キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

個人的CDアルバムランキング2020[20位~16位]

こんばんは、キタガワです。


2020年も早いもので、残すところあと僅か。……勘の良い読者の方々はもうお分かりだろう。そう。今年もこの時期がやってきた。総文字数とは裏腹にアクセス数にはほぼ影響しない当ブログの名物企画『個人的CDアルバムランキング』の開催である。


もはや言うまでもないが、今年は新型コロナウイルスの影響により音源制作とライブを筆頭とした、アーティストをアーティストたらしめる様々な行動に強制的なブレーキをかけられた悪夢のような1年となった。そしてその影響はアーティストの精神性にも及んでいて、具体的には今年上半期にリリースされた楽曲は基本的に通常通りの曲感であるのに対し、下半期は取り分けコロナ禍の世情を憂う鬱屈した楽曲や、明るい未来を希求する強いメッセージ性を帯びた楽曲が多く制作された結果、感染者数が日々増え続ける中で個々人に寄り添う重要な媒体として機能していた。


もうひとつ重要な事柄として挙げられるのが『おうち時間』が増えたことに伴って急激に発達した、サブスクリプションとYouTubeの台頭である。これにより今まではある種無名のアーティストが爆発的に売れること自体が極めて難しかったところが、今年は所謂『バズ』の敷居が下がったためにメジャーとインディーズの垣根がほぼなくなるに加え、1曲単位でどんどん聴き比べが出来る環境下になったことで、故に好きな音楽は好き、苦手な音楽は苦手という個人の嗜好音楽が瞬時に明確化。今までにない音楽飽和状態が形成された1年でもあったように思う。今年一躍時の人となった瑛人、NiziU、YOASOBIらがCDらしいCDを1枚もリリースせず火が点いたことからもそれは明白で、個人的には来年以降アルバムという形態そのものが廃れていくような感覚もあったりするのだが、それはそれとして……。


今回のアルバムランキングも例に漏れず、カバーアルバムやベスト版、EPといった形態は選考対象外とし、あくまで曲単位でなくアルバム全体の完成度を評価した上で20位から1位までのランキング形式で紹介していく。結論から先に記すが、過去数年間に渡って続いてきた『個人的CDアルバムランキング』の中でも今年度は特に選考が難航。今企画初登場アーティストのアルバムが約15枚、女性ボーカリストのアルバムが同じく約15枚、ミニアルバムに関しては1枚も存在しないよもやの結果となった。


それでは以下より、20位~16位までを発表。なお今回よりアルバムを端的に体現した簡単なキャッチコピーも記しているので、それらも合わせてどうぞ。

 

アルバムランキング2019はこちら→(~16位)・(~11位)・(~6位)・(~1位

アルバムランキング2018はこちら→(~16位)・(~11位)・(~6位)・(~1位

アルバムランキング2017はこちら→(~16位)・(~11位)・(~6位)・(~1位

 

20位
1限目モダン/レトロな少女
2020年9月9日発売

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[摩訶不思議ポップ授業、開講]

2019年結成の謎の男女ユニット、レトロな少女によるファーストフルアルバム。様々な媒体で語られている通り、彼らはポップバンド・相対性理論……もとい、元々相対性理論の作曲全般を担っていた中心人物、真部脩一の音楽センスに多大な影響を受けている。故に彼らの楽曲の随所には『真部マジック』とも称すべき謎に満ちたフレーズやキャッチーなメロがてんこ盛り。


実際、某音楽雑誌編集者のひとりが発した「世のポップロックは相対性理論前と相対性理論後に分けられる」との名言が今でも語り継がれているように、彼の作風に影響を受けたバンドは数多く存在する。けれどもパクリではなくあくまでリスペクトとして、極めて高い水準で彼の作風を取り入れた例はなく、そうした意味でも無尽蔵の成長の見込みのある新人バンドとして期待を込めてのランクインとなった。


中でも圧倒的キャッチーさで耳に残るのは、リード曲としても垂直に立つ“さんすうのこたえ”。楽曲内ではその『答え』はおろか、実態すら一切明かされない。果ては十二進数や哲学者・ニーチェの一幕など「これは果たして算数なのか?」という疑問すら浮かぶ有り様だが、結果全てオールオッケーとする強固なメロのパンチラインが、楽曲の揺るぎない根幹部分を形成している。意図的なものなのかサウンド面は若干の荒さが目立つけれども、それすらも『レトロ(古い)な少女』とのユニット名を思い出した瞬間にハッとする。細部まで計算し尽くされた令和ならではのユニット、レトロな少女。彼らの物語はまだ始まったばかりである。何故ならこのポップ授業は、まだ1限目なのだから……。

