キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ネクライトーキー『ゴーゴートーキーズ!2021』@米子laughs

こんばんは、キタガワです。

 

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去る7月15日に行われたネクライトーキーの全国ツアー『ゴーゴートーキーズ!2021』、米子laughs公演。待ちに待ったこの日が遂にやってきたのだ。…かつて足しげくライブハウスに通ってきた筆者としては生ライブ参加は約1年半ぶりであり、思えばコロナが蔓延し最初に中止となったライブもネクライトーキーだった。故に今回のライブはネクライトーキーの現在地を見極めることはもちろん、個人的なことも踏まえてしまえば現在のライブハウスはどうなっているのか、そして久方ぶりにライブハウスへと赴いた自分自身がどのような感情を抱くものなのか、そうした発見という意味でも、重要なライブになるのは必然だった。


会場前、会場に到着すると、まず目についたのは声も出さず、疎らに散って入場案内を待つファンの姿だった。今回のライブ会場に選ばれた米子laughsは真横に大きな広場があって、ライブ前はそこにファンが座ったり立ったりして談笑しながら待つ、というのが半ば暗黙の待機行動だったように思うのだけれど、そうしたことも一切なし。僕が暮らす島根県もここ米子も、どちらかと言えば『田舎』と呼ばれることが多い場所であり、ひとたびライブが行われればそのアーティストを知るファンにはちょっとした話題になるくらいにはほぼアーティストがライブに来ない場所なのだが、この静かな待機行動を見るに、やはり地方在住者にとってコロナ禍でもここをライブ会場として選んでくれた感謝と、「参加するからには絶対に感染者を出してはならない」という思いが意識的に作られている証明ではないかと思った。


しばらくすると、係員から「ではこれより入場待機列を作らせていただきます。整理番号Aの方ー」と、入場に際してのアナウンスが。ただその言葉も住宅街に響き渡るような大声では決してなく、敢えて「聞こえる人にだけ聞こえる」ようなボリュームだ。静かにその時を待っていたファンたちは声につられるように、ゆっくりと歩を進めていく。無論整理番号Aと言ってもそこには更なる番号表示がされていて、それらは参加者同士で示し合いながら入場するのは今まで通りではある。ただそこでもある種ヒソヒソ声というか、様々に考慮しながら対応していて「今までとはやっぱりちょっと違うなあ」と思うと共に、何だか嬉しくなってしまう。


並んでからも、やることが少しばかりある。まずは事前にネクライトーキー公式ツイッター等でも案内があったGoogleフォームの確認だ。これは万が一コロナ感染者が発覚した場合の参加者の追跡機能の役割を果たしていて、名前やメールアドレス、緊急連絡先を送信するだけの僅か数分で済むのだが、入場時にこのメールアドレスに届いた確認画面を提示するのだ。実際ライブハウスでの感染例というのは全国的にもないに等しいのだが、この状況下、こうした作業がひとつ挟まれただけでも安心だ。なおこの画面提示についても横着することなくスタッフがひとりひとり画面を出すまでの仮定から表示された文言までもしっかり確認してくれていたので、心底助かった。


開場時間ピッタリになり、遂にライブハウスへの入場である。今回のライブのチケットは電子ではなかったのだが、全て参加者自身がもぎるシステムらしい。ただその前には整理番号の確認もスタッフの目視できちんと行われるので、(そんなことをする人はひとりもいないだろうが)横入りなどの不正は不可能である。チケットの端を自分で切り取ってカウンターに置くと、次はドリンク代を支払う流れだ。ここでも有難いことにトレイでの受け渡しをしてくれるので、直接手と手が触れ合うこともない。ドリンクチケットを手にしてドリンクカウンターに向かうと、そこでもミネラルウォーターなど所謂『よく出るドリンク』は事前にカウンターに置かれていて、コロナ前のように注文が入ったらスタッフが冷蔵庫から取り出して……といった流れではなく、直接接触がない形に。ここでも「ありがたや」と思いつつ、ミネラルウォーターを貰ってフロアに入る。


