キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】銀杏BOYZ・柴田聡子『世界ツアー弾き語り23-24 ボーイ・ミーツ・ガール』@出雲APOLLO

様々なライブに参加してきた自負はあったが、ここまでの熱量を持ったアコースティックライブは観たことがない。……そもそも『銀杏BOYZが全国ツアーを開催する』という時点で相当に久々なのだけれど、なんと今回は長い期間を掛けて全国47都道府県を回るというアコースティックライブ。この日参加したのは地元・島根県の公演で、チケットは一般発売の瞬間に秒でソールドアウト。地方公演自体が珍し過ぎる銀杏、既に会場の外まで異様な熱気が立ち込めるライブハウスである。

会場に入ると、そこは本来のライブハウスとは一風変わった作りに目を奪われる。客席は前方2列のみに椅子が設置されており、整理番号の早かった幸運な20名程度が着席型で楽しめる形(それ以外のファンは全員スタンディング)。またステージに置かれているのは譜面台とアンプ、スタンドマイク程度で、ライブにありがちな背後の垂れ幕なども一切なし。全体としては非常に簡素で、まさしくアコースティックライブという印象。

 

定刻になると、まずはゲストアクトとして柴田聡子のライブがスタート。袖からギターを携えてフラっと登場した柴田は赤を貴重とした普段着であり、肩肘張らないフラットさで、元々4分の1程度まで減っていたステージドリンクのお茶を一口。ちなみに足元のエフェクターも皆無で、純粋にギターをアンプに直で繋いだ裸一貫のスタイルである。

柴田聡子 - ぼくめつ (Official Music Video) - YouTube

「こんばんは、柴田聡子です。“ぼくめつ”という曲をやります」との一言から、オープナーは“ぼくめつ”。柴田は基本的にはギターをつま弾きながら歌唱するスタイルで、この楽曲ではコード進行をほぼ使わず、ポロポロとした耳馴染みの良い音の広がりが楽しい。また歌詞の数々も難しい表現は一切用いず、それでいて複数の解釈の出来る仕組みになっていることにも驚いた。例えば《具合がすごくすごく悪い》とする歌詞ひとつ取っても、それがメンタルなのか肉体的なのかは明確化されていない。MVではその答えとして『コロナ禍で強行されるオリンピック』として描かれていた訳だが、ライブにおいては「あなたにとってはどう?」という問いを投げかけられている感覚もあり、我々自身が補完してはじめて完結する“ぼくめつ”は弾き語りとしてピッタリだなと。

柴田聡子 - 後悔 (Official Music Video) - YouTube

先述の通り、この日のライブはアコギをアンプに直で繋いだ小細工なしの一発勝負。ゆえに演奏は徹底してシンプルである。そんな中で“いきすぎた友達”ではグルグル回るサビのフレーズが中毒性を伴って聴こえたり、“後悔”ではストロークを調節しながら音の聴こえ方をコントロールする場面も見られ、総じてシンガーソングライターとしての力量を様々な部分で感じた次第だ。……かと思えばMCでは「センキュー!」と語る程度で、“旅行”前には「みなさん旅行とか行きますか?」の問いで静まり返る客席を観て苦笑いするなど、一気にシャイになるのはギャップも相まって最高。

中盤からは出雲観光のMCを挟みつつ“後悔”、“涙”といったポップナンバーを投下。この頃になると直立不動で聴き入っていた観客も体を無意識に揺らすようになり、ライブとして環境的にも抜群のものに。そこからのアップテンポな“24秒”、“ワンコロメーター”はそのキャッチーさからも素晴らしい求心力で、多くの観客の心に爪痕を残したことだろう。

柴田聡子 - ワンコロメーター (Official Music Video) - YouTube

最後の楽曲は“芝の青さ”。昔からの言葉に『隣の芝生は青く見える』というものがあるけれど、この楽曲では逆に他者と比較して見えてくる、自分自身のネガティブなリアルについて歌われている。そのメッセージ性もさることながら、前曲“ワンコロメーター”とはまた異なったテイストの楽曲でラストを飾ることについても、彼女自身の挑戦の気持ちと強気な姿勢を感じた。銀杏BOYZの峯田はかつて彼女を「僕が一番好きな女性アーティスト」と紹介していたことがあったが、なるほど。この場はライブハウスだったが、まるで草木生い茂る公園で聴いているような爽やかささえ錯覚する、極上のひとときだった。

【柴田聡子@出雲APOLLO セットリスト】
ぼくめつ
いきすぎた友達
旅行
後悔

24秒
ワンコロメーター
芝の青さ

 

柴田聡子の最高過ぎるライブが終わると、直ぐ様ざわつき出す場内。それもそのはず、次は待ちに待った銀杏BOYZ……もとい峯田和伸を目撃することが出来るのだから。冒頭で『銀杏BOYZが全国ツアーを開催することはレア』と綴ったが、そもそも峯田を観たことのある人はコアなファンはともかく、一般的にはかなり少ないことと推察する。それは近年の峯田が連続テレビ小説『ひよっこ』を始めとした俳優業の活躍による部分もあるが、アルバムのリリース期間が通常ではあり得ないスパンの長さになったり、久々にライブをしたとしても、その倍率の高さから落選した人も存在するからだ。

しかもいわゆる『地方都市』と呼ばれる過疎の地域で暮らしている人に関しては、更に銀杏BOYZのライブは縁遠いものに。実際、周囲の人からは「俺銀杏BOYZのライブ観るの12年ぶりだよ」「ゴイステ(峯田が以前組んでいたバンド・GOING STEADY)めっちゃ聴いてた」なんて声も聴こえてくる。集まった全員がそれぞれの思いでこの場に集まっているのだと分かり、グッと来たり。

定刻になり、これまで流れていたBGMが突如として、ひとりの一般男性が恋について話す独り言が流れ始める。初恋のドキドキを様々な出来事に置き換え、次第にそのトークが「こんなことって、トナカイやゾウアザラシにもあるんだろうか」と締め括られた瞬間、ステージ袖から峯田和伸その人が登場。フロアの様々な場所から「峯田ぁー!」の声が飛ぶ中、峯田はギターをチューニングしながらも口の中が粘つくのか、頻りに口を開きつつステージに痰を履いたり、口内を触って最前列のファンに歯垢をプレゼントしたりと早くもやりたい放題。

ちなみにステージ衣装は黒キャップを被り、緑色のシャツを素肌の上に羽織り、下は使い古したジーパン。無精髭は生えているし、耳元まで髪で覆われている……という、変な言い方をすればお金のない浮浪者のような格好で、どう見ても彼は伝説的バンドのフロントマンにも朝ドラ俳優にも見えない。ただその目だけは肉食獣みたいにギラギラと輝いていて、何だかそれだけで「峯田だなぁ」と思ってしまう。

新訳 銀河鉄道の夜 - YouTube

そして静寂に変化した空気から、ギターを構えた峯田がゆっくりと歌い始める。それはかの有名な“銀河鉄道の夜”……もとい、新たなアレンジで歌われる“新訳 銀河鉄道の夜”だった。峯田が《天》と歌い始めた瞬間、集まったファン全員の脳裏にあの頃の思い出がよみがえる。サビが終わりギターのみの音に戻ったとき、涙を堪えて鼻をすすり上げる音がそこかしこで上がっていたのが印象的だった。ふと周りを見渡せば強面のおっちゃんも、営業の出来そうなあんちゃんも、彼氏と来ている女の子もみんな泣いていて、「銀杏BOYZの音楽は僕らの青春の象徴だったのだなあ」と、改めて感じられた。

この日のライブは、これまでの銀杏BOYZのベストセットをアコースティックに変更したようなセットリスト。具体的には今から約18年前にリリースされ、そのたった2枚のアルバムで伝説的バンドへとのし上がった『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』と『DOOR』から大半が選曲され、中盤以降はそこから9年の時を経て(この頃には峯田以外のメンバーが全員脱退していた)リリースされた『光のなかに立っていてね』と『ねえみんな大好きだよ』の楽曲を多くドロップ。結果として集まった全員の琴線に触れる、青春回顧のような夜となった。

Wakamono Tachi - YouTube

「銀杏BOYZです。踊ってもいいし、座ってもいいし。歌える人は歌ってください。好きなように楽しんでください」。峯田は“新訳 銀河鉄道の夜”を歌い終えると、山形弁の主張が強いあの独特の語り口ではじめてファンに語り掛ける。次なる楽曲“NO FUTURE NO CRY”では早くもそのMCに触発されたのか、涙を流すばかりだったファンもサビを大熱唱。そしてぐっちゃぐちゃのライブアンセム“若者たち”では、前で着席して楽しんでいたファンも次々立ち上がり、拳を上げたり歌ったりと最高の環境に。演奏形態こそアコースティックだが、その熱量はかつてライブハウスで見たそれと同等の盛り上がりだ。

銀杏BOYZ - 援助交際 (Music Video) - YouTube

Yume De Aetara - YouTube

「ライブハウスの前に、ドームみてえのがあったんだ。あれ絶対UFOだよね。地球が滅亡する日が来たとして、出雲の人はみーんなあれに乗り込んでさ。どんどん上にのぼってって、だんだん島根が見えて東京が見えて中国が見えてよ。そんで真下に見える日本列島を見ながら『バイバイ地球!』っつって、周り見たら気付けばUFOには死んでった爺ちゃんや友達とか、全員乗っててよ。『♪夢で逢えたらいいな〜』って。次はそんな曲をやります」。峯田がそんなSFチックな思いを語りながら始まった“夢で逢えたら”は、早くも今回のライブのハイライトだった。宇宙や塩素ナトリウムや、意味がありそうでない風景を思い浮かべながら、最後には『君』との幸福を希求するこの楽曲。思えば銀杏BOYZはこうしたこじれた恋愛観をずっと歌い続けていたし、それは彼らの音楽が青春時代に突き刺さった我々にとって、何よりも強い熱弁でもあった。峯田はあれから十数年、ずっと同じことを考えている……。その事実にも触れ、全てが号泣必至な現状に繋がっていく。

