キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【ライブレポート】宮本浩次『宮本浩次 TOUR 2021〜2022 日本全国縦横無尽』@米子コンベンションセンター BiGSHiP

こんばんは、キタガワです。

 

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宮本浩次ソロ名義としては初となる47都道府県ツアー、タイトルはその名も『日本全国縦横無尽』。この日の会場である鳥取県・米子コンベンションセンターにはまさしく縦横無尽の活動を続ける彼のライブを一目見ようと、チケット完全ソールドアウトの会場にはコロナ対策でキャパシティを半分に抑えた約1000人のファンが全国各地から詰め掛けた。


クラシックのBGMが流れ続ける環境に身を委ねながら待つこと数十分。サポートメンバーの小林武史(Key)、名越由貴夫(G)、キタダ マキ(B)、玉田豊夢(Dr)ら今回のライブを支えるサポートメンバーが無音で配置に着くと、緩やかに暗転。絶対的主人公たる宮本がステージに現れ拍手を一身に浴びれば、次の瞬間アルバム『縦横無尽』でもオープナーに冠されていた“光の世界”が鳴らされる。ライトが淡く光る中、小林のキーボードと宮本の二人三脚で声を張り上げることもなくしっとりと紡がれる“光の世界”。そのある種幻想的な雰囲気に感嘆してか、観客は誰ひとりとして立ち上がることなく真摯に耳を傾けるよもやの幕開けにも驚くばかりだが、光の目下照らされる宮本は完全な逆光になり、宮本の表情も一切確認できない異質空間。ただ耳元で響き渡る力強い歌声が、息遣いが、シルエットが、何よりも雄弁に『この目線の先で歌っているのは間違いなく宮本である』という事実を訴え掛けてくる。

 

宮本浩次-夜明けのうた - YouTube


そして続く既存曲“夜明けのうた”のドロップでもって、会場の主導権は完全に宮本の元に移った。傍らのマイクスタンドに吊り下げてあったカンテラのスイッチをカチリと押し、それと共にまだ暗いステージの上を練り歩く。思わず彼の一挙手一投足に目を凝らしながら聴き入ってしまうが、その求心力の元となっているのは言うまでもなく歌声にあり、緩やかな助走から歌声は徐々に熱を帯び、楽器隊の面々も宮本の意志と呼応するように一体化していく。極め付けは熱が最大級に高まったここぞというタイミングで訪れたラスサビで、バックのVJが夜明けの空を煌々と映し出し、これまで朧気にしか見えなかった宮本の表情が光に照らされた。髪を時折ぐしゃぐしゃにしながら前を見据える彼を視界に収めた瞬間、涙腺が急激に緩むのを実感する。思えば「ミヤジのライブに行きたい」と常日頃から強く感じながらもなかなか遠征が難しい、というのがここ鳥取含む地方都市の悩みの種であり、特に昨年以降はコロナ禍で遠征が絶望的に難しくもなった。今回我々地元民がこの場所に訪れることが出来たのも47都道府県ツアーという大規模な試みを行ってくれたからこそであり、《ああ 町よ 夜明けがくる場所よ/そして私の愛する人の 笑顔に会える町よ》と彼の口から放たれる言葉の数々は、きっとここに集まった多くのファンがしっかりと受け止め、また感謝の思いを感じたはずだ。


今回のライブはニューアルバム『縦横無尽』を携えたツアーであることからも分かる通り、“東京協奏曲”と“just do it”を除いた楽曲群がセットリストに組み込まれた他、宮本にとって初のオリコン1位獲得作となったカバーアルバム『ROMANCE』とファーストアルバム『宮本、独歩。』、更にはエレファントカシマシ楽曲も大盤振る舞いな現時点でのベスト的全25曲、時間にして2時間30分という濃密な構成。宮本の織り成す楽曲に捨て曲などないのは当然だけれど、どこを切っても大好きな曲に当たるこの盤石さには、流石の一言である。

 