フロアは地面に立ち位置が明確にバミられていて、両腕を広げても誰にも当たらない前後左右1メートル程度の距離が保たれていた。かなり開演より前に入場してしまったので好奇心で立ち位置全てを数えてみたのだが、何と58個しかなかった。米子laughsのキャパはスタンディングで約300であると公式でも明言されているが、同じスタンディングでもそのほぼ5分の1の収容人数ということになる。なお「最前列のファンには飛沫が飛んでしまう危険性もあるのでは?」と邪な思いも浮かんだが、そこもご心配なく。ステージと最前列のファンの距離は相当離れており(かつてのライブで言うところの4列程度は空いてるイメージ)、これならどれほど演者が絶唱しても大丈夫そうだ。


加えて、これはどんどん観客がフロアに入ってきてから気付いたことなのだが、人と人との距離が離れていることによって会話が難しくなる(友人間でも声を大きく張らないと届かない)のも隠れたグッドポイント。というのも日本人特有なのか分からないが、やはり周囲に合わせる気質を持ち合わせているので、こうした誰も喋らないような試みを取れば沈黙状態にならざるを得ないからだ。実際BGM以外ほぼ声は聞こえなかったので、集まったファンが皆「ルールを守ろう」と強い思いを抱きながら今回のライブに参加していたことは先述の通りだが、こうしたファンが何十人と集まった結果、とてつもない抑止力になるのだなと実感した次第である。


もちろん、その間も『聞こえる人にだけ聞こえるボリューム』のアナウンスも徹底して行われていて、「フロアの立ち位置から離れることはお止めください」といった案内はもとより「最前列のお客様に関しましては前に貼られたテープより前には絶対に出ないでください」とのお達しが。そしてそうした距離的ルールを伝えられるたびに目線と足を移動させ、改めて距離を確認する観客たち……。ルールを守って最高のライブを楽しもうとみんなが必死で、もうこれだけで泣きそうになってしまう。なおこうした距離的なアナウンスに関しては開演時間の5分程前になると再度、今度はスピーカーでの案内もあったので聞き漏らすこともなくありがたい。


前置きが長くなったが、ここからが本題となるライブレポートである。開演時間を5分程過ぎ、緩やかに暗転した会場内に響き渡ったのはコツコツと鳴る足音で、次第にその足音に合わさるように鈴の音やお湯を注ぐ音、更には「ようこそ」の声がぶつ切りにサンプリングされたSEと共に、もっさ(Vo.Gt)、カズマ・タケイ(Dr)、中村郁香(Key)、藤田(Ba)、朝日(Gt)の順にステージ入り。今ツアーのために髪を金色に染めたタケイや、左足部分のみざっくり空いたファッションの中村も印象的だったが、中でも驚いたのは髪の先端を紫に染めて海外産のビール・コロナエキストラのTシャツを着用したもっさの姿。「コロナ禍の時期にステージ衣装にこのTシャツを選んだ意図は一体……?」という疑問も浮かんだが、結局最後まで説明は一切なかった。ただこうした天然ぶりも含めて、これぞもっさである。


ネクライトーキーMV「気になっていく」/ NECRY TALKIE - Kininatteiku - YouTube


SEが鳴り止むと、楽器を繋いだアンプによるジー……という心地よいノイズが鼓膜の準備運動を進める中、目を瞑ったもっさが声を張り上げるとその瞬間、爆音がライブハウスを包み込んだ。1曲目に選ばれたのはニューアルバム『FREAK』でもオープナーに冠されていた“気になっていく”である。体重を乗せてリズミカルなドラムを鳴らすタケイ。軽やかな打鍵でまるで歌うように音を紡ぐ中村。ヘッドバンギングを繰り出しつつも地に足着けた低音で全体を支える藤田。同じく激しく動きながら圧巻のリードギターを展開する朝日。時折右斜め前に視線を移しながら歌詞を丁寧に届けるもっさ……。ふと周囲に目を向けると、腕を突き上げたり音に身を任せてゆらゆら揺れたりと、皆声さえ出せないまでも思い思いの楽しみ方で没入している。一様にマスク姿なので表情こそ見えないまでも、きっとそのマスクの下は満面の笑顔のはず。かく言う自分自身もゆっくりとあの素晴らしい日々が戻ってくる感覚に陥り、心底「ライブハウスに帰ってきたんだなあ……」と感慨深い気持ちに。気付けば眼前は靄がかかったようにぼやけていた。


