キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】『JAPAN ONLINE FESTIVAL 2021 Spring』DAY2

こんばんは、キタガワです。


本来であれば東京オリンピックの開催など、半ば幸福な出来事が約束された記念すべき年となる筈だった2020年。けれども突如として出現した新型コロナウイルスの蔓延により、結果として国民の誰しもが多くの我慢を強いられるよもやの年となった。その中でも取り分け苦境に立たされたのがライブシーンで、アーティストの多くが行う予定で動いていたライブは軒並み延期、若しくは中止の判断が下され、少しずつ緩和されつつはあるが、その影響は現在進行形で続いている……ということは、もはや周知の事実であろう。


それは『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』と冬フェス『COUNTDOWN JAPAN』など国内最大規模の音楽フェスを主催するロッキング・オン・ジャパン社も同様であり、昨年度は上記のふたつのフェスに留まらず、ライブイベントの多くの中止を決定。そんな中開催されたのが、此度の『JAPAN ONLINE FESTIVAL 2021 Spring』と題されたオンラインライブで、開催は昨年に続き2度目となる今回は日程を4日間、出演アーティストは総勢20組と規模を拡大し、演奏中にバックを彩るLEDビジョンは約19m×7m、800インチと更に巨大化。なおこうしたパワーアップを遂げた背景にはコロナ禍で自宅にいながら安心して楽しめるオンラインライブならではの利点ももちろんだが、何より一番は生身のアーティストたちが織り成すライブの興奮を広めたいという思いである。事実度重なるイベントの中止を経験したにも関わらずチケット代は大幅な値下げを敢行(全日購入の場合何と3200円引き!)していて、強い覚悟が伺える。


さて、前置きは短ければ短いほど良い。以下より待望の、各バンドのライブレポートである。コロナ禍の中、ロックバンドの未来は暗いのか?答えは断じて否である。

 

 

おいしくるメロンパン(19:00~19:40)

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1番手として登場したのは、かつて同社が開催したバンド・アーティストのオーディション「RO69JACK 2016 for ROCK IN JAPAN FESTIVAL」で優勝しその後もコンスタントな活動で頭角を現す3人組、おいしくるメロンパン。1曲目に選ばれたのは前述のオーディションで応募曲として提供した代表曲“色水”で、この日ならではの軽快な滑り出しを図る。至って平熱の歌唱に徹するナカシマ(Vo.G)と対極に位置するように、演奏の熱量は後半に差し掛かるにつれてぐんぐん上昇。特段彼らの楽曲は音源同様、爆音が鳴っている訳でもなく、特に“色水”ではギターもクリーンで声を張り上げる場面すらほぼない。ただ彼らの心中には明らかな興奮が宿っていて、それが演奏に還元されたような、不思議な熱を伴って鳴り響いていた。

 


タイトルを彷彿とさせる澄んだ海中の映像がVJとして映し出された“look at the sea”、リズミカルな曲調が楽しい“5月の呪い”など、前半部に彼らが選りすぐった楽曲は初期のフルアルバムに収録されているものが大半であったが、その中でもひとつのハイライトとして映ったのは屈指のライブアンセム“シュガーサーフ”。原曲と比較しても明らかに速さを増したBPMに乗せてパンキッシュに駆け抜けていく“シュガーサーフ”だが、ラスサビに雪崩れ込む頃には足元のエフェクターを介したためか凶悪なサウンドに変貌。轟音にまみれる中、笑顔も浮かべず淡々と演奏に集中するメンバーの姿には心底圧倒された。


“シュガーサーフ”後のMCで、峯岸翔雪(Ba)は「僕らは今まさに制限はありつつも全国ツアーを回っておりまして。ライブをやるたびにお客さんが『ライブ大好きだな』って感じるし、僕らもライブが本当に好きなんだなっていうのを感じるんですね」と語っていたが、その言葉の通り後半からは現在進行中のライブツアーのセットリストの中心部を担う、自身5枚目となるニュー・ミニアルバム『theory』から計3曲を連続投下。

 


ラストに演奏されたのは“斜陽”。悲痛な心中をポジティブに変換する独特の歌詞がポップロック然としたサウンドに落ち、サビ部分に突入した瞬間に一気に爆発。最終曲に相応しい興奮をもたらしていく。クライマックスではナカシマが《振り返らないで》とのフレーズを幾度も繰り返し、余韻を残さずに切り裂くように終了。ナカシマが「ありがとうございました」とポツリと言い放ち、彼らの久方ぶりのオンラインライブは幕を閉じたのだった。終演後、バックステージトークにて現在ツアーを回っていることに触れ「結構リラックスして出来ましたね」と原駿太郎(Dr)は語っていたが、まさにその言葉の通り、総じて肩肘張らないようでいて、凄まじくエネルギッシュなライブであった。


【おいしくるメロンパン『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】
色水
look at the sea
5月の呪い
シュガーサーフ
caramel city
epilogue
亡き王女のための水域
架空船
斜陽

 

Saucy Dog(19:45~20:25)

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おいしくるメロンパンからバトンを受け継いだのは、彼らと同様注目の若手バンドとしてシーンを席巻しつつあるロックバンド・Saucy Dog。「HELLO」の歌詞が続く、まるで休日の朝に流れるリラクゼーションミュージックのようなSEと共にせとゆいか(Dr)、秋澤和貴(Ba)、石原慎也(Vo.G)が袖からステージに登場。暫しのチューニングの後、石原がすうっと息を吸って鳴らされたのは“シーグラス”だ。

 


石原は「Saucy Dog始めます!よろしくねー!」との一言から曲中は「フォー!」と叫んで感情を露にしたり、満面の笑顔を浮かべる一幕も。コーラスパートも同時に担うせとも同じく笑顔で、秋澤も地に足着けた演奏でサウンドに面をガッチリサポート。歌われる内容は大恋愛の果ての破局というネガティブな代物であるけれど、《胸の中大切に仕舞っておくよ、ずっと/このまま》と締め括られる“シーグラス”と同様、石原の目線は常に前だけを向いていた。


“真昼の月”の演奏が終わると、この日初となるMCへ。今回が『JAPAN ONLINE FESTIVAL』初出演となるSaucy Dogだが、実は前回も同イベントへのオファーがあったものの、メンバー(せとと秋澤)が新型コロナウイルスに感染したことから出演を見送らざるを得ない状況に陥っていたという。そうした経緯を申し訳なさそうに語るせとを笑顔でフォローしつつ、石原は「それでもまた誘ってくれて。そりゃ出ますよ!嬉しいね、本当に」と感謝の思いを述べる。

 


石原が続けて語った「なので今日はそのリベンジも兼ねて、2回分を今日に凝縮したそういうライブをしたいと思います」との言葉の通り、以降の彼らは珠玉のロックナンバーを連続して披露。エモーショナルに響き渡った“BLUE”、アッパーなサウンドが鼓膜を揺らした“ゴーストバスター”、「みんな画面の前で楽しむ準備出来てますか!」と石原が叫んで雪崩れ込んだ“バンドワゴンに乗って”……。画面越しにも直接訴え掛けるようなナンバーの数々は、大勢の心の琴線に触れたことだろう。


端的に言い切ってしまうならば、Saucy Dogの楽曲は作詞作曲を務める石原の人生をそのまま回顧したものだ。故に彼らの楽曲は恥ずかしいほどにストレートで、また痛みを伴った思いを内包するが、そしてそれはそのまま、彼らが広く人気を博す理由のひとつでもある。新型コロナウイルスの所謂『第4波』が襲来し、未だ先の見せない生活は続いていくと予想されるけれど、ラスト“猫の背”のサビで歌われた《ずっと前だけを向いてなくて良い/叶うよ きっと 信じて》の一幕は、前向きに未来を見据える彼らなりのメッセージのようにも思えた。


【Saucy Dog『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】
シーグラス
真昼の月
雀ノ欠伸
BLUE
ゴーストバスター
バンドワゴンに乗って
sugar
猫の背

 

フレデリック(20:30~21:10)

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Saucy Dogのバックステージトークから画面が切り替わるなり、冒頭から楽器隊が渾然一体となった“KITAKU BEATS”におけるリフを響かせたフレデリック。にかっとした笑顔で開口一番「『JAPAN ONLINE FES』フレデリック40分一本勝負、よろしくお願いします。どうする?……遊ぼっか!」と三原健司(Vo.G)が言葉を放つと、直ぐ様音の洪水に包まれる。

 


健司の冒頭の言葉を体現するように、中盤で少しばかりMCを挟んだ以外は基本的に楽曲を披露し続けたフレデリック。キャッチーな楽曲群と各所のアレンジは元より、先日行われた自身初の武道館公演でも絶大な印象を与えていたVJも顕在で、中でも“ふしだらフラミンゴ”と“他所のピラニア”から成る生き物ゾーンではサイケな音像と共にブランコを漕ぐフラミンゴや一匹狼のピラニアが投影され、楽曲にも見え隠れしていたシュールな雰囲気は更に加速。大型LEDビジョンを最大限活用した視覚的にも楽しめるパフォーマンスを届けていく。“正偽”後のMCにて健司は、初めてフレデリックの音楽に触れるリスナーに思いを寄せ「ここで会ったのも運命ですから。知ってても知らなくても楽しめる……。それが音楽やと思ってるんで」と語っていたが、それは音楽の素晴らしさを熟知しているということの他にも、フレデリックが奏でる音楽に対する自信によるところも大きいのだろう。


