キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『ひとよ』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

 

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今回鑑賞した新作映画はこちら。『ひとよ』である。


非常に印象的なタイトルでも話題を呼んだ『ひとよ』だが、実際は『人よ』ではなく『一夜』……。つまりは一つの夜をきっかけにして起きた出来事とその後の生活について、徹底的に掘り下げる作品となっている。


そんな一夜の事件とは、殺人の中でも極めて罪が重いとされる『家族殺し』だ。15年前にとある家庭で殺人事件が発生した。殺されたのは父親。殺したのは母親で、3人の幼い子供がいた。この映画での重要な部分は、この殺人が『子供たちを守ろうとして行われた苦肉の策であった』ということ。そう。母親は常に暴力を振るい続ける父親を殺すことが子供たちの幸せに繋がると判断し、『考えうる最善の行動』を取った。それこそが殺人だったのだ。


結果的に母親は、15年間もの間留置場で暮らすこととなる。だがそれぞれの生活を送る3人の前に15年後、釈放された母親が現れた……。あらすじとしてはこのような具合であろうか。


この映画で主に描かれるのは犯罪を犯したらこうなるというあまりにも悲しい現実だ。


もしも家族に殺人者がいたら……。読者の皆様はこの絶対に起こり得ないはずの非現実的なことについて、真剣に考えたことはあるだろうか。


少し話は脱線する。神戸連続児童殺傷事件(通称・酒鬼薔薇聖斗事件)では残された両親が数億円規模の賠償金を背負い、世間から大バッシングを受けた。秋葉原無差別殺傷事件を引き起こした加藤智大の実兄は自殺した。彼が死の間際に書いた遺書の一部分には、以下の言葉の数々が書かれていたという。


「被害者家族は言うまでもないが、加害者家族もまた苦しんでいます。でも被害者家族の味わう苦しみに比べれば、加害者家族のそれは遥かに軽く、取るに足りないものでしょう」


「『加害者の家族のくせに悲劇ぶるな』、『加害者の家族には苦しむ資格すらない』。これは一般市民の総意であり、僕も同意します。ただそのうえで、当事者として言っておきたいことが一つだけあります」


「そもそも、『苦しみ』とは比較できるものなのでしょうか。被害者家族と加害者家族の苦しさはまったく違う種類のものであり、どっちの方が苦しい、と比べることはできないと、僕は思うのです」


……そう。殺人は本人だけの問題ではない。親戚や知り合い、職場といった様々な場所に拡散し、家族全体を生きにくくさせてしまうのだ。『ひとよ』の主人公は3人。母が殺人を犯した結果、3人はこの15年の間全員犯罪者の子供であることを刻み込まれながら生活してきた。そして15年越しに母が帰ってきたことから、また新たな火種が噴出することとなるのだ。


この映画は間違いなく万人受けはしないだろうし、例えるならば『徹底的にダークな万引き家族』とも言うべきシナリオに仕上がっている。そして上で語ったように『犯罪を犯した人間の家族は100%こうなるぞ』というある種悲劇的な、しかしある意味では絶対に避けられないリアルが襲い掛かってくる。正直上映中は胸が抉られる思いに駆られたほどだ。


『ひとよ』の没入度は、そんじょそこらの映画とは比較にならない。何故なら『大切な家族が殺人を犯した』とイメージするだけで、誰しもが3人と同じ境遇になれるからだ。だからこそこの映画は心に刺さるし、精神的にダメージを負うし、感動的に映る。


『ひとよ』には、映画でしか体験できないリアルがある。もしもこの映画を「クソ映画じゃん」と一蹴する人間がいるとすれば、その人はきっと人生が輝いている人なのだろう。


ストーリー★★★★☆
コメディー★☆☆☆☆
配役★★★☆☆
感動★★★★☆
エンターテインメント★★★☆☆
家族度★★★★★

総合評価★★★★☆
(2019年公開。映画.com平均評価・星3.9)

 


映画【ひとよ】予告 11月8日(金)全国公開