キタガワのブログ

島根県在住。音楽ライター。酒浸り。

映画『ひとよ』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

 

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今回鑑賞した新作映画はこちら。『ひとよ』である。


非常に印象的なタイトルでも話題を呼んだ『ひとよ』だが、実際は『人よ』ではなく『一夜』……。つまりは一つの夜をきっかけにして起きた出来事とその後の生活について、徹底的に掘り下げる作品となっている。


そんな一夜の事件とは、殺人の中でも極めて罪が重いとされる『家族殺し』だ。15年前にとある家庭で殺人事件が発生した。殺されたのは父親。殺したのは母親で、3人の幼い子供がいた。この映画での重要な部分は、この殺人が『子供たちを守ろうとして行われた苦肉の策であった』ということ。そう。母親は常に暴力を振るい続ける父親を殺すことが子供たちの幸せに繋がると判断し、『考えうる最善の行動』を取った。それこそが殺人だったのだ。


結果的に母親は、15年間もの間留置場で暮らすこととなる。だがそれぞれの生活を送る3人の前に15年後、釈放された母親が現れた……。あらすじとしてはこのような具合であろうか。


この映画で主に描かれるのは犯罪を犯したらこうなるというあまりにも悲しい現実だ。


もしも家族に殺人者がいたら……。読者の皆様はこの絶対に起こり得ないはずの非現実的なことについて、真剣に考えたことはあるだろうか。


少し話は脱線する。神戸連続児童殺傷事件(通称・酒鬼薔薇聖斗事件)では残された両親が数億円規模の賠償金を背負い、世間から大バッシングを受けた。秋葉原無差別殺傷事件を引き起こした加藤智大の実兄は自殺した。彼が死の間際に書いた遺書の一部分には、以下の言葉の数々が書かれていたという。


「被害者家族は言うまでもないが、加害者家族もまた苦しんでいます。でも被害者家族の味わう苦しみに比べれば、加害者家族のそれは遥かに軽く、取るに足りないものでしょう」


「『加害者の家族のくせに悲劇ぶるな』、『加害者の家族には苦しむ資格すらない』。これは一般市民の総意であり、僕も同意します。ただそのうえで、当事者として言っておきたいことが一つだけあります」


「そもそも、『苦しみ』とは比較できるものなのでしょうか。被害者家族と加害者家族の苦しさはまったく違う種類のものであり、どっちの方が苦しい、と比べることはできないと、僕は思うのです」


……そう。殺人は本人だけの問題ではない。親戚や知り合い、職場といった様々な場所に拡散し、家族全体を生きにくくさせてしまうのだ。『ひとよ』の主人公は3人。母が殺人を犯した結果、3人はこの15年の間全員犯罪者の子供であることを刻み込まれながら生活してきた。そして15年越しに母が帰ってきたことから、また新たな火種が噴出することとなるのだ。


この映画は間違いなく万人受けはしないだろうし、例えるならば『徹底的にダークな万引き家族』とも言うべきシナリオに仕上がっている。そして上で語ったように『犯罪を犯した人間の家族は100%こうなるぞ』というある種悲劇的な、しかしある意味では絶対に避けられないリアルが襲い掛かってくる。正直上映中は胸が抉られる思いに駆られたほどだ。


『ひとよ』の没入度は、そんじょそこらの映画とは比較にならない。何故なら『大切な家族が殺人を犯した』とイメージするだけで、誰しもが3人と同じ境遇になれるからだ。だからこそこの映画は心に刺さるし、精神的にダメージを負うし、感動的に映る。


『ひとよ』には、映画でしか体験できないリアルがある。もしもこの映画を「クソ映画じゃん」と一蹴する人間がいるとすれば、その人はきっと人生が輝いている人なのだろう。


ストーリー★★★★☆
コメディー★☆☆☆☆
配役★★★☆☆
感動★★★★☆
エンターテインメント★★★☆☆
家族度★★★★★

総合評価★★★★☆
(2019年公開。映画.com平均評価・星3.9)

 


映画【ひとよ】予告 11月8日(金)全国公開

ブログ運営を辞める人、辞めない人の差

こんばんは、キタガワです。


先日、ブログ開設からちょうど2年の歳月が流れた。しかしながら2年前と特に変化があるわけではない。相も変わらず記事を執筆し、チョコチョコと更新し続ける日々である。


けれども変わっていないのは自分自身だけの話だ。思い返すとこの2年間、読者登録をしていた人間や相互フォローで境遇を分かち合ってきたブロガーが、引退する場面を目撃する機会が増えてきたようにも思う。


