キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

途中でテンポが変わる曲5選

こんばんは、キタガワです。


思えばこの数十年間の間に、音楽業界を取り巻く環境は大きく変わった。J-POPとロックが『音楽の主流』と言われていたのは今や遥か昔。数年前にはEDMやアニソンが頭角を現し、そして2019年現在では完全なる飽和状態に陥っている。


もはや次世代のスターの誕生はほぼ皆無と言っていい。アメリカの音楽シーンに至っては口々に「ロックンロールは死んだ」と揶揄され、代わりに現政権や人種差別に対してリリックをぶち撒けるヒップホップが台頭しつつある。


今後も音楽はどんどん多様化し、新たな環境へと突入していくことだろう。


さて、当ブログではそんな時代と逆行するかの如く、独自の視点から様々なジャンル(パンクやサイケデリックロックなど)の音楽を紹介してきた。記事自体のアクセス数は相変わらず両手で数えきれるほどなので満足の行く結果ではないのだが、後悔はしていない。


……というわけで、今回紹介するのは更にニッチな層にしか刺さらない音楽。その名も『途中でテンポが変わる曲』である。


転調とは『楽曲の途中で他の調べに変えること』を指す。試しにあなたの好きな何かしらの音楽をかけ、リズムに合わせて指でトントンとリズムをとってみてほしい。おそらく大半の楽曲は全く同じテンポのまま進行し、そして曲が終わるはずだ。


対してテンポが変わる曲というのは指を動かすリズムが各所で変化し、最終的には『最初に行ったリズムのトントン』とは違う、ごちゃごちゃの拍になる。この転調は主にミュージカル音楽やブラスバンドで使われ、楽曲の一種のスパイス的役割を担っているのだが、いわゆる大衆音楽の中で使われる機会はほとんどない。


だが逆に言えば、存在しないわけでもないのだ。今回は個人的に厳選した転調を多用する曲を紹介しつつ、そのクレイジーな魅力に迫っていこう。

 

 

草木/長谷川白紙

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インターネット発の謎のミュージシャン、長谷川白紙。現役音大生である彼はなんと弱冠20歳で、昨年リリースされたミニアルバム『草木萌動』で華々しくデビューを飾った注目株だ。


彼の音楽の特徴は、膨大な転調数を活かしたトリップ感。まずは下記の『草木』のMVを観ていただきたいのだが、はっきり言って狂っている。通常ミュージシャンとは音楽を一聴しただけで誰に影響を受けているのか、何を参考にしているかが薄ぼんやりと推測出来るものだが、彼の音楽はそうした推測が不可能なほどオリジナリティー全開だ。


まるで脳の外側だけを使って生み出したような楽曲の数々だが、官能的な響きを持って襲い掛かってくるのだから不思議だ。お笑い芸人で言うところのくっきーやハリウッドザコシショウのような「何でこんなこと思い付いたんだよ」と感じる人は何人かいるが、彼もその類い。


おそらくは生まれ持ってのアーティスティックな才能の持ち主で、直感的に『音楽』を作った結果がこの楽曲なのだろう。まだまだ知名度は低い長谷川白紙だが、彼を取り巻く環境は、このグルグル回るトリップ感と同じく今後目まぐるしく変わっていくはずだ。


まさに新世代の『今』知っておくべきアーティストと言える。

 


長谷川白紙 - 草木

 

 

Rave-up Tonight/Fear, and Loathing in Las Vegas

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暴れたい盛りのライブキッズたちを虜にする、現代ロックシーンのダンス担当。彼らのスクリーモとピコピコ音を合わせた独自のサウンドは『ピコリーモ』とも呼ばれ、唯一無二の世界観を形成している。


彼らのライブで必ずセットリスト入りするのが、この『Rave-up Tonight』である。オートチューンとデスボイスが入り交じる展開も素晴らしいが、特筆すべきはその曲調。サビが何個もごった煮されたような耳馴染みの良いサウンドの連続で、鼓膜はビリビリ刺激される。


『Rave-up Tonight』のみならず、彼らの楽曲は基本的に大量の転調を用いている。しかもそれらが確固たる存在感を持って鳴り響くため、1曲を聴くというより複数の曲を一気に聴いている感覚に陥ってしまう。


今夏からはメンバーを新たに、待望の全国ツアーも決定。全国各地にピコリーモサウンドを轟かせてくれるのはもちろん、次なるハイテンポな楽曲の発表にも期待したいところ。

 


[PV]Rave-up Tonight/Fear, and Loathing in Las Vegas

 

 

めっちゃかわいいうた/ネクライトーキー

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ツアーは全会場ソールドアウト、サーキットイベントでは入場規制と、今ノリにノッている関西発の5人組。


全員で「ジャン!」と鳴らす一幕や、各所の遊び心がふんだんに散りばめられたネクライトーキーの楽曲の中でも、格段に盛り上がるのがこの『めっちゃかわいいうた』である。


最初に「かわいいだけの歌になればいいな」と言いつつもサビでは「どつき回せ鉄で殴れ」だの「紅生姜をぶつけてやれ」だの、可愛さの欠片もない歌詞が並ぶこの曲。キャッチーなメロとハム太郎とも称されるボーカルもっさの歌声でもって、とてつもない破壊力を秘めている。


