キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼・執筆実績はこちらからお願い致します。https://www.foriio.com/kitagawanoblog

【ライブレポート】B'z・10-FEET『SOUND CREATOR 50th Anniversary Live ULTRA MISSION』@大阪城ホール

特に関西圏のライブシーンに足繁く通う音楽好きであれば、一度は聞いたことのあるであろう会社がある。その名は『サウンドクリエイター』と言い、主に関西を中心としたイベントやコンサートの企画、運営などを行うプロモーターとして知られている。

今回の大阪城ホールでのライブは、そんなサウンドクリエイターの創立50周年を記念して行われる特別公演。出演バンドは、なんとB'zと10-FEETという誰が聞いても唸るほどの超豪華布陣!当然チケットは即完売となり、大阪城ホールの会場には、着席型のライブとしては最大収容人数とされる約1万6000人(!)ものファンが集まり、会場の外では既にほとんど身動きが取れないほどの密集度合い。更には様々な企業から届けられた大量の花束の撮影場所の設置、ライブペイント、記念グッズも完売と異例づくめの状況であったこともあり、この時点で「ヤバいライブになりそう……」という予感は、多くのファンが抱いていたことと推察する。

会場の中に入ると、外で感じていた以上に大勢のファンがおり、まずビックリ。けれども対照的に演奏されるステージは非常にシンプルな作りで、背後には今回のライブのロゴが描かれた幕が降ろされ、左右に大型モニターが鎮座するのみ。僕自身はこれまでRADWIMPSやヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。といったアーティストのライブをこの会場で観たことがあるが、そのどれもが背後の巨大なスクリーンを用いて特殊映像を流すことが多かった。ただ以下の10-FEET・NAOKI氏のツイートでもある通り、背後のスクリーンを完全に撤廃していたのは今回のライブが初めて。ロックバンドらしく正面からぶつかろうという気概さえ感じる無骨さは、今回の最適解だったようにも思える。

定刻を過ぎると、暗転。すぐさまライブが始まるかと思いきや、まずは今回の企画の発起人・サウンドクリエイターの紹介映像がモニターへと映し出される。50年前に音楽好きの有志によって創業されたこと、様々な困難を乗り越えてきたこと、そして今では年間数百のイベントを主催しつつ「ファンの喜ぶ顔が見たい」との思いで活動していることなどが列挙されると、ここからはライブ前の約束コーナーへ。ここでは絶対に守ってほしい約束事として『撮影録音の禁止』や『飲酒禁止』といったマナー的なものが語られた他、ラストに『全員が全力で楽しむこと』と映し出された瞬間には、集まった1万6000人による地鳴りにも似た拍手が鳴り響いていた。

10-FEET・NAOKIの友人であるお笑い芸人・サバンナ高橋によるVTR(SEが長いのでタオル掲げすぎると腕が痛くなる、京都大作戦でファンに担ぎ上げられたこと)などを語ると、いよいよ10-FEETの出番に!もはや恒例となったSE『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』が先述の通り長時間流されると、タオルを掲げるファンの目の前でTAKUMA(Vo.G)、NAOKI(B.Vo)、KOUICHI(Dr.Cho)がニコニコ顔で登場。3人が握り拳をガチンと叩き合う光景もいつも通り。開演前にXに「泣きそう」と投稿していたNAOKIも満面の笑みである。

遂に始まった伝説の1日。その幕開けを飾ったのは、10-FEETの代表曲たる“VIBES BY VIBES”!TAKUMAが「GO!」と叫んだ瞬間から一気に盛り上がる、これまでライブハウスで幾度となく観てきた高揚が爆音で襲い掛かってくる様はやはり圧巻。この日のライブは全席指定であった関係上、彼らのライブで定番となっているモッシュ、ダイブなどの行動は当然ながら出来ない。その点のみを考えればある意味では生殺しのような状況下ではあったものの、そこは長年積み重ねてきた10-FEETとファンの信頼関係でカバー。自席でツーステを踏みまくるレアなライブキッズを何人も観たし、Tシャツなどから察するに明らかにB'z目当てに参加したと思われるファンも、集まった全員の身体が一気にライブモードになったのはこの瞬間だった。

少し話は横道に逸れるけれど、ライブハウスなどでツーマンライブに足を運んだ際、スタッフから「どのバンドをお目当てに来られましたか?」という質問を高確率で求められることがある。この日のライブはそうした質問こそなかったけれども、倍率的にも参加者のTシャツ着用率的にも、全体として約7割ほどはB'zを目当てにしたファンだったと思われる。ただそこは今や京都大作戦を含め、10代や20代の若者にも一目置かれる10-FEET。長年愛され続けるB'zのファンにとってもすぐに好きになってしまうような、熱いライブを繰り広げてくれたのがこの日の彼らだった。

一方で10-FEET自身は、憧れの大先輩との対バンに大いに緊張していた様子。この日初めてとなるMCでTAKUMAは「俺とお前らは、同じ気持ちや。その気持ちを今から一言で言うわ」と前置きしつつ「早くB'zが見たい」と語って早くも大爆笑を起こしていく。特にカラオケやDJで必ずB'zの楽曲を流すことでも知られる大ファンのNAOKIに関しては「吐きそうです……」と心情を吐露。爆笑に包まれる中、次にTAKUMAは「俺たちを初めて見た人の気持ち当てたるわ。『ちょっと苦手……』。 でも最後まで見たら、絶対にこう思うはずや。『やっぱり苦手……』」と自虐ネタで盛り上げながらも、続いては「僕らの曲で一番売れたやつをやります」と“RIVER”へと雪崩れ込んでいく。

ファンとしてはお馴染みの楽曲“RIVER”だが、この楽曲のライブアレンジは何年かの間、様々な形で変遷を続けてきた。今回彼らがこの巨大な会場で試みたのは『楽曲中のウェーブ』で、TAKUMAはラスサビ前に「みんなスマホのライト点けてくれるか?ウェーブ作ろう」と指示。前から後ろ、後ろから前へと波状に光が動いていく様は本当に綺麗で、夏場の野外、ないしは小規模な会場では絶対に出来ない特別感があった。そんか感動があったかと思えば、その後の「セイ!ウォーオオー!」とコール&レスポンスをする恒例の場面ではTAKUMAが「セイ!」と促してファンが熱唱したにも関わらず「うるさい……だまれ……」と静止して爆笑の展開に持っていくのは10-FEETならでは。いつの間にかB'zのファン含めた全員が、彼らの虜になっていた。

以降は“壊れて消えるまで”、“第ゼロ感”という映画主題歌2連発を経て、盤石のライブアンセム“その向こうへ”へ!ギターリフが鳴り響いた瞬間から大盛り上がりの会場の元へ、絶大な熱量で立ち向かっていくエネルギーはライブバンドのそれで、改めて10-FEETが愛される理由を垣間見た気もした。またどこまでも全力で歌うTAKUMAの歌唱ゆえ、この時点でTAKUMAの声は涸れており、特にサビ部分では全力を通り越して魂で歌うような場面も見られたけれど、これも10-FEETのライブではお馴染みの光景。だからこそ、出し惜しみせず思いをぶつける彼らの姿を見ていると、心の底から励まされるのだ。

そうして「ここに集まったみんな、家族や学校や仕事や……いろんな悩みを抱えながらライブに来てると思う。でもたくさん傷付いた人は、きっと同じくらいたくさん人に優しく出来ると思うねん。そういうことを歌った曲をやります」と語って鳴らされたのは、メッセージソングたる“蜃気楼”。人間関係で様々なものを見失っても、信じていたものが遠くに消えても……。絶対に明日は来るのだと強く肩を叩くこの楽曲を聴いて、思わず涙を浮かべてしまった人はきっと多かったはず。そして同時に“蜃気楼”は、この日笑顔で場を温めていたTAKUMAの人間性を如実に表している訳で、彼らがここまで多くのファンやバンドマンに慕われる理由を、強く抱かせるものでもあったと思う。

強い説得力を携えた“ヒトリセカイ”を終え、最後に選ばれた楽曲は“goes on”。KOUICHIのスリーカウントを経て、TAKUMAによる「飛べー!」の合図と共に巨大な人の海が出来上がったフロア。TAKUMAは歌詞の一部を《大阪のみんな楽しんでますか〜》に変化させつつ、サビでは突然「みんなしゃがめ!」と伝達。全員がしゃがんだ(実際は椅子に座ってたけど)ことを確認すると、サビで一気に立ち上がらせ、この日一番の盛り上がりへと繋げていく10-FEETである。ただ、彼らは最後まで笑いのエッセンスを絶やさなかった。ラスサビを終えると、TAKUMAは「みんなもう一回しゃがめ!ジャンプして終わるぞ!」と前置きしたものの、ここで音がブゥーン……という音を残しながら消滅。飛び上がる準備をしていたファンをよそに、満面の笑みで「逃げろっ!」とステージ裏へ全力ダッシュするメンバーたち。一拍置いて、掌の上で転がされていたと察したファンは一様に大爆笑。こうして彼らのライブは、笑いの渦に包まれながら幕を下ろしたのだった。……始まる前は、アウェーかと思われたライブ。ただ終わってみれば、B'zとの対バン相手は彼ら以外に考えられないと確信するほど、大盛り上がりの代物となった。

【10-FEET@大阪城ホール セットリスト】
VIBES BY VIBES
スパートシンドローマー
RIVER
ハローフィクサー
壊れて消えるまで (新曲)
第ゼロ感
その向こうへ
蜃気楼
ヒトリセカイ
goes on

 

10-FEETの余韻が長く続く中、会場には熱量の他に、いつしか緊張感さえ漂っていた。それもそのはず、次の出順は伝説的ロックバンド・B'z。正直なところ、この日集まったファンは『B'zを観たい』という熱狂的なファン、もしくは『B'zを観たことはないけど機会があれば観たかった』というロック好き、どちらかに必ず分類されるように個人的には思っている。……つまりは全員のお目当ての中に『B'z』の名前が入っていたことは、疑いようのない事実だろう。

10-FEETと同様、開始前はバンドにゆかりのある芸能人からのVTRがモニターに映し出される。10-FEETがサバンナ高橋であったことから大半が予想できていたように、モニターに現れたのはこれまで何度もファンを公言しているブラックマヨネーズ・小杉。小杉は松本のギターと稲葉の歌声を改めて高く評価しつつ、最後は代表曲“ultra soul”の掛け声をファンと練習。存分に温まったところで、遂にB'zのライブが幕を開けたのだった。

神妙なSEと共にまずステージに現れたのは、白髪&サングラスが印象的な松本孝弘(G)。松本は巨大な歓声が挙がる中でギターを手にして重いギターサウンドを響かせていくのだが、とにかく音がデカい。それは後にバンドメンバーが合流し、ジャムセッションの様相を呈した頃も変わっていなかった。ふと疑問に思い松本の背後を見ると、そこにはうず高く積み上がった大量のアンプが!B'zにとってはお馴染みの光景ではあるものの、様々なバンドのライブに足を運んだ経験のある人でも、このような特別仕様のセットを見た人は初だろう。

それらの驚きを噛み締めていると、いつしかステージには稲葉浩志(Vo)が!そのままの流れで始まったのは昨年にリリースされたアルバム『FYOP』からの“濁流BOY”で、早くもB'zがB'zとして君臨する、その真髄を目の当たりにすることとなった。バックバンドの演能能力の高さもさることながら、やはり稲葉と松本によるバンマス感(オーラに近いところもある)は異質で、ふたりを中心に全てが回っている感覚さえ抱いてしまう。中でも稲葉のフロントマン然とした立ち振る舞いは芸術的でもあり、60歳を超えているにも関わらずブレない歌唱、ステージの端から端まで動いているのに上がらない息、筋肉質な身体から漂う色気……などなど、同じ人間かどうかも疑わしくなるような魅力に溢れていた。

以降は“IT'S SHOWTIME!!”や“ねがい”など、長らく愛されてきた代表曲を惜しみなく投下。当初ハンドマイクだった稲葉の武器に“IT'S SHOWTIME!!”では金のマイクスタンドが付けられ、それをブンブン振り回しながら歌う様は圧巻で、ドカンと鳴る舞台装置など、大仰なものは不必要。とにかく演奏と歌だけで掌握する力強さが、彼らをここまでの地位へと昇りつめたのだろうと再認識。また本来演者が見辛いステージの端……いわゆる『見切れ席』にも移動して手を振るサービスを行う姿も、ファンを大切に思う気持ちが伝わってきて素晴らしかった。

そして“イチブトゼンブ”で、ライブはひとつのハイライトを迎える。多数ある楽曲のうち『B'zと言えばこの曲』と挙げる人も多いであろう“イチブトゼンブ”。稲葉の歌声のブレなさについては先に述べた通りだけれど、ここで注目したいのは松本の演奏。荒々しいサウンドを響かせているものの、彼のアクションには過剰なものが一切ないのだ。それは淡々と弾くロボットのような凄さを一度は感じてしまいがちだが、よく見ると実際は細かなタッピングなども行われていることが分かる。要は演奏が上手すぎるあまり、一見すると機械的(というか簡単そう)に見えてしまっているだけなのだ。そんな演奏をじっと見ていた僕だったが、サビの《愛しぬけるポイントがひとつありゃいいのに》の場面ではファンが一本指を立てて呼応する姿を見てハッと我に返ったりも。とにかく目を離しても良いと思える瞬間が全くない。

アルバムツアーを同会場で数日後に控えているB'z。この日のセットリストの中心を担ったのは『FYOP』からの楽曲であり、ここからは“FMP”や“Heaven Knows”といったアルバムからの楽曲が次々投下されていくゾーンに。また長いギターソロで松本がハードロック色の強い演奏を繰り広げる場面もあったのだが、ディープ・パープルの“Smoke On The Water”のワンフレーズを弾き倒したりもしていて、思わず「やっぱり影響を受けてるなあ」などとしみじみ思ったり。ただ日本におけるハードロックバンドでここまでの地位を確立したのは、B'zだけ。『ハードロックをお茶の間に浸透させた』という功績も含め、やはりB'zは偉大だなと。

“さまよえる蒼い弾丸”の凄まじい盛り上がりを終えると、ここで稲葉が「今日という日を一緒に盛り上げてくれた10-FEETを呼んでもいいですか!」とまさかの一言。そうして一際大きな声援が飛ぶ会場に現れた普段着のTAKUMA、NAOKI、KOUICHIら10-FEETメンバー3人……だったのだが、よく見ると3人ともがピクピクと表情筋が動く、謎の笑顔を浮かべている。もちろんこれは憧れの先輩に呼び込まれた極度の緊張によるものであり、TAKUMAは「緊張なんかしてないです。あの……全然緊張してないです」と足をブルブル震わせながらトーク。中でもとてつもなく緊張していたのは、先程のMCでも大ファンを公言していたNAOKI。稲葉とガッチリと握手をしたNAOKIは目にうっすら涙を浮かべており、彼にとって今日という日が如何に大切だったのかを、雄弁に物語っていた。

……という訳で、この日最後の楽曲として鳴らされたのは、これを聴かなければ帰れない“ultra soul”!言うまでもなく日本国民誰しもが歌えるであろう超名曲を、今回は10-FEETを招いたスペシャルバージョンでお届けだ。特別な一夜であることもあってか、稲葉は歌唱の大半を10-FEETに任せ、自身はメンバーと肩を組んだり笑い合ったりとご機嫌。対して半カラオケ状態の10-FEETのメンバー3人は、大先輩の演奏に気を遣いながら歌っているという対比があまりにも面白く、会場はこの日一番の盛り上がりに。当然《そして輝くウルトラソウル》→「ハイ!」の流れもバッチリ決めつつ、最後はB'zのライブではお馴染みとなる「お疲れー!」のコールで締め。……かねてよりのファンはもちろん、今回初めてB'zを観る新規層も全員大満足させる、さすがのパフォーマンス。日本におけるロックの代表的なバンドにB'zが挙げられて長いけれども、その理由を明確な形にして魅せた、完璧なライブだった。

【B'z@大阪城ホール セットリスト】
濁流BOY
IT'S SHOWTIME!!
ねがい
イチブトゼンブ
イルミネーション
FMP
有頂天
Heaven Knows
さまよえる蒼い弾丸
ultra soul (feat. 10-FEET)

【ライブレポート】never young beach『Spring Tour 2026』@Zepp Osaka Bayside

never young beachの春ツアー、その名も『Spring Tour 2026』。その大阪公演へと足を運んだ。ロックバンドにとって、ツアーは毎年恒例のアクションではある。けれども今年のネバヤンは未だライブ稼働はゼロ。……つまりツアー初日の今回の大阪公演は、我々ファンにとっても楽しみな気持ちはあれど、それ以上に彼らにとっても新たなスタートを飾る運命的一夜だったはずだ。

ネバヤンの明るい雰囲気とは真逆の、ジメッとしていた雨模様も開場前にはピタリと止み、会場付近では早くも密集する人の多さに圧倒される。ちなみに僕の整理番号は1600番台だったのだが、その後ろにもまだまだ多くのファンが待機していたのが驚き。当日券も制限なく売り出されていたので、最終的な客入りはソールドアウト状態だったことだろう。

