キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

個人的CDアルバムランキング2019[10位~6位]

こんばんは、キタガワです。


やっとこさ10位から6位までの発表である。……過去3年間に渡り続けてきた『個人的CDアルバムランキング。結果的に今まで60枚に及ぶCDアルバムを紹介してきた訳だが、何と今回は5組全てが初のランク入り。まさに2020年の新時代に相応しい(2019年のうちに1位まで完結させようと思っていたのですが無理でした。申し訳ない)、フレッシュな顔ぶれとなった。


以下10位から6位までの順位と短評を書き記していく。それではどうぞ。

 

→20位~16位はこちら

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10位
しあわせシンドローム/ナナヲアカリ
2019年4月10日発売

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2年前突如YouTube上に君臨し、大バズを記録したナナヲアカリ。その会心の一撃とも言える楽曲は言わずもがなの“ダダダダ天使”であり、飛躍的な注目の獲得に至った訳だが、そんなナナヲアカリの急上昇は当然の如く年を経るごとに緩やかな傾向を辿っていき、今では(悪い意味では決してなく)YouTubeの関連動画に出ることもほぼない中、全国を回るライブ活動と楽曲製作を中心に活動を行っている。


『しあわせシンドローム』というタイトルに顕著だが、今作はとりわけ『幸せとは何なのか』をテーマに進行していく。変わらず電子音を多用したアッパーなサウンドではあるものの、その根底にはナナヲアカリが今まで表沙汰にしてこなかった、鬱屈したリアルがある。


SNSがもたらす疎外感や人間関係、リボ払い、アルバイト、責任転嫁……。アルバム全体を覆い尽くしているのは、今までのナナヲアカリのイメージとは真逆の鬱屈した感情だ。アルバムの帯に記載されている「自由って、なんか不自由だ」との一言にある通り、生き辛い《社会怖えーつれーうっそ》と“オトナのピーターパン”、MV内にて無表情に《幸せなら手を叩こう》と歌う“シアワセシンドローム”など、今作には「辛くても何とか生きなければ」という強い思いと共に、半ば自暴自棄に『幸せ』を自身に言い聞かせる楽曲が多く見受けられる。


声を大にして書くべき事柄ではないのかもしれないが、僕は個人的に『ネガティブな感情を一切表に出さず、辛いことがあっても笑顔で、一貫して相手に合わせて生活する』という人間が苦手である。……これに関しては実際に八方美人を貫いた結果精神的に潰れてしまった友人らを多く見てきたからでもあるだうが、とにかく。総じて仕事でも友人関係でも、嫌なことには異を唱えるべきであるし、辛いことがあれば吐き出すべきだと(そうした人間を否定することはないにしろ)、僕は信じて疑わない。


《やんないんじゃない、できないんだ ドヤ!》と一種ネガティブな本質を二次元のキャラクターで隠しながら、ポジティブなイメージに昇華していたかつてのナナヲアカリが一転、言うなれば偽りの仮面にヒビが入ったような『シアワセシンドローム』は、彼女の三次元部分の本質が見え隠れしている稀有な点でもって、大いに評価したいと思う次第だ。

 


オトナのピーターパン / ナナヲアカリ


シアワセシンドローム / ナナヲアカリ

 

 

9位
TODOME/MOSHIMO
2019年3月13日発売

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全国ツアーやフェス出演など精力的な活動を続けるロックバンド、MOSHIMO。ライブの規模も動員も拡大傾向にあった彼女らだが、11月末に突如としてメンバー2名の脱退が発表されたことで、実質的に今作が4人体制としては最後のアルバムとなってしまった。


MOSHIMOの魅力は、男女間の恋愛をテーマに愛を掘り下げる歌詞にある。しかしながら比較的穏やかに恋愛模様を綴る楽曲も多かった過去のMOSHIMOと違い、今作は『TODOME』とのタイトルやジャケットの岩淵(Vo.Gt)の憂いを帯びた表情に顕著に現れている通り、男側に対しての鬱憤をひたすら吐き出すダークなアルバムと化しているのが最大の特徴。


