キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

アーティストの人形や着ぐるみを使ったMV5選

こんばんは、キタガワです。


愛らしい笑顔で子供を中心に心を掌握する、人形や着ぐるみを主としたキャラクターたち。現在ではデパートイベント等での演出として使われるのは元より、ゆるキャラとして地上波に進出したり、子供向け番組では人形を何体も主人公と化した作品が多数作られるなど、その活動の舞台は実に多い。同様にアーティストのMVにおいても一瞬でシーンのハイライトを担うことの出来るその存在は重宝されていて、今でも邦洋問わず様々なMVで観ることが出来るが、今回はそんな人形・着ぐるみが出現するMVを5本ピックアップ。その魅力に迫ると共に、それらの起用が全体の雰囲気にどのような影響を及ぼしているのかについても注目しながら、是非新たな音楽へと出会う契機としてもらいたい。

 

 

Dumb Ways to Die/Tangerine Kitty

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2012年、メトロ・トレインズ・メルボルンが開設した鉄道安全キャンペーンサイトを通じて突如一大ブームを気付いた“Dumb Ways to Die”と題された謎の楽曲。その人気は様々なメディアに影響を与え、登場人物を題材としたゲームアプリが諸々合わせて2億回以上のDL数を記録している他、2013年のカンヌ国際広告祭では金賞18個、銀賞3個、銅賞2個の計28部門という最多の受賞を達成。名実共に海外が誇るバケモノコンテンツとなった。


その内容はと言えば“Dumb Ways to Die(おバカな死に方)”とのタイトルの通り、前半は身近に潜む死亡事故を、後半は鉄道での人身事故に繋がる様々な事柄をコミカルに表したメッセージソングである。トースターにフォークを刺して感電、2週間常温保存されたパイを食す、電気工事を自分で行うといった無知がきっかけで起こり得るものから、絶対に日常では起こらないものまで様々あるが、それらが印象的なサビのフレーズとメロディ、そして何より動画との相乗効果でもって口コミで波及し、ひとつの結果としてメトロ・トレインズ・メルボルンでの死亡事故が前年比で21%減少するというよもやのデータを叩き出すに至ったのだというのだから、ネットの力もあなどれない。


なおゲームにおいては最新アップデートにより、アイスバケツチャレンジなど『今風』な要素も増やしている他、昨今では『おバカな死に方』と同様に『おバカが社会的に死ぬ』……つまりは所謂バカッターのような過激な動画を自らが撮影して炎上し、今後の人生に大きな影響を与えてしまうことも揶揄しているのでは?との議論も交わされることとなり、“Dumb Ways to Die”は現在有名YouTuberが取り上げたり、キーホルダーなどのグッズ制作も順調と、何度目かのブームが訪れている。

 

Dumb Ways to Die - YouTube

 

 

シャングリラ/Wienners

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シーンをにわかに賑わせる4人組ロックバンド・Wienners。その数あるMVの中でも特殊との呼び声高く、また現在でもセットリストに組み込まれることの多いアンセムと化しているのが、以下の“シャングリラ”だ。この頃のWiennersと言えば、1曲がとてつもなく短い爆速アルバム『CULT POP JAPAN』が好評価を受けており、けれどもその直後に放たれた『W』は確かにスピード感のある楽曲もあるが、全体として前作よりは明らかにBPMは遅くなっていた。そんな『W』のリード曲として配置された“シャングリラ”は(特にiTunesで無料配信されていたあたりから)当然の如く暴れ狂いたいライブキッズたちからは少しばかり反対の声もあり、そのユーモラスな人形たちが歩くだけという今までのWiennersの無骨なイメージとかけ離れたMVも相まって、Wiennersが大きく変わってしまったという印象を持つものもいた。


しかしながらその後のWiennersはどちらかと言えば『W』に近い作風を持つ楽曲を多くリリースするようになり、また“シャングリラ”がほぼ毎回セットリストに入る反面『CULT POP JAPAN』からは年々楽曲が外されつつあることから考えても、“シャングリラ”は彼らが最も鳴らしたい音楽をこのタイミングだからこそリリースしたいとする思いの表れだったのだろう。ともあれ今や彼らにしか鳴らせない新境地を突き進む彼らの現在進行形には、明らかにかつての足跡あってのことなのは間違いない。

 

Wienners「シャングリラ」Music Video - YouTube

 

 

 

憂&哀/ヒステリックパニック

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『アーティストの人形や着ぐるみを使ったMV5選』。ここまでは主にMV内に人形的キャラクターを用いた楽曲を続けて紹介してきたが、ここからは一風変わった試みとして着ぐるみを用いたMVに焦点を当てて記述していきたい。まずは名古屋で結成されたラウドロックバンド・ヒステリックパニックがその存在を広く知らしめる契機となった楽曲“憂&哀”。このMV構成は極めてグロに特化したものになっていて、冒頭こそ可愛らしい視線でこちらを見詰めるバニーが最終的にはピエロと刺し刺されの一部始終を繰り広げ、血まみれのバニーがこちらを見詰めて終幕する異様ぶり。


総じておよそ年齢制限ギリギリの作りだが、今作がここまでグロを主軸に置いている理由は、楽曲の作詞の大半を担当するとも(Vo)が所謂スプラッター映画を嗜好品としていることが大きな理由として垂直に立っている。なお上記の事柄以外にも楽曲タイトルの“憂&哀”はバンドアニメ『けいおん!』の最終話で披露された“You & I”から来ているし、おそらく一聴した多くの人がイメージするようにルーツとして彼らはマキシマム ザ ホルモンを挙げており、この1曲のみを鑑みても他方向から彼らの特色を知ることが可能。ただその中でもヒスパニならではのオリジナリティーも溢れており、とものグロウルとTack郎(Vo.Gt)のハイトーンボイスや、とものブログを熟読すると分かるように彼自身の心中をこの楽曲に深く落とし込んでいることが分かる。

 

ヒステリックパニック - 「 憂&哀 」( Official Music Video ) - YouTube

 

 

セーラー服を脱がないで/アーバンギャルド

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電子ロックバンドの突然変異・アーバンギャルドの記念すべきファーストアルバム『少女は二度死ぬ』に収録されたリード曲。今でこそポップ集団のイメージが強いアーバンギャルドだが、極めてネガティブな事象を優先的に楽曲に取り入れていて、バンドの中心人物であり、かつては子供向け番組『Let's 天才テレビくん』のレギュラーも務めていた松永天馬(Vo)が「タランティーノの映画は(腕や足がポーンと吹き飛ぶシーンが)面白い」という旨の発言をインタビューで語っていたように、特に活動初期の楽曲には血をモチーフとしたものが多く、以下の“セーラー服を脱がないで”でも同様にセーラー服に身を包んだ浜崎容子(Vo)が謎のキャラクターに切り刻まれ、血みどろになる様子が映し出されているが、そのキャラクターというのもどこからどう見てもキューピーであり(許可を取ったのかは不明)、得体の知れない恐怖が襲い掛かるインパクト抜群の楽曲となっている。


先述の通り、松永と言えば子供の間では完全に「進行の上手いオッチャン」であり、また他のドラマ等で俳優として活動する彼の姿を見たことがある人も多いだろうが、それらの活動よりも早くから行っていたのはまさしくアーバンギャルドである。いろいろな意味でトラウマを植え付けるこの楽曲を目にしてしまえば、その瞬間もう元のイメージには戻れないこと請け合い。なお以下のMVのみ突出してグロテスクな内容であるため、幾分マイルドなライブ映像も添付。お好きな方を是非。

 

アーバンギャルド セーラー服を脱がないで - YouTube

〔LIVE〕セーラー服を脱がないで/アーバンギャルド@赤坂BLITZ - YouTube

 

 

どんなふうに/むぎ(猫)

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ラストを締め括るのは『その存在自体が着ぐるみ』という謎のシンガーソングライター・むぎ(猫)(読み:むぎかっこねこ)だ。一見アンダーグラウンドな雰囲気すら纏うむぎ(猫)だが、その正体はカイヌシ(ゆうさくちゃん)と共にカイヌシの地元である沖縄へ移り住み、2019年の1月に病気のため永眠。カイヌシがシンガーソングライターのジョン(犬)からむぎを蘇らせるヒントをもらって新しい体を作り、5年間の天国暮らしの後、2014年3月に再びこの世に舞い戻った「天国帰りのネコ」(Wikipediaより)。としており、未だその『中身』については一切公表されていない。


故にライブにおいても着ぐるみを脱ぐことはせず、むぎ(猫)としてのパフォーマンスに徹しているのも特徴で、オケを流しつつ自身はパーカッション等を操り(ギターは身体的な理由から演奏出来ないという)、口元にセッティングされたマイクで歌唱するスタイルを取っていて、加えて現在ではYouTubeを中心にショート動画を上げたり、出身地である沖縄で販売されている様々な食品についてツイッターでPRしたりと、音楽以外の手法でも認知へと繋げる活動も行っている。ただ彼が何故こうした稀有な風貌でありながらメジャーデビューも果たす存在となったのか、その理由はやはり音楽の持つ求心制の高さゆえ。事実楽曲自体に目を向けてみると、老若男女にズッパシ嵌まりそうなキャッチーさを携えていて、敢えて(?)ゆるキャラ風の姿で活動する形にしたのは理にかなっているとも思うのだ。

 

むぎ(猫)『どんなふうに』 - YouTube

 

 

サブスクの発達とYouTubeが完全に浸透したことで、今やアイドルを除いて、アーティストにとって最も重要なものは『音楽』に、その時点で『MV』となった。特に昨年辺りからは取り分けヨルシカやずとまよ、Ado、ひらめ、和ぬかなど素顔を公開しないアーティストが台頭するようになったがそれもそのはずで、それはつまり『顔を明らかにしなくとも音楽の良さがあれば認知される時代に突入した』ことの表れで、これについてはやはりどうしても今まで『大手メジャーレーベルに属しているかどうか』、はたまた『ドラマや映画などのタイアップがあるか』が売れるまでのスタートラインに位置していた点を鑑みると、とても素晴らしいことだと思う。そんな中、どうしても避けられないものがやはり素顔……とまでは行かなくとも何らかの本人性であることも同じく強く感じるもので、それこそ先述のアーティストたちは皆一様にSNSであったり実況動画であったり、本人にしか成し得ない魅力を素顔非公開のまま行うことで、端的に表すならば『素顔を公開しているっぽい雰囲気』を上手く魅せている。