定刻の19時ジャストになると、暗転。まずは巽啓伍(B)と鈴木健人(Dr)の2名が一段上がったステージに立ち、各々の音を確かめることで徐々に熱を高めていく。しばらくするとそこに盟友たるサポートメンバーの岡田拓郎(Gt)、下中洋介(Gt)、香田悠真(Key,Pf)が加わったことで、気付けば音数はどんどん増えジャムセッションの様相。なおこの時点では照明はまだ暗く設定されていて、メンバーはほぼシルエットの状態だ。

そんな中、片手をひょいっと挙げてニコニコ顔でステージへと現れたのは、フロントマンの安部勇磨(Vo.G)。瞬間、照明が明転し鳴らされたのはオープナーの”春を待って“だ。もちろんファンである我々は大興奮で当初は「うおおお!」と歓声も上がったものだが、そこは流石のネバヤン。安倍がフニャッと笑いながら「会いに来たよ〜」「いいねぇ〜」と要所要所で客席を指差すものだから、一気にムードは朗らかなものに変化。《bye byeよ チャウチャウよ》という不思議な合いの手も相まって、まるで野外で芝生で寝転がりながら聞いているような、緩い満足度が会場を包んでいく。ちなみにここでようやく、全員がオレンジのスーツを揃って身に着けていたことが分かる。

間髪入れずに投下されたのは、こちらも爽やかなナンバー”気持ちいい風が吹いたんです“。キッチンから香るバターの匂い、ベランダで揺れるシャツ、テレビを眺めながらパンケーキを待つ僕……。ネバヤンの歌詞は活動当初より、抽象的な幸福、もしくは日常を切り取った風景を描写するものが多い。けれどもそんな取り繕わない歌詞こそが、グッとリアリティを伴って迫ってくるのがネバヤンである。また難しい表現を一切使わず、誰にでもスッと入ってくる歌詞に終始しているのも素晴らしく、特にこの楽曲では絵本の一幕のような、ふわりとした幸福を感じた次第だ。

今回のツアーはアルバムのリリースタイミングではないのでセットリストが気になるところだったが、一言で表すならば音楽サブスクで『never young beach』と検索した時に、上位に出てくる楽曲をほぼ網羅したような現時点でのベストセット。ちなみにその中でも最も比率が高かったのは最新アルバム『ありがとう』からの楽曲群であり、後のMCで安倍が語っていたように「曲を作り続けてると、昔の曲はライブでどんどんやらなくなっていく」という事実を(良い意味で)体現した感覚があった。一方で、これは後半で記すけれども、これまでライブでほぼ毎回……というか必ず鳴らされていたとある代表曲が、今回の公演ではセトリ落ちする衝撃的な場面も。これも彼らが次へ向けて躍進している、ある種の証明なのだろうなと。

この日初となるMCは、安倍の「何か凄かったね……」との一言から。実はこの時点で下中のギターにはトラブルが発生しており、スタッフが駆け寄る場面も何度かあったのだが、それを指して「急に音がデカくなったと思ったら出なくなったり……。でもそのたびにみんなが盛り上げてくれて。ありがたいね」とフォロー。ただその発言にすかさず「ウオー!」と叫ぶ前方のファンに、安倍が「何か今日、下中のところのファン変な人多くない?」とツッコミを入れるのは御愛嬌。なおこの日のライブは関西圏だからなのか、とにかくファンからの野次が多かったのも特徴的。そのたびに安倍が「えっ?聴こえない!何?」と聴き返して更なる笑いを生むという循環は、なかなかレアなものがあった。

体がゆらゆらと自然に揺れた”哀しいことばかり“、スティール的なギターが印象的な”毎日幸せさ“を終えると、安倍は「ここからは夏っぽい雰囲気にしたい!」とモード変更を宣言。という訳で以降は人気のアルバム『YASHINOKI HOUSE』と『fam fam』から、夏の雰囲気を感じさせる楽曲を連続して投下。BPMを原曲から大幅に落としたアレンジで聴かせた”夏がそうさせた“、常夏を連想させる”ちょっと待ってよ“など様々な人気曲が鳴らされた中、最も盛り上がったのは”Motel“。飛び道具的な速弾きを繰り出す岡田と下中のギター、そして安倍によるギターというトリプルギターが織り成すアンサンブルはやはり、ネバヤンの大きな魅力。その中心で歌う安倍も、バイクのエンジンを吹かすようなお茶目なアクションを行いつつ、心底楽しそう。

個性強めのファン(主に熊本から来た30歳男性)とのやり取りをひとしきり終えると、安倍は「俺たち去年武道館でやったんだけど、そこで披露した新曲をやりたいと思います」と一言。その瞬間に会場のどこかから放たれた「大好きだよー!」の絶叫に安倍がサムズアップをして披露されたのは、”だよ“と名付けられた新曲である。ネバヤンらしいメロウな雰囲気を携えながらも、サビ部分で《大好きだよ》と繰り返し伝えるこの楽曲は、安倍の優しい人間性をしっかり表している意味でもグッと来た人も多かっただろうと思う。親しい間柄の人……そう連想する先が恋人なのか友人なのか家族なのかは聴く人にとってそれぞれ違うだろうけれど、「感謝の気持ちを極限まで凝縮するとこの言葉になる」という、どこか真理を突いたようなストレートさには思わずグッと来てしまった次第だ。

ここからは後半戦。安倍が「いよっ!」と声掛けをして始まった“らりらりらん”、歌詞の一部を絶叫するお馴染みの一幕で会場が一体となった“どうでもいいけど”、安倍が全身で踊りながらハンドマイクで歌唱したロックナンバー“Oh Yeah”……。比較的アッパーな楽曲が連続で鳴らされる中でも、どこか風が吹き抜けるような穏やかな気持ちになってしまうのはやはり、ネバヤンのライブならでは。ふと周囲を見ても、踊り狂っている人もいればビールを飲んで揺れる人、直立不動で凝視する人など様々。Creepy Nutsや星野源など、昨今は多くのアーティストが「好きなように楽しんでください」とライブの在り方を発言することも増えてきたが、ネバヤンはそうしたMCもなく、音楽だけでそうした空気感を作り出していたのは驚きだった。  

「けっこう曲やったと思うんだけど、今何時?」と安倍がファンに問い掛けたのは、“STORY”の後。手元の時計を見ると時刻は20時。ここまでの曲数をやりながらまだ1時間しか経っていない濃密さを実感しながら、安倍は「実はもうラストスパートではあるんだけど、早くない……?俺もっとやってたと思った」と爆笑。その声に「もっとやってー!」の声が飛ぶ中、なんと安倍は「1曲増やしていい?」とメンバーに確認!次いでメンバーひとりひとりの側まで歩み寄って耳打ち(おそらくどの曲をやりたいかの説明)すると、「じゃあ、今回のツアーでやる予定なかったんですけど、“なんかさ”という曲をやります」と語り、楽曲がサプライズで鳴らされた。というより、昨年『真夏のデンデケデケデケ』という謎名義でサプライズ出演したフジロックでも1曲目に選ばれたこの曲を、そもそもセットリストに入れていなかった……というのは意外だが、とにかく素晴らしい盛り上がりだった。

本編最後に鳴らされたのは、こちらのお馴染みのキラーチューン“SURELY”。特に「最後の曲です」といったMCもなく、あまりにもヌルっと始まったのでこれがラストナンバーとは思っていなかったが、締め括りの楽曲としては満点。別れの先に出会いがあり、また出会いの先には新たな別れがあるというこの楽曲のタイトルを『SURELY(きっと)』と名付けたのも、そしてこれまで披露された楽曲で難しい言葉を使わずに、必ず日常の風景をイメージできるようにしているのも。全ては安倍なりの幸福感なのだろうなと思った。

暗転後にすぐさま鳴り響いた手拍子に誘われるように、再びステージに姿を現したメンバーたち。一気に盛り上がるフロアを観ながら、安倍は「やっぱ大阪の人の熱量って凄いなあ。ここがツアーの最初だから、これから俺らは大阪と他のファンを比較する感じで観ちゃうかも……」と半笑い。そして「もうひとつ新曲を持ってきていまして。”愛の星屑を“という曲です」と説明すると、アンコール1曲目はネバヤンの新機軸を見せたこの楽曲から開始。

ピアノの旋律をサウンドの中心に据え、ゆったりと歌い上げる歌謡曲的な”愛の星屑を“は、リリース当初こそその独特の存在感に圧倒されたものだ。しかし今回ライブで披露されたこの楽曲は、肉体的な思いの乗せ方も相まってか、涙腺が緩んでしまうほど、とてつもない感動を個人的に抱いてしまった。もちろん強い存在感を放っているのは安倍の歌声で、それは加山雄三や玉置浩二のような往年のアーティストを思わず想像してしまうほど。テイスト的にも、フェス会場などで披露される場面は限られそうではあるが、音楽好きは絶対に一度は聴くべき大名曲だ。

「さっきはいきなりライブ終わってビックリしたでしょ。『まだアレ聴けてないんだけど!』って思ってる人もいるんじゃない?」と、おもむろに話し始めた安倍。たしかに現時点でまだ鳴らされていない代表曲は多数あり、本編が終わった瞬間に「◯◯やってなくない?」といった驚きがファンの間で共有されていた程であった。しかし安倍はここで衝撃の発言をした。「今回は新しい試みとして、いつも絶対にやってる曲を『やらない』っていう選択をしてみようかなと」

ここでこの記事の冒頭でも記した内容を補足すると、安倍が語ったMCの通り、今回は常に披露されてきた楽曲……詳しくはYouTubeで1000万再生を超えている代表曲たる“お別れの歌”が、おそらくリリース以降初めてセットリストから外された。それはこれまで何年もお馴染みの光景になっていた『”明るい未来“→”お別れの歌“を連続で披露してフィナーレを迎える』という流れが終わったことを意味しており、またネバヤン的には逆に『どんな終わりを迎えても許される』という、新たなフェーズに突入したことにもなる。

「残り3曲やります!」との嬉しい一言から始まったよもやのロング・アンコール。まず投下されたのはキラーチューンたる”あまり行かない喫茶店で“!「いつも絶対にやってる曲を今回はやらない」と語っていた先程のMCは何だったのかと思うほどの熱狂だが、安倍は「やりますよそりゃあ!」とご満悦。続く”明るい未来“では半カラオケ状態で全員が歌う、あまりにも多幸感に満ち溢れた環境に。国内情勢やら戦争やら、物価高やら何やら……。いつの時代も悩み事は尽きないけれど、少なくともこの楽曲で笑えているうちは大丈夫だと、そう強く確信したひとつの終着点がここだったように思う。

これまでの”お別れの歌“に代わる正真正銘ラストの楽曲は、ネバヤンきってのサマーナンバー”夏のドキドキ“!楽しそうなギターの音色から、コーラス部分も思わず歌ってしまうアッパーなこの楽曲。照りつく太陽の下でサイダーを飲む……という何でもない行動から《うまくはちょっと言えないけれど 何でもできる そんな気がする》とポジティブに思考変換する朗らかさ。そして《悩んでいる暇はないでしょう カブトムシに笑われちゃうわ》という、そもそもネガティブなことを考えること自体を辞めちゃおうよ!と言っているようにも思えるフレーズも含め、この楽曲にはネバヤン魅力の全てが集約しているようにも思えた。……全体の時間は2時間弱。ともすれば短いようにも感じるけれど、集まった誰もが大満足する、あまりにも濃密なライブだった。

【never young beach@大阪 セットリスト】
春を待って
気持ちいい風が吹いたんです
哀しいことばかり
毎日幸せさ
夏がそうさせた
Motel
ちょっと待ってよ
蓮は咲く
夢で逢えたら
こころのままに
だよ (新曲)
らりらりらん
Hey Hey My My
どうでもいいけど
Oh Yeah
STORY
なんかさ
帰ろう
SURELY

[アンコール]
愛の星屑を (新曲)
あまり行かない喫茶店で
明るい未来
夏のドキドキ

個人的CDアルバムランキング2025 [10位〜1位]

さて、1年ぶりの音楽アルバムランキングである。昨年は音楽自体に触れる機会が少なかったので選出どころではなかったのだが、今年は一転して音楽を聴く余裕があり、心から音楽を楽しめるようになったため、再開の運びとなった。

今回は20作品ではなく10作品に絞り、簡素に紹介(というより今までが長すぎた)。気になる楽曲があれば、ぜひMVも含めて楽しんでほしい。


⑩SABLE, fABLE/Bon Iver
(2025年4月11日発売)

【6年の空白と、その歴史】

2006年結成の米バンド、ボン・イヴェール。実に6年ぶりとなる今回のアルバムは、昨年リリースされた『SABLE』と『fABLE』という2枚のアルバムを合わせた特殊な形態でリリースされた。アコースティックギターの調べに乗せて、リバーブがかった柔らかな歌声を響かせる様は過去作と比較しても良い意味で変わらない。特に今作はボンに対するファンのイメージを全く裏切らない、珠玉のミドルテンポアルバムとなっている。

一方で『SABLE』と『fABLE』の方向は、全く異なっているのも面白い。前半3曲の『SABLE』はボーカルのジャスティンが精神的に不安定だった時期に作られたものが多く、対して後半9曲の『fABLE』は少しずつ前向きになりつつある時期のものが大半を占めている。もちろん、今の彼の精神状態は後者。前作から約6年という長い時間を費やした結果見えたのは、全く色あせないポップセンスだった。

 


⑨I Love My Computer/Ninajirachi
(2025年11月7日発売)

【「とりあえず踊っとけば?」の精神】

ここ日本では主に櫻坂46“承認欲求”のリミックスでも知られる、オーストラリア出身のDJ・ニーナジラーチ待望のデビュー作。日本のアニメフィギュアを含め大量の私物で埋め尽くされるジャケット写真、そしてタイトルからも分かる通り、この部屋でたったひとりで作り上げたDTM楽曲が、今回の収録曲のほぼ全てである(ちなみに『ニーナジラーチ』という活動名はポケモンのジラーチから取られている)。

以下の“Infohazard”のMVにも顕著に表れているが、彼女の活動はネットミームからSNSまで、この世の様々な『とにかく面白いもの』を探求する姿勢から生まれている。ゆえに彼女にとって音楽とは「作らないと……」との仕事的な考えではなく、常に「なんか踊れるやつできた!」という楽しい遊びの延長線。となれば我々リスナーも歌詞がどうこうリズムがどうこう……といったものは一旦無視して、とりあえず踊るのが大正解なのだろう。

 


⑧あにゅー/RADWIMPS
(2025年10月8日発売)

【20年目で辿り着いた初期衝動】

今年、結成20周年を迎えたRADWIMPS。もはや言うまでもないけれど、“いいんですか?”や“前前前世”、昨今は連続テレビ小説のテーマソングでもある“賜物”など、活動初期から今に至るまでヒット曲を量産。紛れもなく今最も知られるロックバンドである。そんな中で届けられた今作『あにゅー』はなんと、全てこの1年の間に作られたもののみで構成!更にレコーディングについてもたった数日間で撮り終えるという、異例の速さでのコンパイルとなっている。

ボン・イヴェールの作品が6年かかったように、そもそもミュージシャンというのは基本的に、数年かけて楽曲制作に取り組むものである。ではなぜRADWIMPSは今回アルバム制作の早期決着を求めたのか……。野田がインタビューにて「じゃあ、また一から好き勝手やろうねっていうほうを選んだ」と語っているように、答えはシンプル。『俺らがやってればそれはRADWIMPSだよね』という、20年目の強い自信である。中でも一切取り繕わない歌詞が響いた“筆舌”という楽曲は、個人的に今年一番刺さった。

 

 

⑦I Barely Know Her/Sombr
(2025年11月7日発売)

【甘いマスクのポップスター、鮮烈のデビュー!】

ここまで完璧なデビュー作が、かつてあっただろうか。彼の名前はソンバーと言い、弱冠20歳にしてポップの最前線に立たんとするニュースターである。昨年の“back to friends”のバズからアルバムリリースを心待ちにする声は多かったが、今回のリリースによってチャート成績的にも、彼を印象付ける一枚になっている。

今作を覆っているのは、極上のポップネス。ただその中心を射抜く彼の歌声(ファルセットとロック的な声)で上手く差別化を図っている印象で、どの楽曲も聴くたびに異なるイメージを与えてくれる。サウンドも千差万別で、実は楽曲ごとの振り幅が大きいのもポイントだ。まるでショーン・メンデスやレックス・オレンジ・カウンティ、ルイス・キャパルディらが世間に初めて出てきたようなワクワク感。来年か再来年、近い将来にソンバーの年が来る。そう確信させる名作。

 

 

⑥Never Enough/Turnstile 
(2025年6月6日発売)

【だまし絵みたいなド真ん中ストレート】

ファンがステージに上がって次々にダイブするなど、非常に過激なライブでも知られる若手パンクバンド・ターンスタイル。だからこそ長年のファンは、水色に彩られた爽やかな今回ジャケットを見て「これ他の人の作品じゃない!?」と驚いた人も多かったはずだ。ただ蓋を空けてみれば、彼らは変わらず超ラウドだった。

