キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

個人的ベストCDアルバムランキング2022 [5位〜1位]

こんばんは、キタガワです。

政治やパンデミックなどなど……。2022年は例年以上に、何かを思考することが多い年だった。ただそんな中でも音楽は我々に寄り添い続け、今を生きる我々に繋がる役目を果たしてくれたことには改めて感謝の気持ちしかない。さて、昨年からゆるりと書き記してきた『CDアルバムランキング2022』も、今回がラスト。第5位〜第1位の今回の発表をもって(あくまで個人的な)2022年度のアルバム評価の締め括りとする。読者の皆様方それぞれの愛する作品と一緒に、思い出に浸る感覚でお読みいただければ幸いである。
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5位
瞳へ落ちるよレコード/あいみょん
2022年1月11日発売

【やっぱり歌の力だなあ】
毎年コンスタントにアルバムをリリース。シングル曲もタイアップ続々決定と、今やポップシーンの最前をひた走るあいみょんである。近年では「曲がどんどん浮かんでくる」といった趣旨の発言もあった通り、ペースを落とさず作品を量産。その1年間の集大成が『瞳へ落ちるよレコード』で、結果公式MVが制作される(=自信がある)楽曲が多数収録された大名盤となった。

先に記した新進気鋭のAdoや稲葉曇らと比べると、長年に渡って活動を続けるあいみょん。そのため楽曲には新鮮なサウンドなどではなくて「あいみょんってやっぱりこうだよね!」という、広く知られた『あいみょん像』の盤石さが求められるように思う。そんな期待値が高まった今作は、これまでの彼女の歩みの集合体とも言うべき代物に。元カレの宅配ボックスの暗証番号をタイトルに冠したバラード“3636”をはじめ、若者への応援歌たる“双葉”、果ては《オムライスの返り血を受けて 私はようやく恋の終わりに気付いた》と歌詞的な成長をも見せる“ペルソナの記憶”といったアルバム曲の出来も素晴らしい。そのためタイアップ多数と言えど、全体としての満足度はかつてないものだ。

“君はロックを聴かない”のバズによって知名度を上げたのはかなり前の話だけれど、質を落とさぬアルバムをコンスタントに出し続けて数年。今では絶大な信頼度でリリースを待てる、高みに到達した感がある。今年はややペースは緩くなるような気はするが、それでも今作がもたらした意義は大きい。……あいみょんはきっと今年も音楽を生み出すし、その経験を元に、新たな音楽が生み出されるのだろうと確信する、そんな名盤。

あいみょん – 3636【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube

あいみょん - 双葉【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube

 


4位
ラブホリック/P丸様。
2022年9月28日発売

【声質とサウンド変化、アンド『恋愛中毒』】
チャンネル登録者数260万人超えのYouTuber業を続けつつ、前作『Sunny!!』で鮮烈なアーティストデビューを飾ったP丸様。のセカンド。明るいポップを主体とし、カバーやコラボ曲も多数配置した前作とは異なり、今作のメインテーマに冠されているのは『ラブホリック(恋愛中毒)』。そのため純愛やメンヘラ、失恋、果ては浮気調査まで、アルバムには様々な恋愛模様を想像させる楽曲が並んでいる。

P丸様。の音楽的魅力は実際のYouTube動画同様、その千変万化な声だ。過去曲の“シル・ヴ・プレジデント”がシーンごとに変わるその声質をもって急速に浸透したように、今作においても楽曲ごとに声的な差別化が図られている。ただそれ以上にアーティストとしてパワーアップした点は、アルバム全体のサウンドに振り幅が出来たことだろう。……キラキラなアイドルイメージの“ラブホリック”でうっとりしたかと思えば、不穏なサイレンが鳴り響く“ヒミツ警察”で我に返り、“ないばいたりてぃ”と“MOTTAI”ではついにギターを廃した打ち込み展開に挑戦。アルバム全体を通して見ても、飽きさせない工夫が随所に張り巡らされているのは明確なプラスポイントだ。

昨今は特に認知度を大切にする視点からか、元々広く知られている芸能人やYouTuberらが音楽活動をする流れは加速の一途を辿っている。また音楽業界のウラの話をしてしまえば、楽曲提供者にとってもバズの可能性の高いこの話は願ったり叶ったりだし、アーティスト側もある意味では活動の一環として新たなフェーズに進む旨味もある、要はWin-Winの関係性なのだ。そんな中で重要なことは何かといえば、やはりアーティスト本人の声的な魅力と楽曲制作者とのマッチ度。今回に関してはその点『ラブ』というP丸様。らしいワードをメインに据えたことで、非常に高い水準で彼女の強みを引き出しているのは素晴らしい。音楽系YouTuberならいざ知らず、特にセカンドでは認知度がマイナスとして作用することも多い音楽活動をここまで成功させたのには、改めて驚いた。

