キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

個人的CDアルバムランキング2020[10位~6位]

こんばんは、キタガワです。


今月中旬よりマイペースに記述を続けた『個人的CDアルバムランキング2020』だが、早くも折り返し地点に突入。今回からはあまねくアーティストを抑え上位に君臨した、所謂トップ10の発表である。今回も例に漏れず、新進気鋭のシンガーソングライターや単独の道を選んだ少女、メジャーシーンを拒み続けるスタンドアローン、そして全楽曲がバラバラな曲調に振り分けられたバンドなどオリジナリティー輝く5組を厳選してお届け。選評や楽曲自体の完成度はもちろんのこと、アーティストの今年1年のバックグラウンドも合わせてお楽しみいただければ幸いである。

(20位~16位はこちら
(15位~11位はこちら

 

10位
世間知らず/しなの椰惠
2020年11月18日発売

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[ハッピーサッド的、言葉のナイフ]

令和の新時代に音楽シーンにひっそりと現れた謎のシンガーソングライター・しなの椰惠(読み:しなのやえ)。ミステリアスな彼女が放つ会心の一撃が、処女作『世間知らず』である。


記念すべき今作の幕開けを飾るのは、アコギとパーカッションによるダークネスな雰囲気が全体を覆い尽くす“16歳”。この楽曲には母親の蒸発や愛人の来訪という荒んだ家庭環境を経て高校卒業手前で退学届を提出するまでに至った彼女が音楽と出合い、唯一の存在証明たる歩みを進める赤裸々なリアルが犇めき合っている。言うまでもなく“16歳”は今回のアルバムのリード曲であり、メッセージ性の強い『世間知らず』全体の構成を揺るぎないものにしていることは間違いないが、この楽曲が広まる契機となったのはしなの椰惠本人が投稿したTikTok動画であることも、ある意味では時代と密接に絡み合った令和的な発信方法として称賛に値する。


“16歳”で描かれているように、今作に収録されている楽曲の大半は一聴するとあまりにショッキングな内容で、意識的に耳を痛める人は少なくないと推察する。ただその実、彼女の精神状態は総じて外向き……とどのつまり彼女の楽曲は言わば良薬口に苦し的な代物であり、無個性な自分に悩みながら生き抜く“駄目なあなたのまま”も、半絶縁状態となった父へ送る《あなたといつか笑い合いたいな。/そんな未来がくればいいな。》との一節で締め括られる“父の唄”も、“はじめてのキス”で歌われる彼女持ちの男性と関係を持った過去の自分でさえも、全ては素晴らしい思い出であると前を向き、華々しい未来へのメッセージとして昇華している。確かにしなの椰惠はTikTokで一躍ブレイクしたアーティストのひとりではあれど、フォロワーが次から次へと継続的に集まっていることはやはり、彼女が紡ぎ出す楽曲自体の魅力に他ならない。


アルバムは少女の自害やホームレスの孤独死、アイドルの希死念慮の果てに《そんな事より/昨日から奥歯が痛むの。》と一蹴する楽曲でもって幕を閉じる。タイトルはその名も“素晴らしい世界”。彼女が綴る言葉のナイフは、貴方にとって毒か薬か……。ただひとつ言えるのは、今作は世間の有り様を熟知している神経過敏な人間であればあるほど、心の底まで刺さる珠玉のメッセージアルバムであるということだ。

 


しなの椰惠『16歳』リリックビデオ


しなの椰惠『駄目なあなたのまま』(Official Video)

 

 

9位
浪漫/PEDRO
2020年8月26日発売

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[「消えたい」から「生きたい」への意識変化]

アイドルグループ『楽器を持たないパンクバンド』ことBiSHのメンバー、アユニ・D(Vo.B)によるソロ名義、PEDROのセカンドアルバム。思えばアユニはBiSHとして活動する中でも、そしてグループと平行してソロ活動をスタートした渦中においても『消えたい』という消滅願望が常に頭をもたげる、極めてネガティブな人間だった。実際ライブの舞台裏でも彼女が本心から笑う姿を映し出すことはほぼなく、かつてバラエティー番組に出演した際も基本的に言葉を発さず、更にはそうしたアユニの挙動を笑いに昇華しようと試みる出演者に対して睨み付ける一幕もあったように記憶している。


そんな中何よりの大きな変化として挙げられるのは、アユニの明らかな内情の変化である。世界の崩壊を臨んでいた彼女が一転“来ないでワールドエンド”を歌い、果ては《良いことは生きていないと起こらない》とする“感傷謳歌”、《一人より二人でいる方が楽しいなんて僕にとって/革命的なことなんだよ》とする“浪漫”と、ここ数年で彼女にどのような変化があったのかその実体は不明ではあれど、とにかくポジティブに振り切っている。サウンドについても彼女の変化した精神性に呼応するが如くのパンクサウンドの連続を貫いており、バラード曲……と言うよりはBPMの遅い楽曲自体が遂に1曲も存在しない、未だかつてなく歪んだギターが鼓膜を揺らすアルバムに仕上がった。