以下の“SEEIN‘ STARS→BIRDS”のMVに顕著だが、特に今作では『ポップに変貌した踊れるタンスタ』と『全員ぶん殴る暴力的なタンスタ』が同程度に混在した、ある意味では異様な作品になっている。これには彼らが今回シンセサイザーを導入したことが大きな理由とされるが、これまでの彼らにはなかったポップさを見せた点では、今後何年も評価される名作になっていると思う。美しい絵画に見とれていたら、突然絵がバリバリっと破れて中から豪速球が飛んできて病院送りになるような、そんな怪作。もし気になる人がいれば、このMVを飛ばさずに観てもらいたい。たぶん爆笑すると思うので。

 

 

⑤HELLO!/171
(2025年12月3日発売)

【ライブハウスからこんにちは!】

今年メジャーデビューを電撃発表した、関西を拠点に活動する171(読み:イナイチ)の、記念すべきメジャー作。平日は正社員として働き、土日の休日を使って全国へライブ行脚……という狂ったスケジュールの中生み出された今作は、明確にライブハウスへの愛を体現したロックアルバムに仕上がった。

《俺はそろそろ行かなくちゃ ライブハウスへ行かなくちゃ》と叫ぶオープナーの“LOST IN THE ライブハウス”から、続く“グレモンハンドル”で非現実的な爆音の素晴らしさを。かと思えば“SUPERSONIC”では新たな表現へチャレンジするなど、とにかく荒ぶりながら突き進むパワーに満ちた楽曲揃い。……現代のバンドは以前と売り方が変わってきており、打ち込みが多くなったり、サビをバズらせようとする動きも加速しつつあるのはご存知の通り。そんな中で「うるせー!俺はこれがやりてえんだ!」と有無を言わせず叩き付けるエネルギーが、この作品には溢れている。ロックの未来、変えてくれ。

 

 

④「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」/Tele
(2025年4月23日発売)

【壮大な音楽実験、その記録】

様々なフェスでメインステージに抜擢されるなど、音楽シーンで早くも認知されるようになったTele。そんな彼のセカンドアルバムは、アルバム媒体に収まるギリギリの尺となる全21曲。彼がこの作品でやってのけたのは、「この音を入れたらどうなるかな?」という終わりのない探求であった。

米津玄師やくるりといったアーティストが長年の活動の末、新たな音楽性を見つけるために試みるケースはある。にも関わらず、Teleの活動歴はまだ3年目だというのだから驚きだ。“初恋”ではノイズを突然走らせたり、“東京宣言”では子供の声にも似たコーラス。果ては“残像の愛し方”ではレコーディング風景の雑談も取り入れるなど、あまりにも早すぎる成熟ぶりには脱帽の一言。誇張でも何でもなく、音楽の発展という意味で日本の音楽シーンを大きく塗り替える人物になると思うし、今作はそんな彼の試みがギュッと詰まったフルコースのような、お腹いっぱいになること間違いなしの名盤。

 

 

③Gen/星野源
(2025年9月17日発売)

【賛否両論にならなかった、今年一番の驚き】

一体この変貌を、誰が予想しただろうか。先に記してしまうが、今作はこれまでの星野源のイメージを完全に取り払う危険性さえ孕んだ、今年最大の問題作である。今作で語るべきは3点あり、まずは『アップテンポな楽曲はほとんどない』こと。次に『フィーチャリング多数』であること。そしてこれは転調や変拍子が多分に含まれている理由にも繋がるが、星野源が『制作方法をギターからピアノ主体に変化させた』ことだ。

世間一般的な『星野源らしい曲』が“恋”や“SUN”だとして、あえて過激な言い方をすれば、今作は良い意味で星野源らしさが希薄である。そして最も驚くべきは、ここまでファンをふるいにかけるような実験作が、ファンに受け入れられている事実なのだ。星野源はここ数年精神的に落ち込んでおり、その結果何をやってもいいと振り切れた、というニュアンスの発言を以前していたけれど、その結果が『Gen』と題してリリースした今作なのだ。特に夜の自室で、電気を消してまどろむのにうってつけな素晴らしい作品だと思う。

 


②Getting Killed/Geese
(2025年10月7日発売)

【9年目の若手が辿り着いた極致】

ギースとしてのアルバムは今回で4枚目。一方で今年はボーカルのキャメロンがソロアルバムをリリースし、海外の音楽媒体がこぞって取り上げるほど、今年を代表するひとつの名盤とされた。……ではギースはどうだったのかと言えば、彼らはこれをチャンスと捉え、新たな音楽性の探求に入った。今年で活動9年目ながらメンバー全員が20代前半である若きギースにようやく、明確な追い風が吹いたのだ。

今作『Getting Killed』は変なことを言ってしまえば、掴みどころのないアルバムだと思う。ターンスタイルのように叫びたくなる衝動も、ニーナジラーチのように電子音でぶっちぎる力技もない。けれども、浮遊するサウンドにキャメロンが歌を乗せるだけで全てが完結する上手いバランスがある。加えて、今作ではいわゆる『ミステイク』から生まれた音が多いのも特徴で、ドラムが間違ってシャン!と鳴らしてしまった音をそのまま使ったり、特にギターに関してはほぼ意味のない音が随所で聴こえる。そんなきちんとコンパイルされていない雑味も、全く曲調の違う曲ごとにどんどん楽しくなってくる。何が出てくるか分からないビックリ箱のようでいて、全部が綺麗に収まっている芸術のような作品。

 


①kurayamisaka yori ai wo komete/kurayamisaka
(2025年9月10日発売)

【爆音で包み込む愛】

フジロックにも連続出演を果たし、今最もチケットが取れないバンドとしてのし上がったkurayamisaka(読み:くらやみざか)。彼らの初のフルアルバムは『kurayamisaka yori ai wo komete』と名付けられ、これまでにリリースしてきた代表曲をギュッと詰め込んだ作品となった。

今作は全体的な音量がデカく、一聴した瞬間にシューゲイザーの系譜をどことなく感じる。一方でメロと歌声はどこまでもキャッチー……という対比が本当に素晴らしく、全楽曲で美しさと荒々しさが同居した、一風変わった印象を生み出している。またどの楽曲も爆音ながら、歌詞にはあえて明確な意味を持たせず抽象的に済ませる点も、非常に好印象。活動初期の相対性理論や羊文学、きのこ帝国らを引き合いに出すのはアレだが、売上というもの以上に多くの音楽好きやバンドマン、音楽評論家たちの心に何年も爪痕を残すであろう、音楽シーン全体の記念碑的なアルバム。

【ライブレポート】RADWIMPS『20th ANNIVERSARY LIVE TOUR』@大阪城ホール

『RADWIMPS、メジャーデビュー20周年』……。今回のツアーが発表された瞬間、思わず「そんなやってたの!?」と驚いたファンは少なくないはずだ。なぜならRADWIMPSはデビュー当時からロックシーンの最前をひた走る第一人者。“いいんですか?”が流行歌になったのはかなり前の話だとしても、数年前は“前前前世”で普段音楽を聴かない層にも届き、少し前は合唱曲となった“正解”で学生たちの心を掴み、現在は朝ドラ主題歌となった“賜物”で年配の人にアピール……と、今や『RADWIMPSを知らない、という人間がそもそもいない』という異常事態にさえなっている。

一方でこの20年の年月は当然ながら、平坦な道ではなかった。4人だった正規メンバーは今や2人になり、トラブルによってライブが中断したことも、楽曲制作に悩み続ける日々もあった。他にも様々なネガティブな出来事はあったはずである。

しかし今回のツアーは始まってみれば、完全にポジティブに振り切ったRADWIMPS流の20周年感謝祭!ニューアルバム『あにゅー』が直近1年以内に制作された楽曲のみで構成される初期衝動に立ち返ったような作風だったことも含め、新たなRADWIMPSの動きを一目見ようと、全公演は即日ソールドアウトする盛況ぶり。この日の大阪もツーデイズがもちろん満員。言わば『RADWIMPSここにあり』な完全無敵な様を体感する2時間半だった。今回はその2日目となる、12月3日の公演をレポートする。

見渡す限り人の海となったギッチギチなフロア。一方でステージにはギター1本とベース1本、ドラムが2台とこの大舞台でライブを行うバンドとしては非常に小規模。ただステージ側面には大勢のスタッフと巨大なPA卓(サウンドをリアムタイムで調節する機械)が鎮座していたり、背後には大型モニター。しかも上部にもモニターがある(この会場で何度かライブを観たことがあるが上のモニターは初めて見た)など、特に音と演出関してとてつもないこだわりを持ったライブであることが分かる。

19時の定刻になると、ゆっくりと暗転。怒号のような歓声と共に、紫と赤の光が照らすのみのシンプルな照明の下ステージに進み出たのは、メンバーの武田祐介(B.Key)と、サポートメンバーの白川詢(G.Key)、繪野匡史(Dr)、森瑞希(Dr)。そして遅れて野田洋次郎(Vo.G.Piano)が登場すると、大盛り上がりの会場である。なおこの時点での洋次郎は自身の膝下まであるラメ入りコートに、同じくラメ入りの小さい帽子を被っていて、ほとんど目が隠れるような形だった。

記念すべき1曲目に選ばれたのは、なんと2006年にリリースされたファン人気の高い“ふたりごと”!ライブで披露することがほとんどなかった楽曲なだけに、鳴らされた瞬間に「うわー!」と喜ぶファンが大勢。そのため《君がこの世に生まれた 奇跡を信じれないという/君と僕とが出会えた 奇跡を信じれないという》のサビ部分では、示し合わせた訳でもなく全員の歌声がホール全体を包み込んだ。そしてその声の中心を歌う洋次郎の歌声も絶好調で、最後ににこりと笑ってご満悦。その姿に、再度多くの拍手と歓声が挙がった。

続けざまに投下したのはニューアルバム『あにゅー』からの“まーふぁか”。先程の感動的な流れを強制的に断ち切る爆音ギターリフが鳴り響くと、そこからは一気にライブモード。洋次郎はハンドマイクで右へ左へと移動しながら、その都度黄色い声を浴びつつ、前傾姿勢で熱唱。これまで真っ暗な状態だった背後のモニターにはリアルタイムの洋次郎の姿が赤、黄、緑、青のシルエットに加工されて映し出され、目に痛いレベルのきらめきで圧倒。

今回のライブ参加にあたって、多くのファンの疑問はおそらく「どんなセットリストになるんだ?」というものだったはず。これに関しては洋次郎も自身のXにて「長ったらしいライブはやりたくない。でも新アルバムの曲どれも好きすぎるしそもそも過去曲が膨大であれもこれもやりたい」と綴っていた通り、相当に悩んでいた様子。では結果として今回のライブがどのような形になったのかと言えば、ほぼほぼ現時点でのベスト版。一方でニューアルバム『あにゅー』からの楽曲はリリース直後として考えれば非常に少ない構成となり、純粋に「ファンが聴きたいと思う曲をたくさんやる」というスタンスで組まれていたのが印象的だった。

また演出についても、予想を遥かに超えて豪華。基本的に背後のモニターには何かしらの映像が投影されていた他、楽曲によっては火柱が出現したり、これは後述するが様々な舞台装置が発動したりと、とにかく金がかかっている。中でも驚いたのが、”NEVER EVER ENDER“あたりからステージ上部を旋回していた謎の物体。「なんだなんだ?」と思っていたが実はこれ、カメラを搭載した特殊ドローン。このドローンによるリアルタイムの映像がモニターで流れ、メンバー側からの視点(ファンが笑っている様子など)も生で視認できるので臨場感も抜群だ。ちなみに今回のライブを僕は2階席で観ていたのだけれど、見たことのない人数の音響と演出のスタッフがファンからほぼ見えない袖の位置におり、常に何かしらの指示を出していたのも特筆しておきたい。

次なる既存のダンスナンバー“NEVER EVER ENDER”でも、その熱気は収まらない。緑の照明が会場全体をまばゆく照らし、シンセサウンドが音の中心を担う様は、まるでEDMフェスのよう。客席中央まで続く花道に洋次郎が初めて走ったのもこの瞬間で、洋次郎は「調子はどうだい?」と焚き付けながら、飛び跳ねながら全力で楽しんでいた。かと思えば多くの古参ファンが驚いたであろう代表曲“05410-(ん)(『おこして』と読みます)”では、ギターを携えて真摯に歌声を届けたりと、常に目が離せない。そのひとときを噛み締めながら、改めて『野田洋次郎って絶対的なフロントマンだなあ』としみじみ感じた。

今回のライブは大阪公演の2日目。ということは前日も同様のパフォーマンスを繰り広げていた訳で、疲弊していても仕方がないところ。ただこの日の洋次郎は絶好調。MCでも「こんばんは、RADWIMPSです。大阪は6年ぶりらしいんですけど。その分、俺もアレをアレして……アレだから。皆さんもアレしてもらっても良いですか?」と自身の高揚を抑えきれない様子。気持ちを体現するように身振り手振りを交えて語る洋次郎、本当に楽しそうである。更には「大阪は2日目なんですけど、全部出し切るつもりでやるので。……ちょっと盛り上がりが足りないんじゃないの?」と煽りつつ、次なる楽曲へと移行していく。

ここからしばらくの間は、背後に4つの長方形が上から吊り下げられる形で出現。場面ごとに様々な色に発光する新たな視覚効果でもって届けられた。そんな新たなムードを携えたライブは、とりわけ緩やかな楽曲を多く展開。“ワールドエンドガールフレンド”ではミドルテンポに体を揺らし、続く“Tummy”のサビ部分では洋次郎がマイクから距離を取り、歌唱を委ねて拍手喝采を受ける。ファン垂涎の楽曲“me me she(『めめしい』と読みます)”でも同様にファンとの一体感を見せると、以降の楽曲からは洋次郎がピアノを弾きながらのパフォーマンスで魅了するゾーンへ。

ここでは連続テレビ小説『あんぱん』でお茶の間に届いた“賜物”を含め、歌詞の裏側に別の意味を持つようなダブルミーニング的な楽曲が多数披露されたが、とりわけ何かと生き辛い現状だからこそ、強いメッセージ性を持って届けられたのが“棒人間”だったように思う。《僕は人間じゃないんです/ほんとにごめんなさい》との印象的なフレーズが繰り返されるこの曲は、人間になりたいと願いながらも『棒人間だから』という理由で社会から爪弾きにされるフィクションの物語ではある。ただイジメや鬱、社会不安といった様々な悪い状況の中にいる『人間』にとってみれば、その姿はノンフィクションの物語になる。モニターには歌詞が淡々と表示されているものの、落下してきた真っ白なカーテンによってその歌詞は断片的にしか確認出来なくなる、といった演出も含め、心に訴え掛けるものがあった。

ここからは突然客席の電気が消え、モニターにはザラつく音と共に、メンバーがこれまでの20年間を振り返るインタビューが、過去映像と共に流れ始める。まず始めに映し出されたのは、まだ10代のRADWIMPSがライブハウスで演奏するシーン。この映像を見ても改めてRADWIMPSは早い段階で音楽レーベルに声がかかった早熟のバンドだと思えるが、そこから映像は一転、メンバーの脱退によって沈んでいく姿や、ピアノの前で涙を流す洋次郎の姿など、ネガティブなものが多くなっていく。これまでの活動で彼らは意図的に見せないようにしていたけれども、バンドを続けることは簡単なものではないのだと突き付けるようでもある。

ただネガティブなことをポジティブに変換する力も、長く生きている人間の強み。次第に映像は「やっぱり応援してくれるみんながいてくれるから、頑張れたんだと思う」という発言を経て、満面の笑みのライブ映像が流れる前向きなものに変化していく。最後には『RADWIMPSを見つけてくれてありがとう!』とのサイン入りの文字が表示されて会場は明転。するといつの間にか花道の前の特設ステージに移動していた洋次郎と武田が、アコースティックで“告白”を披露するサプライズを敢行。心に染み入る歌声と音色をダイレクトに感じるアレンジは、ライブならではだ。

楽曲の数々に心を揺さぶられる時間は続くが、ここで一旦ブレイク。ここからは長尺のMCの時間の到来だ。洋次郎は「もう今年も終わるけど、みんな楽しかったことの方が多かった?辛い方が多かった?」とおもむろに投げ掛け、後者が多数であることを認めると「仕事とかもさ、何でしなきゃいけないんだ?って感じる瞬間があると思う。でも俺は全然思ったことないの。音楽は好きでやってるから」とアンサー。先程までのVTRではネガティブな側面を赤裸々に見せていただけに、この発言との乖離は当然ながらあった。ただ後に「ここからもっと盛り上げて行こうと思うんですけど、調子どうですか!」との発言があった通り、これは洋次郎なりの『ここからは前向きな話しかしない』という決意表明のようにも思えた。

そして「あなたの人を嫌う人もいると思う。けどそんな人と無理して一緒にいる必要はないから。辛いことばっかりだけどさ、今日みたいなライブがあったら、また頑張ろうって思えるじゃん」と語ると、ここからはアッパーな楽曲を次々披露するモードへ。その幕開けを飾ったのは”おしゃかしゃま“で、洋次郎の合図で音を鳴らす・鳴らさないを変化させる恒例のジャムセッションを含む長尺のアレンジで圧倒。続く”DARMA GRAND PRIX“と”成れの果てで鳴れ“についても同様に荒々しいサウンドで展開し、ロックバンドとしての彼らの存在を確かに感じる時間となった。