今回のライブは『FREAK』リリースツアーということもあり『FREAK』における“夢を見ていた”以外の全楽曲が組み込まれた他、記念すべきファーストフルアルバム『ONE!』と、音楽性の探求に勤しんだメジャーデビューアルバム『ZOO!!』からの楽曲も点在する磐石のセットリスト。中でもやはり注目すべきは最新作『FREAK』の楽曲群であり、この自粛期間に今まで以上に1曲1曲を時間をかけて作り上げ、また更なる飛躍を目指したこのアルバムがどのような形で届けられるのかが焦点のひとつだったように思う。そして端的に結果から述べてしまうならば、『FREAK』の楽曲はとてつもなくライブで化けた。今回の参加者はおそらく誰しもが「そう!これがライブだよ!」との圧倒的な言語化不能の興奮を抱えて帰路に着いたものと推察するけれど、その一端を担っていたのは間違いなく『FREAK』の楽曲群だった。

 

ネクライトーキー MV「オシャレ大作戦」 - YouTube


ファズギターをスライドバーで掻き鳴らしたタイトルに偽りなしなアルバムリード曲のひとつ“はよファズ踏めや”、MVと同様の動きで演奏するメンバーに思わず笑みが溢れてしまう“北上のススメ”と続けば、代表曲“オシャレ大作戦”をよもやの「ここで来たか!」なタイミングでドロップ。ただそれまでのライブでもMVと同様の「5・4・3・2・1・FIRE」というフレーズをメンバー全員が絶叫して雪崩れ込むのが恒例なのだけれど、今回は直前に朝日が絶叫したからか、冒頭の「ファーイブ!」と叫ぶ時点で既にメンバーの何人かが現数字が分からなくなってしまい、そこから「FIRE」までを最終的に全員が「ヴェー!」や「ヴァー!」で無理矢理力技で乗り切ってのスタートだ。タケイと中村のソロ演奏もさることながら、今回のライブがファンとの距離が近いこともあって場面場面でエフェクターを踏み替える朝日の姿や、事前にサンプリングした「ジャン!」と鳴る音や歓声をここぞというタイミングで鳴らす中村の指使いも確認できた。後に披露されたタケイがサンプリングパッドを叩いてイントロを鳴らした“踊る子供、走るパトカー”、藤田がシェイカーを振ってサウンドに彩りを加えた“カニノダンス”もそうだが、総じて今回のライブが同期を使わない正真正銘の『生ライブ』であることを証明していたのも感動した。終盤ではもっさが歌詞の一部を《米子でヘヘイヘイ》に変化させ、中村いわく「朝日さんの残像が見えた」程の圧倒的な盛り上がりで終了。


徹頭徹尾、幸福な時間で満ち溢れた今回のライブ。その中でも敢えてハイライトと称すべき瞬間があったとすれば、それはおそらくライブならではのアレンジが頻発した結果原曲を遥かに超えた長尺で展開された“許せ!服部”の一幕だろう。まずはもっさが何やら口を『ホ』の字にして首を傾げつつ、視線を宙にさ迷わせる。するとうっすらと聴こえてくるのはギターとおぼしき単音の連続であり、よくステージを見回すと前だけを見据えて指だけを動かす朝日のギターがその音の出所らしく、それに気付いたもっさが朝日に近付き、朝日のピックに当たらないよう気を付けながらギターのボリュームノブをゆっくりと回すと次第に鮮明に聴こえるリズミカルなサウンド。この時点でようやく観客誰しもが、次なる楽曲は“許せ!服部”であると認識する。

 

ネクライトーキー LIVE「許せ!服部」 - YouTube


ここからはもっさが《会計はアイツにつけといて》と歌唱した際にファンのひとりを指差した以外は概ね、CD音源と同様の進行。けれどもそんな“許せ!服部”は1番のサビが終わり、朝日が「騒ぐな服部ー!」と絶叫した瞬間から突如として高速化。そのまま圧倒的なスピードでサビまで突き進むと、またもCD音源と同様のBPMへと逆戻り。大化けしたのはここからで、ある場面でもっさが抱えていたギターを何故かスタンドに立て掛け、いそいそと舞台袖へと移動を始める。観客が疑問に感じたのも束の間、何やら両手に大きなプラカードを持って戻ってきたもっさ。よく見ると青のプラカードには『CDver』、赤のプラカードには『ライブver』と記されており、もっさはステージを指し示しながら『CDver』のプラカードを指差している。これはおそらく状況を鑑みるに「今はCDバージョンを演奏しているよ」ということだろう。お次はそれを背中に隠して『ライブver』のプラカードを観客に見せると、再び首を傾げる。「じゃあこのバージョンをやったらどうなるかな?」ともっさが無言で我々に告げているのが分かる。