銀杏BOYZ - 骨 (Music Video) - YouTube

サビのラストを《マッチングアプリ》に変えて歌われた“援助交際”を経て、峯田は「今日は古い曲も新しい曲もやります」と宣言。そこからの流れは“アーメン・ザーメン・メリーチェイン”、“エンジェルベイビー”、“骨”、”恋は永遠”といった比較的新しい楽曲を投下。驚くべきはその楽曲すべてが完全に受け入れられていた点で、峯田もファンに委ねるように歌唱を促す場面も多々。もちろん曲調としては『君と僕の〜』のアルバムから何年も経っているので明確に変化しているのだが、それでも。あの時代に銀杏BOYZを愛したファンが、長らく彼らを追い続けていることにグッときたりも。

「別にコロナのせいにするのも良くないんだけども、長いこと自由に出来なかったじゃないですか。僕もそうで、ある程度落ち着いたらバンドでもひとりでもいいから全国回ろうって決めてたんですよ。で、今日は出雲……神様が集まる場所とか何とか知んねえけど、どんな田舎にもライブハウスはあって。おんなじことの繰り返しみたいな毎日過ごすけど、その中で何日かだけは『楽しかったなー』っつって思える日があれば良いんじゃねえかと思うんですよね。で、俺はそれがライブハウスだと思ってるんですよ。ここにいるみんなもそうでしょ?」

その言葉に対してウンウンと頷くファンたちを見ていると、やはりライブハウスが特別なものなのだと実感する。そしてこの日は『全国を回りやすい』という理由でアコースティックな形態だったけれども、熱量は完全にあの日の銀杏BOYZそのもの。峯田は先程の柴田とは対極に位置する歌唱法だし、もしこれが路上ライブとして行われていれば成り立つかは分からない。ただライブハウスであるからこそこの熱量が受け入れられ、涙を流す者大挙の現状を生み出していたのではないか。

Baby Baby - YouTube

「たまに『結婚式で“BABY BABY”流しました』って言われることがあるの。『峯田さんありがとうございました』とか『最高の思い出になりました』とかさ。ふざけんじゃねえよ!お前らの幸せな思い出にされてたまるかってんだよ!今ここで歌うのは2023年の、UFOの真ん前にあるライブハウスの、お前らの“BABY BABY”だよ!」

この日最も会場がひとつになったのは、もちろん“BABY BABY”の一幕。峯田は荒々しくギターを弾きながら時折オフマイクで熱唱し、そのためかファン全員の歌声の方が大きく聴こえる逆転現象が発生。この『ファンの歌の方が巨大化する』というのはライブシーンでは珍しくないものの、今回は稀有なアコースティック。こうした状況下でも熱唱が巻き起こるのは、楽曲の魅力と呼ばずに何と言おうか。終盤では峯田がマイクをグルっと客席に向けてファンに全てを委ねる場面もあり、本当に感動的だった。ちなみにこれらの一部始終は前方のカメラですっぱ抜かれていたのだけれど、果たしてその中の何人が涙を流しながら熱唱していたのだろうか、と今になって思ったり。 

僕たちは世界を変えることができない - YouTube

万感の盛り上がりを見せるライブだが、最後にもう1曲。ラストに演奏されたのは“僕たちは世界を変えることができない”で、これまでの熱狂をリセットしゆったりと変化させてのフィニッシュである。元々この楽曲は『光のなかに立っていてね』のアルバムの最後に収録された楽曲で、インタビューでの峯田いわく「みんながぶっ壊れながら作った」「曲がなかなか出来なくておかしくなって。それでノイズをいろいろと研究してリリース出来た」とする難産なもの。……結果的にこのアルバムのリリースが発表されると同時に峯田以外のメンバー全員が脱退することとなったこの楽曲を、峯田はノイズなしのギター1本で、しっとりと奏でていく。歌われている内容もやはり『愛』だと言うのだから、そうした点でも繰り返すが「やっぱり峯田だなあ」と感じられた。

本編が終わると、直ぐ様アンコールが。銀杏BOYZのアンコールは基本的にはファンが一体となっての「銀杏BOYZ!→手拍子(パパンパパンパン、のリズム)→銀杏BOYZ!」の呼び声のループで行われるのだが、今回は弾き語りというラフな状況のためか、ステージ袖では既に峯田が待機中。更にはマイクで喋りながら「おぉ?そんなんじゃまだ峯田は出て来れねえぞぉ?」なんて焚き付ける始末である。また峯田は手拍子に合わせてマイクを全力で額に叩き付けたりもしていて、そのパフォーマンスも10年前の峯田と同じで、思わずグッとくる。

そんなアンコールの招集に応えて帰還した峯田は「このライブの前に弾き語りの先輩によ、質問したんだ。『ひとりで全国回るんですけどどんな感じですか?』って。したら『アコースティックなら汗もかかずに終われるから』って言われたんだけど。(熱量が)バンドと一緒じゃねえか!」と汗びっしょりの体で憤慨。その言葉に「ありがとーう!峯田ぁー!」と返すファンにも笑顔で答える峯田、素晴らしい構図だ。

Nanto Naku Boku Tachi Ha Otona Ni Narunda - YouTube

そして「今日は出雲、ありがとうございました。こんな神様の集まる場所でね。UFOが目の前にある場所でね。歌えて良かったです。“夢で逢えたら”のMCも上手いこといった感じで……。今度はバンドで来ますんで、それまで宜しくお願いします」と語ると、正真正銘のラストソング“なんとなく僕たちは大人になるんだ”へ。CD音源では元メンバーの誕生日を「2004年11月22日!」と祝っていたこの楽曲があれから約19年後に鳴らされる驚きもあったが、思えばあれほどパンク一辺倒だと思っていたかつての『BEACH』の中で、唯一アコースティックで楽しげに響いていたのはこの楽曲だった。峯田は歌詞を全てファンに任せるサービスぶりを発揮し、本当に楽しそう。それを観た我々ファンもまた笑顔で応える、双方向的な感動がそこにはあった。

【銀杏BOYZ@出雲APOLLO セットリスト】
新訳 銀河鉄道の夜
NO FUTURE NO CRY
若者たち
夢で逢えたら
援助交際
アーメン・ザーメン・メリーチェイン
エンジェルベイビー

恋は永遠
いちごの唄
GOD SAVE THE わーるど

少年少女
BABY BABY
僕たちは世界を変えることができない

[アンコール]
なんとなく僕たちは大人になるんだ


今思えばこの日の銀杏BOYZは、10年前に遡った当時の心情の再現でもあった。クソッタレな学校生活に嫌気が差して。好きな人に出会って。厨二病になって。帰り道でジュースを買って……。思い返せば「バカだったなあ」と笑い話にするかつての生活に、別に肯定するでもなく銀杏BOYZはいつも存在していたのだ。

峯田の有名なMCに「あなたが幸せになった時、こんな歌なんて忘れてくれ」というものがある。当時は「そんな訳ねえじゃん!」と思ったが、大人になると本当に、どれほど好きなバンドであっても存在を忘れてしまう時が来る。でも彼らの音楽はずっと心の底では生き続けていて、今回のライブはそんな思い出を強制的に引きずり出すような、言いようのない素晴らしさを携えていた。

余韻と共に夜道を歩いていると、突然大量の雨が降り出した。そういえば夜から大雨が降ると予想されていた気がするが、今日だけは別にそれでもいいと思えた。むさろ「もっと降れ!」とさえ感じた。なぜだろう。理由は今でもよく分からない。

下を向いて歩こう

ここ数ヶ月で、いろいろな本を読むようになった。思えば小説とは昔から付かず離れず……。最近では『付かず離れ離れ離れず』レベルで足が遠のいてしまっていたのだが、ようやくである。もっとも、飲酒量が深刻化し「本を集中して読めば酒量が減るんじゃないか?」と考えたというきっかけさえ無ければ、更に良かったのかもしれないが。

読書をしていると、物語以外のことは思考から消えていく。普段僕はゲームをするのだけど、別の世界に自分が侵入し、登場人物を俯瞰で操作している感覚にも陥るので、小説は言わば別ジャンルのゲーム。文明の利器と切り離した時間も含め、とにかく快適だ。にも関わらず、どつやら年月を経て小説から遠ざかった人は少なくないようである。同じ職場の同僚に話を聞いてみたところ、「昔は読んでたけど今は全く読んでないよ」と答える人は一定数いて、その境界線はほとんどが『就職』だった。要は時間がなくなったから読書する暇がない、と。

ただ「昔は本を読んでた」という記憶が浮かぶだけでも、読書の意味はあると思う。西村京太郎の本を読んでいた人が、時刻表に詳しくなる。ハリー・ポッターを読んで夢の世界を考える……。「あの時この本を読んでたから変われた」ような経験を、誰もが無意識的にしているのだから。これは勉強でもスポーツ、その他のあらゆることにも当てはまる。過去の経験だったとしても、絶対に今を生きる糧になるのだ。