宮本浩次-異邦人 - YouTube


宮本もエレファントカシマシも、基本的に単独ライブでは2部構成+アンコールで行われることは広く知られている。もちろんこの日も例に漏れず同様の形ではあったが、1部では取り分けカバー楽曲と『宮本、独歩。』に重点を置いていたのが印象深い。中でもカバー楽曲においてはそれこそNHKのテレビ番組『SONGS』でも何度か見せていたように、破天荒な立ち居振る舞いでエネルギーを体現する“獣ゆく細道”や“ハレルヤ”といったソロ曲以上に原曲のリスペクトを込めて真摯に届ける姿勢が顕著で、中島みゆきの“化粧”、柏原芳恵の“春なのに”では自身の体を包み込むように抱擁したり、対照的に絶叫を繰り返した久保田早紀の“異邦人”、パイプ椅子を持ち込んでの岩崎宏美の“ロマンス”では限界突破の歌唱でボーカリスト然とした力を見せ付けていて、宮本の新たな1ページをこれ以上ない説得力で表していた。

 

椎名林檎と宮本浩次-獣ゆく細道 - YouTube


では『宮本、独歩。』楽曲はどうかと言うとこちらも非の打ち所がない素晴らしさで、第1部のハイライトとも言うべき瞬間最大風速を記録した“獣ゆく細道”では真っ赤な照明の下、同じく真っ赤なシャツを着こなした宮本が椎名林檎パートさえも自分の武器とした圧巻のパフォーマンスで会場の空気を掌握。声は喉の奥に存在する声帯を震わせることで生み出されるものとして広く知られているが、何というか宮本はそのずっと奥の奥……。我々の知る由もない異次元の領域から発声しているようにも感じてしまうほど、重みがある。そしてそれらの歌唱を徹頭徹尾行い続けるのが宮本であって、改めてその稀有な声質に感服してしまうのがこの“獣ゆく細道”だった。なお体を強く前後左右に動かしながら歌う宮本をこの日は多く目撃したが、重みを帯びるトーンで歌唱する際には顎を引き、高音を出す際には中腰になったり定位置を変えたりするのだな、と新たな気付きがあったことも、是非とも特筆しておきたい。


以降は大量の花びらが頭上から降り注ぎ、宮本が何度もそれを掬って宙に投げた“冬の花”、この日始めてアコギを構えて披露されたエレカシ往年の名曲こと“悲しみの果て”、サビのタイミングに合わせて多くの腕が弧を描いた“sha・la・la・la”と続き、ラストはサウンド的にも新たな扉を開けた“浮世小路のblues”でもって、全力の絶唱の後に変顔でビシッとキメた宮本の姿を印象部として第1部は幕を降ろし、暫しの休憩時間に。ちなみにこの休憩時間では各自の楽器のチューニングはもちろんのこと、大部分の時間は“冬の花”でばら撒かれた花びらの回収時間に当てられていた。総出で掃除機+人力で必死に回収するスタッフの姿に笑ってしまいつつも、ふと思う。……そう。チケット代を考えても十分お釣りが来そうなこの満足度で、まだ第1部なのである。

 

宮本浩次-浮世小路のblues - YouTube

 

 その間「次はどんな曲をやってくれるんだろう」と思いを巡らせながら待っていると、客電が明点。サポートメンバーの面々と全身真っ黒な衣装に身を包んだ宮本が再び登場し、定位置に着く。第1部では声を絞り出すハイカロリーな楽曲が多かったため少しばかり気になっていた声も絶好調のようで、ライブにおける彼の口癖である「エブリバディ!」を連発しながら矢継ぎ早に感謝を伝える宮本は満面の笑顔だ。彼が何故ここまでのポテンシャルの高さでライブを駆け抜けることが出来るのかについてはこれまでずっと不思議に思っていたが、やはり観客ひとりひとりに歌を届けたいとする宮本の思いと、そんな宮本に絶大な信頼を寄せる我々観客側との双方向的な関係性が作用しているのだなと、心底思う。

 

2部の構成は前半部とは打って変わって『縦横無尽』とエレファントカシマシ楽曲が軸になっており、なおかつその大半がエネルギッシュなライブアンセムの連続という、言わばクライマックスに突き進む特急列車の様相。中でもエレカシ楽曲4連発はある意味では宮本浩次のソロ活動の充実度を深く感じる代物でもあり、暴れ馬状態でボルテージを急上昇させた“ガストロンジャー”、代表曲でありながらこの5人でプレイするのは今回が初となる“風に吹かれて”、宮本のアコギの調べが無意識に体を揺らした“今宵の月のように”とそれら全てがエレカシとは全く異なるメンバーで紡がれていながら、良い意味で圧倒的な力を呼び起こす要因として作用。