また洋次郎のピアノ弾き語りによる『君の名は。』サウンドトラックから”三葉のテーマ“が届けられた後、シームレスに移行した”スパークル“はやはり、何度聴いても号泣必至な代物。これまでの野外フェスや単独では星空の映像が流れたり『君の名は。』本編の感動のシーンが流れることで涙を誘う役割もあったように思うのだが、今回は映像を撤廃。ともすれば黒いモニターをバックに演奏するのみかと思われたが、ここでファンによる行動にとても驚いた。なんとひとりのファンが掲げたスマホのライトが会場全体に伝播し、満天の星空のような光景を即席で作り上げたのだ!僕は2階席で観ていたのだけれど、その光景は本当に綺麗で、洋次郎の優しい歌声も相まって思わずウルッと……。RADWIMPSのファンのみが集った状況だからこそ起こった、本当に素晴らしい一幕だった。

『天気の子』の主題歌でもある”グランドエスケープ“、《ロックバンドなんてもんをやってきてよかった》という印象的なフレーズが駆け巡る”トアルハルノヒ“を終え、続いてはニューアルバムからの新曲”筆舌“へ。思えば”筆舌“は楽曲の公開時より、その衝撃的な歌詞が話題をさらって多くのメディアで取り上げられたという、RADWIMPSの楽曲の中でも稀有な経緯がある。一方で我々ファンとしては、RADWIMPSの歌詞のあれこれについては深く理解している人が大半だ。”五月の蝿“しかり”PAPARAZZI~*この物語はフィクションです~“しかり、過激な歌詞を纏ったものはある種の『久しぶりの怪曲』として、評価される傾向にあったと思うのだ。

そんな中でこの楽曲は、メディアが語る『衝撃的』とは別の意味の衝撃として、ファンには映ったはずだ。たしかに楽曲を通して過激な表現はあるけれども、ネガティブな全てを抱き締めて《生きてりゃ色々あるよなぁ》と肩を叩く、無情の優しさがこの楽曲には満ちているから。モニターには1番こそ中心部に歌詞のみが表示されるシンプルな形式だったが、2番からはMVが投影され、藤井道人監督による映像が、強いメッセージ性とともに広がっていく。最も感動的だったのは物語のラスト、これまで笑顔を浮かべていた広瀬すずが涙を堪えながら街中を歩くシーン。大人になるにつれて素の感情が出しにくくなる世界の中で、まるで耐え兼ねたように涙を流す広瀬すずと、一段と大きくなったバンドサウンドの共演は、本当に素晴らしかった。

そうして「早いもんで、次が最後の曲になります」とまさかの言葉を洋次郎が呟いた時、会場が悲鳴のような声に包まれた。ふと時計を観るとたしかにライブ開始から2時間が経っていたけれど、体感的にはまだ序章のような感覚でいたので驚きである。ただ見るからにショックを受けるファンを観ながら洋次郎は「何時間くらいライブやった方がいいのかって考えるんだよ。俺は何時間でもやりたいんだけど」と脱力トーク。すかさず「3時間!」や「6時間!」といった声が飛ぶ中、洋次郎は「最近流行ってる曲は、1曲1曲が短いじゃん。長くても3分とかさ。だからライブではたくさんやれるんだけど、でも俺らは“筆舌”みたいに6分あったりするんだよ……」とボソリ。笑いに包まれる会場である。

「人と人が出会う確率は凄く低くて、世の中には音楽もたくさんある。そんな中でも僕らの曲を選んでくれたあなたは、僕たちにとって特別な存在です。届けたい曲もまだまだあるし。これからも真剣に音楽を続けていきます」。最後に放たれたMCは、洋次郎なりのファンへの感謝の思いだった。ラストに鳴らされたのはメジャーファーストシングルである”25コ目の染色体“。随分久々にライブで聴くこの楽曲は、思えばこの日鳴らされた本編の楽曲の中では最もバラードに寄ったものであり、逆に言えばここまで全力で駆け抜けたことの証左でもあった。サビの《I will die for you, And I will live for you〜》では洋次郎がマイクから離れ、まるで彼の敬愛するOasisの”Don't Look Back In Anger“よろしく、ファンの歌声のみで進行する一幕も。一転して、後半ではバンドサウンドが合流。緩やかな中にも荒々しささえ携えた極上のライブアレンジで、本編を締め括った。

本編が終わるとすぐさま鳴り響いたのは、ファンのひとりが歌い始めたことに端を発した”もしも“の大合唱。これはRADWIMPSの単独公演では恒例とされる光景だ。正直僕自身としても噂は聴いていたのだけれど、実際に経験すると『普段は絶対に演奏しない曲を全員が歌っている』という不思議と、加えて『全員が歌うためバラバラに聴こえて笑ってしまう』というライブならではのワクワクがあり、高揚感を高めてくれるなと実感。そうして待つこと数分、再び現れたメンバー。彼らは揃って軽装で、洋次郎に至っては脇が完全に見えるレベルのほぼタンクトップ加工の服である。

ひとしきりのトークを終えると、こちらも再びステージ中央へと進み出た洋次郎。アンコールを待つ間にスタッフが総出でセッティングしていたので何となく分かってはいたが、ここからは”告白“に続くアコースティックによるパフォーマンスだ。なお武田はベースではなく今回は長い弓を携えたコントラバスでの参加である。ここで歌われた楽曲は”正解“。卒業ソングとしても多くの学生に支持されるこの楽曲。今回のライブは様々な場面で感動したものだが、個人的に最もウルッときたのはこの楽曲だったし、おそらく大半のファンにとってもそうだったろうと思う。モニターに映る歌詞を観ながら、ファンが歌う……。その一部始終だけを切り取れば、先述の“筆舌”と似た雰囲気にも感じる。ただ“正解”に関しては『本当に全員が歌っていた』という点で、あまりにも感動的だった。

正直なところ、今回のセットリストで言えば“カナタハルカ”や“愛にできることはまだあるかい”、“なんでもないや”といった『君の名は。』と『すずめの戸締まり』の新海誠アニメ映画における代表的かつ歌いやすい著名な楽曲の多くが排除され、更にはあの“スパークル”でさえもショートバージョンとして完結させていたことは、この時点で疑問として残っていた。最も感動する楽曲をあえてやらない選択肢。それを上回るものは何なのかと。……ただ結果として言えば、それら全ての役割を内包していたのが“正解”だったのだと今なら思う。大阪城ホールの最大キャパは1万6000人だが、この人数が一斉に歌う歌声は、何よりも心を動かすものだったから。歌詞については是非とも動画内で確認してもらいたいところだが、歳を重ねた洋次郎にしか書けないフレーズ、全てを肯定する達観といった様々な要素がひとつになった“正解”は、我々の世代で言う”旅立ちの日に“や“COSMOS”といった合唱曲と肩を並べるほどの、あまりにも素晴らしい楽曲として披露されていた。

今やライブの定番となった“いいんですか?”を、テンションの上がった洋次郎が歌詞を間違えて2回やるというこの日だけのハプニングもありつつ、やはり最後は大盛り上がりを記録しないと終われない!……ということで、洋次郎は「もう1曲やる?」と人差し指を立ててメンバーに目配せ。そうして最後に鳴らされたのは、誰もが待ち望んでいたロックチューン“君と羊と青”だ。

もはや「洋次郎は歌わなくても良いんじゃないか?」と思えるほどの大熱唱で迎え入れられたこの曲を最後の力を振り絞るように鳴らしまくるのはもちろん、ステージ真横の注釈付き指定席にいるファンの元へ洋次郎と武田が手を伸ばすサプライズも含め、圧巻の盛り上がり。ラスサビでは巨大な音とともに特攻装置がドカンと爆発、次いで大量の紙吹雪が前方から大噴射!視界全体を煙と紙吹雪が埋め尽くすという、もはや何が何だか分からなくなる多幸感に包まれながら、最高のライブは幕を閉じた。今回のライブは、時間にして約2時間半。体感的にはもっともっと短かったように思えるのは、それほど濃密な時間だったということだろう。本当に素晴らしかった。

【RADWIMPS@大阪城ホール セットリスト】
ふたりごと
まーふぁか
NEVER EVER ENDER
05410-(ん)
ワールドエンドガールフレンド
Tummy
me me she
賜物
棒人間
告白 (Acoustic ver.)
おしゃかしゃま
DARMA GRAND PRIX
成れの果てで鳴れ
三葉のテーマ
スパークル (Short ver.)
グランドエスケープ
トアルハルノヒ
筆舌
25コ目の染色体

[アンコール]
正解
いいんですか?
いいんですか? (歌詞飛ばしにより再演奏)
君と羊と青

【ライブレポート】POLYSICS『突然ワンマンシリーズvol.1~だしぬけに堺~』@堺ファンダンゴ

好きなバンドを追っていると、どうしても『昔』と『今』を比べて考えてしまうことがある。けれどもPOLYSICSに関しては多くの人にとって、きっと「昔から一切変わらないバンド」という解釈で一致しているように思う。サウンドもワードセンスも、その限界突破の甲高いボーカルも……。その全てが28年間不変であることがどれほど難しいことなのかは、想像に難くない。

そう。POLYSICSは全く変わらない。僕は今回を含めて計8回観ているが、毎回がベストライブだし、常に異様な熱狂がある。最後に観たのは25周年を記念した京都磔磔。活動の総決算としてベスト版のような盤石のセットリストで展開されるのはもちろん、中には新曲もいくつかサプライズで披露。「アルバムを作ってる最中だから待っててくれよ!」とハヤシが大声で伝え、我々は大歓声で盛り上がった。……それが今から数えて、約3年前のことである。

しかしPOLYSICSはツアーが終わってから今に至るまで、結果として新曲のリリースを一切行わなかった。その理由についてハヤシは以下のインタビューで赤裸々に語っているけれども、要約すればハヤシ自身のモチベーションが低下していること、ライブ動員が伸び悩んでいること、若い層に向けてアピールしなければならないのに出来ないこと……。そんな様々な悩みが重なり、未だ動き出せないでいるとのことだった。ハヤシは他の様々なインタビューでも語っている通り、ライブでのハイテンションなステージングと現実の思慮深い性格とでは大きな差がある。つまり全く変わらないと思っていたPOLYSICSは実は極めて深刻な状態であり、それに我々が気付いていなかっただけだったのだ。

そんな長らく続いてしまった向かい風。ただそれは2025年に入って、遂に追い風に変化することとなる。その契機となったのは間違いなく、大ヒットマンガ『ふつうの軽音部』でPOLYSICSの“Let's ダバダバ”が大々的に取り上げられたことだろう。この作品は様々なバンドの楽曲を取り上げるものだけれど、『次にくるマンガ大賞』で1位を獲得するなど今最も読まれるマンガのひとつでもある。これにマンガ好きであるハヤシは一足早く反応して喜びを伝え、これまで更新が不定期であったショート動画はほぼ毎日更新された他、あらゆる動画にハッシュタグを付けるほどになった。これは若い層へのアピールを渇望していたハヤシにとって、また「俺ってすげー曲作ってるじゃん!」と改めてモチベーションを高める意味でも、非常に良い働きをしていたように思う。

……と前置きはこれくらいにして、今回のライブである。『突然ワンマンシリーズvol.1~だしぬけに堺~』と題されたこの日はハヤシの意向により急遽決まったもので、ハヤシが「今やりたい曲」を時間いっぱいに詰め込んだセットリストになることが事前に通達されていた。ド平日の木曜日であるにも関わらずフロアはパンパンの客入りで、中には海外から来たであろう外国人の姿もかなりの数おり、早くも異様な熱気だ。

POLYSICSのライブでは特別なピコピコ音のSEと共にスタート……の流れが定番なのだが、今回は特別なイベントらしく、袖から突然ハヤシヒロユキ(Vo.G.Sym.Vocoder)、フミ(B.Vo.Sym.Vocoder)、ヤノ(Dr)が登場。ステージ衣装はもちろん、お揃いの黄色のツナギである。そしてこちらも突然の爆音で鳴らされた1曲目は、ライブではほぼ必ず披露される代表曲“Young OH! OH!”。ギターと打ち込みの電子音が同じ音量でぶつかり合う、本来NGとされるサウンドメイクを容赦なく展開する様は圧巻だし《エベレスト3分間はい頂上》、《エスカルゴ大好物はい冗談》の他、マイ箸や凍らせたTシャツで街を飛んだりとあまりにもカオスな歌詞の羅列などPOLYSICSの醍醐味とも言える要素は早くもごった煮状態。そんな爆音に順応するファンもまた、爆音のポリサウンドに長らく調教されている者ばかり。フロアは一気に灼熱地獄と化した。

結成から20年以上のキャリアを持つPOLYSICSらしく、彼らはセットリストをライブごとに大幅に変えることでも知られる(なお翌日のライブではセトリが8割方変わっていたらしい)。更には新曲リリースもされていないため極めて予測が難しいものだったのだが、未発表の新曲が4曲ほど混じった以外はおおよそいつものポリ。ただ“テクノドラキュラ”や“Dry or Wet”といった何年ぶりかのレア曲が合間に挟まれたことも鑑みると、やはり『今やりたい曲』を詰め込んだためだったのだろうと思われる。

そして何より特筆すべきことがある。それはこの日のポリにおける、ハヤシのテンションが異様なまでに高かったこと。よく『バンドの熱量が盛り上がりを左右する』とは言われるが、特にポリは作詞作曲やボーカル、加えて全体の統率もハヤシが担っている関係上、彼の熱量が会場全体に大きく影響してしまいがちだ。ただ今回はとにかくハヤシのテンションが高く、常に高い熱量をキープ。「俺もう47歳だよ……」と自虐的に語っていたように以前のような客席ダイブや水をバケツで被る、首がもげそうなレベルのヘドバンといった行動はなかったにしろ、とにかくやる気に満ち溢れていたのは何よりのスパイスだった。

ポリの楽曲には結成当初より、バラードチックなスローな楽曲はひとつもない。つまりは徹頭徹尾、全力疾走を続ける以外のパフォーマンスは考えられない訳だが、続く“ムチとホース”では早くもタオル回しが起き、“XCT”では耳をつんざくレベルの爆音のシンセが蹂躙。更にずいぶん久々に演奏された“テクノドラキュラ”では、欠陥ディスコやらアサイン不明やら夜起きてクラッシュやらアミノゴハンやら、全く意味の分からない言葉の羅列をファンが歌いまくるという独自の環境にフロアが染まり、ハヤシはひとりひとりの顔を指差し「よくできました!」とご満悦だ。

ただ大盛り上がりのフロアをよそに、MCになると一気に脱力するのはポリあるある。元々ポリはMCの内容を決めないバンドなのは周知の通りだが、「今回の大阪ライブは久々なんだよね」という展開はまだ分かるとして、堺ファンダンゴの店長・加藤さんとステージとPA間の長い距離で泥酔時の会話をし合ったり、ハヤシの「大阪には牡蠣の殻を下のゴミ箱に落としながら食べられるお店があるらしい」との記憶を元に、次の日がライブであるにも関わらず想いを巡らせたりと、今日は特にやりたい放題。そのノンストップなハヤシの言動を「みんな今日のハヤシ観て分かったと思うけど、私たちライブもMCも久々なんですよ」と真顔でツッコむフミと、一言も発さずにメンバーの顔色を伺うヤノの対比もいつも通りだが、活動が長くなるにつれて解散していくバンドも多い中、そんな当たり前に改めて嬉しさを覚えたりも。

以降は比較的新し目の楽曲が披露されるゾーン。骨が折れるパキポキ音をファンが口ずさんだ“Crazy My Bone”と激しい電子音が蹂躙する“Check Point”を終えると、新曲の“Bikky Bungee Jump”、“Cosmic Yodel”、“Tao”といった楽曲を次々投下。まだどれも音源化されていないものではあるが、“Cosmic Yodel”は誰もが知る『ヨロレイヒー』のフレーズをボコーダーで歪めまくっていたり、“Tao”は同じフレーズを繰り返すキャッチーなもので、今後ライブで多く披露される楽曲になるはずだ。ただそんな新曲の間に挟まれるのが、ニワトリの声を真似した“Cock-A-Doodle-Doo”、『ハヤシは伊達巻きが好き』という一点のみで制作に着手した“DTMK未来”なのだから本当に食えないセトリだなと。

「POLYSICS初めて観た人いる?……うわ!外国の人もたくさんいる!ありがトイス!」とのMCで場を沸かせたPOLYSICS。大阪では随分久々の披露となった“Rock Wave Don't Stop”を経て、ライブ中盤という見事なタイミングで鳴らされたのは“Electric Surfin‘ Go Go”!現在でもPOLYSICSにおける代表曲としても知られるこの楽曲だが、毎回セットリストが大幅に変化する関係上、個人的にはライブ8回目にしてようやく聴くことができたので感動もひとしお。まるで何かが破壊されるような電子音をバックにバンドサウンド全開で盛り上げにかかる“Electric Surfin‘ Go Go”は、その激しさにもまれつつも《にゃにゃにゃにゃ……》のフレーズではファンが一体となったレスポンスも生まれていてキャッチーさも強烈。歌詞もサウンドも涙を誘うものとは対極に位置しているはずだが、聴いているうちに何故だかウルウルしてしまうのは、彼らの熱量にあてられた結果なのだろう。

 

 

