キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】超能力戦士ドリアン『生配信無観客ワンマンライブ「画面の中からこんにちは!」』@心斎橋Pangea

こんばんは、キタガワです。

 

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……とてつもないライブだった。ライブハウスの熱量をそっくりそのまま届けることはもちろんのこと、オンライン配信だからこそ成し得る多数のギミックと演出を駆使した此度の約2時間に及ぶ熱演は、彼らの魅力を十二分に見せ付けるのみならず、ライブエンターテインメントの何たるかを明確に誇示する代物でもあった。


今回は超能力戦士ドリアン初のオンラインライブということもあり、事前に「1曲目はこれかな」「ライブが出来ない現状のメッセージを語るのかな」などと開始時の演出に様々な思いを巡らせていたのだが、そんな期待を込めたオープニングは『おーちくん(Dance.Vo)が何故か十字架に磔にされている』という誰もが予想だにしなかったトンデモ展開から幕を開けた。良く見るとバックには紅蓮の炎がメラメラと燃え上がっており、おーちくんの顔には所々煤が付着している。そして「実は僕は今、閻魔様に捕まっております。突然のことで驚かれたと思いますが、まずはライブについて諸注意をさせてください」とおーちくんが口を開くと、以降は今回のライブの録音や録画、アップロードを固く禁止すること、ライブ中は出来るだけ『#ドリアン生配信』のハッシュタグを付けてツイートすることなど、ライブにおける鉄壁のルールの数々が述べられた。


そして一連の諸注意が終わるとおどろおどろしいバックミュージックと共に地獄の番人・閻魔様の野太い声が響き渡り、恐怖におののくおーちくんを尻目に、おーちくんが地獄で磔にされるに至った主な理由と、元の世界に戻る方法が語られた。どうも以降の閻魔様の話を整理するに、おーちくんの処刑の根元的な理由は「他の2人が8週連続リリースのために曲作りを頑張っていたのに、毎日家でダラダラしていただけ。何も仕事をしていない」という堕落しきった自粛期間中の数ヵ月間の生活に起因するものであると判明し、加えて閻魔様がおーちくんのワンマンライブを実際に観て納得出来ない限り、この決定は絶対的に覆らないとした。かくして超能力戦士ドリアンによる初のオンラインライブ……ひいてはおーちくんが地獄行きを回避するための最後の手段とも言える、運命のワンマンライブが幕を開けた。


その後画面は徐々にフェードアウトし、いつしか地獄の底の光景はライブハウスへと遷移。そして満面の笑みを浮かべたおーちくんによる曲紹介と共に鳴らされた記念すべき1曲目は、名状し難い推しへの愛情にスポットを当てた“尊み秀吉天下統一”だ。

 


超能力戦士ドリアン「尊み秀吉天下統一」


《まさに尊み秀吉天下統一 沼落ち確実ホトトギス/良い物見させて頂きました/止まらない!ヤバくない?語彙力足りない》


『尊い』とはイラストやグループの推しメンバーへの好意を中心とし、今や様々な好きな人や物への愛情を端的に表す広義のネットスラング。対する『豊臣秀吉』は言わずもがな、歴史を代表する戦国武将である。このふたつを絶妙に掛け合わせた“尊み秀吉天下統一”は確かに古風な合いの手こそ取り入れてはいるものの、サウンドはキラキラのシンセサイザーを主としたあまりに現代的な代物であり、その絶妙な違和感と疾走感が織り成すアルサンブルがボルテージを上昇させていく。


超能力戦士ドリアンはギター、ギターボーカル、メインボーカルの一風変わった3人編成。故に基本的にはPCの打ち込みを大々的に使用してメロディーを形作っている関係上、ともすれば音圧が欠如した淡白な演奏に聴こえてしまう可能性もゼロではない。だが此度のライブではそうした楽器の少なさに伴うサウンド関係は一切気にならなかったどころか、後述する型破りなパフォーマンスを阻害せずストレートに楽しむ点においてはむしろ、非常に適した編成のようにも感じた次第だ。更には彼ら自身も数か月ぶりのライブということもあり、やっさん(G.Vo)とけつぷり(G.Cho)はいつになく力の入ったプレイを魅せ、先程まで絶体絶命の危機に瀕していたおーちくんも縦横無尽に動き回って軽やかなダンスを披露し、心底元気そう。終盤には両の手の平を合わせて拝む「あぁー尊い!」の振り付けもバッチリ決まり、これ以上ない最高の滑り出し。


