キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】ヨルシカ『前世』@八景島シーパラダイス

こんばんは、キタガワです。

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これまであっただろうか。『ミステリアス』という言葉がここまで適した瞬間が。ヨルシカ史上初となるオンラインライブ『前世』。それは今やインターネットシーンのみならず、日本の音楽シーン全体を通しても絶大な支持を集めるアーティストの一組となったヨルシカらしさを凄まじい経験でもって体現する、あまりに異次元的な一夜であった。


定刻前になると画面はエイ、シュモクザメ、マイワシの大群など多くの魚が回遊する巨大水槽の内部へと切り替わる。後にn-buna(E.Gt)のツイートにて、この場所が横浜市金沢区に位置する水族館・八景島シーパラダイスであることが明かされたが、この時点ではそうした事実は露知らず。故に実際の水族館で誰もが無意識な行動として取るように、ただただ行き交う魚に目を動かすのみである。無論こうした試みは開幕までの待ち時間を体感的に僅かなものとするために設けられたものであろうが、魚たちによる自由な回遊は元より、時折射し込む光の屈折やブクブクとした音さえも目にも耳にも楽しく、開幕までの待ち時間は体感的にはごく僅かだ。


暫しその光景に目を泳がせていると、画面にはいつしか幾何学的を模した謎の紋章がいくつも浮かび上がり、次いで長針と短針を有した時計とおぼしき物体が出現すると針が高速で逆回転。そしてすっかり暗黒に包まれた画面上にじんわりとヨルシカのアーティスト写真が出現すると、カメラは複数のバイオリンが織り成す壮大なSEと共に水槽の内部から徐々に後退する形で遠ざかっていく。カメラの移動が限界に到達するとそこは水槽の外……つまりは八景島シーパラダイスにおける実際の観賞空間で、画面左側から今回のライブを彩るストリングセクション・村田康子ストリングスからバイオリン2名、ビオラ、セロから成る4人のメンバーと、サポートメンバーとしてかねてよりヨルシカの活動を下支えしてきた平畑徹也(Pf)、首謀者にしてメインコンポーザーであるn-buna、下鶴光康(A.Gt)、キタニタツヤ(Ba)、Masack(Dr.Perc)が横一線に並び、そこから数メートル先の起伏した段差の頂上に据えられた椅子に腰かけているのは、ヨルシカの絶対的フロントウーマンたるsuis(Vo)。なお会場内は背後に据えられた巨大水槽がもたらす僅かな明るさのみで発光的なライトが照らされることはなく、更にはヨルシカの2人、並びにサポートメンバーは黒い照明が当てられているのか、その姿は完全なるシルエットと化し、表情はおろか服装の色合いも、輪郭に至るまでが一切判別不可能。その極めて非日常的な光景が、ぐんぐんと内なる興奮を高めていく。

 


ヨルシカ - 藍二乗 (Music Video)


ストリングス主体の壮大なSEが穏やかに鳴り終わると、カメラは全体を映すカメラワークから一転、椅子に座り精神統一を図るsuisにフォーカスを当てていく。そしてsuisが顔を上げ一息つくと、決意を込めてとある一節を歌い始める。そう。オープナーとして選ばれたのはフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』のリード曲たる“藍二乗”である。suisのボーカルと少ない音数で魅せるその開幕こそ穏やかであったが、suisが《空っぽな自分を今日も歌っていた》と吐露した直後、楽器隊が音の塊を鳴らし、ボルテージは一気に沸点へと到達。多種多様な音色が渾然一体となり鼓膜を揺さぶる、極上の音楽空間が形成された。激しいサウンドとは裏腹にサポートメンバーは地に足着けた演奏でどっしり構え、n-bunaは素早い単音弾きとチョーキングを駆使した飛び道具的な演奏で印象部を奏で、suisはと言えばボーカル的高低差を空いた左手と顔を上下に動かし高らかに響かせている。バンドメンバー、及びsuisは基本的に視線を下げていて誰ひとりとして視線を合わせることはなかったけれど、一点の曇りもないサウンドメイクには相当な練習量と、何より双方向的な信頼を感じさせる。もはや言うまでもないが、ヨルシカは表舞台に出ることはなく、ライブの回数も極めて少ない。故にヨルシカを知る大半のリスナーにとってはCDやサブスクリプション、若しくはYouTube上に挙げられたMVであると推察するが、それらの媒体と比較しても今回のライブはほぼ遜色ないどころか、それ以上の凄まじい臨場感である。


今回のライブは事前に発表があったように全編アコースティック編成。故に下鶴がエレキギターでなくアコースティックギターに持ち換えていたり、Masackがパーカッション要素を担うなど正規の音源とはまた違った音像で再構築し、アコースティックならではのアレンジで、結果として原曲を何度も聴いたことのあるリスナーにとっても驚きに満ちた新鮮なサウンドの楽曲が並ぶ結果となった。実際アコースティックと言えばやや物足りなさを覚える可能性も否めないが、所謂『アコースティック感』に食傷気味になることは一切なく、今回のライブがsuisを含め計10名の大所帯となったことからも分かる通り、奥行きのあるサウンドでかつSuisのボーカル的魅力も、強く感じることの出来る素晴らしきアレンジであったように思う。


セットリストに関しても特別仕様。2019年に行われたライブツアー『月光』では『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』から成る対になる2枚のコンセプトアルバムからセレクトされ、彼らの名を広く知らしめる契機となった他のミニアルバムの楽曲は一切演奏しないという挑戦的なセットリストで構成されていたが、今回のライブは今までにリリースされた作品から幅広く選ばれ、現時点におけるヨルシカのベスト的なセットリストで展開。具体的には全17曲(インタールードを除くと14曲)中およそ12曲が公式にMVが制作された楽曲という大盤振る舞いだ。

 


ヨルシカ - だから僕は音楽を辞めた (Music Video)


“藍二乗”後は、最終的に音楽を挫折するに至った青年・エイミーを観測者とする『だから僕は音楽を辞めた』と、エイミーに影響を受けた少女・エルマが楽曲を手掛けた『エルマ』から“だから僕は音楽を辞めた”、“雨とカプチーノ”、“パレード”の3曲が投下されると、平畑によるダンサブルなソロ演奏が進行。小気味良いリズムに暫く耳を蕩けさせていると、次第にその打鍵に楽器隊がジャムセッションの如く追随するとn-bunaによる印象的なギターリフが次曲を想起させるように響き渡る。そして焦らしに焦らした助走の後、suisが『かの一言』を呟くと、ロックな音色が猛然と雪崩れ込んだ。そう。次なる楽曲はヨルシカのファーストフルアルバム『夏草が邪魔をする』収録曲にして代表曲の一端を担う“言って。”。

 


ヨルシカ - 言って。(Music Video)


ヨルシカの数ある楽曲の中でも、極めてロック色の強い“言って。”。声色を変化させて足の爪先をしきりに上下しリズムを取り、より中性的な魅力を宿らせたsuisによる軽やかな歌唱をはじめ、無意識的なヘッドバンギングを幾度も繰り出して演奏を行っていたキタニや、スティックをいつになく大振りに打ち下ろす平畑らサポートメンバーのアクションも心なしか激し目。首から下のみをカメラに収められていたn-bunaもその表情こそ見えないが、饒舌に主張を繰り広げるギターサウンドから察するに非常に楽しげだ。後半の歌詞で明かされるように“言って。”の深意は言語的な『言った』と死去的な『逝った』のダブルミーニングであり、確かにセンシティブな内容を扱ってはいる。ただそうしたハッピーサッドなアッパーさも『ヨルシカらしさ』のひとつ。楽曲は余韻を残さず終幕し、本来のライブであれば多数の拍手が鳴り響いて然るべしな状況と完全に逆行する沈黙に支配されたが、そうした沈黙さえ楽曲のメッセージ性をより際立たせているようでもあり、強く印象的に映った。


ここからは中盤らしく、盛り上がりに導かんとばかりにアッパーな楽曲が続く。まずはキラーチューン“ただ君に晴れ”が定位置から移動したsuisが楽器隊の演奏をテレビ越しにウォッチングしながらの歌唱で届けられ、様々な事象を先生へ詰問する“ヒッチコック”と売春をテーマに穿った主張を展開する“春ひさぎ”が海外のラジオを彷彿させるコラージュ的インタールード“青年期、空き巣”を挟んで鳴らされる。そしてMasackが次の楽曲に移行する合図たるカウントを声高に叫ぶと、“思想犯”と“花人局”が圧倒的な叙情を携えて響き渡った。

 


ヨルシカ - 思想犯(OFFICIAL VIDEO)


この2曲が収録されたフルアルバム『盗作』では、音楽の盗作を試みた男による悲しき物語が描かれ、その内容自体もタイトルの通り、国内外問わず様々な芸術家の作品から着想を得た作りとなっている。その中でもn-bunaがジョージ・オーウェルの小説や尾崎放哉の俳句から着想を得たとされる“思想犯”は取り分け、男にとってのある意味では愚行、けれどもある意味では最終選択となる盗作行為を自己正当化する楽曲となっており、サウンド面についてもアコースティックギターとストリングスを軸としたアレンジではあるものの今回披露された楽曲の中では突出して荒々しく、まるで男の心中に燻り続ける葛藤を体現しているよう。対して“花人局”では男が盗作を犯す要因となった『妻との別れ』に焦点を当てた作りとなっていて、その重厚なストーリーのキーポイントたる役割でもって、物語を想像させる。いつしか背後の青々とした水槽に垂らされた照明は赤紫に染まっていたが、それすらも男の精神に間接的に影響を及ぼす、妻が残した《窓際咲くラベンダー》と楽曲のラストで歌われる《夕焼けをずっと待っている》のフレーズに間接的な意味合いを持たせていた。

 


ヨルシカ - 春泥棒(OFFICIAL VIDEO)