正確には「引退します!」とはっきり公言して辞めていく人間というのはごく稀。大半の人間は何の音沙汰もなく蒸発し、いつの間にか見掛けなくなる。


個人的な一例を挙げるとすれば、当ブログの読者数は26人(2019年11月20日現在)となってはいるものの、その中で定期的に記事を更新している人間はほとんどいない。ギリギリ生き延びているブロガーでさえ1週間に1回程度、思い立ったようにポツポツと更新するのが実状である。


さて、そんな訳で今回は『ブログ運営を辞める人、辞めない人の差』と題し、何故ブログを挫折するひとが多いのか、実際の僕の実例を元に紐解いていきたいと思う。


今回の記事がブログに夢見る盲目な人間や、今現在ブログ運営に悩んでいるブロガーにとって、何かしら考えるきっかけになれば幸いである。

 

結果が出ない(お金・閲覧数)

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ブログというのは世間一般的に『稼ぎやすい』と思われがちな行動のひとつだ。だがそんなハッピーエンドを吹聴しているのはブロガー・ピラミッドの頂点に君臨する者のみで、実際は『ブロガー』と名乗るだけで底辺を這いずっている人間の方が圧倒的に多い。だからこそ安易な気持ちで手を出すと、早い段階で必ずや理想と現実のギャップに打ちのめされることだろう。


基本的にブログを始める人間というのは、2種類しかいない。自己承認欲求の極めて強い人間か、アフィリエイト等で収入を得ようと画策している人間である。


しかしながらそもそもブログというのは、当然の如く読まれなければ話にならない。とどのつまり、ある程度有名になって初めて、ブロガーとして認められるのだ。


ここで一旦、収入面の話に移ろう。ブログの収入というのは、YouTuberといった媒体とは違って非常にシビアである。YouTuberは動画を再生した瞬間に強制的に広告が表示されるため、1再生につき100%の収益が確約されるが、ブログは記事中の広告をクリックされて初めて収益が入る計算。よってただ単に閲覧者が多いブログであっても、収入が比例することは絶対的にない。


事実僕はこのブログを2年以上に渡って続けている身だが、この2年間での収入は僅か1万円足らず。そう。2年で1万円である。日当で換算すると1日あたり13.6円だ。カイジの地下帝国ばりの超低賃金である。


約2年、がむしゃらにブログ運営を行ってきた僕でさえこの有り様だ。ずぶの素人である人間がブログを開設したとて、日常生活の足しに成り得る収入を得られるはずがない。だからこそ、ブログ開始前にブログに対する夢や理想が大きければ大きい人ほど、挫折するスピードも早い。


自己顕示欲の強い人間に至っては、更に悲惨な末路を辿ることとなる。ブログは総じて「好きなことだけ書きます!」では話にならない。流行にひたすら敏感に、かつ読者にとってためになることをしっかりとした文字数と文章構成でもって、それらを量産する必要があるのである。


開始時こそ「やったるぞ!」と意気込んで毎日更新を心掛けても、1ヶ月もすれば「俺何やってんだろ……」と落胆と寂寥に飲まれること請け合い。ブログのみならず何でもそうだが「楽に金が手に入る」などという世迷い言は全部嘘であるか、運よく大成した一握りの人間の感覚だ。凡人が信じてはならない言葉である。

 

そもそもブログをやるべき人間ではない

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続いて提唱したいのは『そもそもブログをやるべき人間ではない』というもの。


繰り返すが、ブログ運営は継続すれば継続するほど、自身が事前に思い描いていた理想と現実のギャップに苦しめられる。だからこそ、結局のところは『ブログをやるべき人間』か『そうでないか』の2択に収束するのが必然なのだ。


『ブログをやるべき人間』というのは、要するに『ブログをやるしか脳がない人間』のことを指す。あなたが映画よりもゲームよりも、食べ歩きや友人と酒を飲んで談笑することよりも、自身がやりたい最優先事項として『ブログ』がある人間なのであれば、絶対にブログをやるべきである。もちろんブログ運営を続けるうち、数々の困難も待ち受けている。だがそれに勝る思いとやる気があれば、どんなことでも立ち向かっていける。おそらくは今有名になっているブロガーは全員がそうした人間であるだろうし、だからこそブログをやっている。


後者の『そうでない人間』は、端的に言えば『別にブログをやってもやらなくてもどちらでも良い人』だ。日本に生きる99%の人間はこの部類に入る。


……だからこそ安易にブログを始めた結果挫折し、諦めた大半の人間は、その中間に位置する行動をとる。つまりは『有耶無耶』である。


大っぴらに「ブログ辞めます」と公言して辞める人間が少ないことを冒頭で語ったが、考えてみれば簡単だ。中間の行動を取る人間は、テレビゲームやアプリ等と同様で「ちょっと飽きちゃったな」、「ちょっとやる気が出ないな」といった思いのままズルズル行ってしまい、最終的には積みゲー状態となっているのだ。


