キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

[前編]珍しい楽器を使うアーティスト10選

こんばんは、キタガワです。


令和の新時代を迎え、昨今の音楽はかつてないほどに発展傾向にある。こと海外ではヒップホップやポップスが席巻し、ロックに至っては「ロックンロールは死んだ」と著名人から揶揄されるほど下火となっている。日本においてもSNSを巧みに使い楽曲を売り出す手法やYouTubeでのバズを象徴化する現象が一般化し、更にストリーミングサービスの台頭でアルバム以上に1曲単位の爆発力が重要視されている。


そんな中、昔とほぼ変わらないものとして象徴的に映るのが、ミュージシャンが用いる楽器である。シンガーソングライター、ロックバンド、インターネットアーティスト……。どのような形態であっても、基本的にはギター、ベース、ドラムの3種類の楽器があれば音楽は成立する。そして今の時代においてはPCでの打ち込みによる代用も可能で、総じてわざわざレアな楽器を用いる必然性は限りなく低くなったと言っていい。


そこで今回は『現在ではほぼ使われない特殊な楽器』に焦点を当て、前後編に分け時代と逆行する稀有なアーティストを紐解いていきたい。当記事が音楽ファンのみならず、全ての楽器マニアの心に響く存在となれば幸いである。

 

 

坂本慎太郎(使用楽器:スティールギター)

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元ゆらゆら帝国のフロントマンであり、サイケデリックロックの礎を築いた立役者、坂本慎太郎。


かねてより漫画家・水木しげるに多大な影響を受けていると公言する坂本。ゆらゆら帝国時代にも“3×3×3”や“誰だっけ?”など極めてホラーな楽曲も多かった坂本だが、“できれば愛を”はそのサイケデリックぶりに拍車がかかり、まるでお化け屋敷のBGMの如きおどろおどろしい雰囲気に満ち満ちている。


ホラーな雰囲気作りを担う楽器は『スティールギター』と呼ばれ、主に海外音楽シーンにおいてサウンドに変化を加えるような、言わば飛び道具的に使われるもの。しかしながら坂本はこのスティールギターをサウンドの主軸とし、ゆっくりかつ小刻みに動かすことで、不協和音一歩手前の脱力的サウンドに昇華することに成功している。


初期のゆらゆら帝国では爆音のロックを鳴らしていた坂本だが、《俺のぱっくりと割れた 傷口見てください/かっこいいでしょ いかすでしょ/まってください》といった分かるような分からないような言葉の羅列やサウンドを鑑みるに、50歳を迎えた彼が坂本が今鳴らしたいサウンドはこれなのだろう。


現在は主な活動拠点を海外とし、こうした楽曲群をライブで再現している坂本。その海外の人気は日本以上に凄まじいらしく、ライブの“できれば愛を”ではイントロの時点で歓声が上がり、観客が踊り狂うという。日本では考えられない光景ではあるものの、おそらく海外でもこんな音楽は存在しない。

 


Love If Possible (できれば愛を ~ Live In-Studio Performance, 7/12/2016) / 坂本慎太郎 (zelone records official)

 

 

平沢進(使用楽器:テスラコイル)

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唯一無二の個性と世界観で、一種宗教的な人気を誇るアーティスト、平沢進。下記の動画のサムネイルで緑の光線迸る謎の物体こそが、平沢が独自に開発した楽器『テスラコイル』である。


動画を見てもらうと一目瞭然なのだが、テスラコイルには自身の歌声や音色が細かにプログラミングされており、平沢自身の手で触れると音が鳴る仕組み。一見単純明快な奏法にも思えるが、触れる際の強弱や箇所によって音程を変化させる高性能ぶりであり、歌声を何層にも重ねる平沢ならではの手法となっている。


なぜ平沢がここまで熱狂的な視線を集めているのかと言えば、それは音楽の魅力に加えて、彼自身の音楽姿勢にある。彼は活動歴は長いがその反面、楽曲のリリースは少ない(現状最後のアルバムは2015年)。更には上記の特殊な楽器の存在も重なって平沢がライブを行うこと自体も極めてレアであり、チケットは瞬時にプレミア化するほど。


先日のラジオで「平沢さんの曲を友人に布教したいです」との質問に対して「勧めないでください」とバッサリ切って捨て、音楽を聴く際はその人物のバックボーン(いつどんな状態でその曲に出会うか)が大事であると語った後に流行歌への嫌悪感を口にした平沢。彼が確固たる信念を抱いて楽曲に向かい合っていることは言うまでもないが、この発言でひとつ腑に落ちたのは、彼を崇拝するファンも間違いなく平沢と似た部分を持っているということ。世の中には様々な音楽があるが、「これこそが唯一無二の魅力を孕んだ音楽なのだ」と改めて感じる一幕であったように思う。

 


Susumu Hirasawa - Parade (Live Hybrid Phonon)

 

 

Noel Gallagher's High Flying Birds(使用楽器:ハサミ)

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イギリスの伝説的バンド・oasis(オアシス)が壮絶な兄弟喧嘩の末2009年に活動休止し、その後メインソングライティングを務めていた兄ノエルはNoel Gallagher's High Flying Birdsを、ボーカルを務めた弟リアムはLiam Gallagherとして、別々の道を歩んだ。