続いては持続した熱量で次の楽曲へ移行……するかと思いきや、「いきなり僕は弦を切りました!」とのやっさんの報告により、ライブは急遽弦を張り替える時間を繋ぐためのMCタイムへ突入。


元々は事前の計画でも間髪入れずに楽曲を固め打ちする予定だったらしく、スタッフとメンバーが慌てて復旧作業に当たることに。なおギターを降ろした直後「有料ですよね今日これ!すいませんでした!」と流れるような土下座で謝罪したやっさん曰く、弦が切れるのみならず冒頭のギターリフを弾きこなした時点でチューニングも狂っていたらしく、スタッフからは「一旦おちつこう」とのカンペが出ていたという。そんな中やっさんは果敢にも「でもあのオープニングから止めれんくない?」「“尊み秀吉天下統一”はアーカイブ用にもう一回演奏しよや」などラジオのレギュラー出演で培われたトークスキルで何とか場を繋いで待機時間を感じさせない工夫を見せ付けていたが、その間も5分が経過すると自動で次曲のイントロが流れてしまうPCや予想より遥かに長時間復旧しないギターに翻弄され、いたずらに時間が経過していく。


そんなこんなでようやく弦が張り替えられ、続いては急遽この日2回目となる“尊み秀吉天下統一”へ移行。キラキラのシンセサイザーをバックに「この曲聴いたことありますよね皆さーん!」としきりに盛り上げるおーちくんに対して先程予期せぬトラブルに見舞われたやっさんはと言うと、回復したはずのギターの調子がまだ良くないらしく、ギターを弾きつつペグを回してチューニングを調節する強引なテクニックで軌道に乗せようと試みるが、楽曲の途中では遂にギターの音が鳴らなくなるハプニングも。パニックに陥ったやっさんが「音が鳴らへん!」と叫びヒヤヒヤする一幕もありつつ、何とか完奏。演奏を終えたやっさんの顔には脂汗が流れており、今回のトラブルが彼にとってどれほどの事態であったのかを如実に物語っていた。


来たる8月26日には自身3枚目となるミニアルバム『マジすげぇ傑作』のリリースを控える彼ら。今作は4月22日に発売された前作『ハンパねぇ名盤』から、何と約4ヶ月後という短いスパンでのリリースとなる。そのワーカホリックぶりを体現するかの如く、この日のセットリストは比較的新しい楽曲を広く展開しつつ、その中に彼らの代名詞とも言えるライブアンセム、更にはファンによるリクエスト曲や替え歌等独自の試みも取り入れた、大盤振る舞いの構成となった。


当然細部まで練り上げられたそのライブの興奮は画面越しにも十二分に伝わるもので、《ちょちょちょ!ちょっと待って/牛さんは食べられる側の存在/がっつりナイフとフォーク持って 紙ナプキン首に巻いて/食べる側みたいな顔しないで》と思わず膝を打つ“焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね”、様々な食材を取り上げつつ、最終的にレモン1個に含まれるビタミンC=1個分との解に着地する“レモン1個分のビタミンC”、楽器隊が演奏を完全に放棄してキレの良いダンスを繰り広げた“天保山”、教育テレビを彷彿とさせる振り付けで一体感を生み出した“ファミリーコンサート”など、エンターテイメント性と独自の着眼点を前面に押し出した楽曲を次々披露。途中途中では彼らの代名詞とも言える「興味あるー!」のレスポンスや無意識的な笑い声がスタッフから頻りに上がる一幕も含めて、『歌って踊って笑顔で帰ろう。抱腹絶倒スリーピースバンド!』との公式のキャッチコピーを地で行く和気藹々としたステージング。普段のライブをそのままパッケージングしたかの如き肉体的なライブが紛れもなく眼前に広がっていた。


今回のライブは総じて様々な趣向を凝らしたエンタメ性溢れるものであったが、特段ハイライトとして映ったのは、かねてよりのライブアンセム“チャーハンパラパラパラダイス”からの新曲“鬼は退治せず話し合うべき”の予想だにしない流れだった。

 