思えば自分は、昔から本を読む子供だった。授業中に教師からの視線を教科書でガードし、昼休みも図書館……という日々は本の虫にも見えるが、実際自分にとっての読書は、現実逃避の手段でもあった。イジメはもちろん、外見的にも奇異の目を向けられることの多かった当時だからこそ、目の前の紙媒体に没入したのだ。

中でも好んで読んでいたのは、ネガティブな本。具体的にはクローズド・サークルやミステリー、ホラーなどいわゆる『人が死ぬ物語』が基準であり、対照的に笑顔あふれる恋愛や冒険ものには、全く心が動かなかった。それこそ蔑みを受けた時、何度も「こいつらを××したらどうなるんだろう」と思ったものだが、そんな怒りも本を読むことによって和らげていたような気もする。

しかし大好きだった本との距離は、県外への大学進学と共に遠くなるばかりだった。その理由は純粋に、体調が良くなって積極的に人と関わるようになったから。『人が嫌いだから本に逃げるぞ』というのがこれまでの流れだったとすれば、根本の『人嫌い』が緩和されれば『本に逃げる』の行為が消えていくのは必然だった。実際ほとんど本を読まず、更には文章すらほぼ書かないそれは大学卒業まで続くこととなり、地元へ帰って、新たな生活をスタートさせた。

当時こそ「がんばるぞ!」の思いが先行していたものの、帰郷後の僕はまるで大学以前に戻ったように、精神的に荒れた。同じく悩める原因は人間関係だったが、イジメだ暴力だと直接的にやられていた学生時代とは違い、大人になってからの人との関わりは陰湿の極みで、また違ったストレスがあった。イジメにしても、大人は基本的に証拠を残さない。自分の知らない場所で噂され、気付けば喉を絞め上げられるそれは、まるで「お前が人と関わってこなかったからダメなんだよ」と言わんばかりの勢いで、強く心を蝕むものとなった。その頃から僕はまた本を読み始めるようになり、また辞めて、また始めてを繰り返して数年……。そして仕事でのストレスが重なった今、またグロい本をいろいろと読み始めた次第である。

物事を始めるのも辞めるのも、枝分かれする選択のひとつ。『塵も積もれば山となる』『継続は力なり』『明日やろうは馬鹿野郎』『ローマは一日にして成らず』などなど、世の中には様々な継続の言葉が溢れているけれど、何かを一旦辞めることで見えてくる、人それぞれの生き方も肯定すべきではないか。

変わり映えのない、仕事仕事の生活。いつかその先に素晴らしい何かが待っていると信じて、僕は今日も本を読んだり、読まなかったりしている。……前向きな人からすれば「こんな後ろ向きな考えは自己弁護かなあ」とも思ったりするが、それはそれとして。元来ネガティブな人間のアイデンティティと捉えれば、挫折すらも活きてくるものだ。

amazarashi 『下を向いて歩こう』Music Video - YouTube

映画『おまえの罪を自白しろ』レビュー(★2.0)

テレビを観ていると、番宣として映画の俳優陣がバラエティ番組に出ていることがある。中でも最近よく観るのが、家族と国家そのものを動かす大事件を描いた『おまえの罪を自白しろ』の人々で、現在様々な劇場で猛プッシュ中……ということで、その評価を確かめるために観てきた。

物語としては、まさしくタイトルにある通り『罪の自白』がキーワードとなる。まず始めに、主人公の姉の子供にあたる人物が誘拐される事件が発生。犯人は要求として、黒い噂が囁かれる国会議員の父に対し「おまえの罪を自白しろ。そうすれば娘は返す」と伝え、以降連絡が取れなくなってしまう。果たして父はどんな罪を抱えているのか。それを自白してしまうのか。そしてその息子である主人公はどう事件に立ち向かうのか、というのが主なストーリーだ。

ただこの映画、全体としては微妙。どこか秀でている部分を探すのも難しいレベルで、個人的には今年の映画ではかなり下の部類の作品に思えた。……実はこの映画は大手レビューサイトでは決して悪くなく、まずまずの評価は得ている作品ではある。では実際に「どこが悪いんだよ!」と問われれば答えられるかと言えばそうでもないのが変なところで、端的に言い表すならば「悪いとこは特にないけど良いとこもない」という。「2時間フワーっと観てたら、エンディングになっちゃいました」的な消化不良感。

そもそも政治や誘拐をテーマに冠した作品は、この世にごまんとある。政治だけで考えてもここ数年は様々で、必然的にそれぞれの武器を有している。例えば『記憶にございません!』では総理が記憶喪失になるギャグ路線、『総理の夫』は主な話を国会から自宅に変更。圧倒的な評価を得た『新聞記者』では逆に、放送レベルギリギリまで国の裏事情に突っ込んだ問題作とした。つまるところ今の映画として政治に切り込むには、もはや王道系の流れではダメ。何か新たなテーマをくっつける以外に、目当たらしさは生まれないのだ。

そこで今作は、政治に『誘拐』のテーマを加えることで、タイトルにもある「政治の罪を告白しないと人が死ぬ」という脅しに繋げた形で、その意気やよし。しかしながらこうなってくると、絶対に『政治』と『誘拐』の2種類が上手くまとまるような展開になるべきで、難易度は跳ね上がる。そして結果、どちらも納得の行く流れにならなかったのは明確なマイナスポイント。

誘拐ひとつ取っても、主に『誘拐する理由』『犯人は誰?』『その結果どうなったか』の3つの情報は必要なものだけれど、そのどれもがモヤっとしていて。ネタバレとして、この誘拐犯は劇中でほんの少ししか出てきていない人物なのだけれど、その人が出てきても我々的には「いや、まずお前知らないし……」と思うし。涙ながらに動機を語られても「いや、そんなことで誘拐したん……?」と思うし。いろいろと詰め込みすぎているかなと。

起伏の少ない平坦な印象も、おそらくそこからだ。我々の中の疑問が解決しないまま、登場人物がどんどん声を荒げられても困るというか。「ここで盛り上げるぞ〜」と制作者サイドが考えるポイントが悉く空振りしている感覚。登場人物も堤真一以外は誰でも良かった気もするし。超駄作な訳ではないが、寝っ転がってビールを飲みながら、CMアリのロードショーで観るのが一番合っている映画だと思った。申し訳ないけど、今のところは今年ワースト映画かなあ。

ストーリー★★☆☆☆
コメディー★★☆☆☆
配役★☆☆☆☆
感動★★☆☆☆
エンタメ★★☆☆☆

総合評価★★☆☆☆(2.0)

映画『おまえの罪を自白しろ』本予告【10.20 FRI ROADSHOW】 - YouTube

【お笑いライブレポート】兵動大樹『兵動大樹のおしゃべり大好き。45』@中国新聞ホール

こんばんは、キタガワです。

『人志松本のすべらない話』で一躍脚光を浴びて以降、そのトークの妙に引き込まれる人続出。現在では単独ライブを年に数回行うお笑い芸人・兵動大樹。そんな彼の広島での単独ライブを、遂に観ることが出来た。タイトルは『兵動大樹のおしゃべり大好き。45』。この字面だけを観てもワクワクしてしまうのだが、何と言ってもこれが広島で東名阪でなく、広島で開催される意義は凄まじい。もちろんチケットはソールドアウトし、パンパンの客入りである。

会場に選ばれたのは、中国新聞の会社内部にあるホール。外から見れば完全に「今から出社する人」のイメージだが、ここで開催されるのは紛れもなくお笑いライブ。お客の年齢層は下は20代、上は60代くらいと幅広く、中でも40〜50代の人が圧倒的に多い印象を受ける。そしてそのほとんどが夫婦で来場しており、まさに兵頭家の話を繰り広げる今回のライブに合致した客層とも感じた次第だ。

 

①オープニング

14時に暗転すると、主人公たる兵動大樹が登場。兵頭は集まってくれたファンに感謝の気持ちを伝えると、この日が完全ソールドアウトであることを嬉しそうに語ってくれた。そんな拍手で迎えられた最高のオープニングトークだが、兵頭は「でもみんなこのライブのこと、どこで知ってくれはったん?」と疑問顔。すかさず前にいたマダムに尋ねると、「たまたま」というまさかの返答が。兵頭は「たまたま知ったお笑いライブに来はったん?そらリスキーやで!」と一気呵成。爆笑に包まれる会場である。

『人志松本のすべらない話』、更にはコンビである矢野兵頭の漫才でも知られている通り、彼のトークは全てが実体験。日常で起こった様々なことを、笑いに昇華して話すのが基本スタイルだ。この日も「『おしゃべり大好き。』は最近周りで起こった話しかしませんので」と前置きし、ゆっくりと話しはじめる。ただここからの約2時間は一見バラバラなストーリーに見えて、実は綿密に伏線が張られた巧妙な展開だった、というのは後から気付いたことだが……。

【おしゃべり大好き。】『一人で花やしき』 - YouTube

②妻に「せやな」と言わせたい

トークテーマ1本目は『妻に「せやな」と言わせたい』。まず兵頭は客席の旦那さんを何人か指名しつつ、「せやなって言います?奥さんは」と質問。言わずもがな、せやなは標準語で言うところの『そうだね』の意で、多くの旦那さんはYESと回答。しかしながら兵頭の奥さんは違うようで、どうやら何に対しても「せやな」と言わないそう。