……自身を負け犬と呼び、徹底して大人に牙を剥き続けたアユニはその殻を完全に脱しつつある。以前こそ『BiSH>PEDRO』であった活動スパンは今年ついに『BiSH<PEDRO』となり、未曾有のコロナ禍にある渦中においても全国ツアーを実施。そして来年にはBiSHはおろか、大型事務所・WACK所属のアーティストの誰にも成し得なかった日本武道館にPEDROは挑む。……無表情で、寡黙で、普段感情を外に出さないアユニだが、秘めたる闘志はますます巨大化の一途を辿っている。そう。PEDRO史上最もパンクに彩られた今作『浪漫』は、何よりも今の彼女の精神性を強く映し出す珠玉の1枚となったのだ。

 


PEDRO / 感傷謳歌 [OFFICIAL VIDEO]


PEDRO / 浪漫 [OFFICIAL VIDEO]

 

 

8位
七転七起/ナナヲアカリ
2020年12月9日発売

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[ダメ天使からの飛翔]

前作『フライングベスト~知らないの?巷で噂のダメ天使~』の発売から約2年。その間のワーカホリックな活動が着実に実を結び、遂にここ2年間の楽曲を網羅した自身2枚目となるフルアルバム『七転七起(読み:ななころびななおき)』のリリースに至った。ナナヲは今回のアルバムタイトルについて、YouTubeライブにて「七回転んだら八回起き上がることが正義で、出来ない人が駄目で。それで克服を強いられて頑張るくらいだったら自分に丁度良い状態で生きている方が絶対良い」とその命名理由を語っており、ロックやポップなど様々な曲調の楽曲さえあれど「自分らしく生きてりゃそれでいいじゃん」との見解を全放出する、端的に言えば極めてナナヲらしいアルバムとなった。


特に今年は“チューリングラブ feat. Sou”の爆発的な流れがYouTube上を席巻したことから、ナナヲの世間的なイメージは『ネットシーン発のポップアーティスト』に尽きると思う。けれども今作収録のMVが制作されている楽曲以外はどうかと言えば、強いメッセージ性を帯びた楽曲が多数を占めている。この理由についてはやはり新型コロナウイルスの影響により全公演が中止となった全国ツアーへの思いによるところが大きく、彼女自身そうした未曾有の出来事が起こったことで、改めてファンに対しての感謝の思いと、更なる飛躍を胸に秘めることが出来たとかつての配信ライブで語っていた。確かにナナヲの楽曲の大半は彼女自身のものではなく、ある程度名の知れたソングライターが手掛けた代物だ。ただ今作ではナナヲ自身が赤裸々に思いを綴った楽曲も多く存在し、その全てがネガティブな中にポジティブが混在する作りとなっている点において、カメレオン的に姿を変える彼女のボーカル然とした魅力と、決して揺るがないナナヲ自身の思いが相互的に作用したアルバムと言える。


かつて“ダダダダ天使”で鮮烈なデビューを飾ったナナヲ。そんな彼女の楽曲イメージを端的に表す代名詞として幾度も用いられてきたのが、上記の『ダメ天使』というフレーズであり、実際昨年ランクインを果たしたミニアルバム『シアワセシンドローム』においても、幸せの意義や時折襲い来る悲観的な感情に精神を疲弊するナナヲの弱い内面をぐちぐちと記すネガティブな楽曲が並んでいた。けれども今作は、それとは全く異なる代物。長らく飛翔を躊躇い続けてきたダメ天使は、遂に大空へと飛び立ったのだ。

 


チューリングラブ feat.Sou / ナナヲアカリ


Higher's High / ナナヲアカリ

 

 

7位
やっぱり雨は降るんだね/ツユ
2020年2月19日発売

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[心はいつも雨模様]

インターネットシーンで注目を集める謎の音楽ユニット・ツユのファーストアルバム。なお現状「ツユは出来る限り個人の力で大きくしていきたい」とするぷす(G)の強い意向によりメジャー行きを徹底的に拒んでいる関係上、今作は完全自主制作。事務所やレーベルとは契約を一切結ばない形でのリリースとなる。


今作『やっぱり雨は降るんだね』に収録されている楽曲はBPMは基本的に速く、速弾きを多用するぷすの性急なギターサウンドに礼衣(Vo)が圧倒的な言葉数で追随するものが大半を占めている。かつてボーカロイドプロデューサーとして活動していた時代の音像を踏襲し息継ぎの間さえほぼ存在しないツユの楽曲は、言うなれば機械的なボーカルを用いて初めて成し得る難易度の高さ。しかしながらそこにはぷすが自身のツイッターアカウントにて「ツユの曲の難易度は多分日本トップレベルだと思うんだけど、それを当たり前のように歌いきる礼衣はガチで特別な人間だと思う」と綴っているように、ぷすが提出する楽曲の全てをそつなく歌いこなす礼衣との相互的信頼があってこそ。