ストーリー色の強い2曲が終わり、早いものでライブも後半戦に突入。椅子から立ち上がったsuisによる高らかな歌唱が空間に溶けた新曲“春泥棒”、牧歌的なインタールード“海底、月明かり”、情景と重ねつつひとりの人物に思いを馳せる“ノーチラス”、エイミー視点でエルマとの日常を描く“エルマ”……。前述の通り今回のセットリストは公式YouTubeチャンネル上のMV楽曲が中心に据えられていたが、ここでの演奏曲は前半と比較すると、BPM的には幾分穏やかだ。ただ確かにひとつのデータとして彼らの魅力は先に演奏された“言って。”や“ただ君に晴れ”、“だから僕は音楽を辞めた”といったアッパーな楽曲が数字的にはバズを記録しているけれど、思い返せばアルバム全体のメッセージ性をより深く結び付ける役割にはいつもヨルシカのストーリーテラーであるn-bunaは、こうした緩やかな楽曲にこそ担わせていた。しっとりと歌い上げるsuisの歌唱も相まって趣深く緩やかに、そして確実にクライマックスへの道程を形作っていく。


Masackによるリズミカルなドラムとn-bunaの単音の連発、その音に乗るsuisによる幾度も繰り出される『あ母音』のコーラスの果てに雪崩れ込んだ最終曲は“冬眠”。ほんの少しばかり全体に点った照明に照らされたサポートメンバーは一様にアグレッシブな演奏に終始し、原曲においても楽曲に彩りを与えていたストリングスは数的にも音圧的にも映え、ダイレクトに鼓膜に侵入。原曲とほぼ同様、しかしながら音圧的なブラッシュアップを遂げた結果、おそらくは今回のライブで最も強い臨場感を携えた“冬眠”はぐんぐんと鼓膜へ侵入。動物における冬眠の時期である秋冬を経て、未だ見ぬ未来へ希望的な思いを届けていく。原曲と比べて明らかな長尺となったラスト、suisによる呟きにも似た 《君とだけ生きたいよ》とのフレーズが繰り返される中、ラストに向けてぐんぐんと音圧が上昇。完全なるシルエットと化したsuisの姿を映していた画面はいつしか真っ白な光に包まれ、水槽をバックにスタッフロールが流れ。かくしてヨルシカ史上初となるオンラインライブ『前世』は、名状し難い読後感を携えながら終幕した。


素顔を明かさない匿名性。アルバム1枚にメッセージを込める物語性。アッパーもバラードも、完全なる両刀使いな音楽性……。此度のライブは端的に表現するならば、ヨルシカという霧に包まれたバンドの存在証明を、これ以上ない環境で見せ付けるライブであったように思う。MCが一切挟まれなかった関係上、彼らが記念すべき今回のオンラインライブに『前世』を冠したその深意についてもまた、最後まで語られることはなかった。ただ今回のライブのセットリストの中心を担っていた計4つのミニ・フルアルバムは異なる他者の視点で見るそれぞれの人生を描いており、言わば今までのヨルシカにおける総括の意味合いを強く感じさせるものでもあったのもまた事実で、彼らの前世の記憶は度重なる困難と幸福の果てに終着した。来たる27日には待望のEP『創作』のリリースも決定しているヨルシカ。彼らの歩みは未だ序章であり、本当の本編はここから始まる。……今回のライブで彼らはその決意を、圧倒的なパフォーマンスでもって、まざまざと見せ付けてくれた。

 

【ヨルシカ『前世』@八景島シーパラダイス セットリスト】
Overture
藍二乗
だから僕は音楽を辞めた
雨とカプチーノ
パレード
言って。
ただ君に晴れ
ヒッチコック
青年期、空き巣
春ひさぎ
思想犯
花人局
春泥棒(新曲)
海底、月明かり
ノーチラス
エルマ
冬眠

音楽の灯

ふと目が覚める。時刻はまだ昼前。事前に設定した時計のアラームより少しばかり早く起床した僕は、ゲームで暇を潰そうと思い至る。けれどもプレイ中も思考は宙を彷徨うばかりで、一向に手に付かない。早々に諦めた僕は最寄りのCDショップに赴き、円盤を物色する。時間をもて余しているためにその目には迷いはなく、巨大なPOPで展開されているヒットチャート上位のアーティストやかねてより気になっていた新人アーティスト、果ては普段はほとんど聴かないはずのアイドルグループの作品をも手に取り、片っ端から傍らの視聴機にかける。そこで少しでも心が震えたアーティストはスマホにメモし、帰宅後のひとつの楽しみとする。

そうしたある種無意味的……けれども絶対的に意味のある数時間を繰り返した後、ようやっと待ち望んでいた時間が迫っていることを自覚する。慌てて店の扉を明けて外に出ると、目的地に向かって早足で移動する。僅かに息を切らし辿り着いた目的地では、既に係員が街中にはおよそ似つかわしくない大声で、番号を読み上げている。「整理番号10番から20番までの方ー!」……。

かつて何十となく繰り返した素晴らしきルーティーンは、今や遥か昔に訪れた蜃気楼じみた不鮮明さでしか思い出せない。思えば鬱屈したコロナ禍に見舞われた2020年、僕は「来年はライブに行ける」との吹けば飛ぶような淡い期待を胸に、日々を生きてきた。決して安くない金を財布に仕舞い、島根県から県外へ赴く。そうした金銭的にはまずもって最悪、けれども何よりも素晴らしき日々が消え去ってから、まもなく1年が経とうという時期に発令された緊急事態宣言。感染者が数十人規模で推移していた以前と比べ、御存じの通り感染者数の推移は現在、東京だけでも数千人規模に膨れ上がっている。故にライブシーンには再び暗雲が立ち込めたと、そう断言して然るべしだろう。

この1年で世界は空転し、外食産業や娯楽施設など所謂『不要不急』の事象は完全にとはいかないまでも、ほぼ日常生活から断裂された。そして今、仕事や飯の調達といった言うなれば『有要有急』の生活を長らく続けて感じたひとつの結論がある。それは僕個人に照らせば、おそらく自粛生活じみた日常は「人間らしい生き方ではない」ということ。

そう。カラオケもたまに赴く居酒屋も、その全てはクソッタレで無為な日常を彩る大切なスパイスであり、一言で『不要普及』と括られる代物ではなかったのだ。そして僕自身にフォーカスを当てれば、全てを忘れ、また生きる糧として捉えていたのは何より『ライブ』だった。金なし地位なし女なし。ないない尽くしの生活の中で、ライブ参戦は何よりの趣味でもあり、唯一の希望と称して差し支えない程、絶対的な生きる理由であったのだ。他者からすればさぞかし一生に付されて然るべしな日常であったろうが、あの日々は確かに幸福だった。

コロナウイルスは間違いなく数年後……例えば2年後には改善に向かうだろう。けれどもその地点に到達した瞬間、僕自身は2年の歳を重ねている訳で、何より当時アルバム、ないしはシングルをリリースしていたアーティストもそれから2年が経ち、新曲に着手し、コロナ禍に発売された楽曲はすっかり過去の作品となっているに違いないし、待ち望んだライブツアーが開催されたとしても、2020年に発売されたアルバムの楽曲がセットリストの大半を担うことはまずもってない。中にはライブが思うように出来ない現状に辟易し、音楽活動自体を停止してしまうアーティストもいるだろう。「失ったものがあれば今後の人生で取り返せば良い」とはよく聞くが、「失ったものは決して戻らない」という真理もまた、抗えない現実として垂直に立っている。

ただ皮肉なことに、そんな絶望の中でも希望的未来を感じさせてくれる存在はやはり音楽なのだ。無論『ライブに行けない』……。つまるところライブでの演奏を度外視した音楽が発達することは絶対的に避けられず、所謂ライブバンドやMCバトルラッパーにとっては非常に苦しい時代になるとは思う。ただ海外でコロナ禍を歌ったテイラー・スウィフトのアルバムが100万枚を超える売上を記録したことも、宅録アーティスト(全ての楽曲を自宅で制作しリリースするアーティスト)が新時代のニューカマーとして名を馳せていることも、歌詞中にコロナへの鬱憤をぶち撒けるラッパーがブレイクする等、辛い2020年が無ければ決して生まれなかった素晴らしい音楽も、絶対に存在するのだ。

悪夢の2020年を経て、早くも悲劇的な危機に瀕している2021年。ただ困難に直面しようとも、あらゆる音楽は貴方の一番近くで、優しく背中を叩いている。どうかこうした時代だからこそ、今以上に音楽が日常に彩りを与えてくれますように。……音楽の灯は、まだ消えるには早すぎる。そしてその灯を守る防護壁は何より、音楽を愛する我々が担わなければならない。

 


BiSH / LETTERS [REBOOT BiSH] @ 国立代々木競技場 第一体育館

【ライブレポート】amazarashi『末法独唱 雨天決行』@真駒内滝野霊園

こんばんは、キタガワです。

 

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思いがけず全国的に雨模様となった某日。amazarashi初となるオンラインライブ『末法独唱 雨天決行』が、札幌は真駒内滝野霊園より全国に届けられた。昨今のコロナ禍ですっかりオンラインライブの裾野は広がりを見せ、日々多くのアーティストが画面越しに熱演を繰り広げているが、そんな中行われた今回のamazarashiのライブは、コロナ禍で誰しもの心に暗雲が立ち込める今だからこそ、逼迫が続くリアルと改めて前向きな意思を伝える切なるメッセージ・ライブであったと言えよう。


開演時間の少し前にアクセスすると、そこには秋田ひろむ詞曲のおどろおどろしいBGM、その名も“雨天念経”がリピート再生で延々と流れ続ける中、『開演迄◯分◯秒』とのカウントダウンが刻々と迫るミステリアスな画面がお目見え。設置されたコメント欄には、リアルタイムで集まった多数のファンによる開演を待ち望む声が、もはや追うことが不可能な程のハイスピードで流れ続けており、来たるライブへの期待を底上げしていく。暫しの待機時間の後にカウントダウンの残り時間が1分を切ると、全国ツアーの延期、そして約数十秒後に迫ったこの日のライブの思いを綴ると共に「やむにやまれぬ歌から始まったamazarashiの十周年を迎えるのが、やむにやまれぬライブであるのは必然なんだと感じています」との言葉で締め括られる秋田ひろむ(Vo.G)のコメントが大写しに。気付けば“雨天念経”のBGMは止んでいて、完全なる無音空間が支配。必然内面的な緊張が高まる感覚に陥るが、思えばそれはかつてamazarashiのライブにおいて開演時間を過ぎた辺りで感じていた、あの興奮にも良く似ていた。