そして直後に披露されたのが、先述の『ふつうの軽音部』でも話題となったキラーチューン“Let's ダバダバ”!リリース後はライブで披露されなかったことがない代表曲でもあり、一気に場を掌握するこの曲を、ファンはこれまでの数年間で培われた経験から完璧なハンドクラップで歓迎。またラスサビ前の《ダバダバ〜》の一幕ではハヤシのテンションが上がり過ぎた結果、コール&レスポンスをCD音源顔負けの長尺で要求。先程のMCで注目されたアメリカ・アリゾナ州から来たというオーディエンスに対してはマイクを持って向かっていくなど、最後まで楽しそうなハヤシである。

一方で、結局のところ全く予想が出来ないのがPOLYSICSらしさ。基本的には多くのバンドが『前半はゆっくり、中盤に徐々にギアを上げていき、後半で爆発する』……というのがライブのセオリーである中、POLYSICSはここまで『序盤に飛ばしまくって中盤で新曲連発』と半ば逆行した独自路線。もちろん後半も、盛り上げつつも好きにやるマイペースな強みが全開。“シーラカンス イズ アンドロイド”で大暴れさせたかと思えば、まさかの選曲となった“Dry or Wet”の変拍子で僅かなスパイスを。ここでダウナーなテンションに進むのかと思いきや、次なる“URGE ON!!”と“Hot Stuff”でグンとカオスに変貌させる変幻自在なセットリストで、最後まで飽きさせない作りだ。

本編ラストに披露されたのは、こちらも予想外の選曲となった“Black Out Fall Out”。この楽曲はアップテンポな楽曲を多く発表して大きな評価を受けていた時期に、ハヤシが意図的にそれに背く形でリリースしたもの。そのため当時は「もっと激しい曲が欲しい」とする声と「新たなポリだ!」と評価する声が入り乱れる結果となった訳だが、我々ファンがどんなポリも受け止める体制が出来上がった今だからこそ、この楽曲は素晴らしい求心力で響き渡っていた。個人的にも“Black Out Fall Out”をライブで聴くのは初めてで、おそらく本編ラストに持ってくるのもほぼほぼ初だったはずだけれど、これも今の彼らなりの意思表明だったのだろう。

ここまでたっぷりの曲数を演奏してきたはずのポリだが、時間を見るとまだ1時間半程度しか経っていない。それは凄まじい濃密さで駆け抜けていた証明でもあったが、まだライブは終わらない。「POLYSICS(ピーオーエルワイテスアイティーエス)!」の言葉を発する独特のアンコールに呼ばれて戻ってきた3人は、かなりのリラックスムード。特にハヤシは「今日は思ったことをどんどん言っちゃうなあ」と絶好調で、大阪らしく「どないでっか?」と聞いたかと思えば、ジェット浪越の指圧ポーズを披露して失笑を買ったりとやりたい放題。

するとそんなハヤシに感化されたのか、ゆったりしたムードの中、これまで一言も発していなかったヤノが突然「そういえば、みんな犬がいたら『犬だ!』って言うの?」とボリュームを完全に間違えた大声で質問。当然「どういうこと……?」その真意を問いただすフミであったが、ヤノは「大阪の人って、道ばたで犬見掛けたらそう言うのかなって。俺は言うタイプなんだけど」と会話をどんどん進行。全く話が見えない持論が続く中、ヤノは「いや、俺も思ったことをよく言っちゃうなと思って。犬見た時とか」と締め括り、フミは「ああ、そういうこと……?」とツッコミ。

以降は失笑気味な「どないでっかー?」→「ぼちぼちでんなー!」のコール&レスポンスを行いつつ、ここからは待ちに待ったアンコール。まずはライブではお馴染みとなっている“SUN ELECTRIC”で、駄目押しの盛り上がりへと導いていく。これまでのライブではダイバー続出、モッシュ多発のファストチューンながら、この日は激しいながらもしっかり音を聴く……という理想的な盛り上がり。「POLYSICSのライブで絶対に聴きたい曲は?」と問われた時多くの人がこの楽曲を挙げるだろうけれど、ボコーダーと地声をふたつのマイクでスイッチする歌唱も含め、ライブ映えする楽曲であるとも実感。ちなみに僕が立っていた場所はバーカンのすぐ前だったのだが、その興奮にガソリンを増すためなのか、“SUN ELECTRIC”の演奏前後は特にアルコールの出が早く、後方でも踊り狂うファンが続出していたのも特筆しておきたい。

最後の楽曲は、これを聴かねば帰れない“BUGGIE TECHNICA”。バンド名を言った後にメンバーの名前を言う……という非常にシンプルな歌詞ながら、今は脱退してしまったカヨがいた時代も含め、彼らにとって記念すべきアルバムがリリースされた際、“BUGGIE TECHNICA (new recording)”、“BUGGIE TECHNICA 2012”など様々な変遷を遂げて収録されてきた、ポリの歴史をまるっと内包した楽曲でもある。そんな楽曲を鳴らす彼らの熱量は依然として高いが、驚きだったのは合間の振り付け(腕を前に2回突き出すポーズ)をハヤシが一切やらなかったこと。これまでに観たライブでも必ずやっていたあの動作をハヤシが行わず、ファンに全て委ねるというのはあまりにも予想外だったが、逆に言えば彼にとって“BUGGIE TECHNICA”も含め、完全にファンを信頼するフェーズに突入したことを表していたように思う。全ての演奏が終わるとカヨは「ありがトイスで、おま!」とちょけて、ハヤシはいつも通り「トイス!トイス!トイス!」の掛け声の果てに「おやすみー!」と叫んでステージを後にした。……時間にして約2時間。ただ内容的にはあまりにも濃密なライブだった。

今回のライブを観て、個人的に思ったのは「POLYSICS何度目かの回復期だな」ということだった。そもそも、バンドは続けていればいるだけ問題が発生するのは常である。事実POLYSICSもカヨが脱退しスリーピースになった際は、多くの楽曲のボーカルパートを変更せざるを得なかった。また活動休止を考えた時期があったり、ハヤシがソロ活動をしようとしていたり、様々な出来事は長い活動の中で多々あったという。ただ結果的にはカヨパートをフミが歌うことで今のポリがあり、またフミの「私ポリでやりたいんだけど」の発言で活動休止を踏み止まったりと、その時々で前向きな決断も多かった。……翻って、楽曲の全作詞作曲を務めるハヤシの今回のモチベーション低下と、それによる新曲のここまで長期的なリリース中断というのは、これまでの彼には絶対になかった異常事態だったと思う。

ただ今回のライブを観て、はっきりとハヤシは回復していると感じた。なぜなら数年前のライブとはエネルギーから何から、全く違っていたからだ。そして彼にとって突然のワンマンがほぼソールドアウトし、大勢のファンが盛り上がってくれたという現状は、また新たなモチベーションとなってくれるものと思う。非常に意味のある大切なワンマン……。それがこの日だったということを、我々はもうじき感じるはずである。ニューアルバムのリリースと共に。

【POLYSICS@堺ファンダンゴ セットリスト】
Young OH! OH!
ムチとホース
XCT
テクノドラキュラ
Crazy My Bone
Check Point
Bikky Bungee Jump  (新曲)
Cock-A-Doodle-Doo
Cosmic Yodel (新曲)
DTMK未来
Tao (新曲)
Rock Wave Don't Stop
Electric Surfin‘ Go Go
Let's ダバダバ
シーラカンス イズ アンドロイド
D.B Bop (新曲)
Dry or Wet
URGE ON!!
Hot Stuff
Black Out Fall Out

[アンコール]
SUN ELECTRIC
BUGGIE TECHNICA

【ライブレポート】YOASOBI『HALL TOUR 2025 WANDARA』@米子コンベンションセンターBiGSHiP

思えばYOASOBIの全国ツアーが大々的に発表されたのは、昨年の12月のことだった。そこには東京や大阪といった様々な大都市圏の会場が当然ながら多かったが、その中にあった『鳥取県米子市』の文字に、やけに驚いたことを覚えている。今回のツアータイトルとなっている『WANDARA』はワンダーランド……つまりはこれまで訪れてこなかった場所に行くことで、その会場だけの特別な楽園を作る、というのが後のMCで語られたYOASOBIなりの計画である。今や日本一有名なアーティストになった彼らにとっての次なる挑戦こそ、今回のツアーなのだ。

当日会場に着くと、そこにはとてつもない倍率を勝ち抜いたファンが大集結。噂によると12月のファンクラブ先行の時点でチケットはほぼ完売だったといい、改めてYOASOBIの力に驚くばかりだ。また会場には『WANPAKU MATSURI』と題してカレーやレモネードといったオリジナル商品の販売の他、サントリー生ビールが買えたり、PlayStationのパネルや、ドームライブで実際に使われていた舞台装飾の展示、更には最新のGalaxy端末による高画質の写真撮影といった協賛スポットも点在。中でも驚いたのは、その倍率の高さからチケットが買えなかったファンに向けて、現地でのライブビューイングも敢行していたこと。やけに人が多いと感じてはいたがつまるところ、ここにはチケットがないYOASOBIファンも多数いた訳である。どこまでも異例づくしだ。

電話番号と身分証明書でのチェックという厳重なチケットもぎりを突破し、いよいよ内部へ。場内に多くのファンが詰め掛けているのはもちろんだが、その年代は小学生からそのお父さん世代まで幅広く、家族で参加している人も多々。年代的には20代が最も多い印象だ。この時点でステージに目を凝らしてみるも、照明は非常に暗く、その全貌は伺い知れない。しかしながらステージの上下に設置された大量の照明機材(これまで何度もこの会場でライブを観たが、それとは比較にもならない数)を見るに、かなりの準備が伺える。

また事前に発表されていた通り、今回のライブはスマホであれば写真撮影が可能(おそらく『#ライブ撮影ならGalaxy』のキャッチコピーで知られるGalaxyの協賛のため)。MC中も演奏中も全編撮影OKという極めて珍しい措置が取られており、この時点でスマホの充電を確認するファンも多かった。またサイリウムや双眼鏡の使用も許可されていて、こちらの操作を確認する人も。そして定刻の5分前になるとイマジン・ドラゴンズの“I Bet My Life”が流れ始め、手拍子で応えるファンたち。早くも「Ikuraちゃーん!」「Ayaseさーん!」と叫ぶ人もかなりの数おり、ぐんぐん熱気が高まっていく感覚に陥る。

ライブ開始予定の19時ジャストになり、遂に暗転。照明で照らされた会場に「ヨアソビ、ワンダラ!ヨアソビ、ワンダラ!」とリズミカルに鳴り響くSEに乗せて現れたのはAssH(G)、森光奏太(B)、鈴木栄奈(Key)、Hiroki Oono(Dr)らサポートメンバー4名。次いでステージ後方にはAyase(Syn.Key.Sampler)、前方にはIkura(Vo)が配置に着く。この時点ではまだステージは暗めで、感覚的には「おそらくいると思う」程度の感覚しか掴めないけれども、空気感でそこに立っている事実を感じられる。そして歓声が次第に落ち着き、一瞬完全に沈黙となったその時。爆音で鳴らされたサウンドと共にIkuraが《無敵の笑顔で荒らすメディア》と歌いはじめ、続く《天才的なアイドル様》とのフレーズを放った瞬間、ステージのライトが一斉に照らされてその全貌が明らかとなった。

現在においてもヒット曲を多数飛ばすYOASOBI。ゆえに「1曲目は何が来るんだろう?」と思いを巡らせていたファンも少なくなかったと推察するが、1曲目に選ばれたのはまさかの“アイドル”!背後の円状に形作られた特殊エリアにはAyaseが。そしてステージ中央にはまるで玉座のような豪華な黒い椅子に座ったIkuraが巨大なフラッグを持ちながら妖艶に歌唱し、ファンの視線を集めている。後方にはアニメ『【推しの子】』の主人公・アイがファンの前で歌唱する、まさに『アイドル』な一幕も挟みつつ、Ikuraは何度も客席に拳を掲げ、コールを要求。それに「オイ!オイ!」の掛け声で応える様は本当に感動的で、早くもとてつもない盛り上がりを記録。結果としてこの興奮はまだ序章に過ぎなかった訳だが、異常な程の興奮がそこにはあった。

今回のライブの印象部は複数存在したが、特に印象的だったのは音がとてつもなく良かったこと。元々YOASOBIは打ち込みサウンド(PCで事前に作った音を流す手法)を多く取り入れるグループなのだが、対して多くのバンドは実際のライブで打ち込みをなかなか取り入れない傾向にある。その理由はサウンドの大小が生楽器と比べてブレやすいからなのだが、今回のパーカッションは心臓の奥まで届くような重さで響くし、ギターなどの生楽器も爆音ながら決して耳が痛くない、絶妙な計算で動いていた。……音が良いのは、言ってしまえばホール公演なので当然と言えば当然なのだが、そもそものスピーカーの数が異常に多いのである。音圧のデカさはもちろん、ハイもローもお手の物。個人的にこの会場で何度もライブを観てきてはいるが、間違いなくトップクラスの出音だったと思う。

驚くべきは、惜しみない金額が注ぎ込まれた圧巻のステージセット!詳しくは上の画像に詳しいが、一際注目を集めていたのはステージ後方にある『YOASOBI』の文字。この文字は楽曲ごとに色が変わる仕組みになっていて、“Watch me!”や“勇者”ではアニメのOP映像やMVを投影するなど、視覚的効果に一役買っていた。次にAyaseが立つ円状の場所だが、こちらはよく見るとドラムパッドやシンセパッド、シンバル、キーボードといった楽器が配置されたパーカッションセットである他、下部がモニターとなっており、緑や赤などに常に発色。主に先述の『YOASOBI』に映る映像の補完の意味合いを秘めていた。

そしてこのライブの大きなポイントとなっていたのが、ステージ各所に取り付けられた照明機材だ。今回のライブはとにかく照明が各所に配置されていて、ステージ下部、上部、背後や横側からも死角なく配置されていたのが印象的。その全てが楽曲中に様々な色に変化し、レーザービームを含むビカビカの照明群が、致死量レベルの物量で四方八方から襲い掛かって来るこれを、異次元体験と言わずに何と言おうか。これを東京などの数万人規模の会場でやるのはまだ分かるが、今回はキャパ約2000人の地方公演。にも関わらずここまでの設備でもって挑むあたり、間違いなくYOASOBIは様々なアーティストのライブの中でも圧倒的な物量を誇っていると実感。今でも『YOASOBI 米子』などとXで検索すると実際に参加したファンの写真が多く出てくるが、実際に体験した身としては写真以上に『体験』として凄まじいものがあり、本当に異次元にトリップする感覚があった。

”アイドル“が終わり、間髪入れずに慣らされたのは“祝福”。水色のレーザーが縦横無尽に動き回る中、Ikuraが「米子!」と何度も叫びながら盛り上げていく様は圧巻。続く新たなヒットソングとなった“UNDEAD”では、アニメ『化物語』のヒロインたちを描いたアニメーションが映し出される中、Ayaseはサンプラーを全体重を乗せて叩いて音像をプラス。この時点で既にとてつもない程の爆音の渦に乗り込まれる我々である。……ライブというのはゆったりした始まりから徐々に盛り上げていく、というのが通例だが、今回のライブはそれとは全く逆。前半をYOASOBIの中でも最も激しい楽曲で固めて100%まで一気に駆け上がるという、ことライブシーンにおいても非常に稀有な幕開けとなった。

圧倒的なスピード感で駆け抜けた3曲が終わると、この日初のMCタイムへ。まずは「ワンダラ鳥取公演、お越しいただきありがとうございます。もうね、まだ序盤だけど感慨深い気持ちになってる」と思いを語り、拍手を一身に浴びるAyaseである。

「俺は山口県の宇部市っていうところの出身で。昔組んでたバンド……今は解散してしまったんだが、そのバンドで中国地方をたくさん回らせてもらったのね。もちろんあの頃は売れてないから全然人は入らなかったんだけど、岡山でお世話になってるライブハウスが毎回『ノルマはいいよ』っつって出してくれたり、島根でも出雲アポロっていう場所で酒飲みの店長のスッスーさんっていう人が『お前ら来いよ』って言ってくれたり。でもその中で、鳥取だけにはどうしても来れなかった。鳥取に来れるだけの集客が、当時は最後まで集められなかった。そんな鳥取で今、一番大きい会場をソールドアウト出来ました。本当にありがとうございます」と感謝を述べる。

熱いMCからバトンを受け取ったIkuraは「今日はここにいる皆さんと、最高の楽園……ワンダーランドを一緒に作っていきたいと思います。まだまだ盛り上がっていけますか鳥取!」と煽り倒す。ここからはミドルテンポな楽曲を多く披露する時間となり、《ララララ》のフレーズを全員が歌いながら腕を振った“ミスター”、アニメ『ウィッチウォッチ』のキュートなMVが視界を彩った“Watch me!”、イントロが流れた瞬間に歓声が沸いた初期曲“ハルジオン”を立て続けに披露。紛れもなく日本におけるポップ最前線を行くYOASOBI、その真髄を体現するかのようなポップチューンの連続に、誰もが体を揺らしていた。

