こんばんは、キタガワです。
長きに渡って続いてきた総文字数2万字超えの『個人的CDアルバムランキング』も、これにて完結。遂に5位~1位の発表だ。
果たしてキタガワが選ぶ、今年度最も素晴らしいアルバムは何なのか……。緊張の瞬間である。
それではどうぞ。
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5位
Weezer(ブラックアルバム)/Weezer
2019年3月1日発売
3年前、『Weezer(ホワイトアルバム)』発売後にリヴァース(Vo.Gt.Pf)が「次のアルバムはブラックアルバムだ」と語ったことから全ては始まった。しかし蓋を開けてみればその翌年に発売されたのは『ブラックアルバム』ではなく『Pacific Daydream』と名付けられた代物であり、後にメディアに「いや、次は絶対にブラックアルバムだよ」と語ったリヴァースであったが、更に予想を良い意味で裏切る形で『ティールアルバム』を発表し、そして今作『ブラックアルバム』が発売された。気付けば彼がこのアルバムの制作を示唆してから、3年の年月が経過していた。
もはや言うまでもないが、このある種ランナーズハイ的なハイペースさはリヴァースの絶好調に起因していて、本人いわく「最近は毎日曲を作ってて、持ち曲のストックがありすぎるんだ」とのこと。ちなみに他のメンバーも「今のリヴァースはヤバい」と吹聴して回るレベルであると言い、「毎月とんでもない数の楽曲が渡されて大変」とも語っていた。御愁傷様である。
そんな『ブラックアルバム』だが、全編通してある意味ではWeezerらしくない新機軸の試みが多く成されている。自宅でピアノを弾きながら作曲したという今作は、ピアノの主張もさることながらメロの没入感が極めて高い。更には《死ね死ねゾンビ野郎》、《ハードなドラッグをやろうぜ》と今までになかった歌詞も相まって、確かにブラックなアルバムだ。
それでいてポップな魅力は一切衰えていない今作は『今のWeezerは無敵で最強』という事実を何よりも雄弁に現している。「次のアルバムはハードロックになる」と明言し、既に次回作とその次のアルバムタイトルまで発表しているWeezer。彼らの現在地を再確認する上でも、このアルバムは是非今触れておくべき1作と言えよう。
Weezer - High As A Kite (Official Video)
Weezer - Can't Knock The Hustle (starring Rivers Wentz)
4位
潜潜話/ずっと真夜中でいいのに。
2019年10月30日発売
インターネットシーンを目下躍進中の注目株、ずとまよ初のフルアルバム。2019年は個人的にずとまよ関係の仕事依頼を複数いただいた関係上、ずとまよ並びに『潜潜話』については徹底的に掘り下げた感があるのだが、それはそれとして。当記事ではコラムでは然程触れなかった内容を中心として語っていきたい。
ずとまよの魅力はその独特な歌詞にあると思っている。僕はかつてコラムにて「ずとまよの歌詞は意味深な言葉の数々によって、聴く人によって異なる解釈ができる工夫が凝らされている」と書いたが、あれは非常に言葉を濁す形で書いていて、正直なところ今でも歌詞をどれだけ読み解こうともバンドの中心人物であるACAね(Vo)の本心は全く分からないままなのだ。
《遺影 遺詠 遺影 遺詠 遺影 遺詠 遺影 死体》で終わる“勘冴えて悔しいわ”、《でぁーられったっとぇん》との謎の言葉の羅列で始まる“こんなこと騒動”、サビで《ただはシャイいだって笑いあって さよなら差?》と絶唱する“正義”など、ACAねの歌詞は総じて作為的に捻じ曲げられており、フワフワと宙に浮いたまま一向に着地しない。その結果ずとまよ自身にミステリアスなイメージが付いたために、YouTube上のコメント欄で散見される「よく分からないけど凄い」という驚きと唯一無二の魅力に繋がっているのだと思う。
10月24日のZepp Tokyoのライブに足を運んだ際、ACAねがMCで語った発言が、今でも印象に残っている。
