キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

ブログ開設2年目に突入したので、ちょうど2年前の話をば

こんばんは、キタガワです。

 

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某日、一通のメールが届いた。宛先ははてなブログから。そこに書かれていた文言は「キタガワのブログを開設して2年が経ちました」……。全く実感が湧かないが、要はそういうことらしい。


2年間。2年間である。この世に生を受けた赤子がたどたどしくも話せるようになる期間。仕事を始めた人間がようやくある程度の業務に慣れるほどの期間。それだけの長きに渡って、僕はブログを書いてきたわけだ。感慨深い気持ちは然程ないにしろ、ブログ開始当初は『最低2年は続けよう』という暗黙のルールのもと活動を行ってきたこともあり、ひとつの到達点に達した感すらある。


そんなこんなで今回は、2年目に突入した今の赤裸々な心境について洗いざらい語り、中でも今までの記事であまり語ってこなかった、ブログ開設時の話を書き進めていければと思っている。当ブログでは節目節目で現在の境遇をさらけ出しているため、何点か重複する部分は出てくるとは思うが、ご容赦願いたい。


僕が当ブログを開設したのは、2017年11月7日。その頃はちょうど僕が新卒で入社した『某社』で、どん底の地位を確立していた時期だった。


前述した『どん底の地位』と言うのは、決して誇張表現などではない。当時の僕は間違いなくどん底だった。それだけに留まらず、僕は毎日毎分毎秒、最悪な行為ばかりをひたすら空想していた。


11月になったばかりのある日、僕は店の方針と意見が食い違い、店長と未曾有の大喧嘩をした。そして11月30日付けで退職するという旨の退職願いをその場で書き殴り、店長に手渡した。4月に勤務を初めてから約半年。あまりにも短い正社員生活だった。


そして次の日の朝礼時には、店長直々に全従業員へ「キタガワは絶対に売り場に出すな」との命令を下された。よってそれから退職までの1ヶ月の間は、『ショップ店員のキタガワ』として売り場に一切出ることは一切なかった。そして僕はそのまま誰にも存在を感じさせることなく、制服と帽子だけをロッカーに返却してひっそりと姿を消したのだった。


その間の僕は何をしていたかと言えば、ただ掃除をしていた。朝10時から夜21時まで。もちろん従業員しか通らないバックスペースなど僅かなものだったが、そんな『掃除の意味すらない場所を掃除すること』こそが、僕に与えられた唯一の仕事だった。今思えば誰からも口を開かれず存在意義すらないそれは、所謂『社内ニート』と呼ばれるものであったと思う。


当然の如く、僕の心は疲弊していた。退職願いを店長に手渡したあの瞬間の出来事は、今でも夢に見る。店長に呼び出されての「キタガワくんって従業員の皆に嫌われてるってこと分からない?」に端を発した罵詈雑言の数々に怒り狂った僕は、「こっちも言いたいことあるんで言っていいですか」と前置きした上で、今までの鬱憤を晴らすかのように思いの丈をぶち撒けた。


「そうした言葉を同じ人間に吐くのは、お客様第一を謳う営業店舗の最高責任者として如何なものか」


「高齢者に高額な商品を売り付けるよう従業員に指示したり、単価の高い商品だけを売り場に出して安価な商品はバックに下げるなど、やっていることは詐欺ではないか。そうした手法で高額商品を売り付けることが正義であり正社員の在り方だと言うのなら、僕は今すぐに辞める」


「僕は僕が良いと思った商品を、しっかりと納得して買ってもらいたい。もしもそれで問題が生じたら僕が全責任を取る。借金したっていい」


……詳しい内容は覚えていないが、僕は確かそうした言葉をぶちまけた気がする。その結果出された答えが「じゃあ辞めるしかないね」、「少なくとも君はもう売り場には出せないね」というものだった。


話は少し脱線するが、僕は『社内ルール』というものが大嫌いである。例えばコンビニで年齢確認のボタンをお客さんに押してもらわないといけないとか、お客さんが口頭で電話番号を言うのはタブーだとか、電話は5分以内に切り上げろだとか。


そうしたルールは一見お客様目線に見えるが、その実態は決してお客様目線でも何でもない。それらはただ単に『店は責任を負いませんよ』という会社本意のためだけのルールである。しかしそのルールを守るのが、最低限の正社員に課される使命でもあるわけで、かつて店長に言われた「ルールを守れない人は売り場には出せない」という発言は、確かに理にかなっていると思う。


だが僕は僕で、譲れない一線というのはある。「売り上げを伸ばすために高齢者に高額商品を売れ」とか。「労基が視察に来るから出勤時間を改竄しよう」とか。「オススメ商品と偽って売れてない商品を売ろう」とか。それがどれだけ大事なルールと言われるものだとしても、譲れないものは譲れない。


僕はそうした『自分の中で譲れないこと』があるたびに、自分が腹落ちするような納得のいく答えが出るまで上司と徹底的に討論したい類いの人間だった。そして僕は、気付けばひとりになっていた。


セブンイレブンの夜勤、セブンイレブンの朝勤、セブンイレブンの昼勤、ファミリーマート、片側交通警備員、焼肉屋、ライブ運営、学童保育の教員、映画館、カラオケ店、販売員、携帯電話小売店、ホームセンターの棚卸し……。両手の指に収まらないほど様々なバイトを経験したが、その全てにおいて人間関係の悪化により自主退職、もしくはクビという末路を辿ってきた。


生き方は年々多様化してはいるものの、その中でも絶対に欠かせないものが『コミュニケーション能力』である。仕事をする上ではまず教えを乞わなければならない。分からないことがあれば聞かなければならない。どんなときでも社内の人間と良好な関係を築かなければならない……。僕はそうした『普通の人が当たり前に出来ること』が、何故か意図しない形で伝わってしまう人間だったのだ。


僕が乞音持ちだからなのか、負のオーラを身に纏っているからなのか。はたまた態度が不快感を与えるのか……。詳しい理由は分からないが、どうも僕は人間関係が極端に苦手で、特に職場の人間から嫌われる確率は異常に高いらしかった。


そう。長い人生経験でただひとつだけ分かっていることがあるとするならば、僕は社会で生きていくにはあまりにも難しい性格で、たったひとりで生きていく選択肢以外は完全に絶たれているらしい、ということだ。


日々職場に出向いているにも関わらず、誰とも関わらない生活を送らざるを得ない人間の気持ちが分かるだろうか。分からないことを質問しても、まともに教えてもくれない疎外感は。仕事終わり、職場の全員が飲みに行く姿を暗闇でひとり見送る気持ちは。影で僕の悪口大会で盛り上がる中、素知らぬ振りして愛想笑いをしなければならない人間の気持ちは。


そんな友人とも家族ともまともに話せない、けれども本心では話したがりの人間である僕が、自身の思いを好きなだけ発散する場所。それがキタガワのブログだった。ひとりで何もかも解決でき、誰にも邪魔されることのないブログの存在は、いつの間にか僕にとって大きな救いとなっていた。


僕が残された道は、ひとつしかなかった。最近気心知れた友人らから「そんなに文章書けて凄いね」と言われることはあるが、何ということはない。僕にはこれしかないのだから。


だからこそ僕は日常的な執筆活動の場としてブログを2年間に渡って続けてきた。今の僕がある程度の精神状態を保ち、最悪な行為を実行に移さず自身を説き伏せられているのは、紛れもなくブログの存在が大きい。


しかしながらいつぞやの記事で語ったように、僕の最終目標はブロガーではない。僕の目標はあくまでも『音楽ライターとして安定した収入を確保すること』であり、ブログはそのためのステップに過ぎない。そのため最近は更新頻度も1年前と比べて圧倒的に少なくなっている。


今年は某音楽雑誌に文章が載ったり、月間賞をいくつかいただいたり、直々に執筆依頼をもらったりと、音楽ライターとしての道を少しずつ登っている感覚はある。だが今の僕は未だ島根県で細々と暮らすだけのただのフリーターであり、確固たる地位を築いているとは言いがたい。だからこそ今の僕の正直な気持ちとしては「早く音楽ライターとして結実したい」との思いが強い。もしかすると今後はブログの更新頻度は更に減るかもしれない。


だが、ブログを辞めるつもりはない。


ひとつひとつの記事に対して真剣に向き合っている自負はあるし、そんじょそこらのSNSを利用して読者を獲得したり、適当な記事を連投してアクセス数を記録するようなつまらないブロガーには負けないと本気で思っている。結果として底辺ブロガー感丸出しの現状ではあるが、これはこれで良いんじゃないかと。


……普段はあまり感謝の気持ちを述べることはないのですが、応援していただいている読者の皆様方には、本当に感謝しております。


今後とも『キタガワのブログ』を宜しくお願いいたします。

 

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amazarashi『月曜日』“Monday” Music Video|マンガ「月曜日の友達」主題歌

【ライブレポート】集団行動『ミッチー的 集団行動「承」』@TSUTAYA O-nest

こんばんは、キタガワです。

 

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10月27日。集団行動にとって初となるメンバープロデュース型ワンマンライブ、『ミッチー的 集団行動「承」』に参加した。


