さて、1年ぶりの音楽アルバムランキングである。昨年は音楽自体に触れる機会が少なかったので選出どころではなかったのだが、今年は一転して音楽を聴く余裕があり、心から音楽を楽しめるようになったため、再開の運びとなった。
今回は20作品ではなく10作品に絞り、簡素に紹介(というより今までが長すぎた)。気になる楽曲があれば、ぜひMVも含めて楽しんでほしい。
⑩SABLE, fABLE/Bon Iver
(2025年4月11日発売)
【6年の空白と、その歴史】
2006年結成の米バンド、ボン・イヴェール。実に6年ぶりとなる今回のアルバムは、昨年リリースされた『SABLE』と『fABLE』という2枚のアルバムを合わせた特殊な形態でリリースされた。アコースティックギターの調べに乗せて、リバーブがかった柔らかな歌声を響かせる様は過去作と比較しても良い意味で変わらない。特に今作はボンに対するファンのイメージを全く裏切らない、珠玉のミドルテンポアルバムとなっている。
一方で『SABLE』と『fABLE』の方向は、全く異なっているのも面白い。前半3曲の『SABLE』はボーカルのジャスティンが精神的に不安定だった時期に作られたものが多く、対して後半9曲の『fABLE』は少しずつ前向きになりつつある時期のものが大半を占めている。もちろん、今の彼の精神状態は後者。前作から約6年という長い時間を費やした結果見えたのは、全く色あせないポップセンスだった。
⑨I Love My Computer/Ninajirachi
(2025年11月7日発売)
【「とりあえず踊っとけば?」の精神】
ここ日本では主に櫻坂46“承認欲求”のリミックスでも知られる、オーストラリア出身のDJ・ニーナジラーチ待望のデビュー作。日本のアニメフィギュアを含め大量の私物で埋め尽くされるジャケット写真、そしてタイトルからも分かる通り、この部屋でたったひとりで作り上げたDTM楽曲が、今回の収録曲のほぼ全てである(ちなみに『ニーナジラーチ』という活動名はポケモンのジラーチから取られている)。
以下の“Infohazard”のMVにも顕著に表れているが、彼女の活動はネットミームからSNSまで、この世の様々な『とにかく面白いもの』を探求する姿勢から生まれている。ゆえに彼女にとって音楽とは「作らないと……」との仕事的な考えではなく、常に「なんか踊れるやつできた!」という楽しい遊びの延長線。となれば我々リスナーも歌詞がどうこうリズムがどうこう……といったものは一旦無視して、とりあえず踊るのが大正解なのだろう。
⑧あにゅー/RADWIMPS
(2025年10月8日発売)
【20年目で辿り着いた初期衝動】
今年、結成20周年を迎えたRADWIMPS。もはや言うまでもないけれど、“いいんですか?”や“前前前世”、昨今は連続テレビ小説のテーマソングでもある“賜物”など、活動初期から今に至るまでヒット曲を量産。紛れもなく今最も知られるロックバンドである。そんな中で届けられた今作『あにゅー』はなんと、全てこの1年の間に作られたもののみで構成!更にレコーディングについてもたった数日間で撮り終えるという、異例の速さでのコンパイルとなっている。
ボン・イヴェールの作品が6年かかったように、そもそもミュージシャンというのは基本的に、数年かけて楽曲制作に取り組むものである。ではなぜRADWIMPSは今回アルバム制作の早期決着を求めたのか……。野田がインタビューにて「じゃあ、また一から好き勝手やろうねっていうほうを選んだ」と語っているように、答えはシンプル。『俺らがやってればそれはRADWIMPSだよね』という、20年目の強い自信である。中でも一切取り繕わない歌詞が響いた“筆舌”という楽曲は、個人的に今年一番刺さった。
⑦I Barely Know Her/Sombr
(2025年11月7日発売)
【甘いマスクのポップスター、鮮烈のデビュー!】