今回テーマに冠した『アーティストの人形や着ぐるみを使ったMV』についても似通った部分があるとも思っていて、特に“Dumb Ways to Die”やむぎ(猫)のMVを観れば素顔を見せずともどこか親近感のある作りになっていることが分かる。そしてその理由を紐解いていけば、おそらくは人形なり着ぐるみなりの仮の姿を大々的に見せていることも大きいのではないか。無論全てがそうした意味合いではないにしろ、試行錯誤の末に特異なMVに行き着いた先には何かしらの考えあってのこと。今回紹介したMVが読者貴君に重要な知識を与えるものであるとは到底思わないが、それでも。どこか一ヶ所でも引っ掛かるものがあって、あわよくばそれらのアーティストの深くまで掘り下げる契機となってくれれば嬉しい限りである。

このコロナ禍に、敢えてバンドマンが地方をツアーで回ることについて

こんばんは、キタガワです。

 

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本日、東京都の新型コロナウイルス感染者が3000人を超えた。おそらくは超える、でも出来る限り超えて欲しくないと考えていた2000人の大台を軽々超えてこの数字。どうも現状を見るにそのスピードは我々が思ったよりも圧倒的で、果たしてオリンピックが終わる頃にはどうなることやら。


ただ、問題は我々の日常生活の困窮のみには決して留まらない。このニュース速報を見て脳裏を過ったのは、未だ苦境に立たされるライブシーンについてだった。まずもってこのままのペースで行けば夏フェスシーズンに到来するであろう感染急拡大は避けられず中止、若しくは延期を余儀なくされるフェスも特に東京・千葉・神奈川・大阪辺りの発展地域では一定数存在するだろうし、著名なアーティストの単独ライブにも暗雲が立ち込めること必至だ。……昨年の夏に我々はツアーもフェスもない辛い時期を過ごした。故に「来年こそはいろんなライブに行くぞ!」と意気込んでいたライブキッズも多いことと推察するが、結果またも2年連続で夏的な音楽行事は絶たれることとなる。


無論、我々のみならず公演を行うバンドマンにとっても現状の感染爆発は死活問題だ。かつてメジャーデビューに加えアニメ主題歌をいくつも制作し、かつ何千万回もの再生数を誇るバンドのメンバーが金銭的な理由で脱退したことを記した記事を作成したこともあるし、最近では3月に投下された打首獄門同好会による「実はキャパシティの半分という文言は着席状態でのことで、実際オールスタンディングだと大体全盛期のキャパの20%~30%」「そしてチケットの売れ行きも同じく20%~30%」(意訳なので詳しくは以下のツイートを参照)との事実も加えると、やはり今の状況はとてつもなく悪い。まずもって黒字に至る何かを成し得ているのは特典付きのCDの売れ行きがよくTV出演も多数の某男性・女性アイドルグループと、またオンラインライブも好感触で、かつCD売り上げがオリコンチャート入り間違いなしのアーティストに限っての話だろう。

 

 
前置きが長くなってしまったが、とにかく。つまるところ非常に高いレベルの地位と人気を獲得しているアーティストのみが黒字になり、その他大勢のアーティストが赤字を被っているというのが現実。敢えて身も蓋もない言い方をしてしまうならば、国民100名に「今売れていると思うアーティストは誰ですか?」と問うても名前が挙げられない、けれども素晴らしい音楽を鳴らすアーティストたちは十中八九、どうにかこうにか堪え忍ぼうともがきながらこの苦しいコロナ禍を生き抜いているのだ。


そこで否が応にも考えてしまうのが、今も全国各地で行われているライブツアーについてだ。コロナとの接し方が明確になった今でこそ、1mとは言わないまでもある程度の距離を保ち着席形態で行われるライブについては現在キャパ100%で展開するホールもあるにはあるが、未だスタンディングで行われるロックバンドのライブシーンは辛い局面から逃れられないでいて、実際僕自身も約1年半ぶりに2箇所のライブハウスに赴いたところ、片方は本来のキャパシティ300に対して58席でもう片方は250に対して32席(しかもソールドアウト)。加えて個人的にはチケット代も応援の意味も込めて8000円でも1万円でもどんどん取ってくれという感覚なのだけれど、それらのライブはどれも2500円~5000円で推移していて、バンドで何等分がするにしてもかなり厳しい。


ここで単純計算ではあるが、少しライブの売り上げについて考えてみる。先述の例で例えればキャパ合計32席、チケット代2500円としても合計8万円程度にしかならず、それらを1バンド大体4人としても対バンイベントなので更に4つ割ることになる。故に簡単に考えれば80000÷4(バンド人数)÷4(バンド)で、一人頭収入は約5000円。もちろんそこには物販で販売されるグッズ代や各種サポート代金も入ってくるので必ずしもこの計算式が成り立つわけではないが、それでも安い。しかもツアーであれば東京から何時間も機材車に揺られながら何日も潰してようやく到着するものなので、それらの過程も踏まえれば圧倒的に割に合わない。こんなことを書くのは申し訳ないのだけれど、もしもあなたが「丸々何日もかけて、対して金にもならない、動員もあまり見込めない場所に行くの?」と問われれば、はっきり「YES!」と言えるだろうか。というより、コロナ禍でいろいろな意味で困窮していることも鑑みると、今では更にそうした行動を避ける方がある意味では正しい答えのように思える。


では何故、アーティストはメリットよりも明らかに大きいデメリットを背負いながらも、東京から遠く離れた場所までライブをしに向かうのだろう。その理由はまさしく『遠くから応援する我々に直接音楽を届けるため』、というのが最も大きいはずだ。だからこそ、もしもアーティストが自分の暮らしている県近郊にライブをしに来てくれるなら、少しでも興味があればライブに行くべきだと僕は強く思っている。それがアルバムのリリースツアーで、そのアルバムが自分の気になるアルバムであれば尚更。


ただ実際問題、チケットの売上が見込めなかったりキャパシティが小さかったりと、敢えてツアーで地方を外す方針がこのコロナ禍で格段に増えているのも間違いなく、このままだと都市部に暮らしていない人間が大半のライブを経験出来ない未来も大いにあり得る。……今までは「お金がないから」「予定が合わないから」と行けるライブも行かなかったりする人も多かったろうが、このコロナ禍を経て、これからは我々ひとりひとりの行動が物を言う時代に本格的に突入していく。様々な規制が続く2021年。けれども音楽に危険性はひとつもないのだ。今後とも好きなアーティストはCDを買ったり行動をチェックしたりと常に目を向けつつ、近くにライブをしに来てくれれば赴く。そうした行動が本当に重要になる時期は、既に訪れている。

 

バックドロップシンデレラ『2020年はロックを聴かない』 - YouTube

【ライブレポート】セックスマシーン!!・ガガガSP・ロマンス&バカンス・Su凸ko D凹koi『LIVE TO WEST -NEO SUMMER 2021-』@松江Aztic Canova

こんばんは、キタガワです。

 

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元々地理的にアクセスが悪い関係からか、アーティストのツアースケジュールから外されることが多かった島根県だが、コロナ禍を経て更にそれは顕著になった。故に求めるライブに行くには最低でも広島なり岡山なりへの遠征が必要になるのだけれど、そこに近県の緊急事態宣言やら感染者数の増加やらが加わりライブ遠征自体がかなり周囲からの風当たりが悪くなってしまった結果、今や島根県はこと『ロックバンド』のカテゴリーで考えると訪れるアーティストは非常に少なくなってしまった。故に、緑と湖に囲まれた土地に生きる隠れたライブキッズたちは今まで以上に切実に願うのだ。……あわよくば、そう。鬱屈した心を爆音で吹き飛ばしてくれるような、泥臭いロックを鳴らす奴らが島根県に来てくれはしないか、と。


そんな淡い思いはこの日、最高の形となって実現した。ガガガSP、セックスマシーン!!、ロマンス&バカンス、Su凸ko D凹koiという4バンドが日本の西側へと進行する『LIVE TO WEST -NEO SUMMER 2021-』、その最終日に選ばれたのはよもやのここ島根県松江市、宍道湖が眼前に広がる市内屈指のライブハウス・松江Aztic Canovaだ。そして「東京から遠く離れた島根県をよくぞツアーファイナルに選んでくれた!」との感謝の気持ちを表すように、チケットは前売りの早い段階からソールドアウト(なお今回のツアーでは唯一の完売御礼)。本来約250人のキャパシティをコロナ対策で大きく削減させたスタンディング・計32席に、早くから一般発売を制した年齢も風貌も千差万別なロックファンが最高の興奮を浴びに訪れた。

 

 

・セックスマシーン!!

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開演は一般的なライブ開始時刻と比べて少し早めの17時。今回のメンバーの中では島根県でのライブ自体が初のバンドが2組。更には島根県……というよりここ松江Aztic Canovaで最もライブを行っているのはセックスマシーン!!(以下セクマシ)であるためてっきり彼らがトリを飾るものと思っていたのだが、1番手でステージに現れたのはよもやのセクマシ。お馴染みのSEであるスターウォーズのメインテーマが鳴り響くと、メンバーが笑顔でステージへと姿を表す。もちろん森田剛史(Vo.Key)はバックプリントに『圧倒的な存在感!!』と記されたセクマシTシャツであり、ズボンは太ももから膝あたりまでバックリ裂けたダメージジーンズ。もう何度も見てきた光景ではあるが、やはり彼特有の戦闘服を視界に収めるとやはり「セクマシが帰ってきた!」と思ってしまうのは自分だけではなかったはず。


そして同じく、ライブ中における森田のカロリー過多な熱いMCもセクマシの醍醐味として位置している。まずはこの日がソールドアウトとなったことについて感謝の思いを絶叫しながら届けると、コロナ対策により発声や動きが制限された観客のボルテージを強制的に上げるように「手拍子は出来るだけ上で頼む!」「みんかその場で、狂ったように踊ってくれ!」と焚き付け焚き付け。無論まだ1アーティスト目のために会場は温まっておらず、本来ならば緩やかな拍手が送られる程度であろう。けれども森田による「分かった人拍手!」や「拍手の他にもこういったもの(物販で売られているタンバリン)があるといいぜ!」といった発言から周囲が応じれば、自ずと興奮も高まるというもの。確かに最初こそセクマシが1番手であることについて思いを巡らせる自分もいたのだけれど、確かにこうして見ると、一気に盛り上げるにはセクマシが適役であったようにも思う。

 

