キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】Dragon Ash『LIVE HOUSE TOUR ”VOX in DA BOX”』@米子laughs

そう言えば、と会場に向かう途中ふと考える。何故なら10-FEETやヤバTなどライブハウスを主戦場とするバンドは数あれど、本来そこに常に名前が挙がるはずのDragon Ashの全国ツアーは、随分久方ぶりの参加のように思えたからである。実際それは事実で、ロングランなツアーはなんと4年ぶり。また今回『LIVE HOUSE TOUR ”VOX in DA BOX”』とタイトルが付けられた理由も、Dragon AshのホームであるライブハウスでVOX(ラテン語で声)を響かせて欲しいという意味を込めた意義深いものであると知り、妙に納得した次第である。

雨の降りしきるライブハウスの外には、ソールドアウト公演ということもあり大勢のファンが待機。中には「今から暴れるぞ!」との思考の体現か、既に半袖の薄着かつ傘を差していないファンもチラホラ見られ、漏れ聞いた話からは他県から来た人も非常に多い印象だ。中に入るとそこは異様な熱気に包まれていた他、Dragon Ashらしい試みとしてイヤーマフの配布、先日からライブハウス界隈で話題になっていた痴漢行為撲滅の貼り紙、更には能登半島地震の募金箱までもが設置されていて、改めて彼らの「他者を思いやって楽しもう」のスタンスを感じられて嬉しくなったりも。

Dragon Ash - Entertain - YouTube

予想外の客入りだったのか、スタッフからの「まだお客様が入られますので前に詰めてくださーい!」の誘導によりライブは10分遅れでスタート。壮大なSEでグッと前に進み出るファンの流れに圧倒されていると、袖から桜井誠(Dr)、BOTS(DJ)、HIROKI(G)、お馴染みのサポートメンバーのT$UYO$HI(B)、そしてフロントマンであるKj(Vo.G)が登場。オープナーは一昨年にリリースされた“Entertain”で、ゆったりかつ感動的なサウンドで早くも会場を魅力していく。中でも印象深く映ったのはKjの歌唱で、あの音楽の中心を射抜くようなボーカルでもって《束の間の快楽 明日からのガイダンス/嫌なもんを掻き消すほどの喜怒哀楽》と歌われた瞬間には、このライブが我々にとって会社・学校といったものからの現実逃避の象徴である、という意味合いを伝えられたような気さえした。……最後にニヤリと笑いながらピースサインを放ったKj、ここからがライブのスタートである。

今回のライブはリリースツアーではない関係上、セットリストの予測が困難なものでもあった。では結果はどうだったのかと言えば、その答えはライブタイトルにあり。……つまりはライブハウスを元通りにするような、誰もが歌って騒いで楽しめる楽曲の乱打戦となった。これはコロナ禍の3年間で思うような活動が出来なかった彼らなりの、意思表明に近いものがあったように思う。またこの全国ツアーではメンバーたちが立つ少し前方向に大掛かりな照明セットが配置されていたのも大きな特徴で、アリーナライブを彷彿とさせる青色のレーザービームが楽曲に合わせて上下から放射。楽曲のスパイスとして上手く機能していたことも特筆しておきたい。

Dragon Ash「光りの街」 - YouTube

Dragon Ashの単独は、基本的にシームレス。ゆえにこの日も水分補給やチューニングはほぼなしで突っ走った形で、以降も“House of Velocity”や“Fly Over feat. T$UYO$HI”といった楽曲でヘドバンの嵐を作り出していくDAである。かと思えば要所要所に“Ode to Joy”や“光りの街”といったグッと来る楽曲を挟み込むので油断出来ないのもニクい。前半で特に感動的だったのは昨年リリースの“VOX”で、幾度もファンにレスポンスを委ねた後に歌われる《その声こそ 僕らが音を鳴らす理由自体なんだ》とする一幕は、我々だけではなく彼らもライブに賭けているリアルを強く感じさせてくれた。

“光りの街”を終えると、Kjは「この外に一歩出たら、いろんな辛いことが今も起こってる。でもライブハウスの中のこの2時間弱くらいは、全部忘れて好きに楽しんでくれ!」と語ってくれた。そのMCには彼らなりのライブハウスへの愛情を感じられて心底ウルッと来たのだけれど、そこからはニヤリと笑顔を浮かべながら「俺らみたいなライブやってっとさ、誰かがダイブしてきてマイクにぶつかって、歌えなくなったりするんだよ。……俺たちはそういうの大歓迎です!全部ぶつけてこい!」と次なる行動を扇動。耳が痛いほどの共鳴の声が響いたところで、次なる楽曲は爆裂ロックの“ROCKET DIVE”だ。

hide with Spread Beaver - ROCKET DIVE - YouTube

この楽曲は元々hide(X JAPAN)の生前にリリースされたものだが、Dragon Ashがトリビュートアルバムでカバーしたことで正式にライブで披露されるようになった特殊なもの。結果としては先のKjの一言も作用してか、まさしくロックな音に背中を押されてダイバーが続出する状況となり、一気にここから暑さも急上昇。ダイブするファンを「よくやった!」と称賛するようにKjもダイバーに拳を突き出していて、激しいサウンドも相まってどんどん熱量を高めていくフロアである。しかしながらKjはまだ満足していない様子で、ラスサビ前には「もっと来い!」と焚き付け焚き付け。それに呼応するように更にダイバーが増えていったのは言うまでもないだろう。