丁寧な説明も終わったところで、ここでくるっとステージに向き合ったもっさ。メンバーに見せているのは『CDver』で特段変化はないが、パッとプラカードを『ライブver』に変えた瞬間、どしゃめしゃな演奏に変貌。そしてまたも『CDver』に変えると、またゆっくりしたテンポに……。以降もっさはこの作業を何度も繰り返してメンバーを翻弄させ続けていたが、どうやらこのタイミングは完全にもっさの判断に委ねられているらしく、メンバー全員がもっさの手元を凝視しながら都度BPMを変えていく。もはや参加者の我々としては笑うしかない鬼畜スタイルだが、バンドの主導権を握ったもっさはこの日一番の満面の笑顔である。なおこれだけに留まらず、後半ではふたつのプラカードを水平にすると更にサウンドが変わる手法も取り入れていて、しまいには常に『ライブver』を持ったもっさが賑やかに振る舞う中、お立ち台に乗った藤田と中村(このときはショルキー演奏)がソロを繰り広げる場面を経て、ラストはプラカードをスタッフに返却しての全面『ライブver』状態。あまりの衝撃に、演奏終了後には大勢の拍手が会場を包み込む盛り上がりとなった。


ここで一旦のブレークで、この日初となる長尺のMCへ突入。今回ここ米子(鳥取県)でのライブはネクライトーキー史上初であり、当然ながら大半のメンバーも初めて足を踏み入れたそうだが、唯一もっさだけは幼少期に一度だけ鳥取砂丘に行った経験があるらしく、それ以外にも何と鳥取県に存在する会社・大山乳業農業協同組合の有名商品である白バラ牛乳の瓶タイプをもっさの実家では定期購入していたという。 なおタケイについてはこのライブの前日に白バラのカフェオレを飲んでいたというが、正確にはその商品は『白バラ牛乳』ではなく『白バラこだわりカフェオレ』。故に「じゃああれが白バラ牛乳だったんだ!」とひとり納得するタケイに対していろいろと思うところのある鳥取県民たち。けれども発声が制限されているために「確かに白バラ牛乳ではあるけど、タケイさんが飲んだのはそのカフェオレバージョンです!」という複雑な解を告げることが出来ず、集まった観客は頷く人もいれば首をブンブン振る人もおり、更なる混乱に陥るタケイ。こうした笑いもコロナ禍ならではだ。


そして「そんな白バラ牛乳のおかげで私はここまで背が……」と語るもっさの身長に対し身長の高い藤田が真横に並ぶ形でオチがついたところで、朝日が「体に良いものがあれば悪いものもあって」と「凶悪な音を出したい」との思いで最近購入したという自身の持つクリームっぽい白色のジャズマスターを指しつつ、ジャズマスのギャリギャリサウンドが耳を打つ“豪徳寺ラプソディ”、緩やかな“思い出すこと”からシームレスに続いた“大事なことは大事にできたら”、朝日と藤田による別バンドであるコンテンポラリーな生活の楽曲をモチーフとした“続・かえるくんの冒険”と、再び『FREAK』からの楽曲を次々投下。

 

ネクライトーキーMV「続・かえるくんの冒険」/ NECRY TALKIE – FROG QUEST Ⅱ - YouTube


中でも印象的に映ったのは、ニューアルバム『FREAK』の楽曲内では最も早くからライブで演奏され、MVも公開された“続・かえるくんの冒険”。演奏前、朝日は「皆さん、RPGはやりますか?僕は好きでよくやるんですけど……」と前置きしつつ「仲間を連れて全国を旅する、スキルもなければ顔もよくない自堕落な男。そんな彼がなぜ未だにゲームオーバーにもならず旅を続けることができているのか。そうしたことを曲にしてみようと思いました」とこの楽曲に含まれた意味について語っていた。そしてその主人公が率いるパーティーとはつまり、朝日にとってのバンドでなのだろうと思う。