セックスマシーン「頭の良くなるラブソング」 - YouTube


この日が日曜日であることも作用してか、オープナーとして投下されたのは“明日月曜”。その爆音に心の底から嬉しくなると共に《明日月曜だわ ここらで上げなきゃヤバい/このままじゃ今日だって ひとつも残らない》との歌詞からは、休日に行われることの多いライブという娯楽がすっかり消失した故に無為に過ごすことも多かった1年半の記憶と、月曜の労働に備える最高のストレス発散法としてライブがあったのだというかつての経験が再度フラッシュバックするようで、至極感動的に映った次第だ。


この日のセクマシのセットリストは、終盤で森田自身が「今日は知らない曲もたくさんやったと思うけど、それはあなたがCDとかサブスクとか、また新しく知ってくれればいいことだから。全然問題ない」と語っていたように“サルでもわかるラブソング”や“君を失ってWow”といったかねてよりのキラーチューンを外し、代わりにメッセージ性の強い楽曲群を後半に敷き詰める一風変わった代物となっていた。おそらくこの試みに関してはコール&レスポンスが出来ない状況下であることが関係していると思うが、それ以上に彼らが最も伝えたいことが後半の楽曲群……具体的には“夜の向こうへ”、“夕暮れの歌”、“胡蝶の夢”に込められていたためであると推察する。

 

セックスマシーン!!「夜の向こうへ 」MV - YouTube


中でもラストナンバー“胡蝶の夢”には、まるでライブハウスの存在意義を問うようでもあり、つい涙腺が緩んでしまった。“胡蝶の夢”が収録されたアルバム『はじまっている。』は森田が7年付き合っていた彼女にフラれたことが契機となって制作に着手したとされていて、“胡蝶の夢”も同じく森田なりの離別の模様を描いていることは間違いない。ただ未曾有の混乱で過ごす今、長らく島根にライブをしに来てくれたセクマシが放つ《ひとときの短い夢だった とても気持ちのいい 夢》にはライブハウスの興奮を、そして《寂しいけれどもまたどこか それまでお元気で》には言わば「また島根に帰ってくるぞ!」との思いであるようにも感じられ、総じて様々な解釈にも取れるメッセージが詰まっていたという点でとても素晴らしかった。ラスト、すっかり汗だくになった顔面をくしゃっと笑いながら「圧倒的な存在感!ウォー!つづく!」と叫んで終了したセクマシ。彼が最後に指差したその未来を知る日は、そう遠くない未来のはずだ。


【セックスマシーン!!@松江Canova セットリスト】
明日月曜
始まってんぞ
祝辞(新曲)
頭の良くなるラブソング
夜の向こうへ
夕暮れの歌
胡蝶の夢

 

・ロマンス&バカンス

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続いては強いメッセージ性で感動を生み出したセクマシとは真逆に位置するハイカラ系ロックバンド・ロマンス&バカンスの登場だ。メンバー全員サングラス着用、ボーカルのチョメP(Vo)に至ってはアロハシャツと首飾りというまるでバカンス帰りのような風貌で視線を集めると、「さっきのセクマシのライブ観てたんだけど、感動してちょっとウルっときちゃった」と語るチョメP。しかしながら発言のオチとして決まってメンバー全員がシンクロする「アーイ?」や「オツカー!」のフレーズが挟まれた結果どこか溢れ出る陽キャっぽさが炸裂するMCで観客の表情緩和を担いつつ「宍道湖の前で、みんなでバーベキューしたいぜ!」とのチョメPの一言から“BBQでABC”を投下。


“BBQでABC”。そのタイトルだけを見ればBBQをテーマにしたアッパーソング……なのかと思いきや、その真相は「BBQ場で元カノとやっちゃった曲」(YouTube概要欄より)であり、歌詞には某国民的アーティストの楽曲を引用したものや、メンバー全員で踊るダンスも豊富というアゲアゲな展開。おそらくこの日彼らを初めて観た人が大半だったとは思うが、それでも1番のサビまで終わった時点で誰もがサビの合いの手と踊りを完璧に覚えてしまうそのキャッチーさは最大の武器であり、1曲目にして会場を掌握。

 

ロマンス&バカンス「OH!NO!煩悩~勉強中エロい事が浮かぶ~」【MUSIC VIDEO】 - YouTube


徹頭徹尾、圧倒的な印象を植え付けたロマバカ。そのハイライトは間違いなく“OH!NO!煩悩〜勉強中エロいことばっか浮かぶ〜”であり、まずは『エロく聞こえる言葉(エロ聞こ)』としてチョメPが島根と鳥取を指す「山陰」をエロティックに発語すると、突如「次の楽曲では毎回各会場で照明さんにアタックしている」という旨のその後の展開を理解させる言葉が挟まれると、楽曲に雪崩れ込み。元々は観客と共に照明さんに愛の言葉を叫ぶそうだが、今回は発声制限のため行われず、その代わりとしてくるっと背後を向いた観客全員とロマバカメンバー全員で照明さんを凝視するという羞恥プレイが挟まれ、最後はPAさんも巻き込んで全身を使った『H』ポーズが決まる。

 

ロマンス&バカンス「ライフイズワンダフル」【MUSIC VIDEO】 - YouTube


全国区のテレビで取り上げられ大反響となったかの下ネタソング“おちんちんYEAH”の果て、最後に披露されたのは“ライフイズワンダフル”。この楽曲はライブハウスの素晴らしさをつまびらかにする内容で、実際この楽曲の演奏前にはこうした状況下でもライブハウスに集まってくれた観客に感謝を表す一幕があったけれど、池袋Admの副店長としての顔も持つチョメPとしてはやはり、いろいろと思うところがあったのだろう。振り付けも主だったものはなく無骨なロックンロールに徹していて、真剣に今一度ライブハウスへの思いをストレートに叫んで去っていったロマバカ。アウトロの爆音に包まれる中、感謝を叫びながら「また来るぜ!」と叫んだチョメP。僅か30分の持ち時間ではあったが、今回彼らのライブを観た観客はきっとハートを盗まれたことだろう。ということは再び彼らが島根に訪れてくれたとき、その果てにあるのは間違いなく、パンパンの会場で行われる汗にまみれた最高の夜であろう……。


【ロマンス&バカンス@松江Canova セットリスト】
BBQでABC
プロレスはバカンスだ
つらいときには三国志
OH!NO!煩悩〜勉強中エロいことばっか浮かぶ〜
おちんちんYEAH
ライフイズワンダフル

 

・ガガガSP

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ロマバカのライブが終わると暫しの転換時間に。ロマバカのセットがみるみるうちに片付けられ、次なるバンドの機材がセッティングされていく。残るバンドはガガガSPとSu凸ko D凹koiの2組であり、この時点でキャリア的な観点から見ても「次のライブはSu凸ko D凹koiで、トリが多分ガガガSPだろうなあ」と漠然と考えていたのだけれど、垂直に高立つマイクがステージの先頭に据えられた瞬間ハッとする。つまり次なるライブは来年結成25年目を迎えるガガガSPが先行。今回のトリは今回のバンドの中で最も若いSu凸ko D凹koiが担うことが確定した。


ガガガSPのライブでは、決まって冒頭にコザック前田(唄い手)が長尺のトークを展開する形で幕を開ける。片手を上げ、PAさんにSEを止めるよう促した前田がオフマイクで語ったのは、かつてのバンドを経て至った現在地だった。「今日宍道湖の前を歩いてたら、多分……今日僕らがライブすること知らへんかったんやろな。ファンらしい子らが僕ら見て『えっ!ガガガ!?』って。確かに神戸のゴキブリことガガガSP、25年もやってきたし、あのときと比べたら動員も減ってるし。ガガガまだ活動やってんのって思われとるかもわかりません。でも僕らは今こうしてライブハウスでライブやってるわけです(意訳)」

 

ガガガSP「ロックンロール」MUSIC VIDEO - YouTube


かくして先日発売されたばかりの新曲“ロックンロール”が、メンバー全員による《ドンチャンセイイェイ》の絶叫から高らかに鳴らされた。アンプのボリュームを上げているためかサウンドの所々にノイズが走る轟音をバックに、前田はどん底の状態でも生きようともがく人々に宛てた鼓舞的な歌詞を届けていく。その魂の熱演は凄まじく、ピッチャーが振りかぶって投げるようなアクションの他、ステージの端から端まで移動し勢いあまって壁に激突する一幕もありなんとする全力のパフォーマンスで、聴くものの魂に訴えかける。


後のMCで前田は「ライブをやると“卒業”やらへんのか、“晩秋”やらへんのか、“線香花火”やらへんのかとかいろいろ言われますが、今日は今やりたい曲をやります」と語っていた。その言葉の体現するようにこの日のガガガSPは、今までライブであまり披露することのなかった“ホイホイ行進曲”や“夏の思ひ出”といった楽曲群に加え、この日初めて存在自体が明かされた完全新曲“これでいいのだ”など、総じてセットリストを意図的に稀有なものにしていて、おそらくは長らくのライブアンセムの部分で言えば2曲目の“つなひき帝国”オンリーというある意味では大きく事前予想からは外れた形となった。

東京 - YouTube


では「今回のライブが盛り上がりに欠けるものだったのか?」と問われれば決してそうではなく、どの楽曲もパンキッシュな勢いと、青春模様を前面に押し出した歌詞の数々で観客を魅了した。「こうして対バンで全国を回るのが久しぶりで、嬉しかったです。これからも、バンドマンを応援してください」と語った前田。ラストはガガガSP2001年にリリースされたシングル“線香花火”のカップリングとして収録されていたミドルテンポな“東京”を力を込めて届け、次なる後輩へとバトンを繋いだ。ロックとは何か、ライブとは何か……。様々な思いが強く込められた、圧巻の30分間がそこにはあった。


【ガガガSP@松江Canova セットリスト】
ロックンロール
つなひき帝国
ホイホイ行進曲
これでいいのだ(新曲)
夏の思ひ出
東京

 

・Su凸ko D凹koi

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さあ、全6公演に及ぶツアー『LIVE TO WEST』も、遂に最終局面。最後のバンドは無骨なロックを掻き鳴らすガールズバンド・Su凸ko D凹koi(すっとこどっこい)である。着々とエフェクターや熊とおぼしきキーホルダーが揺れるどい(Vo.Ba)のマイクスタンドが設置される中、気になるのはステージ前方に視界を覆い隠すように張られたスクリーン。ちなみにこのスクリーン、てっきり「何かの映像を流すのか?」と思っていたがそういうことも一切なく、単に目隠しのような形で取り入れられていただけだったことが後に判明するのだけれど、こうした無骨さすらどこか彼女たちらしいと言うものだ。