【MV】ときめきブローカー/P丸様。 - YouTube

【MV】ちきゅう大爆発/P丸様。 - YouTube

 


3位
アルバム/森七菜
2022年8月31日発売

【他の全てを上回る、歌う楽しさ】
映画やCM、ドラマ出演と、今やテレビで観ない日はない売れっ子女優となった森七菜による初のデビューアルバム。YOASOBIのAyaseをはじめポップネスの森山直太朗、コレサワ、更には映画監督の新海誠など、多数の豪華作家陣によって作り出されたこの作品はシンプルに『アルバム』と題され、未踏の地に足を踏み入れた実感を抱かせる1枚となった。

先に辛めの評価をしてしまえば、今作において彼女の歌声については実はそこまで重要ではない。むしろ技術面では我々と同じで、いわゆる普通の人が歌ったような響きがあったりもする。しかしながら今作はひとえに、森自身が『歌を歌う楽しさ』を存分に発散している……その一点において、グンと評価されるべきものだと考えている。

特筆すべきは、シングルカットされた“スマイル”とPUFFYのカバー曲“愛のしるし”。これらは今作の中でも軍を抜いて『1度聴いたら誰でも歌える』楽曲なのだが、どうだろう。聴き続けているうちに、口ずさみたくなる求心力に気付きはしないだろうか?これこそ個人的には今作の何よりの強みであると思っていて、その他の壮大な“カエルノウタ”やミドルポップさが印象的な“深海”、甘酸っぱい恋愛ソング“君の彼女”まで、良い意味で「この曲わたしも歌いたい!」と思わせてくれる楽しさがある。このアルバムは森の音楽を歌う愛情が具現化されたものなのは間違いないが、その楽しさが我々にも伝播した結果、今作は2022年最上の『歌えるアルバム』として確立したのだ。

特に2022年はVTuberを筆頭として、アーティストを本業とする者以外の音楽が台頭した時代でもあった。それは確かに良いことだと思う一方で「あの推しが歌を歌ってる!」という、元々広く知られているキャラクター性がプラスに作用していた感もあったのは否めない(例:ぼっち・ざ・ろっく!、やす子のTwitterラップ動画、星街すいせいなど)。翻って今作はこれまでドラマの知名度で培われた『森七菜らしさ』を極力排除し、純粋な新人アーティストとしての視点で、全編進行している。総じて「音楽って文字通り音を楽しむことだよなあ」と感じることのできる珠玉の作品。

森七菜 スマイル Music Video - YouTube

森七菜 愛のしるし Music Video - YouTube

森七菜 背伸び Music Video - YouTube

 

 

2位
LOVE ALL SERVE ALL/藤井風
2022年3月23日発売

【2022年、ポップ最上位のひとつ】
2022年はよもやのシークレット枠での2年連続紅白出場を果たし、更には遠く離れたタイで日本のアニメ動画を紹介するTikTok動画を機に“死ぬのがいいわ”がバズを生み出してしまったり……。いろいろと予測不能な追い風が印象的だった藤井風のセカンド。

『知名度の高さは音楽の質の良さに比例する』というのは大前提として、間違いなく藤井風の作品は現次元での日本のポップスの最上位にあると思っている。……ただご存知の通り日本にはハチャメチャな数の音楽がある訳で、その中で『ポップの最上位です』とベタ褒めすることには、相応の理由がなければならない。

そうしたことを踏まえて『LOVE ALL SERVE ALL』。今作に高い評価を下す理由の大部分は、そのクリエイティブの引き出し。もっとも作詞作曲の部分は藤井風本人がピアノ&歌入りの段階でアレンジャーに手渡しているので、そこでどんな話が展開されているかは知らない。ただ出来上がった楽曲のひとつひとつを見ると、音楽関係者の意見を取り入れる柔軟性の高さが最良に作用している印象を受けるのだ。尺八の音を用いた“へでもねーよ”をはじめ、ストリングスを緩く鳴らしたバラード“それでは、”。はたまた雰囲気的にも夏の在りし日を回顧させる“まつり”と、前作『HELP EVER HURT NEVER』がピアノ主体のサウンドだったのに対し、楽曲ごとの色をしっかりと付けた今作はアルバム数枚分に相当する満足度を誇っている。

様々な音楽が生まれた2022年はジャンルの垣根がほぼフラットになったのはもちろん、楽曲ごとに作曲者が異なったりTikTok経由で突然バズったりと、その触れ方も多様化した年だった。ただ少なくとも『2022年にリリースされたソロアーティストのアルバム』という点で考えたとき、流石にこの完成度を前にすればぐうの音も出ないのが正直なところ。音源でこのレベル、更には藤井風本人にもカリスマ性ありとなればこのブレイクは必然のようにも思えるのだけれど、彼の音楽的実力をグワッと見せ付けた作品、それが今回の『LOVE ALL SERVE ALL』なのだろうと思う。聴き込むうちに深みに嵌まっていく、一生付き合っていける傑作。

