キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

個人的CDアルバムランキング2019[20位~16位]

こんばんは、キタガワです。


遂に今年もこの時期がやってきた。執筆にかける時間とアクセス数が全く釣り合わないと巷で噂の年末恒例企画、『個人的CDアルバムランキング』である。


その年に発売されたアルバムを独断と偏見でランク付けするこの企画は早いもので今年で3年目。更に個人的な話で恐縮だが、今年は有り難いことに音楽ライターとしての活動が活発化した運命的な年でもあった。しかしながらそれに伴って『音楽を3時間以上聴いていない日が1日もない』という未曾有の領域に突入してしまったことからも、選考は過去に例を見ないレベルで難航した。


さて、今年も今までと同様に今年発売されたアルバムとミニアルバムに絞り、なおかつ『曲単体ではなくアルバム全体として評価する』ことを第一義として選考を行った。なお選考対象外のもの、並びに過去のアルバムランキングについては以下の通りである。

・ベスト版
・リマスター版
・シングル
・カバーアルバム
・EP
・ライブ会場限定CD
・サウンドトラック
・レンタル限定CD

アルバムランキング2018はこちら→(~16位)(~11位)(~6位)(~1位

アルバムランキング2017はこちら→(~16位)(~11位)(~6位)(~1位


……令和に突入した2019年。今年のランキングは何と初のランクインが14組、更には女性ボーカルのアーティストが半数を占め、例年ランクインしていたアーティストも選考漏れとなるなど、正に令和の新時代に相応しい結果となった。


それでは以下より、20位から16位までをそれぞれの短評と共に発表していこう。

 

20位
二歳/渋谷すばる
2019年10月9日発売

f:id:psychedelicrock0825:20191226230602j:plain

昨年末、社会的にも音楽的にも確固たる地位を確立するアイドルグループ、関ジャニ∞からの衝撃的脱退を発表した渋谷すばる。そんな世間を大きく震撼させた突然の申し出から1年が経ち、ほぼ沈黙を守ってきた彼の一手が遂に明らかとなった。それこそがソロ名義では初のアルバムとなる今作『二歳』である。


特筆すべきは、冒頭を飾る1曲目の“ぼくのうた”と名付けられたリード曲。この楽曲では誇張でも何でもなく、彼が何故人気絶頂にある関ジャニ∞を辞めてまで再び音楽を始めたのか、そして何故今ソロとして音楽を選ぶ必要があったのか、その心の内が飾らない言葉で綴られている。


《もしこの声に聞き覚えがありましたら》

《今日までの色んな出来事を聞いてくれませんか》

《もしこの僕に見覚えがあって興味がありましたら》

《これからも頭の端っこにそっと居させてくれませんか》


前述した“ぼくのうた”のみならず、アルバム全体で見ても使われる楽器はギター、ベース、ドラム、ハーモニカのみと、ひたすらシンプルに削ぎ落とされている。歌詞についても《トラブラーだからトラベラー》のリフレインがぐるぐる回る“トラブルトラ ベラ”、《なんにもない なんにもないな》と歌われる“なんにもないな”など、極端にシンプルな構成となっているのが印象深い。


あのお馴染みの声で鳴り響くのはフラワーカンパニーズを彷彿とさせる泥臭い音の塊で、そこにはテクニックもハイクオリティな試みも一切ない。ただひたすらがむしゃらに鳴らされる音、音、音……。それは関ジャニ∞と比較しても似ても似つかない、あまりに無骨なひとりの男の生き様だ。


しかしこのアルバムを聴けば誰しもが、渋谷がかねてより夢見ていた行動こそがソロデビューであり、その行動に至るまでには絶対的に関ジャニ∞を脱退する必要があったのだと、改めて思い知らされるはずだ。強い信念と熱意を携えて作られた今作は「自分はソロシンガーとしてはまだまだ新米である」との思いを込めて、やっとたどたどしくも言葉が話せるようになる年頃である『二歳』と名付けられた。


来年からは当アルバムを携えての全国ツアーも決定しているが、現時点でキャパシティを大幅に上回る応募が殺到している。間違いなく集まる大半は関ジャニ∞時代からのファンだろうが、何年か経った頃には「ミュージシャン・渋谷すばるのライブを観に来た」と語る純粋な音楽ファンがライブに行く予感がすると同時に、そうであってほしいと切に願う。

 


渋谷すばる『ぼくのうた』 [Official Music Video]


渋谷すばる「アナグラ生活」先行配信中!

