キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

『スーパーマリオサンシャイン』とあの頃

新型コロナウイルスの影響により、自粛生活が続きに続いて早1年半。『旅行』にカテゴライズされる娯楽から足がめっきり遠退いた某日、僕の姿は日本から遥か遠くに離れた南国にあった。照り付ける太陽。見渡す限り一面の海。実るヤシの実……。ビバ!常夏生活!

……というのは当然フィクションの話だが、どっこい。完全な作り話でもなかったりする。そう。コロナ禍にあっても、誰でもバカンスが出来る。この『スーパーマリオサンシャイン』があれば。

 

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『スーパーマリオサンシャイン』は元々2002年にGCで発売されたゲームで、お馴染みのマリオのアクションに新たなパートナーである喋る次世代型ポンプの放水アクションも加えたアグレッシブな仕様で直ぐ様GC時代を象徴するゲームに躍り出た。かく言う僕自身も当時このゲームのヘビーユーザーで、日夜問わずシャイン(ゲームクリア目標)の獲得に勤しんでいたクチ。しかしながら年月の経過と共にGCはいつしかWiiに切り替わり、そしてグロゲーへの傾倒と比例するようにPS4へ移行した頃には完全にGCは部屋の隅に追いやられ、埃を被る置物と化してしまった。

ただ僕の奥底に眠りし「あの時は良かったなあ」という懐古主義的な思いが顔を出したのか、この作品を含めた3作品が遊べるニンテンドースイッチ専用ソフト『スーパーマリオ 3Dコレクション』を家電量販店で見付けた時、とてつもなく心が沸き立つのを感じた。『スーパーマリオサンシャイン』のリリースから19年。僕も同じく19年の歳を重ねてきた。故に今回のゲーム購入はあの頃の童心に返って楽しむ意味合い以上に、純粋だったかつての僕と、すっかり大人になってしまった今の自分へのある種の答え合わせのような意味合いをも携えているのだ。

様々な思いに浸りながら、僕はパッケージのフィルムを剥がし、ソフトを取り出した。思えばあの頃のゲームソフトには決まって説明書が付いていて、プレイ前にしわくちゃになるまで説明書を熟読する時間がほぼ恒例だったが、ニンテンドースイッチにはそれがない。ゲームを起動すると「説明書を見たければ本体の『説明書』のボタンを押してね(意訳)」という淡白な説明が目に入ったので、取り敢えず押してみる。するとまるでPowerPointで制作したようなハウツーが画面にドドンと出現し、更に最後のページには御丁寧に「問題が解決しない場合はコチラ」と公式サイトへのアクセスページまで完備。

未だゲーム画面にさえ進んでいないが、僕はこの時、しみじみとかつての自分を回顧していた。説明書を何度も繰り返し読むあまり、手汗でページがグシャグシャになったこと。操作方法が分からず「これってどうやんの?」と友人に助けを求めたこと。いや、そうした説明書的な部分以外にも、全く読み込まないディスクにイライラしたり、突然コントローラーが動かなくなってパニックになったり……。技術の発達が今より遅れていた当時、ゲームにおける様々なトラブルはつきものだったが、そうしたことも含めて楽しかった。全く同じトラブルにしても今の子はインターネットで調べて直ぐ対応できるし、精々「Wi-Fiが切れた」云々の話に留まるのだろう。そう考えると今と昔では変わってしまった。ゲームも。そして自分も……。

などと回想しているうち、ゲームのロードが終了し、いざプレイ画面へと遷移。傍らにこさえたハイボールを一気飲みし、よっしゃやったるでとコントローラーを構えるとそこは滑走路で、ピーチやその側近・キノじいの話を整理するに、マリオ一行を乗せた飛行機はある危険を感じて緊急着陸。その危険というのが滑走路の真ん中に出現した極彩色の絵の具で、その絵の具に何やら得体の知れない空気を感じて飛行機を止めたとのことだった。確かにこんなストーリーだったように思うが、画質が異様に綺麗になったことでまるで別物のゲームをプレイしている感覚に陥ってしまうのは、ある程度の年月を経た故の弊害なのかもしれない。

暫く絵の具に体が沈んでしまった人々を観ながらあてもなく彷徨っていると「マリオサン!」とどこからともなく声が飛んで来る。声の聞こえる先は絵の具の遥か先で、無論この存在こそがこの状況を切り開く救世主たるポンプなのだが、かつての経験により「この地点に行けばストーリーが進んでしまう」と熟知している僕は、長々とストーリーとは全く関係のないキノじいの頭をホッピングよろしく連続で踏みつけたり、間違いなくこの数分後にはクッパに拐われるであろうピーチ姫にスライディングアタックを決めたりと傍若無人な振る舞いを繰り返した。これには僕自身が泥酔状態に陥っていたことも理由のひとつだが、数十年前のゲームを今プレイ出来ている懐かしさもあり、もう少しだけこの状況(実際にはこの街の異常事態だが)を楽しみたいと思う自分もいた。プレイ前こそ『ゲームも自分も変わってしまった』と考えてはいたが、実は本質的には何も変わっていないのかもなあと、ぼやけた頭で考える程に。

幾度も寄り道を繰り返してようやっとポンプと出会うと、絵の具の下から待ってましたとばかりにボスが出現。口を閉じたり開いたりして動き続けるだけの、言葉を選ばずに言えばチュートリアルに相応しい存在だ。けれども元々はSERO:Aの低年齢向けゲームだし、何度もプレイした経験則で撃退法は完璧に頭に入っている。ので、ボスの口へとチュチュチュッと水を吹き付けただけで撃退に成功。ボスは「ウェロウェロウェロ……」と不快な声を断末魔に、跡形もなく消滅した。

これで念願のバカンス……と思いきや、ふと目を凝らすとこちらに警察2人組がズンズンと歩み寄ってくる。ここから先のストーリーはまさに波乱万丈。その後マリオは逮捕されてしまうのだが、「何故マリオが逮捕されるのか」との理由は先程の絵の具。どうやら今回のような絵の具は街中に散らばっており、街の重大な問題のひとつとなっていると警察は語り、そんな中で『髭の生えたおっさん』が街中で絵の具をぶち撒けているという一部始終も複数の住人によって目撃されていて、実質的な指名手配状態だった。そこで騒ぎを聞き付けた警察が偶然ヘリポートでマリオを発見し、確保。投獄に至ったという流れである。

……翻って、当時の僕はこの一連の流れに得体の知れないワクワク感を覚えていた。突如相対する謎の絵の具。怖いボス。どうすれば放水出来るかもロクに知らないポンプの使い方。そして何より、開始数分で巻き起こる「あのマリオが逮捕!?」という結末は衝撃的で、今思えば「これから物語はどうなるんだろう……」というある種の怖いもの見たさのような感情が、このゲームを連日プレイさせる魅力になっていたのだろう。

 

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ただ19年もの時を経て、ハイボールを飲みながらプレイしている現在は違う。マリオが有罪になる判決を見て爆笑する自分。「きゃっか。ひこくはゆうざい!」のシーンで爆笑する自分。ピーチの異議申し立てを完全に無視する裁判長にまたも爆笑する自分……。当時の僕に見せたら、きっとこう思うだろう。「嗚呼、何も変わっていないようで、自分は変わるんだなあ」と。……そんなこんなで今日から街中のお掃除生活、スタートです。頑張れマリオ。

 

Base Ball Bear - changes - YouTube

破天荒。奇想天外。傍若無人……。アーティストをアーティストたらしめるエピソード5選

こんばんは、キタガワです。


ストリーミングサービスやYouTubeの発展により、外出先でも家でも絶対的に何かしらの音楽に触れる音楽飽和状態と化している現在。『音楽を全く聴かない』人間はほぼゼロとなった今だからこそ、人間誰しも「好きなアーティストは誰?」と問われればひと組は必ず答えられる世の中になった。無論誰しもそのアーティストに心酔する契機となったのはサウンド、歌詞、雰囲気といった音楽性がまずもって関係していることだろう。ただ好みのアーティストを追い続けていると例えば深い飲酒のケがあったり、楽曲制作に勤しむあまりプライベートが疎かになったりと次第に大っぴらに公言されていないよもやのエピソードも耳に入るもので、素晴らしいアーティストたちは非現実の世界に存在するようでありながらも「我々と同じ人間なのだ!」と思わずハッとする人間性が引き金となって更に興味を引くことも多々。


そこで今回はその音楽性は敢えて端に寄せて、様々なインタビューや公表文といった媒体から選りすぐった5組の邦楽アーティストのエピソードを結集。表題にもある通りその全てがシンプルに飲み込めるものではないかもしれないけれど、結果アーティストの人間的魅力に拍車を掛ける代物となること間違いなしだ。

 

 

ネクライトーキー

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(チケットの売れ行きが悪いワンマンライブで「オープニングゲスト入れたほうがいいんじゃない?」とブッカーに言われたことに対して)「それやったらワンマンじゃないですよね」
(某ライブ前作戦会議にて)

ポップロックを自由奔放に鳴らす5人衆・ネクライトーキー。その唯一無比のボーカリストであるもっさ(Vo.G)がライブを数日後に控えた作戦会議の最中に発した言葉こそ、上記の「それやったらワンマンじゃないですよね」というもの。


今でこそ新進気鋭のバンドとしてシーンを賑わせている彼らだが、結成当初は動員が振るわず、苦悩の日々を過ごしていた。来たる大切なワンマンライブ。しかしこのままではガラガラの客席になってしまうと見たブッキングスタッフは、所謂『オープニングアクト』を提案。このオープニングアクトは言わば前座的な立ち位置を意味していて、そのOAのファンの数も引っ括めて最終的な動員を増やそうという、今でもインディーバンドのライブで広く用いられる方法である。そこでもっさが発した「それやったらワンマンじゃないですよね」の一言はある意味では正しく、また言葉を選ばずに言えばある意味では自意識過剰な発言ではあるけれど、この発言にもっさの天然ぶりと、それ以上にバンドにかける熱い思いをも見ることの出来るワンシーンだ。


