キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

個人的CDアルバムランキング2019[15位~11位]

こんばんは、キタガワです。


さて、今回は前回に引き続き、『個人的CDアルバムランキング2019』の15位~11位の発表である。今回はロックシーンを牽引するベテランから、今年アルバムのリリース自体が初となる新進気鋭の若手アーティストまで幅広くラインナップ。必ずや「こんなアーティストいたんだ!」という興味関心と共に、新たな音楽との出会いをもたらしてくれるはずだ。


それではどうぞ。

 

→20位~16位はこちら

 

15位
ガールズブルー・ハッピーサッド/三月のパンタシア

2019年3月13日発売

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サブスクの流行や音楽価値の多様化など様々な動きがあった今年の音楽シーンだが、今年はとりわけインターネットシーン初の謎のアーティストが台頭した年であったように思う。


素顔を公表せず、MVの拡散力と楽曲の持つ求心力をベースに認知度を広げていくその様は、新時代の到来を現実的に実感させる一幕でもあり、同時に「メディアの印象操作やファンの大小に関わらず、良い音楽は評価されるべき」という音楽本来の有るべき姿を体現しているようでもあった。


そんなインターネットシーンで今年大きなバズを記録したアーティストのひとりが、三月のパンタシアである。


活動当初より『3月』をひとつのターニングポイントに定める三パシらしく、3月13日に発売された自身初となるフルアルバム『ガールズブルー・ハッピーサッド』は、まさに彼女の魅力をふんだんに詰め込んだ名刺代わりの1枚だ。アッパーな“三月がずっと続けばいい”を皮切りに、アニメ主題歌として広く浸透した“ピンクレモネード”など、ポップな音楽にアンテナを張る中高生のツボを見事に突いた今作は予想を遥かに上回る勢いでシーンを駆け抜け、現在ではラジオやスーパーマーケットでも頻繁に流れるレベルにまで達した。


昨今は新たに小説を軸とした独創的な活動をスタートさせ、来年には久方ぶりのライブ開催も決定している三パシ。他のインターネットシーン初のアーティストと比較しても圧倒的にミステリアスに水面下での活動を続ける彼女だからこそ、今後どのような跳ね方をするのか予想できない。彼女を知る絶好のタイミングは、紛れもなく今である。

 


三月のパンタシア 『三月がずっと続けばいい』


三月のパンタシア 『ピンクレモネード』

 

 

14位
MOROHA Ⅳ/MOROHA
2019年5月29日発売

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ギターと声の散弾銃とも言える独特なスタイルで話題のラップグループ、MOROHA。今年はアフロ(MC)のナレーションの仕事が活発化したこともあり、GALAXYやスシローといった多くのCMであの印象深い声を聞いた人も多いはずだ。


MOROHAの魅力はその類い稀なるメッセージ性である。……個人ブログということで好き勝手書かせてもらうが、そこでどうしても『メッセージ性』という面で個人的に対比の対象として脳裏を過ってしまうのはロックバンド、amazarashiの存在だ。


《僕が死のうと思ったのは 心が空っぽになったから》、《自分以外みんな死ねってのは もう死にてえってのと同義だ》と歌うamazarashiが同じく希死念慮と憂鬱に悩む人間の代弁者であるとするならば、MOROHAが歌うのは更にその奥の奥。すなわち生き方の根本的部分である。


MOROHAの楽曲には悩める人間の肩を掴み、唾と汗を飛び散らせながら「本当にお前はこのままで良いのか!」と問う力強さと、「1分1秒も無駄にしてはならない」と聞き手をリアルに急き立てる焦燥がある。《選ばれなかった人間は 自ら選び取るしかないんだ》と語る“五文銭”、《「やりたい」「やってた」じゃなく「やってる」 進行形以外信じない》と叫ぶ“上京タワー”など、今作には今まで以上に赤裸々に思いを伝える気迫が感じられ、聴く人次第では聴けば聴くほど心にダメージを負う。