そしてメランコリックなロックサウンドに乗って綴られる歌詞が徹底した自己否定であることも、ツユが若者を中心に大きなバズを巻き起こした要因のひとつ。……自身の性格を大きく変えることは不可能であり、長い人生を生きるにはとどのつまり『許容する以外の解決策は存在しない』という事実を音楽を通じて痛烈に突き付ける、言葉を選ばずに言えば、音楽の体を成した誘導尋問、はたまた自傷的なショック療法が今作『やっぱり雨は降るんだね』の随所には秘められている。思えば「一緒に頑張ろう」と激を飛ばす音楽こそ数あれど、ネガティブな内容を限界まで吐き出した上で何も解決せずに終わる音楽というのは、特にインターネットシーン発のアーティストとしては稀有なのでは。


実際、YouTube上で凄まじい反響に満たされた“くらべられっ子”や開幕を飾る表題曲の広がりを見ると、消滅願望と希死念慮が同居する心中をロックを通して具現化する今作は、結果としてSNSの発達により日常的な他者比較に直面し、常に絶望に支配される鬱屈とした若者に刺さる傾向にあるようだ。「死ねないなら生きるしかない」という悲しき真理を歌い続けるダークヒーロー・ツユ。なお今作リリース直後には早くも新たな楽曲がYouTube上で公開され、ダークネスな内容に共感する声は止む気配すらない。来年以降のツユの更なる活発化は、およそ確定事項と言えるだろう。

 


ツユ - くらべられっ子 MV


ツユ - やっぱり雨は降るんだね MV

 

 

6位
Notes on a Conditional Form/The 1975
2020年5月27日発売

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[今だからこそ鳴るべき1枚]

ロックの救世主ことThe 1975の4作目。2月→4月→5月とリリース延期を繰り返し、CDジャケットのデザインも当初予定されていたきらびやかなものから無機質なものに変貌。収録曲についてもどんどん増えていき、結果的には何と22曲もの楽曲が収められるに至ったのが、今作『Notes on a Conditional Form(仮定型に関する注釈)』である。


何より驚くのがその内容。昨年のSUMMER SONICでは一升瓶の日本酒をライブ中に何度もあおり、何度も地面に倒れてしまう自傷的なパフォーマンスに終始していたマシュー・ヒーリー(Vo.G)だが、彼の不安定な精神状態は今作でピークに達している。まずは17歳の少女、グレタ・トゥーンベリによる演説が約5分間に渡って続く“The 1975”でよもやの開幕を飾ると、今までのバンドイメージを完全に崩壊させた奇曲“PEOPLE”で血管がぶち切れるレベルの絶唱を響かせる。かと思えば打ち込みオンリーの楽曲、音声を機械で変化させたバラード、弾き語り、果ては過去作品における楽曲のマッシュアップなど曲調はバラバラで、綴られる内容に関しても同じく地球温暖化、セックス、同性愛、ドラッグ、政治、人生讃歌と一貫性がない。躁から鬱、鬱から躁、そして躁の中に鬱が内在する場面の多々ありという全22曲をどう定義するかは非常に難しいが、ある意味では今までにないレベルで人間味溢れるアルバムとなった。


このアルバムの好評価に拍車をかけたのが、皮肉なことに新型コロナウイルスの存在だった。コロナウイルスの影響で今年の夏に行う予定で動いていた来日公演はキャンセル。感染拡大は今なお続いている(彼らの住むイギリスは今月20日にロックダウンを開始)。我々は当たり前と思っていた日常が実際は当たり前などではなかったということを、この1年で嫌と言うほど痛感したはずだ。そして海外ではありとあらゆる事柄に目を向けつつ積極的に意見を投じた今作が結果的に、コロナ禍に届けられた奇跡のアルバムとして取り上げられている。


アルコール依存に躁鬱、ライブ中に観客の男性にキスをしたことから巻き起こったドバイ入国禁止問題、ツイッターアカウント削除、FKAツイッグスとの熱愛報道など、今作制作中は特にマシューが様々なスキャンダルに翻弄された厳しい期間でもあったが、それでも『今自分の歌いたいことを歌う』とのスタンスは変わることなく、むしろアップデートを続けている。全22曲の今アルバムを締め括るのは、バンドメンバーとの友情を歌う“Guys”。MVでは楽しげなヒストリーの果てにロックダウン中の自室で無表情でカメラを向けるマシューの姿が映し出され幕を閉じるが、直前に歌われている内容が《初めて僕らが日本に行った時が 人生で起きた最高の出来事だった》とするグッとくるメッセージであることは、最後に付け加えておきたい。

 


The 1975 - People (Official Video)


The 1975 - Guys (Official Video)

 

 

……次回は遂に最終回、待ちに待った5位~1位までの発表である。未曾有のコロナ禍により鬱屈とした2020年、最も印象深く映ったアルバムは一体どのアーティストなのか。乞うご期待。