『承』なる意味深なタイトルからも分かる通り、今回のライブはバンドの発起人でもある真部脩一(Gt)総指揮のもと、9月の『西浦謙助的 集団行動「起」』、10月(今回)の『ミッチー的 集団行動「承」』、そして来たる11月には『齊藤里菜的 集団行動「転」』と、各メンバーによる異なる趣向で3ヶ月に渡って同会場で開催されるものだ。


しかしながら集団行動が本格始動したのは2017年ということもあり、まだまだ彼らの活動歴は短い。毎年コンスタントにアルバムをリリースしてはいるものの、現在までに発売されているアルバムはミニアルバムである『集団行動』と『充分未来』、そして今年発売されたフルアルバム『SUPER MUSIC』の計3枚のみ。


通常のワンマンライブでは、今までにリリースした全アルバムの中から満遍なく選曲し、公式のMVとして上がっているようなキラーチューンを網羅しつつ進行していく形が一般的である。


にも関わらず先月行われた『起』の本編では、今までにリリースした『集団行動』、『充分未来』の計2枚のミニアルバムの楽曲を収録順に全曲披露。最新アルバムの楽曲に至っては本編で1曲も演奏されないという予想外なものだった。


それでは今回の『承』の本編はどうだったのかと言えば、何と『起』とは対照的に2枚のミニアルバムからは2曲ずつ抽出されるのみで、残り12曲は全てニューアルバム『SUPER MUSIC』からというこれまた予想外なものだった(記事執筆時点では未だ『転』は開催されていないが、ここまで来ると全く予想出来ない)。


定時を迎えると、ステージにゆっくりと歩み始めたミッチーは、スポットライトを浴びながら今回のライブのストーリーについて語る。


先月行われた『起』の終盤にて暴君に銃殺され、脳だけになってしまった真部(詳細は割愛)。集団行動の全作詞作曲を務める彼を救うべく旅に出たミッチーは、とある力を身に付けてライブハウスに帰還したそうだ。


その力の正体はタイムリープ。彼の胸には時計が身に付けられており、この時計を操作することで時間を巻き戻すことが出来るという。早速時間を巻き戻したミッチーは撃たれる寸前で真部を庇い、代わりに自身が銃弾に当たったことにより真部の死は回避された。


しばらくして、ステージに舞い戻ったミッチー。その頭には包帯が巻かれており、僅かに血が滲んでいる。


もう一度ライブの初めからやり直すことを決意したミッチー。「うん。お客さんにも気付かれてないし……。このまま行こう!起承転、スタートです!」と叫ぶと、ダンサブルなSEに合わせてメンバーが登場。銃殺されたはずの真部も元気そうだ。


遅れてゆっくりとステージ中央へと進んだ齊藤里菜(Vo)が「集団行動です。最後までよろしく」と発してスタートした1曲目は、ニューアルバムでも同じく1曲目に位置していた『SUPER MUSIC』。


〈最高の瞬間を 最高の快感を まだまだ死ねないdon't stop the music〉

〈青春の衝動を 存在の証明を残そう 踊ろう さあdance dance dance〉


『SUPER MUSIC』はライブの開幕に相応しい、タンサブルに進行するポップロックナンバー。齊藤はごく稀に体を翻して後ろを向く程度で、基本的にはじっと前方を見据え、圧倒的な集中力で歌唱に全身全霊を注ぐ。かつて『ミスiD 2016』のファイナリストにも選ばれた経歴を持つ齊藤。その美貌も相まって、じっと目を釘付けにさせられる。バンド結成前は「ほとんど音楽に興味がない」とインタビューで語っていた彼女だが、今回のライブでは明らかに歌唱力が向上していたのもひとつのポイント。いちボーカリストとして完全に自立した印象を受けた。

 

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真部、ミッチー、西浦、そしてサポートメンバーの奥野大樹(Key・ルルルルズ)から成る楽器隊はタッピングやスラップ、早弾きといった高度なテクニックこそ使わないものの、ずっしりとした演奏で土台を固め、抜群の安定感でもって雰囲気を形作っていく。


続く『テレビジョン』も同様に、アッパーながらもテンションの高さをほとんど感じさせないマイペースな雰囲気で魅了。日本の音楽シーンに大きな影響を与えた相対性理論時代(ちなみにかの名曲『LOVEずっきゅん』の作詞作曲も真部である)にも感じていたことではあるが、やはり真部の織り成すサウンドと歌詞はかつ一度聴いただけで「真部だ!」と分かるような唯一無二の存在であり、そうした音の数々が目の前で繰り広げられている光景には、感動すら覚えてしまう。


しかしながら、集団行動の素晴らしきライブは早くも不穏な空気を見せることとなる。時間の概念を超越したミッチーは、今なら全てが自分の思いのままであると考え、完全なる暴走状態と化す。そして「せっかくの機会だからメンバーへの日頃の鬱憤を晴らしてやろう」と考えたミッチーの高笑いが響く中、『セダン』へと移行。


冒頭こそ順調な滑り出しではあったものの、ピタリと静止した状況の後に全員が一斉に演奏するという最も良い場面で時間を停止したミッチー。だがミッチーの所業はそれだけに留まらない。今まで散々弄り倒された鬱憤を晴らすべく、まずは西浦のドラムスティックを奪い取ると、その代用品として大根をセット。キーボードの奥野には「出す音全部和音にしてやる!」となべつかみを装着し、真部には「プライベートがキザだから」との理由でピックの代わりに一輪の花を持たせる。フロントウーマンの齊藤には背中に“何か”を括り付け、時間停止解除。


必然、演奏はぐちゃぐちゃ。あまりの不協和音ぶりに急遽演奏を止めさせたミッチーは、ここぞとばかりに「真部さん!何で花なんか持ってるんですか?真面目にやってくださいよ!あなたも大根なんて持っちゃって!」と満面の笑みで説教モードに。


数分後、ピックやドラムスティックに改めて持ち替えて再開したものの、齊藤の背中に括り付けられた“何か”の存在は未だ不明のまま。しかし直後にギターソロ齊藤が後ろを向くと、そこには大きく『←バカ』と書かれており、矢印に示されていたのはギター担当の真部。目を瞑りながら高難度のギターソロを繰り出す真部と、そんな彼を文字通り馬鹿にする『←バカ』のくだりに会場は爆笑の渦に包まれる。演奏終了後は背中の貼り紙に気付いて怪訝な表情を浮かべた齊藤だが、その後は無表情でそれを観客に手渡すと、何事もなかったかのように歌い始める。

 


集団行動 / 「ザ・クレーター」Lyric Video(Short ver.)


その後は間に1stミニアルバム収録の楽曲やミッチーの故郷である大阪・難波の話を挟みつつ、ニューアルバムの楽曲を惜しみ無く披露した集団行動。ミッチーが「ありがとうございましたー!」と叫び、本編最後は『鳴り止まない』でシメ。


『鳴り止まない』は「鳴り止まないなないなななない……」のリフレインがぐるぐる回る、集団行動としては珍しいシンプルなロックンロール。ラストの楽曲にはない相応しい目まぐるしい疾走感でもって駆け抜け、笑顔でステージを去っていった。


ここまでで約40分。あまりにも早い幕切れに疑問を感じ、現時刻を確認する観客も多く見受けられたが、当然ながらまだライブは終わらない。


アンコールを求める手拍子が広がる中、再びステージに舞い戻ったミッチー。「いやー、ライブ良かったなあ!」と語りつつ、若干の物足りなさを感じたミッチーは、もう一度ライブを最初からやり直すことを決める。早速時間を巻き戻した彼だったが、予想以上に時間を戻しすぎたようで、気付けば今まさに真部が銃殺されようかという状況であった。


危険を察知したミッチーは「ちくしょう!間に合ってくれ!」と再び真部を庇う行動に出たのだが、冒頭では1発しか放たれなかった弾丸が何故か今回ばかりは数発発射され、戻ってきたミッチーは全身包帯だらけで満身創痍。


そんなフラフラの状況の中「今度はセットリストも変えてみよう。起承転、スタートです!」と叫ぶと、40分前と同じ形でメンバーが再登場。

 


集団行動 / 「充分未来」Music Video Track(充分未来~オシャカ~会って話そう~モンド)


齊藤の手拍子から始まった『充分未来』終了後は、またもや不穏な空気に。ドS心が芽生えたミッチー、今度は「次のターゲットはあんただ!フロントウーマンさんよー!」と次は齊藤ひとりに狙いを定め、演奏中に『何かしらの方法』で辱しめることを明言すると「さーて、いつ止めようかなー!」と上機嫌なミッチー。そのまま移行したのは『皇居ランナー』だ。


ここでは後半の周囲の演奏が止み、齊藤の歌唱から再スタートするという最も盛り上がるタイミングで時間を止め、「これこれー!」とテンション高め。ちなみに先に語っていた『何かしらの方法』とはすなわち齊藤が使っているマイクを巨大化させることであり、裏からは顔をすっぽり覆い隠すほどの巨大マイクが登場。


ここでミッチーが齊藤のマイクに近付いて巨大マイクのセッティングを施すのだが、巨大すぎてどう足掻いても齊藤の顔に当たってしまう。そのためどうしてもマイクの位置自体を移動させる必要があり、いたずらに時間が経過していく。もちろんその間は時間は停止している設定ではあるため全員が静止してはいるのだが、特に齊藤は目の前でマイクの設置に手こずるミッチーのグダグダ感に、笑いを必死で堪えているのが面白かった。

