こんばんは、キタガワです。
7月12日、米子laughsにて行われたThe Birthdayのワンマンライブ『VIVIAN KILLERS TOUR 2019』に参加した。
タイトルに冠されていることからも分かる通り、今回のツアーは3月20日に発売されたニューアルバム『VIVIAN KILLERS』を携えて行われるものだ。
かねてより「また来るぜ!と言ったバンドが二度と来ない」、「全国ツアーの文字を見ても心が踊らない」などとカレンダーや書籍で諦めに似た自虐が展開される山陰地方(島根と鳥取)に、毎年定期的に足を運んでくれているThe Birthday。もはや言うまでもなく日本ロックバンド界の重鎮である彼らが、こうして毎回遠方まで来てくれることには頭の下がる思いである。
夏が近付きつつあるといっても、まだまだ肌寒い時期。雨特有の匂いが鼻をくすぐる中、会場周辺は半袖のバンTを着た大勢のファンでごった返しており、10年以上に渡り最前線で活動を続けるThe Birthdayの根強い人気を改めて実感する。
会場内に足を踏み入れると、キャパシティ350人の小規模なライブハウスであるためか、そこには会場の外で待機していた人よりも更に多くの人で溢れている印象を受けた。ふと背後に目を向けれると、ステージ後方までビッシリの客入りだ。
ギターのトラブルにより、定時から少し遅れて暗転。クハラ(Dr)にヒライ(Ba)、フジイ(Gt)、そしてサングラスをかけたチバ(Vo.Gt)がステージに降り立つと、怒号のような歓声に沸く場内。瞬間、中心から前方にかけての観客が二歩三歩とステージに迫ったためにぐいっと体が押され、気付けばステージ前方まで押しやられていた。演奏開始前にも関わらず、完全なる寿司詰め状態である。
ギャリギャリのギターリフと共に始まった1曲目は『LOVE IN THE SKY WITH DOROTHY』。
『LOVE IN THE SKY WITH DOROTHY』はニューアルバム『VIVIAN KILLERS』において、最も直接的なパンクロックとして鳴っていた楽曲だ。CD音源の時点でも自然に体が動いてしまう魅力に溢れていたのだが、弦を力強くピッキングすることで奏でられる生音はやはり格別。
中でもサビ部分で歌われる「LOVE IN THE SKY WITH DOROTHY」のリフレインは名状しがたい盛り上がりを見せ、集まった観客は一様に、歌うというよりも叫ぶように熱唱していた。
The Birthday - アルバム「VIVIAN KILLERS」全曲試聴
今回のライブは『VIVIAN KILLERS』全収録曲に加え、長年ライブで披露されてきた楽曲、更には過去のシングルのB面曲といった、昨今ほとんど演奏されないレア曲も散りばめた攻めのセットリストとなった。
昨年のツアーでも同様にオリジナリティー溢れるセットリストではあったものの、昨年のツアーと今回のツアーでの楽曲の被りはほとんどなし。各地のフェスでも新曲をメインにプレイするなど、一貫して『今が一番格好いい』という姿勢を貫くThe Birthdayらしい試みと言える。
その後は間髪入れずに『POP CORN』に『THIRSTY BLUE HEAVEN』、そして過去に発売されたシングルのB面に位置していた『FUGITIVE』、『VICIOUS』と続いていく。
通常アルバムのリリースツアーというと、アルバム全体を聴き込んでいる人とそうでない人の差が顕著に出る。そのため会場内の盛り上がりにムラがあることも多いのだが、イントロが流れた瞬間に大歓声と共に体を動かす観客を見ていると、まるで「結成当初から何度も演奏されてきたのでは?」と錯覚するほど、十分に馴染んでいた。
ここまでまともなMCは一切なし。曲間も僅かなチューニングを行うのみで、メンバーのひとりとして口を開くことはなかったのだが、ここでチバがマイクに届くか届かないかの声で「米子城跡ってあんじゃん……」とボソリ。
「知ってる!」や「チバ行ったの!?」の声が挙がるものの「まあ興味ないけど……」と淡白な返答が。そして次の瞬間には何事もなかったかのように『青空』に移行するチバはいつも以上に余裕綽々で、肩肘張らないクールさに逆に痺れてしまった。
『DISTORTION』、『THE ANSWER』と大盛り上がりでライブは続いていくのだが、チバがハンドマイクで歌う『DIABLO~HASHIKA~』はこの日のハイライトのひとつだった。
〈なぁベイビーディアブロ お前の生まれた星座はさぁ〉