例えば、車が急に横入りしてきた時。兵頭はなんの気無しに「何や今の!危ないと思えへん?」と聞く。その際に通常なら「せやな」で返してほしいところを、兵頭の妻は「急いでたんちゃう?」と返すらしいのだ。同じように、店が混んでいたり、態度の悪い店員に文句を言ってあくまでも共感してほしい場面であっても、奥さんは「せやな」は絶対に言わないとのこと。

そこで兵頭は、妻に「せやな」と言わせる計画を実施。その日1日で町中で見かける様々な場面をジャッジし、必ず「せやな」になるものを考えるというものだ。兵頭が捉えたのは、ショッピングモールの駐車場に置かれたカート。しかもすぐ側には置き場所もあるため、「急いでたんちゃうん?」は通らない状況!そこで兵頭は確実にイケると踏んでの「あれアカンやん。なあ?」と妻に言うも、結果はまさかの形に。妻は車から降りてそのカートを置き場所に戻し、「これでええやん……」と一言。兵頭の目論見は完全に外れたのだった。

【おしゃべり大好き。】『コンタクトレンズ』 - YouTube


③肩がつる

続いては、歳のせいか最近どんな場所でも肩がつる、という話に。中でも兵頭は腕をグッと引いた瞬間になりやすいらしく、この状況になったが最後、痛すぎて状況を問わずに「ア〜〜〜〜〜!」と絶叫してしまうのだそう。後ろのテレビリモコンを取ろうとした時、キャッチボールをした時……はまだ良いが、問題は店内の場合。兵頭はある日「こちらに袖を通しますね!」と店員さんとスーツの試着をする場面で「ア〜〜〜〜〜!」になってしまったらしく、店内のお客さんがこちらを見に来る、というカオス状態になったそう。兵頭いわく「そら見るわな。スーツの店で角曲がった先のところで大人がア〜〜〜〜〜!言うとったら」とのこと。

【おしゃべり大好き。】『おっちゃんの悲哀』 - YouTube

④僕ビビリなんです

兵頭といえば、ビビリエピソード。彼のビビリエピソードは様々あり、過去も妻が作ってくれたわらび餅を幼虫だと勘違いし、外に捨ててガチギレされた(以下参照)話があったが、今回はもう少し踏み込んだ話を。

ひとつは、兵頭が車内でいたときの一幕。当時彼は深夜に帰宅するも家には入らず、しばらく真っ暗な車の中で調べ物をしていたそう。もちろんその光景は外からは目立つもので、偶然そこに通りかかったのは知り合いの噺家さん。真っ暗な中、突然ドアをコンコン叩いて「兵頭さーん?」と尋ねられた声に兵頭は飛び上がり、大恥を晒すことに。

更にその後家に入ろうと家のカギを開けた瞬間、家の横に置いてあった発泡スチロール(縦に積み上がって人つぽく見える)が風で倒れかかり、思わず「うわあ!」と叫んでしまったことを回顧。ここで兵頭は自分の不甲斐なさと共に、「もしこれが本当の人(泥棒など)なら、今自分がカギを開けてしまったことで侵入され、家族に危害が及んだかもしれない」と考え、本格的にビビリを克服することを考え始めたのだった……。

【おしゃべり大好き。】『めちゃくちゃ虫が怖い』 - YouTube

⑤キックボクシング入会

そこで兵頭が選んだのが、キックボクシング。以前もボクシングは挑戦したことがあるそうだが、プロのようにサンドバッグを『バシッ!バシッ!』と鳴らすはずが、彼が叩くと『モチッモチッ』という変な音が鳴るのだそう。そのため恥ずかしさで挫折→また新しいことをやる→挫折の悪循環に陥っていたが、今回ばかりは一念発起。本気で強い男になろうと決心した兵頭である。

当然、最初の頃はボロボロ。ボクシングの時点で『モチッモチッ』だったものを、更に足も使って繰り出す……というのはなかなかに難易度が高かったらしく、早くも挫折しそうに。その中でも奮起する契機になったのが、兵頭と同じ40代〜50代のオヤジたちが行うキックボクシング・バトルイベント。これはプロではなく完全に一般の人たちが定期的に行うものなのだが、素人のオジサンたちが一生懸命に頑張る姿に、見学しに行った兵頭は心から感動。自分もまだまだ頑張れると考え直し、また練習を重ねていく。

そして記念すべき初対戦の日。相手は兵頭の通っているジムの中では最も有段者の人物で、言わば一足飛びでのチャレンジとなる。おそらく負けるだろうと踏んではいたものの、兵頭には成し遂げたい思いがあった。それは『パンチ3発までは耐えよう』『当たるか分からないけど、全力で当てにいこう』というもの。勝てる見込みはほぼないがビビリを克服するため、それらは必ず行おうと決意した兵頭!……だったが、いざゆかんと腕をグッと引いた瞬間、例の「ア〜〜〜〜〜!」が再発。開始2秒で棄権試合となり、そのまま兵頭はキックボクシングを退会したそう……。

【おしゃべり大好き。】『ボクシングジム入門』 - YouTube

⑥藤田兄さんとのハイキング

続いてはファンにはお馴染み、兵頭が慕う芸人でもある藤田兄さん(大阪キッズ・藤田)とのエピソード。現在の兵頭はキックボクシングもそうだが、これまで経験してこなかった様々なことに挑戦したいモードに突入しているそうで、そのうちのひとつがハイキング。兵頭いわく「山登りのどこがおもろいねん」の固定観念をなくすことで、新たな自分に出会おうとしたとのこと。

挑戦したのは、大阪にあるビギナー中のビギナーであるハイキング道。人にとってはちょっと傾斜のある散歩程度だが、普段なかなか運動をしない人にとっては難しいもの。そこで兵頭は藤田兄さんを誘ってハイキングへと臨んだものの、藤田兄さんは現在足を悪くしており、ゆっくりしか歩けないことを当日に思い出した兵頭。しかし藤田兄さんは「行こかー」と快諾してくれたため、いざハイキングへ。

しかしながら藤田兄さんの持病もあり、当日は1時間かかるところを1時間半以上かかる、ゆっくりとした歩みに。その時間の大部分を占めていたのは藤田兄さんのストレッチで、具体例には中腰になって足を何度か曲げ、両腕を前に突き出しながら「ううー。ううー。」とするそれを定期的に行いながら、山を登っていったのだそう。結果としては登頂に成功したものの、その間兵頭にとっては「ホンマか!?と思ったことベスト3」があったようで、まずひとつは兵頭が隣にいるはずの藤田兄さんに「兄さんとはじめて会ったのはあの頃でしたね……」と感動的な話をしている最中、当の本人はストレッチをしていて話を全然聞いていなかったこと。もうひとつはあと数100メートルに差し掛かったにも関わらず、藤田兄さんが「もうやめよかぁ」と放ったこと、そして最も予想外だったのは、兵頭が「このストレッチどないですか?効果あります?」と語った際、藤田兄さんは「効果はないねん」と返した一幕。もちろん会場中が大爆笑に包まれたのは、言うまでもあるまい。

 

【おしゃべり大好き。】『中華料理屋』 - YouTube

 

⑦物忘れがひどい

予想外のエピソードが続出する兵頭、その中でもこれまでにはなかった『年相応』の場面で笑いを生んだのは、物忘れについての場面。いわく最近はそれに拍車が掛かった状態であるそうで、階段を駆け上がってその瞬間に何をしに駆け上がったのかわからなくなったり、牛乳を買いにコンビニに行ったのに他のものを買って帰って怒られたり……と、割と「マジでヤバイ」ようで。ただ物忘れをした当人はビビリなので、何か物忘れの出来事が起こった時には驚いて、何かにつけて「ママ〜!ママ〜!」と妻を呼ぶことを繰り返していたために、もう妻からは「それ怖いから呼ばんといて!」と釘を刺されていたという。

そこで語られたのは、お笑いコンビ・ミルクボーイの駒場から譲り受けたゴルフボールの話。3玉がセットになったゴルフボールを楽屋で貰った兵頭は、そのままカバンに突っ込んだまま完全に忘れて数日生活。ズボラな兵頭はそのカバンに(ゴルフボールのことは忘れてるので)どんどん物を詰め込んでいき、どうやらそれのケースが次第にひしゃげていったらしく。ある日の最寄り駅でカバンからゴルフボールが1個『カン……カン……カン……』とコンニチハ。しかし貰ったこと自体を忘れていた兵頭は「何でこんなんが駅にあんねん」と思い、そのまま帰宅。

その翌日、河川敷を歩いている際に同じように、今度は2個目のゴルフボールが『カン……カン……カン……』とカバンから落下。ただこの状況は明らかにこれまでとは違う。なにせ昨日も同じことが起こったのだ。しかも今回は大人数が集まる場所ではないので、明らかに自分を狙っていると分かる状態!運の悪いことに、ちょうどその頃の兵頭は心霊番組の司会をやっていたこともあり、すぐに彼の頭にはふたつの可能性が思い浮かんだ。それは『誰かが俺を隠れて狙っている!』。もしくは『ゴルフの霊に取り憑かれている!』というもので、ビビリな彼は戦々恐々。

そして運命の3日目。この日は帰宅してゆっくりしていた兵頭だったが、バランスが崩れたのか、掛けていたカバンがグラリ。そこから最後のゴルフボールが『カン……カン……カン……』となった時、もういよいよ「家まで狙われている!」と理解した兵頭。1回目や2回目はまだ外だった。けれども今は自宅。魔の手が目前まで迫っていると感じた兵頭は「ママ〜!ママ〜!」と妻を呼んでしまったのだが、ここでミルクボーイ駒場からゴルフボールを貰ったことを完全に思い出してしまう。ただ既に妻は呼んでしまっていて、兵頭はすかさず「すいませんゴルフボールでした!」と弁明。それに対して「お前それ言うな言うたやろ」と冷たく一蹴。彼の威厳がまたひとつ失われたのでした。