 

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今回のライブは企画者であるミッチーを主軸に置いたライブであり、ストーリーのみならずMCも全編通してミッチーに丸投げ。今までのライブではあまりMCを担当することがないミッチーらしく、「さっきの大阪の話の続きなんですけど、その後神奈川の実家に帰ったんですよ。したら胸に『芋掘り体験』って札を付けたおじいちゃんが歩いてきたんですよ!うん……。パタタス・フリータス!」と無理矢理楽曲に繋げたりと、どうにも歯切れが悪い。


そんなこんなでライブは続き、ラストは本日2度目となる『鳴り止まない』で大盛り上がりの幕切れだ。


本編最後の楽曲ということもあり、今まではほぼ感情を表に出さず歌唱に徹していた齊藤も幾分朗らかで、ミッチーを初めとしたメンバーに関しても緊張から解き放たれた感すらあった。終盤では楽器隊が客席ギリギリまで近付いてのライブハウスならではのパフォーマンスで魅了し、「ありがとうございました!」と大団円でステージを後にした。


しばらくしてアンコールに答えてステージに三たび登場したメンバーは、ここで本日初のフリートークの時間へ移行。


まずは真部が「今回のシナリオってさ……」と語ったことから端を発した『バンドメンバーはミッチーが時間を巻き戻していることを知っているのか問題』について話が及ぶ。ミッチーいわく「どっちでもいい」とのことで、最後までグダグダな設定を見かねた真部が「あのね、素人がSFに手を出したらダメだよ」と苦言を呈する場面も。


更に今回のミッチー作のシナリオが前回の『起』のシナリオと地続き(真部が銃殺されて脳だけになった等)になっていることを受け、来月『齊藤里菜的 集団行動「転」』を担当する齊藤はこの流れを受け継ぐかどうか問われると、齊藤は断固拒否。現段階ではライブが行われていないので結果は不明だが、おそらくは全く新しい形で進行していくことだろう。


ちなみに「こんなグダグダで終わってどうするの?」と疑問を感じる真部に対しては「最後はめちゃくちゃ笑い死ぬレベルのやつがあるんで!」と自信満々のミッチーであった。


現在、3ヶ月連続の新曲配信を行っている彼ら。よってアンコールでは先日配信されたばかりの新曲を立て続けに披露することを宣言。「新曲聴きたいかー!」(サカナクション山口一郎の「新曲聴きたい?」のオマージュ)との真部の一言から披露されたのは『ガールトーク』と『キューティクル』だ。

 


集団行動 / 「ガールトーク」Music Video(Short ver.)


新曲群は、今現在の集団行動のモードを色濃く反映したメロウチューン。『ガールトーク』では真部が担当楽器をギターからキーボードに持ち替え、打ち込みを用いたサウンドでもってゆったり聴かせる。『キューティクル』も同様に心地良い浮遊感を感じさせる美メロで進行し、今までとはまた一味違った雰囲気で会場を魅了した。


最後の曲はニューアルバム『SUPER MUSIC』に収録されている楽曲の中で、本編で唯一披露されていなかった『チグリス・リバー』。


メンバー全員が楽器を置いて横並びになり、オケを流しながらそれぞれがマイクを持って歌った『チグリス・リバー』。正直長らく真部の音楽に触れてきた身としては、海外の民謡音楽を彷彿とさせる壮大な『チグリス・リバー』はある種異質な楽曲というイメージが強かったのだが、サビ部分の一体感は確かに、ライブで強い一体感を共有するのにピッタリだった。事実、この場では全員が腕を左右に振りながらの大合唱。多幸感に包まれながら大団円を迎えた。


後半に差し掛かった際にはミッチーが突如体調不良を訴え、ヨロヨロとステージ裏へと撤退。これにはメンバーも顔を見合わせながら困惑する一幕もあったが、『チグリス・リバー』はそのまま続行し、「ありがとうございました!」と全員がステージを降りた。


ただひとつ体調不良により『チグリス・リバー』中に去っていったミッチーが気掛かりだったが、その後白髪に顎髭、更には腰も大きく曲がってすっかり老人の姿となったミッチーが登場。そして「これが力を使いすぎた者の末路なのか……」と語るオチが挟まれ、客電が点灯。『ミッチー的 集団行動「承」』は、誰も予想だにしていなかったまさかのバッドエンドで幕を閉じたのだった。


『起承転』と名付けられた今回のライブは、もちろんメンバー初のプロデュース型ワンマンライブという点でも貴重ではあるが、何よりも集団行動の楽曲群を時系列で振り返るコンセプトライブの様相を呈していたことが大きい。


漢詩において何かが起こる始まりを意味する起承転結の『承』に位置したこの日のライブで今年発売されたフルアルバムである『SUPER MUSIC』がセットリストの大半を担っていたことからも、ここからまた新たな始まりを経て、集団行動は次なる目標へと踏み出すことだろうと思う。


今月には最終公演となる『転』が行われ、更なる新曲のリリースも決定している。果たして今後の集団行動はどのように変化し、ファンを楽しませてくれるのだろう。これからの集団行動のメンバーたちによる『集団行動』に、目が離せない。


【集団行動@TSUTAYA O-NEST セットリスト】
[第1部]
SUPER MUSIC
テレビジョン
セダン
婦警さんとミニパト
1999
土星の環
ザ・クレーター
鳴り止まない

[第2部]
充分未来
皇居ランナー
クライム・サスペンス
パタタス・フリータス
スープのひみつ
ティーチャー?
ホーミング・ユー
鳴り止まない

[アンコール]
ガールトーク(新曲)
キューティクル(新曲)
チグリス・リバー

【ライブレポート】『ティッシュタイム・フェスティバル~大感謝祭~』@豊洲PIT

こんばんは、キタガワです。

 

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10月22日、豊洲PITにて行われたオナニーマシーン主催のライブイベント『ティッシュタイム・フェスティバル』に参加した。


今回のライブは20年に渡って活動を続けるオナニーマシーンが、盟友たちを集めて開催する大規模なものだ。しかし同時に、世間一般的な同窓会チックなイベントとは一線を画すものでもある。


2018年の7月、オナニーマシーンのフロントマンであるイノマー(Vo.Ba)は口腔底がんを発症し、余命3年であることを宣告された身である。その後は舌を全て切除し内臓までも失っただけでなく、その1年後……。つまり今年の7月には癌が転移、再発したことを公表した。癌の進行は現在ステージ4。彼のツイッターには、壮絶な闘病生活の模様が日々更新されている状態だ。


ステージ4の口腔底がんは、発症してから5年間までの平均生存率が45%とも言われている。イノマーは喋ることがほぼ不可能な状況であると同時に、全身にはしる痛みや体力の低下と闘っている。ライブを行うこと自体彼に良い影響を与えるはずがないということは、オナニーマシーンも、そしてイノマー自身も重々分かっているはずである。


そんな状況下で行われたのが『ティッシュタイム・フェスティバル』。オナニーマシーンが定期的に開催しているライブのひとつだ。今回は初めて『大感謝祭』と銘打たれ、過去最大規模のキャパである豊洲PITで開催される今回のライブを盛り上げるのは、銀杏BOYZ、ガガガSP、サンボマスター、氣志團という共にパンクシーンを盛り上げた盟友たち。間違いなく今回のライブは歴史に残るものであるし、きっとイノマーも心にも、美しい思い出として残ることだろう。


時刻は14時。宮中三殿では天皇即位の儀が行われている真っ只中だが、この豊洲PITだけは話が別。前説の時点で「オナニー!」のコール&レスポンスが繰り広げられ、厳かな雰囲気は一切感じられない。


前説も終わらない中、上半身裸にアコースティックギターを装着した峯田(Vo.Gt)とサポートメンバーがステージに降り立った。かくして爆音とノイズにまみれた一夜の幕は上がったのだった。

 

 

銀杏BOYZ 14:35~15:15

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瞬間、耳をつんざくような爆音が轟く。楽器の音量が極めて高いのはもちろんのこと、多種多様なノイズが過激さを増大させていた。それは言うなれば音の暴力。僕自身様々なライブに参加してきた自負はあるが、間違いなく人生で一番の爆音であった。


増幅し続ける爆音の中歌う峯田は『歌う』というよりはがなるように歌い上げ、早くも声はガラガラだ。


今回のライブで純粋に銀杏BOYZとしてリリースされた楽曲は『ぽあだむ』とラストに演奏された新曲のみで、それ以外は2003年に解散した銀杏BOYZの前身バンド、GOING STEADYのナンバーからというまさかのセットリストだった。


こうした特殊なセットリストとなった背景には、やはり、長年行動を共にしてきたイノマーの存在が大きいのだろう。しかしながらそうしたセンチメンタルな一面は一切見せることなく、鬼気迫るパフォーマンスで会場を温めていく。

 


若者たち/銀杏BOYZ


中でも圧巻だったのは3曲目に披露された『若者たち』。峯田は絶唱しながらステージを駆けずり回り、客席に突入。聴力的に間違いなく悪影響を及ぼすほどの爆音と、日常生活ではまず耳にしない洪水のようなノイズが渾然一体となり、ぐちゃぐちゃのカオス空間を形成していた。ちなみに、この時の時刻は未だ14時過ぎ。1曲1曲の凄まじいカロリーに翻弄されながら、濃厚な時が過ぎていった。


