ニューアルバム『Channel U』を引っ提げた大規模なツアーを敢行中の緑黄色社会。去る6月1日、待ちに待った島根公演が開催された。かつてインタビューで彼らが「必聴盤にしたいから、今回のアルバムタイトルは『緑黄色社会 2』にしようと思っていた」と語ったことはファンには知られているが、実際に多数のタイアップ曲と実験的な楽曲が詰め込まれた名盤である。その作品を携えたツアーのため、必然ファンの興奮も高まるというもの。
当然の如く、全日程は既にソールドアウト!ただこの日の島根公演は当日券が若干数ありとのことで、一種の賭けで会場へ向かった僕である。結果として何とか1枚ゲットすることが出来たものの、チラッと確認したところ当日券は10枚ほどしか用意されていなかったようで、開場時間を20分ほど過ぎた頃には「当日券完売です!」との声が。危なかった……。
会場に入ると、尋常ならざるステージがお目見え。構成としては上の画像(事前アナウンスにて写真撮影許可済み)に詳しいが、この写真で注目してもらいたいのは4つ。まずは最も目を引く、アルバムの『U』を模したモニュメントから。この『U』はライブ中様々な色に発光してライブを盛り上げる役割を果たしている。次に、背後のモニター6つとスクリーン。こちらは様々な映像が流れるVJとして機能する。また地面に設置されている5つのお立ち台は、もちろん今回のメンバー5人の定位置(ちなみにこの台もビカビカ光ります)。そして驚くべきは、左右に縦に設置された棒状のモニター。こちらには何と全楽曲の歌詞がリアルタイムで投影されるという、楽曲に没入させることに特化した装置である。……つまるところ、とてつもない規模の金額がステージに注ぎ込まれていた。
定刻になると暗転し、SEである“U”が鳴り響く会場。その瞬間背後のモニターがアナログテレビを表示した時のような砂嵐状態となり、次いで大勢の笑い声と「スリー・ツー・ワン!」の声と共に小林壱誓(G)、穴見真吾(B)、peppe(Key)、サポートメンバーとして結束バンドのバンドメンとしても知られる比田井修(Dr)が袖から登場。それぞれの持ち場で準備を進めていく。そしてしばしのジャムセッションの後、背後の『U』の文字から長屋晴子(Vo.G.Key)が登場!階段をゆっくり降りていく長屋が《君のためのパーティーだ!》と歌えば、1曲目の“Party!!”の始まりだ。
背後のモニターには『Party!!』と書かれた映像が幾度もループする美麗な映像が流れ、メンバーの立つ台は煌びやかに発光。左右にはハッピーな歌詞……と明らかに盛り上げにかかるこの楽曲の投下にひとり、またひとりの立ち上がるファンたち。更にその姿を見ながら高らかな歌声を響かせつつ《君のためのパーティーだ!》とファンを指差しながらテンションを底上げしていく長屋である。特筆すべきはその演出装置で、地元民としてこの会場は何度も訪れているが、まるで異世界に迷い込んだようなここまでの照明の明るさは正直言って未体験。まさにパーティー会場のような豪華さだ。《いいから飛んじゃって》と放った長屋に「ヘイ!」のレスポンスで返す流れもバッチリで、メンバーも全員が満面の笑みで楽しそう。
今回のライブはアルバムのリリースツアーということもあり、大半の楽曲は『Channel U』からドロップ。もちろんこれまでライブで定番となってきた楽曲の他、紅白歌合戦やアニメ、CMなど、我々が絶対にどこかで聴いていたであろう楽曲も隙なく組み合わせており、盤石のセットリストで進行していく。また「初めての島根のライブ。でも初めてのことって1回しかないの。ここにいるみんなで一緒に最高のライブを作っていこう!」とは長屋の弁だが、その言葉に呼応したかのように、全編通してファン全体が熱量の高さをキープしていたのも印象的だった。
以降は“サマータイムシンデレラ”と“言えない”のミドルテンポ楽曲を鳴らしたかと思えば、穴見のスラップベースから幕を開ける“馬鹿の一つ覚え”と“Monkey Dance”で一気にディープな雰囲気に変貌させる、変幻自在なステージングを披露。特にディープな2曲についてはこれまでのリョクシャカにはなかったテイストでありながら、多くの歓声が上がっていたことにビックリ。「どんな楽曲でもファンが受け入れてくれる」……というのはアーティストの理想だけれど、そのレベルに達するのは、楽曲に強い信頼度のあるアーティストだけ。つまりはリョクシャカもこれほどの求心力を持ったという証左だろうし、事実ライブではかなり早いと思われる段階でこの2曲を投下したことからも、自信の程が伺える。
