こんばんは、キタガワです。
ソーシャルディスタンス、マスク生活、日々増加する感染者数。思えば昨年の2020年は未曾有の混乱に翻弄され続けた1年だった。生活を下方修正しないためにどう動くのか、変わり果てた日常で何に重きを置くのか。趣味だ生き甲斐だと言うよりも何とか感情がマイナスに寄らないように各自が模索しながらもがいた1年であることは、もはやこの場で特筆するまでもないだろう。
対して今年2021年はどうだったのかと言えば、長きに渡る強制的なニュースタンダードな経験を経て、ある種前向きに活動を見詰め直した1年だったように思う。確かに夏にかけて感染者数が過去最高を記録したりとネガティブな事象も数多くあったけれど、それでも。理解して順応して、如何に自分らしい生活が出来るかをこの環境下で多くの人が考え、トライした。特にこの1年は改めて人間のタフさというか、個々人における思考のが如何に重要なのかを考えさせられた。
翻って今年の音楽シーンに目を向けると、特にアルバムに関しては確実に、昨年以上にコロナ禍の影響を受ける作品が多数リリースされたのはとても重要なポイントとして位置している。その理由は純粋に『昨年の自粛期間中に制作を始めた作品のほとんどが今年にリリースされたから』なのだが、逆に考えれば自粛期間を経てこれまでとは違う楽曲にトライする方向に舵を切る絶妙なタイミングだったのがコロナ禍だったり、この時代だからこそ前向きな楽曲が新たなメッセージ性を伴ったりと、より一層の音楽という娯楽の自由度を感じさせる作品が多かった印象だ。もちろんTikTokやYouTubeといった動画配信サービスを有効的に利用する動きも昨年に引き続き行われていて、音楽的な意味でも本当にフレッシュな1年だったように思う。
以上のことを踏まえて、遂に4年目(アメブロ時代から数えると5年目)に突入した当ブログ恒例の『CDアルバムランキング』2021年版である。今回も例年通りカバーアルバムやベスト版、EPといった形態のCDは選考対象外とし、あくまで曲単位でなくアルバム全体の完成度を評価した上で20位から1位までのランキング形式で選考、その全てを論評付きで紹介していく。簡単に結論だけを先に記しておくと、今年は20作中18作がお初のアーティスト。更にはその大半がソロ、ないしはファーストアルバムというまさしく新機軸な構成となった。……これまでと同様に、今記事が読者にとって重要な代物になるとは露ほども思わない。しかしながら少なくとも新たな音楽との出会いの契機になる可能性だけは、十二分にあるはずだ。
→2020年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位)
→2019年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位)
→2018年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位)
→2017年度版(20位〜16位)(15位〜11位)(10位〜6位)(5位〜1位)
20位
odds and ends/にしな
(2021年4月7日発売)
【Z世代の呟きが見据える孤独感】
昨年辺りから広く使われるようになった、90年代後半に生まれた若者を指す『Z世代』という言葉。この言葉に明確な定義は成されていないものの、スマートフォンやSNSと距離が近いことがZ世代の最大の特徴とされ、ある意味では個人主義的。1990年以前に生まれた人々よりあらゆる物事を柔軟に解釈したり、独自の解釈で仕事にトライしたりといったフットワークの軽い点はプラスに評価される傾向にある。……ただ、Z世代のもうひとつの特徴として言われているのがインターネット依存(デジタルネイティヴ)的部分。特にSNSはその象徴的な存在で、誰とも繋がりを持てる代わりに自分自身がどう見られているか、また心から許せる関係性なのかどうかを常に心配に感じてしまうことで精神的な不調をきたす者も多かったりする。
突如音楽シーンに現れたSSW・にしなも、Z世代に当て嵌まる23歳。彼女が歌う恋愛の楽曲には詳しい明言こそ避けられているものの、例えるならば一緒の部屋にいるにも関わらずスマートフォンをイジるばかりで相手にもされないような、絶対的な孤独感がある。ひとりきりの夜も人との繋がりも、恋人との1日も……。傍から見れば「充実してるね」と言われて然るべしなそれらの日常も彼女は『孤独』と断言し、そうした感情を敢えて隠すかのようにサウンドは歪んだギターを主としている。彼女が脚光を浴びたのは“ヘビースモーク”の弾き語り映像からだが、最大限の強がりが更に孤独を加速させる悪循環はきっと、多くの若者の思いともリンクしたはずだ。
かつて「ゆとり世代が〜」と揶揄されることが社会問題となり、ゆとり世代として槍玉に上げられている人々が一斉に大人への不満を口にする時代があったように、おそらくそんな時代に似た「Z世代が〜」的な場面もあと何年かすれば訪れることだろう。そんな中でZ世代が最も共感する代物があるとすれば、やはり同じZ世代が作り出す代物に他ならない。今回の彼女のブレークは言わばいち早く到来した、今を生きる若者の内なるメッセージなのだろう。
