キタガワのブログ

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【ライブレポート】小山田壮平『バンドツアー2025』@大阪城音楽堂

とりわけ20代後半〜30代の一部のロック好きにとって、andymoriはバンド界に舞い降りた革命だったように思う。文学的な歌詞、1分弱で駆け抜けるスピード感。またある時には涙腺を緩ませるバラード……と、彼らのリリースした楽曲は他に類を見ないオリジナリティが溢れていて、特に2009年のファースト『andymori』、翌リリースの『ファンファーレと熱狂』、その翌年の『革命』の3枚は多くの音楽好きにとって最強の名盤とされた。しかしandymoriは2014年に様々な内部的問題から、突然解散を発表。当時は配信などもなかったため、僕もそうだが、ファンの多くはその最後の現場に立ち会うことさえ出来なかった経緯がある。

一方でフロントマンの小山田壮平は、解散後はマイペースに活動を継続。今回のソロツアーはそんな彼の最新アルバム『時をかけるメロディー』を引っさげて行われるもので、サポートメンバーには岡愛子(G)、久富奈良(Dr)の他、約13年ぶりに共演する元くるりのファンファン(Tp.Key)、そしてandymoriのメンバーだった藤原寛(B.Cho)が帯同する形となった。また今回の会場は別名『大阪野音』とも呼ばれる大阪城音楽堂。僕は初めて訪れる場所だったのだが、そこは大きな公園の一角にあるステージといった印象で、多くの子どもたちが遊んでいるそのすぐそばで「本日の公演こちらでーす!」と呼び込まれていたり、背後の芝生エリアで寝転んでいる人がいたり、普通にお客さんがアルコールを持ち込んでいたり……と目にも楽しい。この日は快晴だったこともあり、気温的にも最高だ。

定刻の17時30分になるとステージ袖から4人が登場し、それを見たファンは全員スタンドアップ。知らない間に顔中ヒゲもじゃになっていた藤原の風貌には心底驚いたが、中心に立つ小山田は10年前に観た姿と比較しても「歳取ってないんじゃないか?」と錯覚しそうな爽やかさで、ニコニコ顔でチューニング。そうして挨拶も特になくふわりと始まったのは、andymoriの“Life Is Party”。何度も聴いてきた楽曲が鳴らされる驚きと、野外の環境での開放感が相まって気付けば夢心地。ただ中にはandymoriへの強い思いを感じさせるファンも多く、涙を拭いていたり、サビを口ずさんだりする人の姿も見られた。

楽曲が終わると、ここで早くもMCへ。「大阪城野音、ありがとうございます。andymoriの時が最後だから、10年ぶりかな。天気も……まあまあで」と朴訥とした雰囲気で語ると、続いてはバンドメンバーを紹介。ただ「ギター岡愛子!」「トランペットはファンファン!」と紹介した後には必ずシーンとした時間が到来してしまい、そのたびに「あの……どうですか?」と抽象的な質問を投げかけるのは小山田節であり、元andymoriの藤原に対しては「寛はしばらく見ない間にヒゲがね」とツッコんでいたのは当時のインタビューを見るようで、嬉しくもあった。

次なる楽曲はこちらもandymoriから“Sunrise&Sunset”。個人的には彼らの楽曲でも一番好きな楽曲だったので嬉しかったのだけれど、ここで気付いたのが、原曲よりもどっしりとしていること。具体的にはこの日の楽曲の多くは少しばかりテンポを落としており(BPM0.9倍くらい)、まるで在りし日の思い出を伝えるかのように鳴っていたのが印象的。なお若干スローなこの形は以降もandymori楽曲にのみ適用され、対して小山田壮平楽曲については原曲通りの進行だった。

この日は先述の通り、ニューアルバム『時をかけるメロディー』のリリースから間もないライブ。ただ一般的なリリースツアーとは一線を画していて、セットリストについてもアルバムから演奏されない曲が複数あったり、andymori楽曲は9曲。かと思えば未発表の新曲も披露する、予想不能な100分セットとなった。またライブ中、小山田は一貫してマイペース。常にニコニコしながら、特段人を煽ったりすることもなく『曲→チューニング→曲』……といった形で淡々と進行していたのは彼らしいなと。また大阪野音の少しずつ陽が落ちていく環境も相まって、幻想的な世界観だったのも嬉しいところ。