ここまで完璧なデビュー作が、かつてあっただろうか。彼の名前はソンバーと言い、弱冠20歳にしてポップの最前線に立たんとするニュースターである。昨年の“back to friends”のバズからアルバムリリースを心待ちにする声は多かったが、今回のリリースによってチャート成績的にも、彼を印象付ける一枚になっている。
今作を覆っているのは、極上のポップネス。ただその中心を射抜く彼の歌声(ファルセットとロック的な声)で上手く差別化を図っている印象で、どの楽曲も聴くたびに異なるイメージを与えてくれる。サウンドも千差万別で、実は楽曲ごとの振り幅が大きいのもポイントだ。まるでショーン・メンデスやレックス・オレンジ・カウンティ、ルイス・キャパルディらが世間に初めて出てきたようなワクワク感。来年か再来年、近い将来にソンバーの年が来る。そう確信させる名作。
⑥Never Enough/Turnstile
(2025年6月6日発売)
【だまし絵みたいなド真ん中ストレート】
ファンがステージに上がって次々にダイブするなど、非常に過激なライブでも知られる若手パンクバンド・ターンスタイル。だからこそ長年のファンは、水色に彩られた爽やかな今回ジャケットを見て「これ他の人の作品じゃない!?」と驚いた人も多かったはずだ。ただ蓋を空けてみれば、彼らは変わらず超ラウドだった。
以下の“SEEIN‘ STARS→BIRDS”のMVに顕著だが、特に今作では『ポップに変貌した踊れるタンスタ』と『全員ぶん殴る暴力的なタンスタ』が同程度に混在した、ある意味では異様な作品になっている。これには彼らが今回シンセサイザーを導入したことが大きな理由とされるが、これまでの彼らにはなかったポップさを見せた点では、今後何年も評価される名作になっていると思う。美しい絵画に見とれていたら、突然絵がバリバリっと破れて中から豪速球が飛んできて病院送りになるような、そんな怪作。もし気になる人がいれば、このMVを飛ばさずに観てもらいたい。たぶん爆笑すると思うので。
⑤HELLO!/171
(2025年12月3日発売)
【ライブハウスからこんにちは!】
今年メジャーデビューを電撃発表した、関西を拠点に活動する171(読み:イナイチ)の、記念すべきメジャー作。平日は正社員として働き、土日の休日を使って全国へライブ行脚……という狂ったスケジュールの中生み出された今作は、明確にライブハウスへの愛を体現したロックアルバムに仕上がった。
《俺はそろそろ行かなくちゃ ライブハウスへ行かなくちゃ》と叫ぶオープナーの“LOST IN THE ライブハウス”から、続く“グレモンハンドル”で非現実的な爆音の素晴らしさを。かと思えば“SUPERSONIC”では新たな表現へチャレンジするなど、とにかく荒ぶりながら突き進むパワーに満ちた楽曲揃い。……現代のバンドは以前と売り方が変わってきており、打ち込みが多くなったり、サビをバズらせようとする動きも加速しつつあるのはご存知の通り。そんな中で「うるせー!俺はこれがやりてえんだ!」と有無を言わせず叩き付けるエネルギーが、この作品には溢れている。ロックの未来、変えてくれ。
④「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」/Tele
(2025年4月23日発売)

【壮大な音楽実験、その記録】
様々なフェスでメインステージに抜擢されるなど、音楽シーンで早くも認知されるようになったTele。そんな彼のセカンドアルバムは、アルバム媒体に収まるギリギリの尺となる全21曲。彼がこの作品でやってのけたのは、「この音を入れたらどうなるかな?」という終わりのない探求であった。