 

 

19位
WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?/Billie Eilish
2019年3月29日発売

f:id:psychedelicrock0825:20191226230953j:plain

YouTubeの総再生数は45億回を超え、実兄であるフィニアス含めグラミー賞で11部門ノミネートと前人未到の偉業を達成してしまった、今月18歳の誕生日を迎えたビリー・アイリッシュ。


既に海外における10代の女子を中心に一種宗教的なポップ・アイコンとなっているビリーだが、そんな彼女の勢いが加速度的に増すひとつの契機となったのが今作『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(眠りについたらどこに行くの?)である。


アルバムは「歯列矯正したからめっちゃアルバム歌いやすいわ!」とビリーが爆笑する僅か13秒の“!!!!!!!”から幕を明け、本人もメディアで「何でこんなに売れたのか意味が分かんない」と何度も語っていた“bad guy”、黒い涙を流す衝撃的なMVにメディアが沸いた“when the party's over”など、終始陰鬱なムードに包まれた今作は、流行歌として街中で流れるものとしてはあまりにダークかつホラーである。だが実際このアルバムは街中で今なお流れまくっているどころか、アメリカとイギリスではアルバム1位を獲得。ライブ映像等を見ると分かるが、ビリーの存在は日本で暮らす我々がイメージする以上に、かつてのジャスティン・ビーバーと同等か、それ以上のムーブメントを巻き起こしている。


しかしながら今ビリーがここまで若者にとってヒーロー的存在を担っているのは、必然であるとも思うのだ。2019年現在、世界各国では様々な問題が巻き起こっている。ビリーが暮らすアメリカだけで考えても、市販薬の過剰摂取による10代~20代の若者の死亡事故が多発していることや、現トランプ政権による貧困層と富裕層の格差拡大、黒人への差別など、数年前と比べて格段に混沌化している。


映画『ジョーカー』が大ヒットを記録し、香港では連日デモが行われ、日本においても桜を見る会や消費税増税に異を唱える人々が増えているように、間違いなく今の人々にはそうした『クソッタレな今』に対して徹底してNOを突きつける姿勢が見受けられる。このアルバムはそうした『今』を切り取り、直接的な表現でもって白日の元に晒す稀有な存在を担っている。


今作がここまで流行っている現状を見て「この世はまだまだ捨てたものじゃないな」と思ってしまうのは、僕が純粋に歳を取ったからだろうか。いや、必ずしもそうではないはずだ。

 


Billie Eilish - bad guy


Billie Eilish - when the party's over

 

 

18位
LIP/SEKAI NO OWARI
2019年2月27日発売

f:id:psychedelicrock0825:20191226231045j:plain

今年は『EVE』と『LIP』という2枚のフルアルバムの同時発売に至ったセカオワ。長らくアルバムをリリースしてこなかった彼らの活動を見ていると一見シングルの寄せ集めのようにも思えるが、実は2枚には明確な差別化が図られている。『EVE』はダークかつ実験的な楽曲を主とし、対して『LIP』は歌メロを重視しつつ口ずさみやすい楽曲を多く収録。


完全に二極化したふたつのアルバムを、バンドの中心人物であるFukase(Vo)はこう語っている。「『Lip』と『Eye』は口と目なんですけど、僕は両方語るものだと思っていて。『Lip』は口から出てくる希望みたいなものを歌っていると思うし、『Eye』は希望というものを見てる目って感じで」……。


けれども今までセカオワは“スターライトパレード”や“RPG”、“Dragon Night”といった口ずさみやすくメロ重視の楽曲を軸として人気を獲得してきたバンドであることを鑑みると、やはり個人的にはセカオワ像を地で行く形を貫いた『LIP』に軍配。『LIP』にはお茶の間に広く鳴り響いたオリンピックテーマ曲“サザンカ”、ジブリアニメの主題歌に抜擢された“RAIN”、昨今ではライブの定番曲と化している“YOKOHAMA blues”など、広く受け入れられてきたセカオワ像をはっきりと体現する楽曲が多く収録されており、耳馴染みの良さはピカイチと言って良いだろう。


今年はメンバーの結婚・出産のみならず、ライブではDJ LOVE(DJ)がドラムに転向したりがベースを担ったりと、大幅なパートチェンジが話題となっているセカオワ。残念ながら今年の紅白歌合戦の出場は叶わなかったものの、未だライブは全公演ソールドアウト、かつオリオンチャートでも上位に食い込む彼らは、必ずや来年も話題の中心を担うことだろう。

 


SEKAI NO OWARI「サザンカ」


SEKAI NO OWARI「RAIN」Short Version

 

 