おそらくそうした人にとっては、ブログは特にやるべき行動ではなかったのだろう。そうした人はゲームや飲み会などの『タノシイ行動』でもって、勝手にブログの代替を図れば良い。どれだけ意気込んで金を稼ごうと思ったとて、自分の心の底から『ブログ』という文字が埋もれてしまった瞬間、ブロガーとしての精神的な道は絶たれてしまったも同然である。

 

終わりに

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ここまでいろいろと語ってきたが、僕個人としては知っている読者や知り合いがブログを辞めようが諦めようが、特に何も思わない。むしろブログをせずに生きていけるならその方がいいし、辛い思いをしながら惰性でブログ運営を続けるくらいならスッパリ辞めて、FXなりゲーム実況なり、稼げそうな新たな道を模索した方が有意義なものとなるだろう。


正直自分自身も、何故こんなにも金にならないブログを2年間に渡って続けてきたのか、その理由については分からない。しかしながらただひとつ確かなことがあるとするならば、『ブログに過度な期待をしていない』ためではなかろうかと思う。


ブログ開設当初こそ糸をピンと張り「頑張ろう!」と一心不乱に記事を書いてきたが、その過程で理想を打ち砕かれ、ブログ以上に大切なものを見付け、今では日常的執筆活動の場としてブログを活用し、フラットな気持ちで向き合っている。だから続けられるし、やり甲斐もある。


一度貴方の脳内で問いかけてみてほしい。「一生ブログ書く自信はありますか?」と。もしも少しでも悩んだりたじろいでしまったら申し訳ないが、貴方はブログ運営に向いていない。そんな貴方を必要とする別の道がどこかにあるはずなので、それを探すことに時間を使ってほしい。


言葉は悪いが、ブログを継続して行うことの出来る人間というのは総じて社会不適合者、またはクレイジー野郎である。


今回の記事で現実を知り「ブログ辞めよう」と思った人。今までお疲れ様でした。それとは対照的に「それでもブログやりたい!」と思った人。多いに歓迎する。共に辛酸を舐め、泥を啜り、底辺の中の底辺で頑張っていこうではないか。エイエイオー。

【ライブレポート】美波『TURQUOISE2019⇆2020 ONEMAN TOUR』@広島セカンドクラッチ

こんばんは、キタガワです。

 

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11月3日、広島セカンドクラッチにて美波によるワンマンツアー『TURQUOISE2019⇆2020 』が開催された。


今年は楽曲のひとつがアニメのOPテーマに抜擢され、それを起爆剤として『ライラック』や『main actor』といった過去の楽曲にもスポットが当たったことから一躍ネットシーンの中心へと躍り出た美波。そんな今回は前回の『カワキヲアメク ONEMAN TOUR』から約半年ぶりとなる全13都市、15公演を回る大規模なツアーである。


しかしながら今回のライブは、正直どのようなセットリストとなるのか一切予想がつかないものでもあった。何故なら過去に発売されたミニアルバム『Emotional Water』、ファーストシングル『main actor』は全て完売しているため、現状聴くことが出来る正規の音源はシングルカットされた『カワキヲアメク』に収録されている4曲のみ。加えて彼女の昨今のツイッター上では新曲を予感させる歌詞を発信をしていたりと、ニューモードの美波も顔を覗かせていることは明らか。そう。今回のライブは『TURQUOISE2019⇆2020 』と題されていることからも分かる通り、総じて現在と未来の美波を体現するライブとなった。


音楽のあるべき姿を取り戻すため『勘弁してくれ時代の波』との言葉をキーワードとして活動している美波らしく、会場には波の音が静かに流れ、心地良いムードを形作っている。しかしながら背後から時折聞こえる「前に詰めてください!」というスタッフの声と共に我に返ると、周囲は大勢のファンでぎゅうぎゅう詰めだ。今回のツアーは全公演が完全ソールドアウト。必然リラクゼーションミュージックのようなBGMとは裏腹に、次第に熱気が高まってくる感覚に陥る。


開演時間を5分ほど過ぎると、淡い照明の中今回のライブのサポートメンバーである角本雄亮(Dr)とcoba84(key)がステージに降り立つ。冒頭こそcobaのピアノのみの演奏でじっくり聴かせていたものの、次第に角本による力強いドラムが参加しての二人三脚のジャム・セッションに変貌。徐々に会場を温めていく。