『ぽあだむ』のアドバイは峯田以外のバンドメンバーが去り、ステージには峯田一人に。今までまともなMCは一切行ってこなかった峯田が、おもむろに語り始める。


「本当のこと言うと、僕は今日オナマシの出演がなくなるんじゃないかって思ってました。イノマーさんが事切れて、僕らだけっていう。それでもいいかなって思ってました。でも何とか持ってくれたようでございます」


「癌がステージ4で、内蔵も舌も全部なくなって。それでも全裸でライブするっていう、そういう一人の男の生き様みたいなものを、これから観れるんじゃないかと思います」


そう語って披露されたのは『アーメン ザーメン メリーチェイン』と題された新曲。アコースティックギターの力強くストロークで恋愛模様を描く様は、かつての『光』や『人間』を彷彿させる。しかしこの場所で歌われた『アーメン ザーメン メリーチェイン』はタイトルにもある通り、『ティッシュタイム・フェスティバル』で演奏することに大きな意義があるようにも思え、感動的に響いた。


今回の銀杏BOYZのライブは普段通りの熱量と喧騒にまみれていながらも、長尺のMCはなしで集中力を研ぎ澄ませていたのが印象的だった。これらは言いたいことを言いまくり、CD音源丸無視で事故破壊的なライブを行うかつての銀杏BOYZのライブとは一線を画すものだ。彼の心情を伺い知ることはできないが、きっと様々な思いを抱えてこの舞台に立っていたはずだ。


最後に一言「ありがとうございました。銀杏BOYZでした」と語ってステージを降りた峯田は満足そうでもあり、込み上げる感情を圧し殺しているようでもあった。


【銀杏BOYZ@豊洲PIT セトリ】
星に願いを
東京少年
若者たち
駆け抜けて性春
愛しておくれ
BABY BABY
ぽあだむ
アーメン ザーメン メリー チェイン (新曲)

 

ガガガSP 15:50~16:30

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2番手は神戸のゴキブリ、日本最古の青春パンクバンドの異名でも知られるガガガSP。おもむろにステージに現れ、マイクを握り締めたコザック前田(Vo)が語り始める。


「ある人が言っておりました。パンクとは青春であると。青春には楽しいことや辛いこと、全部詰まってると。そう書いてくれたのがイノマーさんです。その思いを持ちながら、僕らは22年間やってきました」と語ってスタートしたのは、ガガガSP屈指のキラーチューン『線香花火』だ。

 


ガガガSP「線香花火」

 

「銀杏BOYZとサンボマスターに挟まれてて休憩時間かと思っていた」とMCで語っていた前田だが、気付けばダイバーが続出し、大合唱に次ぐ大合唱という大盛りあがり。そんな盛り上がりに火をくべるべく、セットリストはベスト版の再現のような磐石のセットリストで進行。


『青春時代』では口に含んだ水を霧状に吹き出したり、ペットボトルを投げ込んだり、果ては客席に飛び込みもみくちゃにされながら歌うという、エンターテインメント性抜群のパフォーマンスで魅了。楽曲と楽曲の合間には歌詞のフレーズを繰り返し、次曲を予感させつつ移行するそれはまさにライブバンドであり、パンクロックシーンの第一線で活動を続けるガガガSPの泥臭さと心意気を感じさせてくれた。


中盤以降もバラードチックな展開は一切なし。猪突猛進型の男臭いパンクロックで完全燃焼を図る。


「イノマーさんも頑張ってる。皆さんも何かから始めましょう。明日からではなく、今日から!」と前田が叫んで雪崩れ込んだラストナンバーは『明日からではなく』。終了間際、アカペラで熱唱した「もったいないとか、無駄な事だとか、僕は思わない。決して思わない」の一幕は、年相応の重さを孕んだ一言として響き渡った。


中盤のMCで「今、我々はこれほどの人の前で演奏することはほとんどありません。だから本当は新しい曲をやったりとかすると思うんです。でも今日はそういう日じゃないですよね」と前田が語っていたが、確かに珍しく新曲を一切披露しないフェス向けのセットリストだった。そこには確かに新鮮さはなかったかもしれない。だが多少は結成当初から一貫して青春パンクを訴えてきたガガガSPにとっては、これこそが最も盛り上がるというのもまた事実で、汗だくの観客を観てもそれは明らかだった。


この日、ひたすらに愚直に泥臭く観客の心を掴んだのは、間違いなくガガガSPだった。


【ガガガSP@豊洲PIT セトリ】
線香花火
晩秋
青春時代
忘れられない日々
国道二号線
つなひき帝国
明日からではなく

 

サンボマスター 17:05~17:45

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サンボマスターのライブでは始めに山口(Vo.Gt)が叫ぶ突発的な一言がその日のキーワードとして進行していくことが多いのだが、この日は「童貞!童貞!」とティッシュタイム・フェスティバルならではのコールで会場を掌握。


まずはこの日ならではの『オナニーマシーンのテーマ』で会場を温めると、そこからはフルスロットル。ガガガSPのコザック前田を呼び込んだ『さよならベイビー』や「イノマーとあなたの、そのぬくもりだけに用がありました」と語って雪崩れ込んだ『そのぬくもりに用がある』、イノマーの名前を絶叫して涙腺を緩ませた『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』など、今回はとりわけイノマーに対して強いメッセージを送っていたのが印象的だった。


後のMCで山口が語っていたが、サンボマスターは数十年前、当時雑誌編集者であったイノマーに才能を見出だされた稀有なバンドだ。今でこそお茶の間に広く名前が知れ渡った彼らにとって、長く苦しい下積み時代を生き抜く糧となった人物こそが、イノマーその人なのだ。

 


サンボマスター / 輝きだして走ってく MUSIC VIDEO


「どこに出しても恥ずかしくないライブじゃねえ!どこに出しても恥ずかしいライブをするんだよ!どこに出しても恥ずかしいライブ、出来る人ー!」と焚き付けたり、「さっきから泣いてる人がいるんだよ。こんな43歳のオッサン観て泣いてんじゃねえぞ!」と絶叫した後、笑顔になったファンを観ながら「笑った!笑った!笑ったー!」と屈託のない笑顔を浮かべる山口。彼らのライブを観るたびに思うことだが、彼らのライブではCD音源だけでは絶対に伝わらない『リアルさ』がある。


全国ツアーも全ソールドアウト。各地のフェスでも入場規制を連発し、ライブシーンで近年何度目かのブレイクを果たしているサンボマスター。追い続けているファンは、きっとそうしたライブに心震わされた人たちなのだろう。よくよく考えると、何度もライブを観ていながら、それでも泣けるバンドというのは稀有な存在なのではなかろうか。


【サンボマスター@豊洲PIT セトリ】
オナニーマシーンのテーマ(オナマシカバー)
さよならベイビー(withコザック前田)
夜汽車でやってきたアイツ
そのぬくもりに用がある
世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
できっこないを やらなくちゃ
輝きだして走ってく

 

氣志團 18:20~19:00

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続いては氣志團。この日集まったバンドの中では唯一パンクという媒体を介さず、大衆に受け入れられた氣志團。そのためどうなることかとワクワクしながら観ていたのだが、いやはや、恐れ入った。まさか彼らのライブがここまで笑いに満ち溢れたものとなるとは、全く思っていなかった。

 


氣志團 - One Night Carnival


彼らのハイライトは間違いなく、十分以上に及んだ『One Night Carnival』における一連の流れだろう。


綾小路翔(Vo)が「One Night Carnivalが時代遅れだと?んなこと分かってんだよ!みんな『この後の歌詞何だっけ……』ってなってたこと。歌ってたのがサンボマスターの半分以下だったこと……」と自虐トークを展開すると、「皆さん、氣志團は生まれ変わりました!」と語り、今まで黒い幕で覆い隠されていた背後のスクリーンがゆっくりと開く。


そうして演奏されたのは『O.N.C. 2019』と題された新曲……。もとい、DA PUMPの代表曲『U.S.A.』をオマージュした抱腹絶倒のナンバーであった。

 


FNS歌謡祭 氣志團×「U.S.A」


背後のスクリーンには本家『U.S.A.』のMVと似た映像が流れ(文字の出し方や明るさもそっくりそのまま)、『U.S.A.!』は『ワン・ナイト・カーニバル!』「C'mon Baby America」は「C'mon One Night Carnival」や「俺んとここないか?」に変化させ、ダンスもほぼ完コピで全く別物のOne Night Carnivalを繰り広げる。


これだけでは終わらない。続いては次世代型のOne Night Carnivalとも言える『One Night Carnival 2020』へ移行。こちらは一見One Night Carnivalのエッセンスを残してはいたものの、曲が進むにつれ完全なる星野源の『恋』のオマージュであることがわかる。特にあの一世を風靡したダンスに関してはミスマッチっぷりに、惜しみ無い拍手が送られた。