必然サウンドもロックに振り切った形となり、「キスはセーフだがセックスはアウト」というひん曲がった恋愛観が炸裂する“電光石火ジェラシー”、マイナーコードを多用しパンクに寄った“釣った魚にエサやれ”など、明るさを前面に押し出していたかつてのMOSHIMO像を良い意味で破壊し再構築。それでいてMOSHIMO印のキャッチーなメロは失われるどころか鋭さを増しており、サビ部分に至っては一度聴いただけで瞬時に口ずさめるほど。


加えて上記の楽曲では野球拳のフレーズやソーラン節のメロディーを取り入れるなど、今作『TODOME』で今までのポップな方向性をガラリと変えたMOSHIMO。果たしてメンバーの脱退を乗り越えた来年のMOSHIMOは、どのような視点で恋愛模様を描くのか。新たなMOSHIMOの第一歩は間違いなく、このアルバムだろう。

 


MOSHIMO「電光石火ジェラシー」MV


MOSHIMO「釣った魚にエサやれ」MV

 

 

8位
Traveler/Official髭男dism
2019年10月9日発売

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僕は生まれも育ちも島根県。ヒゲダンは山陰地方(島根と鳥取)では久々に誕生したビッグスターとして大いに盛り上がっている現状ではあるが、別段僕自身が「同じ島根の人間だから」と忖度した訳でも何でもなく、純粋にクオリティーの高いアルバムなのでこの順位となった。……ただそれだけの話なのだが、オリコンチャートの成績を見てもヒゲダンの名前がここまでの勢いで広がった、その契機とも言える出来事は間違いなくこのアルバムのリリースだろう。


注目すべきはその曲順。基本的には日本でも海外でも、所謂『リード曲』と呼ばれる楽曲はアルバム前半に固められることが多いことをご存知だろうか。これはアルバム1枚を丸々通して聴く人間が減少傾向にあり、人間の集中力は長時間続かないことを逆手に取った方法で、前半に代表曲を詰め込むことでさもアルバム全体が良質なものとなるかのように見せ掛ける形。『アルバムは売れない』と揶揄され、サブスクの発展が著しさを増した昨今ならではの試みと言っていい。


対してヒゲダンの発明とも言えるアルバム構成を見ていこう。当アルバムで主な核となる楽曲は“イエスタデイ”、“宿命”、“Stand By You”、“Pretender”の4曲だが、『Traveler』はこの4曲を前半のみに固めず、かつほぼ連続では流さない手法を取り入れているのだ。具体的にはまず1曲目と2曲目に“イエスタデイ”と“宿命”を流して没入感を高め、ミドルテンポな楽曲で織り成しつつ“Stand By You”は8曲目に。そしてロックに振り切った後半から12曲目に満を持しての“Pretender”を投下するという、気付けばアルバム曲も無意識的に頭に入るような工夫が凝らされている。


無論アルバム曲の完成度も素晴らしく、ロックやポップ、バラードと千変万化の引き出しでもって楽しませつつ、中でもかねてより彼らが強い自信であると語っているポップな楽曲の破壊力は随一。今年は紅白歌合戦の初出場も決定したヒゲダン。バンド名を「髭の似合う歳になってもワクワクするような音楽を作りたい」との思いで名付けたことや今作のタイトルを『Traveler(旅人)』と冠したことからも分かる通り、今作はいわばひとつの通過点であり、更なる高みへと登り詰めるヒゲダンのほんの序章に過ぎないことを証明した1作でもある。

 


Official髭男dism - Pretender[Official Video]


Official髭男dism - イエスタデイ[Official Video]

 

 

7位
834.194/サカナクション
2019年6月19日発売

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各地の夏フェスには決まって名前を連ねるサカナクションだが、オリジナルアルバムとしてのスパンは長く、今作は約6年ぶりのリリースとなった。