その大塚巧(Gt)となんぶし(Ba)、そして美波(Vo.Gt)が登場。この段階では照明は点いてはいるものの未だ暗く、メンバーの表情は伺い知れない。


ギターを構えてメンバーと目配せした美波。瞬間、目映い光が会場を包み込む。ライブはシングル『カワキヲアメク』収録の『Prologue』でもって、華々しく幕を開けた。


〈今日も歯を食いしばって 何のために生きればいいの?〉

〈次までは 次まではって 追い込むことで成り立ってきたの〉

〈ああいいよなあ お前はいいよなあって〉

〈君って 僕って 迷って 未完成品 プロローグ〉


『Prologue』は開幕に相応しい、ロックテイスト全開のファストチューン。その激しいサウンドもさることながら、美波の感情を乗せた喉が枯れんばかりの絶唱が、壮絶な現実味を帯びて会場に降り注いでいく。


メディアでは一切素顔を見せることのない美波の風貌は、金髪に白シャツ、黒ズボンという極めてボーイッシュな装い。更には「かかってこいや広島!」、「後ろの方が(声が)デカいぞ!」と焚き付けるように叫ぶ場面も多々あり、彼女がいちミュージシャンとして確固たる信念を持ってこの場に立っていることを、まざまざと思い知らされた。

 


美波「ホロネス」MV


その後は『ホロネス』、『Monologue』と比較的ロック色の強い楽曲で魅了すると、ここで角本を除いたサポートメンバーは楽器を持ってステージを降り、ステージ上には美波と角本のみに。


スタンドマイクすら撤去される中、ステージの中心に設置された椅子に美波がゆっくりと腰掛ける。そうして始まったのは『水中リフレクション』と『先生、あのね』だ。


キーボードの柔らかな調べに乗せ、真っ白なマイクを介して歌う美波はまるで泣いているかのように声を絞り出して歌う。その姿はまるで演劇の一場面を見ているようでもあり、端的に表現するならば『感情移入型の歌手』と言ったところ。


中でも完全なるアカペラで歌われた『水中リフレクション』での「なぜ笑うのです?泣けばよいでしょう」の一幕は心をギュっと掴まれる感覚にも陥り、終了後にはっと思い出したように送られた疎らな拍手は、彼女の吐き出したメッセージがいかに集まった観客の心を打ち、また共感を得ているのかを、何よりも雄弁に証明していたように思う。


新曲『アメヲマツ、』後は大塚によるMCへ突入。今回は新メンバーを加えての初の広島公演ということもあり、まずは各自が「今まで広島に何回行ったのか」をテーマに、他愛のないトークを展開。加えて今年3月に広島で行われた『カワキヲアメク ONEMAN TOUR』に触れ、今回のライブとも総合して改めて広島に住むファンの熱量が凄まじいことや、この日のライブがいかに楽しいものなのかを、ファンと共有しながら熱弁していく。


今年は間違いなく美波史上最も爆発的に人気を博した年であったと言えよう。人気アニメの主題歌として起用された『カワキヲアメク』に端を発し、現在では公式動画は僅か4本しか公開されていないにもかかわらず、総再生数は8000万回超と驚異的な広がりを見せている。


このMCにて「このライブハウスでやるのは3回目」と美波は語っていたが、正直現在の美波の人気を鑑みるに今回会場に選ばれたライブハウスは明らかに狭く、一見今の人気とは釣り合っていないようにも思える。しかし美波の行動理念は数年前から一貫して変わらない『良い歌を作って全国に届ける』というものであり、それは会場がどれだけ大きくなろうとも、関係ないのだ。


事実『水中リフレクション』や『先生、あのね』といったピアノと歌のみで進行するライブならではのアレンジが施された楽曲群は小さなライブハウスに相応しい世界観を構築していたし、アッパーな楽曲では終始「オイ!オイ!」のコールが鳴り止まなかったりと、総じて「今日のライブは全編通して最高だった」と心から思えた一夜だった。


そして「ここから後半戦です。盛り上がって行けますか!」と大塚が観客に問い掛けて始まったのは『カワキヲアメク』だ。

 


美波「カワキヲアメク」MV


〈もういい ああしてこうして言ってたって 愛して どうして? 言われたって〉

〈遊びだけなら簡単で 真剣交渉無茶苦茶で〉

〈思いもしない軽(おも)い言葉 何度使い古すのか?〉


イントロの時点で大歓声に湧いたそのフロアの中心を、孤独を孕んだ言葉の数々が切り裂くように響き渡っていく。『カワキヲアメク』は前述したように全体の言葉数が多く、声を張り上げる箇所も多数存在するため歌唱の難易度は極めて高い。しかしながら美波は息が続かなくなりそうな場面は精神力でカバーし、髪を振り乱しながら鬼気迫る演奏を繰り広げるなど、ライブならではの肉体的なサウンドに昇華。今回のライブにおけるひとつのハイライトとも言える盛り上がりを見せた。