どこかで聴いたことのある壮大な楽曲にSu凸ko D凹koiの説明が挟まれるSEに呼び込まれ、メンバーが登場。彼女たちの手にはそれぞれ1メートルほど真横に伸びた紙が握られていて、そこには墨汁で殴り書いたような『LIVE TO WEST 2021』関連の言葉が。観客に見えるようにドラムセットの前に立て掛けるも、全員が1曲目“セックスレスピストルズ”の爆音をジャーン!と鳴らした直後にその紙がパタッと倒れるがお構い無し。

 

Su凸ko D凹koi 「セックスレスピストルズ」 Music Video - YouTube


黒のフライングVを弾き倒しながらキュートな歌声を響かせるどい、エフェクターを介した爆音を真顔でぶつけるなお(Vo.Gt)、笑顔を振り撒きながら重いドラムでサウンドを下支えするおうむ(Dr)……。他にも1曲の間で幾度も挟まれるコーラスも相まって、Su凸ko D凹koiの織り成す楽曲は構成としては至ってシンプルなパンクロックだ。彼女たち自身も今回のライブで同じくスリーピースのガールズバンド・SHISHAMOと比較しつつSu凸ko D凹koiの魅力を言い表していたけれど、実際この日本編で披露された楽曲は順にセックス、好きな相手の彼女、童貞、不細工、バイトの退職とSHISHAMOのみならず大半のガールズバンドが題材にすることを意図的に避けている事象に敢えて踏み込み、まるで「私はこう思う。……どうかな?」ではなく「私はこう思うんだけど違うのかよ!」と詰問するが如き熱量でひたすら突き進んでいた。おそらくガールズバンドが鳴らすパンクロックが大衆に受けるかどうかと問われれば、答えはおそらくNOだろう。けれど少なくともこのライブハウスに集まった全ての観客はそうした無骨なパンクロックが大好物の人間ばかりで、もっと言えば取り繕って良いように見せようとする音楽より、よほどSu凸ko D凹koiが鳴らす等身大の音楽の方が心震わされるものがあると思うのだ。

 

Su凸ko D凹koi 「店長、私バイト辞めます。」 Music Video - YouTube


その「正しいのは私たちだ!」との精神性は中盤で観客全員を座らせて行われた童貞川柳にも、おうむが突然孫悟空の喋り方を真似した「オッス!オラ、ブスウ!」から始まった“ブス”にも確かに表れていて、個人的には約1年半の自粛期間が開けた久方ぶりのライブハウスで、彼女たちのある種力任せなパンクを聴くことが出来たのは大いなる収穫。「やっぱりバンドはこうじゃなきゃ!」と心から思った次第だ。
本編最後に披露されたのはキラーチューン“店長、私バイト辞めます。”。なおによるどしゃめしゃなギターサウンドが鳴り響く中、バイト先への不平不満をぶちまけるどいと、そのバックで明るく接客業的なフレーズをコーラスとして放つおうむの対照的な姿が会場の熱をどんどん高めていき、後半部では更に1段階音厚が上昇。ラストスパートを全力で駆け抜ける圧倒的な速度感を携えながら、捨て台詞としておうむが「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」と絶叫する形で本編は幕を閉じた。

 

 

Su凸ko D凹koi 「ゆうと」 Music Video - YouTube


彼女たちが去った後ほどなくして行われたのは当然、アンコールを求める拍手。少しして再びステージへと戻ったメンバーたちは一様に楽しげで、お立ち台に立って体を反らせて感謝を伝えたり、紙パックのピルクルで水分補給をしたりと各々リラックスムードだ。そしてどいが自身の生まれ故郷について思いを馳せた後、披露されたアンコール楽曲は“ゆうと”。おそらく『ゆうと』とはその内容を見るに、どいがかつて交際していた男性の名前であろうと推察するが、交際当時の境遇とすっかり変わってしまった町並みを振り返りつつ、どいは「私のことは笑い飛ばしても良いから、今の彼女とずっと幸せに」という意味合いで締め括られる悲しきその歌詞を全力の歌唱でもって歌い上げ、最後はどいの手から滑り落ちたマイクが地面にぶつかる音を最後に“ゆうと”を終えると。各々の楽器を定位置まで戻した後、メンバー全員が全速力で物販コーナーへ走る最高の幕切れでもってこの日のライブは全て終了したのだった。


【Su凸ko D凹koi@松江Canova セットリスト】
セックスレスピストルズ
MOMANAIDE
~童貞川柳~
童貞応援歌
ブス
店長、私バイト辞めます。

 

[アンコール]
ゆうと

 

客電が点くと、集まった観客たちが一方向へと移動する。防音の重い扉を明け、通りを抜け。最後にドリンクを交換してライブハウスの外に出ると、眼前の宍道湖から吹く暖かさを伴った風が顔をぶん殴った。直後、あまりに幸福な軽い耳鳴りに気付いて、ふと笑顔になる。……そう。ライブハウスには耳鳴りが付き物だったことすら、すっかり忘れかけていたのだから。


冒頭に記した通り、この町にロックバンドがほとんど訪れなくなってから、早1年半もの年月が経過した。ツアーが行われたとしても大半のバンドは都市部を回るのみで、地方が選ばれることは稀。そして今すぐにライブに行きたい気持ちにも駆られる中、遠征は今のご時世でとても難しい。正直な気持ちを綴ってしまえば、ロックバンドのライブをこの町で観ることに関して、心のどこかではどこか諦めていたところもある。そんな折に行われた今回のライブ。それは一言で言い表すならば徹頭徹尾『ロック』と称して然るべしな正にライブキッズが待ち望んでいた最高の空間で、誇張でも何でもなく、今日のようなライブがまた見られるのならこれからも生きていく理由になるとさえ思うほど、運命的な代物だった。記念すべきツアーファイナルに選んでもらえたからには彼ら自身にも、何か島根を好きになってもらえるような思い出が訪れてくれていれば嬉しいし、この難しい時期に遠路はるばる島根に足を運んでくれた4バンドには感謝しかない。素晴らしい一夜を作り上げていただき、本当にありがとうございました。

コロナ禍でのモッシュ・ダイブの是非をENTHとPaleduskの炎上から考える

こんばんは、キタガワです


モッシュと、ダイブ。ポップスはともかく世界のロックライブシーンを語る上で、このふたつはかつて紛れもなく必要不可欠な存在として位置していた。もはや語るも野暮だが補足的に説明すると、モッシュは観客同士がぶつかり合いながら興奮を体現するアクション。ダイブは観客と観客とが肩車をした状態から横倒しで飛び込んで、人の海を自ら流れる行動のこと。なおこれらの行動は取り分け激しいタイプのバンドライブ(ラウドロック・パンクロック等)で頻繁に行われる傾向にあって、中にはフロアの中心を観客同士が左右に区切り、中心に向けてモッシュに誘う通称『ウォール・オブ・デス』や、観客が円状に回る『サークル』といった行動もあり、これらが興奮を更に一段階高める素晴らしいエッセンスとして駆使されていたことは、おそらくライブバンドに詳しい人なら誰もが共感してくれることだろうと思う。


けれども新型コロナウイルスの影響で密接やら飛沫やらが危険と判断されて以降、早いものでもう1年近く、全てのロックバンドのライブからモッシュ・ダイブも含め様々なアクションが消えた。当然これらの措置については「状況も鑑みてやむを得ないだろう」との声が大多数を占めるけれど、そんな中でもかつてモッシュ・ダイブが恒例と貸したエネルギッシュなライブに足しげく通っていたライブキッズも一定数おり、2021年夏現在多くのライブやフェスが再開し始めている渦中においてもどこかウズウズ……。今すぐにでも爆発させたい衝動を無理矢理抑えながらライブを鑑賞している人も同じく少なからず存在するはずなのだ。

 

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そんな折、とある2組のバンドのライブが波紋を広げているのをTLで目撃する機会があった。それは7月17日に行われたPaledusk主催の渋谷ライブイベントでの出来事が発端となっているらしく、槍玉に上げられているのは主催のPaleduskとこの日のメインアクトのひとつことENTH。話を紐解くにどうやら彼らのライブで多くのモッシュ・ダイブが行われ、それが数々の議論を生み出しているようだったが、次第にマキシマム ザ ホルモンのナヲが苦言を呈するツイートを書き込み、対照的にCrystal LakeのRyoが称賛するツイートを投下。その数日後にはSiM、coldrain、HEY-SMITHの3バンドによる『TRIPLE AXE TOUR』にてメンバーが間接的に彼らの行動を批判したことから問題が激化。結果ロックライブにおけるモラルを考える重大なテーマとして、様々な意見が噴出する形となった。


そしてこの件についてはそれこそライブに多く通ってきた人ほど、言葉を選ばずに言えばおそらく中立の立場の人が大半のはずだ。……これは決して『モッシュ・ダイブをやるべき!』との意味合いではなく「かつてのライブシーンの在り方を知っているからこういう気持ちも確かに分かるし、でも今は状況が状況だから」という理想と現実を天秤にかけた上で判断する動きが強いからで、例えば現在メディアで広く取り沙汰されている『酒を禁止したい政府と提供したい飲食店』や『自粛派と経済活動派』のように、長らくの停滞により自身で取捨選択することが必要となった今においては「自分はこうしたいんだ!」との思いが勝ったためにモッシュ・ダイブを敢行してしまうのは些か仕方がないとも言える。

 

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ただ現在のコロナ禍において、これらの行動が他人に回避不能な影響を与えてしまう可能性があるという意味では、絶対にモッシュ・ダイブは行うべきではない。無論全部が全部ダメと括っている訳ではなくて、ワクチンを全員が接種しているとか、これは極論だけれども参加者がみな一人暮らしの無職で誰とも関わらない生活をしていて「別に俺が誰に感染させようと知ったこっちゃないよ」とする自分本意な人間ばかりが集まったり、ライブ後に自主的に2週間缶詰になるという集まりなら、モッシュ・ダイブの発生を事前に周知させていれば別段許可しても良いだろう。だが現在は若者の接種率が10%にも満たない状況なので、まずもってこれらの基準をクリアすることが出来ない以上、やはり他者に迷惑をかけてしまう可能性のある行為があるとすれば厳密なルールを設けるべきだと思う。