そしてこのワンマンライブはもっさの発言を尊重し、結果オープニングアクトを起用することなく開催。ほぼお客さんのいないガラガラなフロアでのライブとなった。なおこのインタビューは最新アルバム『FREAK』リリースに際して行われたもので、ニューフェイズに到達した彼らが過去を振り返る形で朝日(Gt)や藤田(Ba)らが語っていたもの。その場では秘密暴露の様相を呈していたけれど、過去作と比べてより地に足着いたサウンドに昇華したこのアルバムを表す上でも、非常に重要なトークである。

 

 

 

THE SALOVERS

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「閃光ライオットは当時毎日行われる投票の合計で進出者を決める形だったので、毎日視聴覚室のパソコン全部付けて投票して。したら決勝まで進んでしまって」
(当時の某インタビュー・意訳)

10代限定のオーディションフェス・閃光ライオットにて、全国各地の応募者の中から見事本選出場の切符を手にし、審査員特別賞も受賞したロックバンド・THE SALOVERS。なお現在サラバーズは無期限活動休止中、アナウンサー・古舘伊知郎の息子でもあるフロントマンの古舘佑太郎(Vo.G)は新バンド『2(ツー)』を結成、俳優としても活動の幅を広げている。


彼らがここまでの知名度を獲得した背景には、間違いなく閃光ライオットの決勝進出がある。けれどもその裏では『毎日投票された票の合計で決勝進出者が決まる』というルールを逆手に取った、あまりに計画的な犯行が行われていて、彼らは準決勝に進んだ直後から自分たちの通っている高校のパソコン室に立ち入り、全てのパソコンで閃光ライオットの公式サイトにアクセスし『THE SALOVERS』に1票を投じてシャットダウン。これを学校中に何十とあるパソコンで毎日欠かさず行い、その他にも家族や友人らにも協力を仰いで大量の得票数を獲得。結果とてつもないトップ票で決勝へと進出したのだ。


ここまで来るとほぼルール違反ギリギリを攻めている感覚もあるが、確かに公式ルールを破っている訳でもなく、この衝撃の事実が白日の下に晒されたのは活動休止寸前であったのもあり、おとがめなしとなった。ただ閃光ライオット後はレーベルに所属し、良質な楽曲で人気を獲得していたことからも確かな技術はあった。未だ多くのロックファンから再結成を待ち望む声が絶えない、彼らの若き頃の青春がこのバンドである。

 

 

 

ゆらゆら帝国

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「この3人でしか表現できない演奏と世界観に到達した、という実感と自負がありました。しかし、完成とはまた、終わりをも意味していたようです。ゆらゆら帝国は完全に出来上がってしまったと感じました」
(バンド解散コメントより引用)

解散から十数年が経った現在でも、日本が誇るサイケデリックバンドとして確立するゆらゆら帝国。彼らはニューアルバム『空洞です』の大絶賛が様々な音楽雑誌で記される最中、突如として解散を発表。シーン全体が揺れ動く中、その際坂本慎太郎(Vo.G)が公式で発したコメントが上に記した淡白な表明だ。


思えばゆらゆら帝国は、アルバムをリリースするたびにその作風が変化し続ける稀有なバンドとしても知られていた。特にゆらゆら帝国の前期・中期・後期のアルバムの変化は著しく、具体的には前期にはシンプルなロックが鳴らされ、今ではロックバンドの必修科目となっている『四つ打ち』のイメージが強かったが、一転中期では“3×3×3”や“午前3時のファズギター”といったノイズまみれの中、坂本がダウナーなテンションで呟き続ける鬱屈とした楽曲が点在するようになり、サイケデリックバンドとしての地位を確立。そして結果として解散直前となった後期では、突如として爆音が数分間耳をつんざく怪曲“貫通”、まだ3才のエンジニアの子供に鬱っぽさを歌わせた“ボタンが一つ”、かと思えば磯に住む蛸に照準を合わせた“タコ物語”と、この頃には長年のファンでさえ置いてきぼりにされる程のサウンドと歌詞のカオスに翻弄。ただ成熟を続けるゆらゆら帝国とは対照的に、ライブでセットリスト入りを期待されるのはやはり初期の楽曲……という難しい状態となった。


だからこそ「ゆらゆら帝国は完全に出来上がってしまったと感じました」とする坂本の解散理由は、誰もが何も言えない説得力に満ち溢れていた。なお彼をそうも言わしめた最後のアルバム『空洞です』は、未だに日本のロック界が誇る最強の名盤のひとつとして、様々な有識者に絶賛され続けている罪な作品となっている。おそらく坂本はそうした素晴らしい評価さえ、あの面倒くさそうな表情で「どうでもいい」と返すのだろうが……。

 

 

 

長渕剛

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「(終演後のアナウンスに対して)優しく入れてくれよ、もう一回。『今日は本当にありがとうございました』って、優しく」
(某年11月24日、愛媛県のライブステージ裏にて)

誰もが知る邦楽シーンの『漢』こと長渕剛。親世代の人々にはもちろんのこと、少なくとも日本で彼の名を知らない人など、どこにもいないのではないか。しかしながら長渕剛は誰もが認知する存在でありながら、『若者』と『親世代』の間では大きく認識の差があるアーティストであるとも思っていて、事実若者の大半は長渕を「“とんぼ”を歌っている人」のイメージしかほぼない。


それでは何故大人たちは長渕に惹かれ、心酔するのか……。その理由のひとつが、上に記したアナウンスへの苦言だ。角の立つ言い方をしてしまえば、長渕は「自分自身が考えた最高のシナリオ」を崩されることを極端に嫌う。そしてそこには長渕なりの強い思いが込められていて、この日のアナウンスへの苦言に関してもライブ後の余韻をしっかり残しつつ、気持ちよくお客さんに退場してもらえるように心掛ける長渕なりの心配りによるもの。なおアナウンス以外にも、開演前の影ナレへの指導、リハーサルでの叱責、果ては当日の警備に当たる警備会社の社員にまで激を飛ばす場面が有名どころだが、それらも決して高飛車ではなく「俺は死ぬ気でライブをやる。だからお前らの力な必要だ」という愛情ゆえ。ファンもそんな彼を知っているからこそ、熱量高く応援し続けられるのだろう。

 

 

 

奥田民生

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「思ったよりも長くかかってしまいましたが、半分はあなたたちのせいですから(笑)」
(ひとりカンタビレツアー・DRUM LOGOS公演にて)

バンドメンバーを率いずに奥田民生たったひとりで全国を回る、その名も『ひとりカンタビレツアー』での一言。ちなみにこのツアーは飄々とした雰囲気でライブをこなす奥田ならではのツアーとなっていて、その内容は奥田によるレコーディングの一部始終を実際の観客の前で披露し、各会場で作られた楽曲を一枚のアルバムにするという他に類を見ないコンセプト。余談だが、基本的に深夜にはライブ当日の楽曲が即座に配信リリースされることでも話題を集め、現在でもおよそ最高級のファン感謝イベントとの呼び声も高い。


この日に制作されたのは後にリリースされたアルバム『OTRL』内の“わかります”。奥田は次々に楽器を持ち換えて演奏を繰り広げ、終盤では観客にコーラスを頼むライブならではのアレンジも増やして進行。ただレコーディングという作業自体が本来1曲当たり1日~3日がかりで行われることもあり、制作は次第に予想を超えた長丁場に。そうした折に突発的なアイデアで行われたのが『観客による手拍子を音源に取り入れる』試みだったのだけれど、明らかにリズムが合っていない観客を奥田が(もちろん笑顔で)指摘し、同じフレーズを連続して練習する羽目に。結果ひとつのライブとしてはかなり長い部類に入る約3時間超えとなり、全てが終わった後に奥田が発したのが冒頭の言葉である。


今まで日本ではほぼ行われることのなかった『レコーディングライブ』。敢行不可能とされた理由はもちろん当然長丁場になったり思うように出来なかったりという問題が山積するためだが、奥田が醸し出す特有のあの緩やかな環境あってこそ、このライブは成功した。そしてこのツアーで制作した楽曲のみを集めたアルバムは無事リリースに漕ぎ着け、収録曲の“最強のこれから”は現在でも頻繁にセットリスト入りする程の人気に。奥田を代表するアルバムがこうして作られたことを知れば、更に『OTRL』は深みを増すこと請け合いだ。

 

 


例えばAKB48総選挙の前田敦子のスピーチがメディアで取り沙汰されたように。TOKIOの会見が未だに高い再生数を誇っているように……。今回取り上げたアーティストたちの格言的な言葉の数々、それは雄弁に努力と認知を体現するものだ。中には笑い話に近い内容のものもあるが、総じて単なる笑い話としてではなくプラスアルファの意味合いも含まれている点で、そのアーティストが何故ここまで人を惹き付けるのかをも感じさせる。

話題性を基準とし、SNS等でアーティストの側面的部分ばかりにフォーカスを当てられがちな昨今。確かに今記事で取り上げたエピソードもそれとほぼ類似するものだろうが是非とも、少しでも興味を持った人はその先……アーティストの音楽的な部分にも目を向けてほしいと心から願う。

ずっと真夜中でいいのに。による『PSO2 ニュージェネシス』コラボ楽曲“あいつら全員同窓会”を、ゲーマーとライター側の視点から徹底考察

こんばんは、キタガワです。

 

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去る6月18日にMVが公開された、ずっと真夜中でいいのに。(以下ずとまよ)によるオンラインRPG 『PSO2(ファンタシースターオンライン2) ニュージェネシス』コラボ楽曲・Spotifyブランド/ プレミアムTVCMソングの新曲“あいつら全員同窓会”。今作はずとまよのオリジナル曲としては約2ヶ月半ぶりのMVであることもあり、公開当初からあれよあれよという間に閲覧数が急上昇。今記事執筆時点で早くも300万回を超える再生数を獲得し、更にはテレビCMやYouTube、Spotifyの広告など現在でも至るところで流れ、キャッチーな楽曲の中毒者を日々増やし続けている。