6年もの間アルバムリリースがなかったとは言え、“新宝島”を筆頭としたシングルは定期的にリリースしており、収録曲はシングルが中心。山口(Vo.Gt)がオケを流して踊るファニーな動画も話題となった“忘れられないの”、全国ツアーで披露されたものの大幅な歌詞の変更から、タイトル自体も変更を余儀なくされた“モス(仮タイトルはマイノリティ)”、度重なるライブと共に成長してきた“多分、風。”などほぼ全てで異なるアプローチが施され、サカナクションの様々な側面を垣間見ることのできる濃密なアルバムとなっている。


もはや周知の事実だが、サカナクションの発起人でありメインソングライティングを務める山口はひとつひとつの楽曲に対し、確固たる執念でもって向き合う人間である。……もちろん全てのアーティストにとって音楽は真面目に取り組むべきものではあるが、山口の熱意ははっきり言って異常。かつて“エンドレス”のAメロ部分の歌詞のみに1ヵ月を要したり、“新宝島”には1年単位の時間をかけて取り組んだ山口。そして今作を含めたほぼ全てのアルバムが発売延期を繰り返し、『834.194』は様々な事柄を経て奇跡的かつ運命的に誕生した。


そんな当アルバムは念願叶ってか、爆発的な売り上げを記録。総じて一切の妥協を許さないサカナクションと、最良のアルバムの完成を静観し待ち望んだファンとの双方向的な信頼関係が成し得た大成功と言っても過言ではない。サカナクションの新境地を体現すると同時に入門編としてもお勧めできる、濃密なアルバムだ。

 


サカナクション / モス


サカナクション / 忘れられないの

 

 

6位
aurora arc/BUMP OF CHICKEN
2019年7月10日発売

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ドーム公演を含めた過去最大規模となるライブツアーを敢行し、全公演ソールドアウトを果たしたバンプ。もはや世間的流行とは別の極致に突入しながらも、確固たる日本のポップアイコンの地位を確立したバンプ。


そんな彼らの絶大な人気は決して古参ファンによる長期的なものではなく、楽曲のその完成度から成るものであると共に名実共に証明した名盤こそ、今作『aurora arc(オーロラの弧)』である。


気付けば結成20年を優に超え、フルアルバムは今作で9枚目となる彼らだが、とりわけ今作は彼らのストロングポイントであったポップ主体に楽曲を展開している印象。更に教会の讃美歌の如き壮大さで幕を開ける“アリア”や《ベイビーアイラブユーだぜ》とかつてないほど直接的に放たれるラブソング(“新世界”)といった実験的な試みも挟みつつ、誰もが求めていたバンプ像を如実に体現している。


話は逸れるが、僕は全ての物事を懐疑的に捉えてしまう面倒臭い類いの人間だ。そのためアイドル中心の音楽シーンや街中で流れるポップソング、果ては若者の音楽離れやアーティストが突然有名になったりといった物事を見るたび、ある種モヤモヤした感情が頭を支配してしまう。


正直BUMP OF CHICKENも個人的には然程詳しくなく、何故ここまで人気が下火にならず全盛期以上の全盛期を発揮しているのか甚だ疑問だった。しかしながら今作『aurora arc』を一聴し、今までの疑問は瞬時に霧散した。今作はとにかく楽曲が良い、ただそれだけだ。だがその『ただそれだけ』のことが、何よりも雄弁に「BUMP OF CHICKENは最強の存在である」と語っている。大阪のライブを拝見した際、藤原(Vo.Gt)がアンコールにて「最初は俺ひとりでスタジオにこもってそこからメンバーと一緒になって作るんだけど、やっぱりその中では不安みたいなものもあって」と語っていたが、そうした思いを孕みながら期待を裏切らないバンプの人気を見ていると、やはり日本の音楽シーンを背負って立つべき存在であるとも思う。

 


BUMP OF CHICKEN「望遠のマーチ」


BUMP OF CHICKEN「Aurora」

 

 

……さて、いかがだっただろうか。


次回は遂に5位~1位の発表である。果たして2019年、がむしゃらに音楽のみを聴き続けてきた僕が最も感銘を受けたアルバムは何なのか。近日公開予定。乞うご期待。