キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ツユ『LIVE TOUR 2024 革命前線 -Downer Night-』@BLUE LIVE 広島

完全燃焼。今回のライブを一言で表すとすれば、この言葉しかあり得ない。……そもそもこの日集まったファンも、おそらくは誰も思っていなかったはずだ。演奏曲が1時間半ジャストでなんと28曲、美麗な紗幕もMCも、水分補給やチューニングの時間すらも徹底的に廃され、更には様々なハプニングで一時ライブ続行不可能になるなどあまりに自傷的、かつ伝説的なものになろうとは……。

今回のツユのライブレポを記す前に、まずは現状のツユがどのような環境に置かれているか、というのを知っておく必要がある。そもそもツユの全国ツアー『革命前線』は元々、毎年恒例のライブの一環として計画されていた。しかしバンドの発起人であり全ての作詞作曲を務めるぷすが、ある日突如としてX(旧ツイッター)にて今ツアーをもってツユを活動休止、最悪の場合は解散するかもしれないと示唆。その他の過激な言動も相まってぷすはネット上で多くの批判に晒されることとなった訳だが、とにかく。結果として今回のツアーは、当初の予定にはなかった多くの意味を宿したものとなった。

広島ライブの開演時間は今ツアーでは最も早い17時。それに合わせる形で会場に到着すると、そこには大勢のファンが。見たところ年齢層は10〜20代が圧倒的に多く、男女の比率は少しばかり女性が多めな印象だ。中には全身を缶バッジや特別グッズでデコレーションしたファンも見受けられ、一般的なペンライトの他ツユのアーティスト写真を模したペンライトを持っている人も多数。物販はこの時点で売り切れになっているものもあり、期待値と人気の高さを改めて感じたりも。また場内はスタンディングではなくパイプ椅子が並べられた作りになっていて、整理番号の早い人から自由に座席を選べるシステムである。

ステージ関係については、大きく2つのポイントが目を引く。まずはツユのライブでは定番となっていた紗幕やモニターが全くなかった点。それこそ2年前はMVを背後に投影しながらライブを行っていたのを記憶していたが、この時点で今回のライブではMVを使わないストロングスタイルの夜であることが分かる。もうひとつはステージに置かれた『△□』の形の巨大電飾で、これもツユのライブとしては初。この電飾は結論として赤や青、黄色といった色に場面場面で変化するようセッティングされており、ファンがペンライトの色をどのように変化させるべきか、その視覚的な判断材料となっていた。

定刻になると非常にゆっくりとしたペースで照明が落ち、ステージ袖からアベノブユキ(B)、あすきー(G)、ゆーまお(Dr。ヒトリエ)、miro(Key)、そして少し遅れる形でぷす(G)、礼衣(Vo)が現れると、多くの拍手が鳴り響く。なお礼衣とぷすは公には素顔が非公開とされているものの、表情はバッチリ見えるライブ然とした形であり、全員が全身を黒でコーディネート。今回のサブタイトルが『Downer Night(シリアスな夜)』であることも相まって、ファンからの拍手も上がれどどこか暗い雰囲気を察して、パラパラとしたものになっていたのも印象的だ。

ツユ - やっぱり雨は降るんだね MV - YouTube

リリースツアーではないので、今回のライブはセットリストが予想不可。そのため「何が1曲目に来るんだ……」と想像を巡らせていた人は少なくないと推察するが、オープナーはファーストアルバムから彼らの名前を広める契機となった“やっぱり雨は降るんだね”。これまでのライブでは盛り上げる観点から後半にかけて演奏されることの多かったこの楽曲。それが初っ端にドロップされた時点で驚きだったが、ぷすのギターの音量のデカさ、礼衣の歌声が突き抜けて聴こえて来る感覚から驚きはすぐさま喜びへと変化。1曲目にしてペンライトが揺れるアットホームな空間を作り出していた。

“やぱ雨”の余韻が残る中、そこからは“風薫る空の下”、“アサガオの散る頃に”、“くらべられっ子”といった代表曲を休憩なしで連発。ここまではまるでツユの最初に行われた東京ライブの再現のようなセットリストのため「あの曲が聴けた!」との興奮もあったのだが、実は先述の通り今回のライブは攻め過ぎた結果、前代未聞の酸欠セトリ。前半はまだその序章に過ぎなかったことは特筆すべきだろう。