一切勢いが落ちることなく猛進し、今や音楽シーン全体を見ても屈指の注目株となったずとまよ。彼女たちがここまでブレークするに至った理由はサウンドや曲調はもちろん、やはり「何度も繰り返し聴いてしまう」謎の中毒性を最大化している重要部は聴く人それぞれの解釈で物語が千変万化する、その意味深な『歌詞』にあるのではと個人的には思っている。かつての寄稿記事でも3つのMVを紐解いて記した通り、ずとまよの名を広く知らしめた“秒針を噛む”然り実写映画の主題歌として注目された“正しくなれない”然り、楽曲の作詞作曲者であるACAね(Vo)が紡ぐ言葉の数々は一見荒唐無稽な内容のように捉えてしまいがちだが、その中には自身の伝えたい考え・思いが必ず内在する。加えて、MVの公開されている楽曲についてはMVと合わせて楽曲を聴くことによって、ある種様々な解釈がもたらされ、結果考察が考察を呼ぶ形で楽曲の魅力が波及。それはずとまよが活動開始直後から一貫してMVのワンシーンをアーティスト写真にしていることからも、およそ正しいのではないか。

 


故に“あいつら全員同窓会”も例に漏れず、歌詞とMVにはACAねの伝えたいことプラス、そのタイアップ……。今回で言えばオンラインRPG 『PSO2 ニュージェネシス』を知っていればグッとくる描写と、ゲームを深く知っていなければ理解不可能なシーンも多く存在すると踏んだ。そこで今回は筆者と小学校時代から現在に至るまで深い付き合いがあり、なおかつPSO2の総プレイ時間が18000時間を超え、名実共にPSO2界隈のトッププレイヤーとしても多くのフォロワーを獲得するH(仮名)協力のもと、H宅でMVを一時停止や巻き戻しを幾度も駆使して流しつつ、約2時間に渡って楽曲を分析・考察した。


※今記事では各描写を直接的に理解するため、公式MVにおける画像を各所に貼り付けております。予めご了承ください。なお該当画像に関しては予告なく記事上から削除する可能性があります。こちらも合わせてご了承ください。

 

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楽曲はずとまよの公式キャラクター・うにぐりくんが狭いダクトのような場所をモゾモゾと這い、謎の都市に舞い降りるところから始まる。この都市について、まずこの時点で我々は『小さなうにぐりくんがようやく進むことが出来る程度のダクト』を通り抜けてこの世界に到達したことから「人間では到底進むことの出来ない仮想世界にうにぐりくんは迷い混んでしまったのではないか」との仮説を立てた。この仮想世界とはズバリ人間界とは全く異なるオンラインゲーム(以下MMO)の世界であり、楽曲の冒頭ではっきりとこの仮想世界の存在を描写することで、後々のシナリオ展開をより明瞭にする役割を果たしていると判断。

 

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かくしてうにぐりくんは仮想世界に到達した。……それではリアルの世界は今、どうなっているのだろうか。その疑問が明らかになるのが、今MVにおける主人公の実生活が描かれる次のシーンだ。必要最低限の家具と家電以外ほぼ置かれていない質素な部屋で、緑の髪色をした主人公は納豆巻きを頬張ろうとする。しかし勢い余って納豆巻きは手から落ちて自身の服を汚してしまい、仕方なく主人公はコインランドリーへと向かう。ここで我々は『ランドリーに向かう直前の謎の隕石が太陽を覆い隠す』一幕と『ランドリー内で回されるうにぐりくん』、そして『《当たり障りのない 儀式みたいな/お世話になってます》』という歌詞の3つに注目した。そう。うにぐりくんが到達した仮想世界=MMOであるということについては前に記した通りだが、これら3つを合わせて考えたとき「主人公はMMOに積極的にログインしているゲームプレイヤーなのではないか」という確信めいた考えが浮かんだのだ。ひとつずつ紐解いて見ると、まず隕石が太陽を隠しているのは『日に当たらない生活をしている』、つまりは夜行性の人間であることが。うにぐりくんのシーンは、主人公にとって現実世界と仮想世界が緊密な関係にあることを。《当たり障りのない 儀式みたいな/お世話になってます》の歌詞については『当たり障りのない 儀式みたいな』はMMOへのログインが日課で、『お世話になってます』はお馴染みのメンバーへの挨拶を表していて、総合的に見て主人公が深夜までゲームをするネトゲ廃人であることの隠喩なのではと考えた。

 

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主人公が洗濯終了を待つ間も、ランドリーの外では様々な日常が描かれている。工事現場作業員とおぼしき人が闊歩していたり、自身の目の部分にボカシよろしく『Who am I ?(私は誰なんだ)』と記された人がまるで自身の思いをぶち撒けるように口を開けていたり、缶ジュースを道端に放り投げる人がいたり……。よく見るとその人々はほぼシルエットしか明かされていないまでも皆主人公と類似した髪色・髪型であり、どこか主人公そのもののようにも見える。《手帳開くと もう過去/先輩に追い越せない 論破と》から成る歌詞にはH曰く、歴代のPSO2と今回アップデートにより追加された『PSO2 ニュージェネシス』では服やアクセサリー、微々たる装備は別にして全員がレベル1……ほぼ同じスタート地点となることから、今までの実績がある意味では意味を成さないというゲーム独自の仕様と、それでも先輩(コアユーザー)には知識や技術的な面で追い付けない個々人のスキルを意味しているのではないかとのこと。加えて《もうダンスダンスダンス 誰も気づいてない/ジェメオスよりも ゆうもわな落書きに》はロビー画面でリアルのプレイヤーがゲーム以外の別作業(スマホをいじる等)をする際にダンスのアクションを押したまま放置することがあること、更に《ゆうもわな落書き》(ユーモアな落書き)は時たま『シンボルアート』という、手書きでイラストを書くことの出来る暇潰しをその時間に行っている人も多く、それについても指しているのでは、とのPSO2のコアユーザーでしか知り得ない裏情報も語ってくれた。

 

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そしてある程度の時間が過ぎ、ランドリーから出た主人公。すると直ぐ様自身の頭に空のスプレーのようなものが直撃し、投てきされた方向へと目を向けるとそこには主人公に似た髪型の3人のキャラクターが。ここで我々は二者択一の大きな判断を迫られた。それは3人のキャラクターが『全く別のプレイヤー同士』なのか『主人公が別にクリエイトしたキャラクター』なのかということ。結果この重要な二者択一について、我々はひとつのみを選び出すことはせず、このふたつの可能性を同時に考えてMVを読み進める……正確には「これはどちらともを体現しているよね」という形に落ち着いた。この理由については以下、次なるシーンと共に詳しく記述していく。

 

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ここで遂に楽曲はサビ部分に突入。ここではタイトルにも冠されていたフレーズが歌われることに加えて次々と意味深な内容が浮き彫りになっていく。まずはタイトルが明かされた瞬間から気になっていた《どうでもいいから 置いてった/あいつら全員同窓会》の部分から見ていくが、サビでは様々に作られたいくつもの線路から主人公に似たキャラクターが攻撃を喰らわせたり、主人公が溜め息を吐いたり、怒りに任せて様々に交錯する『矢印』を踏みつける様がくるくると姿を変えながら描かれていく。ここが前述の『全く別のプレイヤー同士』と『主人公が別にクリエイトしたキャラクター』というふたつの仮定が実はどちらも正解なのだと確信に変わった瞬間であった。


まずは『全く別のプレイヤー同士』という考えから見ていこう。要するにこの主人公はファッション重視でゲームをプレイする人間であり、そうした主人公のスタイルは同じチーム内の所謂『戦闘民族』から見ると「装備を強くしないで何見た目に気を遣ってるんだ!」という怒りを絶対的に買ってしまう。それは同時に周りからの意見に縛られずにキャラクターを育て、キャラクターの外見重視で活動したい・注目を集めたいという主人公の理想と、MMO上の「こうすべきだ!」との意見のギャップに揺れ動くストレスであるようにも見ることが出来る。だからこそ次なる歌詞は《ねばった成績飛んでった/なりたい自分に 絡まる電柱》であり、《ぼーっとして 没頭して/身勝手な僕でいい》なのだと、我々は推察した次第だ。

 

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そして『主人公が別にクリエイトしたキャラクター』説も同時に押す理由についてはサビ部分で卒業証書を開くシーンで写真に映る全ての人物の髪が主人公と同じ緑色であることが最も大きいのだが、およそ全体のストーリー展開がまだ掴み切れていないこのサビの時点では前者(『全く別のプレイヤー同士』説)の意味合いの方が圧倒的に強いものと判断した。


これにて楽曲は1番が終わり2番へと進むが、ここで一度我々が推察したこれまでのシナリオを整理してみる。

・主人公は連日連夜プレイに熱中する、MMOのヘビーユーザー
・主人公にとってMMOは現実逃避(仮想現実)の手段
・主人公のプレイスタイルは『戦闘民族』ではなく『ファッション重視』
・主人公はMMO内で数十体に及ぶキャラクターをクリエイトしている
・主人公の『ファッション重視』のプレイスタイルはチーム内からバッシングの対象となっている
・主人公はMMOで自分なりの楽しさを探求したいとも、承認欲求を満たしたいとも思っている

 

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上記のことを踏まえて、次は2番で繰り広げられるシナリオに目を向けてみよう。MVに関して言えば、1番では主人公のMMO上のキャラクターに焦点を当てた描写が多かったため、2番でもその続きから始まると思いきや、2番に到達してすぐ、ちんまりした緑色で一つ目の謎のキャラクターが道端(ゲームロビー?)に座り込むシーンにまず驚く。そのキャラクターのピョンと跳ねた癖毛とその色合いから鑑みて、我々は「様々なバッシングにより心が疲弊した主人公が、新たなキャラクター(以下“A”とする)を作成したのではないか」と結論付けた。何故かと言えば、2番では1番で極めて出現頻度の高かった緑髪の主人公の姿はサビに到達するまで一切描かれていないからである。これは単なる憶測でしかないが、“A”の出現と同時に歌われる《会っても癒えない世界で/匿名の自分に なって》という歌詞からも、やはり「ファッション重視でMMOを楽しみたい」という主人公にとってまるで真逆の環境であるチーム内のバッシングに耐え続ける時間は辛く、誰も自分のことを知らない謎のキャラクター・“A”として1からのスタートを切ることが、主人公にとって唯一の逃げ道だったのだろう。

 