 


レトロな少女 MV 「さんすうのこたえ」


レトロな少女 - 恋の及第点(Official Music Video)

 

 

19位
Be Up A Hello/Squarepusher
2020月1月31日発売

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[なんだコイツ……]

以下のMVを観て瞬間的な拒否反応を起こしたあなた。大丈夫、正常です。前後不覚の目眩を起こす危険性を危惧し、数秒の再生で画面を閉じたあなた。大丈夫、もっと正常です。期待のサウンドメイカーとして引っ張りだこだった時期は遥か昔で、現在44歳となったスクエアプッシャー。しかしながらあまりに凶悪な彼のサウンドはその実、数年前から一切変わっていない。何故なら海外でスクエアプッシャーと言えばクレイジー的打ち込み音楽の創始者としても知られていて、ファンは感謝と称賛の気持ちを込めて「ヤバい人」と語るほどなので。


ただ今回のアルバムが制作された背景にあるのが『古くからの友人との死別』であることは、ゆめゆめ忘れてはならない。何故なら今作『Be Up A Hello』で鳴らされる極悪サウンドは、友人と共にかつて使用していたハードシンセやハードミキサーといった機材を大量投入した結果形成されたものであるからだ。間違いなくスクエアプッシャー史上最も暴走的な音が鳴り続けている今作は、実は明確に作り込まれた作品なのだ。


スクエアプッシャー曰く「僅か1週間で完成した」というこのアルバムは、一切悩むことなく即断即決で彼の直感に委ねられたために、歪な音色や不協和音でさえほぼ手付かずのまま残されている。それらの歯に挟まったピーナッツの如き不快な響きを探して味わうのもまた一興。……なお“Terminal Slam”のMVで描かれているように、親日家を公言しているスクエアプッシャー。来年始めには今年延期となった来日ツアーの振替公演が控えており、いろいろな意味で『Be Up A Hello』の勢いは未だ収まりそうにないといったところ。

 


Squarepusher - Terminal Slam (Official Video)


Squarepusher - Nervelevers (Official Audio)

 

 

18位
オリオンブルー/Uru
2020年3月18日発売

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[新世代の歌姫による求心力]

カバー動画が起爆剤となり、2016年に彗星の如くデビューを果たしたUruは2020年現在本名、生年月日、出身地など詳しいプロフィールは謎に包まれており、巷では『謎だらけのシンガー』として語られている。そんな彼女の自身2枚目となるフルアルバムこそ、今回ランクインを果たした『オリオンブルー』だ。2年前にリリースするも大きなブレイクには至らなかった前作『モノクローム』から、明らかな注目度の変化を経ての今作。iTunesやビルボードでは1位を獲得し、他オリオンチャートでも軒並みトップ5に食い込む健闘ぶりは、彼女自身がこの2年間明確なビジョンを持って駆け抜けた事実を雄弁に示すものでもあった。


アルバム内で歌われる内容の大半は、今や記憶の遠い彼方へ消え去ってしまった恋愛哀歌である。けれども同時に、その歌詞の全ては一括りに恋愛と結び付ける以外にも日々の憂鬱や後悔といった、多面的に解釈可能なある種の雑然さも織り込まれている。それらが結果としてドラマ『中学聖日記』や『テセウスの船』、果てはアニメ映画『夏目友人帳~うつせみに結ぶ~』などタイアップ作品におけるシナリオとも深くリンクし、多くの共感を生んだことには感服するばかりであるし、ひとりのアーティストとしてもこれ以上ない最高のシンデレラストーリーのようにも思う。


冒頭にも記したように、今年はコロナ禍の状況下であるためかTikTokやYouTubeといったネット媒体が頭角を表した関係上、所謂『バズる曲』も流行に大きく左右される傾向にあった。そんな中彼女の楽曲には言わば『Uru以外の誰が歌ってもUruを超えられない』という絶対的な歌本来の力が宿っていて、彼女の透き通る歌声に魅了された人々が次々リピーターとなる逆転現象が発生。YouTube上での総再生数は“プロローグ”が約2200万回、“あなたがいることで”は約4400万回。ここまで歌の力を武器とするアーティストが令和の新時代に広まったことに、ぜひとも感謝の意を表したい。

 


【Official】Uru 『プロローグ』YouTube ver. TBS系 火曜ドラマ「中学聖日記」主題歌


【Official】Uru 『あなたがいることで』TBS系 日曜劇場「テセウスの船」主題歌

 

 

17位
×××/輝夜月
2020年1月15日発売

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[VTuber界からこんちわぁぁぁ!]