……翻って、今回のライブだ。筆者が確認出来たのは当日の参加者のツイートと参加者が撮影した動画だけで、当日の全体の様子が実際のところどうだったのかは知り得ないので憶測で語るべきものではない。しかしながら『動画』という最悪な形で様々出回ってしまっている撮影物に関しては、ほぼ全員がマスクをしていないし絶叫しているし、もちろんモッシュ・ダイブもしているしで擁護出来る点はまず見当たらない……というか、反対意見が賛成意見を上回ることは間違いなかった。そしてそれ以上に、個人的には演者が「俺たちは『ライブ』をしに来たんだ」と観客を焚き付けたとする発言が気になっていて、もしもこれが真実だとするならば彼らにとってライブとはイコール音楽を聴く以上に「モッシュ・ダイブなしのライブはあり得ない」という考えが先行しての結果なのだろう。筆者も何度かENTHとPaleduskのライブに足を運んだ身だが、誠実な姿も目にしてきてはいるので正直彼らがここまで声高にネガティブな内容のことを焚き付けるとは考えにくい。なので何かアーティスト同士での示し合いなり会場サイドとの打ち合わせなりで今回に限ってはモッシュ・ダイブ容認のスタンスに変えようと動いた結果なのではと思うのだけれど、これらも悲しいかな、彼ら自身からの弁明がなければ我々は何も分からない。

 

(↑これまでのラウドライブ)

(↑コロナ禍のラウドライブ)


実際、現在のライブシーンで特にラウド系のバンドは苦境に立たされていることだろう。ただでさえキャパシティが半分以下にまで抑えられたスカスカな環境でモッシュ・ダイブも出来ず、シンガロングも出来ず、外部的要因で言えばアルコールも飲めない。少し前にHER NAME IS BLOODが解散を表明したけれど、おそらくは我々が想像する以上にラウドバンドにとっての状況は深刻で、たった4~5人のメンバーが1年間スタジオに籠ってようやく生み出された激しい楽曲を披露する場がこうも様変わりしてしまえば、アーティストの精神状態的にもかなり悪い。もちろんその中でも制約ありきでツアーを回るバンドも多いのだが、最近鑑賞したオンラインライブを例に上げればマキシマム ザ ホルモンの『面面面 ~フメツノフェイス~』もそうだったように、やはりかつてのライブを知っている身であればあるほどこれじゃない感を如実に抱くのは自明だ。……「どうするの?」と問われれば取り敢えず「やるしかない」。だがその行動にやりがいが見出だせないのであれば、先述の飲食店の酒提供の話のように、後は更なる行動に移すのみなのである。なのでモッシュ・ダイブに救われてきた個人としてはどうしても彼らの行動を強く責められない部分もあるし、それでも「そんなライブなら今は行きたくない」とも思ってしまう。


なので両バンドのファンにおいては、是非ともこれでENTHとPaleduskを毛嫌いしてしまうのではなく、この状況下で彼らがこれらの行動を試みた真意を考えた上で個人の判断を下してほしいと強く願っている。こここ数年、不祥事やゴシップが上がるたびに音楽ファンの間で広がった「音楽に罪はない」という考え。それを活かすのもまた、コロナ禍でバンド業界があえぐ今なのだ。

Festival Junkie Podcastから読み解く、現時点での『SUPERSONIC 2021』の行方

こんばんは、キタガワです。

 

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昨日7月20日、遂に我々はクリエイティブマン・清水直樹氏の口から直接、スパソニの動向を聞くことが出来た。その言質を取る決定的な場となったのは、自身を世界中の音楽フェスを旅する『Festival Junkie』と公言し、日本最大級の音楽フェス情報サイト「Festival Life」の代表を務める津田昌太朗氏司会のポッドキャスト番組での一幕である。こと日本では何かを発言する際には様々な制約が付き物だが、清水氏は自らが感じていること、またライブに際して現状どうなっているかなどをその時々で詳しく明言してくれるので、特に今がこうした状況下にあるのもあり、サマソニファンとしては嬉しいところだ。


この日の放送で清水氏が語ったこと……それは「都市部での感染拡大が深刻な状態にある中で、スパソニはどのような形で開催を目指していくのか」という我々が今知りたい情報の全てだった。今回のトークでも頻りに先々月辺りにrockin'on社で掲載されたインタビューを振り返っていたけれど、その当時とはまるきり状況が変わってしまったことに触れつつ、最終的に着地点がどこになったのかをしっかり語ってくれているので、是非とも以下の音声を聴いてみてほしい。

 

https://anchor.fm/festivaljunkie/episodes/92-OUR-FAVORITE-THINGS-reprise-e1447c3


そのトークの内容はと言えば、この放送を収録した僅か2日前に緊急ニュースとしてもたらされたロッキンの中止の報から「フェスはどう見られているのか」ということや、現在は出演アーティスト数を確定させた上で経産省と入国隔離措置等のやり取りを試みていること、また多くの制約の中でどう開催に向けての準備をしているのかといった内容が約30分間に渡って語られた訳だが、参加者である我々にとって大切になるのはそのラインナップだろう。ポッドキャストでも語られていたように、もし今回スパソニが実現すれば、コロナ禍後初の洋楽フェスが誕生し、約1年半ぶりの来日公演が行われることとなる。……しかしながらスパソニの身動きを封じようとする包囲網は未だ存在していて、ある意味では高額なチケット代をはたいたファンら「結局スパソニどうなの?」と感じてしまうのは自明だろうと思う。


まず重要なのは、主だったステージがオーシャンステージオンリーになる点。前述のrockin'onのインタビューでは「2ステージでやりたい」と清水氏は述べていたが、結果としてこのような形に変化せざるを得なかったようだ。その理由として大きかったのは主にふたつ。移動が増えることと入国隔離措置が大変であることで、関係各所……今回で言えば経産省だが、昨今の情勢を鑑みてフェス開催に必要不可欠な「我々はこういうフェスをやります。こういう形にするので感染の可能性は低いです」というアピールをする上で必要なのが最低限1ステージにする試みであって、更には入国隔離措置3日間という厳しい措置を取りつつギャラの高い海外アーティストを招致する意味でも1ステージが最も都合が良かったということなのだ。なおオーディション的な形として小さくではあるが、イチナナのステージも設立される予定はあるのでしっかりとフェスの規模感は出せるとのことなので安心だ。


そして何より重要なのは、今回のラインナップに関してだろう。第1弾の発表でも先日投稿したブログ記事にもあったように、今年のスパソニはロックフェスからEDMフェスへと変貌することが明らかになっているが、そのラインナップについても元々のアナウンスとは変わった形にシフトしているそう。具体的には、まずスクリレックスが出演キャンセル。これについてはスクリのマネージャーが退職した関係で、現在までの出演交渉如何に関してほぼスクリ本人(とエージェント)に委ねられ負担が大きいことが影響していて、スパソニもそうだが現状全てのフェス参加をキャンセルしているので、スパソニも仕方なく、といった形のようだ。なおEDMアーティストとの親和性の兼ね合いの関係で、ビーバドゥービーやトーンズ・アンド・アイら新進気鋭の女性アーティストも今年の出演は見合わせとなるようだ。しかしながら彼女らも含め、スクイッドやイージー・ライフといった若手アーティストは来年の『SUMMER SONIC 2022』に出演交渉をしているそうなので、期待して良さそうだ。


ここまで記してきたように、スパソニは1ステージ……出演アーティストにして現状9~10アーティスト程度を見込んでいる。……と考えると現状のラインナップでは少し足りないので、おそらくは各日4~5アーティストは追加されるだろうと見込んでいるのだが、今回清水氏の口から放たれた印象的な言葉は、よもやの「もしかしたらK-POPいるかもしれないね」。……元々BLACKPINKやSEVENTEEN、BTSといったK-POPを多数招致してきたのがサマソニだったが、もしかするとチケット代を加味してもお釣りが来るようなK-POPアーティストが来る可能性もある。となれば期待せずにはいられないし、チケットが取り合いになるような新星をここ日本で観ることが出来るチャンスでもあるのだ。


ポッドキャストの最後に、清水氏はこう締め括っている。「実は完璧なフェスティバルを目指していたんだけど、それを見せられないってことは心苦しいし、申し訳ないとは思ってるんですよ。ただ今年のスーパーソニックっていうのは、洋楽アーティストを日本にもう一回戻す。スタートするっていう。それを考えてのフェスティバルにするし、そうせざるを得なかった。そこで最善の交渉をして。そこに日本のアーティストも加わり、1日9~10アーティスト。しっかりフェスとしてのボリュームをもったものをみんなに提供できると思うので、まずはこの1年半の鬱憤を忘れて、また新しいフェスを体験してほしい。まずはその始まりをみんなと一緒に体験したいし、応援してもらいたいと思います」


この言葉から感じるのは、おそらく清水氏自身もこれが良しとは思っていないリアルと、それ以上に何とか開催しなければ洋楽シーンが終わってしまうという危機感だ。元々洋楽はニッチなジャンルと言われ続けているけれど、特にコロナ禍以後、邦楽アーティストはぐんぐんと勢いを伸ばしている裏で洋楽アーティストはかなり下火になってしまっている。その理由の一端を担っているのはやはりフェスであり、そもそも出合う機会が減ってしまったために起こってしまった悲しき現実だとも思う。そんな中でスパソニは必死に前を向き、どうあっても開催に漕ぎ着けようと希望を発信し続けている。ならば音楽を好む我々のすることはひとつ。スパソニが何にも邪魔されずに開催されることを、しっかりと願うことだ。……祝祭の時まであと2ヶ月。これからも変わらず、動向に注視していきたい。

【ライブレポート】ネクライトーキー『ゴーゴートーキーズ!2021』@米子laughs

こんばんは、キタガワです。

 

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去る7月15日に行われたネクライトーキーの全国ツアー『ゴーゴートーキーズ!2021』、米子laughs公演。待ちに待ったこの日が遂にやってきたのだ。…かつて足しげくライブハウスに通ってきた筆者としては生ライブ参加は約1年半ぶりであり、思えばコロナが蔓延し最初に中止となったライブもネクライトーキーだった。故に今回のライブはネクライトーキーの現在地を見極めることはもちろん、個人的なことも踏まえてしまえば現在のライブハウスはどうなっているのか、そして久方ぶりにライブハウスへと赴いた自分自身がどのような感情を抱くものなのか、そうした発見という意味でも、重要なライブになるのは必然だった。