個人的な話で恐縮だが、僕は今年MOROHAの当アルバムのリリースツアーに足を運んだ。その中でとあるバンドがMCにおいて「MOROHAに一言どうぞ」と促された際、メンバーが揃って「特にありませーん!」と笑顔で叫ぶ場面があった。後にバンドは「冗談ですよ」と訂正していたが、数分後にアフロはステージに進むなり、地面に頭を叩き付けんばかりの勢いで「俺はあれを冗談だって受け取らねえ!悔しい!悔しいよ俺は!」と絶叫してライブを行っていたのが印象に残っている。MOROHAの全ての楽曲の作詞を担うアフロは、そういう人間なのだ。


総じてこのアルバムが心に刺さる人間は、何かしらの鬱屈した感情と現在進行形で戦っている人間なのだろう。逆に言えば、順風満帆な人生を送っている人間には絶対刺さらない音楽でもある。……さて、読者の皆様はどちらだろうか。是非ともその目で、耳で、確かめてほしい。

 


MOROHA「拝啓、MCアフロ様」Official Music Video


MOROHA「五文銭」Official Music Video

 

 

13位
VIVIAN KILLERS/The Birthday
2019年3月20日発売

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今年活動14年目を迎えたThe Birthday。アルバムのリリースは今作品で何と10枚目となる。


ある種の反則技ではあるが、今回のアルバムは全体的に音がデカい。実際彼らのアルバムの音量は毎回大きいのだけれど、いつも以上にそう感じる一番の理由としてはやはり、徹底してロックに振り切ったサウンドにある。思えば前作『NOMAD』も前々作『BLOOD AND LOVE CIRCUS』も確かにロックアルバムではあったものの、緩やかに進行してサビで熱が入るような、ある種大人の魅力とも言うべきムーディーな雰囲気に満ち溢れている印象が強かった。


だが今作は例えるなら一世を風靡したチバの前身バンド、ミッシェル・ガン・エレファントの時代まで遡ったような、シンプルで爆発力の高いロックが鼓膜を震わせる代物。更に度重なる喫煙と飲酒で限界までしゃがれたチバ(Vo.Gt)の独特の歌声も迫力を増しており、古くからのファンであればあるほど感動もののアルバムに仕上がっている。


ベースの低音がダイレクトに響く“青空”や《このクソメタルババアがよ》とのキラーフレーズで開幕を飾る“DISKO”、一撃必殺のサビが脳内をぐるぐる回る“OH BABY!”など、総じて『VIVIAN KILLERS』はどこを切ってもファンが求めていた等身大のロックバンド・The Birthdayであり、何年経っても色褪せない彼らの魅力を再認識できるアルバムでもある。


今のThe Birthdayはその疾走っぷりも過去最高レベルだ。『VIVIAN KILLERS』リリース後には約半年にも及ぶ大規模な全国ツアーを完遂。更に大小様々な各地フェスにも出演し、同時にチバのソロプロジェクトにも着手し、こちらも今年アルバムを発売している。留まることを知らないThe Birthdayの快進撃だが、今後もセットリストの見所となるであろう楽曲が多数収録された今作は、是非とも今触れておくべき存在であると感じる次第だ。

 


The Birthday「青空」MUSIC VIDEO


The Birthday –「OH BABY!」Music Video (full size)

 

 

12位
Hello My Shoes/秋山黄色
2019年1月23日発売

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2019年突如現れた期待の新星、秋山黄色。インターネットシーンのみならず、インディー音楽シーンを加速度的に荒らし回る彼の初の一手となるのが、今作『Hello My Shoes』である。


テレビアニメ『けいおん!』に影響されて音楽活動を始めたというエピソードこそ平成世代らしいが、サウンドはギターリフ主体で進行する、どちらかと言えばナンバーガール寄りのド直球ロック。


メディアに顔を出すことは基本的にないが、片手で数えられるほどの音楽雑誌では貴重な素顔を公開している。そこではアーティスト名に偽りなしの金髪ながらも目を完全に覆い隠し、一切の笑顔を出さない彼のミステリアスな姿を見ることができる。自身について「普段家からほとんど出ない引きこもり」であると語る秋山黄色。“やさぐれカイドー”の《夜中の2時過ぎてやっと俺だ》、“とうこうのはて”での《借金まみれの顔を鏡で また洗っている》といった歌詞に顕著だが、今作で歌われる内容の大半は彼の飾らないリアルだ。しかしながらそれらの事柄に別段同意を求めるわけでもなく、はたまた前を向こうとポジティブに捉えるでもなく、一貫して「自分はこういう人間ですが何か」というある種達観したネガティブさでもって思いの丈を吐き出している。


