今や多くの音楽好きに知られるようになったシンガー・yamaの2025年はここから始まる。……モラトリアム3部作の最終章として位置付けた3枚目のアルバム『awake&build』を経て、ニューアルバム『; semicolon(読み:セミコロン)』をリリースしたyamaによる全国ツアー『the meaning of life TOUR 2025』が開催された。アーティストとしての新たな一歩を踏み出すための1枚目であるという今作を携えてのツアーは、間違いなくyamaの今後を占う試金石になるはず。そう思い、大阪ライブの2日目に足を運んだ次第だ。
会場はその名の通り湾岸に位置するZepp Osaka Bayside。最寄り駅となる桜島はちょうど今の時期、大阪万博と重なっていることもあり大混雑。しかし大阪万博とは全く逆の方向へと嬉々として進む我々は、グッズを身に着けながら別の場所へ向かう構図が面白い。今回のライブは一応スタンディングではあれど、全て座席指定だったのは驚きだったが、個人的には2時間立ちっぱなしの状況が苦手なのでむしろありがたいなと……。
暗転後、顔に仮面を着けた有島コレスケ (G)、勝矢匠 (B)、半田彬倫 (Key)、吉田雄介(dr)らサポートメンバー4名が定位置に付くと、そこから少し遅れてyamaが登場。この日のyamaは全身白でコーディネートされており、顔にはもちろんお馴染みの仮面が装着されている。前方のファンからの声援に応えるかのように始まった1曲目は、ニューアルバムから“TORIHADA”。打ち込みも伴ったダンサブルなサウンドの中心を、中性的な歌声が突っ切って聴こえる感覚でもって「yamaのライブだ……!」と感じるのは、やはりyamaの歌声の明瞭さによるもの。気付けば先程まで着席していた周囲のファンは全員がスタンディング状態、更には腕を上げたり手拍子をしたりと思い思いに楽しんでいて、その光景に満足げなyamaは腕をしきりに動かしながらの歌唱で魅了していく。
この日のセットリストはニューアルバム『; semicolon』に収録されている全曲を披露しつつ、その間にフェーズに沿った既存曲を織り交ぜるスタイルで進行。また今回驚きだったのは、フェーズを完全に固めて動いていたこと。具体的には“TORIHADA”〜“こだま”の『ミドルテンポゾーン』、“rain Check”〜“雫”の『バラードゾーン』、そして“声明”〜“くびったけ”の『アップテンポゾーン』の3つのフェーズに分かれ、ライブが進んでいく形だ。「ここからは座って楽しんでもらえれば」とバラードゾーンに移行して数曲やり、はたまた「皆さん盛り上がる準備できてますか?」とスタンディングに戻したりと、ここまではっきりとテイストを区分したライブは珍しいように思えるが、これこそが今回のyamaの方針なのだろう。
“TORIHADA”終了後も、ライブはチューニングも挟まず矢継ぎ早に進行。メロウな“こだま”で体をユラユラと動かし、有島のギターカッティングが楽しい“憧れのままに”、打ち込みの穏やかなサウンドが鼓膜を震わせた“Film”……。全く違った雰囲気で進んでいく楽曲群を聴いていると、改めて「これが今のyamaが聴かせたい音」なのだと伝わってくる。またyamaの楽曲は全体通して打ち込みが多用されている印象があるが、どれも音のバランスが絶妙で、先述の通りyamaの歌声が絶対的に負けていないので印象も抜群に良い。
その中心で歌うyamaはと言えば、特段フロントマン然としたことはしない。右へ左と動きながらハンドマイクで歌うという、一見シンプル極まるスタイルが基本形だ。しかしながらその目は確かにファンへと向いていて、ファンが喜ぶ顔を見て喜んだり、時にはお立ち台に登って存在をアピールするなど、我々が目で見て楽しめるアクションも多数。「大阪ー!」と叫んだりといったライブアレンジこそなかったけれど、愚直に音楽を伝えていく姿勢は非常に好感が持てた。
初めて訪れたMCの時間は、およそ7曲が終わった頃。挨拶をした瞬間に沸く歓声に「さすが大阪、ヤジが凄い……。すいませんヤジじゃないですね」とタジタジ。また今回のツアーでのMCはいつもご当地飯の話になってしまっているといい、この日は「そういえば皆さんは万博行ったんですか?」と別のベクトルでトークを展開していくyamaである。なおyamaはこの2日間の大阪滞在でほぼどこにも出歩いていないらしく、マネージャーからミャクミャクのグッズをプレゼントされたとのこと。ファンとの大阪的なキャッチボールもありはしたものの、当の本人は「もう少し大阪観光とか出来たらいいんですけど、部屋から出ないので……」と苦笑い。
「ここからはゆったりした曲をやるので、皆さん一度着席していただいて……」と促しての第2部は、バラードで敷き詰めたゾーンに。ゆったりと体を揺らして聴き入った“rain check”、キーボードの音色が溶ける“クリーム”、《もういいよ、いいんだよ》のフレーズが悲しく響く“雫”と楽曲は続いていく。またそれらの楽曲はyamaの歌声を中心としなければ成し得ない臨場感を伴っていて、改めて歌の上手さに驚かされる。中でも《あの日から全部が嫌になって/ただ生きてるだけの存在で》と喪失感を放出させる幕開けからの“Lost”は心の琴線に触れる代物で、楽曲全体に感じる『自信のなさ』は元々表舞台で歌うつもりがなく、今も仮面を被ることで自分を排除して歌のみにフォーカスを当てたいというyamaの心情ともリンクしている感覚さえ抱いた。
