キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】バックドロップシンデレラ・八十八ヶ所巡礼『2ndカヴァーアルバム「よりいろんな曲でウンザウンザを踊ってみた」リリースツアー』@広島CAVE-BE

こんばんは、キタガワです。


確かに事前情報として、最強のロックバンド・バックドロップシンデレラが対バンツアーを行うと知った時点で忘れられない1日は確約されていた訳だし、チケットが早い段階でソールドアウトした事実を知っても、特に驚きはなかった。ただ正直ここまで素晴らしいライブになることもまた、想像していなかった。以下対バン相手に盟友・八十八ヶ所巡礼を招いて行われた去る広島ライブ、その全貌に迫る。

 

f:id:psychedelicrock0825:20220411015027j:plainまず先行はプログレ界の異端児、八十八ヶ所巡礼。これまで彼らは何度も広島に訪れてくれていて、その際の会場はほぼ例外なく広島4.14というライブハウスだったが、今回は珍しく別の会場。もちろんそんな一風変わった形での彼らに期待する人続出で、対バン式のライブで最初に参加者に尋ねられる「今日はどのバンドを見に来ましたか?」とする質問に「八八です」と答える人はかなり多く、実際会場に入ると彼らのバンドTシャツを着用する人多数。


ステージが暗転するとKenzooooooo(Dr)、Katzuya Shimizu(G)、マーガレット廣井(Vo.B)の順にメンバーが登場。Kenzoooooooはもちろん鍛え上げられた肉体的を見せ付けるように上半身裸で、Shimizuは真っ赤な衣装で今回はサングラスなし。そして廣井は黒を貴重としたヘソ出しファッションで、念仏がびっしりと記された腕でヘッドレスベースを構えると、SNSで自身をアルコール依存症と自虐することも多い彼らしく、ステージドリンクとして持ち込んだ一升瓶を掲げて一気にラッパ飲み……。もはやこの時点で情報量がとてつもないが、そんな非日常的な光景さえもどこか「八八のライブを観に来た!」という興奮へと繋がっていく。

八十八ヶ所巡礼 「攻撃的国民的音楽」 - YouTube

 

そして「ドキドキしてますか!」と絶叫すると、その興奮とは対象的にライブハウスの熱量をいきなり沸点に持っていくことが如何に難しいことを話す廣井。個人的にはこのMCから漠然とオープナーは“怒喜怒気(ドキドキ)”だろうと考えていたのだが、「徐々に温めていこう。貴様らのための攻撃的国民的音楽」との一言から雪崩れ混んだのはまさかの最強ライブアンセム“攻撃的国民的音楽”!気だるげな廣井のベースラインを経てShimizuがバカテクギターを弾き倒した瞬間、ライブハウスはまさしく興奮の坩堝と化した。目の前で繰り広げられているのはおよそ世間一般的なロックバンド然とした理解の遥か上……というより理解不能なそれであり、全体重を乗せて打ち鳴らすKenzooooooo。「ぶっ殺せー!」と叫んで妖艶な歌声を響かせつつ、同時にブリブリベースを弾く異様な廣井。見たことも聴いたこともないような速弾きをほぼ手元を見ずに弾きまくる(!)Shimizuのアンサンブルは何度見ても、音楽の教科書から逸脱し過ぎている。しかもそれが何故かしっかりロックとして成立している不思議さも魅力。徐々にどころか圧倒的な盛り上がりを見せ、ライブの熱量は増加の一途を辿る。

JOVE JOVE / 八十八ヶ所巡礼 - YouTube


思考が追いつかないままライブは“幽星より愛を込めて”、“JOVE JOVE”、“極楽いづこ”と続いていく。結果として今回の八八のセットリストは意図してのことなのかは不明にしろ、マイナー曲を多く配置する一風変わったものだった。けれども興奮が損なわれることは全くなく、むしろどんどん熱量を増幅させていく最高の空間だ。MCではバックドロップシンデレラと3日間に渡ってツアーを回ることの出来る喜びを噛み締めていた彼らだが、何とリスペクトのあまり今回Kenzoooooooは鬼ヶ島一徳と同じドラムを。Shimizuは豊島“ペリー来航”渉、廣井はアサヒキャナコのアンプ配置と全く同じという、バックドロップシンデレラメンバーと敢えて被せたライブ形にしていることが判明。ちなみにその間も廣井は一升瓶をあおりまくり、Shimizuは真正面を睨みながら直立不動。そのどこまでも『映える』佇まいには、思わず見惚れてしまう程。