必然的に声を出す機会も少ないはずだが、とりわけ“やさぐれカイドー”や“猿上がりシティーポップ”、“とうこうのはて”といったロックを前面に押し出す楽曲群には彼の鬱屈した感情が爆発している印象で、サビ部分ではキーの限界まで意図的に声を張り上げた絶叫に近い歌声がダイレクトに響いてくる。そんな初期衝動剥き出しの今作は、どれほど練られたベテランアーティストのアルバムよりも、心を揺さぶられる代物だ。


ツイッターのIDを@Ilikeakairoとし、現在配信中の新曲では更に引き出しを増やしている秋山黄色。反骨精神剥き出しの若き来年の動きに、来年も注目していきたい。

 


秋山黄色『猿上がりシティーポップ』


秋山黄色『とうこうのはて』Lyric Video (Short ver.)

 

 

11位
瞬間的シックスセンス/あいみょん
2019年2月13日発売

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紅白歌合戦への2度目出場は逃してしまった(おそらく実際は自分から出場辞退していると思われる)が、間違いなく今年最も音楽シーンに名を轟かせたのはヒゲダンでもKing Gnuでもなく、あいみょんだったのではなかろうか。


映画『クレヨンしんちゃん』の主題歌に抜擢された“ハルノヒ”や映画『空の青さを知る人よ』主題歌となった同曲、今までのあいみょん像を破壊した“真夏の夜の匂いがする”など、とりわけ今年は彼女のシングルリリースが目立った年であり、また同時に「あの“マリーゴールド”の発売がもう1年も前のことである」という事実にも驚かされるほど、例年にない多作っぷりを見せ付ける年でもあった。


そんな現状を踏まえてのこの『瞬間的シックスセンス』。何とこのアルバムには前述した3曲のシングルは一切入っておらず、それどころかシングルは全てこのアルバムリリース後に発売されている。そう。もうお分かりだろう。あれほどの大ブレイクを果たした“マリーゴールド”も“満月の夜なら”も、今作にて初めてアルバム入りしているのだ。……あいみょん、絶好調である。


言うまでもなく、このアルバムの中心を担っているのは“マリーゴールド”を始めとした耳馴染みのよいポップミュージックな訳だが、ドラムが印象的な“ら、のはなし”、《なんまいだー なんまいだー》のメロが頭を支配する“二人だけの国”、ロックに徹した“夢追いベンガル”も、どの楽曲がシングルカットされていたとしてもおかしくないほどの完成度を誇る楽曲がてんこ盛り。


今年は弾き語り形式でたったひとりで武道館に立ったり、全国ツアーや夏フェスの出演も活発化したりと話題に事欠かなかったあいみょん。来年もこの一種ランナーズハイのような高いポテンシャルをそのままに、突き進んでいくはずだ。冗談でも何でもなく、あいみょんは来年も若者の更なるポップアイコンになるだろう。

 


あいみょん - マリーゴールド【OFFICIAL MUSIC VIDEO】


あいみょん - 今夜このまま【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 

 

……さて、次回はいよいよ1桁台。10位~6位までの発表である。3年間に渡って続けてきた『個人的CDアルバムランキング』だが、次回は何と全アーティストが当記事初登場というフレッシュぶり。乞うご期待。

個人的CDアルバムランキング2019[20位~16位]

こんばんは、キタガワです。


遂に今年もこの時期がやってきた。執筆にかける時間とアクセス数が全く釣り合わないと巷で噂の年末恒例企画、『個人的CDアルバムランキング』である。


その年に発売されたアルバムを独断と偏見でランク付けするこの企画は早いもので今年で3年目。更に個人的な話で恐縮だが、今年は有り難いことに音楽ライターとしての活動が活発化した運命的な年でもあった。しかしながらそれに伴って『音楽を3時間以上聴いていない日が1日もない』という未曾有の領域に突入してしまったことからも、選考は過去に例を見ないレベルで難航した。