この日のハイライトは複数あったけれど、個人的にグッと来たのは“僕らはいきものだから”の一幕。中学校の合唱コンクールの課題曲としても知られるこの楽曲、何となしに「実際のライブで聴いたら凄いんだろうな」と思ってはいたが、いやはや。ライブではその想像を遥かに超える感動があった。《僕らはいきものだから 背丈は伸び嫌でも腹が減る/このままがいい このままがいい》との冒頭の歌詞から続くのは、一見すると学生に向けた尊いメッセージのようにも思える。ただ学生の心に刺さるように、様々な経験を積んだ大人の我々にもとてつもなく刺さるものでもあり、左右のモニターに投影される歌詞と、長屋の歌声を聴いているうちに気付けば涙腺が緩くなっていることに気付く。事実、ラストに《変わりゆく僕らが美しいのです 息をする僕らが愛おしいのです》と示した瞬間には各所で涙をすする声が聞こえていて、本当に『歌は心を動かす』というか、心をギュッと掴まれる感動がそこにはあったように思う。
御当地MCでは、島根の有名な神社・出雲大社について長尺のトークを展開。せっかく島根に来たということで出雲大社に参拝に行った御一行は、参拝と一緒におみくじにチャレンジ。結果は様々だったが長屋は病気以外の項目が全て『良』だったといい、「私は今年運がいいらしいです!」とご満悦(病気は少し長引くらしい)。また世間一般で言われる『神無月』という言葉が、ここ島根のみ『神在月』と呼ばれることに触れ、小林は「島根だけ呼び名が違うってカッコいいじゃん。しかも神様が全員集まるんでしょ?神様フェスじゃん」と独自の切り口で笑いに変えていく。ちなみにメンバーの中で唯一、小林だけはホテルで作詞に勤しんでいたため参拝には不参加。口々に出雲大社の素晴らしさを語るメンバーに、小林は「作詞ずっとしてたし、よく考えたら参拝する用の服も持ってきてないし。これは『今じゃない』ってことなのかなと思って……」と愚痴をこぼしつつ、長屋は「また島根に来たときにチャレンジしよう!」と前向きなフォローをしていたのが面白かった。
「次は少し違った試みをしようと思います。めくるめく音楽旅行を、どうぞお楽しみください」と長屋が語ると、ここからはメドレーを披露する特別な時間に。このメドレーは1番〜サビまでを演奏し、チャンネルが切り替わるピコンと鳴る音と共に次の楽曲に移行する形で進行。演奏されたのは“ミチヲユケ”、”Don!!“、”Alice“、”あのころ見た光“、”Shout Baby“の既存の5曲で、その時々で異なる盛り上がりを記録していたのが印象的。当然ながらこれも全楽曲がファンに浸透していないと出来ない芸当な訳で、信頼感を改めて強く感じた次第だ。
この日のライブで最も感情が爆発したのは、ライブ定番曲の“始まりの歌”。昨今ではYouTube広告や、CMでも広く知られるようになったこの曲。楽曲が演奏された瞬間、なんと全ての客電が点灯!全員の顔が露わになる状況で、ファンは誰に促されるでもなく、自主的な《ウラララ》の大合唱やボディランゲージで盛り上げ。その光景を嬉しそうに見る長屋はミュート代わりにギターを愛おしそうに抱き締めたり、peppeのキーボードを死角からコッソリ弾いてみたりと自由奔放。小林と穴見に至っては四角の陣地から長屋の元へと飛び移り、最後はふたりで客席近くまで進み出て、ファンと直接コンタクトを図っていたのも素晴らしかった。
興奮が一旦緩やかになった後には、メンバーが一時的に退出。変わりにpeppeのキーボードの椅子に腰を降ろした長屋は「少し前に、私はオーロラを見に行ったの。結局スケジュールや天候の都合が合わずに見れなかったんだけど、でも『オーロラを観に行った』っていう事実は、記憶としてこれからも残っていく」と思い出を回顧。そして「私は曲をメンバーに渡すとき、キーボードと歌……いわゆる弾き語りで表現することが多くて。今日はその時の空気感やテンションを、完全には行かないけど近い形で表現出来ればと思っています」と語り、たったひとりで“オーロラを探しに”を披露。モニターに流れる歌詞をじっくりと観ながら歌声に耳を傾ける、至福の時間となった。
ここからはリョクシャカのライブ恒例、年代別確認のコーナーへ。ここでは長屋が「◯◯代!?」とマイクを向けてその年代の人が声を上げるというもので、20代30代……とどんどん展開。一方で中年勢も負けておらず、長屋が50代を問うた瞬間には「はぁーい!」と野太い声が続々。「どこの会場もね、なぜか50代の人が一番元気なのよ」と語る長屋である。そうして様々な年代に遷移しつつ「いるかな?80代!」と聞くと、2階にいるひとりの女性が身を乗り出して「はぁーい!」とまさかの返事。長屋は「凄い!」と驚き、最終的には幼稚園の男の子が最も若いことも確認しつつ、「ここからいろんな場面で聞いていくから。みんな油断しないようにね」と牽制。そして「はい20代!」「えー……50代!」「80代のおばあちゃん!」と大いに盛り上がったところで、ライブは続いていく。
