キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

個人的ベストCDアルバムランキング2022 [20位〜16位]

こんばんは、キタガワです。

いろいろあった1年も早いもので、残すところあと数日。毎年「1年が過ぎ去るのは早いなあ」と思ってはいたが、今年は特に早く感じた気もする。……ただ写真などを見返せば確かに季節は巡っており、そしてそんな中でも日常を変わらず彩ってくれた存在が、今年も音楽だったことを実感する。

さて、その年に応じてシーンの流れが少し変わるのが音楽の常。一例を挙げれば、2年前はコロナの鬱屈した雰囲気を壊すタイプの楽曲が支持されたし、昨年は楽曲制作自体がコロナ禍にスタート→年明けからリリースというタイムラグが発生したために、リリースされるアルバムの多くはコロナの影響を受けたものとなった。では今年はどうだったのかと言えば、完全に『コロナ後への希望』を歌うものが増えた。なのでシーン全体の流れとしては、かなり健全なものに回帰したと考えて良いだろう。

そうした背景も踏まえて、今年の『CDアルバムランキング2022』である。今回もカバーアルバムやベスト版、EPといった形態のCDは選考対象外として、曲単位でなくあくまでアルバム全体の完成度を評価した上で、20位から1位までのランキング形式で選考→その全てを論評付きで紹介していく。今年は何と20組中14組が初ランキング入り、同じく14組がソロアーティストの環境に。メジャーインディー問わず、音楽を誰しもが発表できる状況が如実に反映された形だ。以下、今回は簡単な論評と共に20位〜16位を発表。今年もYouTubeの動画を貼り付けたりもしているので、気になった方はぜひとも。

→2021年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位
→2020年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位
→2019年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位
→2018年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位
→2017年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位

 

20位
People In Motion/Dayglow
(2022年1月13日発売)

【とりあえず踊っときます?】

“Can I Call You Tonight?”がZ世代を中心にバズり、一躍『期待の新人』としてシーンを駆け抜けたデイグロウ。ただその話は3年近く前のこと。あれから時が経った今では、彼の活動はようやく『バズった曲を作った人』ではなく『いちシンガーソングライター』として冷静に観測されるようになった。

今作はコンセプトや作曲、演奏、プロデュース全てを彼自身が担当するのみならず、制作にあたって都会から引っ越し、SNSを遮断。同級生との結婚も契機となってか、多くの時間を自分と向き合って作られた。その結果彼が至ったのはネガティブな要素を極力廃した音楽作りで、リード曲“Then It All Goes Away”を筆頭に、今作はどこか前向きな雰囲気で覆い尽くされている。

身も蓋もない話をしてしまえば、我々日本人は洋楽の歌詞までは詳しく分からない。なのでどうしても聴く際は感覚重視になってしまいがちなのだが、彼はそうした事柄さえも「いいよー」と肯定してくれる。……何故ならこのアルバムにはポジティブがたくさん溢れていて、敷居は存在しないから。ふとした時に再生してしまう、ちょっと曲がったポップ。

Dayglow - Then It All Goes Away (Official Video) - YouTube

Dayglow - Deep End (Official Video) - YouTube

 

19位
Hellfire/black midi
(2022年7月15日発売)

【圧倒的なオトジゴクへようこそ】

20歳そこそこの若手ロックバンド・ブラックミディのセカンド。今でこそ様々な音楽が受け入れられるようにはなったが、彼らほど「一体何をしてるんですか?」と問いたくなる音楽はない。そんな彼らのニューアルバムは当然多くの期待と共に注目された訳だが、結果とてつもなく意味不明。『音の暴力』とも言うべきカオスが延々続く、大問題作が生まれてしまった。

その音楽情報量は、まるで在りし日のキング・クリムゾンの大暴走。レフェリーのアナウンスから管楽器が入り、ジャズからパンク、ロックがバラードになった末に転調もバリバリ……。もはや何を目指したいのかも分からないけれど、ひとつ確かなことがあるとすれば、それはブラックミディなりの『新世代の音楽』ということ。

ただハチャメチャなサウンドは崩壊寸前とまでは行っておらず、よく聴けば芸術作品としての体を成しているのは驚くべき点だ。ちなみに海外ではこのカオスなサウンドを指して「今の時代を象徴している!」などという声も少なくなく、壮大な音楽実験もここまで来れば人の心を動かすのだな、と感じた1枚でもある。このアルバムを聴いて「すげー!」と感じる人も正常。「マジで意味わからん」とする人も正常。彼らの音楽は、今年も時代の遥か先を行ったのだ。

black midi - Sugar/Tzu - YouTube

black midi - Welcome To Hell - YouTube

 

18位
our hope/羊文学
(2022年4月20日発売)