その後も「ゴールデンボンバーに『俺たちの影響受けてる?』聞いたらって全然違った。Gacktさんだった」と自虐トークをかつてライブ中に全裸になり書類送検された銀杏BOYZの峯田を槍玉に挙げながら「俺ら(DJ OZMA)はボディースーツ着てただけだから……」と自虐トークを繰り広げ、果ては天皇即位の儀に合わせて「天皇即位。テンション即死。みたいな」とギャグを突っ込んでおきながら「あっ、みんなこういうのでは笑わないのね」と流石のトークスキルを見せ付け、爆笑の渦に。


それでいてラストはしっかりと率直なメッセージソング『今日から俺たちは!!』と『鉄のハート』で締める氣志團の男気を見た。


氣志團は『One Night Carnival』の大ブレイクによって注目を集めたバンドだ。しかしその後は精力的に活動してはいたものの爆発的な売り上げには恵まれておらず、MCで綾小路が言っていたように、所謂『一発屋』のレッテルを貼られることもあった。


それを踏まえて、今回のライブである。過去の出来事を見事にネタに昇華し、大爆笑をかっさらった彼らにしかできない最高のライブがそこにあった。彼らが一瞬のブレイクだけで消えることなく、現在も音楽シーンで第一線を走り続けていることには、確固とした理由があったのだと改めて実感した40分間だった。


【氣志團@豊洲PITセトリ】
砂の丘~Shadow on the Hill~
Let's Dance
俺たちには土曜日しかない
One Night Carnival
O.N.C. 2019~U.S.A.ver~
One Night Carnival 2020~恋ver~
今日から俺たちは!!
鉄のハート

 

オナニーマシーン 19:30~20:00

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長かったフェスもいよいよ大詰め。盟友たちのバトンを受け取りラストを飾るのは、オナニーマシーンだ。


オノチン(Vo.Gt)が異様なスピードでステージを走り回り、ガンガン(Dr)がリズミカルなドラムを叩き始める。そんな中登場したイノマーの風貌は、かつての彼を知っている身としてはあまりにも衝撃的なものだった。


車椅子に乗せられて所定の位置に着いたイノマーは骸骨のように痩せ細り、胸にはぼっこりと転移した癌が浮き出ている。右目には眼帯、傍には酸素呼吸器が準備されており、ゆっくり、本当にゆっくりとライブに向けての準備を整えていた。自身の担当楽器であるベースを肩にかけるのも辛そうで、スタッフがその都度アシスト。その光景を観た観客の気持ちは同じだったろう。「これは本当に歌えるのだろうか」という緊張感が会場を支配し、沈黙の時間が訪れる。


しかしそんな状況を払拭するかのように、オノチンはイノマーに向けて「絞ってきたねえー!」と笑いを誘い、会場に乾いた笑いが広がっていく。おそらくはオノチンも、ライブ前にこうした反応になるのは大方理解していたのだろう。「ハハハ……」と自嘲気味に笑ったオノチンだったが、そこからはギターのチューニングに集中。ふとステージの端に目を向けると、スタッフや今回出演したバンドメンバーが固唾を飲んで見守っていた。


言葉を発する上で無くてはならない舌が無くなってしまっているため当然ではあるが、言葉はほとんど聞き取れない。性格には舌を動かさなくても発音できるような断片的な言葉だけは聞き取れるため、ニュアンスは理解できるのだが、話の全貌を知ろうとするのは難しい。しかしながら真剣に耳を傾け、必死にイノマーの言葉を読み取ろうとするファンの姿には、グッときてしまった。


ガンガンのカウントからスタートした1曲目は、女性の秘部を高らかに歌い上げる『チンチンマンマン』。

 


オナニーマシーン - チンチンマンマン


モニターには卑猥な言葉の数々で織り成された歌詞が流され、その勢いは全盛期そのままと言っていいほど。イノマーは文字の全てを発音することは出来なかったものの、モニターに投影された歌詞を観ながら聴けばしっかりと理解できるものだった。時折体力の低下により歌えなくなったり、休憩時間を設けて楽曲自体が長尺になったりしながらも、1曲1曲を着実に消化していくその姿には、バンドマン然とした格好良さすら感じるほどだった。


観客のサポートも涙腺を緩ませる。イノマーは気丈に振る舞ってはいるものの明らかに辛そうで、言葉に詰まる部分や酸素を吸いに持ち場を離れることも何度かあったのだが、その都度観客が歌ってカバーしたり、イノマーの休憩中は「オイ!オイ!」のコールで熱量を下げないようサポートしたりと、何とか成功させようと尽力していたのが印象的だった。


今回のライブは、決してオナニーマシーンのものだけではない。彼らに救われてきたバンドマンたちの。フェスの運営に携わってきたスタッフの。応援するファンの。この場に集まった人々の全ての思いが詰まったライブなのだ。


その後は8000円もするDVDが絶賛発売中であることや、オナニーマシーンの楽曲の一番人気を決める初のファン投票で『あのコがチンポを食べてる』が1位になってしまったことなどを語りつつ、ラストは『オナニーマシーンのテーマ』で完全燃焼を図る。


ガンガンによる延々続くタイトなドラムソロに乗せてオノチンは客席に突入し、隅々まで渡り歩きながらティッシュの束を投げていく(イノマーいわく全て“使用済み”とのこと)。気付けば頭上からも送風機を使って大量のティッシュが降り注ぎ、それを観ながらイノマーは「癌、伝染してやる!」とご満悦。ティッシュをばらまくために客席に突入するのは元より、何度かイノマーの体調を考えてのことだろう。CD音源とは比べ物にならないほど長尺なものとなった『オナニーマシーンのテーマ』の後半はイノマーとオノチンが完全にパンツ一丁になり、オノチンに至ってはパンツも脱いで風のように去っていった。


アンコールはこの日の出演者全員での『I LOVE オナニー』、この2度目(サンボマスターのカバーを含めると3度目)となる『オナニーマシーンのテーマ』だ。峯田や前田、山口、綾小路翔といったロック界を代表するボーカリストたちがマイクを交代で回しながら「オナニー!」と絶叫する一幕はこのフェスでなければ起こらなかった奇跡であり、同時にこの場で音楽を楽しむことができて良かったとも思えた瞬間だった。


始まる前はどうなることかと思っていたが、結果としてオナニーマシーンのライブは、まるで全盛期を彷彿とさせる盛り上がりに満ちたライブ。最後に出演者全員が横一列に並んで腕を高く挙げたイノマーは、満面の笑顔だった。


【オナニーマシーン@豊洲PIT セトリ】
チンチンマンマン
あのコがチンポを食べてる
恋のABC
オナニーマシーンのテーマ

[アンコール]
I LOVE オナニー
オナニーマシーンのテーマ


初の大規模開催となったティッシュタイム・フェスティバル。開催前にはイノマーの癌の転移といった懸念事項はあったものの、最終的には爆音と笑顔に溢れた最高のライブ空間となった。終演後、散り散りになったティッシュが地面にぶちまけられた異様な光景は、このフェスの大成功を物語っているかのようだった。


会場から出ると、でかでかと『オナニーマシーン』と書かれたティッシュペーパーと、とあるフライヤーが渡された。そこにはライブ2日前の10月20日にイノマーが記した、赤裸々な思いが綴られていた。


「ぶっちゃけ立ってるのがやっと。ベースが重い。右目は見えないし、先日、喉にチューブを入れる手術をしたため、基本、声は出なくなってしまった……。それなのにステージに立つ。正解がどうなのかはわからない。でも、立つ。やりたくね……(笑)。でも、やるんだ。がんなのに」


そう。前述したように、イノマーはステージ4の癌に侵されている身である。にも関わらず全身全霊のパフォーマンスを魅せ、屈託のない笑顔で大勢の人々を笑わせていた。こんなバンドマン、世界広しと言えどもイノマーくらいではなかろうか。彼を慕って集った仲間たちと、長らく愛し続けたファンたちと。彼は最後までやりきったのだ。


オナニーマシーンと出演者の方々に、心からの感謝を伝えたい。一生忘れられない、最高のフェスだった。

 

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KenKenがDragon Ashを差し置いて別のオファーを受けたことについて、率直に思うこと

こんばんは、キタガワです。

 

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普段はひとつの記事に数日かけ、修正や推敲を重ねた末にブログをアップするのだが、今回ばかりは心の赴くままに書き殴って公開する。


先日、Dragon AshのサポートベーシストであるKenKenが大麻所持で逮捕された。


僕自身Dragon Ashのアルバムは全て持っているし、フェス等でも何度か拝見した。古参のファンと比べるとどうしても劣ってしまうけれども、それなりのファンではあると自負している。


始めに「ドラゴンアッシュの男が大麻所持で逮捕」との一報を目にしたときには、心底「ふざけんなよ」と憤りを覚えた。それこそ何度もライブでの活動をこの目で焼き付け(てしまっ)たためでもあるのだろうが、こうした悪いニュースでDragon AshやRIZE、ひいてはThe BONEZの名がお茶の間に広まってしまうことは、どうしても耐えられなかったのである。


しかしながら自分でも驚いたのは、さほど大きな衝撃がなかったことだった。その理由はひとつ。言い方は悪いが「確かにやりそうだな」と思ってしまった節も、どこかにあったからではないだろうか。