「新しいアルバムは、自分が中学生時代に悩んでいたことが軸になってて。昼休みとか休み時間とか、ひとりでいるじゃないですか。みんな、結局。私も友達がいなかったわけじゃないんですよ?でも、距離感を測ってる自分がいて。なるべく人に好かれたい、嫌われたくないっていうのがあって」
「その時から人に言われて気付いたんですけど、無意識に鼻歌を歌う癖が付いてたんです。本当に無意識で気付いてなかったんですけど、その話の『間』が怖くて。で、ある時それをつつかれて。友達に凄い耳障りな思いをさせてしまったのかと、悩んだりもして。でも今はこうやって歌ってるから、そうしたことも曲にしてるし。幸せだなって感じていて。弱い部分を歌で正当化して逃げてるだけかもしれないけど」
……彼女の飾らないMCを聞いて分かったのは、やはり彼女には確固たる思いがあったということ。そして同時に、彼女自身が直接的な言葉で伝えること自体あまりに苦手な人間であるために、こうした湾曲した表現に終始しているということだった。しかしながらこうした感情は今を生きる人……とりわけ若者に共通する事柄であるとも思っていて、『潜潜話(ひそひそばなし)』と題された当アルバムを鑑みても、やはりずとまよは「売れるべくして売れたのだなあ」とも考えてしまう。
……何だか話が完全に脱線してしまったが、とにかく。この順位にした理由はアルバム全体の完成度が非常に高かったことと、僕自身が聴けば聴くほど好きになっていく感覚が日増しに膨らんでいったためである。以上!
3位
人間なのさ/Hump Back
2019年7月17日発売
突然だが、あなたにとって音楽に求めるものとは何だろうか。歌詞の良さ、歌声、ノれる……。人によって様々だろうが、個人的には『再生ボタンを押してからどれだけの短時間で心が動くか』であると思っている。
例えば「○○しか聴かない」といった音楽ファンであればひとつのアルバムを吟味する時間もあろうが、音楽ライターを生業にし、日々多種多様な音楽を聴かざるを得ない僕のような特異な人間にとっては、様々なバンドの良し悪しを判断するその第一歩は決まって冒頭10秒~20秒だ。そしてサビ部分まで通して聴き、2番に入る頃には別の曲に切り替える……。そうした形で一通りそのアーティストの音源を聴き、また新たなアーティストを探す、といった具合。だからこそ冒頭で「おっ?」とアンテナが反応するアーティストは何より貴重であり、同時に僕はそうしたアーティストを年間通して聴く傾向にあるし、今回のアルバムランキングに入った20枚のアルバムも基本的に、最初の取っ掛かりは冒頭10秒~20秒だった。
以下の“LILLY”、“拝啓、少年よ”に顕著だが、『人間なのさ』はそのあまりに無駄を削ぎ落とした作りから、必然的に『冒頭の心を掴むスピード』が異常に早いのだ。全曲に渡り長いイントロや環境音を用いた雰囲気作りは皆無で、再生ボタンを押したその1秒後にはギターもしくはドラムの音が襲い掛かってくる。実に収録曲の約半分が3分以内に終わるというその極端な性急さはあまりにも衝撃的であり、こと日本におけるガールズバンドの試みとしてはほぼ無かったのではなかろうか。
林(Vo.Gt)の中性的な絶唱とロックバンド然としたサウンド、小学生でも理解できるシンプルな言葉で思いの丈をぶつける歌詞が渾然一体になった今作は「つべこべ言わずに私たちの歌を聴け!」という力強さに満ち満ちている。
「日常にストレスとかしんどさを自覚することが全然ない」と語る林。彼女がそうしたポジティブな信念を抱く理由はひとつ。寂寥や悲壮といった鬱屈した感情を感じることが出来るのも、全ては『人間』であるからこその思いであると捉えているからだ。そしてそんな今作は『人間なのさ』と名付けられ、アルバム内には日常で経験しうるであろう、ありとあらゆる出来事が踊る。全ては幸福で、全ては必然だ。Hump Backの志を是非体感すべし。
Hump Back - 「拝啓、少年よ」Music Video
2位
だから僕は音楽を辞めた/ヨルシカ
2019年4月10日発売
2019年は『だから僕は音楽を辞めた』、『エルマ』という2枚のアルバムを世に送り出したヨルシカ。かの名曲“言って。”が巨大なバズを巻き起こしたのはもう数年前のことだが、今のヨルシカは間違いなくインターネットシーンにおいてEveやずとまよと同等か、それ以上の人気を博す存在であることは疑いようもない事実であろう。