ライブは定刻ジャストに開演。ゲーミングキーボードでプロジェクションマッピング画面を操作するスタッフの一挙手一投足、僅かに聴こえるギターチューニング……。『Loading Disaster MOD…』と表示された画面のロードが終了。開始を伝えるスタッフの声が飛ぶと、ステージ上でギターを構える秋田へ、定点カメラがフォーカスを当てる。画面中央でチューニングを試み、臨戦態勢を整える秋田。秋田の表情は照明により完全に逆光となり、顔の輪郭さえ判別出来ないのはかつてのライブと同様だ。ただ今回のライブはamazarashi初となるオンライン。故にステージ上には多数の試みが詰め込まれていて、まず印象的に映るのは背後に聳え立つ全長13.5メートルもの大きさを誇る頭大仏で、その運命的瞬間をその眼下に収めんとどっしり鎮座。更には演奏場所が天井がぽっかり空いたほぼ野外である関係上、秋田の姿は音を逃がさないため四方に設置された透明のアクリルパネルに囲まれる形で、秋田の手の届く距離にはストローを挿したステージドリンクの他、縦長の暖房器具も完備。そしてツイッターで事前募集された「令和二年にやるせなかったこと」をテーマとしたメッセージの数々が刻まれた『雨天献灯』が、幾つもステージのそこかしこに点在し、炎を揺らめかせている。

 


amazarashi 『夏を待っていました』


秋田による緩やかなギターストロークの果てに鳴らされたオープナーは、メジャーミニアルバム『爆弾の作り方』より“夏を待っていました”。事前に告知されていた通り、今回のライブは全編秋田ただひとりによる弾き語りスタイル。amazarashiの楽曲は結成当初よりのオリジナルメンバー・豊川真奈美(Key)を始め、両脇を固める多数のサポートメンバー、更には打ち込みのサウンドも相まった重厚なアンサンブルが大きな魅力のひとつとして位置しているが、今回はそうした楽器隊が織り成す音圧を廃した裸一貫の演奏に終始。ともすれば地味な印象を抱かれかねない孤軍奮闘。けれどもそうしたスタンドアローンの姿勢はむしろプラスに働いている印象で、秋田のフロントマン然とした歌声とamazarashiの楽曲に込められたの説得力を、最も雄弁に伝える手段として、垂直に立っていた。


臨場感に拍車をかけた外部的要因のひとつが、背後に据えられた頭大仏の存在。頭大仏とその周辺の空間には綿密なプロジェクションマッピングが施されていて、大仏本体には星屑、炎、雨といった物体的な映像を、対して大仏を覆うように広がる空間には実際のamazarashiのライブよろしく歌詞を列挙することに加え、楽曲のシーンごとに色彩変化が都度投影され、その姿を楽曲ごとにガラリと変貌させていく。加えて頭大仏の眼下には世界各国における現時点でのコロナウイルスでの累計感染者数、死亡者数の詳細が次々更新される形で映し出されていて、今回のライブが間違いなくコロナウイルスがなければ実現に至らなかった事実と、コロナとの共存を強制された今現在の自嘲的ネガティブ感を携えて鼓膜を揺らす。


今回のライブで披露されたのは、10年間に及ぶamazarashiの歴史の中から、広いレンジでセレクトされた全17曲。取り分け前半部では“あんたへ”、“無題”、“ワンルーム叙事詩”を筆頭とした半径3メートル以内の幸福と憂鬱を、後半部では昨年リリースされたニューアルバム『ボイコット』、そして今回のライブの数日後にリリースされた待望のEP『令和二年、雨天決行』収録の楽曲群を軸に構成されていた。おそらくはどのような状況下で出会ったのか、またどのような精神状態でその楽曲と向き合ったかでリスナーそれぞれの此度における『印象深い楽曲』は異なって然るべしだが、その全てに強い秋田の思いと、短編集をよみ進めるが如くの深い読後感を抱かせるものとなった。加えて曲間には基本的に次曲への布石の役割を果たすポエトリーリーディングが挟まれていたことも、否が応にも続いて鳴らされる楽曲を推理してしまうエンタメ的効果を成していて、此度のライブにおける強いメッセージをより際立たせる効果をもたらしているようでもあった。

 


amazarashi 『無題』


中でも前半の印象部として映ったのは、とある絵描きと彼女による二人三脚の制作過程をつまびらかにする“無題”。本能のままに作品を量産する主人公の姿も、それを献身的に支える彼女も、主人公が最高傑作とする《誰もが目をそむけるような 人のあさましい本性の絵》を描いた瞬間に潮が引くように去る人々も。それは言わば現代のネットリテラシーの縮図のようでもあるが、演奏前のポエトリーにて「だから僕は、誰にも聴かせる予定が無くて、誰にも必要とされていないその寂しい歌を、せめて『無題』と名付けた」と語られたことからも分かる通り、これはかつての秋田自身の生き写しでもある。前述の希望が打ち砕かれる《信じてたこと 正しかった》が《信じてたこと 間違ってたかな》と変換された直後、大仏の顔にヒビが入り、次いで顔、胴体と、次々に剥がれ落ち、ラスサビに突入するとその崩壊は一層激しさを増し、最終的には大仏の姿そのものが消失。完全なる黒に包まれたバックスクリーンに《正しかった》の文字のみが踊る万感の幕切れは、観るものに多大な印象を残したことだろう。


圧倒的叙情を携えながらライブは続き、『ボイコット』のオープナーに冠されたポエトリー楽曲“拒否オロジー”で社会への反抗を描けば、早くもライブは折り返し地点に突入。残酷な現実からの救出(逃避行)を描く“とどめを刺して”、クリスマスを数日後に控えたこの日久方ぶりにセットリスト入りを果たした“クリスマス”、コロナ禍を契機に憂いを帯びる心情を歌った“曇天”と間髪入れずに続き、ライブは今だからこそ強く訴えかける“令和二年”でもって、ひとつのハイライトを迎える。

 


amazarashi 『令和二年』“A.D. 2020” Music Video | Giant Buddha Projection Mapping


“令和二年”で歌われるのはそのタイトルの通り、昨年突如として世界中を混乱の渦に陥れ、今なお収束の見通しの立たないコロナ禍における憂鬱である。ソーシャルディスタンスやマスク着用、外出自粛といった誰しもに当て嵌まる自助行動のみならず、その他諸々の自制と強制停止を余儀無くされた令和二年は、今まで当たり前だと思っていたことがその実、決して当たり前などではなかったということを痛感する1年であったはず。“令和二年”をプレイする秋田の歌声こそ優しく語り掛けるように穏やかだが、歌われる内容は極めてシリアスかつ無希望的だ。背後の大仏の顔面はいつの間にやらガスマスクを装着した完全防備で、更にはその下半身には立入禁止テープを彷彿とさせる黄色と黒の斑模様が胸が詰まる閉塞感を増幅。個々人の孤独と封鎖された公園に咲く桜、職の減少に反比例して高まる支出の果てに歌われた《見捨てられた市井 令和二年》のフレーズでは、言葉の間には「せい」なる『SAY(言え)』にも似た響きが確かに挟まれる。実際この一幕は実際の音源にも加えられてはいたものの、無論amazarashi、ひいては秋田が楽曲中に観客にレスポンスを求めることは絶対的にないという観点から考えても、コロナ禍における人々の心情を近付けるが如くのこの一幕には、思わずハッとさせられた次第だ。


そしてライブは、気付けばクライマックスに突入。冒頭、ポエトリーとして“つじつま合わせに生まれた僕等”のMVにおける前口上が秋田の口からから放たれると、画面上に表示されているプロジェクションマッピングのモードが『type:amazarashi』に変化。万感のラストを飾るのは、ライブにおける代表的アンセム“スターライト”である。

 


amazarashi 『スターライト』


今まで徹底して照明的な役割を果たしてきた大仏には、ギョロギョロと視線を変える多数の目玉が出現し、秋田、ひいてはamazarashiの進む先を監視するようにライブを見守っている。秋田はギターを力強くストロークしつつ、先の見えない絶望の中に確かに輝く、一筋の光を追い求めていく。かつては秋田自身が経験した長い下積み生活の中、希望的未来を切望する意味合いが強かった“スターライト”はこの日、コロナ禍に憂う人々への一筋の光として高らかに響き渡っていた。秋田のラストを告げる秋田がギターストロークを掻き鳴らすと、これまで投影されてきたプロジェクションマッピングを網羅する形で映像が次々と大仏に映し出され、秋田がギターをミュートした瞬間、遂には大仏の姿自体が完全に消滅。そして楽曲が終わり、ボソリと秋田が「ありがとうございました」と感謝の思いを伝えた瞬間に暗転。amazarashi初となるオンラインライブ『末法独唱 雨天決行』は、終演を告げるエンドロールと共に緩やかに幕を閉じた。


……amazarashiは既知の通り、秋田の心に巣食うあらゆる感情を音に乗せて直接的に吐き出すバンドであり、かつては秋田が自分自身の憂鬱の捌け口として綴っていた楽曲群は、今や巡り巡って同じように日々希死念慮に苛まれ、生き辛さを抱える精神的弱者に寄り添い、傷心を解きほぐす代弁者たる役割を担っている。ただ今回ギターと歌のみで奏でられた17曲はそうした意味合い以上に、新型コロナウイルス下の現在におけるある意味ではポジティブ、そしてある意味では自傷的なメッセージを携えていたように思う。


新型コロナウイルスは未だ終息の見通しは経っておらず、現在では所謂『第三波』と呼ばれる新たな局面に突入している。今回のライブを秋田がどのような思いで試みたのか、その真意について当然ながら一切公にはされていない。けれども当時国内に蔓延していた感染症の収束を願うことを祈願して奈良の大仏が造立された事実が示しているように、頭大仏の眼下で行ったことにも大きな意味があると推察するし、現状ツアーが1年コロナ禍を起因として1年以上の延期が決定している今、彼がどれほどの思いでライブを駆け抜けたのかは想像に難くないだろう。……絶望の令和二年を抜け、希望の令和三年へ。未曾有のコロナ禍だからこそ敢行された此度の『末法独唱 雨天決行』は、紛れもなく現在進行形で暗い世情と闘う誰しもの心に、某かの強い感情を抱かせる代物であった。