 

今宵の月のように/エレファントカシマシ - YouTube 

 

そして何と言っても、盤石の流れから放たれた“あなたのやさしさをオレは何に例えよう”にはきっと誰もが強い高揚を覚えたはずだ。地面に落ちたスーツを幾度も拾い上げ、ステージを絶大な存在感で歩き回る宮本の姿も印象的だったが、決して絶唱にはならない絶妙なラインで紡がれる歌声にはこの日随一の決意が宿っていた。VJにサポートメンバーの名前と担当楽器が映し出されての曲間のソロ演奏も凄まじく、宮本の「ドゥッタッドゥドゥッダ!」との発語を真似してプレイする小林のキーボードや「キタダキタダキタダ!」に合わせて高速指引きを試みるキタダのワンシーンも楽しく、バックに『MIYAMOTO HIROJI/VOX』と記されてからの「そして私が総合司会の宮本です」で締め括る宮本に関しては神々しささえ感じてしまう。


その後は『縦横無尽』楽曲の固め打ち。この日一番の限界突破の歌唱で魅せた“この道の先で”、鼓膜をポップに揺らした“十六夜の月”、間髪入れずに放たれる宮本のフレーズを思わず追ってしまう“rain -愛だけを信じて-”と、今回のツアーで初披露となる楽曲が続くが、やはりアルバムで聴いた時よりも音圧、雰囲気共に当然ながら肉体的な完成度が高まっていて、CDを聴いていただけでは知り得なかったこれこそがライブの醍醐味だと、思わずグッとくる。

 

宮本浩次 - P.S. I love you - YouTube

 


稀有な空間がギュッと凝縮された本編23曲。そのラストを飾るのは『縦横無尽』収録曲で最も早くシングルカットされ、『あなた』に対してストレートに愛を歌う“P.S. I love you”だ。この楽曲で歌われる『あなた』の存在、それは単純に恋愛対象である相手では決してない。悩み苦しみ、それでも夢を追い続けながら前を向く全ての人々である。……宮本がかねてより『夢』という言葉を歌詞に多く使い、人知れず夢を抱くことの素晴らしさを幾度も楽曲に落とし込んできたことは周知の事実だが、この楽曲では初めてそうした人々を《愛してる 愛してる 悲しみの向こう/立ち上がれ がんばろぜ はかなくもうるわしき ああこの世界》とまるで愛する人の肩を叩くような優しき鼓舞で表している。これまで酷使を続けてきた声を振り絞って歌声を届け、最後は観客全員を包み込むかの如く両腕を広げた宮本は大量の光る汗に塗れ、さながら菩薩のようにも見えた。


メンバーが去った後、会場は再び暗転。ふと時計を見ると時刻は開演してからジャスト2時間であり、多くのアーティストはこの辺りでアンコールが終わって撤収のタイミング。ただまだまだアンコールは残っているため、全てを理解している観客は一様に手拍子を続けている。本来であれば「ミヤジー!」の声が所々で巻き起こることだろうが今回は発声制限のため不可能なので、それならばと全力の手拍子でその代替を図る観客たちが愛おしい。


そんな観客の思いに応えて三たび宮本とサポートメンバーが登場すると、観客は待ってましたとばかりにシュッと起立。一斉に立ち上がったため椅子が折り畳まれる音がそこかしこで聞こえるのも、ホール公演ならではだ。「今回のライブは今までのライブと比べてMCがほとんどないなあ」とは本編からずっと感じてはいたことだが、ここからは遂に肩肘張らないMCタイムに移行だ。このMCでは基本的に宮本と小林のトークが繰り広げられたのだが、いつしかトークは会場が米子であることからご当地ならではのものに。まずは大の水泳好きとしても知られる小林が、ライブ当日に皆生市民プール(米子駅のすぐそば)でひと泳ぎしてから会場入りしていたという衝撃の事実で地元民を驚かせると、宮本は「米子に来るのは今回が3回目」と切り出し、そこからは空気がうまいという話から「昔はセブンイレブンもドトールもなかったんですよ」と去るエレファントカシマシ『悪魔のささやき 〜そして、心に火を灯す旅〜』ツアー会場であった米子laughs(旧米子ベリエ)に遷移し、そこから何故か最終的には「それまでは男らしくやらなきゃと思ったりもしてたけど、『ROMANCE』で女性の気持ちになって歌を歌ったら感動して。正直あの、男とか女とかっていうのは後付けなんじゃないかと思ったりですね……(注:意訳です)」と結論するミヤジ節を展開し、温かい笑いが会場中に広がっていく。

