キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼・執筆実績はこちらからお願い致します。https://www.foriio.com/kitagawanoblog

【ライブレポート】DNA GAINZ・ネクライトーキー『TOUR -発展土壌-』@心斎橋Pangea

これまで幾度もライブレポート関係を執筆しているけれど、今回のDNA GAINZのメンバーに対しては個人的な縁を感じている。彼らにインタビューを敢行したのは、今から約2年前。偶然耳にした“Sound Check Baby”を聴いて、えも言われぬ感動を覚えたことがきっかけだ。当日話した内容についてはこちらの記事に詳しいが、少しでもインタビューの間が空くと、その日のスタジオ練習の反省会をしたり、次のライブに向けてアイディアを出し合ったりと、とにかく「俺たちは本気で売れてやる!」という強い気概を感じたのが印象的だった。

以降も彼らは歩みを止めることなく、ファーストアルバム『私たちいい子で信じる力を散々使って生きている』やEP『DNA STATION』といったリリースを重ね、満を持して生活拠点を島根から東京へと移した。そして今回新作シングル『HEARTBEAT』を携えて、更なるDNAの増幅のため全国行脚に繰り出すに至ったのである。大阪の対バン相手として選ばれたのは、全国規模で絶大な人気を誇るネクライトーキー。島根の大学祭で共演したのがそもそもの始まりだそうだが、今回ツアーを開催するにあたってネクライトーキー側にコンタクトを取ったところ、快諾に至ったとのこと。ライブのMCで朝日は「DNA GAINZ、めちゃくちゃ格好いいんですよ」と語っていたけれど、憧れの相手に依頼をし、またその側もバンドの本気度を評価してOKする……という横の繋がりで動く関係性は、本当に凄いなと。

 

主催側がラストなので、先行は必然的にネクライトーキー。水滴や鈴、炭酸水など様々な音がサンプリングされたSEに乗せてもっさ(Vo.G)、中村郁香(Key.Cho)、カズマ・タケイ(Dr.Cho)、藤田(B.Cho)、朝日(G.Cho)の順に登場すると、1曲目に披露されたのは“魔法電車とキライちゃん”。至近距離で鳴らされる爆音が迫ってくる衝撃はもちろん、各所にダダダダっと全員が合わせて音を鳴らす場面もあり耳が心地良くなる感覚にも陥る。一方バンドメンバーは早くも前傾姿勢での演奏を展開していて、全編通して抜かりなく進む彼らのスタンスを体現しているようにも思えた。

ニューEP『モブなりのカンフー』を携えて全国ツアーを控えているネクライトーキー。一方でこの日のセットリストは昨年リリースしたアルバム『TORCH』から多くが選出され、それらを先述の“魔法電車とキライちゃん”と“ティーンエイジ・ネクラポップ”の石風呂(朝日のボカロP名義)楽曲がサンドイッチする珍しい作りに。なお余談だが、“北上のススメ”が海外を中心にバズを広げたためかフロアのファンの約2割は海外勢で、楽曲が始まった瞬間にフェスレベルの歓声が上がっていたのも特徴的だった。

もっさが高らかに歌い上げたロックアンセム“bloom”、全員が左右に頭を動かしてリズムを取った“北上のススメ”、朝日がトレモロアームでギュイーンと鳴らす一幕が印象深い“悪態なんかついちまうぜ”と続き、ここでこの日初の長尺のMCへ。先程まで鬼気迫る演奏を繰り広げてきた朝日は一転、ボソリとトーンを落としつつ「DNA GAINZ……最近めっちゃ好きなんすよ。なんかこう、渦みたいなエネルギーを感じるというか」とベタ褒め。続くもっさは「初めて対バンをやったのは島根の大学祭で。その時に『凄いバンドがいるな』と思っていたんですけど、あれから1年後に私たちの地元の大阪にゲストで呼んでもらって。ありがとうございます」と感謝を述べる。しかし一度トークが停滞するとフニャフニャになるのはネクライトーキーらしさで、以降はもっさがポツポツと話すも、そのたびに空白の時間が到来。耐えかねた朝日が「え?泣いてる?」とボケたり「泣いてへんよ!何で?」ともっさがツッコんだり……と紆余曲折ありながら、次なる楽曲“涙を拭いて”に進んでいくのだった。

この日の1時間セットは先述の通り、彼らのキャリアの中でも比較的マイナーな楽曲が多くドロップされた。とりわけライブ然としたパワーを感じたのは、サイケ楽曲の“浪漫てっくもんすたあ”。リズミカルに《不思議な気持ちになったわ ずっとムカついてたぜ》と歌われる開幕から、中村のキーボードと朝日の飛び道具的ギターが牽引しながら進む様は一見カオス。ただどこを切っても息がピッタリ合っている……という不思議な面白さがあり、キャッチーなサビで盛り上がった瞬間には「これこそネクライトーキーだなあ」などと思ったり。ふと周りを見ると爆笑している外国人や、腕を振り上げるスーツの男性など様々で、強い求心力を感じたのは個人的にこの一幕だった。