ツユ - アサガオの散る頃に MV - YouTube

そう。この日のライブは言わば全キャリア網羅。具体的には『やっぱり雨は降るんだね』→『貴方を不幸に誘いますね』→『アンダーメンタリティ』の過去リリースされた3枚のアルバムの中から、比較的有名な楽曲をリリース順に並べて叩き付ける、あまりに壮絶なものだったのだ。もちろん有名な曲ということは、その全てはハードな演奏と歌唱を要求されるファストチューンであり、休憩は一切なし。この疲労度と難易度たるや……。正直なところ、ぷすがXで活動休止と解散を仄めかした際には「多分嘘かな」と思っていた部分があった。しかし今回の明確に過去から現在までをノンストップで遡っていく流れは「あっ、これマジで解散するかも」と感じさせる危機的な何かも孕んでいたように思う。

そして今回のライブで最もハードな役割を果たしていたのは、ボーカルである礼衣だ。元々ツユの楽曲は強弱が著しいスピードで入れ替わり、呼吸をする場面すらほとんどない。そのためずっと高音で歌い続ける状態になるのが礼衣なのだが、これが休憩なしで延々続いていく鬼畜仕様には呆然とする他なく、楽曲の合間合間の数秒間に水をストローで一瞬飲む程度の時間しか与えられないまま歌い続ける礼衣を見ていると、まるでスポ根漫画の短距離走というか、「あと1周!」と叫び続けるツユという大きな存在の下で汗だくで走り続けているような、そんな有無を言わせない限界突破の感があった。

ツユ - 太陽になれるかな MV - YouTube

ただ、その過酷な歌唱が礼衣の声を疲弊させていたのも事実。“ロックな君とはお別れだ”あたりで少し声が切れる場面があり、続く“太陽になれるかな”が終わった瞬間、それは起こった。礼衣は「こんばんはツユです。広島……あ、泣きそう……」と言いかけたあたりで突如うずくまり、全ての演奏がストップ。当初こそ感情を押し留めていた礼衣だったが、堰を切ったように流れる涙には勝てず、しまいにはぷすへマイクを渡してステージ裏へとハケていく。それを見たぷすは「本当は俺が喋る流れじゃなかったんだけど……」と困惑しつつ、どうやら礼衣が数日前から喉の不調に悩まされていたこと(後に声帯出血を伴う声帯炎と判明)、礼衣自身がとてもストイックな性格で、歌に関しては一切の妥協が出来ないタイプであると説明。ただ数分経っても戻らない状況の中、ぷすはアドリブトークで何とか持ちこたえようとするも「俺がたくさん喋ると『ぷす炎上したのに元気じゃん』って絶対思われるからこれ!」と笑いを誘っていく。

そこから数分後に戻ってきた礼衣は顔に黒いハンカチを当てた状態で、涙を見せないように現状を説明。その声は先程までの綺麗な歌声とは打って変わってほぼ潰れており、礼衣は「ツユ、口パクじゃないんです……」と気丈に振る舞いつつ、涙を流しながらも「今まで以上に頑張って歌います」とライブを続けることを決意。ぷすは「今までこういうことがなかった訳じゃないけど、ここまでになるのは初めてだよね。プレッシャーなのかな。だからみんな応援してください!」とファンに応援を呼び掛け、礼衣の体調を見ながらこのままライブを続行することに。

ツユ LIVE『貴方を不幸に誘いますね』 - YouTube

この一連の出来事があったためか、ここからのライブは明確にファンとツユとの一体感で駆け抜けていった印象が強い。というのも、ここからはツユ屈指の歌唱難易度を誇るセカンドアルバム『貴方を不幸に誘いますね』のゾーン。喉の高音と低音の繰り返し、裏声の多用、そして息継ぎそのものがほぼ出来ないシンガー殺しなアルバム……。それらの楽曲の数々が喉の不調の真っ只中にある礼衣に容赦なく襲い掛かる様は、ともすれば限界突破の歌唱にも見えるだろう(実際にその姿を見て泣いているファンも大勢見た)。ただ流石はボーカリストというべきか、礼衣は歌うにつれてどんどん覚醒していく感覚もあり、正直なところ素人目には喉の不調を感じさせないほど声は通っていた。その姿には彼女の本気度をしっかりと感じることが出来たし、そんな礼衣を心配して何度も演奏中に目を配るぷすとmiroの視線も、バンドとしてとても美しいものだった。