【おしゃべり大好き。】『ビジネスクラス』 - YouTube


⑧泥酔して自撮り&コピー機が……

続いては話が変わって、泥酔した夜のシーン。後輩と夜の街に繰り出してしこたま酔った兵頭は、次の日の仕事に備えてホテルにチェックイン。そんな中でも未だ酔っている兵頭は、アルコール特有のふわふわ感から、TikTokなどの投稿者に影響されたのか、パンツ一丁の自分の姿を自撮り。その日は「ヒャッヒャッヒャ」と笑いながら寝て、そのことはすっかり忘れていたそう。

そして話は再び変わって、自宅。深夜近くまで働いてヘトヘトになった兵頭が家へ帰ると、長女・あいねちゃんと妻が何やら口論中。どうやら話を聞くに、長女は明日学校に提出しなければならない写真(海外の観光都市の風景)があったそうだが、コピー機の用紙が不足していて出来なかったようで、それを母親に「明日どうすんのよぉ!」とヒステリーを起こしていたとのこと。そこで見かねた兵頭はコピー用紙を買いに、ヘトヘトの体を動かして一緒にコンビニへと向かう。

コンビニへ向かう道中、兵頭は長女に訥々と怒る。「お前なぁ。これかて何日も前に言われとったことやろ。それをギリギリになってやろう思てアカンかったか知らんけど、それでお母さんにギャーギャー言うんはアカンやろ」と。ただ現在反抗期である長女はそう言われてもブスッとしていたようで、重苦しい雰囲気のままコンビニへ到着。

そこで「さて当初の予定通りコピー用紙を買うか」と思っていたところ、娘から「わざわざ買わなくても、Wi-Fiで飛ばせば今コピー出来るらしい」との情報を入手。しかしその方法までは娘は知らないらしく、更には「お父ちゃんやってや」と指示。仕方なく兵頭は店内の大学生のあんちゃんを捕まえてコピー機の前で悪戦苦闘するも、なかなか出来ず……。そうこうしているうちに後方には列ができていて、焦った兵頭は画像選択でズバババ!と様々な画像をとりあえず選択して印刷すると、コピー機から出てきたのは、兵頭がホテルで上裸で自撮りした写真の数々……。真っ赤になって逃げるように車へと戻った兵頭に対して、娘は「最低な大人やな」とトドメの一撃を放ったのだった。

【おしゃべり大好き。】『ドリラちゃん』 - YouTube

⑨17万のスイートルーム

最後のエピソードは、スイートルーム。この話は全体として約30分近くあり、今回のトークのオチとしても機能していた印象だ。この話を語る上で絶対的に重要になってくるのは、先述の⑥の話。というのもこの頃の兵頭は、高校生になり反抗期になってしまったふたりの娘に、行き場のないやるせなさを感じていたためである。昔は兵頭が帰ってきたら「パパー!」と笑顔で抱きついてくれたが、今は自分の部屋にこもりがち。楽しい話をしても、今は無感動に返事するだけ……。そんな日々を重ね、いつしか兵頭は自宅に帰ることに対して、優先度が低くなってしまったそうだ(④で兵頭が家の外にずっといたのも、それが理由)。

だが、このままではいけない。そこで考えたのが『旅行へ行こう』というもの。というのも、これまで兵頭家は年に1度は必ず旅行に行っていたのだが、コロナ禍で中止に。今回は都合3年ぶりとなる家族旅行だったからだ。

中でも第一候補としてあったのは、とあるリゾートホテル。ここは景色も風呂も素晴らしく人気の場所とのことだが、兵頭は絶対にここを抑えたかったという。その理由は今から数えて約10年以上も前、同じく家族旅行で訪れたとき、娘たちから「たのちかった!」「またぜったいにみんなでこようね!」と言われるほど、本当に楽しい時間が娘たちの頭に刻まれていたため。

実際に娘たちにその旅行計画を話すと、みな「あそこだったらええんちゃう?」と乗り気。そこで兵頭は宿を押さえることを考えたのだが、直前での予約だったためかスイートルームしか空いておらず、なんと金額は込み込みで17万。これには大いに悩んだ兵頭、1日悩み、2日悩み。遂に「今日決めないともう取れない」という日まで追い込まれてしまう。日付が変わった瞬間に受付終了になる画面でずっと悩んでいた中、ふと近づいてきた2番目の娘(りりあちゃん)が、兵動の目の前で笑顔で一言「お父ちゃん!あのホテル楽しみだね!」の声で全てを決断。急いでPC画面を動かし、かくして兵頭家は1泊17万のスイートルームの予約を完了したのである。

そして待ちに待った運命の日。17万のスイートルームで家族で宿泊するという様々な意味でも重要な日だが、出発前、兵頭は毎年行うとあるルーティンをしようとしていた。それは『車を動かす前、運転席から後部座席を振り返る』というもの。……かつては1年おきに敢行していた旅行。ある年は、生後間もないため泣いている娘と妻が。その翌年には座席がチャイルドシートになり、また翌年には椅子。その翌年は妻は助手席に移動し、後ろにはお菓子をこぼしながら食べる娘が。またその翌年は、娘の横に新しい命が座っている……。彼はそうした光景を1年おきに更新するのが、密かな楽しみであったと語る。しかも今回はコロナ禍を経て、約3年ぶりときた。

ただ実際に兵頭が後ろを向くと、娘ふたりはリクライニングを完全に倒した状態でスマホを見ているという、あの頃の思い出とは対極の光景が。そしてこの開幕から予想出来た通り、旅行は散々な結果に。ホテルに入るも、娘ふたりは美しい光景には目もくれず、ベッドでダラダラ。更にはスマホをずっと触っていて、豪華な食事への関心も薄く、特に楽しい出来事もないまま、夜になってしまう。

……兵頭は家族全員が寝静まった後、ひとり窓を開けて外に出て、お酒を飲みながら今回の旅行を考え直し始める。17万をはたいて旅行に来たが、その結果は芳しくなかった。当時は可愛かった娘も今は反抗期。最近は家に帰るのも億劫になってきた。……こんな生活がずっとこれからも続くのだろうか。それなら娘のことはあまり真剣になりすぎず、妻と二人三脚で成長をサポートする形で動いた方が良いのでは……。そんなことを考えれば考えるほどネガティブになっていき、かくして夢見ていた旅行は幕を閉じたのだった。

旅行が終わり仕事場。ふいにラインが来たことに気付いた兵頭は、そこに娘から兵頭に宛てた写真がムービーとして送られていることに気付く。ホテルで楽しそうにしている写真。バイキングを食べる写真。車の後部座席から撮った写真……。兵頭は「スマホばっかりして!」と思っていたが、実際の娘たちは旅の途中で無音カメラで父親の姿を撮影し、それをアプリで編集していたらしい。端から見れば感動的な流れだ。

【おしゃべり大好き。】『MVS』 - YouTube

⑩海外の占い師と……

けれども兵頭は釈然としない気持ちの方が大きく、未だ「あの旅行は正解だったのか?」と悩んでいた。そこで占い師に今後の親子仲を診断してもらおうと考えた兵頭は、とある海外の有名占い師にリモートで接触。現時点での悩みを、相談しようと考えたのだった。

定刻になり、画面の前に現れたのは歳をとった占い師。その人に対して兵頭は相談する。「最近、娘と会うのが気まずいんです。先日も久々に旅行に行きましたが、距離が縮まりません。これから私はどうしたら良いのでしょうか」と。すると占い師は、しっかりとしたアドバイスで道筋を示す。「あなたは今疲れています。娘さんはあなたのことを理解しています。だからあなたは言いたいことをしっかり言ってください。それを娘さんは嬉しく思います。なのであなたは自分に嘘をつかず、言いたいことを言うべきなのです」……。カタコトの日本語で示されたのは、今後の在り方だった。その言葉に兵頭派いたく感動し「これからは言いたいことを言う!俺が今言うべき言葉はこれや」と、リモートを切り、ドタドタと家族の待つ居間に走っていく。

「みんな、よお聞け!」と突然大声で喚く兵頭に、ポカンとする妻、あいねちゃん、りりあちゃんの3人。そして兵頭は「ワシはみんなに、ひとつだけ言いたいことがある!」と告げると、大きく一言。

「あのスイートルーム、17万!!!」

そして涙を堪えながら、兵頭は続ける。「あいね!お母さんといつまでも仲良くしてくれ。りりあ!つまらんかっても、今日のことを覚えとってくれたらええ。みんないろいろ変わっていくけど、ワシらは家族や。言いたいこと言って、これからも一緒に仲良う生きて行こうや!」と。

そんな兵頭を見て、妻は一言、はじめての「せやな」を返してくれたのだった。

【おしゃべり大好き。】『おばあとサイン会』 - YouTube

おわりに

この日兵頭が語ったのは、広く我々が彼について知っている『すべらない話』の延長線上の話だった。これについては彼が稀有なエピソードを呼び込んでしまう性質があることはもちろんだが、それを人前で話すことについては、確実に彼のトークスキルによるものだと強く感じた。上げて上げて、最後は少し落として、ドン!……出来るようで出来ない、会話の妙。それが彼を彼たらしめている理由なのだろう。