持ち時間後半部は何と、フレデリックを一躍表舞台に押し上げたキラーチューン“オドループ”を新曲“サーチライトランナー”と“名悪役”でサンドイッチするニクい構成だ。この場で特筆すべきはやはり先日の日本武道館公演でも披露された2曲の新曲であろうが、どちらも一見アッパーな曲調のようでいてその実しっかりと差別化も図られていて、間違いなく今後のフレデリックのライブで都度セットリスト入りする魅力を秘めた楽曲。正式な音源リリースはまだ先だが、出来る限り早く堪能したいところだ。

 


彼らが今回のライブで示したもの……。それは端的に言い表すならば「俺らは止まらない」という強い意思表示だったように思う。初期曲“ふしだらフラミンゴ”には「捨て曲はひとつもない」との思いも感じたし、爆発的な興奮を叩き出した“オドループ”にはロックバンドのライブらしさを、そして新曲2曲には、更なる飛躍の予感を抱かせた。ネクストステージへの到達を目論む彼らを観測するには今回の40分はあまりに短いようでもあったが、それも来たる有観客ライブへの期待を高める前哨戦と考えれば、これ以上なく素晴らしいものだったのではないか。


【フレデリック『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】
KITAKU BEATS
Wake Me Up
ふしだらフラミンゴ
他所のピラニア
正偽
サーチライトランナー(新曲)
オドループ
名悪役(新曲)

 

go!go!vanillas(21:10~21:50)

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トリ前の重要な役割を担うのはgo!go!vanillas。ぐんぐん大きくなる打ち込みに合わせて牧達弥(Vo.G)が「プレイバック!」と叫ぶと、まずはオープナーを飾る“鏡”を投下。ただオンラインライブと言えど甘ったるいパフォーマンスなどバニラズには無縁で、メンバーは皆一様に笑顔を浮かべながらの演奏に終始しており、長谷川プリティ敬祐(Ba)は幾度もジャンプし興奮を体現。気付けば牧もギターを置いてハンドマイクで歌唱している。彼らのライブでは基本的には用いられないVJもこの日は多用されていて、背後にはThe Chemical Brothersの“Go”を彷彿とさせる人型のキャラクターが所狭しとダンスを繰り広げ、目にも楽しい。

 


この配信の数日後からは自身5枚目となるフルアルバム『PANDORA』を携えたツアーを控えていた彼ら。必然セットリストもこのアルバムを軸に構成されていて、実に演奏された全7曲のうち5曲を『PANDORA』からの楽曲が占める、バニラズのニューモードを存分に見せ付ける形となった。ただアルバムを未聴のファンを置いてけぼりにすることは一切なく「このご時世、普段のようにみんなと一緒に声を出したりとか出来ないんですけども、その分僕らがその熱量をオモイッキリ画面の向こうに届けますので」という牧のMCの通り、沸点まで熱した極上のロックンロール・フルコースをお見舞い。


取り分け印象部として映ったのは、今回演奏された中でも数少ない既存ナンバー『No.999』。メロ部分では楽器隊の面々にボーカルパートを任せつつ、牧がつんのめるようにギターを弾き倒すアグレッシブぶりで魅せる。そしてラスサビ前には「騒げー!」との牧の絶叫を契機として、言語化不能の発語を連発するジェットセイヤ(Dr)を除くメンバー全員が会場内を駆け巡り、カメラを翻弄。ラストはジェットセイヤが熱を帯びた演奏で落下してしまったシンバルを拾い、シンバル同士を叩き付ける流れから宙にぶん投げる圧巻のパフォーマンスで終了。観るものに絶大な印象を与えた。

 


2021年もすっかり春になり、バニラズはようやくツアーを再開する。この記事を書き終わった頃にはきっと1日に昼夜2公演という過酷なツアーが始まっていることだろうが、彼らの望む「誰もが声を出して盛り上がるライブ」は未だ遠い。ただ忘れてはならないのは、そうした試みの理由のひとつはロックンロールに飢えた我々に音楽を届けるためであるということ。現在も先の見えない状況は続いているけれど、ラストナンバー“ロールプレイ”前、画面の向こうの我々に対し「元気でいてください」と語った牧の表情は、どこまでも晴れやかだった。


【go!go!vanillas『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】

平成ペイン
アメイジングレース
アダムとイヴ
お子さまプレート
No.999
ロールプレイ

 

フジファブリック(21:55~22:25)

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楽しかった時間ほど過ぎ去るのは早いもので、気付けばこの日のライブアクトは残すところ、フジファブリックただ1組のみとなった。約1ヶ月前にニューアルバム『I LOVE YOU』をリリースしてから間もない今回のライブが如何なる代物となるのか……。必然自ずと心中の期待が高まる感覚に陥っていく。


まずは表題の歌詞を発する以外はほぼインストの新曲“LOVE YOU”で会場を温めると、以降はミドルテンポな音像でゆるりと聴かせた“赤い果実 feat.JUJU”、開幕で山内総一郎(Vo.G)が加藤慎一(Ba)と向き合って演奏を繰り広げた“徒然モノクローム”、緑色に染まった鳥たちが天高く舞い上がる映像が画面一杯に広がった“Green Bird”と新旧入り乱れた楽曲群を展開。中でも“徒然モノクローム”では山内が「ジャパーン!」と叫んだり、直前のMCで同じく山内が「コロナ禍だからこそ出来るオンラインのフェスなんですけども、本当に『行き詰まったところが始まり』だと思います」と“徒然モノクローム”の歌詞を引用して語ったりとグッと来る仕掛けも生み出していて素晴らしかった。

 


以降はアダルティなMVが投影され演奏を彩った“楽園”、フジファブリックの代表的ヒットナンバーとして知られる“若者のすべて”が満を持して鳴らされると、山内が「いろんな大変なことがたくさんあると思うんですけど、光輝く未来がすぐそこまで来ているってことを信じて。心を込めて送りたいと思います。今日はどうもありがとうございました」と語り、コロナ禍の果ての晴れ晴れしい未来を希求する“光あれ”でフィナーレを飾る。

 


小説家・橋爪駿輝の他、各界で活躍する総勢16名にも及ぶ新世代のアーティストやクリエイターが撮影した映像の数々をバックに、サポートメンバーである伊藤大地(Dr)含む楽器隊の面々は真摯にサウンドを鳴らし、山内は画面越しの我々の心に訴え掛けるように、希望を描いた楽曲“光あれ”を届けていく。彼らは身体的なアクションをパフォーマンスの一環とするバンドではなく終始動きが少ないため、必然背後のVJに目を映す形になるのだが、描かれているMVはコロナ禍の真っ只中に公開されたものであるにも関わらず基本的に屋外で、それでいてマスクを着用する場面すらほぼない。ただその光景は今や遠い昔の出来事のようにも思えてしまうが、かつて我々が当たり前に過ごしてきた日常そのものなのだ。今回、何故多くのバンドが存在する中でフジファブリックがトリを務めたのか……。その理由については定かではないけれど、楽曲のアウトロで「皆さんの未来に、光あれー!」と笑顔で叫んだ山内の姿を見ていると、やはり漠然と彼らをトリに選んだ判断は何より正しかったのではないかと、そう思えて仕方がなかった。


【フジファブリック『JAPAN ONLINE FES』セットリスト】
LOVE YOU
赤い果実 feat.JUJU
徒然モノクローム
Green Bird
楽園
若者のすべて
光あれ

 

そういえば、と改めて回顧する。……ソロアーティストやヒップホップユニット、アイドル、果てはビジュアル系バンドといった幅広いアーティストが出演する『JAPAN ONLINE FESTIVAL 2021』 の中で、唯一ロックバンドのみが出演者に顔を揃えていたのがこの2日目であったと。各自様々な趣向を凝らしてパフォーマンスを行っていたことは上記の通りであるが、それぞれ活動の主軸に置いていたライブ活動が長く停滞に追い込まれていたからか、どこかとてつもなく強い力を感じる、そんな熱い熱い一夜でもあったように思う。


加えてまだ余談を許さない状況は続くが、 今回出演を決めたアーティストは全組、今年は大規模なツアーを回る方向で動いている。……「ロックは死んだのか?」というクエスチョンが海外でしきりに問われるようになってから何年も経つが、僕は今回のライブを観て絶対的なひとつの解に至った。そしてそれはおそらく僕以外にも、今回ライブを全組鑑賞したリスナー全員が感じたことと同じであるはずだ。次回は最終日、DAY4のレポートをお届け。乞うご期待である。

邦洋アーティストの、学校を舞台としたMV6選

こんばんは、キタガワです。


令和の新時代に突入してからというもの、現代音楽シーンは明らかなMV時代の様相を呈している。昨年大いにバズったアーティストのみで考えても、例えば瑛人、YOASOBI、yamaなどは音楽性に加えてどのメディアでもそのMVの特異ぶりにも焦点を当てていた印象で、今やMVは誰も目から観ても知名度と『らしさ』を瞬間的に理解させるツールとして重宝されている。その中でも注目が広がっているのはまさしくAdoやyamaといったアーティストに顕著な『アニメーションを用いたMV』であろうが、その実彼女たちのMVは完全なアニメーションではなく、あくまで静止画をベースとし歌詞を随所に散りばめるリリックビデオ形式。そう。所謂『バズるアーティスト』のMVは明確なカテゴリーに分類されているようでいてジャンルレスなのだ。


