キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】SUMMER SONIC 2023 大阪1日目@舞洲ソニックパーク

こんばんは、キタガワです。

会場に到着した瞬間にまず思ったのは「ようやくこの日がやってきた!」という、これまでのイメージの帰結的なものだった。コロナ禍と仕事のダブルパンチでライブになかなか行けない生活が続き、指折り数えてやっと到来したこの日を心待ちにしていたのは、きっと自分だけではないだろう。

今回の記事では、そんな大阪サマソニの初日をレポート。アーティストのライブレポはもちろん、今年の運営のアレコレや個人的に感じたことなど、当日の熱量と共に書き記していく所存だ。総じてこの記事が余韻に浸りたい人、あるいはSNSなどで「サマソニ興味ある!」と思っている人などに、広く届けば幸いである。

・サマソニ2022レポ→1day  2day
・サマソニ2019レポ→1day  2day  3day
・サマソニ2018レポ→1day  2day

 

はじめに

これはフェスあるあるだと思うのだが、人間の体はひとつしかないので、全ての音楽を聴くことはまずもって不可能だ。ただ「それなら好きなアーティストを観れば良いじゃない!」と一蹴するのもそれはそれで難しく、観たいアーティストが被っていたりして、泣く泣く断念した音楽もかなりあるはず。……つまるところ、人それぞれに出演アーティストへの思い入れがあって、今回参加者が選んだ音楽の背景には、多くの物語が混在していることは事実としてあったのではないか。

そんな中で自分はと言うと、今年はふたつのテーマを決めて今年のサマソニに臨んだ。まずひとつは『コロナ禍での喪失を回収すること』。これは初日のベガスとmilet、2日目のPerfumeとずとまよが良い例だが、コロナ感染のリスクを考えた末、この3年間で個人的に『チケットを持っているのに行くのを断念した』アーティストがサマソニに多数出演していた。そのためこれらのコロナ禍で行けなかったアーティストのライブは、何よりも優先するよう心掛けていた。

ふたつ目は、体調管理の面。今年のサマソニはニュースでも取り上げられていた通り、熱中症で倒れる人が例年に比べ格段に多かった(詳しくは後述)のだが、結果として自分自身も初日の前半部で倒れかけてしまった。なので『動き回ってなるべく多く観よう!』という予定は早い段階で変更し、ドラクエで言うところの『いのちだいじに』スタイルに徹することとした。なので後半に行くにつれ、最初から最後までフルで観たアーティストが少なくなったのも、今年の稀有な点だろう。……ということも踏まえてのレポは以下より。

Fear, and Loating in Las Vegas MOUNTAIN STAGE 11:00〜

シャトルバスを降りて猛ダッシュで向かったのは、マウンテンステージ。お目当てはもちろん、日本が誇るカオスロックバンド・Fear, and Loating in Las Vegas(以下ベガス)だ。まだ午前中で目も覚めきっていない時間帯、真裏ではポップに魅せるももクロとゆったり系のtonunの音楽が鳴っている。しかしながら今からでも高カロリーの音楽を求めている人は一定数いるようで、客席にはかなりの人が。中にはタンクトップ姿で準備万端な人までいる。

新たに制作されたSEに乗せて現れたSo(CleanVo)、Minami(ScreamVo.Key)、Taiki(G.Vo)、Tomonori(Dr)、Tetsuya(B.Vo)の5名は、ステージに飛び出るなり煽りまくり。1曲目に選ばれたのは彼らの名前を一気に広めたセカンドから“Acceleration”で、SoのエフェクトがかったボーカルとMinamiの絶叫、更にはお馴染みのピコピコサウンドとマイナーコード乱発……という、とにかく情報量が多すぎるサウンドでグングン牽引。

Acceleration - YouTube

なお今回の選曲に関しては、新曲はほぼ撤廃。更には“Rave-up Tonight”や“Return to Zero”といった鉄板曲も演奏されず、代わりにこれまで様々なフェスで培われてきた無敵セットリストを凝縮して見せる、ある意味では数年前の彼らにカムバックした流れだったのは驚いた。この数日前に行っていたロッキンのライブとはセトリを大幅に変えていた事実からも、彼ら自身が自分たちの音楽に自信を持ち続けているのだろうなと。