恒例となった写真撮影では、袖で見ていた藤田兄さんも含めて全員でパシャリ。これまで僕が観たライブと言えば音楽ばかりだったけれど、もしお笑いライブに足繁く通っていたとしても、この完成度のトークにはなかなかありつけないだろうなと思った。多分今回の話も、いつか『すべらない話』でも披露されることだろう。そのときを楽しみにしつつ、じっくり余韻に浸りたい。最高の時間でした。

【ライブレポート】『SUPER ROCK CITY HIROSHIMA - 2023DX』@広島市内ライブハウス9会場

こんばんは、キタガワです。

広島で行われる、年に2日間のサーキットイベント『SUPER ROCK CITY HIROSHIMA』の季節が今年もやってきた。今回はライブハウスを好きなように巡りつつ、新たな音楽と出会う契機となるこの貴重な日の2日目に参加。ベテランからニューカマーなど様々なバンドが揃う中でこの日は『ニューカマー側』にあえてフォーカスし、今後絶対に頭角を現すであろうバンドをたくさん観てきた。この中から来年以降、一気に跳ねるバンドが出てくるのかと思うと今からワクワクする!以下レポです。

 

Conton Candy VANQUISH 12:30〜

流川を進んでVANQUISHを目指し、まずは若きロックバンド・Conton Candyを選択。今年リリースした“ファジーネーブル”がバズを生み、一気に全国的に知られるようになった彼女たちのライブを観ようと、トップバッターにも関わらず満員の客入りである。

客電が落ちると紬衣(Vo.G)、楓華(B.Cho)、彩楓(Dr.Cho)の3名がステージ袖から登場。そのまま全員で円陣を組んで気合を入れると楓華が「東京から来ました、Conton Candyです!」と一言。そこからオープナーの“baby blue eyes”へ移行していく。爆音の中にも透き通って聴こえる楓華のボーカルが心地良く、まだ温まっていないフロアを少しずつ溶かしていく感覚がある。

Conton Candy - baby blue eyes [Official Video] - YouTube

この日のセットリストは『PURE』と最新の『Charm』による、これまでリリースしてきた2枚のEPから抜粋。またConton Candyは同会場におけるバンド全体で考えても「行けるかー!」と扇動して盛り上げたり、雰囲気で楽しませるというよりは、楽曲の持つ魅力のみで勝負するバンドだが、曲が流れた瞬間に口ずさめてしまう圧倒的なキャッチーさで、グングン牽引していく姿は素晴らしかった。

ハイライトは、中盤での“ロングスカートは靡いて”から“ファジーネーブル”への流れ。明確にロックへ変貌したサウンドで多くの腕を挙げさせてから、誰もが知る楽曲を畳み掛ける作りで、30分の持ち時間を完璧に使うのはやはりライブの経験値によるものだろうなと。そしてここで来たか!な“ファジーネーブル”は、一見激しい楽曲のようにも思えるが、ライブで聴くと「彼女たちの楽曲の中では割とミドルテンポなのだなあ」と感じられたのもひとつの発見。

Conton Candy - ファジーネーブル [Official Video] - YouTube

MCでは、初の広島ライブへの思いが爆発する瞬間が多々。楓華は「さっき楽屋に、広島のbokula.っていうバンドが来てくれて。広島に来てくれてありがとうって言いに、ライブハウスの楽屋回ってるんだって。その他にもいろいろ、広島の土地をみんなが大切にしてるんだなと思って。凄く大好きな場所になりました。スーパーでロックなライブをして帰ります!」と語り、自分たちをトッパーに選んでくれた、今回のイベントへの思いを伝えてくれた。

Conton Candy - 好きなものは手のひらの中 [Official Video] - YouTube

ラストナンバーは初期曲の“好きなものは手のひらの中”。次第に過ぎ去る時間と大切な思い出をリンクさせ、未来に繋げていく彼女たちらしいポップロックだ。ワクワクするサウンドが鳴らされる中、楓華が「歌える人は歌って!」とサビ部分をファンに託し、全員で大合唱する多幸感溢れる空間に。誰も置いていかず、それでいて音楽の塊で印象付ける最高のライブは素晴らしい終着を迎え、終演後には物販に大勢の列が出来ていた。まだフルアルバムをリリースしてはいないルーキー状態のConton Candyだが、今この時点で観ることが出来たのは、大いなる意味があるように感じた。

【Conton Candy@広島VANQUISH セットリスト】
baby blue eyes
プードル
ロングスカートは靡いて
ファジーネーブル
102号室
好きなものは手のひらの中

THE BOYS&GIRLS VANQUISH 13:35〜

続いては同会場でTHE BOYS&GIRLS。少し休もうと外のソファーで座っていると、突然多くの感性が。なんだなんだと思ってステージを覗くと、なんとファンのひとりがステージに上がって“ボーイ”を歌っている!こうしたサーキットではバンドが直接リハーサルを行うことも珍しくないが、この時点で惹き込むケースは稀有過ぎる……。以降も時間ギリギリまで「誰か一緒にやりたいやついない!?バンドやろうぜ!」と叫びまくるワタナベシンゴ(Vo.G)である。

まさかのリハによって既に熱狂に包まれたフロアが暗転すると、ワタナベとサポートメンバー3名が登場。いつも白Tシャツにマジックで文字を直書きするワタナベ、この日は『30分を永遠にして』と記されていて、その言葉の通り、ワタナベは演奏前にも関わらずマイクを掴んでノンストップで言葉を発し続けている。そうこうしているうちに1曲目の“陽炎”へと雪崩れ込み、そこからはどしゃめしゃ、ステージを所狭しと駆け回りながらの、汗だくのパフォーマンスである。

THE BOYS&GIRLS「陽炎」MUSIC VIDEO - YouTube

他のバンドはともかくとして、基本的にボイガルはセットリストを固定化しない。実際に僕がこれまでに観たライブでも代表曲を全て廃したもの、昨日はやったのに今日はやらなかったもの……と様々だったが、この日も途中でワタナベは「セットリスト変える」とメンバーに指示する形で、急遽の変更を行った。これは先述のリハの一幕、更にはマイクでひたすら叫び続ける様にも表れているように、彼自身が『ロックンロールは内から出てくる衝動によるもの』なのだと認識しているからに他ならない。そしてそれが他者に飛び火し、もっともっと火種が出来て加速する、それこそがライブなのだと。

THE BOYS&GIRLS「ボーイ」LIVE VIDEO - YouTube

会場全体の楽しさが一体化したのは、彼らのライブの中では最も演奏される機会の多いキラーチューン“パレードは続く”。先述の「セットリスト変える」発言はこの楽曲の前に発せられたものであり、もしかすると本編で披露することは本来なかったのかもしれない。ただ結果としてこの楽曲は、一瞬にして雰囲気を固めてくれた。……リハの段階でワタナベは若干のアウェー感も抱いていた可能性はあるが、特に示し合わせるでもなく、サビで一斉に上がる腕を見たワタナベは歌唱を放棄し「うわ!ザワザワってした今!やべえよ。みんな一斉にブワーって手挙げてさ!やべえ!」と大興奮。そこからは「歌ってくれ!」と完全にサビをファンに委ね、満面の笑みのワタナベであった。

THE BOYS&GIRLS「最初で最後のアデュー」LIVE VIDEO - YouTube

熱狂的なライブは“最初で最後のアデュー”でシメ。ワタナベは楽曲が鳴らされるなりフロアに降り、端の方で観ていた男性をロックオン。男性の肩に乗って肩車状態になると、そのままステージへ移動するカオス過ぎる展開に突入していく。ワタナベはその男性に「おっちゃん!そこにいてくれ!」と叫び、以降は前方へダイブして移動しまくり。ふとその男性の顔を見るとにこやかな笑顔になっており、「これが彼らのロックなんだなあ」としみじみ。『30分を永遠にして』。その言葉の通り永遠に消えてほしくない、心震える最高の時間だった。

【THE BOYS&GIRLS@広島VANQUISH セットリスト】
陽炎
ライク・ア・ローリング・ソング
階段に座って
パレードは続く
その羅針盤
ボーイ
最初で最後のアデュー

空白ごっこ VANQUISH 14:40〜

ボイガルの興奮冷めやらぬ中、次にチョイスしたのは空白ごっこ。“独りんぼエンヴィー”でも知られる電ポルPことkoyori、“STAGE OF SEKAI”を始めとした楽曲で注目されたHarryP)こと針原翼を中心とし、ボーカルにセツコ(Vo)を加えたニューカマーだ。ネクライトーキーの石風呂、おはようございますの鬱P……。他にもすりぃやヒトリエなど、元々ボカロPだった人物が生バンドを結成することは今や珍しくないが、その中でも異色なサウンドを持つ空白ごっこだからこそ、今の注目度の高さに繋がっているような気もする。

天 - YouTube

不穏な打ち込みサウンドが鼓膜を揺らす中、ベースも含めたリズム隊に少し遅れる形でセツコが登場。そこから鳴らされた1曲目は“天”、爆発的なサウンドから畳み掛けるロックチューンである。エレキギターが炸裂する中でセツコは何もない虚空を一点に見つめ、尋常ならざる声量で歌声を届けていく。キーが異常に高いこの楽曲を全くブレずに歌い上げる様には驚いたし、ゆっくりした足取りでステージ端まで移動して立ち止まったり、サビではスッと腕を挙げてレスポンスを任せたりと、フロントウーマンとしての強みもバッチリだ。

