キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『空の青さを知る人よ』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。


突然だが、貴方は映画を観て涙を流したことがあるだろうか。試しにひとつでも思い返してみてほしい。


因みに僕はほとんど思い浮かばない。友人や知り合いから「これ絶対に泣けるよ!」と勧められる『THE 感動』といった作品は、基本的に受け付けない。なぜなら、冒頭で大体の展開がイメージできるからだ。例えば「俺はあと1年の命なんだ……」と言われたら「こいつが死ぬときがピークかな」と思うし、「俺はお前を甲子園に連れていく!」と言われたら「優勝して終わるんだろうな」と思う。総じて泣きを売りにしている映画というのは無理矢理『泣き』に誘導されている気がして、その雰囲気を一瞬でも感じ取った瞬間に僕は「無理」となってしまう。


昨今の映画業界は、特にこうした競争は激しいらしい。その事実を証明するかの如く「全米が泣いた」だの「日本中が感動の涙に包まれる」だの、泣きを売りにした映画は予想以上に存在している。しかしながら、そのうち『本当に心から泣ける映画』というのは、実はほとんどないのではなかろうか。


さて、そんな感動アンチな僕だが、人生でこれだけはボロ泣きしたと声高に挙げられる作品はいくつか存在する。その内の二つが、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない(あの花)』と『心が叫びたがってるんだ。(ここさけ)』である。


これらのアニメーション作品は『超平和バスターズ』なる製作チームにより作られているのだが、彼らの作る映画は心から泣けるのだ。美しい風景描写やキャラクターの表情はもちろんのこと、中でも後半にかけての畳み掛けは凄まじく、各作品を3回以上リピートしている今でもおそらく泣けると思う。そして至った結論こそが、「この人たちが作る映画は絶対に面白い!」という最大限の信頼なのだ。

 

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さて、今回鑑賞した映画『空の青さを知る人よ』は、そんな超平和バスターズが製作した3本目の長編アニメーション映画である。


この物語の肝となるのは、画像にもある4人の人物だ。主人公・あおいは進路を決める大事な時期にも関わらず、田舎でひとり孤独にベースを弾く毎日を送っていた。両親を亡くした彼女の支えになっていたのは、姉であるあかね。そしてベースを始めるきっかけとなった旧知の友人、しんのの存在であった。


しかししんのはギタリストを夢見て上京したために今や連絡も取っておらず、あかねはあおいとは正反対で、フレンドリーな仕事人。そんな毎日は、あおいの心の中にある種の寂寥感を抱かせていた。


そんな折、有名演歌歌手が町おこしのためにライブを行うことに。そしてそのバックバンドとしてギターを演奏していたのは、13年前に別れた友人であるしんのであった。


時を同じくして、神社でベースの練習をしていたあおいの前には、13年前の姿の『もうひとりのしんの』が現れる。かくして『未来のしんの』と『過去のしんの』、あおいとあかねの4人による、甘酸っぱくも物悲しい数日間が幕を開けるのだ。


まず大前提として、この映画(空青)は『あの花』や『ここさけ』とストーリー性が全く異なるということを声を大にして言っておきたい。この映画で描かれる内容はズバリ『家族愛』と『青年期の葛藤』とも言うべきものであり、かつての2作品で描かれたような特異な境遇や直接的な感動描写は、まずもって存在しない。ちなみに僕は今作では一切泣かなかった。それどころか、ウルっとくる場面すら皆無のまま2時間が過ぎ去っていったのである。


しかしながら「この映画は駄作なのか」と問われれば、絶対にそうではないと断言できる名作でもある。何故ならこの映画は酸いも甘いも経験した人間でしか心に刺さらない、いわば非常に大人向けの作品であるからだ。


……ガキの頃の辛い出来事は、時間が経てば笑い話になる。だが当時はそうした出来事に死にたいほど悩んだこともあったろうし、誰かに「大丈夫だよ。ポジティブにいこう」と言われたところで、鬱屈とした気持ちは変わらなかったはずである。


家族に思わず放ってしまった酷い言葉。一匹狼だった学生時代。家族への反発……。繰り返しになるが、この映画ではそうした等身大の『何も知らなかった青年期』と、様々な経験を経て良くも悪くも大人になってしまった『現実を生きる者』との対比を突き付けられる。


だからこそこの映画は大人向けなのだ。はっきり言って、間違いなく『あの花』や『ここさけ』以上に有名な作品にはなり得ないだろうし、動員が振るうことも聖地巡礼に赴く人も、過去作よりは少ないはずだ。


アニメーションは美麗。キャラクターも立っている。だが日常パートもシリアスパートも葛藤ありきという不思議なアニメ映画である。それでいてラストはスッキリと纏められており、エンドロールを見た瞬間、人それぞれに思うところがあるだろう。


……ちなみにこの映画の主人公のあおいちゃん、個人的にはここ数年のアニメで一番好きなキャラです。一緒にバンド組みたかった……。


ストーリー★★★★☆
コメディー★★★☆☆
配役★★★★★
感動★★★★☆
エンターテインメント★★★★☆
されど空の青さを知る度★★★★★

総合評価★★★★☆
(2019年公開。映画.com平均評価・星4.0)

 


映画『空の青さを知る人よ』予告【10月11日(金)公開】

 

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