後のMCでは桜井が「米子に着いた時は、まだ所々に雪があって。外も寒いしどんなライブになるかなと思ってたけど、めちゃくちゃ暑くて最高です!」と語ると、「前半に飛ばし過ぎたので、後半は少しゆったりした曲もやろうかと。まだまだ良い曲がたくさんあるので」と、以降は比較的ミドルテンポな楽曲が多数ドロップされる時間帯に。……思えばDAは激しい楽曲と同程度、ミドルテンポな楽曲をリリースしてきたバンド。そしてそれら全てには明確なメッセージが込められていて、『俺が求めている場所はここじゃない』と感じながら繰り返しの日々に邁進する“朝凪Revival”、イエスマンな精神に再度問い掛ける“Neverland”、そして“陽はまたのぼりくりかえす”では辛い出来事があってもいつか好転する前向きさを説くことで、言うなれば楽曲を通じての『ネガティブなポジティブさ』を我々に伝えてくれた。

Dragon Ash「百合の咲く場所で (Live) -2014.5.31 NIPPON BUDOKAN-」 - YouTube

そのミドルテンポな雰囲気が一変したのは、やはり代表曲。その幕開けは夏フェスでも幾度も演奏されていたキラーチューン“百合の咲く場所で”で、あの独特のイントロが流れ出した瞬間、背後からドドドドっと押し寄せるファンもいた程である。ただこの楽曲の構成的には音楽シーン全体として見ても緩急が明確に付けられた異質なで、Aメロではゆったり、Bメロでも同様に続いた果てにサビで一気に爆発、しかし以降は再度ゆったりしたモードで一旦フラットに戻る……というもの。そんな“百合の咲く場所で”だが、ここでは状況が全く違っている。それは『この場に集まっている人は全員がDAのファン』という事実からで、来たる爆発に備えて全員が待機する様は、本当に精錬された戦士のような感覚すら覚える。そして待ち望んだサビでは言わばピラニアにエサ状態で、体当たりやダイブで半無法地帯に。それを完全に分かっているKjも客席にしきりに睨みつけながらピースサインを投げかけたりもしていて、何というか「ああ、DAのライブだわ……」と思ったり。

Dragon Ash「Fantasista (Live) -2002.11.24 Tokyo Bay NK Hall-」 - YouTube

ただ我々としても予想外だったのは、この後に披露されたのが“Fantasista”だったこと。言うまでもなくこの楽曲は誰もが待ち望んだ楽曲だった訳だが、ここで“Fantasistaが鳴らされたこと、それは”彼らの復活の狼煙でもあった。というのも、この楽曲は大方のファンがDAと出会ったきっかけ、かつインタビューでも「“Fantasista”をやらなかったライブはこれまで一度もない」と過去語られていたにも関わらず、コロナ禍では意図的にセットリストから外された楽曲だったからだ。もちろんその理由は“Fantasista”がファンとのレスポンスとモッシュ&ダイブを前提とした盛り上がり(コロナ禍ではソーシャルディスタンスでそれらの行動が全てNGとされた)であることからだが、それでも。彼らはいつしか『“Fantasista”をやらないのがコロナ禍のライブ』とし、極力セットリスト入りを封印することをバンドのルールと化した。……そう。いつか来るであろう、またライブハウスが元通りになるその日が来るまで。

そこで、この日のライブである。これまでの3年間を帳消しにするように、Kjは「セイ!ウォー?」「ラウダー!」と何度もファンを煽り、サビ前では「腹の底から声上げろーい!」「飛び跳ねろーい!」と絶叫。それはこれまでコロナ前に何度も観てきた光景そのままで、個人的にはこの日一番涙腺を刺激された一幕でもあった。当の本人であるKjも眼前で繰り広げられる熱狂に耐えきれなくなったのか、ラスサビでは自分もダイブ!Kjが握っていたマイクが宙を舞う中、残りの歌詞をファンが熱唱してやり切る信頼感のあるワンシーンを経て、そこかしこで荒い息遣いが響く幕切れとなった。