その後は「代わって、化わって、変わってよ」との歌詞が印象的に響いた新曲『ヘナ』、美波が「跳べー!」と絶叫して突き上げられる拳とタオルが入り乱れた『ライラック』と続き、この日何度目かのMCへ。

 


美波「ライラック」MV


「ライラック凄かったね。あんなに盛り上がってくれたの初めてかも。3公演目だけど、トップかな」と美波がクールな笑顔を浮かべながら語る。気付けばサポートメンバーは全員ステージを降りており、ステージには美波ひとりになっていた。


しばらく無音の時間が続き、美波が再びゆっくりと語り始める。それは美波が今まで決して表沙汰にはしてこなかった、注目度の上昇と共に膨らみ続けた内に秘めたる思いであった。


「私がまだ高校生の頃、お客さんが0人のフロアで歌っていたりして。終わった後はずっと楽屋で泣いてました」


「2公演終わってさ。正直ボロボロだったんだよ。何か私、だっせーなって思って……」


「最近悩むことが多くなって。だれかと比べられたりとか、周りの人たちから『美波は○○っぽい』って言われたりとか。美波は美波なんだけどなあとか。私は私なんだけどなあとか。いろんなことを考えてました」


「今学生だよって人もこの中にいると思うけど、本当に大変だなって思います。勉強とか部活とか、プライベートとか。いっぱい悩むこともあると思います。でもそれはあなたが今を変えようと、頑張ろうとしているからです」


ミュージシャンには2種類いる。音楽は音楽・自分は自分とはっきり割り切っている人間と、音楽=自分自身であり、音楽を作り続けなければ自己が保てない人間だ。その中で美波は間違いなく後者の人間であり、音楽はその時々で彼女自身を説き伏せ、前進させる役割を担ってきた。しかし彼女は同時に、音楽への思いが強すぎるが故の葛藤と悩みも、人一倍経験してきた。


特に昨年は、自身初となるメジャーデビューに伴う悩みから最後まで歌えない状態になってしまったり、体調不良によりライブ自体が中止となったり、過去には弾き語りの生放送中に涙を流したこともあった。詳しい理由については明言されていないものの、過去と現在の痛みを赤裸々にぶち撒けるような彼女の楽曲を聴いていると、それらは全て彼女にとって音楽という存在があまりにも大きすぎるゆえ、その重みに耐えきれず潰れてしまったひとつの例であったとも思うのだ。


MC中、美波の瞳は濡れていた。しかしそれでも過去と現在の自分を照らし合わせながら、一言一言言葉を紡ぎ、思いの丈を美波は集まったファンに届けていた。もちろん今回語られた一部始終だけでは、美波の音楽生活の全てを理解できたとは言い難い。だが総じてこの数年間の彼女がどれだけの思いで音楽と向き合い、また苦難の日々を送っていたのかを、知ることができた瞬間でもあった。


「今日は、前を向くためにこの歌を歌います」と語って始まったのは、『main actor』。

 


美波「main actor 」MV


〈ひとつだけ ひとつだけ ひとつだけ ひとつだけ〉

〈僕がここにいる証明を〉

〈僕にしか 僕にしか 僕にしか 僕にしか〉

〈出来ないことの証明を〉


美波は時折声を震わせながら、アコースティックギターの弦が切れそうなほどの力強いストロークで、自身の全てを出し尽くそうと言わんばかりの気迫で魅了していく。後半にかけては歌詞の一部分を絶叫したりフラついたりしながら、限界突破のパフォーマンスで圧倒。周囲には涙を流す観客も多数見受けられた。もはや『main actor』は美波だけの歌ではない。同じように辛い悩みを抱える若者たちに徹底的に寄り添った、讃美歌のような壮大さで鳴り響いていた。


『main actor』後はサポートメンバーが三たび配置に付き、本編最後に披露された楽曲は『フライハイト』と名付けられた新曲だった。


『フライハイト』は今回演奏した楽曲で例えるならば『ライラック』に似た、爆発的なロックナンバー。美波は「おい!そんなんで良いのか!最後だぞ!」と観客を焚き付け、出し惜しみなしの完全燃焼を図る。加えて落ち着いたサウンドに変化して行われた後半の「しょうもなーいぜー」、「タラッタラー」から成るコール&レスポンスの一体感は筆舌に尽くしがたいものがあり、今後美波のライブを語る上での新たなキラーチューンになる印象を受けた。