Fujii Kaze - Kirari (Official Video) - YouTube

Fujii Kaze - Matsuri(Official Video) - YouTube

Fujii Kaze - Tabiji (Official Video) - YouTube

 


1位
アダプト/サカナクション
2022年3月30日発売

【音楽の未来は託された】
ここまで長々と記してきた当記事だが、今記事を作る際、僕は「音楽にランキング付けは必要なのか」という命題じみたことを毎度考えてしまう。「このアーティストしか聴かない!」「テレビで流れてきた音楽くらいしか知らない」という人が圧倒的多数な中で、何をもって1位とするのがベストなのだろうと。……今回、サカナクションの『アダプト』が頂点の座に着いた。では、何故このアルバムはここまで評価されるべき1枚になったのか。その理由はやはり『音楽の未来を見据えた探求性』にあると思っている。

サカナクション……というよりフロントマンの山口一郎はご存知の通り、楽曲制作に多大な時間をかける人物。今回もミニアルバムとは言え、前作『834.194』からは3年以上が経過、ようやくのリリースとなった訳だけれど、今回は長引いたその理由こそが『音楽の未来の探求』なのだ。従来のこだわりはもちろん、今作には『アダプト』と2023年以降リリース予定の『アプライ』を対にして、2枚組で完結させる仕組みを取り入れているのだから。

今作は『サカナクションがコロナ禍で巻き起こる現象にどのように"適応"してきたのか、また"適応"していくのかを体現する』をコンセプトに進行していく。まだ『アプライ』がリリースされていないので完成間近での評価にはなるが、それでも。今作の楽曲は全てがパーフェクトで、少しの穴も見当たらない。まずはインストゥルメンタルの“塔”から幕を開け、続く“キャラバン”では異国の地に迷い込んだようなポップス。“月の椀”と“プラトー”ではシンセ的なロックで畳み掛けつつ、以降は爆発する新機軸たる“ショック!”やバラード曲“シャンディガフ”、そしてコロナ禍の生活に焦点を当てた“フレンドリー”まで……。それぞれに異なる求心力を秘めた楽曲群を聴くうち、気付けばアルバム全てが終わってしまう読後感もある。

他にも素晴らしい点はいくつかある。価格はなんとサブスク時代を鑑みてなるべく安くしようと、破格の約2000円。音質はハイレゾ以外でも明瞭に聴こえるようこだわりつつ、楽曲の振り幅は大きく飽きさせない。そして歌詞に関しては主に『コロナ禍』のメッセージ性が散りばめられていて、それはようやく感染状況が落ち着き始めたこれからの時代に、運命を託すように鳴り響いているのだ。それら全てを総合した完成度の高さは、今作を『最強のアルバム』と断言するに相応しい。

サカナクション / ショック! -Music Live Video- - YouTube

サカナクション / プラトー -Music Live Video- - YouTube

サカナクション / 月の椀 -Music Live Video- - YouTube

 


……さて、これにて2022年の『CDアルバムランキング』は終幕。また最終選考結果は以下の通りである。

20位……People In Motion/Dayglow(初)
19位……Hellfire/black midi(初)
18位……our hope/羊文学(初)
17位……物語のように/坂本慎太郎(初)
16位……Versus the night/yama(初)

15位……酸欠少女/さユり(初)
14位……狂言/Ado(初)
13位……Bering Funny In A Foreign Language/The 1975(2年連続2回目)
12位……As you know?/櫻坂46(初)
11位……Wet Leg/Wet Leg(初)

10位……Cとし生けるもの/リーガルリリー(初)
9位……C'mon You Know/Liam Gallagher(5年ぶり2回目)
8位……PLASMA/Perfume(初)
7位……ウェザーステーション/稲葉曇(初)
6位……素晴らしい世界/森山直太朗(初)

5位……瞳へ落ちるよレコード/あいみょん(3年連続3回目)
4位……ラブホリック/P丸様。(2年連続2回目)
3位……アルバム/森七菜(初)
2位……LOVE ALL SERVE ALL/藤井風(初)
1位……アダプト/サカナクション(2年ぶり2回目)

 

今回の選評にあたり今年リリースされた様々なアルバムを吟味したのだけれど、改めてハッとしたのは、その豊作さだった。コロナ禍の始まりとピークを経て、特に今年の作品はほぼ元通り……。また森山直太朗やサカナクションのようにこの辛かったコロナ禍を後世に残すような試みもあり、音楽の力を肌で感じた次第である。

今回の結果としてはこのような形になったが、冒頭でも記した通りこれには個人的な主観も多く、人それぞれにベストアルバムは異なるはず。そしてそれらの音楽を貴方自身が、誰よりも愛してほしいと願っている。……2022年、貴方が選ぶベストアルバムは何だっただろう。また今年もたくさんの音楽と出会えるよう願いを込めつつ、今記事の締め括りとしたい。