アニメ主題歌の“Chase the Light!”と“Let Me Hear”を終え、続く“Crossover”では早くもSoとMinamiがステージに突入!もみくちゃにされながら観客の腕を支えにして叫びまくる2人を観れば、ファンならずとも虜になったはず。他にも流れが一気に加速した“Just Awake”では認知度の高さも相まって大きな合唱が巻き起こるなど、思わず「ロックバンドの良さってこれだよなあ」とじんわり来たりして。

[PV]Let Me Hear/Fear, and Loathing in Las Vegas - YouTube

MCでは過去の話はせず、来たる輝かしい未来についてのみ言及。そのうち大部分を占めていたのは9月22日に行われる予定の日本武道館公演で、Soは「僕らのことを知らない人もたくさんいると思います。でももし今日のライブを観て少しでも『良いな』って思ったら、また会いに来てください!」と思いを伝えていた。ベガスの楽曲が様々なサウンドの変異体であることからも分かる通り、彼ら自身もジャンルレスに音楽を好むいち音楽好きだ。だからこそ、音楽の思いをこうしてリンクさせるMCが出来るのだろう。

 

[PV]Love at First Sight / Fear, and Loathing in Las Vegas - YouTube

最後の楽曲は初期曲“Love at First Sight”。どこか懐かしいディスコサウンドに乗せてSoは「飛べ飛べ飛べ飛べー!」と焚き付け、Taikiに至っては尻をモニターに大映しにしたりとやりたい放題。最後には改めてライブへの思いを叫びつつ、灼熱の30分は幕を閉じたのだった。おそらく長年のファンでさえもここまでキラーチューン連発のベガスは初だったろうけれど、初見の観客には大いに刺さったようで、終演後にはあちこちで称賛の声を耳にした。さすがだ。

 

【Fear, and Loating in Las Vegas@サマソニ大阪 セットリスト】
Acceleration
Chase the Light!
Let Me Hear
Crossover
Just Awake
Party Boys
Love at First Sight

milet  MOUNTAIN STAGE 12:00〜

続いては同ステージでmiletを選択。miletに関しては個人的にファンクラブで取ったチケットを2公演連続で破棄した(仕事とコロナ感染への恐怖から)こともあって、都合2019年のサマソニ以来の鑑賞となった。ちなみにその際は“inside you”がバズりかけていたタイミングだったのだが、今に至る間にはフルアルバムリリース、更には紅白歌合戦連続出場やオリンピック主題歌など華々しい活躍をしてきたのがmiletであり、知名度的にもあの頃とは変貌。最前列で「ミレイちゃーん!」と叫ぶ女子の多さも同じく、あの頃とは全く違っている。

milet×MAN WITH A MISSION「コイコガレ」MUSIC VIDEO(テレビアニメ「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編 エンディングテーマ) - YouTube

ステージに野村陽一郎(G)、Kota Hashimoto(B)、elley YHEL(Cho)、藤本藍(Key)、神宮司治(Dr)らサポートメンバーが顔を揃える中、肩先からをバッサリカットした涼しげなmiletが登場。オープナーに選ばれたのはまさかの『鬼滅の刃』主題歌の“コイコガレ”。milet史上最もアッパーな楽曲を、初っ端に持ってくる予想外な展開である。miletは体を前後左右に動かしながらのボーカリスト然としたパフォーマンスで、視覚的な「これ凄い……」感を体現、フィーチャリング相手であるMAN WITH A MISSIONパートは録音だったものの、フェスならではの開幕には心底驚いた。

先述のベガスが完璧なるフェスセトリだったとすれば、対するmiletは非常にワンマン的。古い楽曲はほとんどやらず、主に9月リリース予定のアルバム『5am』から次々ドロップしていく。活動が長くなればなるほど「昔の曲ももっと聴きたい!」と思ってしまうのはファンあるあるだけれど、miletの場合はまるで「今の私に着いてきて!さもないと置いていくよ!」と言わんばかりのスピードの速さがある。