【amazarashi『末法独唱 雨天決行』セットリスト】
夏を待っていました
未来になれなかったあの夜に
あんたへ
さよならごっこ
季節は次々死んでいく
無題
積み木(インディーズ時代未発表曲)
ワンルーム叙事詩
拒否オロジー
とどめを刺して
クリスマス
曇天(新曲)
令和二年(新曲)
馬鹿騒ぎはもう終わり(新曲)
夕立旅立ち
真っ白な世界
スターライト

映像がループする、邦楽アーティストのMV5選

こんばんは、キタガワです。


今やアーティストの存在を広く知らしめる重要な契機とも言える代物が、YouTube上に公開されるミュージックビデオ(MV)。特に昨年度は瑛人の“香水”を筆頭としてYOASOBIの“夜に駆ける”、優里の“ドライフラワー”、yamaの“春を告げる”といった正体不明のダークホースが台頭。一躍巨大なムーブメントを形成するに至ったことは周知の通りだが、楽曲という最たる武器に付加価値的な魅力と認知度がほぼ欠かせなくなっていると言っていいだろう。


当ブログでは今までも『途中でテンポが変わるMV』や『正義について歌うMV』といった多くのMVに焦点を当て、独自性を高めた紹介を行ってきた。そこで今回も例に漏れず、テーマを『時間が巻き戻るMV』……所謂“ループもの”に絞り、その稀有な魅力に深く迫っていきたい。様々な意図が交錯するループMVの世界に込められた意図を推察しつつ、素晴らしい音楽とも出会いを楽しんでいただければ幸いである。

 

 

ルーキー/サカナクション

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今回紹介するMVの中で最も物語性の強い代物こそ、サカナクションにおける屈指のライブアンセムのひとつ“ルーキー”だ。


繰り返されるワンフレーズと、膨らみのあるシンセサウンドが印象的な“ルーキー”。けれどもその楽曲自体の情報量の多さとは裏腹に歌詞はどこか意味深で、その深意を汲み取り辛い部分が存在するのも確か。そして重立った歌詞の浮遊感とリンクするように、MVも極めて独創性の高い内容に仕上がっている。MVはバンドのフロントマン・山口一郎(Vo.G)が起床し一杯の水を飲み干すワンシーンから始まり、以降は街中を闊歩した後に風船を持つ少女との邂逅を経て、何故か地面に倒れた女性の変死体の第一発見者となった山口が現場から逃走。瞬間画面は切り替わり、また冒頭の場面から再びループする……といった具合である。


このMVで取り分け重要となるのは、ガラスを破った後に訪れるバッドエンド回避の場面で、今まで再三に渡り変化の兆しさえ見せなかった少女との衝突、及び死体発見を回避するに至る。これは数々のタイムリープ作品で散見される未来予知の類とも違う、言わばそうした未来自体が起こり得ない世界線へと移動したことの証明。……と思いきや、全てのラストに女性の変死体が再び出現するホラーな幕引きで、心に名状し難い消化不良感が宿るのも面白い。


前述の通り“ルーキー”は現在のサカナクションにおけるキラーチューンに位置しており、ライブでは幻想的なグリーンライトの下、ダンサブルなサウンドが激しく鳴らされることでも知られている。そこではサビの一節を大合唱する一幕もまた恒例となっているが、手放しで躍り狂うことマストな“ルーキー”を語る上で、真逆に位置するMVとの対比が光る。きらびやかな裏で確かに存在する闇。何度考えても結論は出ないが、無意味な思いは巡るばかりだ。

 


サカナクション - ルーキー(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)-

 

 

LOVE SONG/Droog

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大分県出身のパンクロックバンド・Droog(ドルーグ)。10代という若さで大手音楽誌に取り上げられると、あれよあれよという間に若手ロックバンドとして名を馳せ、この楽曲が収録されたミニアルバム“LOVE SONG”は、何と浜崎あゆみやAAAなど多数のポップアーティストを有する事務所・avexからのリリースとなった。なおDroogはサウンド的変遷を続け、2018年5月より無期限活動休止。現在はメンバーそれぞれが個々の活動を行っている。


Droogの真骨頂と言えば、暴力的なサウンドメイク。その無骨なサウンドと調和を図るかのよつに、“LOVE SONG”のMVもエネルギッシュ、かつある種のカオスさを体現した作りとなっている。MVのループ部分の一端を担っているのは、妖艶たるカタヤマヒロキ(Vo)による傍若無人な挙動。“LOVE SONG”というタイトルにも関わらず、歌われる内容はラブへのヘイトに徹していて、相手との別れを一方的に叫び倒すサビ、意味の欠片もないメロ、ラストはカタヤマがカメラに向かって大々的なファックサインを繰り出し幕を閉じることさえ、どこを切ってもパンクロック。結果として半年後のDroogは“LOVE SONG”とは趣を異にするポップロック楽曲を数多くリリースすることになるけれども、そう考えると“LOVE SONG”は在りし日のDroogの絶頂期であるという見方も出来る。


中でもカタヤマが目線を前に据えながら幾度となく前方に突き進む様は、怖いもの知らずの無敵のロックンローラーそのものだ。残念ながらバンドは散り散りになってしまったが、セットリストにすっかり定着した“LOVE SONG”とこのMVを観るたび「戻って来てほしい」と願ってしまうのもまた、避けられない運命なのだろう。

 


Droog / LOVE SONG

 

 

救われ升/ポップしなないで

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かめがい(Vo.Key)、かわむら(Dr.Cho)による2人組ポップユニット・ポップしなないで。先日リリースされた初のフルアルバム『上々』におけるリード曲としても位置しているのが、ぐるぐる回るサビのリフレインが印象的な“救われ升”である。


かつてはかめがいのキーボードを軸とした、取り分け緩やかなサウンドを確立していたポしな。そんな中突如としてYouTube上に投下された今作“救われ升”は、現時点でのポしな史上最もダンサブルな音像で展開されるアッパー楽曲で、ライブの熱量を底上げするナンバーとしても知られる。更にはMVの構成も中毒性のあるサウンドに上手く合致した代物となっていて、具体的には矢継ぎ早に繰り出される発語に合わせてカメラは目まぐるしく場面転換。対して繰り返されるサビ部分では同様の映像をリピートするといった工夫でエンタメ性を擽っている。かめがいによるメロ・サビの声質変化も、かわむらの地に足着けたドラミングも。ある意味ではどこを切ってもポしなであり、けれども“救われ升”は間違いなく新境地を開拓している。


現在、ポップしなないでとしての活動と平行する形で新バンド・Paraisoを結成し、未だ見ぬ実験的サウンドを追及する鬼と化しているポしな。実際Paraisoでは今まで培われてきたポしな像を大きく覆す楽曲が多く、彼ら自身も未経験の音楽に対する好奇心は非常に旺盛の様子。故に今後彼らは様々なサウンドメイクにトライするものと思われるが、どう転んでも異質を極めた初の挑戦的楽曲こと“救われ升”の存在意義は大きく、行く行くはネクストステージを暗喩する重要な一撃として、広く世間に知れ渡る気がしてならない。

 


【MV】ポップしなないで「救われ升」

 

 

すごい速さ/andymori

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ありふれた爽やかな四つ打ちロックがすっかりスタンダードとなったロックシーンに、突如進撃した異端児・andymori(アンディモリ)。彼らの魅力はその性急を極めたバンドアンサンブルであり、中でも小山田壮平(Vo.G)が先陣を切って駆け抜けるロックサウンドはあまりに特徴的。実際、そのスピーディーなテイストは以下の“すごい速さ”で正に凄い速さでもって体現されていて、『A→B→サビ』の正統派な流れを2度展開した末、突然終わるという約1分半に及ぶ絶頂がしっかりと収められている。


なおこの楽曲のMVでは住宅街を疾走する3人の姿が描かれているが、ただ単に走っているだけのような簡素なものでは決してなく、よく見ると1コマ1コマ立ち絵……つまりは何百何千という写真をリアルタイム的にコラージュし、動画化していることが分かる。素人目でもこのMVを制作するためにどれ程の時間を要したのか、想像に難くないだろう。最終的には住宅街をぐるりと一周し、元いた場所へと舞い戻る3人。その際のポーズが冒頭と全く同じであることもまた、エンターテインメントとして完璧なオチだ。なおandymoriは“すごい速さ”が収録されたデビューアルバム、その名も『andymori』のリリースから5年後、突然の解散を発表。現在はandymori初期時代の3人にシンガーソングライターとしても活動する長澤知之を加えた4人組ロックバンド・AL(アル)を結成。andymoriとはまた違った音像を探求し続けている。

 


andymori「すごい速さ」

 

 

アルクアラウンド/サカナクション

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ラストを飾るのは、再び登場、サカナクション。今記事二度目となるループMVは、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで日本のロックシーンを駆け抜けるサカナクションの初期の改心の一撃とも称するべき楽曲。ちなみにアッパーなサカナクションのサウンドイメージを広く浸透させたのは何を隠そう、この“アルクアラウンド”がひとつの契機であることは、ぜひとも特筆しておきたいところ。


MVは、基本的に山口の独歩の一部始終を映し出すカメラワークに徹している。ただこの4分超にも及ぶ彼の道程には多様なるエンターテインメント性が、それも綿密に計算し尽くされた形で描かれている。中でも驚きは歌詞の大進行で、縦横無尽に動き回る彼の周囲を歌詞の数々が巡るという、ある意味では極めてアナログ、けれども現在のライブにおいて視覚的効果の多用が確定事項となっているサカナクションの未来的な考えは、この時点で極まっていたと見ていいだろう。


