男性が恋について話す独り言が流れ始める。初恋のドキドキを様々な出来事に置き換え、次第にそのトークが「こんなことって、トナカイやゾウアザラシにもあるんだろうか」と締め括られた瞬間、ステージ袖から峯田和伸その人が登場。フロアの様々な場所から「峯田ぁー!」の声が飛ぶ中、峯田はギターをチューニングしながらも口の中が粘つくのか、頻りに口を開きつつステージに痰を履いたり、口内を触って最前列のファンに歯垢をプレゼントしたりと早くもやりたい放題。

ちなみにステージ衣装は黒キャップを被り、緑色のシャツを素肌の上に羽織り、下は使い古したジーパン。無精髭は生えているし、耳元まで髪で覆われている……という、変な言い方をすればお金のない浮浪者のような格好で、どう見ても彼は伝説的バンドのフロントマンにも朝ドラ俳優にも見えない。ただその目だけは肉食獣みたいにギラギラと輝いていて、何だかそれだけで「峯田だなぁ」と思ってしまう。

新訳 銀河鉄道の夜 - YouTube

そして静寂に変化した空気から、ギターを構えた峯田がゆっくりと歌い始める。それはかの有名な“銀河鉄道の夜”……もとい、新たなアレンジで歌われる“新訳 銀河鉄道の夜”だった。峯田が《天》と歌い始めた瞬間、集まったファン全員の脳裏にあの頃の思い出がよみがえる。サビが終わりギターのみの音に戻ったとき、涙を堪えて鼻をすすり上げる音がそこかしこで上がっていたのが印象的だった。ふと周りを見渡せば強面のおっちゃんも、営業の出来そうなあんちゃんも、彼氏と来ている女の子もみんな泣いていて、「銀杏BOYZの音楽は僕らの青春の象徴だったのだなあ」と、改めて感じられた。

この日のライブは、これまでの銀杏BOYZのベストセットをアコースティックに変更したようなセットリスト。具体的には今から約18年前にリリースされ、そのたった2枚のアルバムで伝説的バンドへとのし上がった『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』と『DOOR』から大半が選曲され、中盤以降はそこから9年の時を経て(この頃には峯田以外のメンバーが全員脱退していた)リリースされた『光のなかに立っていてね』と『ねえみんな大好きだよ』の楽曲を多くドロップ。結果として集まった全員の琴線に触れる、青春回顧のような夜となった。

Wakamono Tachi - YouTube

「銀杏BOYZです。踊ってもいいし、座ってもいいし。歌える人は歌ってください。好きなように楽しんでください」。峯田は“新訳 銀河鉄道の夜”を歌い終えると、山形弁の主張が強いあの独特の語り口ではじめてファンに語り掛ける。次なる楽曲“NO FUTURE NO CRY”では早くもそのMCに触発されたのか、涙を流すばかりだったファンもサビを大熱唱。そしてぐっちゃぐちゃのライブアンセム“若者たち”では、前で着席して楽しんでいたファンも次々立ち上がり、拳を上げたり歌ったりと最高の環境に。演奏形態こそアコースティックだが、その熱量はかつてライブハウスで見たそれと同等の盛り上がりだ。

銀杏BOYZ - 援助交際 (Music Video) - YouTube

Yume De Aetara - YouTube

 

「ライブハウスの前に、ドームみてえのがあったんだ。あれ絶対UFOだよね。地球が滅亡する日が来たとして、出雲の人はみーんなあれに乗り込んでさ。どんどん上にのぼってって、だんだん島根が見えて東京が見えて中国が見えてよ。そんで真下に見える日本列島を見ながら『バイバイ地球!』っつって、周り見たら気付けばUFOには死んでった爺ちゃんや友達とか、全員乗っててよ。『♪夢で逢えたらいいな〜』って。次はそんな曲をやります」。峯田がそんなSFチックな思いを語りながら始まった“夢で逢えたら”は、早くも今回のライブのハイライトだった。宇宙や塩素ナトリウムや、意味がありそうでない風景を思い浮かべながら、最後には『君』との幸福を希求するこの楽曲。思えば銀杏BOYZはこうしたこじれた恋愛観をずっと歌い続けていたし、それは彼らの音楽が青春時代に突き刺さった我々にとって、何よりも強い熱弁でもあった。峯田はあれから十数年、ずっと同じことを考えている……。その事実にも触れ、全てが号泣必至な現状に繋がっていく。