大前提として、空白ごっこは素顔を公開していない。バンドメンバーについても発起人でもあるkoyoriと針原翼が参加した……ということもなく、全く別のサポートメンバー3名が帯同した形だ。しかしながらライブでは照明に照らされ、完全に全メンバーの顔が分かるものに。やはり圧倒的なのはセツコの存在感で、あえて変な言い方をするなら宗教の教祖のような、はたまた今にも屋上から飛び降りてしまいそうなダークな雰囲気を纏っていて、それが我々ファンを沈黙させ、曲に没入させる力を宿していたように思う。事実、「フウー!」と声を上げる人も多かったこの日この場所で、最もファンが静かだったのは間違いなく空白ごっこだった。

空白ごっこ - なつ(Music Video) - YouTube

「観るのは好きですが、私はサーキットイベントに出演するのは苦手です。歌っている途中に人が出ていってしまうと『ちゃんと楽しんでもらえたかな』と不安で、緊張してしまうので。……私は緊張するとふざけてしまうタイプで、無駄に煽ったりとか、普段はしないことをしてしまうんです。でも、今日はふざけることはしません。私はここに立って全力で歌います。だから皆さんも、私から目を離さないでください」。セツコは最初のMCで、赤裸々にこう語ってくれた。直後、ファンからは複数の拍手が巻き起こったが、セツコが飲んでいたミネラルウォーターのペットボトルを袖に放り投げ、グシャッという音を響かせた瞬間に停止。この緊張感は、一体なんだろう。

空白ごっこ - 運命開花(Music Video) - YouTube

《この先くりんくりんくしたい》で指をクルクル回した“リルビィ”、訴え掛けるような熱唱が爆発した“なつ”と続き、ラストナンバーは代表曲たる“運命開花”。大勢の手が挙がるその先で、セツコは感情の全てを放つような歌唱で魅せていて、これまで全く見せなかった声がブレる場面も含め、自身のネガティブな感情で歌を引っ張っていくような感覚があった。楽曲が終わって拍手に包まれる会場で、持っていたマイクをテーブルに置こうとしたセツコ。しかし転がってなかなか定位置に戻らないそれを、彼女は上から叩き付ける形で強制的に留めた。その際に鳴った『ゴツッ』という音が、今でも頭から離れない。

この日、セツコが笑顔を見せた時間は5秒もなかった。鬼気迫る歌唱で訴え掛けたかと思えば、次の瞬間には電池が切れたように直立不動で佇んでいた彼女が歌に込めていたのは怒りだったのか、はたまた悲しみだったのか……。その真実は闇の中だが、漠然とした「何かとてつもないものを観た」という衝撃は、我々の心に明確に与えてくれたように思う。

【空白ごっこ@広島VANQUISH セットリスト】


乱(新曲)
リルビィ
なつ
運命開花

TETORA クラブクアトロ 15:50〜

この日、待ち時間にとにかく多く耳にしたバンド名は『TETORA』だった。リストバンド交換時に「お目当てのバンドは?」と聞かれてそう答えた人、転換中に「今日は◯◯と◯◯と、あとTETORAは絶対観たい!」と選択肢に上げた人。更には「TETORAは入場規制になるから早めに行こう」といった声も聞こえてきたりもして、前評判の高さをはっきりと示す形になっていたのだ。個人的にも行きたかったワンマンツアーが全公演即ソールドした経験もあり、念願叶ってのライブだ。

会場である広島クラブクアトロは、広島市内でも最もキャパの大きいライブハウス。にも関わらずパンパン過ぎてほぼ入れず……。何とか2階で観ることが出来たが、ここまでとは思わなかった。上野羽有音(Vo.G)、いのり(B)、ミユキ(Dr)がステージに足を踏み入れた瞬間から前にギュウっと詰める絵からも、TETORAの期待値の高さを伺わせる形に。それはオープナーの“Loser for the future”からも感じられるもので、TETORAの楽曲の中ではミドルテンポなこの楽曲で、フロアは既に押し合い状態。彼女たちによる愚直なロックこそ至高であり、最強なのだということを早くも証明していた。

TETORA - Loser for the future - Music Video - YouTube

TETORAのセットリストはそれが全国ツアーであっても、会場ごとに大幅に変更されることでも知られる。この日は『教室の一角より』と『こんな時にかぎって満月か』の2枚のアルバムから中心に選ばれたセトリで、特にファン人気の高い楽曲を多く披露していた印象。全バンドに平等に与えられた持ち時間30分をなるべく演奏に使う姿勢も素晴らしく、なんと総曲数にして8曲をやり切ったTETORAである。時にはいのりと立ち位置を真逆にしたり、膝からのスライディングでギターを弾き倒す上野のアクションも、ロック大好き!を体現しているようで最高だ。

TETORA - 今日くらいは Official Live Music Video- - YouTube

「一人ぼっちでもええ。音楽だけは味方や」……。上野が曲間の短い時間に、そう語っていたのが印象に残っている。每日学校に通い、仕事に忙殺され。そんな中で音楽好きにとっての救いとなっているのは、間違いなくライブだ。ライブでしか感じられない何かを求めてTETORAを観に来たファンも、そして彼女たち自身もそうだろう。他にも彼女は「大阪の心斎橋BRONZEからやってきたTETORAです」と地元のライブハウスを紹介したり、今回のサーキットの関係者の思いも代弁してくれていたけれど、それはライブハウスへの強い気持ちがあるからこそ。

TETORA - レイリー - Official Music Video - YouTube

ラストは代表曲の“レイリー”でシメ。上げて上げてそのまま終わるバンドがこの日多かった印象だが、幾度も続いてきたファストチューンの波を、ミドルテンポな楽曲で穏やかにしつつ終わるという一風変わった流れをこの日のTETORAが選択したのは、彼女たちなりの「まだライブは続くから無理しないように」との思いが込められていたのではないか……。そう感じてしまうほどに、グサリと心に刺さりながらも、他者への感謝を欠かさない姿勢がグッと出たステージングだった。最後に「今谷さんありがとう!」と今サーキットイベントの主催者である今谷修司へ思いを伝え、颯爽と去っていった3人。最高でした。

【TETORA@広島クラブクアトロ セットリスト】
Loser for the future
バカ
嘘ばっかり
言葉のレントゲン
素直
ずるい人
今日くらいは
レイリー


yutori  VANQUISH 15:45〜

パラパラと降る雨を退けながらクアトロから急いでVANQUISHにカムバックし、続いては若き新星・yutoriのライブを観ることに。yutoriは元々音源についてはチェックしていたものの、至る所でとにかく「ライブが凄すぎる!」という前評判を聞いていて。個人的にもリアルサウンド社に寄稿した記事で彼らについて書いたことはあったが、ライブ経験はなし。故に「どんなライブなのかな?」と期待する気持ちで鑑賞したのだけれど、ライブを観てぶったまげてしまった。今はまだニューカマーにしろ、一気に飛躍して背中が見えなくなるのも近いな、と思うくらいには。

yutori「センチメンタル」 lyricvideo - YouTube

定刻になり、袖から佐藤古都子(Vo.G)、内田郁也(G.Cho)、豊田 太一(B)、浦山蓮(Dr.Cho)が登場。1曲目は“センチメンタル”で、ギターを中心とした荒々しい世界に誘っていく。ともすれば激しいサウンドで埋もれそうなものだが、そんな中でも佐藤の中性的な歌声はしっかりと届いていたのが素晴らしく、観客によるメロ間の「ワンツー!」の掛け声もピッタリハマり、メンバーも嬉しそう。……と同時に、この場にいる観客の多くがこれまでyutoriの音楽に心掴まれたファンである事実が、期せずして証明された形だ。 

この日のセットリストは全7曲中、“君と癖”以外の楽曲をミニアルバム『夜間逃避行』から抽出。最近まで行われていたアルバムツアーを踏襲するように、最新の楽曲を惜しみなく投下していた。深夜帯の未遂の経験をリアルに描写した“安眠剤”ではまるで泣いているように声を震わせたり、前髪で隠れた表情の下で絶唱し、どこか精神的不安定ささえ抱いてしまう佐藤の姿も、そのメッセージ性に拍車をかける。

yutori「ワンルーム」 Official Music Video - YouTube

ハイライトは、すっかりライブアンセムとなった“ワンルームの一幕”。演奏開始時から佐藤はギターを前傾姿勢で弾き、フラつく足取りになった時点で不穏な感覚はあったが、1〜2曲目では見られなかった目をひん剥いて歌う場面が増えたことで、次第に会場全体が佐藤の雰囲気に呑まれていくのが分かる。そして熱狂を繰り返した果てに佐藤がステージに倒れながらも演奏を続けるシーンを観て、(他者と比較するのは良くないと思いつつ)平手友梨奈や秋山黄色、後藤まりこといった『感情が自分を支配していくアーティスト』の儚さをも感じた次第だ。

yutori「煙より」Official Music Video - YouTube

「あなたには今にもここから飛び出したいくらい、大好きな人はいますか?その人を思い浮かべながら聴いてください」との一言からの“会いたくなって、飛んだバイト”、力強い歌声で魅了した“君と癖”と続き、ラストナンバーはアルバムの最終曲でもある“煙より”。ふと後ろを観ると開始時よりも遥かに多いファンが敷き詰めていて、多くの手が挙がっていた。一度音楽を聴いたが最後、離れられない程の魅力があるのだなあと実感すると共に、最もストレートな歌の届きを見るようでもあった。