実際自分が今までコンテンポラリーな生活のライブに参加したときもそうだったが、朝日は演奏中は激しい動きで翻弄する一方でMCでは言葉を慎重に吟味するためか、ある種訥々と語ることが多い。個人的にはかつてコロナウイルスが蔓延し始めた昨年の春頃に朝日が呟いた「ライブハウスは人が密集…?おかしい…俺が必死でやっても人生の大半をガラガラのライブハウスで過ごしたこの記憶は一体…?」というツイートが印象に残っているのだけれど、これが以前のバンドであったとするならば朝日にとって、軌道に乗るネクライトーキーはRPGで言うところのセーブデータを引き継いだ2周目……。1周目とは違うまた新たなパーティーメンバーで編成を組み、今までとは違う道程で進んでみようという探求なのだろう。彼の綴る歌詞についても、これはコンポラでもネクライトーキーでも、遡れば石風呂名義で活動していたボカロP時代の楽曲にも言えることだが、曖昧模糊な想像上のストーリーに自身の心中を含むものが大半を占めている。そうした視点でこの楽曲を見てみると、その中心的な内容こそ勇者の冒険をモチーフにしているけれども《愚かさに目を背けないままいてたい》や《嵐で荒れた道を歩く足跡があった》といった歌詞からは、今までの経験を経てネクライトーキーという新章を日々進めていこうとする、朝日の強い心情が見えた気がして思わず感動した次第だ。


“続・かえるくんの冒険”を終えると、おもむろにもっさから今日初めてネクライトーキーのライブを観た人を確認したいとの申し出が。この後に語られたことだが、もっさはライブに参加してくれた観客については積極的に記憶するようにしているようで、この日のライブはもっさもほとんど見たことのない人が多いから、とのこと。そこで試しに「今日ネクライトーキーのライブ初めて観た人ー」と挙手を促すと、何と4分の3にも及ぶ観客が挙手し「どおりで見たことない人が多いと思った……」と体を反って驚くもっさ。……ということはやはり、この前日に広島でのライブがあったことも考えるとここに集まった観客の大半は山陰地方(島根と鳥取)から赴いたことの証明だ。そこからは普段回ることのない地域を回ることの大切さについて語るメンバーたちだが、そうしたMCを聞きながら思わず「そう!地方民としては本当に嬉しいんです!ありがとうございます!」と叫びたい衝動にも駆られるが、ここはグッと我慢である。

 

TVアニメ「カノジョも彼女」ノンクレジットOPムービー/ネクライトーキー「ふざけてないぜ」 - YouTube


そして朝日が「今回やった曲はCDと違うアレンジでびっくりした人も多いと思います。CDもいいけど、やっぱり生ライブの良さをぜひ持ち帰ってください」と語ると、もっさがおもむろに「生ライブの良さを持ち帰る……。その言葉ええなあ。持ち帰ると言えば実はネクライトーキー、『カノジョも彼女』というアニメ飲むオープニングテーマを担当させていただくことになりまして。まだ(公式では)前半しか聴けないんですけど、生ライブでフルでやっちゃっても良いですか!」との嬉しい宣言から新曲“ふざけてないぜ”を。クライマックスに向けて畳み掛けんとばかりに朝日のワウペダルがコール&レスポンスの代替を果たした“誰が為にCHAKAPOCO”は鳴る、ファーストフルアルバム『ONE!』から“レイニーレイニー”と“こんがらがった!”が届けられると、もっさが「ありがとうございました!最後の曲です、Mr.エレキギターマン!」と叫ぶと、本編最後の楽曲として“Mr.エレキギターマン”が勢い良く鳴らされた。