そしてここからが、今回のツアーにおける最上のサプライズ!突如Ikuraが「米子でアコースティックセッションがやりたーい!」と叫び、次なる特別なサプライズの幕が上がる。内容としては『次の曲を選んでもらうファン』を今から挙手制にて決定(!)。そこで選ばれたファンはそのままステージ上に上がってIkuraに歌ってほしい曲を伝え(!!)、それをIkuraが目の前で生歌唱(!!!)するというとんでもない代物。もちろん「やりたい人、挙手!」の合図に合わせて大勢の手が挙がった訳だが、ここでなんと「それじゃあみんなの顔見に行っちゃおっかな」とIkuraとAyaseがステージを降りて客席へ突入!予想外のサプライズに、多くの困惑の声と歓声が挙がったのは言うまでもない。

都会はまだしも、地方都市に暮らしていて「芸能人を間近で見たことがある」という人は少ない。ただ今回は大好きなYOASOBIの顔を見られるとあって、異様な興奮に包まれる会場だ。YOASOBIは巨大なドームクラスでもライブが即完するクラスのため、そもそもこれほど間近で見られるのは今後絶対にない、レア過ぎる状況。しかも目の前まで来て一人一人の顔を見てくれるサービス精神の高さには脱帽だ。すぐ側にいた全公演通しで参加するというファンは「うわ近っ!近っ!」と叫びまくっていたので、よほど今回の米子は距離が近いのだろうなと推察する。なお客席を歩くその間は『Ayaseさんと生年月日が一緒』とのプラカードを掲げたファンに呼び掛けたり、子ども連れの家族に話し掛けたりと本当にゆっくりと、時間をかけてファンと触れ合うふたり。もちろん周囲はスマホのカメラを向けまくるファン多数で、本当に良い思い出になったなと思うのだが、Ayaseいわく「米子のみんなは大人しいね。他の会場では飛び掛かってくる人とかもいたから……」とのこと。

そうしてぐるりと回り、一度ステージに戻ってきたふたり。するとIkuraが「ビビっときた人いました!」と叫ぶと、再びAyaseと共に客席へ進んで目的のファンの元に。奇跡的な確率を勝ち取ったのは、前から9列目の4人家族。Ikuraが先頭になってステージへと案内するのをよそに、Ayaseは「じゃあ俺はここで見てよっかな」となんとその席に着席!近隣の席にどうもどうもと挨拶するAyaseの姿など、これまで一体誰が見たことがあるだろうか。当然ながら、周囲のファンが「やべー!」と半狂乱になっていたのが噴飯ものだった。

ステージに上がったのは、ご夫婦と男女の子ども(中学生くらい)の本田さんご家族。Ikuraがマイクを4人に向ける独占インタビューの結果、地元は米子であるとのこと。地元民との邂逅に嬉しくなるIkuraは「こちらから選んでもらっていいですか?」と紙に書かれた曲目を娘さんに選んでもらうと、ここから楽曲がスタート。選ばれたのは“ラブレター”で、アコースティックの調べと共にIkuraは本田さんご家族の前で、顔をじっくりと見つめながら歌唱。終了後、娘さんは「今日学校頑張って良かったです」と語り、奥さんは「感無量です」と号泣寸前。素晴らしい一幕となった。対して「席を暖めておきました」とステージから降りた本田さんご家族を出迎えたAyaseは「なんかグッと来たわ……」と一言。

ここでサプライズは終わりかと思いきや、なんとここからもう1周!再び会場を練り歩くふたりである。今回は「後ろの方とか行ってみようか」と後方列に狙いを定めている様子で、Ikuraが目を付けたのは一番後ろの席に座っていた若い男女。ステージに上がってもらったのは加藤さんという方々らしく、どうやら東京から遠路はるばる米子へと来てくれたそう。そこでIkuraは「お二人はどんなご関係で?」と尋ねると、ふたりは「婚約者です」と一言。その返答にIkuraは「うわー!婚約者!響き良っ!私もそうじゃないかと思ってたんですよ!」と大興奮で、次に選択してもらった曲を見て「ラブソングですねえ……」とポツリ。そうして披露されたのは初期曲の“あの夢をなぞって”。うっとりと聴き入るふたりの姿に、一気に祝福ムードに包まれた会場だった。

……ここまでのファンサービスは、時間にして約30分。結果的には持ち時間の4分の1を、この企画にたっぷり充てた計算になる。ちなみにセットリストの数曲を削って行われた今回の試みは「応援してくれているファンとの距離を縮めたい」というIkuraの発案であるらしく、普段なかなか回らない小さいホールでのサプライズを考えた結果、この形に行き着いたそうだ。繰り返すが、今やYOASOBIは最もチケットが取れないアーティストである。そんな彼らをこれほどの至近距離で見られる機会は、ファンにとって一生の思い出になったに違いない。

以降は“モノトーン”で他者の痛みに触れ、“優しい彗星”でかつての記憶を思い起こす歌詞で琴線に触れると、アニメ『葬送のフリーレン』主題歌となった“勇者”では、サカナクションの“ルーキー”を思わせる緑のレーザーがステージを覆い尽くす幻想的な光景が広がっていく。……YOASOBIは元々の誕生経緯が『小説を楽曲化する』というプロジェクトによるもののため、現在でも大半の楽曲にタイアップが付いているのは周知の事実で、タイアップ先の作品自体が次々と起爆剤となってYOASOBIの認知へと繋がっている。今では「何かの主題歌と言えばYOASOBIだよね」というイメージが多くの一般層にあるのはやはり、彼らが大きいプレッシャーの中でも全力で作品と向き合い続けてきた、素晴らしい結末のようにも思えた。

とりわけタイアップ先との相乗効果を感じたのは、Ikuraがこの日唯一エレキギターを構えて鳴らされた“舞台に立って”。この楽曲は昨年のパリオリンピックのテーマソングとなったロック曲で、Ayaseがアスリートの悩みや葛藤に焦点を当てて制作したとされている。そんな“舞台に立って”を、Ikuraは激しいギターの音を響かせながら《そうだ夢見ていた景色の/目の前に立っているんだ》と力強く歌い上げていた。以前のMCでIkuraは「東京からこんなに遠く離れた場所にみんなが集まってくれる、そんな未来があるなんて当時は思ってもみませんでした」と語っていた。アスリートにとって夢の舞台はオリンピックだが、路上ライブで長らく活動してきたIkuraにとって、そして一度バンドで挫折を経験したAyaseにとっては、このライブこそが夢の舞台なのだと感じられ、思わずグッとくる。

とてつもない盛り上がりを見せる会場を見渡したAyaseは、「さっきも言ったんだけど、俺は鳥取に来れて本当に良かったと思ってて。街の雰囲気は故郷の山口に似てるし、鬼太郎空港も素晴らしかったけど、ライブはもっと楽しくて最高です。……今日から、ここを俺たちのホームタウンって呼んでもいいですか?」と嬉しい一言。更には「またこの場所に戻ってきます。ホームタウンなんでね。その時は今いるみんな、絶対にまた来てくれよ!」と叫ぶと「ウオオオ!」と声を上げる我々である。

良い意味でその言葉に浸る暇もなく、ここからは灼熱のキラーチューンの連続!まず口火を切ったのはダークな雰囲気たっぷりの超人気曲“怪物”で、凶悪に加工された電子音と真っ赤に染められたレーザーでもって、鼓膜と目をどんどんトリップさせていく様は圧巻。また続く“セブンティーン”でも同様なカオスさを見せ、曲中にはバァンと鳴るピストルや不協和音にも似たシンセサイザーが鳴り響くことで、天井知らずの盛り上がりへと突き進んでいく。驚きだったのは、尋常ならざる爆音にも関わらずその中心で歌うIkuraの歌う歌声が全くブレないこと。改めてボーカリストとしての力量も見せ付けた、格別のロックナンバー祭りだった。

「先に言っておくんだが、残りは2曲です」。一旦言葉を切って『だが』と続けるライブにおける口癖を用いつつ、Ayaseがそう語ったのは“セブンティーン”後のこと。当然「ええー!?」の声がそこかしこで上がる会場に、「ラスト2曲は、全員で歌って盛り上がる歌を用意してます。きっと知ってる人も多いと思う。だから最後は今まで以上に全力で動いて、喉が張り裂けるくらい叫んでくれますか!」と焚きつけ焚きつけ。そうして鳴らされた2曲は“群青”と”PLAYERS“。これまでライブで必ずセットリストに入っていたナンバーと、PlayStationのタイアップを勝ち取った新たなダンスロックという最良の組み合わせである。

中でも”PLAYERS“はYOASOBIの現在地を見せ付ける上でも、非常に力のある楽曲として印象に残った。先述の通りこの楽曲はPlayStationのタイアップになっている関係上、ゲームとの親和性を楽曲としてどう捉えるかが鍵。そこでAyaseが選んだのがエレクトロサウンドであり、結果として”PLAYERS“は冒頭からキラキラとした音が縦横無尽に響く形で完結した訳だが、これがとてつもなくライブ映えする代物で……。会場全体で《Play! on! You and me!/Set on the Legacy!》のフレーズを叫びまくる最高の空間もまた、素晴らしいエッセンスとして位置していたように思う。そしてラスサビに向かった瞬間には、なんとステージ上部から大量の紙吹雪が投下!ワックスを付けた頭や、歓喜に踊る子どもたちに色とりどりの紙吹雪が付着していく様子に視線を預けながら、いつの間にか終わっている”PLAYERS“……という現実も含めて、あまりにも凄まじいハイライトだった。

しばらくしてアンコールを求める手拍子に誘われ、再びステージに姿を見せたYOASOBI。ちなみにメンバーの服装もグッズ着用のものに変化していて、イメージがガラリと変わった感も。そうしてひとしきりグッズ紹介を終えると「アンコールは2曲やります。さあアンコールの曲は何でしょう?」とIkuraが問い掛ける。どうやら今回のツアーはアンコール楽曲が固定ではないらしく、代表曲以外の楽曲も披露される可能性があったそう。そこでIkuraの「せーの」の合図と共にファンが楽曲名を予想して叫ぶも、全員の声はバラバラ。Ikuraはそんな我々に爆笑しつつ「いま”三原色“って言った人いた!」と予想外のセトリ予想にツッコミ。そして「正解は……”夜に駆ける“!」と叫んで雪崩れ込んだのは全ての始まりとも言える楽曲であった。もちろんそんな誰にとっても思い出深い”夜に駆ける“が盛り上がらないはずはなく、MVが流れるモニターを見つめつつ、これまで何度も歌い続けたフレーズを口ずさむ我々である。Ikuraも《そんな顔が 嫌いだ》の一幕でファンのひとりの顔を指差したりと、楽しさで溢れている様子。

「俺たちはまだまだいろんなことやっていきたいし、もっとビッグな存在になります。『あの時鳥取で観たよ』って自慢出来るようになるくらい、これからも頑張って行くので付いてきてください!」とAyaseが語り、最後に披露された楽曲は”アドベンチャー“。楽曲が鳴らされた瞬間、ステージから投げられたのは色とりどりの巨大風船!なおこの時点で客電はほぼ点いた状態で、ファンが地面に落ちそうになる風船をポンと飛ばし、また別のファンに導かれていく様が見れるという、まるでアミューズメントパークのようなクライマックスだ。《いつもの一日から抜け出して 目が覚めるような冒険の舞台へ/回る地球儀を目印に さあ今会いに行こう 特別な一日に》……。これは楽曲の始まりを告げる歌詞だけれど、この楽曲を最後に配置することで今回の祝祭感に加え、次なるアクションへの期待も感じさせる。画面にはIkura画伯のワンダライラストや、ポップな色彩が広がる映像が流れ、本当に素晴らしいラストとなった。

ライブ終了後、改めて感謝を伝えるAyaseと投げキッスを飛ばしまくるIkuraの姿を見て、本心から「今年一番のライブだったんじゃないか?」と思った。楽曲の持つ求心力と本人たちの熱量はもとより、サウンドの重厚さと映像技術がギュッと詰まった今回のライブは、本当に非の打ち所がない感動的な代物だった。本文でも記したが、どんな会場でも必ずソールドアウトさせるYOASOBIが今回地方都市に来たという事実は、奇跡にも近い確率だったからこそ、選ばれたファンのために全力で魅せる姿勢も強く感じたし、我々的にも本当に素晴らしい思い出になったと思う。いつでもあの光景を思い出せるレベルの、最高なライブだった。

【YOASOBI@米子 セットリスト】
アイドル
祝福
UNDEAD
ミスター
Watch me!
ハルジオン
ラブレター (Acoustic ver.)
あの夢をなぞって (Acoustic ver.)
モノトーン
優しい彗星
勇者
舞台に立って
怪物
セブンティーン
群青
PLAYERS

[アンコール]
夜に駆ける
アドベンチャー

【ライブレポート】SUMMER SONIC 2025@万博記念公園

今年もサマソニの季節がやってきた!毎年恒例のサマソニレポ。今年は2日目のみの参加のためこの日のみの記載である。

大阪公演のみソールドアウトという結果からも分かる通り、万博記念公園駅に着いた瞬間、溢れんばかりの人が長い列を作っていた。個人的にも「混むだろうなあ」と考えて早めに来たつもりではあったが、その混雑は想像を大きく超えるレベル。時間にして駅に到着してから会場に入るまで、1時間くらいはかかったんじゃなかろうか。

そのまま「あちい……あちい……」と愚痴を零しながら牛歩のように進み、ようやく今年のサマソニ会場の内部へ到着。なおこの時点で時刻は11時5分。周りのファンを見渡すとアイナ・ジ・エンドとAぇ! GroupのTシャツを着ている人が多かった印象だったが、どちらのアーティストもライブ開始は11時10分。ゆえに今年のサマソニは猛暑の中でそれぞれのステージへファンが全力疾走するという、よもやの幕開けとなった。

 

アイナ・ジ・エンド SONIC STAGE 11:10〜

僕が選んだ今年のサマソニの開幕は、アイナ・ジ・エンド。BiSH解散後にソロに転身し、以降様々なタイアップにも選ばれる実力派シンガーである。この時点で会場には物凄い数のファンが既に詰めかけており、その期待値の高さが伺える。またこの現象は同時に「最初はアイナで始めよう」と考えている音楽好きが非常に多かったという点でも、素晴らしいスタートだったように思う。

ドラムの音と共にリズミカルに語られる『アイナジエンド……アイナジエンド……』とのSEから登場したのは我らがアイナ。ギターとベースとドラム、キーボードの楽器隊の他、3人のダンサーもリストインする予想外の布陣である。既に大興奮なファンを試すかのように、1曲目に鳴らされたのは“Poppin’ Run”。お茶の間で広く流れるCMソングとしても知られるこの楽曲を、まさしくポップな雰囲気で突き進んでいく様はキュートでもあるが、それとは裏腹にアイナの表情は一貫して妖艶、という対比が、多くのファンの目線を彼女に釘付けにしていく。

この日アイナに与えられた時間は30分。そのため「人気なタイアップ曲を中心に披露するんだろうな」と思っていた。ただ実際はバラード寄りの“アイコトバ”や“花無双”、更には広域的な“Red:Birthmark”といった代表曲を廃し、徹底して『ダークかキュートか』のどちらかに明確に分類される楽曲が敷き詰められた、予想外のセットリストとなった。

大ヒット映画『変な家』の主題歌でもある“Frail”が終わると、突如「ここをドッグランにしませんかー!」と叫んだアイナ。次なる楽曲は“ZOKINGDOG”で、サビ部分のの《ワンワンワン ワンワンワワン》の歌詞では全員が一丸となってのワンちゃんポーズで大盛り上がり。けれどもアイナはまだまだ足りないとばかりに「ポメラニアンみたいな感じじゃなくて、ドーベルマンで行けますかサマソニ!」と焚き付け、更なる興奮へと誘っていく。

MCでは大阪出身のアイナらしく、地元大阪で開催されるサマソニについて関西弁で思いを語っていく。どうやら会場となった万博記念公園は家の近くにあった場所とのことで、父と妹とシロツメクサの花冠を作ったりした思い出を吐露すると、続いての楽曲はアニメ『ダンダダン』のOPとしても知名度が高まる“革命道中”。これまでほぼ映像が流れなかったバックモニターに歌詞の数々が真っ赤な色合いで表示される中、アイナは鬼気迫る勢いで熱唱を続けていく。端から見れば枯れているように感じるハスキーボイスも彼女にとっては絶好調らしく、どんどんがなるような歌声に変化していくのが印象的だった。

絶唱に次ぐ絶唱の果てに寝そべりながら歌った“Love Sick”を終え、最後に選ばれた楽曲はとりわけアイナの楽曲の中でもポップな“サボテンガール”。楽曲が始まった瞬間に満面の笑みを見せたアイナは、これまでのダークな雰囲気から一変したサウンドをバックにまた違った歌声で魅了していく。話は少し変わるけれど、そもそも人間はポジティブとネガティブの表裏一体でありながら、どこか人前では前者の方を見せなければならない風潮があるように思う。翻ってこの日のアイナはと言うと、千変万化な歌声でもってふたつの感情を行き来しながら思いを届けていた点で、あまりにも衝撃的だった。アウトロで何度も「ああああー!」と叫びながらファンにアピールし、この日一番の笑顔を見せたアイナ。まもなく全国ツアーのチケット発売が迫っているが、絶対に即完すると確信したライブだった。