そして驚きと共に迎え入れられたのは、前置きもなく突然披露されたOasisの“Wonderwall”カバー!これは同日にリアム・ギャラガーが出演することを理解してのサプライズだったと思われるが、そもそもmiletが誰かのカバーを行うこと自体がレア。そんなOasisの大ファンであるmiletならではの試みは、アコースティックアレンジながら原曲を殺さず、それでいてボーカル面でのアレンジが加えられていて素晴らしかった。一生モノの瞬間がここに。

milet「Hey Song」MUSIC VIDEO - YouTube

途中のMCでは、今年のサマソニの日差しについて言及。「一回みんな水飲んどこっか。カンパーイ!」とファンを思いやった一幕を挟みつつ、昨年は自身が出番が終わった後、実際に熱中症になった体験談を暴露。また今回は全体的に女子率が高い(主に前方)ことにも触れつつ、miletは「良い匂いがする!」と嬉しそう。その間にも至るところで「めっちゃカワイイ……!」という声が聞こえてきて、人間的にもファンを獲得しつつある光景にニンマリ。

以降は“Living My Life”や“Hey Song”といった新曲群をドロップ。大半の観客にとってはほぼ初聴きながら、どんな状況でも引き込んでいく様はさすが。特に最前列にいる長年のファンにとっては思うところもあったようで、miletはファンのひとりに「泣かないでー」と語りかけながら、目から人差し指を滑り落とすジェスチャーもする場面も。かと思えば、熱中症と思わしきファンを察知して「なんか!そこ!」と真剣にスタッフにSOSを出したりと、本当に彼女自身が『ファンが応援してくれているからこそ自分がいる』と痛感しているからこそ出来る、無意識的な行動にグッときた。

milet「checkmate」MUSIC VIDEO(『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』主題歌) - YouTube

最後の楽曲は予想外の“checkmate”。新曲でもなく、これまでフェスで演奏されること自体ほとんどなかったダーク曲で占めるのは意外だったが、よくよく考えれば後に出演するジャニーズWESTのメンバーが俳優として起用されていた……というバトンパスの意味合いもあったのかもしれない。ただレア楽曲であることは変わりなく、フェス会場で聴けるほぼほぼ最後の機会がこのサマソニだったのではないか。最後までキラッキラの笑顔で去っていったmiletと、完全新作モードのセトリの対比は、本当に最高だった。

【milet@サマソニ大阪 セットリスト】
コイコガレ
inside you
Wonderwall (Oasisカバー)
Living My Life
Before the Dawn
Hey Song(新曲)
おもかげ
checkmate

The Snuts SONIC STAGE 13:00〜

マウンテンステージを去り、ここでマッシヴステージをチラ見。新しい学校のリーダーズ(めちゃくちゃに超満員でほぼステージ見えず)の“オトナブルー”までを聴きつつ、そのまま次なるソニックステージへと移動した。お目当てはスコットランド出身の若きロックバンド・The Snuts。知名度的にはまだまだだけれど、そのサウンドには確かな熱があると感じていたので、記念すべき初来日は是非とも観たかったためだ。

真裏がマカえん、ジャニーズWEST、新しい学校のリーダーズであることが影響してか、最初こそ動員は少なめのフロア。気付けばほぼ最前でライブを観ることが出来たのはある意味では貴重だったが、ライブは熱量高めのロックテイストだ。まずはジャック・コクラン(Vo.G)、ジョー・マッギリブレー (G)、カラム・ウィルソン (B)、ジョードン・マッケイ (Dr)ら中学校から一緒の友人4人が、少しずつ息を合わせてのジャム。1曲目が分かっていても、この格好良さは生で観ると格別。