中でもファンが求めていたoasis像を地で行くリアムとは対照的に、oasisを過去のものとして決別したノエルとの差は年を経るごとに顕著になり、以下に紹介する“She Taught Me How To Fly”収録のアルバム『Who Built The Moon?』が発売される頃にはノエルは完全にoasisに区切りを付け、打ち込みを多用したダンサブルな音像に変化した。なお今現在でも、oasis再結成を願うリアム(ライブではoasis楽曲を5割演奏)と全くその気がないノエル(oasis楽曲はほぼ演奏しない)との対立は続いている……。


上記の通り、現在のノエルはoasis時代をほぼ無視した楽曲を打ち出しており、それに伴ってライブ形態も変化の一途を辿りライブは総勢10名近い大所帯となった。


黒人シンガーや管楽器隊といったアリーナ級の編成の中一際目を引くのが、ノエルの背後で佇むひとりの女性。彼女の名前はシャルロット・マリオンヌと言い、ライブにおけるパーカッション的役割を担っている。‘’She Taught Me How To Fly”のライブ映像がテレビ放映された際にハサミ奏者としてのパートを担った彼女に対して驚きの声が上がったというが、これは「タンバリンとシェイカーは演奏できるか?」の問いに対してシャルロットが「出来ませんが、ハサミならできます」と語ったことから実現に至っているとのこと。ちなみにノエルは後に「あの番組に出るまでは誰もハサミ演奏について言ってなかったけど、よく考えたらあれは狂ってると思った」と述べている。


ハサミ以外にも、楽曲ごとに電話(“It's a Beautiful World”)や木管楽器(“Holy Mountain”)を巧みに使って話題を浚った彼女であるが、2019年をもってノエルバンドからの脱退を表明。かつてノエルはシャルロットについて「彼女がリアムの正気の最後となるリボンを切り落としたんだよ」とふざけて語っていたが、その言葉を裏付けるように後の兄弟間の仲は更に悪化。今ではノエルが「もしポケットに50ポンドしか残ってなかったとしても、リアムと組むなら路上ライブした方がマシだ」と語る始末。さあ、どうするどうなる。

 


Noel Gallagher's High Flying Birds - She Taught Me How To Fly - Later… with Jools Holland - BBC Two

 

 

Open Reel Ensemble(使用楽器:オープンリール式テープレコーダー)

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摩訶不思議な演奏集団、Open Reel Ensemble(オープンリールアンサンブル)。あまりに衝撃的なその奏法はツイッターにて数千リツイートを記録し話題を呼んだばかりか、今では日本のみならず世界各国にその魅力を伝えている。


現代において主な音楽記録媒体はCD-ROMだが、その前はカセットテープだった。そしてその前に録音機器での使用を中心に使われていたのが、彼らが用いる『オープンリール』である。……オープンリールとは1960年代以前に使われていた古い録音機器であり、現在では金銭的な面や場所の確保といった点において、人々の手に渡ることはほぼない。


彼らはそのレア物であるオープンリールを改造し、何と独自の楽器として使っている。僕自身ずっと真夜中でいいのに。のZepp Tokyo公演(当時Open Reel Ensembleがサポートメンバーとして加わっていた)にて彼らの演奏を目撃したクチだが、オープンリールを回してスクラッチ音を出したりテープを叩いてパーカッションを担ったり、果てはボーカルの声をテープで加工したりと、ライブを支えるキーパーソンとして垂直に立っていた。


上記の通り、現在の彼らの活動は他アーティストのサポートを主としている。そのためOpen Reel Ensemble単体としての活動は年々減少してはいるものの、当然世界広しと言えどもオープンリールを用いるアーティストは彼ら以外には存在しない。そう遠くない未来、テレビで大々的に紹介される日も来ると思うのだが……。

 


OPEN REEL ENSEMBLE - LIVE @ FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013

 

 

Aphex Twin(使用楽器:Cheetah ms800)

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イギリスのミュージシャン、Aphex Twin(エイフェックスツイン)。2017年のフジロックでは野々村竜太郎やHIKAKIN、松井和代といった著名人をVJに映しつつ、ラストは抑揚もリズムも皆無の鼓膜破裂レベルの爆音を数分間流し続けた、言わば破壊的EDMのパイオニア的存在である。


全7曲が収録された『Cheetah EP』。世界中の機材マニアの間でもほぼ市場に出回らなかったとされる極めてレア、かつほぼプログラミング不可能な珍しいハードウェアとしても知られる、Cheetah ms800という機材で制作された。


かねてより「大事なのは楽曲だから曲名には興味がない」と語る彼。そのため過去作においても“4 bit 9d api+e+6”や“fz pseudotimestretch+E+3”、“Peek824545201‘’といった意味不明な文字の羅列をタイトルとしていたが、今作『Cheetah EP』では楽曲の大半が“CHEETAH○○‘’といったタイトルとなり、否が応にも機材の存在を感じさせる形となっている。


そんなCheetahの特徴は、レトロな音像。『Cheetah EP』では様々な音が脳を麻痺させるエイフェックス作品の中ではどちらかと言えばミニマルな構成となり、浮遊感を抱かせる独特なサウンドがゆったりと流れる異色な形で進行していく。その後のエイフェックスが再び極悪サウンドのEDMに回帰したことを踏まえても、今作は極めて実験的な作品であったと言える。

 


Aphex Twin - CIRKLON3 [ Колхозная mix ]

 

 

……さて、いかがだっただろうか。珍しい楽器を使うアーティストの世界。


次回の後編では、フジロック初参戦で話題を浚った民族楽器集団や活動歴30年に渡るベテランバンド、新進気鋭のインストバンドなど、多種多様なアーティストの珍しい楽器を紹介していく。乞うご期待。

 

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