これまでも独自のカテゴライズで、様々なMVを紹介してきた当ブログ。今回は取り分け珍しい『邦洋アーティストの、学校を舞台としたMV』に主軸を置き、ジャンルもテイストもバラバラな6組をピックアップして紹介する。……学校は学生が勉学に励むのみに非ず。そのサウンドと歌詞に没入する音楽勉強としても最適な手段であることを、是非とも今記事を以て証明したい所存だ。

 

 

Alone/MARSHMELLO

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稀有な出で立ちの若手DJとしてダークホース的にフロアを沸かせていたのも、もう過去のこと。今では単独ライブはプレミア化、各地のフェスではヘッドライナー起用と破竹の勢いで駆け抜ける逸材となったマシュメロ。そんな彼の名を広めた契機とも言える楽曲が、YouTube上で驚異の20億再生を記録している“Alone”。MVで描かれるのは、学生に扮したマシュメロによる憂鬱たる学校生活だ。その風貌から肩身の狭い思いを抱いているマシュメロだが、彼には自宅で陰ながら熱中するひとつの趣味があり、それこそが様々音楽を瞬間的に彩るDJ。偶然自宅でプレイを見掛けた友人は普段は寡黙な彼のよもやの行動に衝撃を受け、クラスでDJを披露するよう後押し。そうした緩やかな助走を踏んでのラスサビは、誰もが感動すること請け合いだ。《僕はひとりぼっち/家が一番心地良い》との冒頭の一幕も、楽曲タイトルを“Alone(孤独)”とする作りも。“Alone”は名実共にここ数年間の海外音楽シーン全体で見ても圧倒的なバズをもたらした作品として知られているけれど、MVを介して楽曲に触れることで、ある種のドラマ仕立ての感動をも呼び起こしていることも流行曲として広がった理由のひとつだろう。


曲調は流行りのハウス寄りで取っ付き易く、それでいてEDMにとって必修科目的なサビでの大きな盛り上がりも落とし混んでの秀逸なワードセンス。現音楽シーンはカルヴィン・ハリス然りデイヴィッド・ゲッタ然り脱EDMの傾向が強まってきてはいるが、やはりポップ路線を突き詰めたマシュメロのサウンドが再評価の兆しを受けていることは単純に嬉しく、またEDMシーンの希望のようにも思えてならない。

 

youtu.be

 

 

偽物勇者/703号室

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某年以後、急激に発達を遂げるサブスクリプションサービス。その中でも昨年取り分け大きなブレイクを果たしたアーティストの1組が、シンガーソングライター、岡谷柚奈のソロプロジェクト・703号室だ。冒頭で『音楽の広がりの多様化』について綴ったが、確かにその恩恵としてかつてほぼ無名であったアーティストが突如世間に認知されることは今や珍しくない。ただそのバックボーンを紐解くと、特にずっと真夜中でいいのに。を筆頭として綿密に練り上げられたマーケティング戦略が行われていることもまた、ひとつの事実として位置している。ただ703号室がバズをもたらした理由としては、その楽曲の求心力によるところが何より大きいのではないか。事実正直な感想として楽曲自体の音も良質とは言い難いし、MVも当時岡谷が在学していた専門学校の友人らを招いて制作されたDIYな代物で、SNSのフォロワー数も1万人に満たない。となると考えられるのはひとつの解しかなく、十中八九『インターネット経由の口コミ』が、結果バズをもたらしたと推察される。


現在ではバンド名義であった703号室をソロ名義として変更し、不変かつ愚直な活動を行っている彼女。良くも悪くも一度ブレイクを果たしたアーティストに対しての世間の目は厳しい傾向にあるが、きっと703号室はどれほどの逆風も“偽物勇者”よろしく強いエネルギーでもって、はね除けてくれるはずだ。

 

youtu.be

 

 

つくり囃子/パスピエ

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四つ打ちロック界のポップマエストロ・パスピエによる自身3枚目となるフルアルバム『娑婆ラバ』のリード曲たる“つくり囃子”。なおかつてのパスピエは素顔を一切公開していなかった関係上、以下のMVも狐の面を被りある種の匿名性を前面に押し出した作りとなっている。


今回紹介するアーティストの多くはその教室内を主な舞台として展開するが、“つくり囃子”では冒頭からクライマックスにかけての長時間は基本的に学校の廊下でシナリオを組み立てている点も興味深い。《今夜が作り話なら 共犯だね/そら化け騒ぎ 娑婆だかなんだか》とのサビ部分の歌詞の通り、今作は楽曲とアルバムタイトルを暗喩することに加えて、狐の面は人間を化かすとして昔話で広く言い伝えられてきた狐、共犯はパスピエの楽曲自体に心酔する我々リスナーを表しているようにも思える。ファンからはその歌詞のミステリアスぶりも語られることの多いパスピエであるが、“つくり囃子”は『娑婆ラバ』の中でも特に深意に迫ってしまう魅力に溢れた作品であり、特に大胡田がおもむろに屋上に歩みを進めてのラスサビは圧巻の一言。必ずや観る者に多大なる興奮を呼び起こすことだろう。

 

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エマ/go!go!vanillas

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各地のフェスを中心に、若手ロックシーンを牽引する一組となったバニラズ。彼らのメジャーデビュー1曲目を飾った記念すべき楽曲こそ、今なおセットリストに組み込まれ続けているダンスナンバー“エマ”である。思えばバニラズが一気に頭角を表す要因となったのは、メジャーコードを多用しポジティブにロックを鳴らす独自のサウンドメイクだった。ミュージシャンはアルバムごとに作風が変化するのも常で、事実年齢を重ね、メンバーの体調不良や新型コロナウイルスといった様々な変化を経験した現在の彼らのレンジは広がっている。そんな中“エマ”はと言えば徹底して明るいイメージに振り切った楽曲に位置していて、MVに出演する女子高生が象徴しているようにネガティブな要素が一切出現しないことも特徴。過去作にも顕著に現れていた彼らのポジティブなイメージは、“エマ”で完全に確立されたのだ。

 

近年、バニラズは変化の一途を辿っている。前述の通り作風は少しずつ良い意味で向上しているし、『鏡 e.p.』ではメンバー全員が作詞作曲に加えボーカルを務める挑戦的なEPに。そしてコロナ禍に行われた自身初の日本武道館ライブも大成功と、かつて四つ打ちロックシーンに突如現れた若手バンドは、素晴らしきロックンロールバンドとなった。……とすると目指すは前人未到の領域しかない。果てなき旅路へ向けて。進め、バニラズ。

 

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ドレミFUN LIFE/たんこぶちん

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当時17~18歳の現役高校生ながらメジャーデビューを果たし、ROCK IN JAPAN FESTIVAL含め多くのライブに出演しガールズバンド・たんこぶちん。彼女たちの記念すべきファーストシングルが、以下の『ドレミFUN LIFE』。なおたんこぶちんは人気絶頂の中2019年2月をもって活動休止中であるが、現在も公式SNSは稼働を続けている。


機材を運び、部室で練習する……。“ドレミFUN LIFE”のMVで描かれているのは端的に言えば、軽音楽部に所属する高校生たちによる他愛ない日常だ。長きに渡る活動の末、映画のタイアップも手掛ける存在となったたんこぶちんだが、その活動自体が学生時代のバンド活動の延長線上に位置していることが視覚的に分かるその映像はかつての青春を我々に強く想像させる。前述の通り、たんこぶちんは以後音楽で生活を担う『バンド』として確立。音楽的にも歌詞的にも年々変化を続けてきた。ただたんこぶちんが長期的な活動休止状態となった今“ドレミFUN LIFE”のMVを観て思うのは、彼女たちにとって最高速度で駆け抜けた青春は紛れもなくあの地点にあったということ。『青春』という言葉が少しずつ薄れつつある年齢に差し掛かった彼女たちが今後どのような音楽を鳴らすのか……それを期待すると共に、来たる再結成を座して待ちたいところだ。

 

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ain't on the map yet/Nulbarich

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独特の浮遊感でもって、こと緑豊かな環境で練り上げられた各地フェスへの出演で話題を集めるバンド・ナルバリッチ。緩やかな楽曲を多数産み出す彼らの中でも幾分かアッパー、更には「僕たちはまだ何も成し得ていない」……つまりは以降の旅路の意思表示の意味も込められた1曲こそ“ain't on the map yet”である。MVはJQ(Vo)による日本語と英語がない交ぜになった歌詞とサウンドのもと、女性教師に恋心を抱く少年が特技のダンスでもってアプローチを試みる内容となっていて、後半部には画面が遷移。女性教師と少年が心を通わせる進展を見せるも、ラストはその行動全てが少年の妄想であった事実が明かされ、映像は幕を閉じる。一見荒唐無稽な作りにも思えるが、ライブではJQ以外のメンバーが流動的に入れ替わるという、ナルバリッチらしいミステリアスな作りには脱帽だ。