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続くシーンでは、まるで何かのウイルスのようにディスプレイ上に出現したニタニタと笑う主人公の姿や、おどろおどろしいタッチによるうにぐりくんが描かれるが、これについては「未だ前チーム内では主人公の悪口を言われ続けている」隠喩であり、少なくとも前のチーム内に主人公の戻る場所は既にないものと推察。そして《誰を批判しなくたって/発散できるファッション 探してる》との歌詞には、どん底の精神状態に苛まれる主人公が、それでもどこかで存在証明の手段としてのMMOを諦めておらず、何かしらの光明がいずれは見出だせるはずだと確信する思いも読み取れた。

 

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そんな主人公による新たな一手が、次なるシーンだ。上記の《誰を批判しなくたって~》の場面でMVはぐるぐるとしたロードが続いて動きが止まった現実の主人公が、再生ボタンを押された瞬間表情にパッと光が射す様を記録する。これは単なる想像でしかないが、その直後には“A”が光るタブレット端末をじっと凝視していることから察するに、主人公はあるときからYouTube、ツイッター動画などの配信媒体でMMOの動画配信(これまでの流れから察するに様々なキャラクタークリエイトから成るファッション動画?)を開始し、それがじわじわとOOMユーザーのみならず一般層にも広く届き始めていることを指しているのではと推察。

 

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そして先の気になる場面から画面は遷移し、東京の街並みへ。そこに飛び込んできたのは普段着で雑踏の中ひとり立ち尽くす主人公の姿で、この瞬間場面は『現実世界』へと完全にシフトしたことが分かる。しかしちょうどその頃、東京の雲を突き抜けた更に上・宇宙空間ではUFOに瓦礫が衝突する重大事件が発生。必然平衡機能を失ったUFOはぐんぐん急降下し、遂には主人公の眼前で爆発してしまう。そこで地球存亡の危機を察知した主人公は所持していたフエラムネのような物体を吹くのだが、この物体こそが仮想現実生きるもうひとりの自分を現実に呼び寄せる最後の手段だったのではないか。

 

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こうして主人公は緑色の電気迸る人間離れした的な力を得る。そこからは1番と同じように再び耳馴染みの良いサビが展開するのだが、1番時と同じ描写も多々ある中で、一転1番では描かれなかった新たな局面に移り変わる印象的な場面があった。それこそが《ステンバイミー 自然体に/シャイな空騒ぎ》との歌詞が流れる箇所であり、そこでは画面を覆い尽くすほどの“A”を含めた大勢のキャラクターが『誰か』を応援していて、後の《ぼーっとして 没頭して/身勝手な僕でいい》では主人公の顔をかたどったオブジェが上空からの視点で映し出されていた。断っておくと、ここから終盤までの流れについては我々独自の推察によるところが大きく、おそらくMVを閲覧した人それぞれの答えがあって然るべしだとは思うのだが、この一連の流れに我々が出した答えは、この時点で主人公は動画配信で多大な注目度を獲得するほどに成長し、インフルエンサー的な地位を確立。かつてバッシングを受け疲弊していた主人公は完全に過去のものとなり、新たに前を向いて歩き出したことを指しているのではと考えた。加えて、“A”が主人公と邂逅するシーンや現実世界の異次元的な危機、前述したMMO内での“A”らキャラクターによる応援など、ここからは主人公がこれまで長らく紡がれてきた『現実世界』と『仮想現実』というふたつの世界における細かい設定はほぼなくなっていて、あくまでMV上の興奮を第一義に捉えていることも分かった。

 

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ここからはクライマックスへと突き進む怒濤の展開が続く。一瞬人型の姿に変化した“A”が主人公と抱き合い、“A”の大きな一つ目がゆっくりと閉じられる一連の流れでもって「ようやく望んでいた自分になれた」というあたたかい感覚を間接的に観るものに気付かせると、ラストのラスサビでは主人公がうにぐりくんのフードを被って真の力を解放。いつしか主人公は人とも空想上の動物神ともつかない姿となり、極彩色のビームを太陽を覆い隠す隕石にぶつけると、隕石が大破。その後主人公の体からはエネルギーが噴出し、主人公の存在する地点から全国各地へと波及。主人公のシルエットが大量の呟きで埋め尽くされる(=主人公の存在が加速度的に認知される)仮定を経て、H曰く「早く切り上げたい時にたまに使われる言葉だけど、実際言われた側はどう対応していいのかわからない」とする《お疲れ様です 風邪気味です/冗談なのか 本心なのか わからなすぎ問題》、「深夜にログインするとだいたいフレンドはパジャマだよ。いつでも寝れるし」との《夜道歩き 孤独に浸ったり/変なパジャマの人と 目が合ったり》というMMOならではのあるあるが矢継ぎ早に捲し立てられ、楽曲のラスト、主人公が屈託のない笑顔で《また笑い転げられるのさ/あばらの骨が折れるまで 》との歌声をバックに笑顔で前進し、これにて凄まじい密度に包まれた“あいつら全員同窓会”のMVは幕を閉じる。

 

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今回“あいつら全員同窓会”を考察してしみじみと思ったのは、タイアップ先である『PSO2 ニュージェネシス』の一番の売りである「世界で一人だけの主人公を生み出す“究極を超えるキャラクタークリエイト機能”」という要素を上手く取り入れつつ、ACAねならではの言葉選びなや加えてMVを伴って聴くことで真意に近付くことが出来るという従来のずとまよらしさが高水準で合致した、計画的な1曲である、ということ。無論これまで発表されたずとまよの楽曲が求心力をベースに注目を集めてきたように、現在YouTube広告やCMなどで一度聴いた瞬間に口ずさめてしまうその耳馴染みの良さは健在。そして『PSO2 ニュージェネシス』の知識があればより楽しめる代物であることも確かで、今回PSO2のヘビーユーザーであるHとくまなく分析することで、いちファンである自分が分析可能な臨界点を突破し、また新たな驚きと深みに迫ることが出来た。


2時間に及ぶ分析の最後、Hはこう語った。「ずとまよのお陰でPSO2が話題になってくれて嬉しい」と。聞けばHは元々音楽を全くと言っていいほど嗜まない人間だが、それでもずとまよの“あいつら全員同窓会”はゲーム上のチャットなどで存在だけは知っていたようだった。実際“あいつら全員同窓会”によってPSO2への参入はかなりの増加傾向にあるようで、またPSO2ユーザーにとっても「PSO2とコラボしたずとまよって誰?」との興味に繋がり、そこからずとまよのファンになった人も多いのだという。


瞬間的に生み出されたバズが、何より重要になる今の時代。それは音楽シーンも同様で、特にここ数年はこれまで無名だった様々なアーティストが1曲単位で注目を叩き出し、一躍時の人となる場面を目撃する機会も増えた。それはかつて“秒針を噛む”でミステリアスな新進気鋭のアーティストとして目されてきたずとまよも同様だが、思えばずとまよは活動当初から現在まで、言葉を選ばずに言えば落ち目になることなく安定した高い評価を獲得し続けてきた。そして今回の分析ではその「何故ずとまよはここまで注目を集め続けるのか?」という疑問に対して真っ向から「だってずとまよはこうだから」と歌詞とMVの観点から説き伏せる力強さをも感じることが出来た。……きっとずとまよはこれからも決して打算的ではない強い『ずとまよらしさ』を武器に注目を集め続けることだろう。翌日、Hから「あのあとずとまよのMV全部観たよ」との文面と共にチャンネル登録まで完了したスクリーンショットを送られて、僕は改めてそう感じたのだった。

『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021』全出演アーティスト発表から見る、各日の特色

こんばんは、キタガワです。

 

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いやはや、未だかつてこれほどまでに豪華なフェスが日本にあっただろうか。ロックバンドからはUNISON SQUARE GARDENや10-FEET、サンボマスターらが。アイドルからは櫻坂46、BiSH、ももいろクローバーZ。他にも今をときめくLiSA、マカロニえんぴつetc……。本日発表された『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021』の最終出演アーティストだけを見ても、思わず声を漏らしてしまったライブキッズはあまりに多いはず。無論フェスの成否が明らかとなるのはまだ先のことだが、こと出演アーティストに関してはこの場で断言しよう。紛れもなく最強の布陣であると。


前回の記事でも記した通り、今年のRIJは例年の環境とは大きく異なるフェスとなる。今年限りの重要な変更点は主にふたつで『出演者が1日8組 × 5日間で総勢40組』、そして『ステージがGRASS STAGEのみ』であるということ。ちなみに2019年のRIJと比較しても当時は出演アーティストが総勢250組、ステージは大小含めて7つであったことからも、今年が如何に強い新型コロナウイルス感染拡大防止措置を取った上で開会に漕ぎ着けているのかがよく分かる。


ただこれまでの『音楽フェス』と呼ばれるイベントはどちらかと言えば「○○を観るためにフェスに行く」というよりは「フェスで歩き回りながらいろんなアーティストを観る」考えが強くあり、それこそRIJを例に挙げて考えてもGRASS STAGEだけで1日を過ごす人や、観たいアーティストだけをピックアップしてイメトレ通りに完璧に動くような参加者はかなり少なかった。 ……だからこそGRASS STAGEオンリーでどこにも移動が出来ない今年のRIJは、出演アーティストが誰になるのかが最も重要になっていて、多くの目が注がれていたのも事実としてあった。

 

 
そんな中で発表された最後の出演アーティスト。該当画像の添付が実質的に禁止となっている関係上、公式ツイートを上に張り付けているので詳しくはそちら、若しくは公式サイトを確認してもらいたいのだが、文字を観ているだけで心が踊る磐石のラインナップにまず震える。言うまでもなく、その大半が過去メインステージ(GRASS STAGE)でライブを行ってきた知名度も実力も最大級のアーティストばかりで、チケット代こそ一見高額なようにも見えるがその実、場合によってはRIJにおける1日の出演アーティストのうち1組の単独ライブを観るだけでもほぼ同額となるような豪華さであるため、実質ペイ。それどころか圧倒的なお釣りが来る程の素晴らしいアーティストが揃った。

 