The Snuts - Gloria (Radio 1's Big Weekend 2023) - YouTube

……という訳で、オープナーは最新シングル曲“Gloria”。そしてこの楽曲はこの40分のステージにおける、重要なハイライトとしても位置していた。イントロが鳴った瞬間「アウアウアーウー!」と叫び、歌詞の一節一節を口ずさむその様は、まさしく彼らがロックアイコンとして崇拝しているアークティック・モンキーズやザ・ストロークスのそれ。ただ、そうした光景がまだ20代前半の若いインディーバンドに対して起こっている状況は決して偶然などではなく、遠く離れた日本でも確かにThe Snutsの音が達している証左でもあった。

The Snuts - Burn The Empire (Live from KOKO, 2022) - YouTube

セットリストはこれまでにリリースした『W.L.』と『BURN THE EMPIRE』の2枚のアルバムが中心。明らかにインディーロックに寄った前者と、少し雰囲気を変えた後者をほぼ交互に演奏する流れは最良だったし、飽きさせない工夫もあって良かった。彼らはあまり話すタイプのバンドでも、楽曲ごとに毛色が違う曲調でもないので、そうした意味でも『音楽でバランスを取る』というのは上手い流れだなと。

そして楽曲を聴いていくうちに思ったのは、彼ら自身がほぼノンジャンルで音楽を好む雑食嗜好ということ。どの楽曲も確かにロックにしろ、ダークだったりモダンだったり、ところどころ振れ幅がある。中でも『BURN THE EMPIRE』からの楽曲はその極みと言って良いもので、若手としてここまで広い視野で音楽に触れるのは末恐ろしいとさえ思った。それこそ、今回のサマソニで日本の音楽に触れることでも、また新たなインスピレーションに繋がるのかもしれない。

The Snuts - Fatboy Slim (Official Music Video) - YouTube

最後の楽曲は“Fatboy Slim”。これは一昨年に行われる予定だったサマソニの兄弟的フェス『SUPERSONIC』に出演が決まっていたEDMの兄・Fatboy Slimの名前をそのまま冠した、挑戦的な楽曲。「ラーラーララーララー」のコール&レスポンスもバッチリ決まり、最後まで涼し気な顔で去っていった4人の姿は、1時間尺でもやれそうな未来性すら感じた。

【The Snuts@サマソニ大阪 セットリスト】
Gloria
Seasons
Maybe California
Knuckles
Dreams
Burn The Empire
Hallelujah Moment
Elephants
The Rodeo
Fatboy Slim

ー熱中症により休憩ー

このThe Snutsのライブを観たあたりで、さすがに一旦のブレイク。「どこかで座って飯を食いてえ」との考えに至った僕は、とりあえず様々な出店をブラブラして腹ごしらえをすることに。このあたりで痛感したのは、そもそも日差しを避ける場所がほとんどないことである。見つけたとしても既に誰かが座っていたりするので、まずは日陰を探すために汗を流すカオス時間に。

そもそもの話をすると、これまで僕は何年もサマソニに参加しているが、基本的にサマソニでは何かしらの問題が毎年起こる。前日の台風の影響でステージが2つ消失し、他方から怒りが噴出した2019年。コロナで中止が発表された2020年。声出しNGだったもののコロナ禍での開催が批判に晒された2021年。ワンオクやヤングブラッドが、制限なしのライブを扇動した2022年……。もちろん良い面もたくさんあったけれど、そのうちの少しの問題は見過ごせない事態としてSNSを駆け巡ったのも事実だ。

そして今年はと言うと、間違いなく問題は『熱中症』だった。1日目の時点で『熱中症者が100人出た』というニュースが報じられたが、今年のサマソニは本当に暑かった(いろいろ叩かれているNewJeansの件は場所取りに問題があったように思うけど)。それこそmiletのライブでも倒れる人を見たし、それは自分自身も例外ではなかった。The Snutsが終わったあたりで頭痛と吐き気が出てくるようになったので、ここで1時間程度休むことにしたのだった。そのせいでメイジー・ピーターズを観られなかったのは残念だったが、この経験から行動予定を変更することを決意。具体的には野外の『sumika→Inhaler』と進む予定を、全て室内であるソニックステージで行われる『女王蜂→Awich』に変更することにしたのだった。この時点でいろはす500mlを4本消費していたけれど、それでも熱中症ってなるのね……。