銀杏BOYZ - 骨 (Music Video) - YouTube

サビのラストを《マッチングアプリ》に変えて歌われた“援助交際”を経て、峯田は「今日は古い曲も新しい曲もやります」と宣言。そこからの流れは“アーメン・ザーメン・メリーチェイン”、“エンジェルベイビー”、“骨”、”恋は永遠”といった比較的新しい楽曲を投下。驚くべきはその楽曲すべてが完全に受け入れられていた点で、峯田もファンに委ねるように歌唱を促す場面も多々。もちろん曲調としては『君と僕の〜』のアルバムから何年も経っているので明確に変化しているのだが、それでも。あの時代に銀杏BOYZを愛したファンが、長らく彼らを追い続けていることにグッときたりも。

「別にコロナのせいにするのも良くないんだけども、長いこと自由に出来なかったじゃないですか。僕もそうで、ある程度落ち着いたらバンドでもひとりでもいいから全国回ろうって決めてたんですよ。で、今日は出雲……神様が集まる場所とか何とか知んねえけど、どんな田舎にもライブハウスはあって。おんなじことの繰り返しみたいな毎日過ごすけど、その中で何日かだけは『楽しかったなー』っつって思える日があれば良いんじゃねえかと思うんですよね。で、俺はそれがライブハウスだと思ってるんですよ。ここにいるみんなもそうでしょ?」

その言葉に対してウンウンと頷くファンたちを見ていると、やはりライブハウスが特別なものなのだと実感する。そしてこの日は『全国を回りやすい』という理由でアコースティックな形態だったけれども、熱量は完全にあの日の銀杏BOYZそのもの。峯田は先程の柴田とは対極に位置する歌唱法だし、もしこれが路上ライブとして行われていれば成り立つかは分からない。ただライブハウスであるからこそこの熱量が受け入れられ、涙を流す者大挙の現状を生み出していたのではないか。

Baby Baby - YouTube

「たまに『結婚式で“BABY BABY”流しました』って言われることがあるの。『峯田さんありがとうございました』とか『最高の思い出になりました』とかさ。ふざけんじゃねえよ!お前らの幸せな思い出にされてたまるかってんだよ!今ここで歌うのは2023年の、UFOの真ん前にあるライブハウスの、お前らの“BABY BABY”だよ!」

この日最も会場がひとつになったのは、もちろん“BABY BABY”の一幕。峯田は荒々しくギターを弾きながら時折オフマイクで熱唱し、そのためかファン全員の歌声の方が大きく聴こえる逆転現象が発生。この『ファンの歌の方が巨大化する』というのはライブシーンでは珍しくないものの、今回は稀有なアコースティック。こうした状況下でも熱唱が巻き起こるのは、楽曲の魅力と呼ばずに何と言おうか。終盤では峯田がマイクをグルっと客席に向けてファンに全てを委ねる場面もあり、本当に感動的だった。ちなみにこれらの一部始終は前方のカメラですっぱ抜かれていたのだけれど、果たしてその中の何人が涙を流しながら熱唱していたのだろうか、と今になって思ったり。 

僕たちは世界を変えることができない - YouTube

万感の盛り上がりを見せるライブだが、最後にもう1曲。ラストに演奏されたのは“僕たちは世界を変えることができない”で、これまでの熱狂をリセットしゆったりと変化させてのフィニッシュである。元々この楽曲は『光のなかに立っていてね』のアルバムの最後に収録された楽曲で、インタビューでの峯田いわく「みんながぶっ壊れながら作った」「曲がなかなか出来なくておかしくなって。それでノイズをいろいろと研究してリリース出来た」とする難産なもの。……結果的にこのアルバムのリリースが発表されると同時に峯田以外のメンバー全員が脱退することとなったこの楽曲を、峯田はノイズなしのギター1本で、しっとりと奏でていく。歌われている内容もやはり『愛』だと言うのだから、そうした点でも繰り返すが「やっぱり峯田だなあ」と感じられた。