ステージを去った後、自然発生的に巻き起こされた「みーなーみ!」コールで舞い戻った美波とメンバーたち。美波は大歓声に沸く観客を眺めつつ「ヤバいね。バイブス高めで良いですね」とご満悦。


なお美波は広島カープのユニフォームを身に纏っており、「せっかくのアンコールなんで、カープ女子になりたかった」と思いを吐露するも、直後に自身が構えたギターとユニフォームが全く同じ赤色であることに気付き「服もギターも赤……」と笑いを誘う。


するとおもむろにギターをストロークした美波は「カープ、カープ、カープ広島……」と『それ行けカープ』を披露するこの日ならではのサプライズが。しかしながら美波はサビ以外はほぼうろ覚えの状態らしく、他のメロ部分は曖昧な発音と鼻歌で力技で進行していく。最終的には観客が残りの歌詞をサポートしつつ、角本のドラムも加わって大盛り上がりで終了。


その後は1年刻みでこの日集まった観客の年齢層を把握。15歳から20歳までのファンが最も多かったことや、最年少は中学校2年生のこどもであることを確認し、全員で拍手喝采。美波も「こんなにいろんな年代の人たちに聴いてもらえて嬉しいね」と嬉しそうだ。


しばらくゆったりとした語り口で言葉を紡いでいった美波だが、すうっと息を吸うと、その後は決意を秘めた面持ちで語り始める。


「美波は来年、第二章に行かなければなりません。アンコール、1曲だけやります。……って言ってもさっきもやったんだけどさ。この曲だけは絶対に覚えて帰ってほしいから」


「ありがとう広島、絶対忘れない。また絶対帰ってくる。お前ら忘れるなよ!」と叫んで始まったのは、この日2回目となる新曲『フライハイト』だ。


美波は「来れんのか?来れんのかって!もっと来いよ!」と今まで以上に観客を煽り倒し、目をひんむきながらの渾身の絶唱でもって、フロア全体が揺れに揺れた。何よりも印象的だったのは、観客の絶大な盛り上がりだ。それは『フライハイト』がこの日2回目の演奏となったことも理由のひとつではあるが、何より第二章へと歩を進めようと未来を見据えた美波への無意識的な祝福のようにも感じられ、感動的に映った。


事実コール&レスポンスも本編よりも数倍大きな声で、多数の「オイ!オイ!」コールでもって新曲であることを感じさせない、言うなればライブで何度も披露されているキラーチューンのような天井知らずの盛り上がりを記録。美波の第二章が輝かしいものとなることを約束させるように響き渡った。


演奏終了後は「ありがとうございました!」とステージを去った美波とメンバーに観客は割れんばかりの拍手を送り、大団円で幕を閉じたのだった。


今年の音楽シーンは、取り分けインターネットを中心に大きな広がりを見せた。ずっと真夜中でいいのに。、Eve、三月のパンタシア、花譜……。年齢も風貌も一切不明な謎のアーティストが台頭する、いわば音楽の新時代に突入した感すらある。


そんな中、何故美波はここまでのブレイクを記録し、今を生きる若者の代弁者たる役割を果たすまでに至ったのか。その答えが、今回のライブには如実に表れていたように思う。


美波の発するメッセージは現代の若者と完全にイコールではないにしろ、似通った部分が多数見受けられる。今の若者はSNSの発達に伴った人間関係の複雑さでもって、孤独感を抱きやすいと言われている。今回のライブで弾き語りの形で披露された『水中リフレクション』や『main actor』といった楽曲に顕著だが、美波の楽曲では上手く生きられない人間の悩みや葛藤、疎外感が等身大で描かれる。それは美波自身が経験した紛れもないリアルなのだろう。


だからこそ、彼女はここまで多くの若者に愛されると思うのだ。血を吐かんばかりの熱量で歌いながら、叫びながら若者の心の叫びを代弁する美波は、今後も同じように悩みを抱える人間に寄り添い、心を解きほぐしていくだろう。


悲壮、孤独、怒りといった様々な感情が爆発した、素晴らしいライブであった。来年に訪れる美波の第二章は、きっと光輝いている。


【美波@広島 セットリスト】
Prologue
ホロネス
Monologue
水中リフレクション
先生、あのね
アメヲマツ、(新曲)
カワキヲアメク
ヘナ(新曲)
ライラック
main actor
フライハイト(新曲)

[アンコール]
それ行けカープ
フライハイト(新曲)

紅白歌合戦の初出場組の面々に感じた、『今』の音楽時代

こんばんは、キタガワです。

 

