キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

まさに異次元空間。日本のサイケデリックバンド6選

こんばんは、キタガワです。


前回は女性パンクバンドについて述べたが、今回はこれまたニッチな層にしかウケない音楽、サイケデリック・ロックバンドについてまとめたいと思う。


先ずは「サイケデリックって何ぞや」という点に説明しなければならないのだが、実は現在でも明確な表現は成されていない。しかし『サイケ=幻覚のようなもの』という意味の英語から取って、総じて『なんかわからんけどヤバそうな音楽』とされている。物凄い嫌な例えをすると、『君が代』や『麻原彰晃のうた』みたいな感じ。よく聴くとぐにゃっとした感覚というか、謎の違和感や嫌悪感を覚えるような。そんな歌。


今回紹介するサイケバンドは、絶対にニッチな層にしかウケない。一生ライブハウスで過ごす可能性だってあり得るバンドだ。……というかアニソンや歌い手が評価される今の時代、間違いなくそうなる。だからこそサイケデリックバンドは少なくなっているし、存在すら知らない人だっている。


しかしながら、そんな音楽が好きな人もいるはずだ。意味不明な歌詞と、ぐちゃっとしたサウンドに心惹かれる人が。……そう信じて、今回の記事を書き進めたいと思う。

 

 

ゆらゆら帝国

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日本のロック界にその名を刻んだ、名実共に最強のロックバンドとして知られる。


気が狂いそうな轟音が数分間炸裂する地獄のような楽曲『午前3時のファズギター』、子どもが聴いたらトイレに行けなくなること請け合いの『3×3×3』など、独創性の高い楽曲を次々生み出してきた。彼らに影響を受けたバンドは数知れず、今ではロック界のカリスマ的存在となっている。


作詞作曲を手掛けるボーカル坂本慎太郎は、漫画家である水木しげるの影響を色濃く受けている。そのため初期の作品こそロックテイストが強いものが多いが、後期になると初期のような激しいサウンドは鳴りを潜め、一転してホラーかつサイケデリックな楽曲を展開するようになる。


特にアルバム『ゆらゆら帝国のめまい』、『ゆらゆら帝国のしびれ』、そしてラストアルバムでもある『空洞です』においてはそれが顕著に出ている。


『~めまい』は歌謡曲テイストでありながら、楽曲をエンジニアの子供(9才)に歌わせるといった遊び心満載のアルバムに。『~しびれ』では背筋が凍りつくようなおどろおどろしい楽曲だらけ。『空洞です』では浮遊感溢れる楽曲を敷き詰めるなど、初期とは全く異なる曲調となっている。

 

そんな彼らだが、惜しまれながらも2010年に解散。解散理由は『完全に出来上がってしまったから』とのこと。現在、坂本慎太郎はソロで活動している。現在52歳となった坂本はどんな曲を書いているかと言うと、ゆら帝以上にサイケでカオスな曲ばかりを作っているというのだから驚き。ちなみに現在は海外を中心にライブ活動をしているそうだ。一応ゆらゆら帝国の『ラメのパンタロン』と共に、そんな坂本慎太郎の曲も一緒に貼っておく。

 


ゆらゆら帝国


Love If Possible (できれば愛を ~ Live In-Studio Performance, 7/12/2016) / 坂本慎太郎 (zelone records official)

 

 

あぶらだこ

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世界を震撼させたサイケデリックバンド。不定期かつマイペースではあるものの、結成から30年以上に渡って活動を続けているベテランだ。


下の『冬枯れ花火』のPVを観ていただければ一目瞭然だが、彼らの特徴はその崩しに崩しまくった転調と、ボーカル長谷川による謎のボーカルにある。


楽曲に合わせてトントンと指で一定のリズムを刻み続けていると、おそらく世の大半の楽曲は、そのままのテンポで終わる。しかし『転調』というのは、そのテンポをことあるごとに崩し、一からテンポを刻み直さなければならない作風である。現在転調を使っていて、かつ売れているバンドと言えばFear,and Loathing in Las Vegasなどが該当するのだが、彼らと比較してもあぶらだこの転調の回数は常軌を逸している。


楽曲の定義すら曖昧にするレベルの転調に、頭がくらくらする。加えて長谷川のボーカルがまた、そのクレイジーさに拍車をかけている。彼が何を言っているかわからないと思うが、歌詞カードを見ても意味がわからない。難しい漢字だらけなので。


ちなみにあぶらだこはCDについてもカオスを極めており、7枚ある全てのアルバムに対し、同じ『あぶらだこ』という名前が冠されているため、区別が付きづらい。そのためファンの間ではそのジャケットのイラストを取って『月盤』、『亀盤』、『青盤』、『釣り盤』などと語られる。


これは余談だが、ボーカルの長谷川は島根県安来市出身。僕は島根県民なのだが、安来市は本当に何もないところなのだ(未だに自販機で普通に酒が売ってて、taspoなしで煙草が買えるレベル)。そんな環境で生まれた彼が、フジロックのメインステージを満員にしたりしていたのには、感動すら覚えてしまう。

 


あぶらだこ - 冬枯れ花火

 

 

八十八ヶ所巡礼

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2019年現在、サイケなバンドの中では最も表立って活動している存在なのではなかろうか。


彼らを紹介する際は大概、その類い稀なるバカテクギターに焦点が当たることが多い。彼らが注目を浴びたきっかけとなった曲が以下の『仏滅トリシュナー』なのだが、世のギタリスト泣かせなギターテクニックに震える。