本編が終わると、直ぐ様アンコールが。銀杏BOYZのアンコールは基本的にはファンが一体となっての「銀杏BOYZ!→手拍子(パパンパパンパン、のリズム)→銀杏BOYZ!」の呼び声のループで行われるのだが、今回は弾き語りというラフな状況のためか、ステージ袖では既に峯田が待機中。更にはマイクで喋りながら「おぉ?そんなんじゃまだ峯田は出て来れねえぞぉ?」なんて焚き付ける始末である。また峯田は手拍子に合わせてマイクを全力で額に叩き付けたりもしていて、そのパフォーマンスも10年前の峯田と同じで、思わずグッとくる。

そんなアンコールの招集に応えて帰還した峯田は「このライブの前に弾き語りの先輩によ、質問したんだ。『ひとりで全国回るんですけどどんな感じですか?』って。したら『アコースティックなら汗もかかずに終われるから』って言われたんだけど。(熱量が)バンドと一緒じゃねえか!」と汗びっしょりの体で憤慨。その言葉に「ありがとーう!峯田ぁー!」と返すファンにも笑顔で答える峯田、素晴らしい構図だ。

Nanto Naku Boku Tachi Ha Otona Ni Narunda - YouTube

そして「今日は出雲、ありがとうございました。こんな神様の集まる場所でね。UFOが目の前にある場所でね。歌えて良かったです。“夢で逢えたら”のMCも上手いこといった感じで……。今度はバンドで来ますんで、それまで宜しくお願いします」と語ると、正真正銘のラストソング“なんとなく僕たちは大人になるんだ”へ。CD音源では元メンバーの誕生日を「2004年11月22日!」と祝っていたこの楽曲があれから約19年後に鳴らされる驚きもあったが、思えばあれほどパンク一辺倒だと思っていたかつての『BEACH』の中で、唯一アコースティックで楽しげに響いていたのはこの楽曲だった。峯田は歌詞を全てファンに任せるサービスぶりを発揮し、本当に楽しそう。それを観た我々ファンもまた笑顔で応える、双方向的な感動がそこにはあった。

【銀杏BOYZ@出雲APOLLO セットリスト】
新訳 銀河鉄道の夜
NO FUTURE NO CRY
若者たち
夢で逢えたら
援助交際
アーメン・ザーメン・メリーチェイン
エンジェルベイビー

恋は永遠
いちごの唄
GOD SAVE THE わーるど

少年少女
BABY BABY
僕たちは世界を変えることができない

[アンコール]
なんとなく僕たちは大人になるんだ


今思えばこの日の銀杏BOYZは、10年前に遡った当時の心情の再現でもあった。クソッタレな学校生活に嫌気が差して。好きな人に出会って。厨二病になって。帰り道でジュースを買って……。思い返せば「バカだったなあ」と笑い話にするかつての生活に、別に肯定するでもなく銀杏BOYZはいつも存在していたのだ。

峯田の有名なMCに「あなたが幸せになった時、こんな歌なんて忘れてくれ」というものがある。当時は「そんな訳ねえじゃん!」と思ったが、大人になると本当に、どれほど好きなバンドであっても存在を忘れてしまう時が来る。でも彼らの音楽はずっと心の底では生き続けていて、今回のライブはそんな思い出を強制的に引きずり出すような、言いようのない素晴らしさを携えていた。

余韻と共に夜道を歩いていると、突然大量の雨が降り出した。そういえば夜から大雨が降ると予想されていた気がするが、今日だけは別にそれでもいいと思えた。むしろ「もっと降れ!」とさえ感じた。なぜだろう。理由は今でもよく分からない。