昨今のナルバリッチはコロナウイルスを経て強い意識改革を時を迎えており、他者とのコラボレーション楽曲の制作や楽曲提供など、メジャーデビュー以降最も意欲的とも言うべき軽快さで活動を続けている。過去のインタビューにおいてJQは「同じような楽曲は作りたくない」という趣旨の発言をしていたが、確かにナルバリッチの楽曲はどんどんレンジの広い代物と化すばかりで、“ain't on the map yet”が収録された初のフルアルバムが彼らのひとつの区切りとなったのはおよそ間違いない。先進的な試みを成しつつ、ナルバリッチはこれからも続いていくのだ。

 

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……さて、いかがだっただろうか。学校を舞台としたMV6選。上記のMVを回顧すると、今回紹介した楽曲は若かりし頃の学校生活に思いを馳せたり、10代の頃にしか経験し得ないifの世界線をなぞったが大半を占めている。それはすなわち、楽曲の持つメッセージ性を強く伝える手段として『学校』が何より適していると判断してのこと。今回紹介したMVで言えば特にMARSHMELLOの“Alone”のように、人間誰しもが義務教育として必ず通った道を視覚的に見せるからこそ、より心に刺さる部分も必ずや存在するはずなのだ。


無関心に観ればそれまで。しかし深く掘り下げつつMVに刮目すると、見えてくる世界も少しばかり変化するはず。……様々なMV紹介でも繰り返し綴っている通り、音楽に触れる契機は端的に記すならば『何でも良い』の一言に尽きる。それはつまり、今回の『学校を舞台としたMV6選』との題材からふと興味を抱いたことから初めて出会う楽曲も多いということに等しい。読者の方々には是非とも、今後も様々な音楽を聴き、またその派生として次なる音楽、次なる音楽と深みに突き進んで行って欲しいと強く願っている。

ハッピーエンドじゃなかったのか

今日も1日が終わる。物流的な繁忙期である関係上、残業に次ぐ残業で体が悲鳴を上げていることに加え、上からはやれ新人教育をしっかりしろだの業務ルールを守れだのと最近は粘着質な詰問の連続で、いつしか僕の精神はすっかり限界値に達してしまった。何かを成す気力さえ沸かず、ぼうっと過ごすこと早数時間、気付けば起動しっぱなしになっていたニンテンドースイッチにひとつの通知が到来した。僕は時計の針が0を指した瞬間、即座にそれをインターネットで引き落とした。……偶然にも明日は休日。クソッタレな生活を変えるには、もうこれしかないと思った。

 

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ニンテンドースイッチにて去る3月26日に発売された『モンスターハンターライズ』。肉体的にも精神的にも疲弊し尽くした僕にとっての、唯一の良薬だ。完全新作と銘打たれていることからも分かる通り、確かに過去作で必要不可欠な代物として位置付けられていたアイテム群の廃止や、痒いところに手が届く以上に過保護な感も否めないニュー・システムなど様々な変更点も見受けられる今作だが、大きな剣……もとい『大剣』と名付けられたその武器でバッサバッサと薙ぎ倒していくゲームメイクはやはり爽快であり、その純粋な面白さも当然ながら、ある種の懐かしささえ感じてしまう。

すっかり大人になってしまった我々は「昔は楽しかった」と時たま学生時代を回顧する。例えばモンハンひとつ抜き出して考えても、連日友人宅でプレイに興じ、入手確率僅か数パーセントの希少素材である天鱗を求めて幾度も同じモンスターを屠り去り、それだけでは飽きたらず、少しでも差を埋めんとする友人の中には授業中にシャープペンシルを剣に持ち替え、教師の目を盗んで狩猟実習を受ける者もかつては少なくなかった。『ゲームは単なる娯楽』と一蹴してしまえばそれまでだが、汗きらめくスポーツとも黄色い声飛び交う女性関係とも全くの無縁だった我々にとって、モンハンは当時紛れもなく青春の象徴だったのだ。

しかしながらあれから何年もの時を経て、当時モンスターの素材がああだこうだと捲し立てていた我々は、気付けばめっきりゲームから離れていった。それは結婚等で慢性的な時間不足にあえぐ友人らは半ば当然として、かつて『ゲーム天才』と持て囃されていた僕も同様で、まさかここまでゲームをプレイしなくなるとは思いもよらなかった、というのが正直なところである。ただ朝から晩まで仕事に忙殺され希死念慮に苛まれる現在だからこそ、僕は思ったのだ。久々にゲームに没入する瞬間が必要だと。その手段を得るに最も適しているものこそ、かつて寝食を度外視し熱中を決め込んだモンハン以外にないのだと。

……という長々とした経緯を語ったところで、閑話休題。とにかく僕は様々なバックボーンの果てに、遂に念願のモンハンを入手した。しかしながらプレイ中の僕の心中には予想に反し、然程興奮は感じられなかった。確かに非常に面白いゲームであるのは間違いないし、新たに追加されたシステムも絶妙にマッチしている。ただコントローラーを触った瞬間に天高く咆哮してしまうようなあの頃の驚きはなく、これは僕が歳を取り過ぎたために引き起こされた懐古主義的な思いからなのか、それとも実は心の奥底では違和感が残っているためなのか、未だ掴めかねないでいた。

ただ少なくともこの心のフラットな感覚を鑑みるに、僕がこのゲームを心から楽しんでいないという事実は垂直に立っているようでもあり、コロナ以後精神的にダウナーな状態に陥り、此度のモンハンに何よりも代え難い『興奮』という一握の望みを託していた身としては寂しさもあって、必然僕の心にはふと非人間的な思いが浮かぶ。「もしかすると僕の心は既に限界まで冷め切ってしまっていて、今後何かに心を揺さぶられる事自体ないのかもしれない」と。

強めのアルコールをチビチビ飲みつつ、僕は取り敢えずプレイを続けることにした。やはりどれだけクエストを進めても、心に微々たる衝撃すらもたらされない。新モンスター?何か弱いなあ。新武器?別に無属性なら何でも良いか。新エリア?広すぎて難しい……。目に映る全てを斜めに見る持って産まれた劣性スキルはこと強い目的を基盤に購入したゲームには特に発動してしまうようで、然程楽しさも抱かないまま無気力にクエストを消化していく。それこそかつては上記の新モンスターや新エリアを見ると心が踊ったものだが、あれから数年が経過した今では至って平常心で、次第に世間一般的な『普通』から阻害された感覚を感じていた。

粗方の初期クエストを消化した後、僕は改めて冷静に現状を捉えた。やはりどれだけプレイしても、感動は極めて薄い。画面にはいつしか総プレイ時間が表示されており、僕の目は自然に画面へと注がれた。「どれどれ、この微妙なゲームのプレイ時間はいかほどか」と半ば冷やかし程度に見詰めたその画面には予想に反し、通常ではあり得ない密度の時間が表示されていた。

この日5本目のアルコールを空け、僕ははっと思い返す。そういえばリオレイアの装備を作成するためには天鱗が足りなかった気がする……。僕は所持アイテムを整理し、レイアマラソンを幾度も繰り返した。気付けば外には太陽が顔を出しており、ブラインドの隙間からぽっかり空いた空は「だから言ったじゃん」と僕を諭した。微妙な傑作、モンハンライズの購入。それは何より僕が避けなければならない、悪魔の囁きだったのだ。

 

youtu.be

スマブラの隙間から零れ落ちる愛

時計の針が一周し、再び『新たな12時間』の幕が切って落とされるその瞬間から、僕のゴールデンタイムは始まる。長時間に及ぶ立ち仕事を終え体はクタクタ。缶ビールを既に数本消費し、頭はグラグラのこの状態こそゲームに興じるには丁度良いコンディションであると気付いたのは僅か数週間前からだが、ひとりの夜行性のアル中の現実逃避としては、この上なく最適なものに思える。……そういえば明日も朝から仕事を入れていたような気もするが、けたたましいゲームの起動音ですんでのところで我に返った。そうだ。僕はこれをしなければ。

ニンテンドースイッチから発売された『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』。最近はもっぱらこの対戦ゲームにお熱である。元々学生時代よりゲームキューブの『大乱闘スマッシュブラザーズDX』とWiiの『大乱闘スマッシュブラザーズX』のコアプレイヤーではあったものの、年齢を重ねるにつれ次第にスマブラからは離れていき、いつしかあの輝かしい記憶は頭の奥底へと仕舞い込まれていた。ただ仕事だ何だと『何かに熱中する』という事自体が希薄となり、やはり「あの時の興奮をもう一度味わいたい」と感じることが多くなった某日、気付けば僕は手にニュー・スマブラを持ってレジに並んでいたのだ。