ここからはそんな音楽の祝祭こと今年のRIJのラインナップから観る、各日の特色について記していこう。まずは初日・8/7の出演アーティストは五十音順にKing Gnu、Cocco、櫻坂46、SUPER BEAVER、the HIATUS、宮本浩次、UNISON SQUARE GARDEN、WANIMAの8組。そもそも紅白歌合戦出場アーティストが4組いる時点であまりにも豪華だが、やはり注目すべきはおそらくトップの手順で投下される櫻坂46のライブと、以下ロックバンドとの関係性だろう。間違いなく欅坂46時代から長らくRIJを牽引してきた、さのアイドルグループを観るためにチケットを購入する坂道ファンはかなりの数存在するだろうが、そうした人々の心をどう掌握するかはひとつ重要なポイントでもある。更にはアイドルとロックの間に幸か不幸か、完全にアウェーな形で放り込まれたダークポップネス雨女・Coccoの存在も気になるし、もはや語るも野暮なWANIMAやKing Gnuの異種格闘技戦のような対極的なサウンドもどう響くのか。この日の出演者の中ではどちらかと言えば万人受けしそうなUNISON SQUARE GARDENとSUPER BEAVERも、思えば全くMCをしないバンドとそうではないバンドといった感覚なので、正直はっきりとした予想が出来ない。初日ながら波乱万丈の1日になりそうだ。

 


対して翌日8/8はASIAN KUNG-FU GENERATION、[Alexandros]、KANA-BOON、sumika、BiSH、My Hair is Bad、マカロニえんぴつ、YOASOBIとロックに振り切っていて、結果今年のRIJの中では一番のロックデイと言えるだろう。もはやトリの常連となった[Alexandros]やASIAN KUNG-FU GENERATIONは元より、先日活動再開したKANA-BOON、注目度爆上がりのsumika。そしてその中に先日“怪物”が1億再生を突破し波に乗るYOASOBIと、ニューアルバムリリース直後のタイミングでの出演となる楽器を持たないパンクバンド・BiSHが挟まれているのも面白く、どのような化学反応を魅せるか見物。広々とした空間で放たれるマカロニえんぴつの音楽も絶対的に最高だ。個人的には春フェス同社が主催する『JAPAN JAM 2021』出演前に、このコロナ禍で自身がフェスに出演する意義について赤裸々にテキスト化してくれたASIAN KUNG-FU GENERATIONがどんなライブを行うのか、非常に期待しているところ。

 


連休最終日の8/9もあいみょん、サンボマスター、10-FEET、東京スカパラダイスオーケストラ、NUMBER GIRL、back number、マキシマム ザ ホルモン、ももいろクローバーZと超豪華だ。特にこの日は照準を誰に合わせるかによって、人それぞれの昼休憩なり飯時間なりが大きく異なる日でもあると思っていて、大暴れしたい(といってもソーシャルディスタンスだが)人にはホルモン、アイドル派はももクロ、ポップ好きはback number、30代のロック好きにはナンバガ、更には手広くあいみょんがスタンバイというどんな音楽好きにも最適解ありな1日だ。なおトリの予想が最も難しいのもこの日のような気がしていて、ロックにもポップにもどちらにもアプローチが可能な10-FEETかback numberかなあ、というイメージ。あいみょんが“裸の心”を緩やかに聴かせた次の瞬間にホルモンが“「F」”をぶちかます可能性さえありなんという、とことん雑多な1日と言えよう。日比谷野外大音楽堂で初披露されたナンバガの新曲“排水管”も楽しみ。

 


週をまたいで8/14。この日は終日RIJの立役者勢揃いの布陣で進行する、地に足着けたある意味では分かりやすい1日で、出演アーティストはUVERworldにTHE ORAL CIGARETTES、KEYTALK、きゃりーぱみゅぱみゅ、キュウソネコカミ、ゲスの極み乙女。、フレデリック、RADWIMPSの8組。ここで注目すべきはやはりポップロックの帝王・RADWIMPSであり、流石にほぼトリで確定か。ただ彼ら自身大規模なツアーを2022年の夏以降に延期し、今現在のライブ参戦がフジロックとRIJのみであることから考えても今回のライブは凄まじいものになることは間違いない。大きくイメージを変えたアルバムでも話題のTHE ORAL CIGARETTESも気になるところではあるし、ツアーの開催が決定しているフレデリックも“名悪役”含め最新型のライブを披露してくれるはず。そしてこの日の起爆剤の役割を果たすのは待ってました!なロック兄貴有するUVERworldで、スタートダッシュそのままの勢いで駆け抜けること間違いなしだ。

 


そして最終日8/15。出演アーティストはクリープハイプ、サカナクション、Fear,and Loathing in Las Vegas、04 Limited Sazabys、MAN WITH A MISSION、ヤバイTシャツ屋さん、LiSA、Little Glee Monsterというロックポップ混合。十中八九トリはサカナクションだろうが、思えば彼らのフェス出演はコロナ以後一切なかったので、RIJが皮切りということになるのだろう。そこに大暴れ必死のファストバンドがどんどん投入されて、満を持して参戦のLiSAとリトグリ!明らかにロック人口が過半数を占めるこの日にどう絡んでくるのか楽しみ。ライブのイメージが強いマンウィズやフォーリミといった所謂ロキノンバンドも、昨年から野外フェスの形ではあまりライブを行っていなかったこともあって爆発的なライブを見せてくれそうだ。


……ここまで感情の赴くままに書き記してきたが、何度各日の出演者に視線を落としても今年のRIJはジャンル然り年齢然り、貢献度という意味でもどこか統一性がない。例えばWANIMAで踊り狂った人がCoccoでポツンと立ち尽くす光景は想像出来ないし、リトグリのポップとベガスの爆音ピコパンクの相性がどうなのかなど、考えは尽きない。更には今までのようにステージ間での移動がないので、悪い言い方をしてしまえばどれだけ興味のないアーティストのライブが始まったとしても観るしかないような時間帯もあるだろう。


しかしそうした事柄を踏まえても、今年のRIJは歴史的なものになると個人的には踏んでいる。その理由は何度も繰り返している通りその『豪華さ』だ。何をしていても100%メインステージのみの音が鳴り響く作りの恩恵は、やはりこの豪華さでなければ難しい。名前も知らないアーティストの音が聴こえてくる、というのはフェスあるあるだが、飯を食べている時に遠くでLiSAの“紅蓮華”が聴こえてきたり、キャンプサイトで寝転びながら遠目で宮本浩次の歌を聴くなんて経験はまずない訳で、しかもその豪華ラインナップが1日中続くのである。ツイッターを見ていると今回の方針は当然賛否両論が巻き起こってはいたが、様々な観点で総合的に判断した場合に、コロナ禍でここまで充実したフェスは存在しないのだ。


ワクチン接種が加速しているとはいえ、未だコロナの猛威収まらない今年の夏。ただ今夏の開催を中止とするフェスもある一方で開催する動きも多く、RIJに至る前の今春に開催された同社主催の『JAPAN JAM 2021』はひとつの結果として、メディアによる数々の印象操作で逆風に晒されながらも、最後までクラスター発生なしの功績を残しつつ終幕した。……約1年越しに開催される今年のRIJにも、是非ともフェスの輝かしい好例を作り出してもらいたいところだ。

アミューズメント施設で撮影したアーティストのMV5選

こんばんは、キタガワです。


もはや1にMV、2に音楽……。かつて音楽第一主義と謳われた音楽シーンの動きは今や昔で、現在は如何にして楽曲へと導き、注目を集めるかといった策略的手法がほぼマストと化していることは誰もが知る通りだ。故にそのMVの内容はどれもオリジナリティー溢れる代物となっていることはもや言うまでもないのだけれど、これがなかなかどうして種類が多い。


これまでも多種多様なMVに焦点を当てて記述してきた当ブログ。今回は『アミューズメント施設で撮影したアーティストのMV5選』と題し、千変万化な魅力に今一度迫っていきたい。総じて当記事が読者の方々にとって、新たな音楽と出会う契機となれば幸いである。

 

 

starlight/asobius[舞台:遊園地]

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青空に煌めくポップマエストロ・asobiusの1stフルアルバム『pray & grow』収録曲にして、珠玉のライブアンセム“starlight”。この楽曲は都度ライブで披露される代表的ナンバーであると共に、現在甲斐一斗(Vo)以外のメンバーが脱退、甲斐の音楽番組の楽曲製作といった業務の多忙の関係上実質的な活動停止状態となっているかつての彼らの、絶頂期を体現する1曲と言える。楽曲はリズミカルなポップロックであり、ハンドクラップからの飛び道具的なサウンドで幕を開け、以降は甲斐の伸びやかなボーカルが牽引するどこか壮大な形式に仕上がっている。なお今曲はライブでは専らオープナーに冠されていることが多く、冒頭の手拍子のリフをSE代わりに流し、そこからメンバーが入場。瞬間爆音をズドンと鳴らすインパクト大の展開は、一瞬で観るものを引き込む重要な起爆剤とも言える代物で、更にミュージカルシンガーのように感情を乗せて突き進む“starlight”は、かつてのasobiusのライブにおいて誰もが期待する1曲と化した。


前述の通りasobiusは現在実質的な甲斐のソロプロジェクト状態と化しているが、アイドルユニットへのコーラス参加や“spinning world”が三菱UFJ銀行のCMに起用されるなど、彼の織り成す楽曲と歌声の魅力は未だ健在だ。幾分スローペースではあるけれど、数年前のasobiusとは異なる新たな道を奔走する甲斐の未来を、これからも彼の紡ぎ出す音楽と共に刮目していきたい。

 

 

 

社会の窓/クリープハイプ[舞台:ライブハウス]

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もはや語るも野暮な邦ロックの支柱・クリープハイプの“社会の窓”は、今回取り上げる楽曲の中でも極めて異質なMVに仕上がっている。その理由は単純で、定点カメラのワンシーンを延々流し続けるチャレンジングな代物であるからだ。MVの場所はライブハウス。クリープハイプのライブを観るとある女性の表情が次第に変化する一部始終を臨場感たっぷりに映し出すチャレンジングな手法は思わず息を飲む。ただそのバックで流れる歌詞に目を向けてみれば《オリコン初登場7位 その瞬間にあのバンドは終わった》《曲も演奏も凄く良いのになんかあの声が受け付けない/もっと普通の声で歌えばいいのに もっと普通の恋を歌えばいいのに》といった当時メジャーデビュー間もない彼らが実際に受けたアンチコメントの数々が赤裸々に投影され、その締め括りとしてサビの直前に《余計なお世話だよ》との言葉が放たれる衝撃的なもの。