八十八ヶ所巡礼/金土日 - YouTube


この日のハイライトは紛れもなく、中盤に披露された“金土日”。グルーヴ感溢れるイントロがぐるぐる回るカオスな幕開けから雪崩込んだ“金土日”は明らかにCD音源の3倍近い長さにアレンジされたライブverであり、《やってる意味のないことが大切 僕なりに頑張ってる》のフレーズを「貴様らも」「ライブハウスも」「CAVE-BEも」に変えながら、果てはライブハウスの困窮とは対象的に安全圏で利権を貪る政治家を指し《やってる意味のないことが大切 イジワル金持ちジジイ》と言語攻撃する一幕さえも、彼らの本心を見た感覚があり更にヒートアップする感覚さえあった。


そして廣井がセットリスト進行を盛大に間違える一幕を経て、ライブはクライマックスへ。“絶妙Σ(読み:絶妙シグマ)”でShimizuが背面ギターでバクシンの“台湾フォーチュン”のリフを弾き倒す再現不能な離れ業が炸裂したところで、最終曲は“怪感旅行”。これまでライブの定番とされてきた“具現化中”でも“日本”でも“仏狂”でもない、これまた予想外の選曲だったが、こうした反骨精神も実に彼ららしく好印象。ラストは異様なギターソロを天井を見ながら弾くShimizuとベースラインをぶちかます廣井が背中合わせで演奏し、全ての観客の視線を一身に浴びた彼らは最後までその存在感を緩めることなく、ステージに立ち続けた。時間にして僅か45分。けれどもその満足度は計り知れないものがあった。

 

【八十八ヶ所巡礼@広島CAVE-BE セットリスト】
攻撃的国民的音楽
幽星より愛を込めて
JOVE JOVE
極楽いづこ
金土日
絶妙Σ
怪感旅行

 

f:id:psychedelicrock0825:20220411015138j:plain

八十八ヶ所巡礼ならバトンを受け継ぐのは、もちろん我らがバクシン。暗転後、視界を遮っていたスクリーン(注:バクシンの対バンライブでは基本的に転換は観客から一切見えないよう配慮されている)が廃されると、エミールクストリッサ & ノンスモーキングオーケストラによるお馴染みのSE・“UNZA UNZA TIME”が流れ出す。もはやバクシンを熟知している観客たちが手拍子で盛り上げる中、豊島“ペリー来航”渉(Vo.G.Cho)、アサヒキャナコ(B.Cho)、鬼ヶ島一徳(Dr.Cho)が登場。1曲目はここ数年不動の位置を貫く“たいやき”であり、かの“およげ!たいやきくん”と同様の節回しで、豊島はこの1週間で5本という通常あり得ないペースでライブをこなした結果、この日のリハーサルでは全員のテンションがとてつもなく下がっていたことを謝罪。しかしながら本番が近付くにつれてどんどんやる気が高まっていたとも語った豊島、そのままでんでけあゆみ(Vo)がステージにシュババと現れると“祝え!朝が来るまで”をドロップする。バクシンと言えば、その振り切ったパフォーマンスが魅力のひとつ。無論この日も初っ端からフルスロットルで観客を煽り、レスポンスを求め、そして何より継続して踊らせるアグレッシブさが気持ち良い。

バックドロップシンデレラ/台湾フォーチュン - YouTube

 

