キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】錯乱前戦『錯乱前戦 × BASEMENTBAR presents ベースメント・ア・ゴーゴー Vol.2』@下北沢BASEMENTBAR

こんばんは、キタガワです。

 

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アンコール含め、約30分弱。此度のライブは小バコの中に観客を敷き詰め、押し合い圧し合いで視界が斜めになりながらも汗だくで楽しむような実際のライブ体験ではなく、自室で穏やかに画面を見つめるオンラインライブという形で消費せざるを得ない現状にやきもきするような、若きロックンローラーたちによる猪突猛進的なエネルギーが吹き荒れた衝撃の一夜だった。


『ベースメント・ア・ゴーゴー』とは、かつて錯乱前戦が企画し4月1日にYouTube上で期間限定公開とした自主制作音楽番組のこと。当時は防護服に身を包み、コロナウイルスの流行と世間的な意見を注視しながらの配信となった『ベースメント・ア・ゴーゴー』だが、今回満を持して行われた『ベースメント・ア・ゴーゴー Vol.2』と名付けられたそれは、現在ある程度はオンラインライブが広がりを見せる状況下での開催となることも作用してか、晴れてかねてよりライブシーンで凌ぎを削ってきたハシリコミーズとマイティマウンテンズを招いての3マンオンラインライブが実現した形だ。会場は第1回の開催と同様、下北沢に居を構えるライブハウス・BASEMENTBAR。残念ながら新型コロナウイルスの影響で中止となってしまったが、本来ならば3月21日から始まる予定だった『「おれは錯乱前戦だ!!」リリースワンマンライブ』と題された東京初ワンマンの会場として選ばれていたのも、ここBASEMENTBAR。此度のライブに対する気持ちを彼らが最後まで言葉に表すことはなかったにしろ、当然並々ならぬ思いもそこには存在していたはずだ。


この日ラストの出順でステージに降り立った錯乱前戦。ブルースハープを吹き倒すヤマモトユウキ(Vo)のアクションを皮切りに鳴らされた疾走感溢れるパンクチューン“ロンドンブーツ”にて、若きロックンローラーたちによる粗雑かつ凶暴なライブは、その幕を上げたのだった。


《ロンドンブーツを買いにいこう そいつでドカドカふみつぶそう/ロンドンブーツを買いにいこう そいつで命をもてあそぼう》


今回のレポートを記すにあたってまず大前提として説くべき事象……それは彼らの音楽性とステージングはあまりに粗暴な代物である、ということ。極端な話、錯乱前戦のサウンドはPCを用いての打ち込みなり技術の粋を結集したリマスタリングなりでいくらでも『今風』な形に仕上げることは可能であるし、歌詞についても同様だ。ただ同時に今持ち得る全身全霊で爆音を鳴らすその初期衝動に溢れたそれは、錯乱前戦の唯一無二の個性としても確立している。事実“ロンドンブーツ”ではヤマモトによる上記の歌詞がその口から発せられた直後、あらゆるメンバーによる言語化不能な絶叫と爆音の濁流が鼓膜を震わせる、ただただ『とてつもないライブを観ている』という何よりシンプル……その実何よりも雄弁な衝撃的な感覚が、脳の内部に落とし込まれていく。


中でもカメラが重点的にアクションを追っていたのは、中心に据えられたセンターマイクを軸にがなり立てるような絶唱を繰り出すフロントマン・ヤマモト。峯田和伸チックな無骨さ、ジョー・ストラマーを彷彿とさせる不安定な立ち振舞い、ジョニー・ロットンさもありなんというマイクスタンドを利用した歌い方……。彼の一挙手一投足には先人へのリスペクトがふんだんに詰め込まれていて、極めて強いカリスマ性も感じさせる。更には歌唱中もカメラの奥を訝しむようなその鋭い眼光は常に真正面の一点を見詰めており、ギラギラとした不穏な空気を携えていた。

 