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先日、今年の紅白歌合戦の出場歌手が発表された。


毎年リーク情報がインターネット上で錯綜したり、予想外だの何だのと揶揄される紅白歌合戦。結果としては今年も例年同様の騒動めいた事象はあったものの、最終的にはいつもの紅白の発表と相成った。


何より驚きなのは、その顔ぶれだろう。


SEKAI NO OWARI、Sexy Zone、三代目 J Soul Brothersといった長年紅白歌合戦を彩ってきたアーティストは軒並み落選。それだけに留まらず、今年は特にお茶の間に広く鳴り響き、より一層のブレイクを期待されたはずのあいみょんやIZ*ONE、米津玄師といったネクストジェネレーションを代表するアーティストもおらず(おそらくあいみょんと米津玄師は自分から出場辞退したのだろうが)、例年になく物寂しさが残る結果となった。


そんな中注目したいのが、今年初出場となる面々だ。


間違いなく今年最もバズったと言われるOfficial髭男dismとKing Gnuを筆頭に、完全に出場のタイミングが1年遅れたFoorinがハレルーヤ。坂道グループからは満を持しての最後の刺客、日向坂46(元けやき坂46)が紅白内定を勝ち取った。更にはGENERATIONS、Kis-My-Ft2といった男性アイドルグループや、おそらく世間一般的は完全なる大穴だったであろうLiSAと菅田将暉という男女それぞれのソロアーティスト……。近年稀に見る異種格闘技ばりの様々なアーティストが集結した。


さて、今回は流行やオリオンチャートの奥の奥。3つの独自の視点から、主に初出場組に焦点を合わせながら紅白歌合戦を切っていこうと思う。


それではどうぞ。

 

 

何だかんだ米津

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僕は今年の3月に『米津玄師は宗教だ』という記事を執筆し、その最後に「今年の紅白で米津玄師繋がりで出場するのは何組だろう?」と書いた。


思えば2017年のあたりから、米津の勢いはある種宗教じみたものを感じるほどに留まることを知らなかった。音楽業界のみならず日本全体が米津が呟いた言葉の数々に翻弄されている感すらあり、そうした実情を危惧した当時の僕が思いの丈を爆発させた結果、それが『米津玄師は宗教だ』という色々とひん曲がった記事として帰結してしまったのである。


しかしながら、一度冷静に考えてみてほしい。今の日本の音楽シーンは読者の皆様方が思っている以上に、何だかんだ米津玄師1強時代なのだ。


米津自身の楽曲は“すべて”、某動画サイトにて5000万再生以上を記録。中には1億再生、4億再生なんてものもある。そして彼が手掛けた楽曲も軒並みブレイクを果たし、流行の中心へと躍り出ている。中田ヤスタカの『NANIMONO』。DAOKOの『打上花火』。Foorinの『パプリカ』。菅田将暉の『灰色と青』と『まちがいさがし』……。今まで世間一般的に見向きもされていなかったはずのアーティストたちが、米津の楽曲によってみるみるうちに名が知れ渡り、知名度を高めていった。


それは確かにアーティストとしては喜ばしいことだけれども、個人的には若干の怖さも感じさせる部分もあった。そしてそれは今年の紅白歌合戦にて、現実のものとなったのだ。


まず今回の紅白歌合戦の初出場組であるFoorinと菅田将暉が歌う楽曲はほぼ100%、米津が作詞作曲を務めた『パプリカ』と『まちがいさがし』である。そして僕の記憶が間違っていなければ、確かKing Gnuが大ブレイクを果たしたのも米津がツイッター上で「今一番オススメのバンド」としてプッシュしていたのがきっかけだった(特にKing Gnuは米津がオススメしてから、本当に驚くほど有名になった)。


こうして例を挙げただけでも、今年米津繋がりで紅白内定を獲得したのは間接的なものも含めて3組。そして昨今のリリース状況とオリオンチャートを鑑みるに、十中八九米津サイドは自分から内定を辞退しているが、もしも前回のような「祖父が~」といった話を持ち掛けられていたのであれば、米津自身も2年連続の紅白出場を果たしていただろう。


……今一度言わせてもらいたい。今の音楽シーンは何だかんだ米津である。

 

ストリーミングサービスの台頭

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音楽業界全体で見て今年の大きな出来事は、ストリーミングサービスの台頭であった。


はっきりと書いてしまうが、今や『CDを購入して聴く』という人間は、少なくとも若年層にはまずいない。特に今年はSpotifyやAmazon Music、LINE Music、Apple Musicといったストリーミングサービスが普及し、更にそこにTikTokや違法ダウンロードが入り込んでしまったために、音楽自体の価値は限りなく落ち込んでいる。極端な話をしてしまえば、『アルバム全体を聴く』という人間というのは若年層の50人に1人であると考えていい。