続いてはここで来たか!の“台湾フォーチュン”で、まるでトランポリンを使っているように錯覚する高さまで飛び上がるでんでけあゆみを観て、改めてバクシンのライブに来ている実感を得る。今までのようにモッシュやダイブはないけれど、決して失われない熱量。それはきっと、彼らがライブバンドとして前を見続け活動してきた地力が成し得るものなのだろう。……その他、今回のセットリストはカバーアルバム『よりいろんな曲でウンザウンザを踊ってみた』リリースツアーということもあり、基本的には同アルバムを軸に構成。“チキ・チキ・バン・バン”や“買物ブギー”、“オゾンのダンス”といった往年の世界的名曲を彼ら流の味付けで披露する様はとても面白く、敢えてニッチな選曲ながらも、楽曲をあまり知らない我々のような20〜30代が「原曲聴いてみようかな」と素直に感じる、素晴らしいアレンジが光る。

 

中盤のMCでは、まず豊島がメンバーを笑顔で一喝。どうやら彼の発言はやはり5連チャンライブの影響で全員のテンションが下がっていることが一因のようだったが、話は徐々にマイペースに移行。次第に宿泊先のホテルの屋上の風呂で休んだ話や、豊島の別バンド・韓流セレブレイトのメンバーが小麦アレルギーでラーメンを食べられない話、アサヒキャナコが先日のライブで“みずいろの雨”を披露したところ「もう絶対やらない」と断言する程の悲劇が待ち受けていた話を展開。その都度腰砕けになって爆笑するでんでけあゆみとの対比が面白く、会場全体にゆるーい空気が広がっていたのは言うまでもあるまい。

バックドロップシンデレラ『免許とりたい』 - YouTube

 

その後も矢継ぎ早に披露される楽曲群。豊島の50年ぶりの免許取得に意気込む“免許とりたい”やフェス出演志願ソング“フェスだして”、ロシアの隠蔽工作が連日報道される中での“国家の不正を暴きたい”……。彼らの楽曲制作はその時々に実際に体験した出来事や疑問がテーマになっていることが多く、それは誤魔化しのきかない本心。だからこそ飾らない叫びは我々の心を強く動かすのだ。そんな彼らのストレートな思いが爆発したのは、紛れもなく終盤で披露された“2020年はロックを聴かない”だろう。言わずもがな、“2020年はロックを聴かない”とする真意は新型コロナウイルスの蔓延によりライブシーンが完全停止し、彼らの足取りも同様に止まっていたことを指している。そして年月は経ち2022年現在のライブシーンはどうかと言うと、まだかつてのようなライブは難しいものの、少しずつ動き始めている。故に“2020年はロックを聴かない”は、ある意味でのライブシーンの復活を願うエールである。彼らはまるで何かを訴えかけるように荒々しく、対照的に我々は歌詞のひとつひとつを噛み締めながら踊り続けた。

【LIVE】バックドロップシンデレラ『さらば青春のパンク』 - YouTube

 

恒例の《踊るやつがエライのだ それがここのルールさ》との中毒性溢れる“月明かりウンザウンザを踊る”の果て、鳴らされたラストソングはバクシンの定番アンセム“さらば青春のパンク”。幾度も繰り返されるでんでけあゆみの跳躍と観客のヘドバン……。この光景を思わず『美しい』と感じてしまった理由は、きっとこの場にいた全ての人なら分かるはず。何故ならそれは、我々が長らく辛い世の中でイメージし続けたバクシンのイメージそのものだったから。最後までライブハウスを守り続けたバクシンは、様々な規制がある中にも関わらず本当にいつも通りバクシンらしく終わってくれた。やっぱりライブは何度考えても不要不急ではないなと、改めて思った最高の一夜だった。

 

【バックドロップシンデレラ@広島CAVE-BE セットリスト】
たいやき
祝え!朝が来るまで
台湾フォーチュン
チキ・チキ・バン・バン
免許とりたい
フェスだして
BREAKAWAY
国家の不正を暴きたい
買物ブギー
オゾンのダンス
魔がさした夜空に
YONOSSY CALLING 〜よのっしーの7日間戦争〜
少年はウンザウンザを踊る
サンタマリアに乗って
2020年はロックを聴かない
月あかりウンザウンザを踊る
さらば青春のパンク

[アンコール]
本気でウンザウンザを踊る