錯乱前戦 - ロッキンロール


錯乱前戦「ロッキンロール」@りんご音楽祭2018


そして“ロンドンブーツ”から一切のインターバルを挟まず、ヤマモトがマイクを握り締め「ロックンロー!」と叫んで鳴らされた“ロッキンロール”は、早くも此度のライブにおける爆発の一端を担っていた。暴力的なまでに駆け巡る爆音の洪水を、ヤマモトの猛々しいボーカルが切り裂きながら歩みを進める錯乱前戦の楽曲の中でも、極めてパンキッシュな印象を抱くに相応しい“ロッキンロール”はCD音源の時点でも圧倒的な迫力に驚かされたものだが、ライブではまた一味違った様相。楽器隊は頭を振り乱しながら鬼気とした演奏を繰り広げ、ピンボーカルとして注目を一心に集めるヤマモトは腰に手を当てたり跳び跳ねたりと、狭い空間を最大限利用しての歌唱に終始。中でもサビ直前の《ちくしょーババア覚えてろ》の一幕に関しては、ヤマモトが「ちくしょー!ババアー!ババババババババ!」と強引に絶叫し、総じてフルスロットル。ふと全体に目を配ると、ヤマモトが装着していた赤縁のド派手なサングラスはいつの間にやら吹っ飛んでおり、彼のキーアイテムとも言えるマイクスタンドは弧を描くように振り回したためか固定部分が緩み、すっかり馬鹿になっている。加えて成田幸駿(G)の絶叫は角度が急激に曲がってしまったマイクで行われており、森田祐樹(Gt)のマイクに至ってはとあるタイミングでヤマモトに奪い取られており、途中で戻しにかかっていた。一見地に足を付けた堅実な演奏に見受けられる佐野雄治(B)とサディスティック天野(Dr)も、よく見ると全身からは大量の汗が吹き出ており、その全力投球っぷりを体現していた。

 


錯乱前戦 - モンキー・オ・マンキー


その後もまるで焦燥に駆られるかの如く、矢継ぎ早に楽曲を展開した錯乱前戦。かねてよりのライブチューン“モンキー・オ・マンキー”、《僕はハンマーになって壊したいだけさ》のリフレインがぐるぐる回る“ハンマー”、未音源化の新曲“ミルクティー”、ボ・ディドリーの名曲を大胆にアレンジしたカバー曲“ピルズ”、未だ見ぬ未来に思いを馳せた“boy meets boys”……。前述の通り、彼らの此度の持ち時間は30分。ともすれば若干の物足りなさを覚えて然るべしなこの短い時間であるが、感情の赴くままに各々が楽器を掻き毟り、合間合間に各々が喉が張り裂けんばかりの絶叫を見せ付けた今回のライブは実質的な時間以上の満足度を満たす濃密な時であり、同時に「もっと観たかった」というアンビバレントな感情を抱いてしまう罪なものでもあった。


一貫して長尺のMCらしいMCは行わなかったのも彼ららしい。彼らが曲間に語ったことと言えばひとつ目に“モンキー・オ・マンキー”演奏後にヤマモトが「ベースメント・ア・ゴーゴー……」と呟いたこと、ふたつ目にヤマモトが赤いサングラスにスーツ姿の森田を指して「これは20年後に、火星に営業に行くサラリーマンって感じがしますね」と弄ったこと、そして新曲“ミルクティー”後に足元に置いたセットリストをカメラに写しつつ「今日のセトリこれで行くはずなんで、最後までよろしくお願いします」と語った程度。それ以外の時間は基本的には水分補給はおろか、チューニングさえろくに行っていなかったのが印象的だった。そう。彼らにとっては『ロックンロールを鳴らすこと』ただそれこそが何よりの存在証明に他ならない。平均年齢21歳の若きロックンローラーたちには、時間が足りないのだ。

 


錯乱前戦 - カレーライス


本編ラストに演奏されたのは、彼らの数ある楽曲の中でも最たるファストチューン“カレーライス”。例に漏れずこの楽曲も気付けば始まり、気付けば終わっている名状し難い性急さを携えていて、結論としてはヤマモトによる「オーイエー!カレーライス!」の絶叫で口火を切った“カレーライス”は僅か1分少々で楽曲を終え、彼らはステージ裏へと消えていくに至った。心に刺さる歌詞もテクニックも、更に言えば題材がカレーライスであることさえ、もはやどうでもいい。ただ頭をぶん殴られるような衝撃があればオールオッケー。それこそがロックンロール。それこそが錯乱前戦である。