“クラブナイト”でファンファンのトランペットが先導し、“汽笛”ではやや涼しくなった風に乗せてゆったりと。また“スライディングギター”では岡のボトルネック奏法が炸裂……と、楽曲ごとに異なる雰囲気で魅せたライブ。特に熱量が1段階上がったのは“彼女のジャズマスター”で、サビでバンドメンバーが一体となって爆音を鳴らした瞬間、照明が激しく明滅。音の海の中を泳ぐような高揚感の中で、彼のロック精神にも触れたような感覚にも陥る。曲間では必ずカーカー言っていたどこかのカラスも、この時ばかりはスンっと黙っていたのも面白かった。

この時間帯になると日が落ちて、少しばかり暗くなってきた会場。小山田は「本当だったら空が夕焼けでブワーってなるイメージだったんだけど」と語りつつ、「じゃあ岡さんどうですか?」などと再びバンドメンバーに無茶振り。バトンを無理矢理渡された岡は「今は私ギター持ってないので、この状況で振られるの恥ずかしいです……。何だか裸にされてる感じで」とボソリ。ただシーンとさせるのも忍びないということで、「でも皆さん音楽が好きな方々ですから。想像力には長けてると思うんです。ぜひ頭の中で夕焼けを想像してもらって」とフォローするも、当の首謀者である小山田はチューニングをしながら放置。そしてまた沈黙が生まれていくという、ひたすらバンドメンバーに火傷させるドSぶりである。

「ではそんな想像力のある曲を」と語って始まった次なる楽曲は、小山田ソロの“マジカルダンサー”。プラジャパティーやマハデーヴァわっしょい、はたまたクニコのダンスやシャンティーなグッドといった独特なフレーズが盛り込まれたこの楽曲を、小山田はリズミカルなリズムに乗せて歌唱。前方にはアルコール片手にお祭り気分で踊りを踊るファンもおり、本当に至福の時間だった。続くandymori楽曲の“革命”、ちょうどこの日が千秋楽だったという福岡の劇団・ガラパの演劇『見上げんな!』に楽曲提供した“夕暮れの百道浜”も軽やかに響き、気付けば空は暗くなっている。これまで明確に見えていた隣の人の顔は全く見えなくなり、逆にステージは一気に光が灯ったことで、どこか神々しささえ感じられる雰囲気だ。

アルバム表題曲でもある“時をかけるメロディー”が鳴らされた瞬間には、確かに夕方のふわりとした風が流れていた。小山田のアルペジオから始まり以降も穏やかな雰囲気に包まれたこの曲は、結果としてアルバム『時をかけるメロディー』内では最もバラードに近い楽曲となった。一方でライブのアレンジはと言うと、ギターパートは岡に任せ、小山田はほぼボーカルに専念。圧倒的に『歌』を前面に押し出す形となったこの楽曲を、軽やかに歌い上げていたのが印象的だった。また《光を連れていく 時代に殴られても》との歌詞ひとつ取っても、ネガティブな物事にもどこか光を見出す小山田らしさが詰まっていたなと。

ここからはなんと、andymori楽曲4連発!まずは《大丈夫ですよ 心配ないですよ》の歌詞がぐるぐる回る“投げKISSをあげるよ”、メンバーの姿が見えなくなるほど白い照明が眩しく炸裂した“光”を届け、緩やかにラストスパートを図っていく。続く“1984”は特に多くのファンの琴線に触れた時間で、サビ部分の《ファンファーレと熱狂 赤い太陽/5時のサイレン 6時の一番星》では誰もが歌って応戦。ただその口は熱唱するというよりは、今回のライブの雰囲気を損ねないように口パクでうっすら歌う……というような感覚で、そうした言わば『抑圧された感動』にはグッと来るものがあった。