彼らは日本が誇るロックバンドの一組であることは間違いないが、実際彼らのカテゴライズとしてはかつては専ら『ポップロック』に寄っていて、実際“憂、燦々”や“オレンジ”といった著名な楽曲は正にそうした路線を地で行くものだ。けれども怒りの勢いをそのまま落とし込んだ楽曲というのはこの“社会の窓”と、更なる興奮とアンチを呼んだこの楽曲を経て届けられた《知らねえ》のフレーズが連続するアンサーソング“社会の窓と同じ構成”しかなく、現状クリープハイプの中で激しい楽曲と言えばどちらかが挙げられるほどで、結果社会に牙を剥く“社会の窓”のリリースによって彼らはポップらしからぬ一風変わったバンドとして確立した。クリープハイプというバンドを語る上で欠かせないのがこの楽曲であることに、異論のある人はいないだろう。

 

 

 

HOT! HOT! HOT!/THE SALOVERS[舞台:バンジージャンプ]

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朝ドラ、映画、CMなど俳優として活動の幅を広げ、アナウンサーの古舘伊知郎の長男としても知られる古舘佑太郎(Vo.G)がフロントマンを務める若きロックスターの原石・THE SALOVERS。そんな彼らがシングルカットで世に放った一撃こそ、初期衝動を爆発させた“HOT! HOT! HOT!”である。この楽曲はその性急なサウンドもさることながら、若さを前面に押し出したある種無謀なMVに仕上がっていることも特徴のひもつ。MVはYouTuberで言うところの「○○やってみた」的な内容となっていて、船からの飛び込みやスイカ割り、カンフー体験など日常生活を送っていればまず経験することのないチャレンジングなアクションが並んでいて、極め付きはメンバーの大半が高所恐怖症であることを逆手にとってのバンジージャンプで、古舘を除くほぼ全員が顔面蒼白でダイブを敢行。サビ部分では完全に表情が死んだメンバーが《無理をしている》のフリップを掲げているのも面白い。総じて当時「若手筆頭」の呼び声高い若かりし時分だからこそ決行できたMVと言える。


なおTHE SALOVERSは2015年3月25日をもって無期限活動休止となり、メンバーは別々の道へ。古舘は一度バンドの解散・若しくは活動休止を経験したバンドマンを集めた再始動の意味を込めた新バンド『2(ツー)』を結成(なお2も先日活動休止が発表された)、俳優としての活動も本格化。活動休止に至った理由も「メンバー全員の仲が悪くなりそうだったから」という幕引きも、実に彼ららしい。

 

 

 

 

Beauty And A Beat ft.Nicki Minaj/Justin Bieber[舞台:ナイトプール]

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フォロワー数世界一の1億人超え、僅か13歳の頃に才能を見出だされ、以後様々な金字塔を打ち立ててきたアーティスト界の大富豪たるジャスティン・ビーバー。当時弱冠20歳でありながらありとあらゆるものを手にしたと言っても過言ではない『ジャスティンらしさ』が爆発したMVがポップ路線を突き進む代表曲“Beauty And A Beat ft.Nicki Minaj”。MVの舞台は遊びたい盛りの10代~20代が全力ではっちゃけるナイトプールで、バックで流れる楽曲と共にジャスティンの姿をリアルタイムでカメラが追い続ける、ノーカット(のように見せた)MVとなっている。ただ派手なパフォーマンスに定評のあるジャスティンらしく、彼の背後では水着姿の男女やパイロ、ダンスイベントなどあらゆる面でどんちゃん騒ぎで、幾度も『ヤンチャ』な報道に晒された彼ならではのMVに仕上がっている。


実際、この時期のジャスティンは公私共に非常に充実していたことでも知られていて、所謂『過渡期』と呼ばれる状況にあった。同時に公私が充実するあまりマスコミからは「遊び人」だの「成金」だの散々バッシングを浴びせられる時期でもあったわけだが、ジャスティンVSマスコミにファンが加勢し、その構図が更にメディアにすっぱ抜かれて新たな火種を生むという凄まじい循環が発生していたのもこの頃である。なお総再生数9億6000万回超えのこの楽曲が認知を飛躍的に高めたのは間違いなく、未だ総再生数21億回の“What Do You Mean?”に次ぐ彼の重要な1曲として、今知っておくべき楽曲としても位置している。

 

 

 

キルミー/SUNNY CAR WASH[舞台:複合エンタメ空間]

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知る人ぞ知る若手ロックバンド筆頭・SUNNY CAR WASH。現在も小バコを中心に活動を続ける彼らの、楽曲の持つ破壊力のみで100万回を超える再生数を叩き出した代表曲が以下の“キルミー”だ。MVの舞台となるのはスポッチャかROUND1か、もしくはそれらに値する複合エンタメ空間的商業施設。故にMVもある種ハッピーな雰囲気に満ちていて、太鼓の達人やビリヤード、キックターゲットで思い思いに楽しむ姿が収められている。しかしながらこの楽曲のサビは全て《ねえキルミーベイベー 殺してくれ》から始まる衝撃的なものでもあり、その真意はクソッタレな人生に時たま訪れるこうした遊びを経ての「楽しい時間がずっと続いてくれれば良いのに」という思いだ。彼らの紡ぎ出す楽曲の大半が日常生活の切り取りであることはファンにはよく知られているけれど、やはり赤裸々を極めたポップロックナンバー“キルミー”は当時未だ20歳そこそこの年齢であった彼らの最も純真無垢な部分が発露した楽曲であるとも言える。


活動休止とメンバー脱退で一度は苦難の時代を経験しつつも、再びロックシーンに舞い戻ってきたSUNNY CAR WASH。奇しくも活動を再開した直後からコロナウイルスが全国的に蔓延し、実際新体制1発目のライブも延期となってはしまったが、変わらず公式ホームページはないながらも精力的なライブ活動を続けている。ハイトーンなボーカルと曲調から繰り出される予想もつかないライブパフォーマンスは、一見の価値ありだ。

 

 

 

……『アミューズメント』 と聞けば誰しもが楽しいイメージを抱くが、確かにアミューズメントは楽しみや娯楽、遊び、気晴らしを意味している。その事実を証明するように、今回記述したナイトプールや遊園地といったMV内で描かれる場所も全て、どう足掻いてもネガティブな印象を持つことがまず難しいようなハッピーな施設ばかりだ。しかしながら楽曲内で歌われる内容は、中には幸福とは真逆を行く《可哀想だからもう少し我慢して聴いてあげようかなって 余計なお世話だよ》と心中をぶちまける“社会の窓”や《ねえキルミーベイベー 殺してくれ》とする“キルミー”であったりもする訳で、MVと組み合わせて観賞したとき、改めてその楽曲の持つメッセージ性が浮き彫りになることも多いのである。


音楽番組でもメディアでも、そのアーティストを語る上ではほぼ必ずMVが制作されている楽曲に焦点が当てられる時代。そんな視覚的価値が重要視される音楽シーンにおいて「何故この場所で撮影したのか」を推察しながらMVを観ることの必要性を、今だからこそ強く唱えたいとも思うのだ。耳で聴く音楽、目で観る音楽が存在するならば、それらを心で補完する行為も存在して然るべし。これからも各々思い思いの接し方で、今後も音楽を楽しみ尽くしてほしい。

『SUPERSONIC 2021』第1弾ラインナップ発表!EDMフェスへと変貌を遂げた今年のスパソニの行方に迫る

こんばんは、キタガワです。

 

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『SUPERSONIC 2021』の開催が正式決定してからというもの、思えばここ数日ツイッターやChromeで『スパソニ』と検索しない日はない。無論このほぼ無意味なサーチは「今年のスパソニはどうなるのだろう」というやり場のない感情の捌け口的な行動によるものではあるのだが、不思議なもので連日検索していても新たなツイートは数分単位で更新され続けていて、コロナ禍で初のインターナショナルフェスティバルとなるスパソニに対する期待値の高さを、まざまざと見せ付けられるようで胸が熱くなる。

そんな日増しに興奮が高まる中、遂に第1弾出演アーティストが公式にアナウンスされた。まず初日の9月18日にはヘッドライナーとしてゼッド王子が帰還。更にはYouTube総再生数30億回超えの怪物曲“Faded”を有するアラン・ウォーカー、正統派電子DJニッキー・ロメロ、泣きのポップサウンドが突き抜けるクリーンバンディット(DJ SET)ら豪華EDM陣に加えて映画『アナと雪の女王2』でも話題となったノルウェーからの歌姫・オーロラちゃんが降臨!