【yutori@広島VANQUISH セットリスト】
センチメンタル
安眠剤
ワンルーム
ヒメイドディストーション
会いたくなって、飛んだバイト
君と癖
煙より

MOSHIMO VANQUISH 17:55〜

最後に選んだのはMOSHIMO。かねてより精力的な活動を続けてきたライブバンドであり、今回はニューアルバム『CRAZY ABOUT YOU』のリリース&全国ツアーも控えた抜群のタイミングでの出演だ。同時刻には新進気鋭のバンドが多く出演していた中で、オープナーの”電光石火ジェラシー“が始まる頃にはライブハウスの外から猛ダッシュする人も大勢。MOSHIMOはここ広島でも多くライブをしている印象だけれど、彼女たちのライブが確かに心を掴んでいて今に至っている、というのを実感した次第だ。

MOSHIMO「電光石火ジェラシー」MOSHIFES.2022 ライブ映像 - YouTube

……というわけで1曲目。岩淵紗貴(Vo.G)、一瀬貴之(G)、高島一航(Dr)、サポートメンバーで空想委員会のバンドでも活動する岡田典之(Dr)が登場すると、《アウト?セーフ?よよいのよいよい》のボイスSEがどこからか流れ始める。岩淵は何度も振り付けをレクチャーし、実質的なハンドマイク状態でフロアに火を焚べていく。そうして全員がある程度理解した状態でのサビの連続は、あまりにもキャッチー!初っ端からフルスロットルで駆け抜けていく様は、やはりMOSHIMOでしか得られない興奮があるなと改めて感じた。

後のMCで岩淵が「今のMOSHIMOは原点回帰をテーマにしている」と語っていた通り、何とこの日のセットリストはニューアルバム、更にはコロナ禍にリリースされた楽曲も全てカット。3年以上前からこれまでにかけて、ライブでブラッシュアップしてきた代表曲のみを投下するものに。必然30分の持ち時間は言わば『全部がハイライト』とも言うべき盛り上がりを記録し、初見の人にも強みを見せ付ける作りに。

MOSHIMO「バンドマン」 Lyric Video - YouTube

一方で楽曲は5曲と短めだったが、その理由のひとつはトーク。これもMOSHIMOらしい爆笑展開が炸裂していたのが最高で、まずは場所が広島であることから、一瀬による「岩淵は最近まで広島出身の人と付き合っていた」という暴露で幕開け。ただ暴露された側である岩淵は「お前マジで……」と笑いながらも、「すいません、実は広島プライベートで何回も来てました」と更なる笑いへと繋げていくのも流石である。他にもレーベルメイトである超能力戦士ドリアンに「広島駅まで乗せていってほしい」とパシリ的に扱われたことなどをトークテーマに、どんどん笑いを高めていく様は『ライブ慣れ』を地で行くようでもあった。

MOSHIMO「命短し恋せよ乙女」MV - YouTube

一度聴いただけで歌いたくなるキャッチーロック“バンドマン”を経て、最後に披露されたのは待ってました!な“命短し恋せよ乙女”。代表曲を聴けるのはライブあるあるだと分かっていても、この曲のリフで思わず「おお!」となってしまうのは今も昔も変わらない。ファンの中にはMVの振り付けをマネして踊る人もおり、ライブのラストを飾るには最強の楽曲だなあと理解。終演後は「30分は短いからもっと聴きたい!」と心底思ってしまったのだが、これも「ツアーでまた広島に来ます!」という岩淵の宣言により購買意欲がそそられる、という幸福な流れも含めて、100点中100点の時間だった。今のMOSHIMOは、強いぞ。

【MOSHIMO@広島VANQUISH セットリスト】
電光石火ジェラシー
釣った魚にエサやれ
誓いのキス、タバコの匂い
バンドマン
命短し恋せよ乙女


この日、参加者は総じて様々なバンドを観ることが出来たはずだ。……チケット代にして約5000円。にも関わらずフェスでも単独でもソールドアウト必至の若手筆頭株を多く目撃出来たのは、やはりサーキットイベントの強みであろうと思う。終電の関係で早めに切り上げた自分でさえ6バンドを鑑賞したのだから、人によっては本当にチケット代以上の、貴重な経験になったことだろう。

ただTETORAが語っていたように、基本的にはサーキットイベントは大阪や東京といった都市部がほとんど。ゆえに今回のイベント成功にはALMIGHTYと尾道BxBの店長である今谷さん含め、多くの広島バンドの功績が下支えになっているということは、絶対に理解しなければならない。今回の記事では詳しくは書かなかったが、マタノシタシティーや南風とクジラなど、様々な広島バンドのライブも合間に観に行ったが、本当に素晴らしかった。それらのバンドが1日中、それもたくさん出演しているこの広島の現状を、大切にしていく必要があるとも思った。音楽との新たな出会いとなった今回のイベントが、まだまだずっと続きますようにと願いを込めて。

【記事寄稿のお知らせ】くるりドキュメンタリー映画『くるりのえいが』

uzurea.net様&映画会社様からご依頼いただき、『くるりのえいが』のレビュー記事を寄稿しました。

くるりは個人的ないちファンとしても、記事関係でもお世話になっているバンドで。uzureaさんではイヤホンレビューをする際、音数の多さを示すために必ずくるりの“ソングライン”という曲を使っていますし、ロッキンさんでは『サカナクション×くるり』の“ばらの花”マッシュアップについて寄稿したこともあって。今回は全く新しい映画関係のくるり記事ということで、ありがたかったですね。

この映画は、先日発売されたニューアルバム『感覚は道標』のレコーディングの様子を追った作品で。間違いなくこの作品は最高傑作!の1枚なのですが、それ以外の部分では、オリジナルメンバーの森さんと3人で作った意味合いも非常に大きいです。彼が脱退したのが10数年前なのかな。そこからまた3人でアルバムを作る未来は誰も予想できなかったですし……。

そしてこのアルバムと聴く上で観ておきたいのが、この映画で。歌詞もできていない鼻歌の状態で少しずつ作られていく点はドキュメンタリーとして秀逸ですし、くるりファンどうこうという以外にも、「こうやって音楽って作られてるんだ!」という発見もあり。様々な人に観てもらいたい映画になっています。こちら間もなく全国公開です。ぜひ。

『くるりのえいが』試写レビュー 森信行を加えた3人で創る『感覚は道標』制作ドキュメンタリー 場面写真、PVと共に。2023年10月13日公開作品 - uzurea.net

I LOVE ME

その日は通常通り働いていて、いつものようにアルコールを買って帰路に着いた。帰宅すると直ぐ様プルタブを開けて、酒を胃に流し込む。それから半酩酊状態でゲームやら音楽やらを楽しんで、寝る体制に入り、ようやく気付いた。「そういえば今日は誕生日だったんだなあ」と。……そしてこの「誕生日が来ました」という話題自体も、今から数ヶ月も前の話。これまではツイッターで報告をしていたけれど、それも億劫になり、今年はそれ関係を呟く気さえも起きなかった。

人は歳を取るにつれ、感情が希薄になるとされる。あの頃楽しかったことは楽しいとも思えなくなり、現状を打破しようともがいていた青い炎は、いつしかか細い達観の火へと変わっていく。「これが歳を取ることなんだ」と一蹴するのは容易だが、反面、正体不明の悲しい気持ちにも襲われることも多くなってきた。

学生時代も今も、コンプレックスとしてあるのは『人間関係の不出来』である。イジメだったり肉体的な病気だったりと理由はあったが、とにかく。人生における最も多感な時期に、自分は人と極力距離を置き、それどころか人前で口を開くことさえほぼない生活を送った。そしてその弊害からか、今でも『他者を経由せざるを得ない行動』の大半が苦手である。人と一緒にどこかに行く。フォロワーにリプライを送る。ライン。オンラインゲーム。スポーツ……。歳を重ねた今でこそ娯楽は増えたが、それも基本的には他者を必要とする。なもんで「そんなことをするなら一人で過ごすよ」というスタンスで生きることは、おそらく一生変わらないだろう。どんな幸福より、なるべく一人でいる。それこそが自分にとっては最もダメージを負わずに済む処世術なのだ。

ただ社会に出て痛感したのは、自分が自傷的に持ち続けているそうした個人主義よりも、他者を介在させるアクションをする方が圧倒的に是とされることだった。中でも大人になった今よく言われるのは、「男なのに風俗行ったことないの?」「合コンとか行けば良いじゃん」といった女性を交えての娯楽の勧めだ。これももし自分が女性からの地獄のようなイジメを受けずに学生時代を過ごしていたら、逆側の立場だったのかなと思う。ただ他人からすれば「その歳で◯◯したことないってどうなの?」的な奇異の目で見られてしまうのは、難しいところである。

確かに、様々なことを経験してきた人は端から見ても格好良い。まるで経験値がオーラに出ているようだ。そして大人になればなるほど、そうした経験値を見せ付けるような立ち居振る舞いが、自身の評価にも繋がる感覚は否めないのだ。なもんで、職場では何に対してもポジティブに返すことで乗り切っている。でも帰宅後はまるで遅効性の毒のように、精神を侵されていく感覚にも陥るのが正直な気持ちだ。

「そういえば今日誕生日でした!」。あの時、なぜ自分はそう言えなかったのだろう。対人経験値の不足か、はたまたプライドによるものなのか……。たらればの話を考えても仕方ないが、ひとつ分かることがあるとすれば、もし言っていたとして、その一言で夜な夜な悩んでいただろうということだ。

Mr.ふぉるて - I Love me 【Music Video】 - YouTube