ヘビースモーク / にしな【Music Video】 - YouTube
ケダモノのフレンズ / にしな【Music Video】 - YouTube
19位
FOREVER DAZE/RADWIMPS
(2021年11月23日発売)
【我々はコロナ禍を経てどう生きるべきか、その答え】
コロナ禍に憂うこの1年9ヶ月あまり、音楽番組やツイッターを通してメッセージを放ち続けてきたのがRADWIMPSのボーカル・野田洋次郎だった。政府に怒り、自粛に悩み。中でも彼がコロナ禍をテーマに生み出した主な楽曲“新世界”と“Light The Light”、“ココロノナカ”の3曲は字幕付きで世界中に届けられ、多くの人々に活力をもたらしたのは記憶に新しい。
ところが『FOREVER DAZE』にはこれらの楽曲は一切収録されず、結果として初収録の楽曲が大半を占めるある意味では意外性の強い1枚となった。にも関わらず今作に収録された楽曲の歌詞を見てみるとコロナ禍を連想させるもので溢れ、それら全てがネガティブで終わらないのは何故かと言えば答えはひとつで、野田は「このコロナ禍を最悪な出来事として記憶しながら前に進むしかない」と捉えていることが分かる。突如襲来したウイルスに悩まされながらも《揺るぎないものがほしかった/壊れない意思がほしかった》と無理矢理ポジティブに変換する“鋼の羽根”も、インターネット上の自粛派と反自粛派の言論に心からの苛立ちを見せる“匿名希望”も、その全てが最後は前向きなフレーズで締め括られる。それは「俺はこう生きるつもりなんだけどみんなはどう?」と問い掛ける、野田なりの励ましのようでもある。
そうした徹底してコロナを想起させる流れで突き進む今作のラストを飾るのは、リード曲たる“SUMMER DAZE 2021”。《「なんでこんな目に遭わなきゃならないんだ」「なんでもっと違う未来に出来なかったんだ」》……。英詞を用いて悲劇的に歌われる歌詞を経て、最後は壮大な大合唱で幕を閉じるこの楽曲をどう捉えるかは人それぞれだろうが、今作をじっくり聴き進めていった人なら、何となくでもその言わんとすることは把握出来るはず。こんな最悪な時代の今だからこそ生まれ落ち、またコロナ収束後に「あんな時代もあったなあ」と回顧するためにも重要な1枚。
RADWIMPS - SUMMER DAZE 2021 [Official Music Video] - YouTube
RADWIMPS - 鋼の羽根 [Official Music Video] - YouTube
18位
呼吸/あれくん
(2021年9月29日発売)
【死にたくなるような大恋愛を超えて】
「10代のうちに絶対に経験しておくべきことは何か?」……。日本でも海外でもインターネット上の多くの媒体がアンケートとして行っているこの問いに対して、必ずといって良いほど挙げられるのが『勉強・友人との思い出・恋愛』の3点である。特に最後の恋愛に関してはその後の長期的な交際や結婚といった意味でも大切とされており、少し話を逸らしてしまえば、現在では大恋愛を経験した人が大多数であるという前提に基づいて恋愛作品を売り出すのがバズの近道であるとされるほど、様々な面で『恋愛』は最も共感しやすい要素として確立している。
もちろん恋愛の共感性は音楽にも存在する。ストレートな告白系の楽曲は思わずキュンキュンしてしまうものだし、対する失恋系の楽曲は同じように失恋経験のある人々の肩を叩く。それはTikTokで話題となり、今作『呼吸』が自身初のアルバムとなるあれくんも同様で、収録されている全楽曲が恋愛楽曲。ただこの世に多く制作されている恋愛ソングとあれくんと楽曲で絶対的に異なる点があるとすれば、それは相手とのかつての思い出と、それでも諦め切れない感情が綴られている点である。「好きになった理由は?」「どんな最高の思い出ができた?」「何で関係が終わったと思う?」……。ともすれば曖昧にされて叱るべきなそれらの質問に「彼のこれが好きで、私のここが駄目だったと思う」と真っ向から回答し自分では納得しながらも、それでも諦められない悲しき大恋愛。あれくんはおそらく実体験であるであろうそれらの思い出をとてつもないストレートさでぶつけ、中性的な歌声で解きほぐしていて、それらが結果として巨大なバズとなって多くの若者に届いたのだ。
更に興味深いのは、あれくんの今作が現在進行系の傷心したハートに強く刺さる楽曲であるのは間違いない中で、これらの楽曲が完全にかつての大恋愛を乗り越えた先……。具体的には半年・1年経ってようやく断ち切ったはずの過去の恋愛を再び思い出す罪な役割をも担っていること。「私もこんなことあったよ」「やっぱりあの人のことが大好きだったんだなあ」とは実際にYouTubeとあれくんのSNSのリプライで見た言葉だが、様々な大恋愛を超えた人々が更に他者への共感と恋愛回顧に繋がる流れを作り出したあれくんは、ある一定の人々にとっては救いにも似た存在なのではなかろうかと思ったりもする。