中村が両手を忙しなく動かすイントロで雪崩れ込んだ楽曲は約3分間、猪突猛進的な激しさを携えて突き抜けた。メロでは藤田がパーの形に開いた手の平に全力で拳を打ち付けながらハンドクラップを要求し、タケイは前傾姿勢でドラムを乱打。朝日も激しいヘッドバンギングを繰り出しながらギターを暴れ弾いている。ふと周囲の観客に目を向けると、着用しているマスクがズレるのか、指で何度か微調整する姿も確認出来たけれども、これは口を動かしながら『無声の熱唱』をしていたからに他ならない。徹頭徹尾脳内の感情が「楽しい」一色に染まってしまう程、幸福な時間だ。集まった誰しもの表情と口と耳を爆音で蹂躙した演奏終了後には、全ての力を出し尽くしたようにほぼ無言で一旦袖に引っ込んだメンバー。よく見ると朝日は激しく動きすぎたためかストラップの摩擦によりすっかりシャツがよれ、首元は僅かに赤みがかっていたが、それほどの全力のパフォーマンスであったことが伺えた。


本編は終了したが、ライブはまだ終わらない。メンバーが全員退場した後、自然発生的に巻き起こったのはもちろんアンコールを求める手拍子である。それも決しておざなりなものではなくほとんどの観客が胸より上に上げての拍手を試みていて、スマホを弄ったりする人も皆無。如何にここまでのネクライトーキーのライブが素晴らしいものだったのかを間接的に伝えていた。そこから程なくして再びステージへと舞い戻ったメンバー。ただ興奮しきりの観客たちによる拍手はメンバー全員が定位置に着くまで鳴り止む気配すらなく、意を決してもっさが『笑っていいとも!』のタモリよろしく『パン・パパパン』のリズムで拍手を静めようと試みるも不発。結果もっさのアンコールの第一声が「えっ……みんな(この拍手の止め方)知らんの……?」になってしまうという、ある意味では最高のスタートである。


その服装も本編とは様変わりしており、もっさは『ロゴワッペンBIG T』を、それ以外のメンバーは今回のライブの物販で販売されている『FREAKツアーTシャツ』のライトブルー色を着用。そこからはもっさ主導で怒濤のライブグッズ紹介が行われ、『ロゴワッペン BIG T』など一部のグッズはメンバーがパソコンで地道にデザインの基盤を作っているという裏話の他、新作グッズの『LIVE ENJOY PASS』は適当な場所に貼り付けてもらうことで、何年後かにふと見付けたときに「こんなライブもあったなあ」と思い出してほしいとの思いから作られたものであることや、もっさお気に入りの『こだわりボディバッグ』がバックの紫色が思っていた色合いより少し明るかっために、もっさが「伝えたのと違うじゃないですか!」と朝日いわく「業者とバチバチにやり合った」逸品であることが伝えられた。ただそうした一幕さえ「私けっこう怒ると怖いタイプやから……」と隠された一面を語るもっさに対して、朝日が「怒ってるのかふざけてるのか分からん」として笑いに変化させると、気を取り直してアンコール楽曲披露へ。

 

ネクライトーキーMV「明日にだって」 - YouTube

ネクライトーキーLIVE 「明日にだって」/ NECRY TALKIE - Ashitani Datte (Live at TSUTAYA O-EAST) - YouTube


アンコール1曲目に選ばれたのは、もっさが作詞作曲を担当したライブアンセム“明日にだって”。本編を終えて肩の荷が少し下りたからなのか、メンバーも先程の“Mr.エレキギターマン”と比べれば幾分地に足着けた演奏に終始しているし、観客についてもアンコールの拍手とその後のMCで一旦熱量がフラットになっている。ただそれは決してダウナーな雰囲気という訳ではなく、取り分けネクライトーキーの中でもシンプルに心情を歌った“明日にだって”の歌詞によりフォーカスを当ててしっかり届ける意味で、気負いし過ぎず楽曲に耳を傾けることが出来るこのアンコールでの披露は最適解だったように思う。