会場前、会場に到着すると、まず目についたのは声も出さず、疎らに散って入場案内を待つファンの姿だった。今回のライブ会場に選ばれた米子laughsは真横に大きな広場があって、ライブ前はそこにファンが座ったり立ったりして談笑しながら待つ、というのが半ば暗黙の待機行動だったように思うのだけれど、そうしたことも一切なし。僕が暮らす島根県もここ米子も、どちらかと言えば『田舎』と呼ばれることが多い場所であり、ひとたびライブが行われればそのアーティストを知るファンにはちょっとした話題になるくらいにはほぼアーティストがライブに来ない場所なのだが、この静かな待機行動を見るに、やはり地方在住者にとってコロナ禍でもここをライブ会場として選んでくれた感謝と、「参加するからには絶対に感染者を出してはならない」という思いが意識的に作られている証明ではないかと思った。


しばらくすると、係員から「ではこれより入場待機列を作らせていただきます。整理番号Aの方ー」と、入場に際してのアナウンスが。ただその言葉も住宅街に響き渡るような大声では決してなく、敢えて「聞こえる人にだけ聞こえる」ようなボリュームだ。静かにその時を待っていたファンたちは声につられるように、ゆっくりと歩を進めていく。無論整理番号Aと言ってもそこには更なる番号表示がされていて、それらは参加者同士で示し合いながら入場するのは今まで通りではある。ただそこでもある種ヒソヒソ声というか、様々に考慮しながら対応していて「今までとはやっぱりちょっと違うなあ」と思うと共に、何だか嬉しくなってしまう。


並んでからも、やることが少しばかりある。まずは事前にネクライトーキー公式ツイッター等でも案内があったGoogleフォームの確認だ。これは万が一コロナ感染者が発覚した場合の参加者の追跡機能の役割を果たしていて、名前やメールアドレス、緊急連絡先を送信するだけの僅か数分で済むのだが、入場時にこのメールアドレスに届いた確認画面を提示するのだ。実際ライブハウスでの感染例というのは全国的にもないに等しいのだが、この状況下、こうした作業がひとつ挟まれただけでも安心だ。なおこの画面提示についても横着することなくスタッフがひとりひとり画面を出すまでの仮定から表示された文言までもしっかり確認してくれていたので、心底助かった。


開場時間ピッタリになり、遂にライブハウスへの入場である。今回のライブのチケットは電子ではなかったのだが、全て参加者自身がもぎるシステムらしい。ただその前には整理番号の確認もスタッフの目視できちんと行われるので、(そんなことをする人はひとりもいないだろうが)横入りなどの不正は不可能である。チケットの端を自分で切り取ってカウンターに置くと、次はドリンク代を支払う流れだ。ここでも有難いことにトレイでの受け渡しをしてくれるので、直接手と手が触れ合うこともない。ドリンクチケットを手にしてドリンクカウンターに向かうと、そこでもミネラルウォーターなど所謂『よく出るドリンク』は事前にカウンターに置かれていて、コロナ前のように注文が入ったらスタッフが冷蔵庫から取り出して……といった流れではなく、直接接触がない形に。ここでも「ありがたや」と思いつつ、ミネラルウォーターを貰ってフロアに入る。


フロアは地面に立ち位置が明確にバミられていて、両腕を広げても誰にも当たらない前後左右1メートル程度の距離が保たれていた。かなり開演より前に入場してしまったので好奇心で立ち位置全てを数えてみたのだが、何と58個しかなかった。米子laughsのキャパはスタンディングで約300であると公式でも明言されているが、同じスタンディングでもそのほぼ5分の1の収容人数ということになる。なお「最前列のファンには飛沫が飛んでしまう危険性もあるのでは?」と邪な思いも浮かんだが、そこもご心配なく。ステージと最前列のファンの距離は相当離れており(かつてのライブで言うところの4列程度は空いてるイメージ)、これならどれほど演者が絶唱しても大丈夫そうだ。


加えて、これはどんどん観客がフロアに入ってきてから気付いたことなのだが、人と人との距離が離れていることによって会話が難しくなる(友人間でも声を大きく張らないと届かない)のも隠れたグッドポイント。というのも日本人特有なのか分からないが、やはり周囲に合わせる気質を持ち合わせているので、こうした誰も喋らないような試みを取れば沈黙状態にならざるを得ないからだ。実際BGM以外ほぼ声は聞こえなかったので、集まったファンが皆「ルールを守ろう」と強い思いを抱きながら今回のライブに参加していたことは先述の通りだが、こうしたファンが何十人と集まった結果、とてつもない抑止力になるのだなと実感した次第である。


もちろん、その間も『聞こえる人にだけ聞こえるボリューム』のアナウンスも徹底して行われていて、「フロアの立ち位置から離れることはお止めください」といった案内はもとより「最前列のお客様に関しましては前に貼られたテープより前には絶対に出ないでください」とのお達しが。そしてそうした距離的ルールを伝えられるたびに目線と足を移動させ、改めて距離を確認する観客たち……。ルールを守って最高のライブを楽しもうとみんなが必死で、もうこれだけで泣きそうになってしまう。なおこうした距離的なアナウンスに関しては開演時間の5分程前になると再度、今度はスピーカーでの案内もあったので聞き漏らすこともなくありがたい。


前置きが長くなったが、ここからが本題となるライブレポートである。開演時間を5分程過ぎ、緩やかに暗転した会場内に響き渡ったのはコツコツと鳴る足音で、次第にその足音に合わさるように鈴の音やお湯を注ぐ音、更には「ようこそ」の声がぶつ切りにサンプリングされたSEと共に、もっさ(Vo.Gt)、カズマ・タケイ(Dr)、中村郁香(Key)、藤田(Ba)、朝日(Gt)の順にステージ入り。今ツアーのために髪を金色に染めたタケイや、左足部分のみざっくり空いたファッションの中村も印象的だったが、中でも驚いたのは髪の先端を紫に染めて海外産のビール・コロナエキストラのTシャツを着用したもっさの姿。「コロナ禍の時期にステージ衣装にこのTシャツを選んだ意図は一体……?」という疑問も浮かんだが、結局最後まで説明は一切なかった。ただこうした天然ぶりも含めて、これぞもっさである。


ネクライトーキーMV「気になっていく」/ NECRY TALKIE - Kininatteiku - YouTube


SEが鳴り止むと、楽器を繋いだアンプによるジー……という心地よいノイズが鼓膜の準備運動を進める中、目を瞑ったもっさが声を張り上げるとその瞬間、爆音がライブハウスを包み込んだ。1曲目に選ばれたのはニューアルバム『FREAK』でもオープナーに冠されていた“気になっていく”である。体重を乗せてリズミカルなドラムを鳴らすタケイ。軽やかな打鍵でまるで歌うように音を紡ぐ中村。ヘッドバンギングを繰り出しつつも地に足着けた低音で全体を支える藤田。同じく激しく動きながら圧巻のリードギターを展開する朝日。時折右斜め前に視線を移しながら歌詞を丁寧に届けるもっさ……。ふと周囲に目を向けると、腕を突き上げたり音に身を任せてゆらゆら揺れたりと、皆声さえ出せないまでも思い思いの楽しみ方で没入している。一様にマスク姿なので表情こそ見えないまでも、きっとそのマスクの下は満面の笑顔のはず。かく言う自分自身もゆっくりとあの素晴らしい日々が戻ってくる感覚に陥り、心底「ライブハウスに帰ってきたんだなあ……」と感慨深い気持ちに。気付けば眼前は靄がかかったようにぼやけていた。


今回のライブは『FREAK』リリースツアーということもあり『FREAK』における“夢を見ていた”以外の全楽曲が組み込まれた他、記念すべきファーストフルアルバム『ONE!』と、音楽性の探求に勤しんだメジャーデビューアルバム『ZOO!!』からの楽曲も点在する磐石のセットリスト。中でもやはり注目すべきは最新作『FREAK』の楽曲群であり、この自粛期間に今まで以上に1曲1曲を時間をかけて作り上げ、また更なる飛躍を目指したこのアルバムがどのような形で届けられるのかが焦点のひとつだったように思う。そして端的に結果から述べてしまうならば、『FREAK』の楽曲はとてつもなくライブで化けた。今回の参加者はおそらく誰しもが「そう!これがライブだよ!」との圧倒的な言語化不能の興奮を抱えて帰路に着いたものと推察するけれど、その一端を担っていたのは間違いなく『FREAK』の楽曲群だった。

 

ネクライトーキー MV「オシャレ大作戦」 - YouTube


ファズギターをスライドバーで掻き鳴らしたタイトルに偽りなしなアルバムリード曲のひとつ“はよファズ踏めや”、MVと同様の動きで演奏するメンバーに思わず笑みが溢れてしまう“北上のススメ”と続けば、代表曲“オシャレ大作戦”をよもやの「ここで来たか!」なタイミングでドロップ。ただそれまでのライブでもMVと同様の「5・4・3・2・1・FIRE」というフレーズをメンバー全員が絶叫して雪崩れ込むのが恒例なのだけれど、今回は直前に朝日が絶叫したからか、冒頭の「ファーイブ!」と叫ぶ時点で既にメンバーの何人かが現数字が分からなくなってしまい、そこから「FIRE」までを最終的に全員が「ヴェー!」や「ヴァー!」で無理矢理力技で乗り切ってのスタートだ。タケイと中村のソロ演奏もさることながら、今回のライブがファンとの距離が近いこともあって場面場面でエフェクターを踏み替える朝日の姿や、事前にサンプリングした「ジャン!」と鳴る音や歓声をここぞというタイミングで鳴らす中村の指使いも確認できた。後に披露されたタケイがサンプリングパッドを叩いてイントロを鳴らした“踊る子供、走るパトカー”、藤田がシェイカーを振ってサウンドに彩りを加えた“カニノダンス”もそうだが、総じて今回のライブが同期を使わない正真正銘の『生ライブ』であることを証明していたのも感動した。終盤ではもっさが歌詞の一部を《米子でヘヘイヘイ》に変化させ、中村いわく「朝日さんの残像が見えた」程の圧倒的な盛り上がりで終了。