全身に入れたタトゥー。腰まで伸びる長髪。過剰なアイライン。大きく『魔』と記されたダボダボのズボン。マジシャンハット……。潜在写真ひとつとっても、彼の風貌はインパクト抜群だ。更に深く彼に対して知識のある人ならば、しきりに舌を出すパフォーマンスや異様なヘッドバンギング、音楽番組等での自由奔放な立ち振舞いといったプラスアルファの『陽キャイメージ』というのもあるはずだ。


だからこそ、僕は別段彼に対して失望や軽蔑といった感想を抱くことはなかった。それどころか連日テレビで彼の名前が出ても「Dragon Ashの『The Live』めちゃくちゃ良かったのにな」、「金子ノブアキとDragon Ashのメンバー可哀想だなあ」といった淡白な感想でもって、いつの間にか頭の片隅に追いやってしまっていたほどだ。


そんな僕の認識が大きく変わったのは、10月31日。時刻は深夜を回ろうかという頃だった。


佐藤タイジ(シアターブルック)のツイッターに突如投稿された一文に、僕は目を疑った。


「ツアー初日11月3日(日)水戸 Paper moon、
11月4日(月・祝)宮城・柴田 Fattoria AL FIOREにKenKenの出演が決定しました!」


そこには画像が添付されており、そこには満面の笑みを浮かべる佐藤タイジとKenKenが、ガッチリと握手を交わす衝撃的な写真があった。釈放から数ヵ月。『ミュージシャン』として公の場に出る、初めての舞台がこの佐藤タイジのライブということになる。


はっきりと明言しておくが、今回の一件がたったそれだけならば、ここまで大きな問題にはなっていなかったはずだ。というよりおそらくこの時点では佐藤タイジサイドも、KenKenの出演は単独ライブに華を添える、ある種のサプライズ的な気持ちの方が大きかったのだろうと推察する。だが、最大の火種は彼らの予想外の箇所から噴出したのである。


それはDragon Ashの正式メンバーである櫻井誠(Dr)のツイートに端を発する。


「愕然。全く聞いてないし、俺らの事なんてどうでもいいのか」


これには流石に怒り狂った。何故なら佐藤タイジのライブと全く同じ日に、Dragon Ashのライブも決定していたからだ。元々KenKenが弾くはずだったベースは、逮捕を受けT$UYO$HI(The BONEZ / Pay money To my Pain)に変更。メンバーにも事務所にも多大な迷惑をかけたKenKenのために、Dragon Ashのメンバーは関係各所に頭を下げたはず。にも関わらずこの仕打ちである。


次いで、同時期に麻薬所持により逮捕されたJESSEがフロントマンを務めるロックバンド・The BONEZのZAX(Dr)のツイートも物議を醸すきっかけとなった。


「そんなもんかよって思うよね。色々。あ、あと楽しむのええけど渋谷ゴミだらけにすんなよ。グナイ」


……これらのツイートはどう考えてもKenKenのことを指している。


ここまでの状況証拠が出揃ってしまえば、話は根本から大きく変わってくる。そう。現時点(11月1日3時現在)における彼らのツイートから察するに、KenKenは在籍するDragon Ashのメンバーや関係者に一切他所での活動を口外せず、秘密裏にソロ活動の算段をつけていたということだ。


これは相当な裏切り行為だ。同時に、フェスや単独ライブ等でKenKenを知っている人であれば知っている人ほど、心からの軽蔑と怒りを感じた出来事だったろうと思う。


個人的に感じたのは、この世を去ったIKUZONEのこと。Dragon Ashのメンバーとして長年活動してきたIKUZONE(Ba)が急性心不全にてこの世を去った後、その意思を継いでベースを託されたのがKenKenだった。


ミュージックステーションではKenKenが演奏する横にIKUZONEのシャツが飾られ、かつて「ドーランで目を黒く塗って悪魔感を出せ!」とアドバイスをしたのも、IKUZONEだった。


僕がまず思ったのは、「今の状況を天国のIKUZONEが見たらどう思うだろう」ということ。Dragon AshのベースをKenKenに託し、大麻所持で逮捕され、果てはメンバーに無断で他のライブに出演……。天国の彼が見たら絶対に悲しんでいる。


もしもこれらの出来事が本当で、KenKenが仲間に一切情報を語らないまま今回の決断に至ったのだとするならば、少なくとも僕はDragon Ashへの復帰は望まない。現在ツアーを共に回っているサポートメンバーのT$UYO$HIを正式メンバーに加えるなり、もしくはその都度ベーシストを変更するなりして、今後も活動を行ってほしい。何故なら彼らは何も悪くないのだから。


しかし忘れてはならないのは、現状KenKenの口から何の発言もないことだ。炎上する事態に発展してはいるものの、全てはSNS上での出来事であり、確たる証拠はない。だからこそ、僕らが知り得ないことをKenKenは知っているし、同時に悩んでいるとも思うのだ。そんな彼の発言を無視して「KenKen見損なった」といったコメントばかりが広がっていくことは、それはそれでおかしいと思うし、何かしらの弁明はあって然るべきだ。


僕は先日、マキシマム ザ ホルモンとレペゼン地球の炎上商法についてもボロクソにこき下ろす記事を公開した。しかしながら今回の一件は場合によっては、この出来事を大きく上回る炎上を記録すると思うのだ。


KenKenを愛するファンとして。Dragon Ashを愛するファンとして。KenKenには迅速にしっかりとした説明と釈明を求める所存だ。


そして謝罪が全面的に受け入れられた暁には、KenKenがまたいちミュージシャンとして陽の目を浴びることを、心から願っている。

何も持ち込まずに、初めての夜行バスで13時間揺られた話

こんばんは、キタガワです。

 

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先日、諸事情により夜行バスに乗り込む機会があった。島根県から東京まで。片道およそ13時間の長旅である。


僕が交通手段として夜行バスを選択した理由は至ってシンプルで、純粋に「交通費を節約したい」というもの。それ以上の理由は全くなかった。


地方都市から東京に出向く金銭的なデメリットは、個人的には所謂『都会』に住んでいる人間には絶対に理解できないと思っている。例えば大阪から東京に向かったり、千葉から東京に向かうのならばいざ知らず、島根県から東京に行くためには基本的に、片道2万円以上は覚悟しておかねばならない。


時間的にも旅行者を苦しめる。僕の住んでいる地域から主要空港までは、およそ2時間。もちろんド田舎なので、数時間に1本飛ぶのがせいぜいである。要するにもしも僕が島根県から飛行機を使って東京に行くとすると、必然的に負担が大きく乗し掛かる仕組みとなっている。


そこで選択肢に挙がったものこそが、夜行バスである。


夜行バスなら片道なんと1万円以下。更には僕の最寄り駅から発車するという親切設計で時間的負担も少ない。到着場所は都心のど真ん中・新宿なので、着いた瞬間に観光を楽しむことも可能だ。


しかしながらただひとつ問題なのは乗車時間だ。その時間は何と13時間。広島まで3時間。大阪まで5時間。アメリカまで10時間……。様々な移動を繰り返してきた僕でさえも、流石に躊躇する長旅である。ちなみに今回乗車したバスに関しては、島根19時半出発の東京7時半着だった。イッテQ!の海外ロケか?


当然の如く、僕は数ヵ月間悩みに悩んだ。極力安い旅行サイトを調べ、比較サイトで吟味し、夜行バス以外の方法で東京に行く方法を模索した。だが結局、月収僅か5万円の僕の金銭的事情を考慮してくれる交通手段は、最後まで見つからなかったのである。


かくして様々な要因も重なって、人生初の夜行バスの旅が幕を開けたのだった。


夜行バスで東京行きを決めてからというもの、まずは夜行バスでの東京行きを経験したことのある知人にアドバイスを募ることにした。


話を聞くと夜行バスを使ったことのある人は一定数おり、その数は予想を遥かに超えていた。中には月イチで夜行バスに乗り込んで東京に行く人もいて、そのアグレッシブさに驚愕したと同時に「じゃあ俺も行けるんじゃね?」という思いが首をもたげた。万が一最悪の旅として収束した場合でも「ブログのネタになるならいいか」と達観した気持ちでいた。


だが、そう簡単には行かないのが夜行バスである。というのも夜行バスはそもそもが『最も格安な手段』であるため、必然的にある種の弊害は覚悟しなければならないそうだ。


中でも多く挙げられたのは、やはり「走行時間が長い」という点。何かしらの暇潰しの道具であったり、アイマスクや耳栓、低反発クッションやネッグウォーマー等の持参物は必須。それらが無ければ退屈すぎて死んでしまう。もしくは翌日の体調に大きく支障をきたすとのことだった。


……さて、そうした助言を全て踏まえた上で夜行バスに乗り込んだのだが、結論から言えば、全てのアドバイスをガン無視して当日を迎えてしまった。


これは脱税問題で活動休止に追い込まれたチュートリアル徳井で言うところの「明日にしよう明日にしようと納税を先延ばしにして、想像を絶するルーズさによって3年経ってしまった」に非常に近い理由であり、これに関しては不徳の致すところである。


にも関わらず今回の夜行バスは、とても楽しく有意義な旅として完結した。今回は何の対策もしてこなかった絶望的に面倒くさがりな人間が、如何にして13時間ものドライブを耐え抜いたのか、記述していきたいと思う。