 

宮本浩次-ハレルヤ - YouTube

 

アンコールで披露されたのは、小林との息の合った掛け合いでゆったり聴かせた太田裕美のカバー曲たる“木綿のハンカチーフ”と『宮本、独歩。』から“ハレルヤ”の2曲。「幸多かれー!ハレルヤー!」との宮本の一言から雪崩込んだこれを聴かねば帰れないソロ・宮本浩次にとって大切なキラーチューン“ハレルヤ”はそのうち極めてアンコールに相応しい一幕を担っていて、VJにMVの“ハレルヤ”同様宮本直筆の歌詞が投影される中、誰しもが思い思いに腕と体を上下させる多幸感を構築。上手くいかない人生。苦しい出来事。繰り返しの毎日。……。特に昨年から今年にかけてはコロナもあって、心身共に疲れを感じる日々を送っていたのはこの日集まったほぼ全員に共通していたことだろう。ただ“ハレルヤ”で歌われる歌詞の数々はそうした辛い時間さえもプラスに変える魔力さえも携えていて、書き殴られた宮本の字と、その前でステージを隅から隅まで、本当に『縦横無尽』に駆け巡りながら歌う彼の姿を見ていると心底「もっと頑張ろう」とも「こんなところでへこたれてちゃダメだな」と思わせる強いメッセージ性が五感を通して伝わる、そんなステージングだった。 

 

ライブに赴く意義……。僕はそんな本来至極どうでも良い哲学じみたことを、このコロナ禍に憂う1年半以上に渡って考え続けてきた。僕の暮らす島根県を含む地方都市はライブツアーの開催場所として選ばれること自体ほぼないし、県外に遠征に行こうにも感染拡大の可能性やら何やらで咎められてしまう。では高いお金を出してライブに行くよりその分を蓄えた方がいいんじゃないかとか、次第に薄まっていくライブの記憶とか、そうした事柄がしっちゃかめっちゃかに襲い掛かり、正直なところで言えば「もしライブに行くなら本当に素晴らしいライブを観たい」と、自分本位な思いを馳せる毎日だった。そして待ちに待ったこの日、ステージも音響も歌声も、総じてこの日のライブは本当に素晴らしく、個人的な『宮本浩次のファン』という括りを外して観ても紛れもなくライブ史に残る名演だった。彼が繰り返し放ち続けた前向きな意思はきっと多くの人を笑顔にさせ、また勇気も与えてくれたはずで、宮本含めスタッフの方々、サポートメンバーの方々には心からの感謝を伝えたい。(※完全な余談だけれど、NHK『SONGS』で宮本のカバーを鑑賞したことを契機に一緒に参戦した、先日癌の入院治療を終えて隣で観ていた70歳の母親が「楽しかった。一生の思い出だわ」と言ってくれたのも嬉しかったです。本当にありがとうございました)。  

 


【宮本浩次@米子コンベンションセンター セットリスト】
[第1部]
光の世界
夜明けのうた
stranger
異邦人(久保田早紀カバー)
きみに会いたい -Dance with you-
化粧(中島みゆきカバー)
春なのに(柏原芳恵カバー)
shining
獣ゆく細道
ロマンス(岩崎宏美カバー)
冬の花
悲しみの果て
sha・la・la・la
浮世小路のblues

[第2部]
passion
ガストロンジャー
風に吹かれて
今宵の月のように
あなたのやさしさをオレは何に例えよう
この道の先で
十六夜の月
rain -愛だけを信じて-
P.S. I love you

[アンコール]
木綿のハンカチーフ(太田裕美カバー)
ハレルヤ