超能力戦士ドリアン「チャーハンパラパラパラダイス」


まずは『パラパラダンサーズ』として“焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね”で登場した牛さんと、今回が初登場となる赤鬼さんが呼び込まれた“チャーハンパラパラパラダイス”。イントロ部分の振り付け指導に移行した彼らであるが、おそらく事前に多くの練習を重ねたであろう赤鬼さんのダンスと比べて牛さんのダンスは本来高らかに腕を上げて踊る場面さえ腕を数10センチほど上方に上げる程度で、あまりに拙い。そんな牛さんが人前でダンスを披露するには明らかに不十分な状態で楽曲はスタート。だが当初は互いを思いやりつつ和やかに進行していたものの、やはり牛さんのダンスは上手くいかない。そして遂に見かねたやっさんが音を止めさせると、そこからは牛さんに対して「練習してきてなくない?体もでっかいし目立つから、踊られへんのやったらちょっと楽屋下がってもらおうかな」と強い口調で叱責。すごすごとステージ裏に去る牛さんを尻目にやっさんは「ちょっと空気悪くなっちゃいましたけど、僕たちの意識がこれだけ高いっていうのが分かっていただけたと思いますんで」とし、以降は牛さんがいない状態で再スタート。実際牛さんがいない“チャーハンパラパラパラダイス”のダンスはメンバー含め完璧な出来映えで、楽曲においてもかの名作ゲーム『ダンスダンスレボリューション』の某楽曲を彷彿とさせるパラパラ風のメロディーに乗せ、一体感のある盛り上がりを見せた。


そして終始キレキレだった鬼さんのダンスに感服したやっさんが「ほんまに牛さん出て行ってもらって良かったなー。やっぱり赤鬼さん最高ですねー!」と労をねぎらったが直後、赤鬼さんがどこからか飛んできた凶弾に倒れてしまう。物々しい雰囲気の中、映像が遷移。そこには先程戦力外通告を言い渡された牛さんが右手に拳銃を構えてステージを見つめる決定的瞬間が映し出されていた。そして鬼さんを抱き抱えたおーちくんが「うう……牛さんめー!」と怒りを滲ませて始まった次の楽曲こそ、“鬼は退治せず話し合うべき”だ。


《ダメダメダメダメ退治ダメ 話し合いで解決きっと出来るはず/鬼にもきっと家族がいるし 守るものがあって然るべき/穏便に話進めるべし》


昔話の桃太郎における鬼への不遇な扱いにスポットを当てた平和的解決を目指す“鬼は退治せず話し合うべき”は軽快なメロに乗せて進行するポップアンセム。タイトルに違わず鬼への暴力的行為にスポットを当てていた“鬼は退治せず話し合うべき”だが、楽曲が進むにつれてテーマは最終的に亀を虐める浦島太郎の展開や熊と相撲をとる金太郎にも広がり、おーちくんは歌詞でそうした『良くないシーン』が訪れるたびに腕をクロスさせ、異議を申し立てていく。ラスサビでは何故か仲良くなった牛さんと赤鬼さんが入り乱れ意思疏通の取れたダンスを繰り広げて握手、抱擁の果てに裏へ消えていった。そんなすっかり友好関係となった牛さんと赤鬼さんを見送りつつ、先程牛さんに撃たれた赤鬼さんを抱き締めていたおーちくんは「よう仲良くなれたな……」とボソリ。ごもっともな感想である。

 


超能力戦士ドリアン「ボールを奪い合う選手全員に1つずつあげたい」


以降はコメント欄を用いた多数決を試みた末、圧倒的多数の支持を受け演奏された“人見知RIVER”や意気揚々と店に赴くも一転凄まじい後悔へと切り替わる“パンケーキ量多い”、球技の根本部分をフィーチャーし、最終的に喧嘩両成敗とも言うべきまさかの主張を展開した“ボールを奪い合う選手全員に1つずつあげたい”、そしておーちくんがライブを見ていた閻魔様に認められ、晴れて処刑を免れるに至った“いきものがかりと同じ編成”と次々に楽曲を披露。


幾度も綴っている通り、今回の彼らのライブがエンターテインメント性に照準を合わせたものであったことは、紛れもない事実である。だがそんな中、極めて真剣な面持ちでストレートに思いを届ける楽曲があった。それこそが来たるニューアルバムに収録される新曲“今は曲の中やけど”だ。