さて、今年も今までと同様に今年発売されたアルバムとミニアルバムに絞り、なおかつ『曲単体ではなくアルバム全体として評価する』ことを第一義として選考を行った。なお選考対象外のもの、並びに過去のアルバムランキングについては以下の通りである。

・ベスト版
・リマスター版
・シングル
・カバーアルバム
・EP
・ライブ会場限定CD
・サウンドトラック
・レンタル限定CD

アルバムランキング2018はこちら→(~16位)(~11位)(~6位)(~1位

アルバムランキング2017はこちら→(~16位)(~11位)(~6位)(~1位


……令和に突入した2019年。今年のランキングは何と初のランクインが14組、更には女性ボーカルのアーティストが半数を占め、例年ランクインしていたアーティストも選考漏れとなるなど、正に令和の新時代に相応しい結果となった。


それでは以下より、20位から16位までをそれぞれの短評と共に発表していこう。

 

20位
二歳/渋谷すばる
2019年10月9日発売

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昨年末、社会的にも音楽的にも確固たる地位を確立するアイドルグループ、関ジャニ∞からの衝撃的脱退を発表した渋谷すばる。そんな世間を大きく震撼させた突然の申し出から1年が経ち、ほぼ沈黙を守ってきた彼の一手が遂に明らかとなった。それこそがソロ名義では初のアルバムとなる今作『二歳』である。


特筆すべきは、冒頭を飾る1曲目の“ぼくのうた”と名付けられたリード曲。この楽曲では誇張でも何でもなく、彼が何故人気絶頂にある関ジャニ∞を辞めてまで再び音楽を始めたのか、そして何故今ソロとして音楽を選ぶ必要があったのか、その心の内が飾らない言葉で綴られている。


《もしこの声に聞き覚えがありましたら》

《今日までの色んな出来事を聞いてくれませんか》

《もしこの僕に見覚えがあって興味がありましたら》

《これからも頭の端っこにそっと居させてくれませんか》


前述した“ぼくのうた”のみならず、アルバム全体で見ても使われる楽器はギター、ベース、ドラム、ハーモニカのみと、ひたすらシンプルに削ぎ落とされている。歌詞についても《トラブラーだからトラベラー》のリフレインがぐるぐる回る“トラブルトラ ベラ”、《なんにもない なんにもないな》と歌われる“なんにもないな”など、極端にシンプルな構成となっているのが印象深い。


あのお馴染みの声で鳴り響くのはフラワーカンパニーズを彷彿とさせる泥臭い音の塊で、そこにはテクニックもハイクオリティな試みも一切ない。ただひたすらがむしゃらに鳴らされる音、音、音……。それは関ジャニ∞と比較しても似ても似つかない、あまりに無骨なひとりの男の生き様だ。


しかしこのアルバムを聴けば誰しもが、渋谷がかねてより夢見ていた行動こそがソロデビューであり、その行動に至るまでには絶対的に関ジャニ∞を脱退する必要があったのだと、改めて思い知らされるはずだ。強い信念と熱意を携えて作られた今作は「自分はソロシンガーとしてはまだまだ新米である」との思いを込めて、やっとたどたどしくも言葉が話せるようになる年頃である『二歳』と名付けられた。


来年からは当アルバムを携えての全国ツアーも決定しているが、現時点でキャパシティを大幅に上回る応募が殺到している。間違いなく集まる大半は関ジャニ∞時代からのファンだろうが、何年か経った頃には「ミュージシャン・渋谷すばるのライブを観に来た」と語る純粋な音楽ファンがライブに行く予感がすると同時に、そうであってほしいと切に願う。

 


渋谷すばる『ぼくのうた』 [Official Music Video]


渋谷すばる「アナグラ生活」先行配信中!