そんなこんなでスマブラである。プレイ当初こそ「懐かしいなあ」とのしみじみとした思いが先行していたが、そこはスマブラ。もう1戦、もう1戦と繰り返すうちにぐんぐんハマり、今ではプレイしない日はまずない。僕は学生時代から様々なキャラクターをスイッチして扱うタイプの人間だったため「これだ!」と声高に叫ぶほどの所謂『使い手』は存在しないが、最近右腕として順調にオンラインを勝ち進んでいるのはスーパーマリオの悪役としてお馴染みのクッパだ。クッパを積極的に使う理由はいくつかあるけれども、僕のプレイ時間が基本的に半泥酔状態である、という事実によるところが大きい。そう。正常な判断が出来ないのである。故に小回りの効くプリンやら手軽なコンボでダメージ数を稼ぐマリオなどと比較しても、一発一発が大振りでシンプルなクッパが『俺ツエー感』を満たすには適しているのだ。……特に個人的にお気に入りなのが横Bで繰り出すことが出来る投身自殺ダイビング(正式名称不明)で、崖際で当てれば相手のパーセンテージお構いなしに両者共倒れに持ち込むことが可。そもそも全国規模のプレイヤーと比較すると僕のテクニックは圧倒的に劣っているので、こうした嫌がらせ行動は逆に歴戦練磨のプレイヤーには効くのだ。

……この日も例に漏れず、チマチマとスマブラのオンラインに潜っていた。なおこの時の勝率はおよそ五分五分といったところで、ハイボールで引き起こされた酔いも合わさって気持ち良くプレイが進んでいた。ただそんな中で、同じくクッパを扱う謎のプレイヤー『K』の存在が僕の心を掻き乱したのだった。

このKという人間とは思えば何故かこの日オンラインで出会う確率が非常に高く、マッチングするたびにKはその類い稀なるプレイングで勝利をもぎ取っていた。Kと僕は同じクッパ使いだが、それでも実力は圧倒的に上で、馬鹿の一つ覚えとばかりにスマッシュ攻撃を頻発する僕とは違い空中技や通常攻撃、果てはシールドのタイミングなど完全に隙がなく、かなりの大差で敗北することも珍しくなかった。Kとマッチングした当初こそ菩薩のような寛大な心で赦していた僕も流石にここまで負けが続くと心中穏やかでなくなるのは必然で、次第にイライラが募るようになった。

その一方的な関係性に変化が訪れたのは、Kと異様なペースのマッチングを繰り返し気付けば8戦目が終了した頃。ランダム選択で決定された次なる対戦方式はチーム戦。しかも同じレッドチームとなったのは、僕とKだったのである。対してお相手は最近ダウンロードコンテンツとして追加されたホムラ/ヒカリと、一撃必殺の魔神拳を武器にするガノンドロフだ。ただ相手に不足なしとは思いつつも、当然有利不利の概念は存在する。相手のホムラ/ヒカリは中距離戦に長けたキャラクターで対となるガノンドロフは近距離専門、およそチーム戦に合ったコンビだが、こちらはどちらも近距離専門のクッパ。明らかに不利が予想される組み合わせだ。

数秒のロードの果てに雪崩れ込んだ対戦はやはりと言うべきか、ほぼほぼ事前予想通りだった。ルールはストック3機制というシンプル極まりないものではあったが、みるみるうちにストックが減っていく。それは僕ら重量級には軽量級は分が悪いとの部分も当然あるけれども、それ以上に対戦相手の地力が圧倒的に我々とは異なっていて、純粋にその立ち回り全てに無駄がない。今戦はチーム戦であるため『連係プレー』は無論必須になってはくるのだが、相手は「長年バディを組んでいたのか?」と思うほどには熟練されていて、仲間が掴んだらすかさず高威力攻撃、仲間が倒されかけたら助太刀とそもそも勝負にはならない代物だった。

そして最後の1ストックになった時、今戦最大のピンチが訪れた。僕のシールドが破壊されてしまったのである。スマブラはシールドが破壊された瞬間、数秒間行動不能な混乱状態に陥る。「こうなってはどう足掻いても成す術がない」と某ゲーム実況者も語っていたのをよく覚えている。……格好の餌食となった僕を見て、これ見よがしに猛ダッシュで近付いてくるガノンドロフ。放つ攻撃は勿論、一撃必殺の魔神拳だ。もう終わりか。そんな思いが頭をもたげた次の瞬間、僅かな隙間から誰かがザッと僕の前に立ち塞がった。それは間違いなく、あのKであった。

Kは驚きの表情を浮かべる僕に背中で語りながら、場外に吹っ飛ばされ、あえなく今戦最初の脱落者となった。言うまでもなく実質的に1対1となった戦いに勝てる筈もなく、僕も直ぐ様その後を追うように奈落の底に落とされた。ただ僕の心には信頼……いや、ある種の愛情が芽生えていた。颯爽と現れ身を呈して助けてくれたK。あのイカつい表情のクッパが、今だけは曇天を切り裂く天使に見えた。

「ありがとうございました」……。対戦終了後、僕は無意識に普段一切使わないメッセージ機能を押していた。あれほどストレスの権現だったKに対しての、間接的ではあるが最大限の感謝の念がそこには込められていた。きっと次の戦いでは怒りとは程遠い、フェアな戦いが出来ることだろう。その時は当然手加減などはしないまでも、心中では友情(愛情)を携えた素晴らしい戦いになるのは明白である。そんな僕の思いに呼応するように、画面にはいつしかKからの「ありがとうございました」との言葉が映し出された。「もしかすると我々が相思相愛なのかもしれないな」と、僕は思った。

感動的な余韻を感じる間もなく、次第に画面は遷移し、対戦待機画面へと移行した。そこでふと思う。Kの名前がないのだ。先程永遠の愛を約束した(勘違いです)Kの姿はどこにもなかった。困惑する僕を尻目に、時間経過と共に無情にも他のプレイヤーが次々とマッチングし、数秒後には試合が始まってしまった。無論Kはいない。何故か僕に対して4人が殴り込む集団リンチ的な展開でボコボコにぶちのめされながら、僕はひとつの解に達した。

「いや『ありがとうございました』ってそういう意味かーい!」

……スマブラ辞めます。

 


カネコアヤノ - 光の方へ

第44回日本アカデミー賞授賞式の最優秀作品賞『ミッドナイトスワン』と草彅剛のスピーチから感じた、人間の驕り

こんばんは、キタガワです。

 

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最優秀作品賞が発表された瞬間、僕は柄にもなく声高に叫んでしまった。今年2021年の日本アカデミー賞、その最優秀作品は周知の通り『ミッドナイトスワン』。今年ノミネートされた5つの作品のうち、僕は4作品を劇場で鑑賞した人間だ。しかしながら唯一地元で公開されなかった関係上、距離的な問題もあり鑑賞を諦めた作品が『ミッドナイトスワン』であった。ただ元々是非とも鑑賞したい作品ではあったものの、人間というのは卑怯なもので、鑑賞出来なかったと知った時から僕は「観ることの出来なかった言い訳」を、脳内で幾度も繰り返した。「あのYouTuberの草彅が出る映画だし」「トランスジェンダーの映画?あまり好みじゃない題材だし」「そもそもコロナ禍なのに遠征して映画観るってどうよ」……。それはそれは数々のネガティブ要素を映画のあらすじから抜き出していたものだが、そうした理論武装じみた思考変換は完全に誤りだったと気付いたのだ。


思えば僕が映画評論家を気取り始めたのは『万引き家族』が第42回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した頃だった。当時たまたま自分が興味を抱き、劇場に足を運んで鑑賞した映画『カメラを止めるな!』『弧狼の血』『空飛ぶタイヤ』といった作品群が受賞作に名を連ねてからというもの、僕の脳内では常に「俺って意外と映画見る目あるんじゃないか?」との思いが駆け巡るようになってしまったのだ。個人的には当時アツい展開で繰り広げられた『弧狼の血』を盲目的に推しており、確かに生放送で受賞が発表されている最中にも最優秀主演男優賞に役所広司、最優秀助演男優賞に松坂桃李が選ばれた際、アルコールをあおりながら「やっぱり役所さんだがん!めっちゃ凄かったけんなあの演技!」と家族に吹聴し、ツイッターで鼻息荒く呟いたことを今でも鮮明に覚えている。


そうしたある種穿った『俺すげえ理論』が最高潮に達したのが、去る2020年の日本アカデミー賞授賞式だ。この年に選ばれた優秀作品賞の5作は『キングダム』『翔んで埼玉』などそうそうたる顔ぶれだったが、それこそ時間がないだ何だとかこつけて、僕が実際観ることの出来なかった作品が並んでいた。読者の方々もお察しの通り、大半の作品を鑑賞すらしていないこの時点でいち(似非)映画ファンがアカデミー賞の最優秀作品賞についてとやかく語ること自体が野暮と言うより言語道断であるのは間違いないが、その年の僕は「この映画が絶対に受賞する」という確信があった。それこそがかの『新聞記者』であり、当ブログの映画レビューにおいても当時唯一の星5評価を付けた肝いりの作品だったからだ。そして結果的に『新聞記者』は最優秀賞作品賞を受賞。更には最優秀主演男優賞に松坂桃李、最優秀主演女優賞にシム・ウンギョンというこの年は言わば『新聞記者フィーバー』状態が発生しており「極左映画とか言われてたけどやっぱり最高の作品じゃん!」「キングダムじゃなくてやっぱり新聞記者だった!」など僕の心は昨年以上に舞い上がり、思考は謎の飛躍の末に「これは映画.comのライター行けるんじゃないか?」といった馬鹿な妄想を垂れ流すまでに悪化した。気心知れた友人らに会話を遮ってまで『オススメの映画』を語るようになったのも、確かこの時からだった気がする。