僕が車内で行ったことは、主に2つある。このたった2つの事柄が全ての明暗を分け、僕を終着点へと導いたのである。


まずひとつは、大量の酒を持ち込んだこと。


気心知れた友人たちには周知の事実だが、僕は毎日大量の酒を飲む。多いときには2リットル近く。もしも体調が悪い場合や「別に飲まなくてもいいか」と感じる場面であっても、最低でも350mlの缶3本分は飲むことを自身のルールに定めている。


よって僕個人としては『夜19時以降に手元に酒が存在しない』という状況は考えられないものであり、何がなんでも避けたかった。


そのため僕は今回夜行バスに乗り込む際、事前に大量の酒をコンビニで調達しておいたのだ。数にして4本。それでも足りない場合を見越して、ウイスキーの小瓶も購入した。


事前にインターネット上で『夜行バス 辛い』等と検索してみたところ、やはり夜行バスの中では『寝る』という行動に落ち着いてしまうらしい。なので要するに、何かしらの疲れを感じた状態で乗り込むのがベストということだ。中には『いっそのこと徹夜の状態で乗ればいいじゃん』というものもあり、心の底から納得したのを覚えている。


そう考えると、今回酒を持ち込んだのは項を奏したと言わざるを得ない。何故なら直ぐ様眠くなるから。アルコールをがぶ飲みするだけで気付けば寝ているのだから、『寝るための方法』としてはこれほど楽な作業はないだろう。


次に、スマホ内に動画をダウンロードしておいたこと。


基本的に、車内にはWi-Fiがない。だからこそYouTubeを観たりネットゲームで時間を潰すといった行動はまず不可能であり、そうなると必然的に手持ち無沙汰の状態に陥ってしまう。


それを避けるための方法のひとつが、何かしらの動画を事前にダウンロードしておくことである。僕はAmazon Primeで映画を3本、バラエティー番組を5本ほどダウンロードしておいた(というより夜行バスに乗る前から何となく入れていた)のだが、これが項を奏した形となった。


酒をあおりながら映画やバラエティー番組を観て、眠たくなったら眠る……。これはまさに『僕が普段行っている日常そのもの』であり、よくよく考えればストレスなく13時間を耐えることが出来たのも、必然と言えた。


という訳で、夜行バスに乗り込んだ際には何かしらの『普段行っていること』と、かつ『没頭出来るもの』をプレイすることで、地獄のような長旅のストレスはある程度緩和される。


最後に『夜行バスにしかない特別な事項』について紹介し、今回の記事を締め括りたいと思う。


まず夜行バスは、通常の高速バスと比較するとかなりの数の休憩が挟まれる。ちなみに僕が乗ったバスでは休憩は計4回だった。


夜になると車内の電気が消されるのも、夜行バスの特徴だ。21時を過ぎると電気は蛍光灯並みの明るさから淡い光(暖色系)に変化し、23時を過ぎれば完全な暗闇に包まれる。こうなるともう眠るしかない。というより、強制的に眠りに誘導されている感すらあるが。


なお、深夜を回ってからも何度かサービスエリアでの休憩が挟まれるものの、寝ている人を考慮して車内アナウンスは一切流れない。運転手いわく「前にちょっとだけ光が灯ったら休憩の合図」だそうで、以下の写真は深夜1時を回った、その休憩時間に撮影したものである。確かにちょっと明るい(ちなみに休憩の終了時刻は前方の掲示板にドでかく貼り出されるので、それを参考にしてもらいたい)。

 

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乗務員は2名。長丁場のドライブなので仕方ないことだが、運転していない方の乗務員はちょくちょく寝る。起きたら運転していた人と交代し、運転していた側が次に寝る、といった感じで、非常に理にかなった手法であった。


しかしよく考えれば、こうして逐一睡眠をとってくれるおかげで万全のドライブが約束されているわけで、何というか「めちゃくちゃ良い職場だな」と思ってしまった。休憩が終わるとひそひそ声で「休憩いただきました……」「はーい……じゃあ次僕休みまーす……」「いってらっしゃーい……」といった乗務員同士の会話が交わされるのも可愛い。


そして何より、自分が座る席である。夜行バスの座席は通常のバスの座席と比較すると若干後ろに傾いており、リクライニングを倒さずとも快適な『睡眠姿勢』を取ることが出来る。加えて丁度頭に位置する部分にはクッションが備え付けられているため、睡眠時の枕の役割を果たしてくれるのだ。


これだけでも至れり尽くせりなのだが、もうひとつ驚くべき箇所が存在する。実は頭の上には目隠し用のフード(パーカーのようなイメージ)があり、要はアイマスクが必要ないのだ。前述した傾斜とクッション、そしてこのフードにより、睡眠についてはほぼノンストレス。


結果、僕の場合は『酒を飲んで動画を観て眠たくなったら寝る』という最強の3コンボが発動したことにより、13時間のドライブをゆったり過ごすことが出来たのである。


無論今回の話は僕個人の話。例えばヘビースモーカーの人なら長時間バスに揺られるのは地獄だろうし、「横に人がいるなんて耐えられない!」というパーソナルスペースが狭い人間であれば絶対にストレスが溜まるはずだ。全員が全員快適な旅を過ごせるなどと言うつもりは毛頭ない。


しかしながら、夜行バスに乗る経験をするのは別段悪くないと思うのだ。実際この記事を読んでいる読者の方々も、多くの経験を経ているはず。昔はバスの料金を支払うことすら怖かったろう。運転手に両替を頼むとき、申し訳ないと感じたはずだ。だが今では何ということはない。そう。全ては経験なのだ。


だからこそ、1度試してみるのも良いのではなかろうか。今回の記事が、夜行バスに恐怖を抱く人々の一筋の光になれば幸いである。

【イベントレポート】最上もが『比治山祭 最上もがトークショー』@比治山大学

こんばんは、キタガワです。

 

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10月20日、広島県・比治山大学の大学祭にて、最上もがのトークイベントが開催された。


始めに断っておくが、僕は最上もがの熱烈なファンではない。せいぜい公式ツイッターをフォローしている程度で、彼女の出演したドラマや演劇は一度も観たことはないし、足しげくライブに足を運んだでんぱ組.incの推しも別の人物(古川未鈴)だった。


では何故今回トークショーへの参加を決めたのか。その理由はひとつ。彼女の生き方に興味があったからだ。


公式で明言されている通り、彼女の心には巨大な闇がある。人気の絶頂にあったでんぱ組.incを脱退した理由も、メディア露出を極端に避けた理由も、全ては心の疲弊が原因だった。今でこそバラエティー番組や雑誌のインタビューに引っ張りだこではあるが、その中でもほぼ必ず「僕は人が苦手なんですよ」「友達がほとんどいなくて」といったワードが聞かれる。


当ブログでも何度か話題に出しているが、僕自身もそうした『人と関われない人間』であり、最上もがに対しては漠然と「似たタイプだな」と感じてしまう部分がある。だからこそインタビューや番組のようなキチキチっとした媒体ではなく、ある種ゆるく進行する今回のトークショーで彼女の生き様や視点、日常について知ることは、何かしら得るものがあるのではないかと思ったのだ。


今回のトークショーでは事前に席が割り振られており、案内に従って着席。結果としては前から2列目という良席だった。男女比はほぼ5:5であり、比較的若い年代の人が多い印象だ。大学祭のワンシーンということもあってか空席もいくつか散見されるものの、あまり気にならない程度だ。


定時を少し過ぎた辺りで、今回の主役である最上もがと、共にイベントを進行するラジオパーソナリティー(深瀬智聖)が登壇。最上は黒を基調としたシックな装いで、後に彼女自身が語った言葉を借りれば『普通の女性』といったイメージで、所謂芸能人オーラのようなものは然程感じなかったのが印象的だった。


今回のトークショーは約1時間。まず最初の数十分間は中心に椅子2脚とテーブルだけが鎮座する、シンプルなフリートークで進んでいく。


でんぱ組.inc卒業を発表したと同時に年齢を公表した最上。そのためまずは結婚や今後の展望といった30歳ならではの話へ。最上は自分ひとりで安らげる環境に何よりの安心感を抱いているらしく、結婚をした瞬間に他者との共同生活を強いられることから「結婚願望は一切ないです」とキッパリ。


現在はタレント業を主としている最上だが、今後やってみたい仕事として「声の仕事ですかね」と語り、その理由は「顔を出さなくて良いから」という最上らしい返答に会場が沸く。しかしながら生まれは東京ではあるもののイントネーションが少しおかしいらしく、何度かチェックが入ることもあるという。だが逆にそうした仕事は新鮮であり、続けていくうちに声の仕事の楽しさに目覚めたと語っていた。ちなみに彼女いわく、ラジオの収録はスッピンで行くそう。


最近はスピードワゴン小沢に勧められたドラゴンクエストのアプリゲーム『ドラクエウォーク』をプレイしているらしいのだが、「小沢さん全然パーティーに誘ってくれないんですよ!」と一言。よくよく話を紐解いていくと、無課金のはずの最上が短時間で相当のレベルになっていたことから、小沢が嫉妬したために誘わないのでは?という結論に。


基本的にはあまり人と目を合わさず、自分から先導して話題を振らない最上。しかしながらゲームの話になると身ぶり手振りを繰り出しながら饒舌になる彼女を見ていると、やはり彼女にとってゲームは大きな存在であり、でんぱ組.inc『W.W.D』で歌われた「ずっとずっと引きこもってネトゲやってた、両手じゃ足りないからファンクションキー足で押してた」という歌詞にあるように、病的なまでのゲーマーであることを証明した形であった。

 


【生きる場所なんてどこにもなかった】でんぱ組.inc「W.W.D」Full ver.


