こんばんは、キタガワです。
さて、新進気鋭のアーティストが席巻した前回に引き続き、今回は15位から11位までのアルバムの発表となる。今宵も当ブログではもはやお馴染みとなったあの文学的バンドや今年も紅白歌合戦に内定を果たしたアーティストの他、結成6年目にして初めて素顔を公開した音楽グループなど、多種多様なラインナップでお届け。総じて今記事が読者貴君にとって、未だ見ぬ音楽と出合うひとつの契機となれば幸いである。……それでは以下より、個人的CDアルバムランキングの気になる発表と講評をば。
(20位~16位はこちら)
15位
ボイコット/amazarashi
2020年3月11日発売
[反抗とネクストステージ]
フルアルバム、ミニアルバム含めコンスタントに毎年アルバムリリースを重ねてきたamazarashiであるが、メジャーデビュー以降では最も長い約2年半のスパンを経て届けられたのが、此度の自身5枚目となるフルアルバム『ボイコット』である。
フルアルバムとしてかつてない程シンプルな『ボイコット』との意思表明を冠された今作は、その名の通り多種多様な事柄への反抗をメインテーマに据えた全14曲が収められている。けれども秋田ひろむ(Vo.G)個人の実生活に基づいた希死念慮と世間への憤怒が全体を覆い尽くしていた初期作品と比べると、基本的に楽曲内で綴られるメッセージが外部に向いていることも今作の特徴であり、絶望からの逃走を促す“とどめを刺して”、夢の実現如何に関わらず故郷への帰還を促す“帰ってこいよ”、去る日本武道館公演にて物語の主人公・実多の唯一の救済として鳴らされた“独白”と、言わば絶望の当事者としての立ち位置から他者に手を差し伸べる立場に変化していることが見て取れる。こうした精神的変化はとどのつまり、彼自身が自信を勝ち得た……言葉を選ばずに言えばかねてより抱いていた日常的な自殺願望をある程度克服したことの証明であって、それが楽曲に色濃く映し出されている、ということなのだろうと思う。
ただ、amazarashiのフロントマンたる秋田の『自分が今一番感じていることを歌にする』という制作過程は活動当初から一切不変である。その理由はもちろん、彼自身が直情型の歌詞を綴る以外は不得手であるという意味合いもあるが、やはり愚直な精神性をつまびらかにすることこそが何よりリスナーの心を震わせるという事実を熟知しているからに他ならず、今作は言わば他人の意見や同調圧力に疲弊し続けてきた秋田にしか記せない、ハッピーサッド的メッセージアルバムであるとも定義できる代物なのではなかろうか。
amazarashi『月曜日』“Monday” Music Video|マンガ「月曜日の友達」主題歌
amazarashi 『未来になれなかったあの夜に』Music Video
14位
おいしいパスタがあると聞いて/あいみょん
2020年9月9日発売
[3つ星レストラン・AIMYON]
あいみょんによる待望のメジャー3枚目のフルアルバム。ちなみにこの印象深いタイトルは、アルバム名に迷いながら自身のメモ帳を何となしに開いたあいみょんが瞬間的に閃いたために付けられたもので、特に大きな意味はないとのこと。
全12曲中8曲が公式MV付き、うち5曲がシングルカットという「もはやベスト版なのでは?」と疑問を抱いてしまう程のリード曲だらけとなった今作。おそらくは日本の音楽シーン全体を見てもここまでMV、及びシングル曲を敷き詰めたアルバムは今までに例がなく、今年様々な音楽番組に出演した際は決まって今作の特異性について語られていたように記憶している。何故ここまでの網羅性を得ているのか、その理由は言うまでもなく、昨今の彼女が『日々楽曲が頭の中で産み出され続けている』という明らかなワーカホリックモードに突入しているためで、今月に行われたツアーでも更なる新曲を披露。若干25歳の超新星の勢いは一向に止まる気配さえ見せない。