【どこまでも浮遊する音楽】

メジャーデビューを機に、更なる精力的な活動に舵を切ったスリーピース・羊文学のセカンド。前作『POWERS』ではポップロックを中心とした曲作りをしていたのが印象深かったが、今作では彼女たちの魅力はそのままに、拡大系エフェクターを使いシューゲイザー色を強く広げた代物に。

そんな中で音数は絞られ、“光るとき”や“くだらない”といった楽曲を中心に『踊る』よりも『聴かせる』ことに特化した作品になっているのも素晴らしい。かと思えば“OOPARTS”ではシンセサイザーを新たに追加(くるりの岸田繁のアドバイスとのこと)して、サウンド的にも楽しいアルバム。塩塚モエカ(Vo.G)は今作について「『平和な世界があったらいいな』っていう気持ちを込めている」とし、加えて東京生活を通して感じた『都市感』を落としんでいるそう。どこか牧歌的な雰囲気が感じられるのも、そのためなのかもしれない。

今年から羊文学の歩みは、目に見えて早くなった。それはタイアップやライブが増えたこともあるが、総じて彼女たちの音楽が一般層に広がった証左だと思う。……どんな情景にもはまる、フワフワと浮かぶ羊文学の音楽。『our hope』はそのひとつの到達点として、今後も代表作として語り継がれていきそうだ。

羊文学「光るとき」Official Music Video (テレビアニメ「平家物語」OPテーマ) - YouTube

羊文学「くだらない」Official Music Video - YouTube

 

17位
物語のように/坂本慎太郎
(2022年6月3日発売)

【変わらぬ目線、柔軟に】

ロックバンド・ゆらゆら帝国の解散後、ソロ活動を続ける坂本慎太郎。55歳になった今年リリースされたアルバムは『物語のように』と名付けられ、「明るい感じにしたい」とする坂本の思考が反映されたことで既存シングルは一切入っていない。

それでは彼の言う「明るい感じ」はどのようなものを指すのか、実はそこは曖昧だったりする。なぜなら過去のアルバムと同様、歌詞に意味はないし、サウンドがアッパーになった感もないのだから。けれども映画や絵画が検閲される“それは違法でした”をはじめ、女性のコーラスが心地良い“物語のように”、簡素な言葉で日常を描く“ある日のこと”……。どうにも推し量ることが難しい情報の中で我々が感じるのは、ネガティブの中に潜むなんとなーくの明るさ。「雰囲気的に明るいっぽいような感じ」とする感想を、このアルバムを聴けば抱くはずだ。

3枚目にしてまだまだ成長を遂げる坂本。今年は国外のみならず日本公演も本格化しており、よりライブを意識した曲作りになりつつあるという。となれば来年のアルバムは、より自由なものになるはず。今作をじっくり聴き込みつつ、更なる躍進に備えたいところ。

Like A Fable / Shintaro Sakamoto (Official Music Video) - YouTube

One Day / Shintaro Sakamoto (Official Music Video) - YouTube

 

16位
Versus the night/yama
(2022年8月31日発売)

【“春を告げる”を越えて、夜を越えて、自分を越えて】

友人間で「yamaってどんなアーティスト?」と問われたとき、何度も返されたであろう「“春を告げる”の人でしょ」とする一言。そのイメージにyama自身が相当な悩みを抱えていたのは後になって分かることだが、とにかく。あれから少し時間が経った今作のリリースにあたってyamaが目指したのは『夜(ネガティブな気持ち)と戦う』思いだった。

曲はアッパーながら内容は暗い今作に、yamaの伝えたいことは全て詰め込まれた。《気持ちのない言葉はいらない》と自傷的に吐き出す“桃源郷”や孤独感に耐える“Oz.”など、様々な『夜』の要素が含まれる中で、特筆すべきは最後に収録されている“それでも僕は”。この楽曲は初めてyama自身が作詞作曲を務めており、歌を歌うこと、アーティストとして活動することへの決意を体現した楽曲に。覚悟を決めたyamaの視界は、過去最大に開けている。

そしてその姿は、同じように日々と戦いながら生きる人々にとっての間接的な応援でもあると思う。“春を告げる”からまた新たなステージに踏み込んだyama。CDジャケットに描かれている周囲に馴染めない羊のように、どこにも染まらず活動を続けていくための、重要な1枚。

yama『Oz.』MV - YouTube

yama『それでも僕は』MV - YouTube


……さて。次回はその持ち前のキャッチーさで、見事ランクインを果たした15位〜11位の作品をご紹介。今年の紅白歌合戦出場アーティストに加え、サマソニのヘッドライナーを務めたあのバンドや、本人たちも無自覚のうちにバズってしまった謎のガールズなどなど。近日公開です。