徹頭徹尾、幸福な時間で満ち溢れた今回のライブ。その中でも敢えてハイライトと称すべき瞬間があったとすれば、それはおそらくライブならではのアレンジが頻発した結果原曲を遥かに超えた長尺で展開された“許せ!服部”の一幕だろう。まずはもっさが何やら口を『ホ』の字にして首を傾げつつ、視線を宙にさ迷わせる。するとうっすらと聴こえてくるのはギターとおぼしき単音の連続であり、よくステージを見回すと前だけを見据えて指だけを動かす朝日のギターがその音の出所らしく、それに気付いたもっさが朝日に近付き、朝日のピックに当たらないよう気を付けながらギターのボリュームノブをゆっくりと回すと次第に鮮明に聴こえるリズミカルなサウンド。この時点でようやく観客誰しもが、次なる楽曲は“許せ!服部”であると認識する。

 

ネクライトーキー LIVE「許せ!服部」 - YouTube


ここからはもっさが《会計はアイツにつけといて》と歌唱した際にファンのひとりを指差した以外は概ね、CD音源と同様の進行。けれどもそんな“許せ!服部”は1番のサビが終わり、朝日が「騒ぐな服部ー!」と絶叫した瞬間から突如として高速化。そのまま圧倒的なスピードでサビまで突き進むと、またもCD音源と同様のBPMへと逆戻り。大化けしたのはここからで、ある場面でもっさが抱えていたギターを何故かスタンドに立て掛け、いそいそと舞台袖へと移動を始める。観客が疑問に感じたのも束の間、何やら両手に大きなプラカードを持って戻ってきたもっさ。よく見ると青のプラカードには『CDver』、赤のプラカードには『ライブver』と記されており、もっさはステージを指し示しながら『CDver』のプラカードを指差している。これはおそらく状況を鑑みるに「今はCDバージョンを演奏しているよ」ということだろう。お次はそれを背中に隠して『ライブver』のプラカードを観客に見せると、再び首を傾げる。「じゃあこのバージョンをやったらどうなるかな?」ともっさが無言で我々に告げているのが分かる。


丁寧な説明も終わったところで、ここでくるっとステージに向き合ったもっさ。メンバーに見せているのは『CDver』で特段変化はないが、パッとプラカードを『ライブver』に変えた瞬間、どしゃめしゃな演奏に変貌。そしてまたも『CDver』に変えると、またゆっくりしたテンポに……。以降もっさはこの作業を何度も繰り返してメンバーを翻弄させ続けていたが、どうやらこのタイミングは完全にもっさの判断に委ねられているらしく、メンバー全員がもっさの手元を凝視しながら都度BPMを変えていく。もはや参加者の我々としては笑うしかない鬼畜スタイルだが、バンドの主導権を握ったもっさはこの日一番の満面の笑顔である。なおこれだけに留まらず、後半ではふたつのプラカードを水平にすると更にサウンドが変わる手法も取り入れていて、しまいには常に『ライブver』を持ったもっさが賑やかに振る舞う中、お立ち台に乗った藤田と中村(このときはショルキー演奏)がソロを繰り広げる場面を経て、ラストはプラカードをスタッフに返却しての全面『ライブver』状態。あまりの衝撃に、演奏終了後には大勢の拍手が会場を包み込む盛り上がりとなった。


ここで一旦のブレークで、この日初となる長尺のMCへ突入。今回ここ米子(鳥取県)でのライブはネクライトーキー史上初であり、当然ながら大半のメンバーも初めて足を踏み入れたそうだが、唯一もっさだけは幼少期に一度だけ鳥取砂丘に行った経験があるらしく、それ以外にも何と鳥取県に存在する会社・大山乳業農業協同組合の有名商品である白バラ牛乳の瓶タイプをもっさの実家では定期購入していたという。 なおタケイについてはこのライブの前日に白バラのカフェオレを飲んでいたというが、正確にはその商品は『白バラ牛乳』ではなく『白バラこだわりカフェオレ』。故に「じゃああれが白バラ牛乳だったんだ!」とひとり納得するタケイに対していろいろと思うところのある鳥取県民たち。けれども発声が制限されているために「確かに白バラ牛乳ではあるけど、タケイさんが飲んだのはそのカフェオレバージョンです!」という複雑な解を告げることが出来ず、集まった観客は頷く人もいれば首をブンブン振る人もおり、更なる混乱に陥るタケイ。こうした笑いもコロナ禍ならではだ。


そして「そんな白バラ牛乳のおかげで私はここまで背が……」と語るもっさの身長に対し身長の高い藤田が真横に並ぶ形でオチがついたところで、朝日が「体に良いものがあれば悪いものもあって」と「凶悪な音を出したい」との思いで最近購入したという自身の持つクリームっぽい白色のジャズマスターを指しつつ、ジャズマスのギャリギャリサウンドが耳を打つ“豪徳寺ラプソディ”、緩やかな“思い出すこと”からシームレスに続いた“大事なことは大事にできたら”、朝日と藤田による別バンドであるコンテンポラリーな生活の楽曲をモチーフとした“続・かえるくんの冒険”と、再び『FREAK』からの楽曲を次々投下。

 

ネクライトーキーMV「続・かえるくんの冒険」/ NECRY TALKIE – FROG QUEST Ⅱ - YouTube


中でも印象的に映ったのは、ニューアルバム『FREAK』の楽曲内では最も早くからライブで演奏され、MVも公開された“続・かえるくんの冒険”。演奏前、朝日は「皆さん、RPGはやりますか?僕は好きでよくやるんですけど……」と前置きしつつ「仲間を連れて全国を旅する、スキルもなければ顔もよくない自堕落な男。そんな彼がなぜ未だにゲームオーバーにもならず旅を続けることができているのか。そうしたことを曲にしてみようと思いました」とこの楽曲に含まれた意味について語っていた。そしてその主人公が率いるパーティーとはつまり、朝日にとってのバンドでなのだろうと思う。


実際自分が今までコンテンポラリーな生活のライブに参加したときもそうだったが、朝日は演奏中は激しい動きで翻弄する一方でMCでは言葉を慎重に吟味するためか、ある種訥々と語ることが多い。個人的にはかつてコロナウイルスが蔓延し始めた昨年の春頃に朝日が呟いた「ライブハウスは人が密集…?おかしい…俺が必死でやっても人生の大半をガラガラのライブハウスで過ごしたこの記憶は一体…?」というツイートが印象に残っているのだけれど、これが以前のバンドであったとするならば朝日にとって、軌道に乗るネクライトーキーはRPGで言うところのセーブデータを引き継いだ2周目……。1周目とは違うまた新たなパーティーメンバーで編成を組み、今までとは違う道程で進んでみようという探求なのだろう。彼の綴る歌詞についても、これはコンポラでもネクライトーキーでも、遡れば石風呂名義で活動していたボカロP時代の楽曲にも言えることだが、曖昧模糊な想像上のストーリーに自身の心中を含むものが大半を占めている。そうした視点でこの楽曲を見てみると、その中心的な内容こそ勇者の冒険をモチーフにしているけれども《愚かさに目を背けないままいてたい》や《嵐で荒れた道を歩く足跡があった》といった歌詞からは、今までの経験を経てネクライトーキーという新章を日々進めていこうとする、朝日の強い心情が見えた気がして思わず感動した次第だ。


“続・かえるくんの冒険”を終えると、おもむろにもっさから今日初めてネクライトーキーのライブを観た人を確認したいとの申し出が。この後に語られたことだが、もっさはライブに参加してくれた観客については積極的に記憶するようにしているようで、この日のライブはもっさもほとんど見たことのない人が多いから、とのこと。そこで試しに「今日ネクライトーキーのライブ初めて観た人ー」と挙手を促すと、何と4分の3にも及ぶ観客が挙手し「どおりで見たことない人が多いと思った……」と体を反って驚くもっさ。……ということはやはり、この前日に広島でのライブがあったことも考えるとここに集まった観客の大半は山陰地方(島根と鳥取)から赴いたことの証明だ。そこからは普段回ることのない地域を回ることの大切さについて語るメンバーたちだが、そうしたMCを聞きながら思わず「そう!地方民としては本当に嬉しいんです!ありがとうございます!」と叫びたい衝動にも駆られるが、ここはグッと我慢である。

 

TVアニメ「カノジョも彼女」ノンクレジットOPムービー/ネクライトーキー「ふざけてないぜ」 - YouTube


そして朝日が「今回やった曲はCDと違うアレンジでびっくりした人も多いと思います。CDもいいけど、やっぱり生ライブの良さをぜひ持ち帰ってください」と語ると、もっさがおもむろに「生ライブの良さを持ち帰る……。その言葉ええなあ。持ち帰ると言えば実はネクライトーキー、『カノジョも彼女』というアニメ飲むオープニングテーマを担当させていただくことになりまして。まだ(公式では)前半しか聴けないんですけど、生ライブでフルでやっちゃっても良いですか!」との嬉しい宣言から新曲“ふざけてないぜ”を。クライマックスに向けて畳み掛けんとばかりに朝日のワウペダルがコール&レスポンスの代替を果たした“誰が為にCHAKAPOCO”は鳴る、ファーストフルアルバム『ONE!』から“レイニーレイニー”と“こんがらがった!”が届けられると、もっさが「ありがとうございました!最後の曲です、Mr.エレキギターマン!」と叫ぶと、本編最後の楽曲として“Mr.エレキギターマン”が勢い良く鳴らされた。


中村が両手を忙しなく動かすイントロで雪崩れ込んだ楽曲は約3分間、猪突猛進的な激しさを携えて突き抜けた。メロでは藤田がパーの形に開いた手の平に全力で拳を打ち付けながらハンドクラップを要求し、タケイは前傾姿勢でドラムを乱打。朝日も激しいヘッドバンギングを繰り出しながらギターを暴れ弾いている。ふと周囲の観客に目を向けると、着用しているマスクがズレるのか、指で何度か微調整する姿も確認出来たけれども、これは口を動かしながら『無声の熱唱』をしていたからに他ならない。徹頭徹尾脳内の感情が「楽しい」一色に染まってしまう程、幸福な時間だ。集まった誰しもの表情と口と耳を爆音で蹂躙した演奏終了後には、全ての力を出し尽くしたようにほぼ無言で一旦袖に引っ込んだメンバー。よく見ると朝日は激しく動きすぎたためかストラップの摩擦によりすっかりシャツがよれ、首元は僅かに赤みがかっていたが、それほどの全力のパフォーマンスであったことが伺えた。