その後も一番辛かった仕事として「カメラマンを彼氏に見立ててデートする」、「鏡越しにキスをする」といった事柄を挙げ、「そもそも彼氏いたとしてもこんなの喋らないよ!っていう会話ばっかりで」「仕事やりたての時って拒否権とかないじゃないですか。だから本当にやりたくないです!っていう仕事もやらないといけなくて。あれは本当に無理でしたね」と赤裸々に語る最上は人間味を感じさせてくれ、好感が持てた。


続いては観客参加型の抽選会へ移行。その内容はガラガラを回し、当選した人にはチェキやサイン色紙が当たるというもの。


当選した人はその場で登壇させられ、大勢の観客が見守る中で撮影会等が行われるのだが、これがなかなかに恥ずかしい。ちなみにチェキはほぼ全身が写るタイプのチェキ(普通のチェキは上半身のみが写る)であり、「こんなのアイドル時代にもしたことないよ!」と最上。当選した人の大半は男性。すぐそばに最上がいるというシチュエーションに、全員がガチガチに緊張していたのが面白かった。


最後は質問コーナー。事前に観客が紙に書いて提出していた質問だが、最上がその中から無作為に選んで読み上げ、答えるというシンプルなもの。


気になる質問内容は「ハムスターに名前をつけてほしい」「絶対に付けるアクセサリーは?」「なぜショートヘアーなのか」「オススメの映画は?」「次に来るゲームは?」といったもので、ひとつひとつ丁寧に回答していた。回答は以下の通り。

 

ハムスター→「まんじゅうかだいふくかおはぎ」

アクセサリー→「今は左に1つ、右に3つのピアスを開けているが、特にこだわりはない。ネイルもしてない」

ショート→「でんぱ組.inc時代の頃に同じ髪型をずっとしてると覚えられやすいと言われ、それからは基本的にショート。伸ばした時期もあったが、ウザったく感じてやめた」

映画→「人を殺す系の映画はわりと見る。今はジョーカーが気になっている」

気になるゲーム→「ファイナルファンタジー7」


ラストは「大学生活、楽しんでください。社会人は大変だぞ!」とメッセージを伝え、ステージを後にした。


僕は今回のトークイベントを経て、最上もがのファンになってしまった。


彼女の言葉には嘘がない。というより、偽りの自分を捨てたというのが正しいかもしれない。思えば僕が最上もがの存在を知ったのはでんぱ組.incがきっかけだったのだが、ステージ上の彼女はアグレッシブに動き回り、その歌唱力を生かしてソロパートも多数トライしていた。しかし正直な気持ちとしては無理をしてアイドル活動を行っているようにも思え、痛々しい気持ちというか、「これが本当に最上もががやりたいことなのか?」という疑問が頭に浮かんでいた。


しかし30歳にしてやっと素の自分で仕事が出来るようになった今の彼女は無敵である。今後は更に様々なことにチャレンジし、注目を集める存在となることだろう。


闇が深いと言われる芸能界。芸能人は皆笑顔を貼り付け、心の奥底で思っている『本当の自分』を殺しながらテレビに出演している。例えばAKBグループのように全員が全員同じ笑顔をしているのを見ると、僕個人としてはクローン人間のようにも感じられて仕方がない。


そんな今だからこそ、最上もがのような思考を持つ人物が等身大で活躍を続けることには大きな意味があると思うのだ。彼女の今のスタンスは「求められているなら全力でやる」という従来の思考に加え、「楽しく仕事をする」と達観した気持ちでいる。これが無敵と言わずして何と言おうか。


ともあれ、最上もがの魅力を体現する素晴らしいイベントだった。また機会があれば、彼女のイベントに足を運んでみようと思えるほどには。

映画『空の青さを知る人よ』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。


突然だが、貴方は映画を観て涙を流したことがあるだろうか。試しにひとつでも思い返してみてほしい。


因みに僕はほとんど思い浮かばない。友人や知り合いから「これ絶対に泣けるよ!」と勧められる『THE 感動』といった作品は、基本的に受け付けない。なぜなら、冒頭で大体の展開がイメージできるからだ。例えば「俺はあと1年の命なんだ……」と言われたら「こいつが死ぬときがピークかな」と思うし、「俺はお前を甲子園に連れていく!」と言われたら「優勝して終わるんだろうな」と思う。総じて泣きを売りにしている映画というのは無理矢理『泣き』に誘導されている気がして、その雰囲気を一瞬でも感じ取った瞬間に僕は「無理」となってしまう。


昨今の映画業界は、特にこうした競争は激しいらしい。その事実を証明するかの如く「全米が泣いた」だの「日本中が感動の涙に包まれる」だの、泣きを売りにした映画は予想以上に存在している。しかしながら、そのうち『本当に心から泣ける映画』というのは、実はほとんどないのではなかろうか。


さて、そんな感動アンチな僕だが、人生でこれだけはボロ泣きしたと声高に挙げられる作品はいくつか存在する。その内の二つが、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない(あの花)』と『心が叫びたがってるんだ。(ここさけ)』である。


これらのアニメーション作品は『超平和バスターズ』なる製作チームにより作られているのだが、彼らの作る映画は心から泣けるのだ。美しい風景描写やキャラクターの表情はもちろんのこと、中でも後半にかけての畳み掛けは凄まじく、各作品を3回以上リピートしている今でもおそらく泣けると思う。そして至った結論こそが、「この人たちが作る映画は絶対に面白い!」という最大限の信頼なのだ。

 

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さて、今回鑑賞した映画『空の青さを知る人よ』は、そんな超平和バスターズが製作した3本目の長編アニメーション映画である。


この物語の肝となるのは、画像にもある4人の人物だ。主人公・あおいは進路を決める大事な時期にも関わらず、田舎でひとり孤独にベースを弾く毎日を送っていた。両親を亡くした彼女の支えになっていたのは、姉であるあかね。そしてベースを始めるきっかけとなった旧知の友人、しんのの存在であった。


しかししんのはギタリストを夢見て上京したために今や連絡も取っておらず、あかねはあおいとは正反対で、フレンドリーな仕事人。そんな毎日は、あおいの心の中にある種の寂寥感を抱かせていた。


そんな折、有名演歌歌手が町おこしのためにライブを行うことに。そしてそのバックバンドとしてギターを演奏していたのは、13年前に別れた友人であるしんのであった。


時を同じくして、神社でベースの練習をしていたあおいの前には、13年前の姿の『もうひとりのしんの』が現れる。かくして『未来のしんの』と『過去のしんの』、あおいとあかねの4人による、甘酸っぱくも物悲しい数日間が幕を開けるのだ。


まず大前提として、この映画(空青)は『あの花』や『ここさけ』とストーリー性が全く異なるということを声を大にして言っておきたい。この映画で描かれる内容はズバリ『家族愛』と『青年期の葛藤』とも言うべきものであり、かつての2作品で描かれたような特異な境遇や直接的な感動描写は、まずもって存在しない。ちなみに僕は今作では一切泣かなかった。それどころか、ウルっとくる場面すら皆無のまま2時間が過ぎ去っていったのである。


しかしながら「この映画は駄作なのか」と問われれば、絶対にそうではないと断言できる名作でもある。何故ならこの映画は酸いも甘いも経験した人間でしか心に刺さらない、いわば非常に大人向けの作品であるからだ。


……ガキの頃の辛い出来事は、時間が経てば笑い話になる。だが当時はそうした出来事に死にたいほど悩んだこともあったろうし、誰かに「大丈夫だよ。ポジティブにいこう」と言われたところで、鬱屈とした気持ちは変わらなかったはずである。


家族に思わず放ってしまった酷い言葉。一匹狼だった学生時代。家族への反発……。繰り返しになるが、この映画ではそうした等身大の『何も知らなかった青年期』と、様々な経験を経て良くも悪くも大人になってしまった『現実を生きる者』との対比を突き付けられる。


だからこそこの映画は大人向けなのだ。はっきり言って、間違いなく『あの花』や『ここさけ』以上に有名な作品にはなり得ないだろうし、動員が振るうことも聖地巡礼に赴く人も、過去作よりは少ないはずだ。


アニメーションは美麗。キャラクターも立っている。だが日常パートもシリアスパートも葛藤ありきという不思議なアニメ映画である。それでいてラストはスッキリと纏められており、エンドロールを見た瞬間、人それぞれに思うところがあるだろう。


……ちなみにこの映画の主人公のあおいちゃん、個人的にはここ数年のアニメで一番好きなキャラです。一緒にバンド組みたかった……。


ストーリー★★★★☆
コメディー★★★☆☆
配役★★★★★
感動★★★★☆
エンターテインメント★★★★☆
されど空の青さを知る度★★★★★

総合評価★★★★☆
(2019年公開。映画.com平均評価・星4.0)

 


映画『空の青さを知る人よ』予告【10月11日(金)公開】

 

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