女王蜂  SONIC STAGE 15:20〜

という訳で、熱中症も落ち着いたあたりで再びスニックステージへ。2日目もそうだったが、このあたりの時間からは2階の着席可能な場所は全て埋まっていて、ソニックステージに入った観客は例外なく1階のスタンディングエリアへ移動を余儀なくされた。ただここで驚いたのは、1階も尋常ならざる人だったこと。先程のThe Snutsのライブではほぼ最前に行けたはずが、今回は1階の一番後ろで観るのがやっと。そのため当初こそ「いやーこの暑さじゃみんなソニックステージ来るよなあ」と思っていた。が、実際はこの大半が女王蜂を観るために集まっていたというのは、終わった後に気付いたことだが。

女王蜂 『火炎(FIRE)』Official MV - YouTube

日本民謡のような少しおどろおどろしいSEから登場したのはアヴちゃん(Vo)、やしちゃん(B)、ひばりくん(G)、そしてサポートメンバーとしてここ最近の牽引役となっている福田洋子(Dr)、ながしまみのり(Key)の5名。ドロっとした雰囲気の中1曲目にプレイされたのは“火炎”で、ファンの視線を一瞬で集めていく。驚いたのはもちろんアヴちゃんの女性のファルセット&男性の低音を自在に使い分ける歌唱で、CD音源でも分かってはいたことだが、実際に相対すると凄すぎるレベル。世界広しと言えど同じ歌い方をするアーティストは皆無だろうし、同時に日本語詞だから可能な歌唱のようにも思えて、心底感動した。

女王蜂のフェスセトリは『楽曲を前半で切ってなるべく多くの曲数をプレイする』という、一風変わったもの。アヴちゃんはかつてツイッターにて「ライヴは、人間を越えないといけないときがある。心の一番奥底からそう思っています」と綴っていたけれど、元々衝撃的な面の強い楽曲を、どうライブで昇華させるのかはひとつの見所でもあった。

女王蜂『バイオレンス(VIOLENCE)』Official MV - YouTube

そこで今回のライブ。アヴちゃんは最初の時点で「地獄へようこそ」と叫び、そこからは徹底してダークな楽曲を展開し続けたのである。そしてそれこそが紛れもない、女王蜂に対して我々リスナーが「女王蜂って唯一無二の音楽性だよね〜」と漠然と感じている部分の、核心を突いた一幕だったようにも思うのだ。特に“PRIDE”から“バイオレンス”まで約20分続いた場面は圧巻で、地に落ちた絶望っぽくもあり、希望を探す暗黒期間のようでもあり……。とにかく舞台芸術を観ているような、息を呑む体験が延々続く感覚。

女王蜂 - メフィスト / THE FIRST TAKE - YouTube

キャッチーにフィンガースナップのスパイスを加えて新アレンジにした“催眠術”、ディスコ状態の盛り上がりを記録した“バイオレンス”と後半はアッパーな楽曲を連発しつつ、最後に披露されたのは『【推しの子】』EDとしても認知された新たな代表曲“メフィスト”。あの印象的なイントロが流れた瞬間に沸くフロアに、率直に楽曲を叩きつける様はこの日一番無骨でもあったし、彼らなりの思いさえも内包されていたようにも思う。

アヴちゃんはサビでは何度も「SAY!」とレスポンスを要求し、実際のアイドルのように振り付けありで魅せ、かと思えばラストのアウトロではゆったりとした原曲のオチを修正。音をぐるぐる回転させるループ状態でして、カオスな状況を作り出していてライブアレンジ抜群。そして最後には「次は私たちのライブで会いましょう」と言い放ち、マイクを地面に投げ捨てて退場したアヴちゃん。ガツンという音が響くステージに、大勢の歓声が上がったのは言うまでもあるまい。