しばしバラードを続けて披露した後は「盛り上がっていきたいと思うんですけど、いけますか?」との一言から全員が起立。ここからはyamaの楽曲でもとりわけBPMの速い楽曲が続く、キラーチューン祭りである。その幕開けを飾ったのは“声明”で、キラキラした打ち込みサウンドと共に明るく駆け抜け、大勢のハンズアップを促していく。また続く“色彩”ではキーの高い鍵盤の音色で、“MUSE”では真っ赤な照明が照らし出したりと、様々な方面から楽しませてくれていたのも印象的。
そうして迎えた“BURN”と“くびったけ”は、間違いなくこの日最も盛り上がった局面。ステージ上を闊歩しつつロック然とした歌唱を続けるyamaはブレることこそなかったが、時折歌詞をミスする場面もあった。ただそのワンシーンも後のyamaいわく「みんなのエネルギーが凄すぎて、自分も今どこを歌ってるか分からなくなっちゃって……。でもみんなが受け止めてくれるからそれでいいや!って、全力で歌いました」と興奮の表れだったという。また時折歌が消えてしまったその場面でさえ、「本当にyamaが声を出している』と改めて証明していた訳で、良い意味でライブ的だったなと。“くびったけ”のサビではボーカル部分をファンに託してマイクを客席に向ける様子も見られ、この日一番楽しそうなyamaである。
「次で最後の曲になります」との一言からは、この日最も長尺なMCが。「ファンクラブではいろんなメールが届いていて。もちろん全部目を通しているんですけど、その中に『凄く辛かったけどyamaさんの歌で励まされました』っていう、とある女の子から送られたメールがあって。そこに『yamaさん知ってますか?』って、セミコロンっていう言葉とその意味が書かれてたんです」と、まずはひとりの少女……ひいてはsemicolonとの出合いについて回顧するyama。
「どうやらセミコロンっていうのは『;』のマークをタトゥーとして入れて、その瞬間に今までの自分にピリオドを打って先に進んでいく……。そういうブームが海外で去年くらいにあったらしくて。自分はその考えが凄く良いなと思って、どこかで『semicolon』っていう曲を作りたいなと考えていました」と締め括ると、最後の楽曲として披露されたのは“semicolon”。自身が作詞作曲を務めた楽曲でもあり、今回のアルバムのテーマともなった楽曲だ。緩やかなサウンドの中で、yamaは《不確かなまま息をしてた僕は 深い霧から目を醒したよ》と少しずつ前を向けるようになった精神性をつまびらかにしていく。弱い自分がいたから、今の自分がいる……。そんな誰もが大人になってから気付く感情は、同じように弱い状況にいたyamaが歌うからこそ、雄弁に響いていたように思う。楽曲のラスト、《今を結ぶセミコロンは ここにあるから》と締め括ったyamaはボソリと「ありがとうございました」と伝え、万感の拍手の海をバックに、ステージを後にしたのだった。
ここからはアンコールの時間だが、事前アナウンスがあった通り今回は初の試みとして、アンコールでの写真撮影・動画撮影OK。『#yamaTOUR2025』のハッシュタグを付ければSNSでの投稿も可能とのことで、再びyamaがステージに現れた瞬間には、大勢のファンがカメラを向ける珍しい光景に。そんな特集な状況下のyamaはグッズの紹介を粛々と行いつつ、最後に「忘れてた!」とこのライブが終わる予定の21時に、この日のオープナーとして演奏された“TORIHADA”のMVが公開されることをサプライズ発表。発表を忘れて大慌てなyamaはファン視点からもレアだったようで、公演後のSNSでは多くのファンがバッチリとその様子を動画で捉えていたのが面白い。
yamaのアンコールは基本的に、1曲目が毎回異なる仕様になっている。この日選ばれた楽曲はアンコールとしては珍しい“麻痺”で、演奏直後から激しい緑の照明で圧倒。個人的にはyamaの中でも1.2を争うほど好きな楽曲でもあったので嬉しかったし、先述のMCを聞いた後の《このステージに立ってる意味を 今も忘れたくないよな》の歌詞は、また違った意味を持って響いていたのも印象的だった。そしてラストの楽曲はもちろん、yamaの記念すべきファーストソングであり、とてつもないバズに至った“春を告げる”。桜色の照明が照らす中、yamaは「最後はみんなで歌ってもらえると嬉しいです」と語り、最後は《深夜東京の六畳半 夢を見てた》からのサビ部分を全員で大合唱してライブは幕引きとなった。
客を煽ったり声を張り上げたりといったアグレッシブな行動を廃し、ひたすら自分自身の歌声で勝負をかけた2時間。yamaは様々な媒体で「自分に自信がない」と語っているけれど、yamaにとって歌だけは、何よりも自信のある存在証明なのだろうと思う。……一方で『写真動画撮影OK』、『楽曲を3つの雰囲気に分ける』というこれまでにない試みは、今回の『セミコロンを打って次に向かう』テーマに沿ったものでもあり、新たな幕開けとも取れるライブでもあり。本当に素晴らしかった。
【yama@Zepp Osaka Bayside セットリスト】
TORIHADA
憧れのままに
偽顔
a.m.3:21
Film
レコード
こだま
rain check
沫雪
クリーム
Lost
新星
雫
声明
色彩
MUSE
オリジン
愛を解く
BURN
くびったけ
semicolon
[アンコール]
麻痺
春を告げる