そして迎えた、今年のアカデミー賞である。僕は今年選ばれた5作品のうち、3作品を鑑賞した。『罪の声』と『Fukushima 50』と『浅田家!』だ。中でも僕は圧倒的に『浅田家!』を推していて、事前にこの作品の最優秀賞受賞はほぼ間違いないと日々SNSで吹聴していた。ただ例に漏れず「この作品が突出して素晴らしかった!」という訳ではなく、今年は未曾有のコロナ禍によりそもそもの作品数自体が少なかった関係上、所謂『話題作』がないことから嫌な言い方をしてしまえば受賞作全般に華がなかったために、一番それっぽい作品を選定した上での『浅田家!』だった。劇場で号泣したのは事実だし、構成も文句なし。もっといろんな映画がノミネートしてくれたら……。という思いは確かにあったけれど、半ば消去法的に『浅田家!』かなあとの感覚だった。


けれども今年の日本アカデミー賞は、各賞発表の時点で例年とは大きく異なっていた。そう。受賞が完全にバラバラだったのだ。というのも日本アカデミー賞と言えば『最優秀賞を多数受賞した作品が最優秀賞作品賞を受賞する』という認識がどこか存在していて、例えば前述の松坂桃李とシム・ウンギョンが受賞した末に最優秀賞作品賞を『新聞記者』が受賞した昨年の流れ然り、今年もやはり同じ感覚でテレビを鑑賞していた。すると結果最優秀助演女優賞に『浅田家!』の黒木華、最優秀助演男優賞に『Fukushima 50』の渡辺謙、最優秀主演女優賞に『MOTHER マザー』の長澤まさみ、最優秀賞主演男優賞に『ミッドナイトスワン』の草彅剛、更には最優秀脚本賞に『罪の声』の野木亜紀子と、今年は全く異なった受賞者が並び、中継を行っていた坂上忍も水卜アナウンサーに受賞候補を聞かれた際に「分かりません!」と叫ぶ程、予想不能な展開となった。


そんな驚きの流れの果てに発表されたのが、冒頭の『ミッドナイトスワン』の最優秀賞受賞だった。恥を承知で書き記してしまうが、僕はこの瞬間に自分の無知を大いに恥じた。何が自称映画評論家だと、心底自分自身に憤りを覚えた。そして「マジすか……」と涙を通り越して驚きに満ち溢れた草彅氏の表情を見て、何故だか泣きそうになってしまった。「人の努力が評価されない世の中はおかしい」と僕は夢を目指してからの4年間ずっと言い続けてきたが、いつしか僕は人の努力すら無意識に視界に入れないような、反旗を翻す大人になってしまったのだと痛感した。直後衝動に突き動かされた僕は『ミッドナイトスワン』の予告編をYouTubeにて拝見したが、とても面白そうだった。「これは劇場で観るしかない!」と本能的に感じたが、既に映画館での公開は終了していることに気付く。こんな映画評論家、日本中を探してもそうはいないだろう。もちろん悪い意味でだが。


「努力は評価されるべき」……。かねてより僕のポリシーとしてきたその思いは今も変わってはいない。ただ年を取るにつれ、はたまた仕事だ趣味だと忙殺されているうち、確固たる信念すらいつしか霧散し、それとは対極に位置する感情へと変化してしまう。そのことを僕は今回の日本アカデミー賞で、強く感じた次第だ。「自分が正しいと思ったことはその実、決して正しい訳ではない」という子供でも分かる事柄を、今になって改めて突き付けられた感覚だ。思い返せば映画以外にも、こうした半ば自己中心的な穿った思いはあった。流行りの音楽。政治。対戦ゲーム。上司との確執。ライター業……。最寄りのコンビニでの他愛のない一幕さえ、もしかすると「自分が正しい」との思いから横柄な態度を取っていた可能性もある。今回の件は今一度自分自身を戒める、重要な機会であったのではないか。


自分本意な生活から、他者性を俯瞰する生活へ……。此度の日本アカデミー賞は至極間接的とはいえ、今後の自分自身を見詰める契機となった。これからは少しでも謙虚に生きていこう。そう思った僕は、取り敢えず『ミッドナイトスワン』を今月中に観るという誓いを自分自身に課しつつ「アカデミー賞 ミッドナイトスワン」とエゴサーチし、今日も空虚な夜を過ごすのだった。そしてふと思う。……僕は本当に『ミッドナイトスワン』を観るのだろうかと。

 


映画『ミッドナイトスワン』925秒(15分25秒)予告映像

アーティストの家で撮ったMV5選

こんばんは、キタガワです。


アーティストの存在を多方面にアピールする上で、今や欠かせない要因のひとつとなっているのがYouTube上のミュージックビデオ……音楽界隈では所謂『MV』と呼ばれる代物である。周知の通り、昨今で言えば瑛人の“香水”然りAdoの“うっせぇわ”然り、MVは楽曲を認知する契機となっていることに留まらず、原曲のサムネイルや内容を模倣し、新たなバズが生み出される逆転現象すら発生していて、如何に音楽のバズの基盤となっているのかが見て取れる。


当ブログでは開設当初から、様々なMVに焦点を当てて記述を試みてきたが、今回は『アーティストの家で撮ったMV5選』と題し、華々しく印象深い世間一般的なMVとは対局に位置する、極めて低コストで哀愁たっぷりな楽曲群をお届け。その一周回って新しい、独自の切り口のMVにぜひとも目を奪われてほしい。

 

 

私の好きなもの/ラブリーサマーちゃん

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宅録を用い、独自のポップ路線の高みに挑み続けるラブサマちゃんのファーストアルバム『LSC』収録曲にしてリード曲の位置付けともなっている楽曲が、以下の“私の好きなもの”である。今楽曲はサウンドの基礎部分をラブサマちゃんによる打ち込みが担っていて、更にはアイドルのライブを彷彿とさせる一連のコールに至るまで、ほぼ宅録アレンジという徹底ぶり。


当然ながらそのMVの内容もDIYに振り切っていて、現在では事務所の意向により削除されてしまったが、公開時点の個人制作MVではラブサマちゃん本人がカメラの前でヘタウマないダンスを繰り広げる一部始終が収められていた。結果として辻利の抹茶や蟹雑炊、鳥の串カツ、果ては生の汲み湯葉などあくまでラブサマちゃんの好きな食べ物を中心に列挙し《月曜から日曜まで 好きなもの食べたい!》との願望を吐き出す今楽曲の性質を考えると、MVの登場人物が彼女ひとり(注:現MVを指す上では『女性を中心に』に訂正)であることは、理にかなっているようでもある。


ファーストアルバム『LSC』では、前述の通り宅録の色が強かったラブサマちゃん。そんな『LSC』の中でも、おそらくは最も宅録の良さがサウンド的に詰まった“私の好きなもの”は、初期のラブサマちゃんのサウンドメイクを如実に表す稀有な1曲として確立。かねてより多大な影響を受けてきたあらゆる洋楽バンドの音楽性を、彼女なりに再構築し洗練された今の楽曲群と比較するとファーストということもあってか粗削りな面も否めないが、むしろ今作が今後も飛躍を続けるサブサマちゃんを占う試金石的な代物であったと思わざるを得ない傑作。

 


ラブリーサマーちゃん「私の好きなもの」Music Video

 

 

翼が生えたら便利だけどジャマ/超能力戦士ドリアン

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ユニークな視点で世間を切り取る関西発のロックバンド、超能力戦士ドリアン。楽曲名は“翼が生えたら便利だけどジャマ”……。翼と言えば『翼を授ける』のキャッチフレーズで有名なレッドブル。ならばレッドブルを飲み続ければ本当に翼が生えてくるのでは?というトンデモな連想ゲーム思考を実現させた結果が、以下のMVである。


簡単な自己紹介を合図に机の上に大量に並べられたレッドブルを意気揚々と飲み始めるおーちくん(Vo.Dance)だが、早くも1本目を飲み干した時点で今企画の過酷さを痛感。けれどもMV内の注意書き曰く「おーちくんは特殊な訓練を受けています」とするおーちくんの勢いは止まらず、以降もロング缶含め1本、もう1本と数を重ねていく。果たしておーちくんはYouTuber顔負けの壮絶企画を完遂することが出来るのか。そして本当に翼は生えるのか……。ラストに待ち受ける衝撃のラストは、一見の価値ありだ。


超能力戦士ドリアンは、その楽曲の魅力のみに留まらず、印象度を加えるプロモーション、ライブでの抱腹絶倒のアレンジ等にも定評がある。今回のMVも同様にどうすれば楽曲を広くアピール出来るか、そして何よりどうすれば自身のエンタメ性を発信出来るか、考えを極めた結果なのだろう。今楽曲で歌われる“翼が生えたら便利だけどジャマ”の理由として《アウター羽織れないのはキツい》《リュックが背負えないのはキツい》を挙げている点も噴飯もので、流石の着眼点で更なる笑いを量産する作りには脱帽。彼らが関西ロックシーンの転換点になる日も、きっとそう遠くはない。

 