17位
i/上白石萌音
2019年7月10日発売

f:id:psychedelicrock0825:20191226231103j:plain

テレビ番組や舞台の出演のみならず、音楽活動も次第に本格化しつつある若手女優、上白石萌音(かみしらいしもね)。前作から約2年。満を持して放たれるミニアルバム『i』は、自身2枚目となるオリジナルアルバムとなる。


思えば彼女が『君の名は。』の宮水三葉役として抜擢され、認知度を飛躍的に高めたのはもう3年も前のこと。昨今では映画やドラマの出演で多忙を極める他、昨年は映画『羊と鋼の森』にて妹の上白石萌歌と共演し、その妹である萌歌は今年Adieu(アデュー)名義でCDデビューを果たすなど、姉妹揃って音楽活動が活発化したのも印象深い。


今作における最大のストロングポイントはやはり、全作に比べて圧倒的にパワーアップした歌唱力だろう。言わずもがな、彼女が歌手活動を始める契機となった出来事は『君の名は。』の一大ブームだったわけだが、当時は良くも悪くも『人気映画のヒロインが歌手デビュー』といったタイアップ的要素を前面に押し出す形で売り出されており、事実初のアルバムはRADWIWPSの“なんでもないや”を含めた全曲がカバー曲。言い方は悪いが、かつては上白石萌音というひとりの歌手としてではなく、世間の注目を集めるためのひとつの有効的手段として歌手に起用された感は、どうしても否めなかったのだ。


しかしながら今作では、完全にいちボーカリストとして自立した印象を受ける。ヨルシカのn-bunaが作曲を務めた“永遠はきらい”に始まり、時にポップに、時にメロウに変幻自在に雰囲気を作り替えるそのスタイルは、まさに歌手・上白石萌音のひとつの到達点と言える代物。


少し話は逸れるが、個人的に現在は『ある程度認知されている人が歌を歌えば話題になる』という、ミュージシャンとしては一種地獄のような時代であると思っている。それこそ今年はタレントや声優、YouTuberやVTuberなど『様々な知名度のある人間』が音楽業界に参入してオリコンチャート上位を独占し、話題をかっさらっていった。


そんな中、上白石萌音の骨太なサウンドにも決して劣らない力強い歌声を聴いていると、それこそ彼女は菅田将暉や桐谷健太のような天性の歌手なのだなあと改めて感じ入るような、強い驚きと感動があった。ぜひまたライブ活動を再開し、広く歌声を響かせてほしいところだ。

 


【好評配信中!!】上白石萌音「永遠はきらい」Music Video

 

 

16位
ウ!!!/ウルフルズ
2019年6月26日発売

f:id:psychedelicrock0825:20191226231121j:plain

バンドの中心人物であるウルフルケイスケが活動休止を発表しスリーピースとなったニュー・ウルフルズ。約2年ぶりとなるオリジナルアルバムである。


まず初めに述べてしまうが、開幕を飾る“センチメンタルフィーバー~あなたが好きだから~”は、間違いなくウルフルズ史上……いや、今年の音楽業界全体を通して見ても最大の問題作だ。

 

かつて一世を風靡した“ガッツだぜ!”や“バンザイ~好きでよかった~”をイメージして聴くと「何だこりゃ!」とぶったまげること請け合い。昭和のアイドルを彷彿とさせるサビ、打ち込みを多用したサウンド、しかもフロントマンであるトータス松本(Vo.Gt)すらまともに歌っていないというまさかの楽曲。しかしながらこの大胆な方向展開はむしろ功を奏している印象で、続く“リズムをとめるな”、“ワンツースリー天国”といったかねてよりのウルフルズ像をより際立せる役割を担っているようにも思う。


長年活動を続けているアーティストであればあるほど、ファンからは「やっぱり初期のアルバムが一番良い」と言われることが多いと聞く。実際自分自身もそうで、ニューアルバムが発売されても一聴しただけで「あーいつもの感じね」と感じ、そこから全く聴かなくなってしまうこともある。


そうした背景を踏まえての『ウ!!!』である。再生ボタンを押した瞬間にアーティスト名を二度見してしまう驚きと新鮮さを与えてくれたこのアルバムは総じて、ウルフルズから距離を置いた人であればあるほどグッとくる存在なのではなかろうか。

 


ウルフルズ センチメンタルフィーバー ~あなたが好きだから~ MUSIC VIDEO YouTube ver.


ウルフルズ “リズムをとめるな” MUSIC VIDEO short ver.

 

 

……さて、いかがだっただろうか。


次回は当アルバムランキング初登場となるアーティストが多数入り乱れる、15位~11位の発表である。乞うご期待。