今やYouTubeにおける一大勢力として挙げられるのが、生身の人間が3Dモデルのキャラクターを媒介して配信を行うYouTuberこと『VTuber』。その中でもキズナアイやミライアカリらと合わせ『バーチャルVTuber四天王』に名を連ねているのが輝夜月(カグヤルナ)その人だ。今作『×××』は公開した動画が軒並みバズり続けている輝夜月にとっての、記念すべきファーストアルバムとなる。


キズナアイがポップミュージックを基準としていたのに対し、輝夜月は徹底したロックサウンドに振り切っているのが大きな特徴。実際動画内でも多くの著名なアニメキャラクターの物真似を披露していることからも声色変化には自信があるようで、今回のアルバムでは低音と高音を自在にスイッチする千変万化な歌声で魅了。加えて動画ではお馴染みのハイテンションな輝夜月らしさも顕在で、耳に響く高音ボイスが随所で炸裂するカオスさもありで、なおかついきものがかり“じょいふる”のカバー、日清焼そばU.F.O.のCMソングなど大胆不敵。


断っておくと、僕はVTuberと呼ばれる類いの動画をほぼ観ない。むしろ昨今の高額スパチャや事務所内でのいざこざのニュースから、苦手意識さえあるほどだ。そんな中今回輝夜月のアルバムをランキング入りした理由はたったひとつで、それは『純粋に歌と声が良い』との音楽的好評価に尽きるためである。元々チャンネル登録者数が約100万人存在するというニュージェネ的なバックグラウンドを差し引いても、やはり輝夜月印の異様な高音と若干ダウナーな低音を駆使したボーカルは音楽業界全体で見ても稀有で、逆に言えばキャラクター性が確立していなければ実現不可能な活動であったとも言える。そこに著名な作曲家の音楽が乗っかるとこうなるぞ、という化学反応的なアルバム『×××』は、まさに令和的1枚とも称すべき代物である。

 


輝夜 月『Dance With Cinderella !』-LIVE CLIP


輝夜 月『NEW ERA』-LIVE CLIP

 

 

16位
盗作/ヨルシカ
2020年7月29日発売

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[全てを無くした男の、悲しき犯行自供]

昨年、音楽に挫折したエイミー主体の『だから僕は音楽を辞めた』と、エイミーの音楽から影響を受けた新たな夢追い人エルマによる『エルマ』から成る言わば小説における二部完結的作品をリリースしたヨルシカだが、興奮も未だ冷めやらぬ中今年も新たなアルバムが届けられた。今回描かれる物語はズバリ、『音楽の盗作を試みる男の過去と現在』である。


今作はn-bunaによる「やっていることは情報だけで見たら盗作にあたるんだろうなと。なのに、“ここはこの作品のこの部分から持ってきた”と公言した瞬間、“盗作”は“オマージュ”に変わる。作品自体の内容はまったく変わらないのに」との疑問が発端となっており、思考の行き着いた先が「盗作をテーマにアルバムを作ったらどうなるか」との思いであったとのこと。そのため今作はベートーヴェン、グリーグら世界各国の作曲家をはじめ、小説家ジョージ・オーウェル、俳人尾崎放哉など様々な人物のエッセンスが分かりやすい形で楽曲に落とし込まれ、必然楽曲自体も所謂『ヨルシカらしい』曲調から大きく逸脱した実験的作品が並ぶものに。


今作は前半部はロック色強め、対して後半部は緩やかな楽曲が占める対極的な構成になっているが、それさえも「最終的には男の中の本当に書きたかったものだけが残る構成にしたかった」とのn-bunaの思いに寄るところが大きい。サブスクリプションの比重が高まっている現在において、アルバム全体を通してひとつのストーリーを形作る手法で毎年驚きをもたらしてくれるヨルシカ。早くも来年には『CD内部にCDを内臓しないCD』というヨルシカの新たなリリースアクションも顔を見せていて、タイトルはこれまた挑戦的な『創作』。今後もn-bunaの音楽的実験はまだまだ続く。

 


ヨルシカ - 盗作(OFFICIAL VIDEO)


ヨルシカ - 花に亡霊(OFFICIAL VIDEO)

 

 

……さて、今回はここまで。次回は新進気鋭のバンドから紅白歌合戦出場アーティスト、長年の沈黙を破り素顔を公開したあのグループまで、幅広いラインナップでお届けする第15位~第11位までを発表する予定である。乞うご期待。