そして9月19日にはヘッドライナーにトロピカルハウスの伝道師ことカイゴ。その勢いに追随するようにフォロワー数820万人超えのスティーブ・アオキと、2019年のサマソニで異様な盛り上がりを記録したリハブ、極悪EDMを鳴らすデジタリズムにしっとり系フランク・ウォーカー、日本からはきゃりーぱみゅぱみゅが出陣。もはやアーティストの面々を見るに完全にイメージはUltra JAPANだが、正直ここまでの布陣をコロナ禍でも揃えることが出来たクリエイティブマンには感謝しかない。エレクトロフェスとして新たな方向に舵を切ったスパソニだが、この時点であまりにも最高な出だしと言えよう。

 

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前回の記事でも記したように、今年のスパソニは入国人数制限等の問題からロックバンドが激減。具体的にはThe 1975やリアム・ギャラガー、ポスト・マローン、イアン・ブラウン、スクイッド、イージー・ライフらが出演をキャンセルし、そうした措置に伴って今年のスパソニはEDMフェスにシフトした。無論「ロックがいないスパソニなんて」と悲観するファンも多いことと推察するが、問題はそこではない。あのフジロックでさえ全出演アーティストを邦楽勢で固めた今、洋楽アーティストが来日すること自体実に1年半ぶり。輝かしい洋楽の火が再び日本に灯される……そのリスタート的祝祭がスパソニで行われるという意義と信念を、我々は強く噛み締めなければならない。ちなみにクリエイティブマン代表・清水直樹氏自ら「今年のスパソニは3分の2は洋楽、3分の1は邦楽」ということも語っていたので、第2弾以降邦楽アーティストばかりがどんどん決定する可能性もほぼないと見て良い。実際今回発表されていないアーティストで言えば、昨年時点でラインナップされていたトーンズ・アンド・アイやビーバドゥービーといった若手女性アーティストたちは皆出演を快諾してくれている(6月7日時点)らしいので、ここからの第2弾、第3弾アーティストにも期待したいところ(逆に前回ヘッドライナーとして発表されていたスクリレックスは出演キャンセルかなあと思ったりもするのだが、それはそれとして……)。


ここで改めて今年のスパソニをおさらいしておこう。感染拡大防止の観点からステージ数は東京・大阪共にMARINE STAGEオンリーの1ステージで、ソーシャルディスタンスをしっかり保った万全の体制で行われる。キャパシティについても同様に、2019年のサマソニ東京では1日6万人、大阪4万人の来場を見込んでいたものを今年は大幅に抑え、東京では3万人、大阪では2万人の位置付けでほぼ確定。加えてステージ数がMARINE STAGEのみであるが故に今回出演がアナウンスされたアーティストが当日の大枠であり、今後の出演アーティスト発表はないとは言わないまでも、かなり少なくなることは事前に飲み込んでおきたい。もちろんアルコール類の販売はなく、飲食関係や入退場、会場アクセスなどについては今後入念な話し合いの末決定される見込みだ。


繰り返すが、今年のスパソニをどう思うかはそれぞれのファン次第である。ポジティブな話の裏には必ずネガティブな話が潜んでいるように、特に結果として大勢の出演アーティストが発表された代わりに邦楽フェスとなったフジロックと、1ステージでロックバンドが皆無となった代わりに海外アーティストを招致するスパソニとではかなり対極の立ち位置となったため、洋楽ファンの間でも様々な議論が行われそうだ。ただ今年のスパソニは結果、絶対的な成功と感動に包まれるはず……。僕がそう確信したのが、清水氏による以下のメッセージだ。

 

「今日発表した皆が3日間の隔離があっても日本でプレイしたいと快く承諾してくれた熱く、愛すべきアーティスト達です。その熱量を受け入れる準備はできていますか!」


そう。今回の出演者は皆、入国管理措置の観点から入国してからの3日間、ホテルで完全隔離となる。遠路はるばる9時間以上かけて日本にやって来てくれて、観光もせず外食もせず、ひたすら自室で缶詰状態。そこからステージに上がり約40分~1時間のライブをこなすと、即空港へ。何の『来日らしさ』もないまま再び数時間のフライトを経て帰国する……。これほど過酷な長旅をもしも我々がアーティストの立場であれば、どう捉えるだろう。この記事を読んでくださっている方々も一度考えてみてほしい。さすれば「流石に今回は止めとくよ」とするアーティストの気持ちも十分に理解できると思う。しかしながら、彼らはこれを快諾し、日本でライブをする選択肢を選んだ。これがクリエイティブマンと海外アーティストの信頼と言わずして何と言えようか。だからこそ参加する人もしない人も、全ての音楽好きが今年のスパソニに対して叫ぶ言葉は「ありがとう」以外にないと思うのだ。


『SUPERSONIC 2021』は本日をもって、遂に始動する。金銭的にも環境的にも苦境に立たされる中でスパソニに関係してくださる出演者、スタッフ、主催者に心からの拍手を何度でも送りたい。そして是非とも参戦する方々にはこれ以上ないほど万全の感染対策で、自身の行動がフェスの成否を決めることを常に考えながら行動してほしいと強く願っている。さすれば今年のスパソニは、国内フェスの素晴らしい成功例としてバトンを受け渡してくれるはずだから。

 

【ライブレポート】宮本浩次『宮本浩次縦横無尽』@東京ガーデンシアター

こんばんは、キタガワです。

 

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『宮本浩次縦横無尽』……。濃密なライブ体験が終わった後、ふと今回の公演のタイトルを思い出しながら「言い得て妙だな」と感慨に浸った。単独ライブとしては約2年ぶりとなった、東京ガーデンシアターにて行われた宮本浩次の記念すべきワンマンショー。それは『宮本浩次』という人間の圧倒的な存在感を見せ付けた極上のロック空間だった。


定刻になり会場が暗転すると、ステージ前方に薄く張られた紗幕に宇宙とおぼしき映像が流れ始め、次第に宮本が街中を闊歩するワンシーンと共に今までに公開されたMVがそれらの楽曲のリリース日を記しつつ、備忘録のように移り変わっていく。そして映像が途切れた瞬間を見計らうかのように、気付けば紗幕の背後でうっすらと動く複数の人影が。この時点では照明はかなり暗くメンバーの表情は一切視認出来なかったが、ただそんなミステリアスな中で絶大な印象を放っていたのは“夜明けのうた”のMVを彷彿とさせる、温かな光を放つカンテラを持った人物。無論この人物こそ宮本浩次その人であり、次第に脳内で点と点が線になった観客は突発的な拍手で歓迎する。

 


そして拍手が鳴り止み誰もが固唾を飲んで見守る暗がりで、宮本が《夢見る人 わたしはそう dreamer》と歌い始める。そう。1曲目にドロップされたのは“夜明けのうた”だ。ゆるやかな助走から終盤へ向けて突き進むこの楽曲を、宮本は右手でマイクを持ち、左手の親指と人差し指を除いた3本の指でカンテラの持ち手を支えつつ、時に身ぶり手振りを繰り出しながらステージ上で渾身の歌声を届けていく。コロナ禍以後、思えば日比谷野外大音楽堂でのエレファントカシマシとしてのステージや宮本のフェス出演などライブ活動は様々行われてはきたものの、日々深刻さを増すコロナの状況を鑑みて参加を断念した、という経験をしたファンは少なくなかったはずで、それらのファンは必然、長らく宮本の活動を音楽番組やメディア等で応援することしか出来なかった。そんな集まった観客に向けて届けられた《会いにいこう わたしの好きな人に》とのフレーズには、思わず胸が熱くなる。


極め付きは一際熱量を増すラスサビで、《ああ 町よ 夜明けがくる場所よ》との宮本の歌唱と同時に紗幕が下部から徐々に引き上げられると、遂にその全貌が明らかとなった。夜明けの映像がステージ後方のVJに映し出されつつ、バックバンドには事前にアナウンスされていた小林武史(Key)、名越由貴夫(Gt)、キタダ マキ(Ba)、玉田豊夢(Dr)ら宮本が信頼するプロミュージシャンが顔を揃え、その中心で歌う今まで薄ぼんやりとしか見えていなかったこの日の主人公たる宮本はどこか自信たっぷりのようにも、久方ぶりの単独ライブを噛み締めているようにも見えた。ラストのアウトロ部分で手を振りながら「エブリバディ!」と叫んだ宮本に、観客は同じように手を振って答える。……この瞬間紛れもなく、ライブの成功は確約された。


この日のライブはエレファントカシマシの単独ライブでもほぼ例外なく行われる通り、第1部と第2部に分けた構成で進行。取り分け第1部に関してはソロデビューアルバム『宮本、独歩。』と女性アーティストのカバーアルバムにして宮本にとって初のオリコン1位獲得作となった『ROMANCE』の楽曲から多く披露され、ソロになったことでより広がりを増した音楽性と変わらない求心力を存分に体現した代物となった。注目はNHK音楽番組での歌唱でも話題となったカバーアルバム『ROMANCE』の楽曲群で、『宮本浩次名義のライブ=ROMANCEの楽曲もやる(だろう)』との認識さえあれど、やはりカバー曲が単独ライブにどのように組み込まれるのか、予測不能な感覚はあったが、結論から書くと第1部の全16曲のうち『ROMANCE』からは6曲が披露された。中でも彼の音楽に対する真摯な姿勢を表していた真髄的シーンのひとつが、よもやの2曲目という超序盤の出順で投下された“異邦人”だろう。

 


ライブにおける宮本は曲ごとに一見何をしでかすか分からない荒々しい雰囲気を纏いながらも、しっかりと地に足着いたパフォーマンスを行うことは広く知られている。実際今回のライブでもソロ曲では正に『縦横無尽』かつ本能的にステージ上を動き回りつつも、ひとつひとつの歌詞を丁寧に歌い上げる場面が多かった印象を受けたけれども、対して『ROMANCE』収録曲の歌い方にはそこにアーティストへの最大限のリスペクトが加わっていたように感じた。思わずゾクゾクしてしまう宮本の咆哮から幕を開けた“異邦人”はそんな『冷静』と『爆発』という宮本の二面性を上手くハイブリッドしたステージングに終始していて、宮本は《子供たちが空に向かい 両手をひろげ》では弧を描くように両手を広げ《祈りの声 ひずめの音》では祈るように、他にも“ちょっと振り向いて”みたり、ステージセットに“身体を預け”てみたりとまるで楽曲と一体化したような歌唱で魅せ、ラストは倒れこみそうになりながら幾度も絶唱。未だライブは2曲目だが、宮本は早くもフルスロットル。全身全霊で素晴らしき言霊を届けていく。


その後も勢いそのままに、ラップをベースに宮本の新境地を開拓した“解き放て、我らが新時代”、道路をモチーフにしたVJでもって我が道を行く信念を体現した“going my way”、ベストマッチな小林によるキーボードの演奏と宮本の歌で会場の空気を完全掌握した“きみに会いたい -Dance with you-”を続けざまにプレイ。おそらく今までの環境ならば「ミヤジー!」を筆頭とした喜びの声が会場の至るところで発せられること間違いなしの最高のライブなのだが、宮本は声が出せない代わりに強く拍手を鳴らす観客を見渡しながら「みんなの気迫が届いてますよエブリバディ!」とご満悦。その言葉を聴いて更に勢いを増す拍手の音……。あまりにも最高の環境だ。

 