〈今週最悪らしいぜ だったら俺と海にでも行こうよ〉
客席に身を乗り出し、まるで語りかけるように言葉を紡いでいくチバ。独特のしゃがれ声と共に繰り出されるロックスター然とした振る舞いは魅力たっぷりで、一挙手一投足に目が離せない。
後半では演奏を止め「さあ何すっかねえ……」と考え込むライブならではの場面も。しばらく唸っていたチバだが、突然パッと思い付いたように「米子城跡でも行くかぁ」と子供っぽい笑いを浮かべて呟いたチバに、客席からは大きな歓声が上がった。
ここからライブは後半戦に突入。マラカスを振りながら陽気に歌い上げる『KISS ME MAGGIE』、コール&レスポンスで熱量を底上げした『Dusty Boy Dusty Girl』、後半が長尺のジャム・セッションと化した『星降る夜に』など、ニューアルバムに収録された楽曲を惜しみ無く披露していく。
『BABY YOU CAN』終了後、「米子の夏はどこ行くの?」とおもむろに語り始めるチバ。客席からフェスやプール、夏祭りといった単語が挙げられる中、海に興味を示したチバは「海か。まあ近えもんな」とボソリ。そこから始まった楽曲は『SUMMER NIGHT』だ。
〈いつかのサマーナイト 誰かのサマーナイト〉
〈どっかのサマーナイト LOVE YOU LOVIN'YOU〉
夏をテーマにした楽曲ということからも分かる通り、今までのThe Birthdayにはなかった、爽やかなギターサウンドを軸に展開するロックンロール。チバは時折「米子のサマーナイト」、「鳥取サマーナイト」と歌詞を変えて歌い、一夜限りの『SUMMER NIGHT』を作り出していた。
ラストはダメ押しの『FLOWER』から、シングルカットされたことでも話題となった『OH BABY!』でシメ。
The Birthday –「OH BABY!」Music Video (full size)
クハラが頭上からスティックを振り下ろした瞬間、会場内に爆音が轟いた。もちろん今までの音もかなりの音量だったが、ここに来てもう一回り上を行くギターの音色には驚きだ。そんな爆音と、全てを出し尽くすようなチバのしゃがれ声が渾然一体となり、会場内はすぐさま灼熱地獄に。
中でもサビ部分で幾度も繰り返される「OH BABY」のフレーズに至っては、チバの声量を上回るほどの大合唱に包まれた。ステージ前方は完全なる押しくらまんじゅう状態。果てはダイバーも出現するほどの盛り上がりで、完全燃焼で終幕した。
興奮が収まらないのか、アンコールを求める最中もメンバーの名前や言葉にならない言葉が口々に叫ばれるカオス状態の中、再びメンバーがステージに舞い戻る。チバの手には海外産のビール、バドワイザーの350ml缶が握られている。
バドワイザーを一気に胃に流し込み、ギターを携えたチバ。アンコール1曲目は屈指のライブアンセムである『なぜか今日は』だ。
前述したように、今回のツアーはニューアルバム『VIVIAN KILLERS』のリリースを記念して行われたものだ。そのため大半は必然的にそのアルバムから演奏され、今回演奏された『DISTORTION』や『SUMMER NIGHT』といった既存曲に関しても、いずれもシングルのB面に位置していたり数年ぶりに披露されるものが多く、観客の誰しもが「これだ!」と腕を天に突き上げるような楽曲は少なかったように思う。
そんな焦らしに焦らされた観客に対し、このタイミングでの『なぜか今日は』は悪魔的である。観客は四方八方から待ってましたとばかりに次々と前方へ進出し、気付けば特大のモッシュピットが出来上がっていた。
アンコール2曲目の『READY STEADY GO』も大盛り上がりで終了し、メンバーがステージを去っていく。しかし通常どのアーティストのライブでもアンコールが終わった時点で客電が付き、間接的に退出を促されるのだが、なぜかこの段階においてもまだ客電が付かない。
帰宅するつもりで客席後方へ移動していたファンもこの光景を受け、瞬時に踵を返し二度目のアンコールを願う拍手を送る。するとやはりと言うべきか、三たびメンバーがステージへ。ちなみにチバは2本目のバドワイザーを握っており、もう片方の手にはタバコ。タバコの煙を燻らせながら、僅かな休息へ。
またもやバドワイザーをぐいっとあおり、吸殻をぐしゃっと灰皿に押し付けてのダブルアンコール。1曲目は『くそったれの世界』である。
The Birthday - くそったれの世界 (Short Ver.)