ループ部分を担うのは、楽曲が終わる直前に挟み込まれた一幕。ルートをぐるりと一周し、傍らの林檎を握った山口が《僕は歩く》と歌う。そのシーンは冒頭のワンシーンをそっくりそのまま模倣したかのようで、思わずはっとする。ただ前述の“ルーキー”と大きく異なるのは、このMVが完全一発撮りである点。当然この映像を実現するには相当なトライ&エラーを余儀なくされたと見て間違いないが、結果このMVは大きな反響を呼び、続く“アイデンティティ”や“新宝島”のバズへの進路に大きく作用。更には昨今『オオカミちゃんには騙されない』の主題歌に抜擢された関係上、今までサカナクションを知らなかった若い年代の人々がMVに辿り着き、新鮮な衝撃を受けるという逆転現象さえ発生しているまさかの流れには、驚かされるばかりである。

 


サカナクション - アルクアラウンド(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)-

 

 

……さて、いかがだっただろうか。ループするMVの世界。


前述の通り、今やMVはそのアーティストの楽曲に視覚的彩りを与えるのみならず、知名度を獲得するためのツールとして、また音源とは別の側面でもって魅力を伝える重要な手段のひとつとして確立している。本末転倒だが、今回紹介したMVには、基本的に意味はほとんど存在しないと見て良いだろう。そもそも重厚なストーリーを紡ごうとしたとて、3分少々という時間はあまりに短過ぎるし、結果としてループ系のMVの大半がある種疑問的な作品ばかりとなってしまうことは、致し方ないとも言える。


ただ、MVには必ず制作総指揮を担う人物がいて、そこには大いなる意思が秘められていることもまた事実。読者の方々が今回の記事、ひいては4組のアーティストのMVを観てどのような感想を持つかは分からない。ただこうも思うのだ。『ループを元にしたMV』を観て抱く『その真意を再度ぐるぐると思考してしまうループ感』は、ある意味では制作者の術中に嵌まっているのでは、と。

ハロー2021

1月1日、昼過ぎ。雪掻きの音で目を覚ました僕は、そこかしこにビール缶が散乱したベッドからゆるりと起き上がった。昨夜あれほど呑んだ割には二日酔いは軽い方で、久方ぶりの長時間睡眠も作用してか体調はすこぶる良かった。

自室の階段を降りると、休日の習慣としてテレビを点け、ニュース番組を探す。しかしながら無機質な黒き映像媒体は「新年特別企画」と称して駅伝、お笑い、スポーツばかりを取り上げるものばかりで、つまらないことこの上なかった。そんなクソッタレかつ無意味なザッピング時間に辟易した末、僕はおもむろに、パジャマの上に防寒具を羽織った。コロナ禍で迎える新たな年。普段は最寄りのカフェで執筆に赴くところであるが、この日ばかりは当たり前のように行っていた執筆作業ではなく、すっかり新年の様相となった神社へ速やかに繰り出すことが、何よりの最善策のように思えた。

家の窓から見た様子ではそれほど積もってはいない様子ではあったが、路地を曲がると自身の膝元まですっぽり覆い隠す景色が眼前に広がっており、『サッと御神籤を引いてサッと帰る』という事前計画は、早くも破綻した。仕方なく雪を踏み締めつつ歩を進めるも、一向に目的地には辿り着けない。むしろ時間経過と共に遠くなっていく蜃気楼じみた感覚すらあり、「俺は年始に何をやっているんだ」との思いが頭をもたげた。

ようやっと目的地の神社に到着すると、そこは例年通り、大勢の参拝客でごった返していた。実際年末のニュースでは賽銭箱の撤去や出店販売の禁止、果ては御神籤は店員に声を掛けて購入するといったコロナ禍ならではの神社の様子が取り沙汰されていて、僕自身もそうした『例年と異なる神社』を確認する為に半ば冷やかしも兼ねて訪れた節もあった。けれども東京が1300人以上の感染者を出した昨日、何故か47都道府県中唯一感染者が確認されなかった島根県らしく、賽銭箱はもちろん出店も御神籤も例年通り。確かに参拝客は一人残らずマスクを着用しているし、出店には飛沫対策としてビニールが設置されてはいたが、個人的にはもはや見慣れた光景でもあるため無問題。むしろこうした状況下でも無変化に留まった神社に、心臓安堵した自分もいた。

暫くの待ち時間の後、賽銭を投げ込み今年の理想的未来を願う。願ったのはあまりに先の見えない事象でかり、絶対的に自身の努力でしか成し得ない、言わば願ったところでどうしようもない努力の賜物の果てに訪れる希望だった。そう。これは願いではない。言わば自分への戒めなのだ。「年始に願ったのなら本気でやり遂げねばならない」との、悪魔の枷だ。

素早くお参りを済ませた僕は、僅かばかりの期待を胸に待ちに待った御神籤を引く。結果は中吉だったが、心は至ってフラットだった。無謀にも近い運命を願い続けてはきたものの、結果何を願おうと結局は自分の行動次第であることは、身に染みて分かっていた。ここでふと、昨年の行動を自問自答する。

思えば2020年は、日々具現化不能な憂鬱が首をもたげた言わば『絶望の1年』だった。元々の精神疾患に加えコロナウイルスの蔓延、人間関係の悪化、そして何よりライブの中止が相次いだことで、僕はみるみるうちに病んでいった。そうした日常的に襲い来るネガティブな感情を紛らわす為に用いた唯一の手段はアルコールで、日々2リットル以上の酒を依存的にあおり続けた弊害として希死念慮はみるみる増幅した。結果2020年は脳のメモリーから削除されたも同然で、記憶の大半はほとんど思い出せない。改めて回顧しても、ひとつの人生のゲームマスターながらよく死ななかったものだと思う。……今年は良い年になるだろうか。否。良い年にするのは紛れもなく、自分自身である。

御神籤の内容に一喜一憂する家族、及びカップルの笑い声に辟易し神社を後にした僕は、近場にあった公園へと腰を降ろし、普段『万が一の場合』に備えて鞄に押し込んでいたビール缶と、同時に先程出店で入手したベビーカステラを開けた。どちらも味は最低だったが、何故だか心は妙に軽やかだった。新たな1年の幕開けとしては、これくらいが丁度良い。

ビールとカステラを交互に胃に流し込みながら、僕は帰路に着く。滞在時間にして10分程度のものだったが、それでも良いと思えた。途中、雪に足を取られてカステラが落下したが、もう片方の手で握っていたビールは無事に終わった。先程の『中吉』の結果は、強ち間違ってはいないのかもしれない。……僕は僅かに残ったビールを一気に飲み干し、面倒臭い雪道を再び踏み締めた。

 

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個人的CDアルバムランキング2020[5位~1位]

こんばんは、キタガワです。


さて、1年の総括とも言える恒例企画『個人的CDアルバムランキング2020』もいよいよ最終回。今回はお待ちかねの、第5位~第1位までを発表していく所存だ。


外出自粛が親しい友人との距離感に陰りを落とし、マスク義務化が他者の目から下における記憶を曖昧にし、日々増え続ける感染者数に一喜一憂する、考え得る限り最も悪い意味での歴史的な年となった令和2年。ただそうした中でも音楽は変わらず日常に寄り添い、前向きな希望と活力を我々に与え続けてきた。約4年間続けてきた今企画が『個人的CDアルバムランキング』と銘打っている事実からも分かる通り、基本的にランキング結果は僕個人の嗜好に大きく左右される。故に今記事の全てを1年の総評とするにはいささか問題があるし、閲覧した音楽ファンの中には「米津玄師が入ってない」「すとぷりはどうした」「SixTONESは?」といった声を挙げる人もいて然るべしであるとも思う。


けれども僕個人が活動当初より確固たる思いとして抱いているのはたったひとつで、それは『音楽と出会う契機は何でも良い』ということ。居酒屋、CM、バラエティー番組。友人とのカラオケで出会う楽曲もあれば、YouTubeのオススメ動画で出会う楽曲もあるかも知れない。そして、そんな新たな音楽への出会いがたとえひとりの音楽好きが記した拙い駄文でも、取っ掛かりとしては十分であると思うのだ。総じて今記事がひとりでも多くの読者にとっての新たな音楽の1ページを開くきっかけとなれば、これほど嬉しいことはない。


それでは以下より、最終ランキングの発表である。なお今記事は正真正銘、今年最後の執筆記事となる。来年もどうか、素晴らしい音楽が響き渡りますように。


・20位~16位はこちら
・15位~11位はこちら
・10位~6位はこちら


5位
Go with the Flow/木村拓哉
2020年1月8日発売

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[キムタク、覚醒の時]

国民的アイドルグループ・SMAPの解散から早4年。特に今年は草彅がYouTuberとしてチャンネル登録者数が100万人を突破し、中居は新会社を設立。香取はソロアーティストとして初のアルバムをリリースするなど各自話題を呼んだが、そんな中注目されたのがSMAPメンバーで唯一ジャニーズ事務所に籍を置きながらも、長らく沈黙を貫いてきた木村の動向だった。だが彼は誰も知らない水面下で、着々と準備を進めていた。そして遂に発表された点と点が線になった一報こそ、待望のソロアルバム『Go with the Flow』のリリースである。


ソロアルバム……つまりは木村がボーカルを担当すること自体は当然ながら、『Go with the Flow』の作詞作曲陣には槇原敬之をはじめ森山直太朗、Uru、いきものがかりの水野良樹らジャンルもイメージもバラバラな豪華な顔触れが並び、磐石の体制を形成。加えて忌野清志郎のカバーや、自身を主人公に据えたPS4ゲームのセルフカバーなど多方面に手を伸ばした関係上、結果としてどこを切っても木村らしさ溢れるボーカルが響き渡る一方で多種多様な楽曲が全体を覆い尽くすという極上のエンタメアルバムとなった。


前述の通り様々な要素に彩られた木村初のソロアルバムであるが、今作における魅力はズバリ、木村によるボーカリストとしての圧倒的地力だ。作曲者が曲によって大きく異なるということは確かに多様性を維持出来るメリットもあるけれども、ある意味ではその作曲者の色に強く染まってしまう傾向にある。実際槇原敬之が作詞作曲を務めた“UNIQUE”などはおそらくは槇原がボーカルを担った時点で完全な『マッキー曲』になるだろうし、多少提供曲としての側面はあれど[Alexandros]の川上洋平による“Leftovers”やB'z稲葉作曲の“One and Only”も同様だ。しかし驚くべきは木村が放つあの艶のあるイケメンボイスが流れた瞬間、一転して『木村拓哉のソロ』になる点。それでいて何でも歌いのける柔軟性も兼ね備えており、ロックは声を前向きに放出させ、対してバラードでは裏声やビブラートを多用した歌声を使い分けての全体を理解したボーカルで魅せる。特にアイドル歌手は『ステージ上の姿』自体が歌声を上回る魅力を担っていることも多いが、木村は明らかな両刀使いと言える。内心「思い返せばSMAPの時もそうだったなあ」と思いつつ、やはりそうした魅力が木村の天性の才能であり、最大の武器なのだろう。


SMAPが解散し、気付けば今現在音楽に携わっているのは木村と香取のふたりのみとなった。そうした中でも木村は主演映画公開や、中国のファンに向けた中国語での生配信など相変わらずのワーカホリックぶりだが、明らかなハードワークの渦中にあっても再び音楽を選び、あの歌声を響かせてくれることは感謝の思いを禁じ得ないし、是非とも来年以降も続けていってほしいと願う。期待のソロアーティスト・木村拓哉の活動は、まだまだ始まったばかりだ。

 


木村拓哉 -「One and Only」MusicVideo short ver.