“きみに会いたい -Dance with you-”の演奏を終えしばらくすると「みんなにもとっておきの良い曲たくさん用意してきましたんで、最後までリラックスして心熱く燃え上がって、楽しんでくれエブリバディ!」と叫んだ宮本。この日のために用意された『ROMANCE』のCDジャケットを模したセットに触れると、改めて今回のバンドメンバー4人をひとりひとり紹介していく。宮本いわく『ROMANCE』のレコーディングの大半を共に制作したのが宮本を含めたこの5人であったと振り返り、ここからは『ROMANCE』の楽曲を連続で届ける通称『ROMANCEコーナー』に雪崩れ込みだ。ここで披露されたのは“二人でお酒を”、“化粧”、“ジョニィへの伝言”、“あなた”という往年の名曲たちで、ここまでのアッパーな楽曲群とは対極を行くしっとりとしたナンバーで魅了。魂で歌うシンガー・宮本浩次のポテンシャルの高さを遺憾なく発揮する感動的な歌唱に観客は皆一様に手拍子をするでもなく、静かに聴き入っている。それは音楽に『耳を凝らす』というより言うなれば『耳を奪われる』類いの感覚に近く、極上の音楽体験ここにあり!な凄まじい一体感があった。


ドラマ主題歌。アダルティなミドルチューン。『ROMANCE』楽曲。パンクソング。コラボ曲……。奇しくも第1部における後半は、現時点での宮本のソロ活動を網羅するような幅広い楽曲が展開された。そんな曲調も内容も全く異なる楽曲群を聴いて改めて思ったのは、宮本の紡ぎ出す言葉はいつも根底に『肯定』があるということだ。それは何も宮本が度を越してポジティブな人間であるとか、考え無しのイエスマンであるとか、そうした意味ではない。例えばの話だが、今しがた自販機で購入したお茶をスーツ姿の男性が一口飲み、去っていく。このシーンひとつ取っても自然と「頑張ってるなあ」あるいは「ファイトだぜ」と思うことの出来る、そんな人間性を指した肯定だ。“冬の花”で描かれる悲しみを背負った主人公も、“Do you remember?”でガードレールに踞る男も……。決して「前向きに生きようぜ!」ではなく、言わば当人の話を全て受け止めた後に肩を叩いて「何かあれば力になるよ」と言い残して去っていくような優しさがある。それは無論宮本が今までに様々な経験をしてきたからで、同時に様々な経験を積んだ宮本が発する言葉だからこそ我々は彼の言葉にいたく感動し、力をもらい、明日への活力とすることが出来るのだ。

 


そんな宮本の優しき精神性がこの日いち爆発したのが、第1部の最後に披露された“P.S. I love you”であったように思う。“P.S. I love you”はタイトルのみを見ればストレートなラブソング。ただその実、この楽曲で歌われるのは悩みながらも日々を生き抜いている『あなた』に送る人間讃歌である。宮本は「俺がついてる」と言わんばかりの頼もしさを携えて観客を包み込むように頻りに手を広げ、時には脱ぎ捨てた白シャツをおもむろに肩に乗せたり、2曲前に披露された“冬の花”で演出として舞い散った赤い花びらを拾って撒いたりと無邪気な一面も。なおそうした中にも圧倒的な歌の力は確かに宿っていて、サビ部分では《立ち上がれ がんばろぜ バカらしくも愛しき ああこの世界》と聴く者を強く鼓舞していく。……これまで幾度も友人や家族から聞かされてきた「生きていれば良いことがある」などという軽々しい言葉とは違い、そんなリアルを全て見据えて「悲しいことは起こるよ。辛いよなあ。でももうちょっと歩いてみようぜ」と日々を間接的に肯定し生の価値をつまびらかにする宮本の言葉は、何よりも強く心の奥底に刺さる。


「ありがとうエブリバディ!1部終了です。遠くない時間にまた会おう!」と宮本が語り、これにて第1部は幕引き。しかしながら興奮冷めやらずといった具合の会場全体が一丸となった拍手が直ぐ様巻き起こり、本当に『遠くない時間』に再びメンバーが呼び込まれての第2部は『NHK みんなのうた』に書き下ろした新曲“passion”からスタート。第1部が『ROMANCE』とソロ曲を軸としていたのに対して、第2部はソロ曲にエレファントカシマシの楽曲を上手く織り混ぜたライブ後半に相応しいアッパーなライブアンセムを連続投下し、全曲がハイライトと言っても差し支えない盛り上がりを記録。

 


その中でも多くの驚きと共に迎え入れられたのは、エレファントカシマシのナンバー“あなたのやさしさをオレは何に例えよう”だったのではなかろうか。楽曲制作に常に全力で向き合う宮本。故に「彼の楽曲に捨て曲無し」とはファン誰しもが感じてはいながらも、その実活動歴が長くなればなるほど過去に演奏されてきた楽曲がセットリストから外されることもその多くが経験してきたはず。実際この日披露されたエレカシ曲もこれまで“悲しみの果て”や“ガストロンジャー”、“今宵の月のように”といったバンドの名を広く知らしめた楽曲が多かったが、ここにきてよもやよもやの“あなたのやさしさ~”である。レア曲を多数披露することでも知られる毎年恒例の日比谷野外大音楽堂公演の際もこれまで演奏されることはなかったこの楽曲のイントロが鳴らされると、フロアは歓喜に沸いた。


宮本はスポットライトに照らされながら、ステージを右へ左へと忙しなく動きながらも安定した歌唱で魅せ、果てはドラムセットの更に背後まで回り込んで高らかに歌声を響かせる。楽曲後半にはこの日のバンドメンバーが各自ソロを繰り出す一幕もあったが、宮本はその都度「ミュージシャンって格好良いー!」「(ドラムを指して)俺も子供の頃なりたかった!でもこんな凄いヤツがいた!」など思わず恥ずかしくなってしまうほどの熱量で大絶賛。最後は宮本による「エブリバディ!レッツゴー!」の叫びと共に、信頼の証とも言える熱い紹介により結果的に原曲と比べてもかなりの長尺となった“あなたのやさしさ~”のラスサビをステージ上の全員が『五位一体』に奏でる圧巻の展開に震える。

 


宮本が裏声を多用して限界突破の歌唱となった“昇る太陽”を経て、ライブはいよいよクライマックスへ。「届いたと思う、俺たちの思い。そしてみんな、素敵な日がやってきますように!エブリバディ!」と叫んで雪崩れ込んだのはソロ・宮本における随一のキラーチューンたる“ハレルヤ”。背後にはMVでも幾度となく出現した宮本直筆の歌詞の数々が観客の心の熱唱を誘うように踊り、ぐんぐんと熱を帯びていくサウンドをバックに宮本は、その暑さからかシャツを第4ボタン付近まで開けたある種妖艶なスタイルで熱唱に次ぐ熱唱。前屈みになるあまりつんのめりかけたり、その思いを観客に届けんとぐんと背伸びをしながら歌う彼の姿は泥臭く、そして何よりも格好良かった。


完全燃焼に近いステージングを経てこれで終わりかと思いきや、まだライブは終わらない。「大好きだぜー!エブリバディ!」と宮本が観客に感謝の思いを叫んでの正真正銘最後の楽曲はもうひとつの新曲“sha・la・la・la”。おそらく先日行われた春フェス『JAPAN JAM 2021』に参加していた観客以外はライブで初見の楽曲だったはずだが、サビ部分では観客の何人かが本能的に行った弧を描いて腕を振るアクションが次々に波及。バックには満点の星空の映像が流れ、あまりにも幻想的な空間に目を奪われる。意図してのことなのかは不明だが《大人になった俺たちゃあ夢なんて口にするも照れるけど/今だからこそめざすべき 明日があるんだぜ》と夢について綴られる“ハレルヤ”と対になるように、夢を追い続ける人間の美しさをより直接的に描いた“sha・la・la・la”が続けざまに鳴らされたのもまた素晴らしく、未来を見据えて奮闘する人間へのポジティブなメッセージとして、力強く響き渡っていた。演奏終了後、メンバー全員が横並びになって感謝を表した宮本バンド。ステージから完全に見えなくなるその時まで、宮本が最後まで掌をメンバーに向け、最大限のリスペクトを表していた光景はおそらく一生忘れないだろう。

 


……宮本について語るとき、開口一番に彼の音楽的一面を押し出す人はとても多い。SNSが発達し、アーティストの楽曲以外の側面がフィーチャーされることがほぼ当たり前となった今の時代でも、だ。その理由は明白で、彼の音楽に対する思いを我々は楽曲を、ライブを、インタビューを通してしみじみと理解しているためである。年は自身の作業場でのオンライン配信だったが、今年はそのリベンジとばかりに見事有観客で行われたバースデーライブ。人間として円熟味を増し、ソロとしての確かなキャリアを積んだ今年は更にカバー曲、コラボ曲など様々な角度から楽曲を放ちつつも、そのどれもが不思議と宮本色に染まるという、宮本を宮本たらしめる魅力をまざまざと見せ付けられた一夜だったように思う。


人生は楽しいこともあれば悲しいことも当然起こる。けれども宮本の音楽が側にさえあれば、おそらくは大丈夫だ。アンコールのラスト、お馴染みの「お尻出してプッ」を完全に忘れて去っていく笑顔の宮本の宮本を思い出しながら、僕はそう強く思ったのだった。


【宮本浩次@東京ガーデンシアター セットリスト】
[第1部]
夜明けのうた
異邦人(久保田早紀カバー)
解き放て、我らが新時代
going my way
きみに会いたい -Dance with you-
二人でお酒を(梓みちよカバー)
化粧(中島みゆきカバー)
ジョニィへの伝言(ペドロ&カプリシャスカバー)
あなた(小坂明子カバー)
shining
獣ゆく細道
ロマンス(岩崎宏美カバー)
Do you remember?
冬の花
悲しみの果て
P.S. I love you

[第2部]
passion(新曲)
明日以外すべて燃やせ
ガストロンジャー
今宵の月のように
あなたのやさしさをオレは何に例えよう
昇る太陽
ハレルヤ
sha・la・la・la(新曲)

[アンコール]
新曲(配信無しのため本文記載せず)