僕は何度かライブを拝見したことがあるのだが、ギタリストの彼は手元を見ずに弾いていた。加えて他のメンバーもテクニックもずば抜けて上手く、大学生がコピーバンドでもしようものなら発狂するのでは。


年に1枚というハイペースでアルバムをリリースし、ライブもガンガン行っている彼ら。今後メジャーに出たり、大衆人気を獲得したりというようなことはほぼないと見ていいだろうが、これからも自分のスタイルを曲げずに活動していってほしいと願う。日本にはこういうバンドも必要なのである。

 


八十八ヶ所巡礼「仏滅トリシュナー」

 

 

嘘つきバービー

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〈お願い事するたび アーメンの人から犬にされていく〉

〈超能力とかそういう力ではなく セロテープ はる〉


これは『バビブベ以外人間』という曲の冒頭のフレーズである。この意味のわからない歌詞とぐにゃぐにゃとひん曲がったロックサウンドが、彼らの最大の特徴だ。


ギターはコード進行を無視して全て単音で鳴らす方法を取っているし、ベースに関しても一定のテンポで鳴らすのではなく主張強めのフレーズばかり。『ギターはコードで、ベースは主張せず』という四つ打ちロックと逆行する姿勢には驚かさせるが、これが嘘つきバービー独自の世界観として成立している。


加えて、マイクを下げ背筋をぐにゃりと曲げた姿勢で歌うボーカル岩下と、なぜか椅子に座りながら髪を振り乱すギター千布の光景も異質で、対バンライブなどでも異彩を放っていた彼ら。


現在はバンドは解散。ボーカルの岩下はロックバンド『ニガミ17才』を結成し、精力的な活動を行っている。嘘つきバービー時代は「音楽はたましか聴かない」と語っていた岩下であるが、バンド解散後は自ら音楽を聴き漁るようになったという。サイケデリック感は薄れたが、ダンサブルなロックテイストに目覚めたニガミ17才も面白いのでぜひ。あと、なぜか以下の曲がTikTokで流行っているらしい。どうした?

 


嘘つきバービー ねこ子

 

 

THE★米騒動

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Galileo Galileiやぼくのりりっくのぼうよみらを輩出した、音楽の10代限定オーディション『閃光ライオット』にて、2010年度の王者に輝いたのがTHE★米騒動である。


歌詞には多くを詰め込まず、代わりにキレッキレのバンドサウンドで勝負するスタイル。特にCD音源ではジャム・セッションのような様相を呈しており、長尺になることもしばしば。ライブ慣れしていない観客を沸かせた点を踏まえると、元の音源以上にライブパフォーマンスが素晴らしかったのだろうと推測する。


優勝を勝ち取った『Hys』では分かりやすい転調が挟まれているし、『祝女』はいつ終わるかも不明な展開にゾクゾクする魅力があった。ちなみに彼女らは常にドラムを背後に、左右にベースとギターを配置して向き合う形で演奏。一切観客の方を見ないライブスタイルを取っていたことでも話題となった。


2014年をもって無期限活動休止。ドラムス以外は、依然としてバンド活動をしているという情報すら聞こえてこないので、活動はまだまだ先になるのでは。

 


THE★米騒動 - Hys(PV)

 

 

トリプルファイヤー

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このバンドの魅力は、何といってもボーカル吉田のへにゃへにゃ具合である。


果たしてこれは素なのか、演技なのか。通常バンドのフロントマンとしてはあり得ないレベルのへにゃへにゃ感。いじめられっ子のような、社会不適合者っぽいというか。歌詞についても、全くもって意味不明。ボーカルというよりは、朗読に近い。まるで頑張って人と話している吉田の日常を見ているよう。


……だからこそ惹かれるのだ。彼はへなちょこな自分のことを誰よりも分かっていて、あえて飾らない状態で人前に出ている。そして機械的なバンドサウンドが加わることで、唯一無二の世界観を演出しているのである。こんなバンドは世界中探してもどこにもいない。


彼らに関してはぜひライブを観て貰いたいので、下の動画はライブバージョンを貼らしていただく。全力で「カモーン!」「次やったら殴るー!」と叫ぶ吉田を目に焼き付けてほしい。そしてライブに行ってほしい。

 


トリプルファイヤー「カモン/次やったら殴る/スキルアップ/おばあちゃん」@渋谷QUATTROワンマン

 

 

……さて、いかがだっただろうか。万人受けしないサイケデリックバンドの世界は。


僕が今回の記事を書こうと思ったのには理由がある。みんなサイケデリックバンドを知らないからだ。昨今の若者は耳馴染みの良い音楽や流行りの曲、タイアップのついた楽曲ばかりを好み、それがいくら脚色されたものであろうとも、何も考えずに乗っかってしまう。おそらくはサイケデリックバンドなんて、知ろうとも思わないだろう。


しかしそれで良いのだろうか?未知の領域に足を踏み入れたくはないか?既存の音楽に飽き飽きしている連中は、新たな扉を開きたくはないか?


……今回の記事を読んでどう思われるかはわからないが、僕は心からサイケデリックバンドが好きなのだ。だからこそ多くの人に知ってもらいたかった。話はそれだけだ。この記事で新たなバンドを知ったり、興味を持って貰えたのなら、書いた甲斐があったというものである。


でもまあ、嫌いと思う人の気持ちもわかる。だって頭おかしいもんこれ。ねえ。