そして最後は、同じくセカンドアルバム『ファンファーレと熱狂』からファン人気の高い“グロリアス軽トラ”。特段「最後の曲です」というようなMCがなかったのでまさか最後とは思わなかったのだが、サビの《グロリアス軽トラックで行こうぜ 田舎道スイカを盗みに行こうぜ/グロリアス軽トラックで行こうぜ 田舎道ケアンズの空の下/ベニスの空の下》を全員で大合唱した瞬間には、ここに集まった多様な考えの人々がひとつになったような、そんな感覚さえあった。小山田は《所沢の空の下》を「大阪の空の下」と変化させ、約2分弱に渡るこの楽曲をマイペースに進行。そうして終了後はまだまだ聴きたい気持ちの強いファンをよそに、無言でギターを置いた小山田。ゆっくりした足取りでステージを去っていき、その後にはパラパラとした拍手が鳴り響いていた。

やがて辺りが真っ暗になった状態で呼び込まれたアンコール。小山田は先程同様ニコニコ顔で登場すると、まずは「新曲をやりたいと思います」とのサプライズから演奏されたのは、今回のツアーで初解禁となる“電車に乗って行こう”。リリースは後に発表になると思われるので詳細はまだ先の話だが、《電車に乗って行こう》のキャッチーなフレーズを起点に日常の風景に迫る、実に小山田らしい穏やかな楽曲。……andymori解散から時は流れてソロになり、私生活では父親に。子どもと過ごす穏やかな日々の中で得た気付きや風景描写が、ギュッと盛り込まれていた感覚があった。

そうしてこの日一番の爆音が鳴り響いた“アルティッチョの夜”で熱量を高め、更なる興奮へと導く小山田壮平BAND。《君もつらいね 俺もつらいよ》と歌う一幕は小山田の優しさを。また《調子こいたじゅんやがテキーラ飲みます》の箇所では独特の歌詞世界を描き、満を持して鳴らされたのはandymoriの“すごい速さ”。原曲の時間にして1分25秒、BPMも爆速とその名の通り『すごい速さ』としても知られるこの楽曲を、彼らはやや緩やかなスピードで披露。《ララララララ》の部分では待ってました!とばかりに多くのファンの掌が天に突き上げられる中、楽曲は気付けば終了。andymoriファーストの性急なサウンド時代を再度呼び起こしつつ、いよいよライブは最後の楽曲へと進んでいく。

そんな最終曲“サイン”は穏やかではありつつも、そう題されていながらそのサインが何を指しているのかは、最後まで言及されない。辛いことなのかも楽しいことなのかも、結局は聴き手に委ねる形になっているためだ。しかしながら《忘れないでいてね 忘れないでいるよ/この心の歌を》との一節や、ラストの《そしていつか 「やっぱそうだったね」って/僕がサインを送るから》の部分を見るに、この楽曲で示した『サイン』は希望であって然るべき代物だと思う。……楽曲が終わるとギターを置き、手も振らずにまたニコニコ顔で去っていった小山田。あまりにもあっさりとした幕引きにダブルアンコールがあるものと思ったファンが直立で見守る中、客電が点灯。そこでハッとしたファンが続々と荷物をまとめて駅へと向かうという、本当に最後までマイペース、ただ最後まで確かな希望を届けた、素晴らしい1時間40分だった。

【小山田壮平@大阪城音楽堂 セットリスト】
Life Is Party (andymori)
Sunrise&Sunset (andymori)
HIGH WAY
クラブナイト (andymori)
恋はマーブルの海へ
汽笛
スライディングギター
空は藍色
彼女のジャズマスター
月光荘
雨の散歩道
マジカルダンサー
革命 (andymori)
夕暮れの百道浜 (新曲)
時をかけるメロディー
投げKISSをあげるよ (andymori)
光 (andymori)
1984 (andymori)
グロリアス軽トラ (andymori)

[アンコール]
電車に乗って行こう (未発表新曲)
アルティッチョの夜
すごい速さ (andymori)
サイン