そんな時代だからこそ重要になるのは、ズバリ『1曲のバズ』である。


今年の初出場組で言えばヒゲダンの『Pretender』やKing Gnuの『白日』、Foorinの『パプリカ』、アニメ主題歌となって話題となったLiSAの『紅蓮華』がそれに該当する。先程の米津玄師の話にも繋がる話ではあるが、1曲だけでも爆発的に弾けた瞬間、そのアーティストにとっては何よりも勝るブレイクのきっかけとなるのが今の時代なのだ。


例えば個人的にはヒゲダンやFoorinならいざ知らず、King Gnuはメジャーデビュー1年目ということもあり、あまりにも紅白内定には早すぎると考えている。だからこそその裏にはストリーミングサービスの大バズが関係していることは明白で、言うなればNHK側も「ここまでブレイクしてしまっては流石に看過できない」と判断しての起用なのだろう。


これに関しては今の世の中の良い点なのか悪い点なのかは分からないが、とにかく。初出場組が今回内定を勝ち取ったその背景には間違いなく今の音楽事情が反映されているということを、忘れてはならない。

 

アイドルには絶対に勝てない

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これに関しては今年のみならず毎年毎年言われていることではあるのだが、やはりアイドルは人気が高い。


あまり知られていないことではあるが、紅白歌合戦の出場歌手の選考に当たって重要視されている事柄は、『今年の活躍・世論の支持・番組の企画演出』という3項目である。その中でCD売上やカラオケ、世論調査といった情報を総合的に判断し、NHK側が最終的に決定する。


さあ、勘の良い読者の方はお分かりだろう。まず『今年の活躍(CD売上)』の時点で、AKBグループ(坂道グループも同じ)は絶対的に上位に来るのである。


これに関しては僕が以前書いたこちらの記事を参考にして貰いたいのだが、『CD1枚に数秒間の握手券を封入し、握手の時間を増やすには何枚も購入するしかない』というこの悪どい手法でもって、AKBグループのCD売上はそんじょそこらのベテランアーティストが束になっても敵わない。


例えば今回内定が確定している日向坂46の最新シングルの売上は、初週で約47万枚。ちなみに同じく紅白に内定したヒゲダンの新譜は約8万枚である。この情報だけを見ても、いかにAKBグループのCD売上がとてつもないものなのか、ご理解いただけると思う。


次に『世論の支持』という点。これについては言うまでもないが、ファンが多いということはすなわち『曲が歌われたりリクエストされる回数も多い』のだ。例えばカラオケで『AKB縛り』のようなオフ会を開催したり、推しがSNS上で「全国のラジオでリクエストお願いします!」と語るだけで、あり得ないレベルの数字が動く。


最後の『企画演出』というのも、考えると簡単だ。アイドルはゴールデンボンバーのように大量の仕掛けを用意したり、バンドのように重い機材を準備する必要はない。必要なのは人数分のマイクだけ。しかも『電源が入っていなくても良い(要は口パク)』のだから、テレビ局にとってこれほど楽なものはないだろう。

 

おわりに

長々と語ってしまったが、僕は今年の紅白歌合戦をとても楽しみにしている。


今回の記事でボロクソに語った部分はあるにしろ、やはり大衆に多く認知される音楽番組というのは紅白歌合戦が一番だ。これをきっかけに音楽に対する興味が高まり、未だ見ぬ音楽に触れるきっかけになってくれれば、それは何よりも喜ばしいことである。


しかしながら声を大にして伝えたいのは、『全てを盲目的に捉えないでほしい』ということだ。


あなたが紅白歌合戦を観て、「菅田将暉かっこいい!」でも「King Gnuの井口さんやっぱり最高!」でもどのような感想を抱いても結構だが、今回の記事で書いたように、その裏にある部分を決して忘れないでほしい。


紅白歌合戦は清純なテレビ番組だ。だからこそ分かりやすく売れたアーティストを起用するし、売れた曲を演奏させるし、万人受けしたアーティストにオファーする。だが『音楽』というのは、それだけではないはずだ。もしも気に入って貰えたなら、そのアーティストの他の曲も聞いてほしい。その裏側にある深意を汲み取ってほしい。そして何より、紅白での1日のパフォーマンスだけが全てだとは思わないでほしいのだ。


以上が、僕が今回の記事で絶対に伝えたかったことだ。


貴方にとって今年の紅白歌合戦が最高のものとなることを、心から願っている。