前述の通り、確かに今作が代表曲を多数収録した豪華な出来映えになっていることは誰の目にも明らかで、事実オリコンチャートではトップ3を独占する快挙を果たした。ただ全体を見てみると新たに収録されたアルバム曲は軒並みシングルの反動とも言うべき独創性の高い楽曲が揃っていて、サビがタイトルの繰り返しオンリーで形成される“黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を”や異様な音色のギターサウンドが鼓膜を揺さぶる“チカ”、気だるげなフラガール的音像の“そんな風に生きている”など、間違いなく現時点で一般大衆のポップアイコンとして君臨するあいみょんがその実、多彩な引き出しを持ち合わせていることにも気付かされる一幕も。……本当に料理の美味い店は全ての飯が最高峰であると良く言われるけれど、正に今作はどこを取っても外れがない、美味いもの尽くしの極上フルコースアルバムだ。
あいみょん - 裸の心【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
あいみょん – ハルノヒ【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
13位
SINGALONG/緑黄色社会
2020年9月30日発売
[人生肯定のポジティブメッセージ]
新進気鋭のロックバンド・リョクシャカによる、記念すべきデビューアルバム。今作『SINGALONG』には、決まって悲観的な事象を冒頭に記し、サビ部分で一気に心を奮い立たせる楽曲がずらりと並んでいる。けれどもそうした発言も「生きろ」や「頑張れ」といった強い口調ではなく《一度や二度の過ちがなんだ》(“sabotage”)、《抱えないで信じて頼ってほしいんだ》(“Mela!”)など、あくまで優しく背中を叩くアクションに終始。結果「生きていればそれで無問題」たるポジティブなメッセージが全体を包む、リョクシャカ史上最もハートフルな作品とも称すべき代物となった。
楽曲に命を吹き込むキーパーソンたる役割を果たしているのは、ボーカルの長屋春子(G・Vo)その人。元々彼女の卓越した歌唱スキルは広く評判を呼んでいたが、今作では更にメリハリを付けた高低差のある歌声で楽曲全体のサウンドとメッセージの強い結び付けを担うことに加え、一切の不純物のない清らかなロングトーンで瞬時に楽曲の主人公に変貌する印象度を誇っている。ただ歌声を一聴すれば分かる通り、仮に長屋がソロや他のバンド活動を行った場合に活かされるかと言えばそれはおそらく違って、彼女の歌声を大々的に印象付けるには緑黄色社会のポップサウンドが最も適切であるとも思うのだ。
特に今年は多種多様なタイアップを獲得し、Mステを筆頭とした音楽番組にも数多く出演を果たしたリョクシャカ。鬱屈とした悪しき1年となったコロナ禍を経て、少なくとも上昇気流に乗ることがほぼ確定事項となっている2021年。そこで求められるのは底抜けに明るい音楽でもコロナを憂う音楽でもなく、酸いも甘いも引っくるめた中立なポップソングであるはず。故にリョクシャカが大きなブレイクを記録する日は近いのではないか、との感情が本気で心を燻らせる、今日この頃である。
緑黄色社会 『sabotage』Music Video(TBS系火曜ドラマ『G線上のあなたと私』主題歌)
緑黄色社会 『Shout Baby』Music Video(TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』4期「文化祭編」EDテーマ / MY HERO ACADEMIA ENDING)
12位
宮本、独歩。/宮本浩次
2020年3月4日発売
[エレファントカシマシとは違う探求]
今までと変わらずロックバンド・エレファントカシマシとしての活動を行いつつも、今年は取り分けソロ活動主体の活動に精を出してきたミヤジ。エレカシではほぼ行わなかった地上波の番組にもソロとして連日出演、今月には何とカバーアルバムの発売と絶好調な彼が送るソロ名義初のフルアルバムが『宮本、独歩。』である。