【アイナ・ジ・エンド@サマソニ大阪 セットリスト】
Poppin’ Run
Frail
ZOKINGDOG
革命道中
Love Sick
サボテンガール


LiSA AIR STAGE 12:20〜

あまりの暑さにビールを2杯ほど飲みつつ、ここからは先程までの流れとは逆向きに進み、最も大きいステージである『AIR STAGE』へ。お目当てはもちろん今をときめくシンガー・LiSAである。驚いたのは、アイナを観てからLiSAへ移動する人の多さ。これは後のHYDEやヒゲダンにも言えることだが、特に大阪サマソニの2日目は邦楽特化のファンが非常に多かった印象。なおLiSAが出演するステージは背後まで芝生に覆われた非常に広いステージなのだが、結果的にはめちゃくちゃな数の人がいた。

定刻になるとバンドメンバーが次々に登場し、最後ににこやかな笑顔で袖から飛び出てきたのは、真っ赤な衣装に身を包んだLiSA。オープナーはアニメ『僕らのヒーローアカデミア』主題歌の“だってアタシのヒーロー。”で、早くもフルスロットルな開幕である。長らくライブ活動を続けるLiSAだが、本来であれば後半に位置することも多いこの曲を初っ端に持ってくるスタイルは前例がなく、驚きのスタートとなった。LiSAの声は全くブレず、熱量で突き動かす流れはさすがだなと実感した次第だ。

ただこれはわざわざ書くべきことでもないかもしれないけれど、非常にもったいなかった点として、今回のLiSAのステージは音のバランスが異常な程悪かった。具体的にはギターとドラムの音が全てこもっていて、LiSAの声が非常に小さな出力になっていたのである。この違和感に関してはLiSAもライブ中にはっきり気付いていた様子で、スタッフに対して人差し指を上げて「もっと音上げて!」と何度も何度もアピールしていたのだけれど、結果40分の持ち時間で改善されることはなく、不完全燃焼だったなと。イメージとしては、道を歩きながら僕らがちょっと大きめな鼻歌を歌うとして、その鼻歌よりもLiSAの声の方が圧倒的に小さく聞こえるレベル。これに関しては完全にPAのミスなので難しい話だが、前年のVaundyの際も感じたように、また今年のAぇ! GroupについてもXで指摘されていたように、このAIR STAGEについては夕方以前のライブは近隣住宅への対策なのか、音の出力にとてもシビアなのかなと。このあたりは是非とも運営には来年以降、見直してもらいたいところ。

……などといろいろと綴りはしたが、LiSAとバンドメンバーのコンディションは本当に絶好調だった。「先にみんなに言わせて。今日は休憩する時間、ありません。燃え尽きる覚悟で挑みます!」とLiSAが語ると、次なる楽曲はまさかの“紅蓮華”!今や「日本国民全員がサビを歌えるんじゃないか?」とも思われるこの曲を、LiSAは「歌って!」とマイクを向けながら熱唱。我々ファンはもちろん、海外からの参加とおぼしき外国人の方々も歌いまくる空間に変貌した。

「昨日の東京も暑かったけど、今日はそれ以上に暑いね!水分補給はしっかりね!」と笑顔を見せながら語ったLiSA。以降は古いアルバムから“Say my nameの片想い”(個人的にはこの曲が今年一番のサプライズで少し泣いた)を鳴らすと、この日初のVJがスパイダーマン仕様でモニターに映し出された“REALiZE”、『RED or GREEN?』の言葉が躍った“QUEEN”、そしてこの時点で大量の発汗でフラフラになったLiSAがスネアドラムを叩きまくった“ADAMAS”を経て、ライブは最終局面へ。

最後に披露されたのは、多くのファンにとって全く予想外であったはずの“Rising Hope”。絶対にセトリ落ちすると思っていたので大興奮の筆者だったが、それ以上に熱量が高かったのはLiSA自身だった。残りの体力を振り絞るかのように頭を振り乱し、前傾姿勢で歌いながら思いを届けていったLiSA。楽曲が終わると「サマソニはまだまだ続くけど、みんな最後のFall Out Boyまで全力で楽しんでいってね!」と語り、恒例の「今日もいい日だっ!ピース!」と天にピースサインを突き上げ、そのピースサインがカメラでモニターに映し出される感動的なラストとなった。
 
『鬼滅の刃』からの楽曲は“紅蓮華”のみ。既にリリース済みの新曲もなし。“crossing field”も“ReawakeR”もなく、更には前日のサマソニ東京と曲目を大幅に変更する……という近年稀に見る変幻自在なセットで見せた今回のライブ。Xで綴っていたように、ライブ終了後のLiSAがステージ袖で倒れ込んでしまった程、エネルギッシュなステージだった。ただそんな疲労感をライブ中は全く見せず、ポジティブな気持ちを常に見せ続けたLiSAの姿勢は本当に素晴らしかった。LiSAのライブが終わった瞬間に一気に人がハケていった(フェスが終わるんじゃないか、と錯覚するほどAir Stageから人が消えた)ことも考えると、LiSAを目当てに遠くのこのステージに来た人がいかに多いかを実感した、そんなライブだった。

【LiSA@サマソニ大阪 セットリスト】
だってアタシのヒーロー。
紅蓮華
say my nameの片想い
REALiZE
QUEEN
ADAMAS
Rising Hope

 

ウルフルズ SONIC STAGE 14:15〜

ここからは再びSONIC STAGEに戻り、灼熱地獄に耐え兼ねて日陰で昼食を摂りつつ次のライブに備えていく。お目当てのバンドはご存知大阪出身のロックの重鎮・ウルフルズ。彼らにとっても思い出深いこの土地で鳴らされる往年のヒット曲をぜひ聴きたいと思い、日陰から出て炎天下にさらされること数十分、ほぼ最前を陣取って観ることが出来た。

定刻になるとジョンB(B)、サンコンJr.(Dr)ら正規メンバーの他、サポートメンバーとして浦清英(Key)、そしてギターには予想外すぎるサプライズとして、真心ブラザーズの桜井秀俊(G)が登場!遅れて出てきたお馴染みの男・トータス松本(Vo.G)は白髪交じりのロングヘアーをゴムで後ろに留めてニヤリ。また全員が灼熱のステージにも関わらず全身スーツ着用であり、とてつもなく暑そうだ。開口一番「大阪ー!」と叫んだ松本、まず1曲目に鳴らされたのはまさにこの日のための楽曲とも思える“大阪ストラット”。《梅田駅のキップ買って 三番街から茶屋町》《心斎橋行きのキップ買って アメ村までちょっと行って》と愛する大阪への思いが込められたこの楽曲を松本は高らかに歌いつつ、中盤では眼前にそびえる太陽の塔を見ながら「あれ太陽の塔やないか?うわ反対向いとるやん」とアドリブでセリフを入れ、全員で「大!阪!ストラット!」の歌詞を熱唱する、素晴らしい幕開けだ。

長い活動歴を誇るウルフルズらしく、この日のセットリストは2007年に爆発的ヒットとなったベストアルバム『ベストやねん』から大半が選ばれた、往年のヒット曲を網羅するキラーチューン祭り。ただ2曲目に早くも”バンザイ 〜好きでよかった〜“で大合唱したかと思えば、続く”サマータイム・ブルース“で爆笑の渦に巻き込む流れで大興奮の我々をよそに、演奏する彼らの姿は良い意味で余裕綽々……というコントラストがまた、第一線で走り続けたロックバンドを体現していたように思う。

一方で太陽がジリジリ迫るこの状況下、スーツ姿で演奏する彼らの疲労は凄まじいものがあったよう。中でも中心で歌う松本は”サマータイム・ブルース“での「あかん……もうあかん……」のフレーズを苦しそうに呟いたり、MCでは「あぢー!」と叫びながら中のカッターシャツを見せたりと疲労困憊。けれどもその姿さえもエンタメに昇華していくのはさすがの経験則で、「暑いからミドルテンポな曲をやります」と”笑えれば“で笑顔にさせ、全ての出来事を肯定する”ええねん“で心をひとつにする盤石なライブを進行していくウルフルズである。

最後の楽曲はもちろん”ガッツだぜ!!“。松本は何度も拳を胸の前で掲げるアクションで盛り上げ、後半ではマイクケーブルがギリギリ届く距離でもって、ステージを右へ左へと大移動。言うまでもなく鼓舞の意味合いが強いこの曲だが、今回のサマソニの会場で聴くと長丁場のフェスへの『ガッツ』、スーツ着用で汗だくの自分自身に対しての『ガッツ』、また様々な出来事が起こる現実世界における『ガッツ』など、心中で様々なことを感じさせてくれた。ライブが終わると短く縛っていた髪をほどき、バサリと伸びた髪を振り乱しながら感謝を伝えた松本。「もっと持ち時間が長くても良かった」と思える、地に足着けた素晴らしいステージだった。

【ウルフルズ@サマソニ大阪 セットリスト】
大阪ストラット
バンザイ 〜好きでよかった〜
サマータイム・ブルース
笑えれば
ええねん
ガッツだぜ!!

 

HYDE  MOUNTAIN STAGE 15:00〜

ウルフルズのライブが終わったので、すぐさまこの日初となる『MOUNTAIN STAGE』へ。L'Arc~en~Cielのメンバーであり、ソロとしての類稀なる活躍でも知られるHYDE。そのライブを一度は目撃してみたいと思ったからだ。ただその会場へ行こうと思った矢先、目に飛び込んで来たのはMOUNTAIN STAGEに移動する人のあまりの多さだった。混みすぎて道が全く進まないし、気付けば「Are you fuckin ready!?」とHYDEが頻りに煽り倒している声が聴こえてくる。……割と早めに移動したつもりだったけど、全然間に合いませんでした。

という訳で、到着した頃には”TAKING THEM DOWN“が終わりかけ。リンキン・パークのカバーである”Given Up“が始まるところだった。個人的には万博記念公園の移転したサマソニ大阪においてこのステージが最も音が良いと思っているのだけれど、HYDEの今回のライブはとにかく音がデカく、マイナーコードが腹の底にズンズン響いてくる感覚がある。そんな中で鳴らされる”Given Up“は原曲からサウンドを大幅に凶悪にしたラウドさで、一気に興奮を高めていく様は圧巻だった。

長らく続くサマソニだが、この日の時間帯は体感温度40度超えの過酷な環境。更にはフェスも中盤に差し掛かったことで、休憩がてら休もうとする人も多かった。そんな中でHYDEのライブはとにかく『観客の体を動かす』よう徹底して計算されていたのが印象的。「モッシュピットー!モッシュピットー!」と和製ヤングブラッド的に叫んだり、サークルを作らせるのみならず、指を指しながら「1個!はい2個目!すごい3個目!次どこだ!」と半強制的に焚き付けたりとやりたい放題。楽曲が鳴らされるたびにどこかしらでモッシュが発生する異常空間で、HYDEは「狂ってる!お前ら狂ってるよ!」と満面の笑顔である。気付けば大人見している参加者はほとんどおらず、灼熱の中で全員が踊り狂っているカオスが発生。

とりわけ興奮の坩堝と化したのは、ライブ定番曲である”6or9“。カメラからHYDEの姿が消えたと思えば、HYDEは開始早々にフロアに飛び降りてそのまま花道を進んみ、客席後方まで移動。ファンの手を掴んで絶唱を響かせる衝撃のスタートから、以降は「おしっこチビるなよ!」「セキュリティさん暇そうにしてる!」と叫び散らし、ダイバー大発生の空間を生み出していく。にも関わらず物足りない様子のHYDEは更なる完全燃焼へと突き進み、凄まじいエネルギーに圧倒される我々である。これで御年56歳という現実も相まって、生ける伝説の如きオーラさえ感じる。

モニターに数字が表示され、焦らしに焦らされたカウントダウンの果てに感情が爆発した”SOCIAL VIRUS“を終えたHYDE。最後に選ばれたのは中島美嘉に提供し、映画『NANA』の主題歌として一世を風靡した「GLAMOROUS SKY」。ただHYDEのセルフカバーは原曲とは全く異なるロック色に変貌しており、艶めかしく《AH 仰いで》と冒頭の歌詞を歌った直後には「体力残すなよ!」と再びサークルの発生を促し、楽器隊が雪崩込んだ瞬間には大量の汗と唾が舞う、あまりにもカオスな状況に。HYDEもサビは完全にファンに託し、自身は歌唱そっちのけでモッシュピットに突き進む傍若無人なステージングで魅了。とてつもない満足感で終幕した今回のライブだったが、よくよく考えれば持ち時間はたったの40分。単独と比較すれば短い中で、ここまでロックンローラーとしての意地と気品を見せ付けたライブは非常に稀有だと思った。

【HYDE@サマソニ大阪 セットリスト】
TAKING THEM DOWN
Given Up (リンキン・パークカバー)
I GOT 666
DEFEAT
MAD QUALIA
6or9
SOCIAL VIRUS
GLAMOROUS SKY (中島美嘉セルフカバー)

Porter Robinson MOUNTAIN STAGE 16:15〜

HYDEのライブが終わると、集まっていた観客がどんどん視界から消え、ズンズンと民族大移動を開始。それもそのはずで、次に別ステージで行われるライブはHANAとブロック・パーティとヤングブラッド。HANAは今年の紅白ほぼ確の期待株だし、踊りたいロック好きは10年ぶりの来日となるブロック・パーティーへ。また先程のライブで暴れ足りない人はヤングブラッドへ……と、三者三様の好みに合わせた動きが求められたからだ。一方、僕は今年のサマソニで絶対に観たいアーティストがいた。それこそがポーター・ロビンソンである。

僕がポーターを知ったきっかけは、昨年に行われたニューアルバム『Smile! :D』の日本公演、その最後に披露された”Shelter“の映像だった。アニメに影響を受けたVJと日本人好みのエレクトロサウンドは心を動かすには十分なもので、今年サマソニ初出演とあって大きな期待を込めていた部分がある。なお大の日本好きとして知られるポーター。今回のサマソニ出演に関しては彼自身が「絶対に出たい!」と逆オファーをしたそうで、様々なインタビューでも「バンドセットで行くよ」「今回はかなり時間をかけて準備してるよ」と発言。

その発言を象徴するように、開始前のステージには空気を入れられた超巨大なPawsくん(公式キャラクター)が鎮座し、背後には何やら複数の白い玉(これは以降の楽曲で使われる予定だった)、そしてモニターにはピンクの長方形で仕切られたまた別の映像が配置され、期待をどんどん高めていく。ちなみにこのときに流れていたバックの音楽はアヴリルの”Smile“など、どこか楽曲のタイトルが”Smile“のものが多かったように感じていたのだが、今思えば『Smile! :D』にちなんでいたのかなと。

待ちに待ったオープニングに突入した際には、突如モニターにPawsくんが画面に登場。「音楽が鳴ったら叫んでくださいね!」といった”Shelter“の声優を務める三澤紗千香による特別な練習が差し込まれ、そこから登場したのはポーター・ロビンソン含めたメンバー4名。オープナーはこのアルバムから”Knock Yourself Out XD“で、早くも電子音のロックサウンドが鼓膜をくすぐる幕開けだ。そしてサビ部分ではなんと早くも銀テープが発射!野外では基本誰もやりたがらない『ハチャメチャに汚す演出』を早々にやり、ステージ天井やモニターに大量の銀テープが付着しながら爆音を鳴らす衝撃の幕開けとなった。

この日のライブは、先述のポーターの「時間をかけて準備してる」とのインタビューが全てを表していたように思う。つまるところテープは数曲おきにバンバン飛び、オリジナル映像が視界を楽しませ、電子音が爆音で鳴りまくる最高の時間が繰り広げられる形となり、未だに「何でこんなに人が少なかったんだ?」と疑問に思うほど素晴らしいライブだった。

続く”Russian Roulette“では世界各国におけるファンのXの投稿で歌詞を形作るVJが流れ、一気に求心力が増したポーター。最も盛り上がったのは代表曲”Something Comforting“で、オートチューンで女性的な歌声に変貌したポーターが歌唱するのみならず、画面には蓮の花や水面といった美しい光景が一面に広がり、独自の世界観を演出していく。この楽曲はサビに突入した瞬間に一気にEDM色を増すのが特徴的だが、ここでまたもテープが噴射!しかも今回は銀ではなく真っ赤に染められたテープであり、周囲はそのテープを握りながらジャンプするファンたちで大興奮。僕はライブ後に別ステージに移動したのでその後のことは不明だが、後で到着した観客はステージに付着しまくり、地面に散乱しまくるテープで支配されたMOUNTAIN STAGEを見て何を思ったのだろうか……。

さてここから後半戦!というところで、ここで暗雲立ち込める事態が……。そう。遠くで雷がゴロゴロと鳴りだしたのだ。言うまでもなくサマソニに限らず、フェスの多くは雨天決行。ゆえに余程の警報級の雨でなければ中止はまずないが、雷は別である。雷が鳴れば基本的に、多くのフェスは中止か無期限待機の決断を余儀なくされることもあり、この時点で集まったファンはライブは観ているけれども心此処にあらずといった様子で、嫌な雰囲気を吹き飛ばすように無理矢理盛り上がっている感覚があった。