【女王蜂@サマソニ大阪 セットリスト】
火炎
BL
HALF
PRIDE
ヴィーナス
KING BITCH
催眠術
ハイになんてなりたくない
バイオレンス
メフィスト

Awich SONIC STAGE 16:30〜

先述の通り、この時間帯のソニックステージは女王蜂目当てのファンが密集。そのためライブ後はブワーっと一気にハケていったのだけれど、僕自身はこちらも先述のように熱中症の流れが(幸か不幸か)あったので、その隙に前方に移動。なるべく良い位置でAwichを観ることにつとめた。なお昨年あたりにリリースされた『Queendom』の完成度はもちろん、今観るべきアーティストだと判断した人はこの場にも多くいたらしく、始まる際にはギチギチの状態に。凄いぞAwich。

Awich - Queendom (Prod. Chaki Zulu) - YouTube

DJひとりと、それ以外はポッカリ空いた稀有なステージにAwichが登場、オープナーは処女作から“Queendom”だ。重々しいトラックをバックに彼女が放つのは、ノンフィクションの物語。沖縄で生まれ育ち、後に伴侶となる人と出会い、伴侶が薬物依存で逮捕され、既にその頃のAwichは子供を授かっていて。そして伴侶がとある銃撃事件で死去し、残されたAwichと娘が取り残されてしまう。時は巡って、今の私はこの場所でラップをしている……という、言葉にすることすら憚られるような痛烈な体験談を、Awichは気丈に捲し立てていく。これを『Freedom(自由)』を模して『Queendom(女王の自由)』と変化させていることすらも、彼女の強さを表しているように思った。

Awich - ALI BABA feat. MFS (Prod. Chaki Zulu) - YouTube

以降も痛快な言葉で紡ぐ言葉の応酬は続く。世間に中指を立てながら“Bad B*tch 美学”然り、MFSをゲストに迎えてキャッチーな歌唱で魅せた“ALI BABA feat. MFS”然り、彼女の楽曲には強いメッセージ性が必ず存在する中でも大部分を占めているのは怒りの要素で、“WHORU?”では「誰かの心ない言葉で光を見失いそうになった時、この言葉を思い出してほしい。……お前誰?」とどうでもいい他者を一蹴し、切れ味抜群のリリックでギッタギタにする場面が描かれ興奮の坩堝に。

MCでは主に故郷の沖縄と、ファンとのやり取りが光る。“TSUBASA”の前には「ある日学校の校庭に、米軍のヘリコプターの部品が墜落して。私の娘はアメリカの血が入ってるから、学校でいじめられたんだって。でも自分らしく頑張ってたら、だんだんみんなが仲良くしてくれるようになって」と回顧してメッセージ性を強めてくれたし、突如飛んできた「Awichー!」「カッコいいー!」に紛れての「顔の上に乗ってー!」に対して「顔の上乗ってー!はヤバすぎるでしょ」と突っ込んだり、水分補給を半強制的にさせる乾杯の音頭も、密な関係性を築くがゆえの出来事だったのではないか。

Awich - Bad Bad (Prod. Chaki Zulu) - YouTube

ラストソングはお馴染みの“Bad Bad”。タイトルの通り悪い感情を抱える中にも、明るい未来を希求するサウンドが光るこの楽曲を、Awichはきらびやかな映像をバックに歌い上げていく。その光景は半ばワンマンライブに近い様相でもあって、気付けばフロアには大勢の人が。……この35分のセットでもって完全に空気を掌握したAwich。初見の人も圧倒的に多かった環境で、ここまでの印象を見せ付けたのは完全勝利と言わざるを得ない。

【Awich@サマソニ大阪 セットリスト】
Queendom
Remember
Bad B*tch 美学
ALI BABA feat. MFS(新曲)
RASEN in OKINAWA
LONGINESS
TSUBASA
WHORU?
洗脳
Link Up
GILA GILA
Bad Bad

Liam Gallagher OCEAN STAGE 18:25〜

さて、Awich後はすぐにメインステージであるOCEAN STAGEに移動。このステージは先述のソニックとマウンテンと比べると非常に遠い場所にあるが、今フェスのビッグネームを多数取り揃えた、キャパシティの最も大きな場所。そこに出演するのはもちろん、Oasisの絶対的フロントマンだったリアム・ギャラガーだ。