木村拓哉 -「サンセットベンチ」MusicVideo short ver.

 

 

4位
eyes/milet
2020年6月3日発売

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[ふたりのラブストーリー]

ここ2年間、アルバムでもシングルでもなくEPを多数リリースする極めてレアな海外的商業戦略を続けてきたミレイ。そうした継続的な認知度の獲得とサブスクリプション時代に沿った実績が評価され、今年は年末に控えた紅白歌合戦にも初出場が内定。そんな飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍を続ける彼女の、オリコンチャートを総なめにした記念すべきファーストフルアルバムが今作『eyes』だ。


『eyes』に収録された楽曲の大半は大手科学メーカーのCMや連続ドラマといった多数のタイアップが加わっており、更には全22曲中16曲で公式MVが制作されるというアーティスト的に見てもある種異常な信頼が寄せられている。この理由についてはまず第一に所属事務所であるソニー・ミュージックアーティスツ側の企業戦略は元より、何より自身のツイッターで日々綴られているように、ミレイ本人がそうしたタイアップへの起用を心から喜び、また多くの人に求められる日々に充実感を抱いていることが大きい。


そして彼女のそうした前傾姿勢……具体的にはネガティブな部分を心に押し留めてポジティブに切り替える心の有り様は、今作を語る上でも重要なポイントになっている。今作の登場人物はひとつの例外もなく『わたし』と『あなた』のたったふたりしか存在しない。無論、紅白歌合戦で披露することが決定している“inside you”でもお茶の間に広く聴かれた“us”でも、対象となる『わたし』と『あなた』の正体はドラマのタイアップの関係上、『ドラマの主人公』と『ヒロイン』にそっくりそのまま置き換えることが出来た。ただコロナウイルスの影響により、彼女の心中でその意味合いは少しずつ『ミレイ』と『ファン』との関係性へと変遷を遂げつつある。


先の木村拓哉や前回のナナヲアカリにおける評論にも繋がる話だが、歌に魂が宿るという言葉があるように、個人的にはリスナーの心を打ち震わせてフォロワーを獲得するには何よりも『アーティスト個人の思い』が最重要であると感じていて、そのベクトルで捉えるとするならば、今回紹介する全てのアーティストの中でミレイは歌詞への思いが間違いなく誰よりも強い人物である。ドラマへの感情移入、タイアップへの好奇心、そしてファンへの感謝……全てが内包された作品が『eyes』であり、また様々な視点で愛情をつまびらかにする意味でも、文字通り『eyes』はアーティストとしての精神性を強く思わせる1作と言えよう。


加えて、現時点において大半のリスナーにとってのミレイへの入り口であると共に、歌詞的にもサウンド的にも所謂『ミレイらしさ』がこのアルバムでほぼ網羅可能なことからも、今作の存在意義は極めて大きい。おそらくは年末の紅白歌合戦で彼女の名は更に広く知られるだろうが、間違いなく今作は今後長らく活動を続けるミレイが誇るひとつの到達点。故にこのアルバムを聴くにはまさに今が絶好のタイミングであって、まずもってこの機を逃すことは考えられないと見て良い。

 


milet「inside you」MUSIC VIDEO(先行配信中!竹内結子主演・フジテレビ系ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』OPテーマ)


milet「us」MUSIC VIDEO(日本テレビ系水曜ドラマ『偽装不倫』主題歌)

 

 

3位
ZOO!!/ネクライトーキー
2020年1月29日発売

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[根暗な5人衆、メジャーへ!]

2年前に鮮烈なデビューを飾った『ONE!』と朝日(Gt)のボカロP時代の別名義・石風呂楽曲のセルフカバー集『MEMORIES』を経て早くも届けられたのが、メジャーデビュー1発目となるフルアルバム『ZOO!!』だ。


動物園と言えば、広大な施設内を巡りつつ多種多様な動物と邂逅出来るのが魅力のひとつだが、もっさ(Vo.G)画伯による今作のCDジャケットからも伺える通りサウンドはあまりにも多様性に満ち満ちている。しかしながら実際にスポットを当てている生物はドブネズミや害虫、更には人間に怨みを持つ狸など、確かに『生き物』ではあるが『動物』ではない天の邪鬼さもありと、結果的にはネクライトーキー史上最もカオスに振り切ったアルバムとなった。


ただそうした謎過ぎる選定とは裏腹に、全ての楽曲は一聴した瞬間に口ずさめる程にひたすらキャッチー。考えさせられるメロからサビで真顔に戻される衝撃のオープナー“夢みるドブネズミ”、《北へ向かえば》の麻薬的リフレインが印象深い“北上のススメ”、パンクらしさ溢れる曲名であるにも関わらず何故か今作屈指のバラードとなった“渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進”と、楽曲を聴き進めるたびに異なる形で驚きをもたらす、まずもってネクライトーキーにしか成し得ない独自のテイストが光る。


そんなバンドのイメージ形成に一役買っているのがバンドのボーカルを務めるもっさその人。『ONE!』ではYouTube上に『ハム太郎ボイス』の言葉が躍るなど、その独特な歌声がニューカマー特有の指摘により取り沙汰されることが多い印象だったが、時に激しく時に緩やかに、楽曲ごとに雰囲気をガラリと変える今作におけるもっさの歌唱には、明らかなボーカリストとしての変化が感じられる。ネクライトーキーが朝日ともっさの偶然の出会いからスタートした事実はバンド結成秘話として幾度も本人の口から語られているが、新人バンドとしてはおよそ異様なペースでの認知度獲得の背景には、やはりもっさによるあの歌声が必要不可欠であったのだろう。


今年はコロナウイルスの影響により『ZOO!!』を携えて行う予定で動いていた全国ツアーが全公演中止となり、辛い時期を過ごしたネクライトーキー。けれども彼らは鬱屈した渦中においても歩みを止めることはなく、先日行われたライブでは新曲を次々披露。更には初のアニメタイアップも決定と、渾身の1作『ZOO!!』を経て、彼らは既にネクストステージを見詰めている。ロックでポップな根暗な5人衆の進撃は、来年も続きそうだ。

 


ネクライトーキーMV「夢みるドブネズミ」


ネクライトーキーMV「北上のススメ」


ネクライトーキー MV「涙を拭いて」

 

 

2位
おれは錯乱前戦だ!!/錯乱前戦
2020年3月4日

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[ぶっ飛ばされろ!]

ロックンロールに取り憑かれた弱冠20歳の少年たちが、遂に全国へ烈風を巻き起こした。初のフルアルバムのタイトルはズバリ『おれは錯乱前戦だ!』……。何とも彼ららしいネーミングセンスである。


まず大前提として、このアルバムで歌われている内容は曖昧模糊を極めており、一切の意味は存在しない。ドンドンとドアを叩くワンシーンのみでストーリーが完結する“ドンドア”から始まり、心を叩き壊そうと目論む“ハンマー”、ペットショップ破壊に衝動を込める“タクシーマン“、1分14秒という短時間でパンクを鳴らす“カレーライス”……。今作に収められた全ての楽曲は何度リピートしても理解不能な代物であって、おそらくは彼ら自身も歌詞に深い意味を込めてはいないだろうし、その時々の勢いに任せて僅か数日で歌詞を書き上げたものであることはほぼ間違いない。更に言えば、例えば印象的なタイトルに驚かされる“カレーライス”や“タクシーマン”にしても、別にタイトルが“クリームシチュー”でも“ファッキンポリス”でも、最悪“夕食”や“人間”となってしまったとしても全く無問題な筈なのだ。


それでは彼らが楽曲制作において最重要視している要素とは一体何なのか。その答えはひとつ。『バンドサウンド』である。YOASOBIの“夜に駆ける”やずっと真夜中でいいのに。の“秒針を噛む”などが代表的だが、巨大なバズを引き起こすアーティストは総じて綿密なアンサンブルを軸とする中錯乱前戦はと言うと、全員が主張し合うドシャメシャな存在証明に終始していて、ともすれば破綻しかねない危険性すら帯びている。けれども今のご時世『こうすれば売れる』という図式が完成している渦中において決して誰にも媚びず、自らのポリシーを貫く姿勢は称賛に値するし、収録曲の過半数以上が3分以内に駆け抜ける異様な性急さもやはり、弱冠20歳の若き焦燥を体現するものであるように思う。


「自分の好きな音楽を鳴らす」という発言自体は未だ美談。しかしながらその実、今や所謂『流行りの曲調』というのも確かに確立していて、更にはSNSを筆頭とした拡散媒体を用いずにブレイクすること自体がほぼ不可能とされる。そんな中SNSを基本的に使わず、流行とは真逆を進む音楽性で大博打を打った錯乱前戦。今作は奇せずしてコロナ禍前のリリースとなったが、おそらくはコロナ禍でも同様な作風であったろうし、今後ある程度歳を重ねた際の彼らの音楽性にも期待が高まる。絶対に聴力が麻痺する寸前の爆音で聴くべき、今年度最大のロックンロールアルバムがここにある。