印象的なタイトルにも表れている通り、今までにない経験の一貫としてソロ活動を試みた宮本。それでは果たしてソロを行った結果彼がどうなったのかと言えば、エレカシでは絶対に実現不可能な歌謡曲やラップといった新境地にトライすることが叶った一方で、何故か最終的にエレカシサウンドに回帰する一幕さえありなんとする楽曲も点在するというある意味では予想外、ある意味ではどこを切っても宮本節のアルバムに仕上がった。実際宮本自身も結果的にほぼほぼエレカシの延長線上となるに至った今作の流れに関しては良く分かっていない節もあるけれども、とどのつまりそれは何よりも彼のボーカルセンスと文学性がエレカシ・ソロ問わず大きく楽曲に寄与していることの証明であり、30年以上前から作詞作曲を絶えず担っていた彼の行動としては当然の流れであるとも考えることが出来る。
そんな中宮本の作品としては今までと大きく変わった箇所も間違いなく存在しており、そのひとつがアルバム全体を通してテレビドラマやCM曲、報道番組テーマソングなどタイアップ楽曲が多数を占めたことで、彼自身のソングライティングがそれら楽曲提供先の要望にある程度委ねられた点である。けれどもそうした要望にも柔軟に対応し、自身のポリシーと制作会社との折衷案を絶妙に図り全てがストレスフリーに結実した結果が記念すべき『宮本、独歩。』であるため、非常に良い流れを引き寄せたように思う。54歳を迎えた宮本による、自立のその先をしっかりと明示した一人旅はまだまだ続いていく。
11位
瞬く世界にiを揺らせ/CHiCO with HoneyWorks
2020年9月16日発売
[進化するチコハニ流ラブ・ポップ!]
昨今多数のタイアップやアニメ主題歌を手掛けるのみならず、つい先日リリースしたスマホ版音楽ゲーム『HoneyWorks Premium Live(ハニプレ)』も大好評のチコハニ。『世界はiに満ちている』、『私を染めるiの歌』を経てリリースされた自身3枚目となるフルアルバム、それこそが今回ランクインを果たした『瞬く世界にiを揺らせ』だ。
活動当初から一貫してラブソングを届けてきたチコハニらしく、無論今作もその全てが恋愛讃歌ではあるのだが、王子様への一目惚れを契機として自身の芋っぽさを変えようともがく“ヒロイン育成計画”あり、妹の誕生から現在までの成長過程を柔らかに見守る“ワタシノテンシ”あり、二次元ゲームの推しに貢ぎまくる“ぐる恋”ありと、あくまで三次元の恋人との恋愛を描き続けてきた過去作と比べて、今作はより広い視野で愛を綴る作りとなっている。こうした新たな作風変化となった背景には今作に収録されている多数の楽曲が『ハイキュー!!』や『銀魂』、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』といったテレビアニメの主題歌に抜擢され、その物語に合わせて歌詞を構築していったためであろうと推察する。けれどもそうした新たな試みはむしろチコハニの明確なアップデートにも繋がっていて、結果更なる飛躍を遂げる運命的な1作となった。
2020年は初めてCHiCO、並びにバンドメンバー全員の素顔を公開したことでも大きな話題となった(“ぐる恋”MV・THE FIRST TAKEの“幸せ”。”より)。これは約6年あまりに渡ってメディア露出は音声のみというスタイルを維持し続けてきたチコハニにとっては大きな転換点とも言える出来事であり、先程のソングライティングの変化を鑑みても、やはり今年はCHiCOとハニワにとって某かの意識改革があったと見てほぼ間違いないだろう。故に今作は音楽的にも露出度的にも今後のチコハニの歴史を語る上で最重要のアルバムになる気がしてならないのである。
……次回はいよいよトップ10の発表。言葉のナイフで牙を剥く新人シンガーソングライターや人気グループと平行して単独の道を選んだ少女、メジャーデビューを徹底的に拒み続けるスタンドアローン、そして何故か収録された全楽曲がバラバラな曲調に振り分けられてしまったよもやのバンドなど、次回も幅広い振り幅でお届けする。乞うご期待。