「初めての土地で不安な気持ちもあったけど、今日は上から下までソールドアウトしてる。もしこれから私に辛いことがあっても『全国の仲間がいるから頑張れる』って、そう思います」と感謝の気持ちを述べた長屋。ここからはお待ちかね、キラーチューンの連続だ。まず先陣を切ったのは、アニメ『薬屋のひとりごと』主題歌としても知られる”花になって- Be a flower“。美しい花びらが吹き荒れる映像と共に、真っ赤な照明がまばゆいステージングに思わず魅了されるファンたち。すかさず投下された”Mela!“も《ララララ》の大合唱含め、モニターに映し出された煌びやかな映像も相まって感動的に映った。
印象的なサビが合唱を呼び起こした”キャラクター“を終え、気付けばライブは最後の楽曲に。ラストに選ばれたのは新たなリョクシャカのキラーチューン”PLAYER 1“。小林の荒々しいギターサウンドから雪崩れ込む開幕から、ここまでの展開史上最もロックな雰囲気で駆け抜けるこの楽曲は、本編ラストと全員が認識していることもあってか、全員が総立ちになっての大盛り上がり。VJには『無敵だZONE』や『フラグでSHOW』といったキラーフレーズがペンキをぶち撒けるような過激さで投影され、照明はステージがほぼ見えなくなる程に真っ赤に発色。リリースされてからあまり期間が経っていない楽曲ではあるが、今後のライブでは必ずセットリスト入りするであろうポテンシャルすら感じた。
本編が終わると一旦暗転し、ツアーロゴが大写しになるアンコール待ちの時間に。するとしばらくした後モニターが砂嵐状態となり、うさん臭すぎる謎のキャラクター・真吾先生(もちろんその正体はベースの穴見真吾)がキーボードをカタカタ操作さながら映像をハッキング。ここからツアーグッズの紹介をしていくのだが、時折「このグッズはギザカワユスですぞ〜!」などと完全な死語が挟まれるため、会場からは失笑が。最終的にはローラースケートを履いて部屋を移動し続けるという謎の幕切れから、再び明点。今回のツアーグッズに身を包んでステージに現れたメンバーたちが口々に話す中、長屋は「リョクシャカのライブによく来てくれてる人は知ってると思うんだけど、みんな慎吾先生知ってる?」と問いかけ、またも微妙な空気に。「僕によく似た人でしたねえ」とは穴見の弁である。
現れたメンバーたちをよく見ると、穴見はしまねっこのぬいぐるみ、peppeは大きなキーホルダー、小林は小さなキーホルダーと、全員が何かしらのしまねっこ(島根のゆるキャラ)グッズを着用。可愛らしいキャラクター性にしばし話が盛り上がると、そこからは次なるライブ予定として海外公演やファンクラブツアーなどがモニターを通して続々発表され、長屋は「島根の皆様。よろしければ次は海外なんて、いかがでしょうか……?」と広告隊長としての役割を担っていた。
アンコールでまず披露されたのは“これからのこと、それからのこと”。たったひとりの高校生に歌ったサプライズ動画も話題となった、虚無的な自分自身に悩みながらも、それでも他者と一緒にいたいと願う心を歌ったメッセージソングだ。長屋はギターのネックを愛おしそうに握りつつ思いの丈をひたすらに届けていき、peppeのキーボードも心に訴えかける真摯さで先導。その強い思いを携えた演奏に、周囲には涙を拭うファンも多く見受けられたほどだった。
そして“恥ずかしいか青春は”で、ライブは圧倒的なフィナーレを迎える。メンバーはそれぞれの立ち位置をピョンピョン飛んでシャッフルさせつつ、この日最もリラックスした満面の笑みで演奏し、もちろんファンも腕を突き上げてのアクションで応戦。長屋が《恥ずかしいか青春は 馬鹿らしいか真剣は/僕ら全力でやってんだ》と青春時代の無敵さを高らかに歌う背後で、モニターにはまるで人生を称えるように、オレンジに色付いた四角形が大量に投影されていくのがこの上なく美しかった。そうして《この上ない今日を忘れないでね》とひとりひとりに伝えた長屋は、演奏が終わると持参したしまねっこグッズを綺麗なピッチャーフォームで次々に客席に投げ込み、最後に「愛してるよ!」と一言。愛と感動に満ち溢れた、素晴らしい2時間だった。
【緑黄色社会@島根県民会館 セットリスト】
U (SE)
Party!!
サマータイムシンデレラ
言えない
馬鹿の一つ覚え
Monkey Dance
∩ (Interlude)
マジックアワー
僕らはいきものだから
ミチヲユケ (メドレー)
Don!! (〃)
Alice (〃)
あのころ見た光 (〃)
Shout Baby (〃)
始まりの歌
オーロラを探しに (長屋弾き語り)
Each Ring
コーヒーとましゅまろ
花になって- Be a flower
Mela!
キャラクター
PLAYER 1
[アンコール]
これからのこと、それからのこと
恥ずかしいか青春は
Thank you!!
— 緑黄色社会 (@ryokushaka) 2025年6月1日
2025.6.1
Channel U tour 2025
day23 @ 島根県民会館#緑黄色社会 #リョクシャカ #ChannelU pic.twitter.com/4QOVpVWrS8