 

 

19位
WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?/Billie Eilish
2019年3月29日発売

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YouTubeの総再生数は45億回を超え、実兄であるフィニアス含めグラミー賞で11部門ノミネートと前人未到の偉業を達成してしまった、今月18歳の誕生日を迎えたビリー・アイリッシュ。


既に海外における10代の女子を中心に一種宗教的なポップ・アイコンとなっているビリーだが、そんな彼女の勢いが加速度的に増すひとつの契機となったのが今作『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(眠りについたらどこに行くの?)である。


アルバムは「歯列矯正したからめっちゃアルバム歌いやすいわ!」とビリーが爆笑する僅か13秒の“!!!!!!!”から幕を明け、本人もメディアで「何でこんなに売れたのか意味が分かんない」と何度も語っていた“bad guy”、黒い涙を流す衝撃的なMVにメディアが沸いた“when the party's over”など、終始陰鬱なムードに包まれた今作は、流行歌として街中で流れるものとしてはあまりにダークかつホラーである。だが実際このアルバムは街中で今なお流れまくっているどころか、アメリカとイギリスではアルバム1位を獲得。ライブ映像等を見ると分かるが、ビリーの存在は日本で暮らす我々がイメージする以上に、かつてのジャスティン・ビーバーと同等か、それ以上のムーブメントを巻き起こしている。


しかしながら今ビリーがここまで若者にとってヒーロー的存在を担っているのは、必然であるとも思うのだ。2019年現在、世界各国では様々な問題が巻き起こっている。ビリーが暮らすアメリカだけで考えても、市販薬の過剰摂取による10代~20代の若者の死亡事故が多発していることや、現トランプ政権による貧困層と富裕層の格差拡大、黒人への差別など、数年前と比べて格段に混沌化している。


映画『ジョーカー』が大ヒットを記録し、香港では連日デモが行われ、日本においても桜を見る会や消費税増税に異を唱える人々が増えているように、間違いなく今の人々にはそうした『クソッタレな今』に対して徹底してNOを突きつける姿勢が見受けられる。このアルバムはそうした『今』を切り取り、直接的な表現でもって白日の元に晒す稀有な存在を担っている。


今作がここまで流行っている現状を見て「この世はまだまだ捨てたものじゃないな」と思ってしまうのは、僕が純粋に歳を取ったからだろうか。いや、必ずしもそうではないはずだ。

 


Billie Eilish - bad guy


Billie Eilish - when the party's over

 

 

18位
LIP/SEKAI NO OWARI
2019年2月27日発売

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今年は『EVE』と『LIP』という2枚のフルアルバムの同時発売に至ったセカオワ。長らくアルバムをリリースしてこなかった彼らの活動を見ていると一見シングルの寄せ集めのようにも思えるが、実は2枚には明確な差別化が図られている。『EVE』はダークかつ実験的な楽曲を主とし、対して『LIP』は歌メロを重視しつつ口ずさみやすい楽曲を多く収録。


完全に二極化したふたつのアルバムを、バンドの中心人物であるFukase(Vo)はこう語っている。「『Lip』と『Eye』は口と目なんですけど、僕は両方語るものだと思っていて。『Lip』は口から出てくる希望みたいなものを歌っていると思うし、『Eye』は希望というものを見てる目って感じで」……。


けれども今までセカオワは“スターライトパレード”や“RPG”、“Dragon Night”といった口ずさみやすくメロ重視の楽曲を軸として人気を獲得してきたバンドであることを鑑みると、やはり個人的にはセカオワ像を地で行く形を貫いた『LIP』に軍配。『LIP』にはお茶の間に広く鳴り響いたオリンピックテーマ曲“サザンカ”、ジブリアニメの主題歌に抜擢された“RAIN”、昨今ではライブの定番曲と化している“YOKOHAMA blues”など、広く受け入れられてきたセカオワ像をはっきりと体現する楽曲が多く収録されており、耳馴染みの良さはピカイチと言って良いだろう。


今年はメンバーの結婚・出産のみならず、ライブではDJ LOVE(DJ)がドラムに転向したりがベースを担ったりと、大幅なパートチェンジが話題となっているセカオワ。残念ながら今年の紅白歌合戦の出場は叶わなかったものの、未だライブは全公演ソールドアウト、かつオリオンチャートでも上位に食い込む彼らは、必ずや来年も話題の中心を担うことだろう。

 


SEKAI NO OWARI「サザンカ」


SEKAI NO OWARI「RAIN」Short Version

 

 