〈とんでもない歌が 鳴り響く予感がする〉
〈そんな朝が来て 俺〉
短時間にビールを2本空けたからか、はたまたライブ中大量のドーパミンが分泌されたからか。どちらの理由なのかは分からないが、チバは頭をグラグラと動かしながら時折笑みを浮かべており、少しばかり酔っている様子。
しかしながら歌唱は非常に安定しており、力強い歌声を響かせていた。更にサビの一部分に関してはマイクを客席に向けて歌わせるなど、The Birthdayと観客のある種の信頼感と一体感を覚えた一幕でもあった。
正真正銘のラストナンバーとして鳴らされた楽曲は、ニューアルバム『VIVIAN KILLERS』内で今までに演奏されなかった最後の1曲である『DISKO』だった。
「このくそメタルババァがよ」から始まる直接的なパンクロック。僅かに暴れ足りないはずの観客には、まさに火に油である。言葉には出さないものの、チバが指をクイっと動かす仕草は「もっと来れるだろ」と焚き付けるようでもあり、それに呼応した観客たちはまるでピラニアに餌を与えたような暴れっぷりで、最終的にはこれ以上ない大団円で幕を閉じた。
開演前から分かりきってはいたが、やはり彼らのライブは圧巻だった。
ここ数年で日本の音楽シーンは大きく変化した。音楽チャートは有名アイドルやその人気にあやかった姉妹グループが上位を独占。片やロックバンドにおいてもSNS上でバズらせることで人気を得ようとしたり、他のバンドにはないエンターテインメント性に焦点を当てたバンドが増えてきた。
悲しいかな、音楽は飽和しきっている。そのため今の時代はかつてのようにある意味無骨な『純粋に音楽の力だけで勝負する』というやり方は通用しないのかもしれない。
そんな中、The Birthdayは数年前から全く自分を曲げない硬派なバンドだ。打ち込みは使用せず生楽器のみ。毎日何度も呟くようなSNS上での告知もなし。決して大衆に媚びず我が道を行くバンド。それこそがThe Birthdayである。
そして表立って口にはしないものの、The Birthdayとそんな彼らに心酔するファンは、何よりも強い絆で結ばれているのだと今回のライブで強く実感した。
今年メンバーの3人が50歳を超えたが、ますます高いハードルを更新し続けるThe Birthday。今後もライブがあれば足しげく通い『今』を体験したいと思う稀有なバンドだ。次回のライブはまた今回のライブと大きく異なるものになるだろう。次なるツアーの開催は来年か、はたまた再来年か。いつになるかは分からないが、必ず参加したいと思う。
なぜなら彼らは、『今』が一番格好良いのだから。
【The Birthday@米子 セットリスト】
LOVE IN THE SKY WITH DOROTHY
POP CORN
THIRSTY BLUE HEAVEN
FUGITIVE
VICIOUS
青空
DISTORTION
THE ANSWER
DIABLO~HASHIKA~
KISS ME MAGGIE
Dusty Boy Dusty Girl
星降る夜に
BABY YOU CAN
SUMMER NIGHT
FLOWER
OH BABY!
[アンコール]
なぜか今日は
READY STEADY GO
[ダブルアンコール]
くそったれの世界
DISKO