超能力戦士ドリアン「翼が生えたら便利だけどジャマ」【字幕機能対応】

 

 

無線LANばり便利/ヤバイTシャツ屋さん

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とりとめもない出来事を歌詞に落とし込み、爆音に乗せて届けるロックバンド・ヤバイTシャツ屋さん。以下の楽曲が収録されたフルアルバム『We love Tank-top』でも喜志駅、すき家、天王寺、ウェイ系大学生、猫といった幅広い題材を扱っている彼らだが、“無線LANばり便利”はそのタイトルの通り、無線LANの利便性を一貫して主張し続けるよもやの内容となっている。


通信制現に喘ぐスマホ社会のリアル、街中で謎のWi-Fiに勝手に接続しパニックに陥るあるある、《無線LAN 有線LANよりばり便利》と片方を上げて片方を落とす流れ……。どこを切っても「なるほど」と膝を打つ、どこまでもヤバT的な代物だ。しかしながら完全にネタに振り切った楽曲なのかと問われれば決してそうではなく、ライブにおいて観客のコールを要求するが如くの「ワイ!ファイ!」のコールや、敢えてBPMを落として次なる爆発を最大限に活かす試みも成されていて、ひとつの楽曲としての構成も素晴らしい。なおこのMVでは、コタツで寝ているメンバー2人を無理矢理叩き起こす開幕から、ラストはこやまたくや(Vo.Gt)が自宅のWi-Fiのパスワードを公開するエンタメ性抜群のオチへと突き進むが、極めて破天荒なセンスは現在までも変わらず、稀有な話題性を産み出している。


コロナ前の各地のフェスではほぼ毎回セットリストに組み込まれてきた“無線LANばり便利”。ただ以下の動画をWi-Fiを用いて視聴するのも良いが、この圧倒的な熱量はぜひともライブハウスで体感すべきだ。《無線LAN有線LANよりばり便利》の双方向的なレスポンスが一転、モッシュ&ダイブの海に変貌するあの壮絶な展開はきっと、思わぬ感動を心中に呼び起こすことだろうから。

 


ヤバイTシャツ屋さん - 「無線LANばり便利」Music Video

 

 

SKOOL KILL/銀杏BOYZ

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青春パンクバンド・銀杏BOYZによる、当時14歳の中学生であった神戸連続児童殺傷事件の犯人、通称『酒鬼薔薇聖斗』による犯行声明文に記されたSHOOL KILLなるワードをもじってタイトルに冠した代物。


ただ楽曲自体はセンシティブな内容とは程遠く、愛する女性にストレートに思いを伝える峯田和伸(Vo)なりのラブソング。確かに歌詞は少なからずwikipedia等で閲覧することの出来る、膨大なテイストで綴られたショッキングな酒鬼薔薇聖斗の犯行の一部を抜粋したものであることは間違いないけれども、それでも峯田は“SKOOL KILL”を等身大のラブソングとして、更には酒鬼薔薇聖斗が殺人行為を犯さなかった別の世界線の希望的未来として歌っている。


対してMVの尺は5分35秒の原曲と比較しても11分49秒と長いが、そのMV内でも原曲はうっすらと流れる程度で、ラーメン屋と彼女の来訪という現実が傍若無人な峯田の行動により撃退される荒唐無稽な流れに終始。思えば銀杏BOYZのMVは総じて楽曲とは裏腹にMVが圧倒的に長く、これには実質的な総監督の立場の峯田によるところが大きいことは間違いない。故に破滅に突き進むが如き行動を繰り返す今曲のMVはやはり、峯田の燻り続ける思いの発散的意味合いが強いのではと推察する。かつては「悩める若者のためのロック」として広く認知されてきた銀杏BOYZの楽曲だが、そうしたカテゴライズが成された背景には当然ながら深い意味があると改めて一考する、思い切りの良いパンクナンバーと言える。

 


銀杏BOYZ - SKOOL KILL(PV)

 

 

家族構成/岡崎体育

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今をときめくソロメイカー・岡崎体育の最も古い時代に制作された楽曲のひとつ。それこそが家族の絆をつまびらかにした以下の“家族構成”である。この楽曲の肝は何と言っても、MVを巧みに利用したそのエンタメ性だろう。ひとつ屋根の下で暮らす家族が別人に成り代わる一幕も、かの名作『もののけ姫』のキャラクターが「オレタチニンゲンクウ」と呟くまさかの流れも、おそらくは世間一般的なリスナーの岡崎体育のイメージに寄り添った作りだ。ただ決して面白いだけのMVに徹している訳ではなく、思いがけず心にグッと来る家族愛のワードが投げ込まれるワンシーンもあり、度重なる笑いの要素すら後半のメロへの布石としている点も評価したい。なお余談だが、このMVの制作総指揮を務める『寿司くん』とはヤバイTシャツ屋さんのフロントマン・こやまたくやの別名義である。


当時インディーズとして、今では考えられない地下空間のライブハウスでライブを行ってきた岡崎。楽曲数の増加に伴って現在ではめっきり披露されなくなった“家族構成”はかつて、音源に合わせて岡崎がMVの内容を模した紙芝居を行うという荒唐無稽な形で届けられていて、この後リリースされた“MUSIC VIDEO”の大バズ以前の岡崎の歩みを結果として色濃く映し出す楽曲にもなっている。目標としていたさいたまスーパーアリーナでのライブを終え、更なる高みを目指す岡崎。昨今のライブでは今までのようなオケに合わせて歌うスタイルに加えて楽器隊を招いたバンド編成で楽曲を届けることも多々あり、明らかな変化が伺える。これまでと歩みが岡崎への認知度を高めるためのストーリーであるとするならば、今年以降はその更に先……。ソロアーティストとして未踏のエンタメ領域に突入することはほぼ確約している。

 


岡崎体育「家族構成」Music Video

 

 

……長々と記しておいて何だが、そもそもMVをカテゴリで分けること自体がナンセンスであるようにも思う今日この頃である。こと海外で主流となっている静止画に音源を流すのみのビデオも広義のMVであるし、今回取り上げたアーティストで言えば岡崎体育の“なにをやってもあかんわ”なる適当この上ない作りを試みたMVも存在する程。故に今回の記事は日本のMVの特異な点のみをこねくり回す、見方によっては悪どい代物かもしれない。では何故当ブログではこうした穿ったMV群をたびたび特集するのか……。その真意はただひとつで『素晴らしい音楽を広く知ってもらうため』以外にない。人それぞれに音楽嗜好が形成されているとすれば、今回のような『アーティストの家で撮ったMV』に少しばかりの興味を抱く音楽好きがいないとも限らないと、僕は信じて疑わない。どうか一人でも多くのリスナーに、素晴らしい音楽が認知されますようにと心を込めて、今記事の締め括りとしたい。

【ライブレポート】瑛人『1stアルバム「すっからかん」発売記念ライブ~トゥゲザーすっからかん~』@渋谷duo MUSIC EXCHANGE

こんばんは、キタガワです。

 

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去る2月26日、瑛人による初の大規模ライブ『1stアルバム「すっからかん」発売記念ライブ~トゥゲザーすっからかん』の最終公演が、渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて開催された。今年元日にリリースされた自身初のアルバムとなった“すっからかん”を引っ提げて行われた今回のライブ。残念ながら配信組はある時点で強制終了となった関係上、その全貌を視界に収めることは叶わなかったが、それでも今ライブのアットホームな雰囲気と『すっからかん』で記された瑛人というひとりの人物の等身大の魅力を知るには、十二分な時間であった。


『すっからかん』収録曲が途切れることなくBGMとして流れる場内。丁度“ハッピーになれよ”のサビが流れ始めた頃に緩やかに暗転し、今回のライブのサポートを務める鈴木渉(B)、大樋祐大(Key)、長崎真吾(Gt)、高橋結子(Dr)、瑛人の友人でありかねてより楽曲制作を共に行ってきた小野寺淳之介(G)が上手から登場。拍手喝采を受けると、少し遅れて瑛人がステージ中央へ進み出る。一際大きくなる拍手に瑛人もご満悦の様子で、あの印象的な屈託のない笑顔で愛嬌を振り撒いていた。

 


HIPHOPは歌えない / 瑛人 (Official Music Video)


瑛人が傍らに置かれたギターを構えると、まずは《HIPHOPは歌えない 俺はリアルじゃないからさ》との自虐的なフレーズで幕を開ける“HIPHOPは歌えない”をドロップ。この楽曲は2020年きっての流行歌となったかの代表曲“香水”よりも前に制作された、瑛人にとっては初期曲とも言える代物であるが、各種音楽ストリーミングサービスではアコースティックギターを主軸にサウンドメイクが成されていたのに対し、『すっからかん』では楽器隊を増員し、“HIPHOPは歌えない(韻シストver.)”として奥行きのある新たな形の楽曲として進化を遂げていた。この日鳴らされた“HIPHOPは歌えない”は後者のサウンドを踏襲していて、耳当たりの良い臨場感が会場を支配。誰もが自然発生的に体を揺らす、極上の空間となった。幾度も繰り出される《HIPHOPは歌えない》理由について瑛人が《リアルじゃないからさ》とする深意は、実際のラッパーのように自在に歌詞に魂を宿らせるというより、あくまで自らの経験や日常の何気ない事柄しか綴ることが出来ないという、ある意味では自虐的、そしてある意味では瑛人固有の制作方法だ。リズミカルな単音弾きを繰り出しながら軽やかに歌う瑛人は画面越しに見ても心底嬉しそうで、彼にとってスキルがどうこうという以上に『音楽が好き』との思いを最優先に音楽活動をしていることを、しみじみと感じ入った次第だ。