《これは歌詞だからフィクションだから/曲の中でくらい/暗い事考えずに楽しい事ばっかりしたい/だって誰も困らない(平和!)》


食べ歩きや部活、帰省、花見、泥酔の果ての朝帰り、卒業式……。“今は曲の中やけど”で歌われる内容はただひとつ。それはコロナウイルスの影響により今や遠い存在となってしまった『当たり前の日常』である。今までの楽曲に顕著だったダンスやコントに象徴されるライブならではのギミックや、彼らの代名詞とも言えるシンセサイザーの打ち込みは一切なし。徹頭徹尾リアルな思いを言霊として放つ超能力戦士ドリアンの歴史の中でも異質なこの楽曲はライブの緩急を付ける重要なエッセンスとして、また今鳴らされるべき雄弁なメッセージソングとしても鼓膜を震わせていた。

 


超能力戦士ドリアン - カンデみ〜んなハッピー!【カンロ株式会社「カンデミーナ」タイアップソング】


この日のライブはその後、かねてよりのライブアンセムである“ヤマサキセイヤと同じ性別”、そして著名なお菓子と大々的なコラボレーションを果たした“カンデみ~んなハッピー!”にて大団円で幕を閉じたが、ハードな曲調のもの、世間に異を唱えるもの、演奏を放棄して踊り狂うものなど曲調も内容も千変万化な振り幅の大きい楽曲群で構成されていたものの、この日一貫していたものこそ『理屈抜きで楽しめる笑いの要素』であった。けれども同時にこの日のライブは結局は『オンラインライブ』であり、実際の彼らのライブとは大きく趣を異にするものでもあることもまた、確固たる事実として君臨している。無論この日は映像やリアルタイムのコメントで次曲のアンケートを取るなどオンラインライブならではの手法を駆使していたことも含めて、彼ら自身もそうした実情を深く理解した上でこの日を迎えていたことはおよそ間違いないだろうが、同時に彼らの画面越しに展開する場面場面を直視するたびに「ライブに行きたい」との思いが駆け巡ってしまう罪な一夜でもあった。世間からどれほど揶揄されようと、ライブに行くこと自体がある種のストレス発散になったり「○○のライブのために頑張ろう」とライブを生きる上での原動力とする人間は一定数存在する。だからこそ完全にとは行かないまでもリアルな存在証明を行い、我々の心に確かなライブ欲求をを再燃させた今回の超能力戦士ドリアンのライブは総じて今現在コロナ禍に憂う我々にとって、何よりの救済となったのではなかろうか。


此度のライブで、新型コロナウイルスの影響で延期となった『満足バロメーター限界突破ツアー2020』の振替公演として『いっぱい曲を披露しまくるワンマンツアー』と題し、10月から全国各地を巡る新たな予定を発表した超能力戦士ドリアン。今回のライブでやっさんはワンマンライブツアー開催の理由として「自粛期間中にたくさん曲が出来たから企画しました」と語っていた。確かに今回の生配信ライブは凄まじい完成度とこれ以上ない満足度でもって幕を閉じたが、やはり彼らは眼前で満面の笑みでもって楽しんでくれる人々がいるからこそ、本領を発揮するものであると信じて疑わない。


今やコロナ禍の現状をつまびらかにするシリアスな楽曲や、そんな中でも前を向こうと希望を表す楽曲が世界中で次々生まれては、見知らぬ誰かの鼓膜を震わせている。もちろんそうした音楽は今鳴るべき音楽としては適するものであろう。だが今回のライブで、彼らは証明したのだ。今だからこそ響き渡るべき音楽というのはもしかすると、今回矢継ぎ早に繰り出されたような所謂『めちゃくちゃに楽しい音楽』なのかもしれないと。


【超能力戦士ドリアン@『画面の中からこんにちは!』 セットリスト】
尊み秀吉天下統一
尊み秀吉天下統一
焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね
レモン1個分のビタミンC
天保山
あなたの街の天保山
ファミリーコンサート
おいでよドリアンランド
恐竜博士は恐竜見たことないでしょ
チャーハンパラパラパラダイス
鬼は退治せず話し合うべき(新曲)
人見知RIVER
パンケーキ屋多い
ボールを奪い合う選手全員に1つずつあげたい
いきものがかりと同じ編成
今は曲の中やけど(新曲)
ヤマサキセイヤと同じ性別
カンデみ~んなハッピー!(新曲)