数ヵ月前のツアーにおいて、数々の名曲をセットリストから省き『だから~』と『エルマ』の収録曲のみを演奏していたことからも分かる通り、上記の2枚のアルバムは完全なる地続きになっている。音楽に挫折したエイミーがエルマと出会い、音楽への情熱が再燃する『だから~』。そして、その後のエルマがエイミーの作る音楽を追い求める形で制作した『エルマ』。ふたつのアルバム内で繰り広げられるのは、まるでひとつの短編小説の如き重厚な物語だ。
『エルマ』ではエンドロールへ向かうようなスローな楽曲が全体を占めているのに対し『だから~』はまるで焦燥に駆られながら楽曲制作を行うエイミーの思いを体現するように、どちらかと言えばロック色強めの作風となっているのも印象深い。
《エルマ、君なんだよ/君だけが僕の音楽なんだ》と心情を吐露する“藍二乗”から始まり、ラストは《売れることこそがどうでもよかったんだ/本当だ 本当なんだ 昔はそうだった》と歌われる、“だから僕は音楽を辞めた”にて悲しき物語は幕を閉じる。かつてRADWIWPSの音楽が物語と密接に絡み合った映画『君の名は。』が爆発的ヒットを記録したのは記憶に新しいが、当アルバムは全体を通して、まさにそうした『音楽を媒体に介した壮大なストーリー』が見えてくるのだ。
正直『エルマ』を含めず『だから僕は音楽を辞めた』というひとつのアルバムのみを2位に選出してしまったのは、小説の前半部分を流し読みして全体像を判断してしまうようでもあり、心苦しい思いもある。だからこそ当ブログで『だから~』に少しでも興味を抱いた方は、是非ともふたつのアルバムに目を向けていただけないだろうか。そして歌詞カードをじっくり読み解きつつ、各アルバムの奥に潜むヨルシカの深意に思いを馳せてほしいと強く願う次第だ。
ヨルシカ - だから僕は音楽を辞めた (Music Video)
1位
SUPER MUSIC/集団行動
2019年4月3日発売
……という訳で、2019年のアルバムランキングをトップで駆け抜けたのは、集団行動初のフルアルバム『SUPER MUSIC』。ロケットスタートそのままの勢いでゴールテープを切るが如く、圧倒的なポテンシャルで1位となった。
実は3年に渡って続けてきた当企画において、集団行動のアルバムは唯一3年連続でランクインしており、昨年に発売されたミニアルバム『充分未来』は12月に突如出現したネクライトーキーの進撃により総合2位となったものの、逆に言えばネクライトーキーのアルバムがその年に発売されていなければ間違いなく1位にする腹積もりであった。
僕はその際の短評にて「来年に発売されるアルバムが今回を上回る完成度であれば、おそらく次の集団行動は1位にする」という趣旨の内容を記した覚えがある。しかしながら『SUPER MUSIC』は僕自身もいち音楽ライターの端くれとして「ファンだから」との盲目な理由でもって即座に1位にするつもりは毛頭なかったし、むしろ1位のハードルを極めて高くして臨んだ感すらある。
にも関わらず、終わってみれば集団行動の圧勝。発売後から今に至るまで「聴いていない日は1日もないのではなかろうか?」と感じてしまう程に心酔し、実際ここ数年間のアルバムを総合してもここまで一切の捨て曲なしで終えるアルバムは思い付かず、栄えある1位と相成った。
何度も当ブログでも記しているが、集団行動のメインソングライティングを務める真部(Gt)は元々、“LOVEずっきゅん”で一躍活動の幅を広げた『相対性理論』というバンドの中心人物であった。これは誇張表現でも何でもなく、一部の音楽関係者から『日本の音楽シーンは相対性理論前・相対性理論後に分けられる』と言わしめたほど。
彼の魅力はそのあまりにも常識はずれなワードセンスと、キャッチーなメロ。そのエッセンスは集団行動の今作には今までに以上に多量に散りばめられており、鼓膜を際限なく刺激する。