そしてしばしの暗転の後、アンコールとして披露されたのは最新アルバム『おれは錯乱前戦だ!!』のリード曲に位置する“タクシーマン”。

 


錯乱前戦 - タクシーマン


《ろかたでくたばる石ころの とおい昔の伝説を/君は一生しらないで 君は一生しらないで/ぶっこわせ ペットショップ/ぶっこわせ ペットショップ/ぶっこわせ》


同じコードを連弾きする力任せのギターリフから始まった“タクシーマン”。マイクスタンドを操った弊害でマイクを顔の中心に据えずに歌ったためか、はたまた絶唱に次ぐ連続でブレスが入るためか、ヤマモトのボーカルパートが途切れる場面も何度か見受けられた。そんな中、取り分けしっかりとした響きで訴えかけるのはやはり頻繁に5人のうちの誰かが発する、犬の遠吠えや激昂状態の舌戦にも似た鼓膜を刺す動物的な絶叫だ。後半部分ではヤマモトと森田が交互に歌詞の一部である《そこでタクシーは燃える 東京は燃える》を連呼し、音量を著しく落としたアレンジで展開。ヤマモトは気だるげな歌唱とロボットダンスに加え「タタッタッタッタ……」「イェイイェイイェイ……」なるその時々における直感的な物言いを繰り出し、森田に関しても自身が歌う場面だけは真摯であるもののヤマモトのパートの場面では言葉にならない言葉を叫んでいる。そして音が次第に凶暴さを増してサビに突入する直前には、ヤマモトと森田が本来の歌詞を完全に度外視し「タクシー!」と何度も絶叫。そうして雪崩れ込んだサビは紛れもなくこの日一番のカオスを形成。壮絶な演奏を終えた彼らが脇目も振らずステージを降りた瞬間、この日のライブはまさに嵐が過ぎ去った後のような静けさに包まれたのだった。


時代に逆行するかの如き、泥臭いロックンロールに身を任せる錯乱前戦。彼らの魅力の最たるもの、それはすなわち『衝動』だ。彼ら自身がレッド・ツェッペリン、ザ・ローリングストーンズ、ザ・クラッシュなど古き良きロックバンドに多大なる影響を受けている事実が証明しているように、彼らが今より更に若かった当時、意味不明な英語の羅列で形成された洋楽に心奪われた根元的な理由は「只ならぬ衝撃を受けた」というその一点に基づくものであり、またそうした同年代とは全く異なる音楽の嗜好・ロックンロールを人生レベルでベースに置き、期せずして1998年生まれの彼らは結果として錯乱前戦を結成。そしてインターネット発の音楽やアイドルが台頭する今の音楽シーンに殴り込みをかけたのは、やはり某かの必然であるような気さえするのである。


こと海外音楽シーンでは「ロックは死んだ」と揶揄されて久しいが、年を経て変貌する様にも、期待が高まる。若干21歳の末恐ろしい若者が鳴らした此度のロックンロールは紛れもなく、悲しいかな幾年の年月を経て、歳を取り、酸いも甘いも経験した我々ロック好きにとっては、在りし日のロックへの興奮を呼び起こさせるものだった。公式ツイッターにて明言されている通り、彼らの今後の活動は主に生配信と小規模の有観客ライブをメインとするとしている。今年は新型コロナウイルスの影響により、開催予定だったライブは全て中止。1週間以上に渡って残されていた今回のライブのアーカイブも、今は消えてしまった。「人生何が起こるか分からない」とは言い得て妙で、此度の未曾有の危機により、誰しもがその格言を幾度も呑み込んだはず。だからこそ『若い』と言われる今後の彼らの活動を目に焼き付けるのは紛れもなく、今しかない。確かに言わずもがな、彼らの今後の活動は本来の理想とは趣を異にするものであろうが、その姿を出来る限り目に焼き付けておきたいと、心からそう感じた一夜だった。

 

【錯乱前戦@ベースメント・ア・ゴーゴー Vol.2 セットリスト】
ロンドンブーツ
ロッキンロール
モンキー・オ・マンキー
まばたき
ムーン
ハンマー
ミルクティー
ピルズ(Bo Diddleyカバー)
boy meets boys
カレーライス

[アンコール]
タクシーマン