 


錯乱前戦 - タクシーマン


錯乱前戦 - ロッキンロール


錯乱前戦 - カレーライス

 

 

1位
shiny land/坂口有望
2020年2月19日発売

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[絶望のコロナ禍と希望の未来]

栄光の1位に君臨したのは、19歳のシンガーソングライター・坂口有望(読み:さかぐちあみ)による3rdフルアルバム『shiny land』。ポップなサウンドが鼓膜を揺らし、徹頭徹尾清らかな歌声に包まれる今作は、一見するとポジティブなメッセージが込められた明るいアルバムにも思える。


ただ、今作の類い稀なるメッセージ性に拍車を掛けたのが何を隠そう、コロナウイルスの存在である。《世界は変わったんだろう/想像して途中でやめた》と笑顔で響かせる“ワンピース”や逢いたい人へ会うことが叶わない寂寥をポジティブな思考変換に導く“星と屑”、世界の変遷と共に聴かれる音楽が変わるリアルを綴った“radio”、幸せが一瞬で消え去ってしまう“あっけない”……。『shiny land』に収録された全10曲は、コロナウイルスが世界的な絶望を及ぼした今だからこそ、また違った意味合いを帯びて鼓膜を揺らす。今作のリリース月は2月。つまりはコロナウイルスが蔓延する以前には完全に制作が終了していて、今作に収録された楽曲がコロナについて歌われたものではないということは絶対に間違いないのだけれど、今作『shiny land』は路上シンガーとしての下積みからデビューに至った前々作『blue signs』とも、高校生活のあれこれを音楽に落とし込んだ前作『放課後ジャーニー』とも違う、明らかな熱量が込められている。そして結果として、日々増え続ける感染者数に一喜一憂する今だからこそ、今作に収録された楽曲の全てはコロナの未来を予言するようでもあり、またそんな絶望的な現在に落ち込む我々への、強いメッセージのようにも思えてならないのだ。


コロナに関係なく、現代に生きる人間全てに分け隔てなく訪れる憂いも虚無感も受け止めながら、そうした悲観的な出来事を笑い飛ばすでもなくつとめて明るく振る舞う今作における坂口は、歌詞的にもサウンド的にも、また世情的にも強く心に訴えかけている。よもやの渦中での選考を余儀無くされた『個人的CDアルバムランキング2020』。おそらくは文字通り個人的な観点で選択するならば、今年最も1日単位で聴いたアルバムで考えればネクライトーキー『ZOO!!』か錯乱前戦『おれは錯乱前戦だ!』に二分されるであろう。けれども、その時分のみではなく今年全体、アルバム全体の総評としてランキング付けを行うのであれば、直情的な嗜好のみならず全体の作風やアーティストとしての成長、コロナ禍における作品性に焦点を当てて然るべし。そして間違いなく今年ならではの事象として世界を震撼させたコロナ禍を考えた結果、圧倒的に『shiny land』に軍配が上がった形だ。坂口が「人類皆が素晴らしい生活を送れるように」と祈って名付けられたアルバムタイトル『shiny land(明るい土地)』とは意図せずして、対極に位置してしまった2020年の世界。そんな中で今作は総じて、酸いも甘いも引っ括めて希望とし、我々の肩を叩く共感者として誰もの耳に優しく語り掛けている。

 


坂口有望 『あっけない』Music Video


坂口有望 『LION』MV(Short)


坂口有望 『ワンピース』MV(Short)

 

 

……さて、これにて長きに渡ったアルバムランキングは完全終幕。最終ランキング結果は、以下の通りである。

20位……1限目モダン/レトロな少女
19位……Be Up A Hello/Squarepusher
18位……オリオンブルー/Uru
17位……×××/輝夜月
16位……盗作/ヨルシカ

15位……ボイコット/amazarashi
14位……おいしいパスタがあると聞いて/あいみょん
13位……SINGALONG/緑黄色社会
12位……宮本、独歩。/宮本浩次
11位……瞬く世界にiを揺らせ/CHiCO with HoneyWorks

10位……世間知らず/しなの椰惠
9位……浪漫/PEDRO
8位……七転七起/ナナヲアカリ
7位……やっぱり雨は降るんだね/ツユ
6位……Notes on a Conditional Form/The 1975

5位……Go with the Flow/木村拓哉
4位……eyes/milet
3位……ZOO!!/ネクライトーキー
2位……おれは錯乱前戦だ!!/錯乱前戦
1位……shiny land/坂口有望

繰り返すが、今年は新型コロナウイルスの影響により、ライブ的にも制作的にも多大なる制限がかけられた、言葉通り最悪な1年となった。今回のトップ5組で言えば月に何本ものライブを行うことを心情としてきた弱冠20歳の錯乱前戦などは、おそらくは若者特有の猪突猛進ぶりが強制的にストップに追い込まれた関係上、やきもちする思いも強かったと思うが、中には新たなサウンドメイクにトライ出来たネクライトーキーなど、コロナがもたらしたある種のポジティブなクリエイティビティも広く見出だされるに至っていて、総じて「やはり音楽は良いなあ」と改めて感じることの出来た稀有な1年でもあったように思う。


今年の下半期は取り分けこの『コロナ禍の現在』を切り取る動きが多かったが、おそらく来年度は内容自体が『コロナ禍以後』に緩やかに変遷し、ポジティブな広がりを見せることだろう。今年も素晴らしい音楽を聴かせていただき、誠にありがとうございました。来年はコロナが収束し元の生活が戻るよう願いつつ、また新たな音楽と数多く出会えますようにと祈りを込めて。

個人的CDアルバムランキング2020[10位~6位]

こんばんは、キタガワです。


今月中旬よりマイペースに記述を続けた『個人的CDアルバムランキング2020』だが、早くも折り返し地点に突入。今回からはあまねくアーティストを抑え上位に君臨した、所謂トップ10の発表である。今回も例に漏れず、新進気鋭のシンガーソングライターや単独の道を選んだ少女、メジャーシーンを拒み続けるスタンドアローン、そして全楽曲がバラバラな曲調に振り分けられたバンドなどオリジナリティー輝く5組を厳選してお届け。選評や楽曲自体の完成度はもちろんのこと、アーティストの今年1年のバックグラウンドも合わせてお楽しみいただければ幸いである。

(20位~16位はこちら
(15位~11位はこちら

 

10位
世間知らず/しなの椰惠
2020年11月18日発売

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[ハッピーサッド的、言葉のナイフ]

令和の新時代に音楽シーンにひっそりと現れた謎のシンガーソングライター・しなの椰惠(読み:しなのやえ)。ミステリアスな彼女が放つ会心の一撃が、処女作『世間知らず』である。


記念すべき今作の幕開けを飾るのは、アコギとパーカッションによるダークネスな雰囲気が全体を覆い尽くす“16歳”。この楽曲には母親の蒸発や愛人の来訪という荒んだ家庭環境を経て高校卒業手前で退学届を提出するまでに至った彼女が音楽と出合い、唯一の存在証明たる歩みを進める赤裸々なリアルが犇めき合っている。言うまでもなく“16歳”は今回のアルバムのリード曲であり、メッセージ性の強い『世間知らず』全体の構成を揺るぎないものにしていることは間違いないが、この楽曲が広まる契機となったのはしなの椰惠本人が投稿したTikTok動画であることも、ある意味では時代と密接に絡み合った令和的な発信方法として称賛に値する。


“16歳”で描かれているように、今作に収録されている楽曲の大半は一聴するとあまりにショッキングな内容で、意識的に耳を痛める人は少なくないと推察する。ただその実、彼女の精神状態は総じて外向き……とどのつまり彼女の楽曲は言わば良薬口に苦し的な代物であり、無個性な自分に悩みながら生き抜く“駄目なあなたのまま”も、半絶縁状態となった父へ送る《あなたといつか笑い合いたいな。/そんな未来がくればいいな。》との一節で締め括られる“父の唄”も、“はじめてのキス”で歌われる彼女持ちの男性と関係を持った過去の自分でさえも、全ては素晴らしい思い出であると前を向き、華々しい未来へのメッセージとして昇華している。確かにしなの椰惠はTikTokで一躍ブレイクしたアーティストのひとりではあれど、フォロワーが次から次へと継続的に集まっていることはやはり、彼女が紡ぎ出す楽曲自体の魅力に他ならない。


アルバムは少女の自害やホームレスの孤独死、アイドルの希死念慮の果てに《そんな事より/昨日から奥歯が痛むの。》と一蹴する楽曲でもって幕を閉じる。タイトルはその名も“素晴らしい世界”。彼女が綴る言葉のナイフは、貴方にとって毒か薬か……。ただひとつ言えるのは、今作は世間の有り様を熟知している神経過敏な人間であればあるほど、心の底まで刺さる珠玉のメッセージアルバムであるということだ。

 


しなの椰惠『16歳』リリックビデオ


しなの椰惠『駄目なあなたのまま』(Official Video)

 

 

9位
浪漫/PEDRO
2020年8月26日発売

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[「消えたい」から「生きたい」への意識変化]

アイドルグループ『楽器を持たないパンクバンド』ことBiSHのメンバー、アユニ・D(Vo.B)によるソロ名義、PEDROのセカンドアルバム。思えばアユニはBiSHとして活動する中でも、そしてグループと平行してソロ活動をスタートした渦中においても『消えたい』という消滅願望が常に頭をもたげる、極めてネガティブな人間だった。実際ライブの舞台裏でも彼女が本心から笑う姿を映し出すことはほぼなく、かつてバラエティー番組に出演した際も基本的に言葉を発さず、更にはそうしたアユニの挙動を笑いに昇華しようと試みる出演者に対して睨み付ける一幕もあったように記憶している。