続く初期曲のひとつ“シンガーソングライターの彼女”を終えれば、休憩も兼ねた小野寺によるMCへ。まずははるばるこの場に集まったファンへ感謝の思いを伝えると「楽しいこともあるだろうし、悲しいこともたくさんあるかななんて思います。そんなことも全部……全部忘れて。楽しいもの……もう何もないみたいなところに行っちゃって、トゥギャザーすっからかん出来たらいいなと思っております。今日はよろしくお願いします!」と清らかな声で宣言。ただ小野寺特有の柔らかな語り口に緊張が加わったことで長尺のMCには所々に途切れと文脈破綻が目立ち、サポートメンバーや観客からは予期せぬ失笑が飛ぶ。会場内を包む、どこか宙に浮いたような雰囲気。それはともすれば緊張感のない代物にも感じられるが、瑛人のライブではこれが平常運転。

 


香水 / 瑛人 (Official Music Video)


そして小野寺曰く「瑛人のピュアピュアラブソング」こと“僕はバカ”が鳴らされると、「次歌うのは去年多分みんながいっぱい聴いた曲だと思います。めちゃくちゃ去年歌いまくって、でもこうやって生で聴くのはみんな始めてだと思うんです」と前置きし「いっぱい歌っても、どんな形であれ自分の曲はひとつひとつ自分の一部として大切な曲なので、しっかり皆さんに届きますように……ということで、歌います」と、誰もが待ち望んだ瑛人屈指のヒットナンバー“香水”が届けられる。徹頭徹尾小野寺のギター1本で形成されていた原曲とは打って変わり、今回ライブで披露された“香水”は2番のAメロで長崎のギター、Cメロの入り前に高橋のボンゴ、そしてラスサビでは鈴木と大樋が参入する、厚みを増した新たな“香水”として再構築。ただ楽器隊が渾然一体となったそのサウンドは非常に激しいという訳ではなく、あくまで瑛人の歌声を第一義として捉えた抑え目のアレンジに徹していたのが印象深い。


続いて披露されたのはバラード曲“リットン”。瑛人が“リットン”と名付けた深意について語られた。意味深なタイトルは瑛人が幼少の頃、日常的に聞こえていた祖母の足音のことであるらしく、冬に「外に出たくない」との理由でヒーターに体温計を当て、仮病を繰り返していた瑛人。母が仕事の関係上、その1日の面倒は病気に侵され下半身が上手く動かせない祖母が見ていたと言い、2階にある瑛人の自室に祖母が階段を登る際、杖を先、足を後に出す音が「つっとん、つっとん」。少しの休憩を挟み、再び「つっとん、つっとん」。それが小さな瑛人には『リットン』に聞こえていたとのことで、確かな叙情を携えた前情報により次曲“リットン”は強い感動を抱かせる代物となった。

 


【番組未公開映像②】大好きなおばあちゃんへ /シンガーソングライター瑛人


その後は今回の発売記念ライブで各地で定番となっているフリースタイルへと移行。本来は何かしらのテーマを決めて行うものであるそうだが、今回は紆余曲折を経て一切のテーマなしで進行。半ジャムセッションの様相でワードを放ち続ける瑛人は数日前に行われた福岡に向かう道中の高速道路や今の観客の様子などを即席でパッケージングして楽曲に落とし込んでいく。リズムに合わせて上手く言葉が出ず、慌ててメンバーにギターソロを振るワンシーンさえも楽しい。基本的に瑛人の楽曲はこうした友人間でのフリースタイルを基盤として構築されていることは事前情報として知ってはいたものの、こうして見るととても自由奔放で、感情をそのまま歌にする瑛人の制作風景としてこれ以上なく理にかなったものにも思える。中でも終わるタイミングを完全に逃した瑛人が「誰か止めてくれよー」と困惑するもなかなか終わらないラストは噴飯ものだった。


……瑛人の楽曲は全て彼の人生の体現だ。初のフルアルバムのタイトルを『すっからかん』としたのも、瑛人の現時点で出せる全ての思い出の引き出しを開けて楽曲を制作したために名付けられていることは既に様々なメディアで語られている。ただ先述の祖母について歌った“リットン”や恋心をストレートに表現した“シンガーソングライターの彼女”など23年間の人生経験をつまびらかにした楽曲が存在する一方、自分自身を俯瞰で見詰めた末、一種の『ダメ人間』として自嘲する楽曲も散見される。大ブレイクを記録した“香水”にも繋がる持論ではあるが、彼の楽曲が単なる『前向きな音楽』や『甘酸っぱい音楽』とのベクトルには決して属さず『瑛人ならではのポップス』として支持を広げていることには、やはりそうしたネガティブを内包したポジティブさも理由のひとつであると思ってやまない。

 


瑛人 / ハッピーになれよ (Official Music Video)


「みんなハッピーになれよー!」と瑛人が叫んで雪崩れ込んだ、結果として配信組としては本公演のラストナンバーとなった“ハッピーになれよ”は、正に上記の瑛人の精神性を色濃く体現するポップチューンだった。歌われる内容は前半は父との別離、後半はその後の父と瑛人のコミュニケーションであり、一見ハピネスな楽曲とは言い難い。ただ瑛人はこの楽曲を結果“ハッピーになれよ”と名付け、言葉にすること自体悲観的な一面を帯びるかつての事柄を全て抱き締めて《どんな時でもハッピーになれよ》と肯定している。詳しい明言は成されていないが、彼は今までに様々なことを経験しながらも、独自の思考変換で未来に繋がるような前向きな経験として捉えてきた人間なのだろう。《2年前はいつも一緒だったけど/2年経った今は一緒じゃないけど》……。形は変われど、瑛人にとっての家族の絆は不変で、きっと彼自身もこの性格や生き方は不変のはず。印象深いあの笑顔を浮かべながら、高らかに歌い上げる等身大の彼の姿は、とても楽しく、また誇らしげにも見えた。


まだまだ見所はたっぷりあったに違いないが、ここで瑛人による「ここで配信が一回終わると言うことで、みんなアルバムを買ってくれたりチケットを買ってくれてら本当にありがとうございまーす!今度は生で会いましょうー!」との一言でもって配信ライブは終了。「こんなに素晴らしいライブを観てしまったら、次は是が非でも生ライブを観るしかないではないか!」と思わず叫んでしまいそうな、あまりにニクい仕掛けだ。しかしながら言わば『瑛人のなんたるか』を見せ付けるという点においては、非常に充実した時間であったと言わざるを得ない。何故なら“香水”が大ブレイクを果たした昨年以降、瑛人が有観客で大々的なライブを行ったことはほぼないためだ。おそらくはこの場に集まった観客、ないしはオンラインでライブを鑑賞した大半のリスナーは“香水”から彼の楽曲を認知し、それから当時サブスクリプションやYouTubeで聴くことの出来る楽曲をチェックした果てに去る1月1日にリリースされた『すっからかん』を聴いて、参戦を決めた人が大半であると推察する。故に今回のライブを鑑賞したファンの中には「あの瑛人は実際どんなライブをするのだろう」と並々ならぬ期待を寄せていた人も多かったのではないか。


そうした予測はある意味では当たり、そしてある意味では外れていた。結果我々が音楽番組で観たイメージそっくりそのままの瑛人がライブをしていたのだから。派手な演出も突飛なアレンジもなし。徹底して音楽を鳴らすことの楽しさを追及した『まるで遊びたい盛りの子供のようなわんぱくな彼が楽曲を鳴らしていた』という事実で、今回のライブの全ては完結する。……“香水”が世間一般に広く知れ渡るようになってから、まもなく1年が経つ。言葉を選ばずに言えば、おそらく“香水”のみを聴き齧っただけのリスナーは次第に彼から離れ、存在すら記憶の彼方へ追いやってしまう時期に突入するだろう。けれども今回ライブに参戦、若しくはオンラインで視聴した『すっからかん』含め、彼の紡ぎ出した楽曲群に深く心酔したリスナーは、間違いなく瑛人という人間の真髄を目と耳で感じ取ったはずだ。無邪気な瑛人の軌跡をこれからも追い続けていきたいと強く感じたこと……。それこそが此度の『1stアルバム「すっからかん」発売記念ライブ~トゥゲザーすっからかん~』の、何よりの収穫だった。


【瑛人『トゥギャザーすっからかん』@渋谷 セットリスト】
HIPHOPは歌えない
シンガーソングライターの彼女
僕はバカ
香水
リットン
~フリースタイル~
ハッピーになれよ

(※生配信ここまで)

はひふへほ(新曲)
ライナウ
Don't be afraid Feat.HOTDOGS
Hey mister Feat.HOTDOGS(未発表曲)
チェスト
俺は俺で生きてるよ

[アンコール]
掃除(新曲)

 

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