Dragon Ash / 「New Era」 - YouTube

荒々しくも美しい“New Era”を終えると、Kjによる最後のMCに。「よく売れないロックバンドがライブのMCで言うんだよ。『夢は叶うよ』とか『ひとりじゃないよ』とか『大好きだよ』とかさ。あれ全部比喩だから。ライブに来ても夢が実現する訳じゃないし、友達は増えねえし、誰かに振り向いてもらえる訳じゃない。……でも俺はライブハウスだけは、喜怒哀楽を全部出していい場所だと思ってんだ。実際俺は25年もバンドやってっけどさ、怒られたことねえもん。人に迷惑かける行為以外は、ライブハウスではダセエ姿も全部見せて良いんだよ。お前ら明日も仕事だろ?んで辛いことがあったら、またこの場所で会おうや。カッコいい大人になろうぜ」。口角を上げてのピースサインをバックに彼が語ったのは、全てのライブキッズに希望を与える彼らしいもの。その言葉にどれだけの人が感銘を受けたのかは分からないけれど、彼がライブハウスを愛しているという事実は、何よりも雄弁に伝わったように思う。

Dragon Ash / DRAGONASH LIVE TOUR 「UNITED FRONT 2020」 2020.12.29 @Zepp Haneda (TOKYO) digest video - YouTube

そして「変なダンスでも何でもいいよ。俺をサンドバッグにしてくれていい。お前の喜怒哀楽を見せてくれ!」と絶叫して鳴らされた最後の楽曲は“A Hundred Emotions”。DAのライブでいつしかラストに鳴らされることが多くなった、音楽の愛に溢れたメッセージソングだ。フロアにはヘドバンをしながら前方に向かう人、ビールを掲げて踊る人、両手を挙げて興奮を体現する人など様々なファンで溢れ、美しい雰囲気でもって《音楽は鳴り止まない 感情はやり場がない/日々を音楽が助け出すように 君の感情が溢れ出すように》の歌詞が響き渡る様は、とても感動的だった。キラキラとしたアウトロに包まれる中、Kjは「ロックのように自由!Dragon Ashでした!」と叫び、本編は終了。そこには異様な熱量と、満足度だけが残された。

暗転した会場に“Viva la revolution”のイントロをファンが「ビラ!ビラ!」→「ラレボリューション!」で歌い継ぐ形で再び呼び込まれたアンコール。ここではまず今ツアーで恒例となった写真撮影を挟みつつ、メンバーそれぞれのコメントで時間をつなぐDAである。なお地元民からしてもこの場所は地理的にもなかなかバンドがツアーで訪れない場所だけれど、気付けばステージ上にはファンの汗が上って霧になっている。如何にこの日集まったファンの熱量が高かったのかを物語っているように見えた。

Dragon Ash「Walk with Dreams」 - YouTube

DAのアンコールは基本的には決められておらず、その時々の雰囲気で大きく変化することでも知られる。この日のアンコールで最初に演奏されたのは極めて珍しい“Walk with Dreams”で、ミドルテンポなサウンドにゆらゆら揺れる会場だ。そして最後に披露されたのは“運命共同体”!船乗りと船がニコイチの信頼関係で繋がっている……という話はその仕事をしている人にとっては広く知られているが、この楽曲では航海を日々の生活と照らし合わせ、自身の心を再度向き合わせる楽曲として描かれている。Kjはハンドマイクで客席を扇動するように動きつつ、楽曲の後半では「最後は踊って終わろうぜ!」と叫んでモッシュを生み出しており、この“運命共同体”はライブハウスとDA、また音楽と我々ファンを照らしているようにも思えた次第だ。

Dragon Ash「運命共同体」 - YouTube

時間にして約1時間半、熱狂的な盛り上がりとなった今回のライブは先んじて記した通り、彼らの信念を明確に見せるものでもあった。それはつまるところ『ライブハウスへの思い』。これまで3年間に渡りメディアで「不要不急のもの」と吹聴され続け、様々な制約を課せられたライブハウスが矢面に立たされたことは疑いようのない事実だ。……けれどもそれが今になって存在肯定が成されたことで、DAは表立って「ライブハウスって俺ら的にはめちゃくちゃ必要じゃね?」と発することが可能になった。だからこそのライブハウスツアー、だからこそのセットリストがこの一夜だったのだ。

それはこれまで“Fantasista”や“百合の咲く場所で”といった代表的なライブアンセムをコロナ禍で披露しなかった彼らにとっても、まさしく「やっとライブハウスが戻ってきた!」と思えるものだったはず。我々がこの日感じた楽しさと嬉しさは、また次のライブにも繋がっていくに違いない。……DAの楽曲の名前を借りれば、“陽はまたのぼりくりかえす”。あの地獄の自粛生活を3年後しにライブハウスでリベンジさせてくれたのは、紛れもなく今回のライブだった。

【Dragon Ash@米子 セットリスト】
Entertain
House of Velocity
Fly Over feat. T$UYO$HI
Ode to Joy
VOX
光りの街
ROCKET DIVE(hide with Spread Beaverカバー)
The Show Must Go On
朝凪Revival
Neverland
陽はまたのぼりくりかえす
ECONOMY CLASS
百合の咲く場所で
Fantasista
New Era
A Hundred Emotions

[アンコール]
Walk with Dreams
運命共同体