“こんがらがった!”を終えると、ここで再度のMC。「ライブで、同期(パソコンから様々な音を出す手法。音数が多くライブで再現不可な際に使われることが多い)を使うバンドがいるじゃないですか。いろんな意見があると思うんですけど、僕はそういうバンドは……嫌いです。でもDNA GAINZは全部自分たちの楽器で人力で再現してて、そこに矜持を感じます」と朝日が語り、「前回は大学祭で野外だったんですけど、今日は室内なので。どんな感じのライブになるか楽しみにしてます」ともっさ。改めてDNA GAINZの音楽に対して評価を告げると、こちらもまた「これ、ミャクミャク?何かぐにゃぐにゃしてる……」とPangeaのステージの背景をいじり倒し、「ネクライトーキーで一番まっすぐな曲やっていいですか!」と“ちょうぐにゃぐにゃ”、新曲の“モブなりのカンフー”をドロップする彼らである。

そしてこの日最も盛り上がったのは朝日が「ファーイブ!」と叫ぶのを契機に、全員のカウントダウンで始まった代表曲“オシャレ大作戦”。ジャン!と鳴るサウンドに合わせて正拳突きをするもっさ、サビはもちろん大合唱……と印象的な光景が広がり、もっさが「ドラムス、カズマ・タケイ!」「キーボード、むーさん!」と促してのドラムとキーボードソロでは前方のファンが何を示し合わせるでもなく中腰になり、各自のソロを見やすくしていたのも面白かった。ちなみにサビの《渋谷でへヘイヘイ》はライブ会場に合わせて変更されるのだけれど、今回は《アメ村へヘイヘイ》でした。

これまでネクライトーキーのライブは基本的に“遠吠えのサンセット”で締め括られることが多く、実際これまで僕が参加した数あるライブでも例外なくこの楽曲がラストだった。けれども「最後の曲です!」ともっさが叫んで始まったのは“ティーンエイジ・ネクラポップ”!よもやの選曲に驚く我々をよそに、楽曲は凄まじい勢いで進行。当時20代でボカロP・石風呂として活動していた朝日は、若い頃の葛藤からこの楽曲の歌詞を《例えばここでもし 僕の歌がもし 突然流れ出したとして/この中の何人が足を止めてくれる 考えたくないんだけど》と記したが、ネクライトーキーがセルフカバーをする形で今、ここまで多くの人に聴かれていることには思わずグッと来たりも。集まったファンをひとり残らず笑顔に変えたネクライトーキー、最後は「次はDNA GAINZです!」ともっさが叫んで、約1時間のライブを完璧に終えたのだった。

【ネクライトーキー@心斎橋Pangea セットリスト】
魔法電車とキライちゃん (石風呂セルフカバー)
bloom
北上のススメ
悪態なんかついちまうぜ
涙を拭いて
あべこべ
浪漫てっくもんすたあ
こんがらがった!
ちょうぐにゃぐにゃ
モブなりのカンフー
オシャレ大作戦
ティーンエイジ・ネクラポップ (石風呂セルフカバー)

 

ネクライトーキーが場を完全に温めたところで、次なるバンドはDNA GAINZ。朝日も先程のMCで彼らが同期を使わないことに言及していたが、セットが組まれるにつれサンプラー、拍子木、シェイカー、チャフチャスといった楽器が様々に配置されていく。その様を見ていると「本当に全部人力なんだなあ」と実感するし、今や同期を使えば何でもCD音源を再現出来るライブシーンで、このスタイルに行き着いた無骨さを評価したい気持ちにも駆られる。

BGMにThe 1975が流れ続ける空気に陶酔していると、緩やかに暗転。『DNA GAINZ』の声がサンプリングされたSEに導かれてステージに立ったのは、ながたなをや(Vo.G.Sampler)、はだいぶき(B.Cho.Per)、達也(G.Cho.Per)、宏武(Dr.Cho.Per)の4名で、既に盛り上がったフロアを見て一様にニヤリ。しばらくすると背後を向きながら恒例儀式となるポーズを取り、精神統一を図るながた。このライブハウスから発展途上……いや『発展土壌』の幕は上がるのだ。

ライブは昨年リリースした『DNA STATION』の“Loop!!!”から。《OK》や《YEAH》のレスポンス、体を揺らす、《負けない気持ち》の一節では多くの腕が上がるなど、ここ数年でかつて以上にライブ活動を関東圏に広げ、愚直に動員を増やしてきた彼らだからこそ培われた信頼感が早くも見えるフロアである。一方でDNA GAINZにとってはこの日が飛躍の一歩であるため、鬼気迫るライブになるかもと思ってはいたのだが、メンバー全員が本当に楽しそうに演奏していたのが印象的。「俺らここまで来たんだぞ!」という感慨深さすら感じたし、ふと真横を見ればネクライトーキーの朝日ともっさがフロアで真剣に彼らの演奏に目を凝らしていて、彼らの歩みが確かに伝わっている事実も感じた。