17位
i/上白石萌音
2019年7月10日発売

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テレビ番組や舞台の出演のみならず、音楽活動も次第に本格化しつつある若手女優、上白石萌音(かみしらいしもね)。前作から約2年。満を持して放たれるミニアルバム『i』は、自身2枚目となるオリジナルアルバムとなる。


思えば彼女が『君の名は。』の宮水三葉役として抜擢され、認知度を飛躍的に高めたのはもう3年も前のこと。昨今では映画やドラマの出演で多忙を極める他、昨年は映画『羊と鋼の森』にて妹の上白石萌歌と共演し、その妹である萌歌は今年Adieu(アデュー)名義でCDデビューを果たすなど、姉妹揃って音楽活動が活発化したのも印象深い。


今作における最大のストロングポイントはやはり、全作に比べて圧倒的にパワーアップした歌唱力だろう。言わずもがな、彼女が歌手活動を始める契機となった出来事は『君の名は。』の一大ブームだったわけだが、当時は良くも悪くも『人気映画のヒロインが歌手デビュー』といったタイアップ的要素を前面に押し出す形で売り出されており、事実初のアルバムはRADWIWPSの“なんでもないや”を含めた全曲がカバー曲。言い方は悪いが、かつては上白石萌音というひとりの歌手としてではなく、世間の注目を集めるためのひとつの有効的手段として歌手に起用された感は、どうしても否めなかったのだ。


しかしながら今作では、完全にいちボーカリストとして自立した印象を受ける。ヨルシカのn-bunaが作曲を務めた“永遠はきらい”に始まり、時にポップに、時にメロウに変幻自在に雰囲気を作り替えるそのスタイルは、まさに歌手・上白石萌音のひとつの到達点と言える代物。


少し話は逸れるが、個人的に現在は『ある程度認知されている人が歌を歌えば話題になる』という、ミュージシャンとしては一種地獄のような時代であると思っている。それこそ今年はタレントや声優、YouTuberやVTuberなど『様々な知名度のある人間』が音楽業界に参入してオリコンチャート上位を独占し、話題をかっさらっていった。


そんな中、上白石萌音の骨太なサウンドにも決して劣らない力強い歌声を聴いていると、それこそ彼女は菅田将暉や桐谷健太のような天性の歌手なのだなあと改めて感じ入るような、強い驚きと感動があった。ぜひまたライブ活動を再開し、広く歌声を響かせてほしいところだ。

 


【好評配信中!!】上白石萌音「永遠はきらい」Music Video

 

 

16位
ウ!!!/ウルフルズ
2019年6月26日発売

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バンドの中心人物であるウルフルケイスケが活動休止を発表しスリーピースとなったニュー・ウルフルズ。約2年ぶりとなるオリジナルアルバムである。


まず初めに述べてしまうが、開幕を飾る“センチメンタルフィーバー~あなたが好きだから~”は、間違いなくウルフルズ史上……いや、今年の音楽業界全体を通して見ても最大の問題作だ。

 

かつて一世を風靡した“ガッツだぜ!”や“バンザイ~好きでよかった~”をイメージして聴くと「何だこりゃ!」とぶったまげること請け合い。昭和のアイドルを彷彿とさせるサビ、打ち込みを多用したサウンド、しかもフロントマンであるトータス松本(Vo.Gt)すらまともに歌っていないというまさかの楽曲。しかしながらこの大胆な方向展開はむしろ功を奏している印象で、続く“リズムをとめるな”、“ワンツースリー天国”といったかねてよりのウルフルズ像をより際立せる役割を担っているようにも思う。


長年活動を続けているアーティストであればあるほど、ファンからは「やっぱり初期のアルバムが一番良い」と言われることが多いと聞く。実際自分自身もそうで、ニューアルバムが発売されても一聴しただけで「あーいつもの感じね」と感じ、そこから全く聴かなくなってしまうこともある。


そうした背景を踏まえての『ウ!!!』である。再生ボタンを押した瞬間にアーティスト名を二度見してしまう驚きと新鮮さを与えてくれたこのアルバムは総じて、ウルフルズから距離を置いた人であればあるほどグッとくる存在なのではなかろうか。

 


ウルフルズ センチメンタルフィーバー ~あなたが好きだから~ MUSIC VIDEO YouTube ver.


ウルフルズ “リズムをとめるな” MUSIC VIDEO short ver.