テリトリーバトル - YouTube

そのアッパーさと相まって絶大な興奮を生み出したのはアルバム曲の“テリトリーバトル”。ダブステップを彷彿とさせる打ち込みサウンドが新たなエッセンスとして響く中、手拍子も作用して一体感抜群。更には真っ赤な照明の下、常に前を睨みながら演奏するぷすはもちろん、最高音が出ないことに思わず天を仰いで笑ってしまう礼衣の表情さえもホラーチックに変えてしまう雰囲気はこの日最もツユのダークヒーローぶりを映し出した一幕であり、グッとくるものがあった。

思えばツユは、常に我々のネガティブな感情に寄り添ってきたアーティストだった。それは例えばファーストでは“くらべられっ子”で他者比較、“あの世行きのバスに乗ってさらば。”で自殺願望、“ロックな君とはお別れだ”では嫉妬として描かれ、結果として現代に生きる若者の心情とリンクする形で広まるに至った。では続くセカンドアルバムではどうかと言えば、そのネガティブな感情が外向きになった結果、「私がこうなったのは全部お前らが悪い!」とする自己保身からの他責に向かうこととなる。それは『貴方を不幸に誘いますね』のタイトルにも表れていて、特に“デモーニッシュ”や“泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて。”では痛烈な毒を撒き散らすことで、人間の醜悪さを露呈させてのショック療法の機能を果たしていた。……ただその他責はつまるところ自己嫌悪の裏返し。「じゃあ自分が死ねば全て終わるんじゃないか?」という消滅願望が、このアルバムの終着点である。

ツユ - 終点の先が在るとするならば。 MV - YouTube

このセカンドアルバムのラストとなった“終点の先が在るとするならば。”は、そんな死について歌われている。この楽曲は先んじて演奏された“あの世行きのバスに乗ってさらば。”で天国に向かうバスに乗り込んだ主人公が、実際に死後の世界に到達した後のアンサーが描かれているのだが、この結末はハッピーなものではない。《後悔をしているから/早まったあの私みたいに あなたにはなってほしくなくて》と自死を後悔する形で締め括られていることに、ぷすが発する自傷的な前向きさと言うか、自責と他責・ポジティブとネガティブは表裏一体なのだと言うことを突き付けられる感覚をもたらしてくれた。

そうしてライブは第3章、サードアルバムの“アンダーメンタリティ”ゾーンへ突入する。ファーストでネガティブな精神性を、続くセカンドで他責方向へと向かったツユは、このサードで明確に『現実世界の闇』へと視点を切り替えている。……繰り返すがぷすは自分の思ったことを包み隠さないアーティストだ。ゆえに“アンダーキッズ”におけるトー横キッズのオーバードーズと自傷行為然り、インターネット上で炎上して実質的な引退に追い込まれた某メンバーを題材にした“いつかオトナになれるといいね。”然り、ぷすが当時最も思いを発露したかった題材がこれらに勝るものがなかったという証左であり、結果としてこれまでの『自分発信→他者』の図式であったツユとは性質が全く異なっているという点では、著しく方向性を変えたアルバムとの見方も出来る。

ツユ - いつかオトナになれるといいね。 MV - YouTube

そのうち熱狂的な盛り上がりとなったのは、ツユの楽曲で唯一ファンとの掛け合いを行う“いつかオトナになれるといいね。”礼衣が「盲目?」と放てばファンが「信者!」と返し、ぷすが超絶ギターを弾けば拍手喝采。目の前に広がる光景だけを見れば素晴らしいライブの一幕だが、その一幕さえもぷすに言わせれば「お前らも盲目な信者なんだよ?」というアンチテーゼ。彼がこの楽曲を最もポップに振り切ったものとして作ったのは計画的だろうけれど、奇しくも生身のライブでもってこの計画性は現実のものとして受け入れられた形だ。

また今回のライブで、直接的な怒りが爆発したのは“アンダーヒロイン”の時間帯。腰に手を当てながらの「あーあ、マジうぜえあの女」とする礼衣のゾクゾクする語り口に没入し、ぷすのギターソロに心奪われて歌詞にはどこか共感してしまう……。憂鬱もしんどさも、人生で訪れる事象を和らげる音楽が美徳とされている中、彼らが鳴らす音楽は直接対峙してカチ合わせるような過激派の魅力を携えていて、それがツユが愛されている理由なのだと改めて感じられる一幕でもあった。