《す巻きにして東京湾にポイ》とポップに誘拐事件を描く“クライム・サスペンス”、《私は誰?私は誰?私はバレリーナ》と疑問符が頭に浮かぶこと請け合いな“ティーチャー?”、《ピッピーそのひと止まりなさい》が耳から離れない“婦警さんとミニパト”、《課長になれても部長になれても社長になれても関係ない/おっきい隕石降ってきた》と謎のバッドエンドに突き進む“ザ・クレーター”……。今作に収録されているほぼ全ての楽曲にはどこか突飛で、かつ奇想天外なパワーワードが挟まれている。
そして何より耳馴染みの良い助走からサビで爆発する、その卓越したメロディーセンスには脱帽だ。別段特異な手法を取り入れている訳でもなく、ただ純粋に軽やかなポップスを地で行くメロディーは『みんなのうた』的でもあり、ロックバンド的でもあり、意味不明でもある。……総じてどう足掻いても「集団行動っぽい」以外に形容出来ない独特な楽曲群には、何度聴いても感服するばかりだ。
あまりにもマイペースな活動からか、注目度は決して高くない集団行動。しかし今現在売れているバンドもかつては売れない時期が絶対的に存在した訳で、今作は言わば今後音楽シーンを掻き回すであろう集団行動の、後に至る会心の一撃のようにも思う。音楽を確信的に鳴らす集団行動は、今もとんでもない音楽を画策しているに違いない。
集団行動 / 「クライム・サスペンス」Music Video
集団行動「ザ・クレーター」Lyric Video(Full ver.)
……さて、今年のCDアルバムランキング。これにて全ての順位が出揃った。改めて、20位~1位の個人的CDアルバムランキングの結果は以下の通りである。
20位……二歳/渋谷すばる
19位……WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?/Billie Eilish
18位……LIP/SEKAI NO OWARI
17位……i/上白石萌音
16位……ウ!!!/ウルフルズ
15位……ガールズブルー・ハッピーサッド/三月のパンタシア14位……MOROHA Ⅳ/MOROHA
13位……VIVIAN KILLERS/The Birthday
12位……Hello My Shoes/秋山黄色
11位……瞬間的シックスセンス/あいみょん
10位……しあわせシンドローム/ナナヲアカリ9位……TODOME/MOSHIMO
8位……Traveler/Official髭男dism
7位……834.194/サカナクション
6位……aurora arc/BUMP OF CHICKEN
5位……Weezer(ブラックアルバム)/Weezer4位……潜潜話/ずっと真夜中でいいのに。
3位……人間なのさ/Hump Back
2位……だから僕は音楽を辞めた/ヨルシカ
1位……SUPER MUSIC/集団行動
……繰り返しになるが、今年はとりわけサブスクの発展やインターネットシーン発のアーティストの台頭が目立った。こと海外においては「ロックは死んだ」とまで揶揄され、まるで数年前と対極を進むように、現状に異を唱えるメッセージ性の強い音楽(主にヒップホップなど)が好まれるようになった。総じて良い意味でも悪い意味でも、新時代の到来を音楽シーン全体が体現するような、運命的な年であったと言えよう。
企画のタイトルを『個人的CDアルバムランキング』と題している通り、今回のランキングは基本的に自身の嗜好を最優先事項と捉えて作成している。そのため「○○が入ってない!」と憤慨する人や「そこまで良くないじゃん」という否定意見もあって然るべしだ。おそらく僕も僕以外の誰かが同じような『CDアルバムランキング』なる記事を書いたとしたら、同じように否定的な思いを抱くと思う。
しかしただひとつ声を大にして伝えたいのは、僕が長々とランキング付けをしている理由はひとつで『読者の方々にとっての更なる音楽の出会いになってほしい』というその一心だけなのだ。「ヨルシカいいじゃん」でも「集団行動の歌詞凄い」でも始まりは何でも良い。1組だけでも興味を持ったら。聴いて良いと思ったら。その際はCDを購入したり、あわよくばライブに足を運んでほしい。
YouTubeの関連動画や友人のカラオケ、街中で流れる音楽のように、今回の記事が何となくあなたの新たな音楽の引き出しを開けるその契機になれば幸いである。
次回は1年後。お楽しみに。