そんな中何よりの大きな変化として挙げられるのは、アユニの明らかな内情の変化である。世界の崩壊を臨んでいた彼女が一転“来ないでワールドエンド”を歌い、果ては《良いことは生きていないと起こらない》とする“感傷謳歌”、《一人より二人でいる方が楽しいなんて僕にとって/革命的なことなんだよ》とする“浪漫”と、ここ数年で彼女にどのような変化があったのかその実体は不明ではあれど、とにかくポジティブに振り切っている。サウンドについても彼女の変化した精神性に呼応するが如くのパンクサウンドの連続を貫いており、バラード曲……と言うよりはBPMの遅い楽曲自体が遂に1曲も存在しない、未だかつてなく歪んだギターが鼓膜を揺らすアルバムに仕上がった。


……自身を負け犬と呼び、徹底して大人に牙を剥き続けたアユニはその殻を完全に脱しつつある。以前こそ『BiSH>PEDRO』であった活動スパンは今年ついに『BiSH<PEDRO』となり、未曾有のコロナ禍にある渦中においても全国ツアーを実施。そして来年にはBiSHはおろか、大型事務所・WACK所属のアーティストの誰にも成し得なかった日本武道館にPEDROは挑む。……無表情で、寡黙で、普段感情を外に出さないアユニだが、秘めたる闘志はますます巨大化の一途を辿っている。そう。PEDRO史上最もパンクに彩られた今作『浪漫』は、何よりも今の彼女の精神性を強く映し出す珠玉の1枚となったのだ。

 


PEDRO / 感傷謳歌 [OFFICIAL VIDEO]


PEDRO / 浪漫 [OFFICIAL VIDEO]

 

 

8位
七転七起/ナナヲアカリ
2020年12月9日発売

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[ダメ天使からの飛翔]

前作『フライングベスト~知らないの?巷で噂のダメ天使~』の発売から約2年。その間のワーカホリックな活動が着実に実を結び、遂にここ2年間の楽曲を網羅した自身2枚目となるフルアルバム『七転七起(読み:ななころびななおき)』のリリースに至った。ナナヲは今回のアルバムタイトルについて、YouTubeライブにて「七回転んだら八回起き上がることが正義で、出来ない人が駄目で。それで克服を強いられて頑張るくらいだったら自分に丁度良い状態で生きている方が絶対良い」とその命名理由を語っており、ロックやポップなど様々な曲調の楽曲さえあれど「自分らしく生きてりゃそれでいいじゃん」との見解を全放出する、端的に言えば極めてナナヲらしいアルバムとなった。


特に今年は“チューリングラブ feat. Sou”の爆発的な流れがYouTube上を席巻したことから、ナナヲの世間的なイメージは『ネットシーン発のポップアーティスト』に尽きると思う。けれども今作収録のMVが制作されている楽曲以外はどうかと言えば、強いメッセージ性を帯びた楽曲が多数を占めている。この理由についてはやはり新型コロナウイルスの影響により全公演が中止となった全国ツアーへの思いによるところが大きく、彼女自身そうした未曾有の出来事が起こったことで、改めてファンに対しての感謝の思いと、更なる飛躍を胸に秘めることが出来たとかつての配信ライブで語っていた。確かにナナヲの楽曲の大半は彼女自身のものではなく、ある程度名の知れたソングライターが手掛けた代物だ。ただ今作ではナナヲ自身が赤裸々に思いを綴った楽曲も多く存在し、その全てがネガティブな中にポジティブが混在する作りとなっている点において、カメレオン的に姿を変える彼女のボーカル然とした魅力と、決して揺るがないナナヲ自身の思いが相互的に作用したアルバムと言える。


かつて“ダダダダ天使”で鮮烈なデビューを飾ったナナヲ。そんな彼女の楽曲イメージを端的に表す代名詞として幾度も用いられてきたのが、上記の『ダメ天使』というフレーズであり、実際昨年ランクインを果たしたミニアルバム『シアワセシンドローム』においても、幸せの意義や時折襲い来る悲観的な感情に精神を疲弊するナナヲの弱い内面をぐちぐちと記すネガティブな楽曲が並んでいた。けれども今作は、それとは全く異なる代物。長らく飛翔を躊躇い続けてきたダメ天使は、遂に大空へと飛び立ったのだ。

 


チューリングラブ feat.Sou / ナナヲアカリ


Higher's High / ナナヲアカリ

 

 

7位
やっぱり雨は降るんだね/ツユ
2020年2月19日発売

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[心はいつも雨模様]

インターネットシーンで注目を集める謎の音楽ユニット・ツユのファーストアルバム。なお現状「ツユは出来る限り個人の力で大きくしていきたい」とするぷす(G)の強い意向によりメジャー行きを徹底的に拒んでいる関係上、今作は完全自主制作。事務所やレーベルとは契約を一切結ばない形でのリリースとなる。


今作『やっぱり雨は降るんだね』に収録されている楽曲はBPMは基本的に速く、速弾きを多用するぷすの性急なギターサウンドに礼衣(Vo)が圧倒的な言葉数で追随するものが大半を占めている。かつてボーカロイドプロデューサーとして活動していた時代の音像を踏襲し息継ぎの間さえほぼ存在しないツユの楽曲は、言うなれば機械的なボーカルを用いて初めて成し得る難易度の高さ。しかしながらそこにはぷすが自身のツイッターアカウントにて「ツユの曲の難易度は多分日本トップレベルだと思うんだけど、それを当たり前のように歌いきる礼衣はガチで特別な人間だと思う」と綴っているように、ぷすが提出する楽曲の全てをそつなく歌いこなす礼衣との相互的信頼があってこそ。


そしてメランコリックなロックサウンドに乗って綴られる歌詞が徹底した自己否定であることも、ツユが若者を中心に大きなバズを巻き起こした要因のひとつ。……自身の性格を大きく変えることは不可能であり、長い人生を生きるにはとどのつまり『許容する以外の解決策は存在しない』という事実を音楽を通じて痛烈に突き付ける、言葉を選ばずに言えば、音楽の体を成した誘導尋問、はたまた自傷的なショック療法が今作『やっぱり雨は降るんだね』の随所には秘められている。思えば「一緒に頑張ろう」と激を飛ばす音楽こそ数あれど、ネガティブな内容を限界まで吐き出した上で何も解決せずに終わる音楽というのは、特にインターネットシーン発のアーティストとしては稀有なのでは。


実際、YouTube上で凄まじい反響に満たされた“くらべられっ子”や開幕を飾る表題曲の広がりを見ると、消滅願望と希死念慮が同居する心中をロックを通して具現化する今作は、結果としてSNSの発達により日常的な他者比較に直面し、常に絶望に支配される鬱屈とした若者に刺さる傾向にあるようだ。「死ねないなら生きるしかない」という悲しき真理を歌い続けるダークヒーロー・ツユ。なお今作リリース直後には早くも新たな楽曲がYouTube上で公開され、ダークネスな内容に共感する声は止む気配すらない。来年以降のツユの更なる活発化は、およそ確定事項と言えるだろう。

 


ツユ - くらべられっ子 MV


ツユ - やっぱり雨は降るんだね MV

 

 

6位
Notes on a Conditional Form/The 1975
2020年5月27日発売

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[今だからこそ鳴るべき1枚]

ロックの救世主ことThe 1975の4作目。2月→4月→5月とリリース延期を繰り返し、CDジャケットのデザインも当初予定されていたきらびやかなものから無機質なものに変貌。収録曲についてもどんどん増えていき、結果的には何と22曲もの楽曲が収められるに至ったのが、今作『Notes on a Conditional Form(仮定型に関する注釈)』である。


何より驚くのがその内容。昨年のSUMMER SONICでは一升瓶の日本酒をライブ中に何度もあおり、何度も地面に倒れてしまう自傷的なパフォーマンスに終始していたマシュー・ヒーリー(Vo.G)だが、彼の不安定な精神状態は今作でピークに達している。まずは17歳の少女、グレタ・トゥーンベリによる演説が約5分間に渡って続く“The 1975”でよもやの開幕を飾ると、今までのバンドイメージを完全に崩壊させた奇曲“PEOPLE”で血管がぶち切れるレベルの絶唱を響かせる。かと思えば打ち込みオンリーの楽曲、音声を機械で変化させたバラード、弾き語り、果ては過去作品における楽曲のマッシュアップなど曲調はバラバラで、綴られる内容に関しても同じく地球温暖化、セックス、同性愛、ドラッグ、政治、人生讃歌と一貫性がない。躁から鬱、鬱から躁、そして躁の中に鬱が内在する場面の多々ありという全22曲をどう定義するかは非常に難しいが、ある意味では今までにないレベルで人間味溢れるアルバムとなった。


このアルバムの好評価に拍車をかけたのが、皮肉なことに新型コロナウイルスの存在だった。コロナウイルスの影響で今年の夏に行う予定で動いていた来日公演はキャンセル。感染拡大は今なお続いている(彼らの住むイギリスは今月20日にロックダウンを開始)。我々は当たり前と思っていた日常が実際は当たり前などではなかったということを、この1年で嫌と言うほど痛感したはずだ。そして海外ではありとあらゆる事柄に目を向けつつ積極的に意見を投じた今作が結果的に、コロナ禍に届けられた奇跡のアルバムとして取り上げられている。


アルコール依存に躁鬱、ライブ中に観客の男性にキスをしたことから巻き起こったドバイ入国禁止問題、ツイッターアカウント削除、FKAツイッグスとの熱愛報道など、今作制作中は特にマシューが様々なスキャンダルに翻弄された厳しい期間でもあったが、それでも『今自分の歌いたいことを歌う』とのスタンスは変わることなく、むしろアップデートを続けている。全22曲の今アルバムを締め括るのは、バンドメンバーとの友情を歌う“Guys”。MVでは楽しげなヒストリーの果てにロックダウン中の自室で無表情でカメラを向けるマシューの姿が映し出され幕を閉じるが、直前に歌われている内容が《初めて僕らが日本に行った時が 人生で起きた最高の出来事だった》とするグッとくるメッセージであることは、最後に付け加えておきたい。

 


The 1975 - People (Official Video)


The 1975 - Guys (Official Video)

 

 

……次回は遂に最終回、待ちに待った5位~1位までの発表である。未曾有のコロナ禍により鬱屈とした2020年、最も印象深く映ったアルバムは一体どのアーティストなのか。乞うご期待。