好きにさせた癖に/あれくん【Official Music Video】 - YouTube
ずるいよ、、、/あれくん【Official Music Video】 - YouTube
17位
よすが/カネコアヤノ
(2021年4月14日発売)
【最高に『いつも通り』な名盤】
年1ペースで楽曲をパッケージングしリリースするカネコアヤノが今年もアルバムを発売。タイトルは『よすが』で、拠り所や身寄りの意味を持つ言葉なのだそうだ。ただ予想外の生活が続く中でも今作はネガティブな情報は極力歌詞に入れず、どこまでも自然的。カネコが実際に感染し、長期間の休養を余儀なくされた時はアルバムにも影響が及ぶのだろうと考えていた中で、全くと言っていいほどコロナを感じさせないいつも通りの作風に徹しているそれは、同時に我々が望むカネコアヤノのアルバムの理想形でもあった。
リード曲の“抱擁”から始まり、“手紙”で思考を宙に彷徨わせ、“栄えた街の”のサウンドを楽しみ、“窓辺”でまどろんでいるうちに楽曲のテンポもどんどん緩やかになっていき、ラストの“追憶”でギター1本の弾き語りによって締め括られる『よすが』。アルバムを再生しながら何となく日々を過ごしていると気付けば時が過ぎていく音楽は、カネコアヤノならではだ。敢えて荒い表現をするならば、1曲1曲を厳選して聴くアルバムではなく、間違いなく全体でひとつの作品とするアルバム。故に「この曲とこの曲が良いよね!」という感想よりはもっとフワリとした抽象的な感想を抱くのが今作なのだが、これがとてつもなく心地良かったりもするから不思議。
どんな状況にもマッチし、聴く人によって全く異なる意味合いを見せるカネコアヤノの音楽。繰り返すが、今作が心にヒットした人は100%カネコの他のアルバムも好む人間なので、新たな出会いの契機としても完璧。そしてこれまで彼女の楽曲に親しんできた人ならいつも通りの安心感に身を委ねられる代物である。言葉で言い表すことが難しいこのアルバムを定義するのはまずもって野暮だけれど、必ずや何かのプラスになる作品とでも言おうか……。とにもかくにも、とてつもない魅力を孕んだ名盤。
16位
天才の愛/くるり
(2021年6月12日発売)
【実験の果てに辿り着いてしまったクレイジーサウンド】
待望の13枚目となるくるりのアルバム『天才の愛』を全曲聴いた後、謎の笑いが込み上げてきた。これまでもくるりのアルバムを聴くたびに楽曲に口をあんぐりさせる場面はあったが、今作は間違いなくアルバム全体が大問題作。
今作を一言で表すならば、それは『病的なまでにサウンドを探究した作品』というのが一番しっくり来る。思えばくるりは前作『ソングライン』あたりから、ひとつひとつのサウンドを異常なまでにこだわりつつ、それらをどう違和感なく聴かせるかを徹底的に探求するようになった。機械で加工したボーカル。炭酸のシュワシュワ感。細かなパーカッション……。実際それらを異様な数重ね合わせたひとつの到達点が“ソングライン”だった訳だが、今作は本当に全曲が全曲、あり得ないレベルでサウンドの宝石箱状態になっている。一聴すれば程よいポップス、だがしっかり集中して聴いた瞬間に思わず笑ってしまうこと請け合いのサウンドの濁流は、以下の“コトコトことでん”と“I Love You”で一度体験してほしいところ。
ただそうした中でも遊び心を忘れないのがくるりらしさで、アルコールを開ける音を題材にした“ぷしゅ”や何音重ねているのかもはや分からなくなるカオス曲“大阪万博”、全てが意味不明なホンワカロック“益荒男さん”、果ては岸田繁(Vo.G)の野球愛が爆発した“野球”など、どこを切っても新鮮な楽曲がギュッと凝縮されているのも素晴らしく、もちろんサビの求心性も健在なので置いてけぼりを食らうこともない。なお今作をライブで完全再現するのはチューニングをその都度変えなければならなかったり、楽器が何十個も必要になる観点からほぼ不可能であるらしく、逆に言えばCDという媒体で聴ける限界に挑戦したアルバムでもある。……結成25年にして遂に辿り着いてしまった、くるりの新境地。日々繰り返される探求が生んだ今作はまさしく、音楽の天才が音楽を愛し過ぎるが故に完成させた、究極の音楽実験結果なのだろう。
くるり - コトコトことでん (feat. 畳野彩加) - YouTube
……20位〜16位までの発表が終わり、若き代弁者やコロナ禍のリアル、サウンドの探求者など早くもフルスロットルで衝撃的なアルバムを多数紹介してきたが、今回はここまで。次回はテレビドラマに連日出演する令和を代表する女優から、サブスク1位の再生数を記録したニューカマー、登録者数200万人・ツイッターフォロワー数70万超えのYouTuberの処女作までを一気に紹介。今記事が読者の方々の新たな音楽との出会いに繋がることを夢見て、全力で書き進める所存である。乞うご期待。