米津玄師やくるりといったアーティストが長年の活動の末、新たな音楽性を見つけるために試みるケースはある。にも関わらず、Teleの活動歴はまだ3年目だというのだから驚きだ。“初恋”ではノイズを突然走らせたり、“東京宣言”では子供の声にも似たコーラス。果ては“残像の愛し方”ではレコーディング風景の雑談も取り入れるなど、あまりにも早すぎる成熟ぶりには脱帽の一言。誇張でも何でもなく、音楽の発展という意味で日本の音楽シーンを大きく塗り替える人物になると思うし、今作はそんな彼の試みがギュッと詰まったフルコースのような、お腹いっぱいになること間違いなしの名盤。
③Gen/星野源
(2025年9月17日発売)
【賛否両論にならなかった、今年一番の驚き】
一体この変貌を、誰が予想しただろうか。先に記してしまうが、今作はこれまでの星野源のイメージを完全に取り払う危険性さえ孕んだ、今年最大の問題作である。今作で語るべきは3点あり、まずは『アップテンポな楽曲はほとんどない』こと。次に『フィーチャリング多数』であること。そしてこれは転調や変拍子が多分に含まれている理由にも繋がるが、星野源が『制作方法をギターからピアノ主体に変化させた』ことだ。
世間一般的な『星野源らしい曲』が“恋”や“SUN”だとして、あえて過激な言い方をすれば、今作は良い意味で星野源らしさが希薄である。そして最も驚くべきは、ここまでファンをふるいにかけるような実験作が、ファンに受け入れられている事実なのだ。星野源はここ数年精神的に落ち込んでおり、その結果何をやってもいいと振り切れた、というニュアンスの発言を以前していたけれど、その結果が『Gen』と題してリリースした今作なのだ。特に夜の自室で、電気を消してまどろむのにうってつけな素晴らしい作品だと思う。
②Getting Killed/Geese
(2025年10月7日発売)
【9年目の若手が辿り着いた極致】
ギースとしてのアルバムは今回で4枚目。一方で今年はボーカルのキャメロンがソロアルバムをリリースし、海外の音楽媒体がこぞって取り上げるほど、今年を代表するひとつの名盤とされた。……ではギースはどうだったのかと言えば、彼らはこれをチャンスと捉え、新たな音楽性の探求に入った。今年で活動9年目ながらメンバー全員が20代前半である若きギースにようやく、明確な追い風が吹いたのだ。
今作『Getting Killed』は変なことを言ってしまえば、掴みどころのないアルバムだと思う。ターンスタイルのように叫びたくなる衝動も、ニーナジラーチのように電子音でぶっちぎる力技もない。けれども、浮遊するサウンドにキャメロンが歌を乗せるだけで全てが完結する上手いバランスがある。加えて、今作ではいわゆる『ミステイク』から生まれた音が多いのも特徴で、ドラムが間違ってシャン!と鳴らしてしまった音をそのまま使ったり、特にギターに関してはほぼ意味のない音が随所で聴こえる。そんなきちんとコンパイルされていない雑味も、全く曲調の違う曲ごとにどんどん楽しくなってくる。何が出てくるか分からないビックリ箱のようでいて、全部が綺麗に収まっている芸術のような作品。
①kurayamisaka yori ai wo komete/kurayamisaka
(2025年9月10日発売)
【爆音で包み込む愛】
フジロックにも連続出演を果たし、今最もチケットが取れないバンドとしてのし上がったkurayamisaka(読み:くらやみざか)。彼らの初のフルアルバムは『kurayamisaka yori ai wo komete』と名付けられ、これまでにリリースしてきた代表曲をギュッと詰め込んだ作品となった。
今作は全体的な音量がデカく、一聴した瞬間にシューゲイザーの系譜をどことなく感じる。一方でメロと歌声はどこまでもキャッチー……という対比が本当に素晴らしく、全楽曲で美しさと荒々しさが同居した、一風変わった印象を生み出している。またどの楽曲も爆音ながら、歌詞にはあえて明確な意味を持たせず抽象的に済ませる点も、非常に好印象。活動初期の相対性理論や羊文学、きのこ帝国らを引き合いに出すのはアレだが、売上というもの以上に多くの音楽好きやバンドマン、音楽評論家たちの心に何年も爪痕を残すであろう、音楽シーン全体の記念碑的なアルバム。