ツユ - アンダーヒロイン MV - YouTube

そしてここからは、あらかじめぷすが「最低でも新曲4曲は持っていきます」と明言していた新曲ゾーン。ファースト、セカンド、サードときて新曲で終わらせるのは強気な姿勢の表れだろうけれど、これらが本当に素晴らしかった。まずはツユの公式Xで先行公開された、今回の『革命前線』のインタールードとなる楽曲からスタート。そこからは礼衣が言葉数多く捲し立てるファストチューン、そして『新曲3』はこれまでのツユの合せ技とも言えるリミックス曲で、“やっぱり雨は降るんだね”の《やっぱり雨は降る……》あたりをBPMを落としてそのまま歌詞に当てはめたり、所々のギターは“ロックな君とはお別れだ”のジャッジャッジャッと鳴るフレーズを使ったりと、ツユのファンであればあるほどグッとくる新曲に。

「さりげなく新曲をやったんですけど、どうでしたか?最近は少しテイストが違う曲をたくさん出してきたんですけど、この曲は昔のツユに戻ったような歌になりました。歌詞は聞き取り辛かったと思うけど、またMVも出ると思うので。よろしくお願いします」と礼衣が語り、最後の曲として宣言したのは今回のツアータイトルにもなっている“革命前線”。この楽曲はぷすのリアルを、一切の脚色なしで映し出している。

ツユ - 革命前線 MV - YouTube

《あの日の覚悟も 全部溶けてしまったんだ》《見て 見て 僕を この穢れた僕を》……。“革命前線”では徹頭徹尾、ぷすの現状が赤裸々に語られる。それも一見すれば歌詞だけで完結していたものを、ぷす本人がXにて高級車を乗り回していたり、女遊びを繰り返しているという証拠とも言えるツイートをしてしまったことで、“革命前線”における歌詞の全ては確固たる事実として映ることとなった。つまり今のぷすは『様々なものを手に入れた果てに創作意欲を削がれた状態』であると、公に暴露したのである。

では何故ぷすはこうしたツイートをしたのか。その理由は純粋に『〆切が間近に控える中、自分自身を追い込むための行動』であったと推察される。今回の活動休止、ひいては解散を示唆するツイートにしてもおそらくはそのような考えがあってのものだろうし、ファン視点では批判されて然るべき行動のようにも思える。……しかし思い返せばぷすは、そうした衝動的な気持ちを歌にしてきたアーティストでなかったか?事実、憂鬱も希死念慮も、果ては他者への怒りも含め全てを包み隠さず爆発させたことで、多くの共感者を生んだのがツユであったはずだ。今回のライブタイトルを『革命前線』としたのもそう。彼らの今回の4つの新曲もまた、今後のツユに繋がる大きな伏線としてのものなのだろうと思いたい。

1時間半で28曲という、尋常ならざるペースで駆け抜けたツユ。後に発表された通り、礼衣は声帯出血を伴う声帯炎の症状を訴え、次のライブ予定をキャンセル。この日の広島は結果として治療前の最後のライブとなったけれども、命を削るような圧倒的な迫力を目撃した当事者としては、とにかく「良くやってくれた!」と拍手喝采を送りたくなる夜だった。

今回のライブは総じて、ファンとツユの信頼感を強く抱かせる代物となった。上のレポでは短距離走の例えを出したけれど、礼衣が声の不調を訴えて以降はまるでツユの横を我々ファンが水を持ちながら並走しているような、そんな感覚。これまで観たツユのライブとはまた違った青い炎が、フロア全体を突き動かす歴史的なライブ。ライブ全般において最も大切な『本気度』が特にこの日はありありと確認でき、本当に素晴らしかったと今でも感じる。

結局のところツユが活動休止するのかは、未だに分からない。この日のライブがラストと言われても納得出来る程の熱量だったが、「まだ先がある」と言われても同様に納得出来る、そんなライブだったから。ただ新曲4つの完成度の高さ、また礼衣自身が全力でツユに向かい合っている事実を赤裸々に知った今となっては、活動休止してほしくないのがファンとしての率直な気持ちだ。……この先に待ち受けるツユの革命。この日はその序章に過ぎないと考えつつ、次のアクションを座して待ちたい。

【ツユ@BLUE LIVE 広島 セットリスト】
やっぱり雨は降るんだね
風薫る空の下
アサガオの散る頃に
くらべられっ子
あの世行きのバスに乗ってさらば。
ロックな君とはお別れだ
太陽になれるかな
ナミカレ
雨を浴びる
雨模様
どんな結末がお望みだい?
奴隷じゃないなら何ですか?
テリトリーバトル
強欲
デモーニッシュ
泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて。
終点の先が在るとするならば。
傷つけど、愛してる。
これだからやめらんない!
いつかオトナになれるといいね。
腹黒女の戯言
アンダーヒロイン
不平不満の病
アンダーキッズ
新曲
新曲
新曲
革命前線(新曲)