と同時に彼の存在は、個人的に僕が今年サマソニに足を運ぶ大部分を占めていた。そもそも僕が洋楽を好きになったきっかけは間違いなくOasis。全てのアルバムを聞きまくる学生時代を過ごしていた。ただ音楽と出会った時には既にOasisは解散していて、彼らの音楽はCDから流れるばかりだったのだ。実は毎年行っているこのサマソニも、2018年に初めて参加したきっかけはリアムの兄であるノエル・ギャラガーが出ると知ったから。このときの様子については5年前の記事に詳しいが、とにかく自分にとって、死ぬまでに観たいアーティストのひとりはOasisのボーカリストであるリアムだった。

翻って、今回のリアムである。既に多くのファンが断言しているように、この日のライブはまさに最強無敵、我々が抱くリアム像を体現した最高のコンディションだった。ライブが始まる前にも関わらず大勢のファンが“Don't Look Back In Anger”を合唱する中、OasisのSEである“Fuckin‘ In The Bushes”が流れると、そこら中で怒号にも似た歓声が上がる。モニターに映し出されたのは我々のよく知るリアムその人で、『ロックンロールスター』『伝説』『神のような』といった超過大評価(ちなみにリアムはこうした大きな発言を頻繁にする)、と共に、往年のライブの様子が投影される。そして『OSAKA JAPAN』『SAT. 19TH AUG』と表示され、袖から本物のリアムが登場した瞬間、既に号泣状態。この瞬間を何年も待っていたんだなあ……。

Oasis - Morning Glory (Official HD Remastered Video) - YouTube

マラカスとタンバリンを持って臨戦態勢のリアムは開口一番に「お前ら調子はどうだ?」と焚き付け、1曲目はいきなりOasisの代表曲“Morning Glory”!もちろん歓声と共にブチ上がる会場である。基本的にリアムはリハーサルをしない関係上、1曲目を歌いながら声のバランスやリヴァーヴの高さなどを調節していくストロングスタイルなのだが、この日はこの時点でほぼ完璧と言って良い状態で、声の伸びがすこぶる良い。Oasis解散からもう何十年も経つけれど、今が最もコンディション的に最強なのではないかと強く感じた瞬間でもあった。

この場にいた多くのファンのとしては、ズバリ「Oasis曲を何曲やるのか?」という思いは確実にあったことと推察する。結論を述べてしまえばこの日のリアムは、なんとセットリストの大多数をOasis曲で固定し、ソロ曲はそのうち少し配置……という、圧倒的にOasis回帰のセットリストだった。リアムがOasisを再結成したいことは知っていたが(対して兄のノエルは断固拒否状態)、ここまでとは思わなかった。しかもその楽曲群も全てずっぱまりで、誇張無しで全員が歌いすぎて半カラオケ状態、場合によってはリアムの声さえかき消すほどの熱量だったのは特筆しておきたい。

Oasis - Rock 'N' Roll Star (Official HD Remastered Video) - YouTube

続いての楽曲は、これまたOasisの最強曲Rock 'N' Roll Star”。これはステージ上にも同じ文字で書かれているものだが、リアムにおける「俺こそがロックンロールスターなのだ」という絶対的な思いを表している楽曲だ。リアムはあの特徴的な歌唱法でひたすら声の爆弾を落としまくり、空いた両手ではマラカスとタンバリンをシャンシャンしている。……逆に言えば彼のライブの見所はこれで完結するのだけれど、たったこれだけのことが、リアムから1秒も視線を外させてくれない魅力になっている。