本編は終了したが、ライブはまだ終わらない。メンバーが全員退場した後、自然発生的に巻き起こったのはもちろんアンコールを求める手拍子である。それも決しておざなりなものではなくほとんどの観客が胸より上に上げての拍手を試みていて、スマホを弄ったりする人も皆無。如何にここまでのネクライトーキーのライブが素晴らしいものだったのかを間接的に伝えていた。そこから程なくして再びステージへと舞い戻ったメンバー。ただ興奮しきりの観客たちによる拍手はメンバー全員が定位置に着くまで鳴り止む気配すらなく、意を決してもっさが『笑っていいとも!』のタモリよろしく『パン・パパパン』のリズムで拍手を静めようと試みるも不発。結果もっさのアンコールの第一声が「えっ……みんな(この拍手の止め方)知らんの……?」になってしまうという、ある意味では最高のスタートである。


その服装も本編とは様変わりしており、もっさは『ロゴワッペンBIG T』を、それ以外のメンバーは今回のライブの物販で販売されている『FREAKツアーTシャツ』のライトブルー色を着用。そこからはもっさ主導で怒濤のライブグッズ紹介が行われ、『ロゴワッペン BIG T』など一部のグッズはメンバーがパソコンで地道にデザインの基盤を作っているという裏話の他、新作グッズの『LIVE ENJOY PASS』は適当な場所に貼り付けてもらうことで、何年後かにふと見付けたときに「こんなライブもあったなあ」と思い出してほしいとの思いから作られたものであることや、もっさお気に入りの『こだわりボディバッグ』がバックの紫色が思っていた色合いより少し明るかっために、もっさが「伝えたのと違うじゃないですか!」と朝日いわく「業者とバチバチにやり合った」逸品であることが伝えられた。ただそうした一幕さえ「私けっこう怒ると怖いタイプやから……」と隠された一面を語るもっさに対して、朝日が「怒ってるのかふざけてるのか分からん」として笑いに変化させると、気を取り直してアンコール楽曲披露へ。

 

ネクライトーキーMV「明日にだって」 - YouTube

ネクライトーキーLIVE 「明日にだって」/ NECRY TALKIE - Ashitani Datte (Live at TSUTAYA O-EAST) - YouTube


アンコール1曲目に選ばれたのは、もっさが作詞作曲を担当したライブアンセム“明日にだって”。本編を終えて肩の荷が少し下りたからなのか、メンバーも先程の“Mr.エレキギターマン”と比べれば幾分地に足着けた演奏に終始しているし、観客についてもアンコールの拍手とその後のMCで一旦熱量がフラットになっている。ただそれは決してダウナーな雰囲気という訳ではなく、取り分けネクライトーキーの中でもシンプルに心情を歌った“明日にだって”の歌詞によりフォーカスを当ててしっかり届ける意味で、気負いし過ぎず楽曲に耳を傾けることが出来るこのアンコールでの披露は最適解だったように思う。


そして正真正銘最後に披露された楽曲は、もっさによる「最後の曲です!遠吠えのサンセット!」との一言から、これを聴かなければ帰れない“遠吠えのサンセット”だ。まずは原曲と比べてBPMをかなり落としたアレンジから歌声とサウンドを緩やかに響かせるも、サビに突入した瞬間に一気に早くなり、2番に入れば再び緩やかなスピードに戻っていく。その際にもっさが満面の笑顔で叫んだ「また米子でライブしたいです!」との言葉は、きっとこの1年半にも及ぶ自粛期間中、都市部で様々行われてきたネクライトーキーのライブ参加を断念せざるを得なかったこの日山陰地方から訪れた観客にとって、とても感動的に映ったことだろう。そうした思いすら携えて楽曲はますます熱を帯びていき、スピードアップした後は朝日がストラップを基軸とし、もはやマイクスタンドやアンプにぶつけんばかりの勢いでギターを振り乱しながら感情が肉体を凌駕したようなカオスな演奏をお見舞い。そして終盤10秒間は当初のゆっくりしたスピードからはおよそ2倍速程度上がってのどしゃめしゃな演奏になり、ラストは全員がジャーンと鳴らすタイミングを変顔をかましたタケイが意図的に数拍ズラす形で終了。演奏が終わり、全員がステージを後にする中、もっさが双眼鏡の形に構えた両手を目に当てながら客席を見渡し「(みんなの顔を)覚えたい……」とじっと見ながら、あまりに興奮なライブは終幕した。

 

ネクライトーキー「遠吠えのサンセット」一緒に視聴動画 - YouTube


……待ちに待った1年半ぶりのライブに際して、正直な気持ちを語ってしまうと、後ろめたい気持ちもあった。実際、家族や友人らに今回のライブに参加することを伝えると皆一様に反対したし、そこには隣県と言えどこのコロナ禍において県外へ遠征することの危険性が一番だろうが、やはりどこかライブハウスという場所に対してのある種の『不要不急』さと、昨年春あたりにメディアで取り沙汰されていたような『ライブハウス=三密』のイメージが強いことも影響していたように思う。……この1年半「ライブに行きたい」と半ばうわ言のように周囲に語るたび、様々な反対の声が飛んできた。「今は止めといた方がいい」「オンラインで良くない?」「声も出せないしモッシュも出来ないライブって楽しいの?」等々。だが最悪、自分だけが感染する可能性があるのならばまだいいが、もしも感染してしまった場合、同居する家族や親しい友人、勤務先にも多大な影響が及び、後ろ指もさされてしまう。だからこそライブに行きたい思いを1年半必死に押し留めていたし、特に今年に入ってからは全国各地でやっとアーティストによるライブツアーが多く開催されファンが感謝の声を上げる中で、アーティストもほとんど来ない田舎でじっと待ち続ける辛さもあった。ともあれ大人の身だ。未だ収束の見通しの立たないコロナ禍で、今まで通りライブを我慢し続けることも出来るだろう。ただこのままライブに行かなかった場合、何か自分にとってとても大切な何かが消えてしまう気がしたのだ。


翻って、5月15日。僕はある意味では度重なる忠告も世間体も無視して、この日ライブに参戦した。そしてその記念すべき1年半ぶりのライブがネクライトーキーだったことは、何よりの最適解だったように思うのだ。何故ならそのライブはこれまで長々と綴ってきたように「音を届けたい!」と尽力する演者と、様々な制約を遵守しながら躍動するオーディエンスが作り上げる素晴らしい一体感……つまりは生ライブとして爆音を浴びることの出来る幸せを強く強く感じた、とても偶然の一言では片付けられない運命的な代物だったから。


……随分と久方ぶりに経験するライブ余韻に浸りながら帰路に着く。始まる前は「号泣してしまうかもしれない」と覚悟していたものだが実際はそんなことはなく、表面上は至ってフラットだった。だが心の中ではいろいろな興奮が渦巻いていて、その言語化不能の感情こそが生ライブの素晴らしさなのだと改めて感じた。次のライブがいつになるかは分からないが、早くその時が訪れてほしいと願う。……そう。やはり音楽は、ライブは、不要不急なんかじゃないのだ。


【ネクライトーキー@米子laughs セットリスト】
気になっていく
はよファズ踏めや
北上のススメ
オシャレ大作戦
踊る子供、走るパトカー
カニノダンス
ぽんぽこ節
八番街ピコピコ通り
俺にとっちゃあ全部がクソに思えるよ
許せ!服部
豪徳寺ラプソディ
思い出すこと
大事なことは大事にできたら
続・かえるくんの冒険
だけじゃないBABY
ふざけてないぜ(新曲)
誰が為にCHAKAPOCOは鳴る
レイニーレイニー
こんがらがった!
Mr.エレキギターマン

[アンコール]
明日にだって
遠吠えのサンセット

不要不急のライブ

約1時間後に迫る米子laughs行きの電車を待つプラットホームで、この文章を書いている。前日はなかなか眠れず、昼になってもどこか無思考。それではいかんと道中でゲームセンターや書店に足を運んだりもしてみたものの、どこかフワフワとした思考が拭えなかった。この気持ちは、そう。ともすれば爆発してしまいそうな興奮を心が全力で押し留めている感覚に近い。こうした幸福たる情緒不安定に陥るのも、思えば1年半ぶりだった。

生活からライブがなくなって1年半、僕はどこかずっとネガティブに生きてきた。元々「ライブが好きです」とはよく吹聴していたものだが、待てど暮らせどライブが開催されない未曾有の危機を経て、自分にとってライブとは生きる目的であるということにも改めて気付かされた1年でもあったのだ。ただ同時に……これはライターとしては明らかなウィークポイントだろうが、ライブが開催されない現状では僕は対してアルバムも聴かない人間なのだということにも気付くことが出来た。出演アーティストの予習のためにアルバムを買って、聴く。そしてライブに参戦し、予習した楽曲群の更なる魅力を知ったらまた帰宅後にアルバムを聴いて「この曲やったなあ」と感慨に浸り、だんだんと生活の一部になるほど聴き込んで完全なるファンになる。やはりこうしたサイクルこそ、個人的には必然なのだ。

同じくライブへの風当たりが悪くなった昨年あたりから、ライブの在り方を考えることも多くなった。実際先述の通り僕個人のセラピー的意味合いで考えれば間違いなくライブは必要で、不要不急の対象としてライブシーンが槍玉に上げられることに対して怒りを覚えたけれど、それはライブに足しげく通う者にとってのみ当て嵌まる話。別段「音楽はほとんど聴かないよ」といった層や「音楽は好きだけどライブには行ったことがないよ」という人も大勢いるわけで、そうした人たちにとってはやはり我々がどう言おうと『不要不急』なのだろうと思う。実際今回「ライブに行く!」と友人や家族らに伝えたところ100%の確率で反対されたし、これに関してはライブでなくともゲームセンターや飲み会、風俗、映画館、漫画喫茶、オリンピックでさえ色々な見方がある。ただ「これはOKでこれはダメ」との線引きがされていない以上、後はその人にとってどれほど重要な存在なのか、またそれに参加するにあたってどれほどの責任を持って向かうのか、個人の価値観とモラルが大切になると思う。

そして僕は今日、1年半ぶりにライブに参加する。ちょっとばかし時間が経過し、今はライブハウスに入場した直後だが、席は元々のキャパ300を大きく減らして、地面の観覧位置を合計しただけだがスタンディングで約58席。もちろんアプリインストールやチケットもぎりは自分で、といった万全の感染対策もされ、集まったファンも一様に一言も声を発することなく、直立不動でその時を待っている。ライブ開始まで残り10分。全てが終わったとき、僕はどんな感情になるのだろう。さっぱり想像もつかないけれど、きっと何かが変わる気がする。