注目ポイントは曲の後半で、なんと一気にスピードが1.5倍増しに。ここまで来るともう何が何だか分からないが、この意味の分からなさに体を委ねるのもネクライトーキーの面白さ。全力疾走でバン!と後腐れなく終わるのも魅力的だ。


なお某動画サイトに挙げられている『許せ!服部』にも顕著だが、ライブにおいては大幅な改良が加えられ、より肉体的なパフォーマンスを見せる。機会があればぜひライブへ。

 


ネクライトーキーMV「めっちゃかわいいうた」

 

 

PALAMA・JIPANG/八十八ヶ所巡礼

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プログレッシブロックの隠れた立役者、八十八ヶ所巡礼。その類い稀なるバカテク演奏と独創性の高いサウンドは、ファンならずとも「何だこりゃあ!」とたまげる代物。


『PALAMA・JIPANG』は最近こそあまり披露されないものの、ファンの間では人気の高いアッパーなナンバー。頭のおかしいレベルの早引きを連発するギターとこれまた難易度の高い運指で翻弄するベース、そして全体重をかけて振り下ろすドラムのスリーピースなのだが、密度が濃すぎて5人に見えるというか何というか、とにかく情報量が多いのだ。


個人的にライブに3度ほど足を運んだことがあるのだが、あの音源は打ち込みを使用しているわけでも何でもなく、本当に彼らの指先で奏でられていた。それこそ布袋寅泰やMIYAVI、押尾コータローといった多くの有名なギタリストはいるが、ことギターに関してはこのバンドのギタリストが秀でている気がしてならない。


ちなみにMVでは展開が徹頭徹尾意味不明で、問題の転調シーンに関しては『キャベツを一心不乱に切りまくる』という謎仕様。これからも八十八ヶ所巡礼は地下ロックシーンにおいて、絶大な人気を誇っていくことだろう。

 


八十八ヶ所巡礼「PALAMA・JIPANG」

 

 

HIMITSU GIRL'S TOP SECRET/ZAZEN BOYS

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今年NUMBER GIRLの再結成が発表され、ツイッター上で大バズを引き起こしたが、その発起人である向井秀徳率いるもうひとつのバンドがZAZEN BOYSだ。


「ポテサラが食いてえ」や「陸軍中野学校予備校理事長村田英雄」といった謎の歌詞や、ライブ中ハイボールをこさえてチビチビ飲むなど、肩肘張らないゆるーいスタイルで曲を展開していくのがZAZENの魅力。


そんなZAZENの楽曲『HIMITSU GIRL'S TOP SECRET』は、変拍子とギャリギャリと研ぎ澄まされたギターが襲い来る怪曲だ。不協和音に限りなく近いバンドアンサンブルからの絶頂は、日本の他のバンドでは味わえない魅力がある。


PCの打ち込みやサポートを入れつつ幅広い音像で楽曲を製作するバンドが多い中、彼らのような4人でドカンと鳴らすバンドは今や少数派である。気になった人はアルバムを買うべきだ。もしも「どれがオススメ?」と問われれば、「全部狂ってるからどれでもいい。とにかく聴け」と答えるだろう。

 


Zazen Boys - Himitsu Girl's Top Secret

 

 

……さて、いかがだったろうか。


ご存じの通り、今の音楽シーンはキャッチーで口ずさみやすいポップスが台頭している。例えばタイアップ重視の話題性のある楽曲やアイドルソング。更にはSNSをバズらせて音楽以外の部分でフィーチャーされるなど、訳が分からない地獄絵図だ。人前で言うつもりはないが、僕個人としては今の音楽シーンは大嫌いである。


それらを踏まえての正直な話をしてしまうと、おそらくは今回の記事を読んで「このバンドの曲最高!」と声高に叫ぶ人はほとんどいないだろうと思う。なぜならいわゆる『流行りの音楽』とは、全くもって違うから。


しかし僕は今回の記事を執筆したことに、大きな意義があると思っている。音楽というのは『入り』が大事だ。友人がカラオケで歌った歌、YouTubeのオススメで出てきた歌、CDのジャケ、SNS……。あなたにとって鮮烈な『入り』を経験すれば後の好き嫌いの判断は委ねられるが、逆に『入り』を経験しなければ何も始まらない。


思い返してみてほしい。米津玄師もU.S.A.も、あいみょんもそうだったはずだ。何かしらのきっかけがあって曲を聴き、そこから何度も触れることでいつの間にか歌えるようになり、そのアーティストの他の作品に触れ、好きになっていったはずなのだ。


今回の記事……というより当ブログの音楽紹介記事は、全てそうした『新たな音楽との出会いのワンシーン』の意味合いが込められている。


「転調?何それ嫌い」と思ってもらっても結構だ。この記事がその中の1%の人にでも刺されば、書いた甲斐があったというものである。


それでは、良い音楽人生を。