 

 

……さて、いかがだっただろうか。


次回は当アルバムランキング初登場となるアーティストが多数入り乱れる、15位~11位の発表である。乞うご期待。

映画『ひとよ』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

 

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今回鑑賞した新作映画はこちら。『ひとよ』である。


非常に印象的なタイトルでも話題を呼んだ『ひとよ』だが、実際は『人よ』ではなく『一夜』……。つまりは一つの夜をきっかけにして起きた出来事とその後の生活について、徹底的に掘り下げる作品となっている。


そんな一夜の事件とは、殺人の中でも極めて罪が重いとされる『家族殺し』だ。15年前にとある家庭で殺人事件が発生した。殺されたのは父親。殺したのは母親で、3人の幼い子供がいた。この映画での重要な部分は、この殺人が『子供たちを守ろうとして行われた苦肉の策であった』ということ。そう。母親は常に暴力を振るい続ける父親を殺すことが子供たちの幸せに繋がると判断し、『考えうる最善の行動』を取った。それこそが殺人だったのだ。


結果的に母親は、15年間もの間留置場で暮らすこととなる。だがそれぞれの生活を送る3人の前に15年後、釈放された母親が現れた……。あらすじとしてはこのような具合であろうか。


この映画で主に描かれるのは犯罪を犯したらこうなるというあまりにも悲しい現実だ。


もしも家族に殺人者がいたら……。読者の皆様はこの絶対に起こり得ないはずの非現実的なことについて、真剣に考えたことはあるだろうか。


少し話は脱線する。神戸連続児童殺傷事件(通称・酒鬼薔薇聖斗事件)では残された両親が数億円規模の賠償金を背負い、世間から大バッシングを受けた。秋葉原無差別殺傷事件を引き起こした加藤智大の実兄は自殺した。彼が死の間際に書いた遺書の一部分には、以下の言葉の数々が書かれていたという。


「被害者家族は言うまでもないが、加害者家族もまた苦しんでいます。でも被害者家族の味わう苦しみに比べれば、加害者家族のそれは遥かに軽く、取るに足りないものでしょう」


「『加害者の家族のくせに悲劇ぶるな』、『加害者の家族には苦しむ資格すらない』。これは一般市民の総意であり、僕も同意します。ただそのうえで、当事者として言っておきたいことが一つだけあります」


「そもそも、『苦しみ』とは比較できるものなのでしょうか。被害者家族と加害者家族の苦しさはまったく違う種類のものであり、どっちの方が苦しい、と比べることはできないと、僕は思うのです」


……そう。殺人は本人だけの問題ではない。親戚や知り合い、職場といった様々な場所に拡散し、家族全体を生きにくくさせてしまうのだ。『ひとよ』の主人公は3人。母が殺人を犯した結果、3人はこの15年の間全員犯罪者の子供であることを刻み込まれながら生活してきた。そして15年越しに母が帰ってきたことから、また新たな火種が噴出することとなるのだ。


この映画は間違いなく万人受けはしないだろうし、例えるならば『徹底的にダークな万引き家族』とも言うべきシナリオに仕上がっている。そして上で語ったように『犯罪を犯した人間の家族は100%こうなるぞ』というある種悲劇的な、しかしある意味では絶対に避けられないリアルが襲い掛かってくる。正直上映中は胸が抉られる思いに駆られたほどだ。


『ひとよ』の没入度は、そんじょそこらの映画とは比較にならない。何故なら『大切な家族が殺人を犯した』とイメージするだけで、誰しもが3人と同じ境遇になれるからだ。だからこそこの映画は心に刺さるし、精神的にダメージを負うし、感動的に映る。


『ひとよ』には、映画でしか体験できないリアルがある。もしもこの映画を「クソ映画じゃん」と一蹴する人間がいるとすれば、その人はきっと人生が輝いている人なのだろう。


ストーリー★★★★☆
コメディー★☆☆☆☆
配役★★★☆☆
感動★★★★☆
エンターテインメント★★★☆☆
家族度★★★★★

総合評価★★★★☆
(2019年公開。映画.com平均評価・星3.9)

 


映画【ひとよ】予告 11月8日(金)全国公開