そして正真正銘最後に披露された楽曲は、もっさによる「最後の曲です!遠吠えのサンセット!」との一言から、これを聴かなければ帰れない“遠吠えのサンセット”だ。まずは原曲と比べてBPMをかなり落としたアレンジから歌声とサウンドを緩やかに響かせるも、サビに突入した瞬間に一気に早くなり、2番に入れば再び緩やかなスピードに戻っていく。その際にもっさが満面の笑顔で叫んだ「また米子でライブしたいです!」との言葉は、きっとこの1年半にも及ぶ自粛期間中、都市部で様々行われてきたネクライトーキーのライブ参加を断念せざるを得なかったこの日山陰地方から訪れた観客にとって、とても感動的に映ったことだろう。そうした思いすら携えて楽曲はますます熱を帯びていき、スピードアップした後は朝日がストラップを基軸とし、もはやマイクスタンドやアンプにぶつけんばかりの勢いでギターを振り乱しながら感情が肉体を凌駕したようなカオスな演奏をお見舞い。そして終盤10秒間は当初のゆっくりしたスピードからはおよそ2倍速程度上がってのどしゃめしゃな演奏になり、ラストは全員がジャーンと鳴らすタイミングを変顔をかましたタケイが意図的に数拍ズラす形で終了。演奏が終わり、全員がステージを後にする中、もっさが双眼鏡の形に構えた両手を目に当てながら客席を見渡し「(みんなの顔を)覚えたい……」とじっと見ながら、あまりに興奮なライブは終幕した。

 

ネクライトーキー「遠吠えのサンセット」一緒に視聴動画 - YouTube


……待ちに待った1年半ぶりのライブに際して、正直な気持ちを語ってしまうと、後ろめたい気持ちもあった。実際、家族や友人らに今回のライブに参加することを伝えると皆一様に反対したし、そこには隣県と言えどこのコロナ禍において県外へ遠征することの危険性が一番だろうが、やはりどこかライブハウスという場所に対してのある種の『不要不急』さと、昨年春あたりにメディアで取り沙汰されていたような『ライブハウス=三密』のイメージが強いことも影響していたように思う。……この1年半「ライブに行きたい」と半ばうわ言のように周囲に語るたび、様々な反対の声が飛んできた。「今は止めといた方がいい」「オンラインで良くない?」「声も出せないしモッシュも出来ないライブって楽しいの?」等々。だが最悪、自分だけが感染する可能性があるのならばまだいいが、もしも感染してしまった場合、同居する家族や親しい友人、勤務先にも多大な影響が及び、後ろ指もさされてしまう。だからこそライブに行きたい思いを1年半必死に押し留めていたし、特に今年に入ってからは全国各地でやっとアーティストによるライブツアーが多く開催されファンが感謝の声を上げる中で、アーティストもほとんど来ない田舎でじっと待ち続ける辛さもあった。ともあれ大人の身だ。未だ収束の見通しの立たないコロナ禍で、今まで通りライブを我慢し続けることも出来るだろう。ただこのままライブに行かなかった場合、何か自分にとってとても大切な何かが消えてしまう気がしたのだ。


翻って、5月15日。僕はある意味では度重なる忠告も世間体も無視して、この日ライブに参戦した。そしてその記念すべき1年半ぶりのライブがネクライトーキーだったことは、何よりの最適解だったように思うのだ。何故ならそのライブはこれまで長々と綴ってきたように「音を届けたい!」と尽力する演者と、様々な制約を遵守しながら躍動するオーディエンスが作り上げる素晴らしい一体感……つまりは生ライブとして爆音を浴びることの出来る幸せを強く強く感じた、とても偶然の一言では片付けられない運命的な代物だったから。


……随分と久方ぶりに経験するライブ余韻に浸りながら帰路に着く。始まる前は「号泣してしまうかもしれない」と覚悟していたものだが実際はそんなことはなく、表面上は至ってフラットだった。だが心の中ではいろいろな興奮が渦巻いていて、その言語化不能の感情こそが生ライブの素晴らしさなのだと改めて感じた。次のライブがいつになるかは分からないが、早くその時が訪れてほしいと願う。……そう。やはり音楽は、ライブは、不要不急なんかじゃないのだ。


【ネクライトーキー@米子laughs セットリスト】
気になっていく
はよファズ踏めや
北上のススメ
オシャレ大作戦
踊る子供、走るパトカー
カニノダンス
ぽんぽこ節
八番街ピコピコ通り
俺にとっちゃあ全部がクソに思えるよ
許せ!服部
豪徳寺ラプソディ
思い出すこと
大事なことは大事にできたら
続・かえるくんの冒険
だけじゃないBABY
ふざけてないぜ(新曲)
誰が為にCHAKAPOCOは鳴る
レイニーレイニー
こんがらがった!
Mr.エレキギターマン

[アンコール]
明日にだって
遠吠えのサンセット