ちなみに今回のステージにはリアム以外にギター2名、ベース、ドラム、キーボード、コーラス隊2名という大所帯だったが、“C‘mon You Know”からの2曲は予期せぬスペシャルゲストが登場。ステージの袖付近から出てきたドラムに座っていたのは、なんとリアムの実の息子であるジーン・ギャラガー!なお余談だが、この後のMCでリアムは「ジーンの野郎が昨日アルコールを飲み過ぎてよ。前から後ろからマジでヤバかったんだぜ」と暴露していたのは爆笑ポイント。元々英語の訛りが凄いリアム、日本人の我々的には言葉が分からない部分もいくつかあったのだけれど、リアムは「お前らマジで俺の言ってる意味分かってんのか?もっかい言うぞ。あいつが、酒を、飲み過ぎたんだよ。昨日な!」と噛み締めるように語り、ファンを焚き付けるのも最高。あと、ステージ袖にリアム&ノエルの兄であるポール・ギャラガーさんもいた気がするんですが、気のせいですか……?

Liam Gallagher - Once (Reading 2021) - YouTube

また、リアムのソロ曲も完全に受け入れられていたことも重要だ。この日披露されたソロ曲は、リアム像を完璧に体現した“Wall Of Glass”、讃美歌のようなコーラスから始まる新境地“More Power”、Oasisファンにはたまらないロックアンセム“C‘mon You Know”と様々だったが、圧倒的な盛り上がりを見せたのは“Once”。リアムが歌えばもうそれでOKというか、全員が歌いまくる環境がソロでも暗黙の了解として伝わっているのは、本当に素晴らしい。それでいてOasis曲の前には「お前らの好きなOasisの曲だぜ」とか、「Oasis好きなやついるか?」と聞いてくるリアムを観ていると、本当に再結成したいんだなとも。個人的に面白かったのは、リアムがでっかく映されたネブワース公演のアナログレコードを掲げるファンに、リアムが「おっ、それ俺じゃねえか。イケメンだよな」みたいなドヤ顔で指差していたシーン。自信過剰の塊のような人だが、これこそがリアムである。

Oasis - Champagne Supernova (Official Video) - YouTube

Liam Gallagher - Champagne Supernova (Live From Knebworth 22) - YouTube

熱唱しまくっていたら、辺りはいつの間にか暗く。するとリアムは「最後の曲だ。“Champagne Supermova”か“Live Forever”。どっちか選んでくれ。時間がねえんだ」と腕時計を指差しながら、何とファンにOasis曲のどちらかを選ばせる究極のシーンが到来!「リヴ・フォーエヴァー!」「シャーンペン!シャーンペン!」のコールがあちこちで飛ぶカオス状態の中、最終的にリアムが選んだのは“Champagne Supermova”。すっかり夜になった風景に全員の大合唱とリアムの歌声、緩やかな楽器隊の演奏が溶け込んで、この世のものとは思えない多幸感で包まれた会場。《お前と俺はここでやっていくしかねえ/俺らが分からなくても世界は回り続けるのさ》というサビに差し掛かったとき、サマソニまで指折り数える每日だったり、辛い仕事を経てここに来てるんだという思いすらも回顧して、改めてボロボロに泣いてしまった。それを最終的に《Why?Why?……?(分かんねえ)》と考える部分も含めて。最後に「ビューティフォー!」と叫んだリアムさん、会えてよかった。お陰さまで死ぬまでにやりたいことリストの、大きなひとつが埋まりました。

【Liam Gallagher@サマソニ大阪 セットリスト】
Fuckin‘ In The Bushes(SE・oasis)
Morning Glory(oasis)
Rock 'N' Roll Star(oasis)
Wall Of Glass
C‘mon You Know
Stand By Me(oasis)
Roll It Over(oasis)
More Power
Diamond In The Dark
The River
Once
Wonderwall(oasis)
Champagne Supermova(oasis)

ケンドリック・ラマーのライブ中に体調不良がぶり返したため、ここでサマソニ初日は終了。本当にどのアーティストも素晴らしく、心から「この1日のために生きてた!」と思える時間だった。次回はずとまよやAwich、YOASOBIなど、この日とはうって代わって邦楽特化の1日となった2日目を総力レポート。随時書き進めていくので、どうか今しばらくお待ちいただければ。余韻はまだまだ続く。