この日の彼らのセットリストは、現時点でのベストを見せ付ける形。これまでのライブでキーを担っていた楽曲はもちろん、試行錯誤を繰り返した新作からも多数披露され、何度も印象が変わっていくような千変万化なサウンドに身を委ねる1時間となった。また正直なところ今回の大阪会場の特性上、この場所をホームとするネクライトーキー目当てのファンが当初は多かった印象ではあった。しかしながらライブが進むにつれそうした人々を『喰っていく』感覚というか、1曲おきにどんどん観客を巻き込んでいったのが本当に凄まじかった。事実終演後、海外の人を含め『DNA GAINZ』の単語を様々な場所で聞いたし、ネクライトーキーもXにて全員が絶賛していた。それほど今回のライブが圧倒的だった証左だろう。

増し増しの音圧で駆け抜けた“PARADISE HELL”、ながたの絶唱が心震わせた“ラフラブ”と続き、次なる楽曲は新曲たる“HEARTBEAT”。サンプラーにより《Dancing Beat》のフレーズとながたのボイスパーカッションがループする幕開けから、ながたは左手でサンプラーのONOFFを切り替えながら、時にはギター、時にはゆらゆら踊ったりと目にも楽しい動きで盛り上げにかかる。それこそ世のバンドがなぜ同期を多用するのかと言えば、こうした忙しなさを効率化させた結果でもある。しかしながら『今のリアルの音』を具現化するこのスタイルは目にも楽しいし、これこそが彼らなりの美学なのだ。

“骨”を終えての初のMCで、ながたは「今回の『発展土壌』っていうタイトルは、地中にある微生物とか骨とか、いろんなものを取り込んで、地中から芽が出て。それがまた別のものに繋がって続いていくっていう。そういう思いで付けました」と語っていた。対バンイベントでバンドのコミュニティの種を撒き、我々ファンが曲を聴いて水をやり、やがて大きな飛躍として発芽する……。その土壌としてあるのがDNA GAINZであるし、そもそも土壌がなければ種や芽は育たないのだ。やはりここまで育ってきたのは、土壌自体がすこぶる良いものになっているのは間違いない。

熱量を保ったライブは、願いを乞うように希望を伝えんともがく“神龍”、飾らない気持ちを伝えた“巣ニナル”、再びサンプラーを多用した“愛の衝突”、と間髪入れず続いていく。途中力一杯ストロークしたためにながたのギターの弦が切れる一幕もありつつ、遂にかねてよりの代表曲“GOLD HUMAN”へ。中でも感動したのは冒頭に、本来であればながた単独で歌う《愛を知ってる 愛してる/愛の形はハートじゃない》のフレーズをファンが大合唱していたこと。宏武が絶叫しながらドラムを叩きまくる他、後半ではBPMが一段階上がりメンバーが前傾姿勢で熱を高めていくのも本当に素晴らしく、これらを指して「これまでの大阪で一番元気ですね。DNA GAINZ大阪支部、これからも宜しくお願いします」とながたが思わず語ってしまうほど、彼らの歩んできた道のりの大肯定がそこにはあったように思う。

最後に「アンコールありません」と淡々と告げたながた。正真正銘ラストの楽曲は“slow down town”だ。 ながたはニヤリと笑いながら「歌うチャンス」と投げかけつつ、我々ファンと共に印象的なフレーズの大合唱を響かせていく。このアルバムがリリースされた当時、おそらく彼らは島根から離れて東京へ出ることを決めていたはず。そう考えると《もうこの町は出るけんって言った 東京は思ったよりもキラキラしてなかったって》と語られる一幕はある種の逡巡を、また続く《簡単に言うなよ 自分で光らせるもの》とのフレーズは、どこまでも考え方次第でポジティブにもネガティブにもなれるという真理を、確かに表していてグッと来た。……ながたはライブの最後に「ここに集まった全員でDNA GAINZ!」と必ず叫ぶ。この日も例に漏れず同様の叫びが成されたけれど、SNSのバズや繋がりなど『どう売るか』の効率化が動員の近道とされる時代に、ここまで愚直に攻め続けた結果彼らのDNAが伝播していることを、呼応する大勢のファンから確かに感じ取った。感動さえ覚えた最高のライブだった。

【DNA GAINZ@心斎橋Pangea セットリスト】
Loop!!!
PARADISE HELL
ラフラブ
HEARTBEAT
Sound Check Baby

神龍
巣ニナル
愛の衝突
GOLD HUMAN
slow down town