次に鳴らされたのは、こちらもライブ定番の”Everything Goes On“。原曲とは異なりバンドを前に出したサウンドで楽しんでいる我々だったが、それはラスサビになる直前のこと。嘲笑うかのように近く、本当にかなり近くに雷が落ちる音がしたのである。これには周囲のファンも大声を出してしまうほどで、演奏を続けるポーターはその混乱から歌詞が飛び、一時演奏を中断。なんとか「ごめん。僕のせい」と持ち直して演奏は終わったが、この時点で我々ファンも、そして何よりポーター自身が最悪の事態を予感していたように思う。そうして何とか辿り着いた”Get Your Wish“のAメロ。ここで袖にいたスタッフがステージに出て、大きく『×』マークを手で作った。正式な演奏中止である。

ポーターは「オー……いやだ……」と一言放つと、そのままファンに笑顔を向けながら袖に撤退。巨大なPawsくんの空気も抜かれて、ここからは無期限中断の時間となった。スタッフいわく「各ステージには雷を避ける設備が導入されている」らしく、この時点でMOUNTAIN STAGE付近にいる観客は全員、ステージ前方に集合することを余儀なくされた。当然のように空は次第に陰り、次第に雨がパラつきはじめ、その勢いは次第に強くなっていく。聞けばその時点で「中止になるだろう」と判断した早計な観客の中にはそのまま帰宅した人もいるらしいが、ポーターの楽曲に心酔した我々は時間を待ち続けた。……この日のポーターの持ち時間は60分。この時点でポーターの演奏時間は約30分なので、残りは30分しかない。ただその時間がどんどん削られていく中で、脳内ではおそらく誰もが、「少なくともポーターのライブは中止になるだろう」と思っていたのではないだろうか。

結果としてそれから数分後、雷の危険性はなくなった。雨も完全に上がり、元の暑い気候に戻りはした。しかしながら手元の時計を見ると無情にも、既にポーターのライブ開始から60分が経過。ライブ続行は事実上、完全に不可能となった。再びステージに現れてマイクを渡されたポーターは現状を説明。英語は詳しくないので詳細は分からなかったが、「キャンセル」という言葉が彼の口から出たとき、ライブの終幕を誰もが理解した。彼は涙を流しながら「みんな待っていてくれた。感動した……」と日本語で語ってくれ、そこから客席に降りて、最前列のファンに即席のサイン会を開催。全員には無理なので、ファンの中でも特に熱狂的な人(海外から今回のライブのために来た人、何時間も前から並んでいた人、「ポーターこっち見て!」などのプラカードを掲げていた人)などにサインを時間いっぱい行うと、誰かから発せられた「ポーター!ポーター!」コールが伝播。そんな応援する多くの声に包まれる中、改めてファンに感謝を伝えたポーターは、背中をメンバーにさすられながらステージを後にしたのだった。

この時点でポーター・ロビンソンの披露曲は6曲。今回のセットリストはアルバムごとに構成されるセットのため、ここからはファン人気の高い『Worlds』から”Sad Machine“も”Divinity“も、更には”Cheerleader“も”Shelter“も……。多くのヒット曲が演奏される予定だったが、結果としてそれは叶わなかった。余談だが、他のステージでも同時にライブは行われてはいた。けれども雷鳴と同時点でHANAのライブは終わっていて、Yungbludもほぼ終わりかけであったと聞く。以降のライブがスケジュール通り進行したことからも、総じて今回の雷で最も影響を受けたのはポーター・ロビンソンであったと言わざるを得ない(事実公式アプリでは、彼だけ出演キャンセル扱いになっていた)。

きっとこのままライブが続いていればとてつもないクライマックスを迎えただろうし、何より『Smile! :D』と題されたテーマでありながら、このような結末を迎えたことは残念でならない。ただこの短いライブでも彼の音楽の素晴らしさは多くの人に伝わったはず。ぜひとも来年リベンジしてほしいと、ライブが終わった今でも強く思う。

【Porter Robinson@サマソニ大阪 セットリスト】
Knock Yourself Out XD
Russian Roulette
Is There Really No Happiness?
Something Comforting
Musician
Everything Goes On
(雷により途中終了)

 

Official髭男dism AIR STAGE 17:40〜

ポーターの涙にウルウル来ていた僕だったが、サマソニはまだ終わらない。続いては再びAIR STAGEに移動し、ヒゲダンのライブを観る任務が残っているのだ。雷の影響で約3分ほど開始時間が遅れたためギリギリで間に合ったのだが、この時点でAIR STAGEには大勢の人が集まっていた。これまでもサマソニ内で『STADIUM 2025』と書かれた彼らの青いタオルを身に着けたファンを見るにつけ、「たぶんヒゲダンに行く人多いだろうなー」とは思っていたが、想像を遥かに超えた客入りにビックリ。

そして何よりも驚いたのは、始まりの楽曲が”Pretender“だったこと!いつの間にかステージに姿を現していた藤原聡(Vo.Key)、小笹大輔(G)、楢崎誠(B.Sax)、松浦匡希(Dr)とサポートメンバーたちがイントロを鳴らした瞬間「1曲目それ!?」という驚きに包まれて、大歓声で迎え入れるファンの姿が印象的だった。藤原の歌声はどこまでも通るように澄み切っているし、LiSAの際に気になっていた音もバッチリ聴こえる。気付けば周囲では口ずさむファンが大勢出現し、初っ端にして素晴らしいスタートを切った彼らであった。

この日のヒゲダンのセットリストは、紛れもなく現状の代表曲を詰め込んだベスト。またバンドメンバーに関してもコーラス隊やストリングスを含めた大所帯で、サウンド的な幅の広さも感じさせる盤石の体制だった。一方で先日のスタジアム公演で披露されていた美麗なVJは前半にはほとんど映し出されることはなく、黒いモニターをバックにまるで「俺たちを見てくれ!」と言わんばかりに演奏を繰り広げていたのが特徴的。そして何より驚いたのは藤原の歌声で、本当に最初から最後まで全くブレない。”Universe“の超高音までも完全に出し切るその歌声は、やはり随一のシンガーだなと。

ポーター・ロビンソンのリクエスト曲”Universe“、はっきりと愛を伝える明瞭な”I LOVE…“、モニターが真っ白に染められた”ホワイトノイズ“と楽曲は続き、ここで藤原によるMCへ。「本当は6年前にサマソニに出るはずでした。でも僕がポリープなんかになっちゃったせいで、今回6年ぶりの出演になります。こんな楽しいフェス、なんで6年も出なかったんだよ!」と語った藤原。彼らの音楽に多大な影響を与えたとされるFall Out Boyの前の出順であるのもあってか、その興奮は高まるばかりのようだ。

全編通して熱狂的なポップを響かせたヒゲダン。この日一番の盛り上がりを記録したのは、新曲として披露された”らしさ“。「夏フェスになんとか間に合わせました!」と叫んで始まったこの曲は、新曲でありながら誰もの心に印象を残す、ヒゲダン史上最も激しいギターロック。……自分自身の才能を他者と比較して絶望しながらも、それを『自分らしさ』と改めて光を求め続けるこの曲。VJには歌詞の数々(上のリリックビデオの映像)が凄まじい勢いで流れ続け、後半にはほとんどの観客が初聞きなのにも関わらず、サビを歌いまくる関係性が出来上がっていたのが本当に感動的だった。

最後の楽曲は”Stand By You“。”ノーダウト“でも”Subtitle“でもなくこの楽曲を最後に選んだことについては当初は予想外だったのだけれど、楽曲が進むにつれ、その選択の意味を感じることが出来た。……話は少し変わるけれども、元々ヒゲダンは”Pretender“や”ノーダウト“、”115万キロのフィルム“とポップ最前線の楽曲で注目を集めてきた。その一方で、昨今のアルバム『Rejoice』あたりからは明確に別路線……。あえてノリにくい楽曲であったり、”らしさ“のようなギターロック、あえて実験的なサウンドも用いるようになった。これは端から見れば「ヒゲダンは変わった」と思われる予想外の変化であったが、彼らにとってはそれこそトリのFall Out Boyなどの自身が大好きな音楽をリスペクトし、作りたいように作った結果であることは揺るぎない。

そこで思い至ったのが、この楽曲の歌詞である。《どんなに凄い賞や順位より 君のそばにいられることが一番誇らしい》……。彼らが最も伝えたいことはおそらくこれで、『自分たちが好きな音楽をファンに届けたい』という信念が、今の原動力になっているのだと思う。モニターには『Stand By You(あなたのそばにいたい)』の文字が何度も表示され、ファンもそれに合わせて「いつもStand By You」と返す、最高の信頼関係が出来上がったのがこの4分間だった。最後に「次は俺たちの大好きな、フォール・アウト・ボーイだ!」と叫んでステージを去った藤原。この最高な時間が過ぎてもまだ「あれも聴きたかったなあ」と感じてしまったのはやはり、ヒゲダンを今の日本におけるバンドの筆頭として、我々が認識しているがゆえなのだろう。

【Official髭男dism@サマソニ大阪 セットリスト】
Pretender
宿命
Universe
I LOVE…
ホワイトノイズ
ミックスナッツ
TATTOO
らしさ (新曲)
50%
Stand By You

 

Fall Out Boy AIR STAGE 19:25〜

ヒゲダンのライブが終わり、時刻は18時半。長らく続いてきたサマソニもまもなく閉幕ということもあり、この時点で多くの観客が最後のアーティストを選択し、その会場に向けて動き始めていた。僕自身はというとマンウィズ、ビーバドゥービー、フォール・アウト・ボーイ……と各ステージに気になるアーティストがおり、最後の動きは特に決めていなかった。ただこの日個人的には唯一の洋楽アクトだったポーターは中断となってしまったし、またロックフェスとして続いてきたサマソニの次なる開催を応援したい、といったことをいろいろ考えた結果、最後はFOBに決定!アルバムは全て持っているものの、これまで他バンドと被ってしまい見る機会を失っていたFOB。ようやく初ライブである。

ステージには黒いソファーとドラムセットのみ、というあまりにも意味不明な配置に目を奪われていると、定刻に暗転。すると大型モニターが突如としてザラつきはじめ、そこに映し出されたのはナース服を着た謎の看護師。カルテをペラペラとめくりながら、険しい表情で診断結果に目を走らせている。しばらくしてカメラが少し右へと向くと、そこに映し出されたのは医療用ベッドに寝転んでマイクを持ったパトリック・スタンプ(Vo.G)!ステージ上は以前真っ暗なのでどういう技術なのかは不明だが、とにかく。パトリックがゆっくりと起き上がった場面で映像は終了。瞬間、とてつもない閃光がAIR STAGEを貫いた。

そこに立っていたのはパトリックの他、ジョー・トローマン(G)、ピート・ウェンツ(B)、アンディ・ハーレー(Dr)らFOBの面々。雪降りしきる中でひっそり佇む山小屋のVJと共に鳴らされたのは、なんと彼らのファーストアルバムから”Grand Theft Autumn/Where Is Your Boy“。まさかの幕開けに大興奮の我々をよそに、彼らはお馴染みの爆音ロックサウンドをどんどん響かせ興奮を高めていく。音楽的にも歌声的にもスタンダード。客を煽ることも、余計なことを話す訳でもない。そこにあったのはいつものFOBである。ただその良い意味で『当たり前な感じ』が、サマソニ常連組である彼らをヘッドライナーまで到達させたのだ。

以降は”Sugar, We're Goin Down“、”Dance, Dance“、”A Little Less Sixteen Candles, a Little More "Touch Me"“とどんどんしていくのだが、ここで「ん?」と思う。ここまで彼らは初期の20年前の楽曲しか演奏していないのである。……ではここで、彼らの今回における1時間30分の長尺セットの全貌を記しておこう。彼らは今年デビュー20年の節目の年。そのためこの日のセットリストは過去のアルバムから最新のアルバムに至るまで、順番にキラーチューンのみを披露するというベスト・ベスト・ベストなライブだったのだ!文章に書くと簡単なようだがこれは実はかなり特殊で、本来ベストアルバムライブがあったとしても、過去曲と古い曲を混ぜた進行になったり、少し知名度の少ないものを入れたりするのが常。そんな中で彼らは完全にテーマをアルバムごとに分け、しかもそのアルバム内で有名なものしか演奏しない、という超ファン目線のライブをしてのけた。こんなライブはもう二度と出来ないだろうし、個人的には「今日で解散するつもりなんか?」と本気で思ったりもした次第だ。

ここまでで今回のライブが非常に力の入ったものだと分かってもらえたと思うのだが、特に驚きだったのはその演出の豪華さ。全ての楽曲に「この映像何百万かけてんの!?」と1曲おきに驚くレベルのハチャメチャな金をかけたVJが投影された他、火柱バンバン、空にはペガサス、地面からは熊、仮面を着けたダンサーが出てきたかと思えばステージが変形してオブジェが出現して、最後は風船を持ったメンバーが空を飛んで銀テープが飛びまくる……とまあ、今回のライブだけで破産するんじゃないかと思うほどに豪華なステージだった。詳細は他国の上のライブ映像に詳しいが、ヘッドライナー史上、一番金使ったんじゃなかろうか。

”This Ain't a Scene, It's an Arms Race“からはペガサスの模型がグーンと上昇し、別アルバムのゾーンへ。中でもこの日一番の盛り上がりとなったのは”Thnks fr th Mmrs”。真っ赤なカウントダウンが画面を覆い尽くすように表示される中、求心力のあるサビがどんどん鳴らされる様は圧巻である。ふと周囲を見ると、お父さんに肩車された小学生の男の子が大はしゃぎする様子が。長い活動歴で知られるFOBのファンが自身の子どもに教え、その子どもが楽しんでいる構図に思わずウルッと。「この曲好きやもんなあ〜!」と満面の笑顔のお父さん、それに「ヤバい〜!」と答える子ども。親から子へ音楽が引き継がれていくその光景に、とても元気を貰えました。

“Disloyal Order of Water Buffaloes”が流れた際には、アルバムジャケットでもお馴染みの熊が空気を入れられ、ムクムクと巨大化。ここからはこれまでほぼ出さなかった火柱がバンバン上がり、こちらもアツアツに。かと思えば“The Phoenix”が流れれば背後に巨大な石像がボカンと出現し、目にも楽しい演出がどんどん出てくる。個人的には映画『ベイマックス』の楽曲でもある“Immortals”で、YouTubeのコメント欄らしき画面が映し出され「Wow a one-word song title from fall out boy(FOBの曲のタイトルが一言で終わってるの凄いね)」とのコメントにいいねが大量につく構成が面白かった。ちなみにこれ下のセットリストを見ると分かりやすいですが、ほとんどの楽曲のタイトルが長いFOBの自虐です。

そんなこんなで進んでいったライブは気付けば終わりに近付き(休憩無しでどんどん進むので時間経過が早い)、いよいよ終わりかと思われたところで鳴らされたのは“Centuries”と“Saturday”。ここまでアルバム順に鳴らされていたセットリスト。この2曲はその前半に位置するものでほぼ逆戻りの感があったが、これはフィナーレを意味していたと今なら思う。全ての楽曲のジャケットを過去から映し出し、最後はなんと空中浮遊からの爆発、からの銀テープとステージダイブ、という物凄い幕切れ。……繰り返すが、ここまでの熱量で畳み掛けるライブは今後FOB的にもまずない。先述の通りこの時間はいろいろなバンドがライブをやっていたけれども、FOBのライブを選択したことは絶対に間違いじゃなかった。そう断言出来る、トリに本当に相応しいライブだった。マジで解散だけはしないでね……。

【Fall Out Boy@サマソニ大阪 セットリスト】
Grand Theft Autumn/Where Is Your Boy
Sugar, We're Goin Down
Dance, Dance
A Little Less Sixteen Candles, a Little More "Touch Me"
This Ain't a Scene, It's an Arms Race
Bang the Doldrums
Thnks fr th Mmrs
Disloyal Order of Water Buffaloes
I Don't Care
The Phoenix
My Songs Know What You Did in the Dark (Light Em Up)
Uma Thurman
The Kids Aren't Alright
Immortals
The Last of the Real Ones
What a Catch, Donnie
Golden
Love From the Other Side
Fake Out
Headfirst Slide Into Cooperstown On A Bad Bet
Centuries
Saturday


おわりに

FOBのライブ後に花火が上がり、ここで本当に今年のサマソニは終了した。ポーターの件などいろいろトラブルはあったものの、今年も素晴らしいフェスを体験できたことを心から嬉しく思う。
 
少し話はそれるが、今年のサマソニを語る上で記すべきことがあるとすれば、それは『歴史的円安によるブッキングの難しさ』であった。……もちろん我々ファンとしてはもちろん大物が観たい。そのためSNS上でも「今年の洋楽勢が渋い」といった話も散見され、これに関しては実際自分も同様な危機感を抱いている。ただ様々なメディアで語られている通り、これまで1千万で呼べていた人が1千500万になったりと、結果としてもう過去のサマソニのように大物はブッキングできない。清水社長も話していたが、「もしその大物を起用できたとして、他のステージに出るアーティストが非常に弱くなるからフェスとして成立しない」とまあ、こういうことなのである。

そんな中で今年のサマソニは、本当に頑張ってくれたと思う。頑張ってくれた運営さんに感謝の気持を述べると共に、来年のまた周年開催を心から楽しみにしている。最高の夏をありがとうございました。