こんばんは、キタガワです。
アカデミー賞授賞式が先ほど終了した。名だたる映画5作品のうち、最優秀作品賞は『万引き家族』と相成った。
今回はそんなアカデミー賞授賞式についての話。受賞した5作品を全て鑑賞した僕個人の視点から見た、今年のアカデミー賞について語りたいと思う。
空飛ぶタイヤ
池井戸潤の同盟小説を題材とした映画であり、かつてはドラマ化もされた人気作である。
ストーリーとしては『自動車外車のリコール隠し』という、社会の闇に鋭く切り込む社会派ものだ。実際映画の動員数もまずまずだったし、『永遠の0』や『チアダン』の脚本を手掛けた林民夫がシナリオを作成したことからも、大きな話題を呼んだ映画だった。
映画内ではまるで映画のお手本のような、スピーディーかつ要点だけを押さえた作り。それこそだらだら続く冗長な映画とは対極に位置する形であるため、全体通してのスッキリ感は抜群だった。
だがひとつだけ問題だったのは、コンパクトにしすぎて人間模様を密に描けなかった点だ。登場人物が多いこともあってか、ストーリーとしては完璧なのだが、「誰が印象に残ったか」と問われると首を傾げてしまう部分もあった。
今回の授賞式内では司会者の西田敏行が、「○○のシーンが良かったね」などと語りながら進行する場面が多かったのだが、取り分け『空飛ぶタイヤ』の受賞者に関しては、ほとんどストーリーについては触れられなかったのが印象的だった。
多くの人にスポットが当たりすぎたあまり、ひとりひとりのキャラクターが薄ぼんやり見えてしまう。これは間違いなく今回のアカデミー賞においては、ひとつの粗であったろう。
更に深読みをさせてもらうと、物語上では三菱自動車をこき下ろすシーンも多かった。もし『空飛ぶタイヤ』が大賞を授賞したとなれば、今後ロードショーでも放映しなければならなくなるわけで。そうなると三菱のCMはどうしても流しづらくなる。それらの点も考慮してのこの結果なのかな、とも思う次第である。
北の桜森
この映画に関しては前述した『空飛ぶタイヤ』とは完全に真逆。人の心理や表情、北海道の風景を鮮明に描写することで、主人公及び母親に感情移入させるように作られている。
そのため物語上の言葉数というのは、どちらかと言うと少なめだ。その代わりに吉永小百合と堺雅人の演技力でもって、間接的に観客に意味を分からせる手法を取り入れている。『雰囲気映画』とも言おうか。
母親とのすれ違いや葛藤を描き、それをラストに向けて徐々に膨らませていく作りは圧巻。若年層には刺さらないだろうが、30代を越えた層の心には重く突き刺さる。そんな映画だ。
この映画が最優秀作品賞を逃した理由はひとつで、ただただ他の3作が強すぎたためであろうと思う。話題性で全国の映画館を満員御礼にした『カメ止め』、ストーリーの観点から観ると最も意外性があった『孤狼の血』、そして偽りの家族愛を描いた『万引き家族』……。
これらと比較すると『北の桜森』は、どうしても劣って見えてしまう。大多数の人が思っていただろうが、話題性やストーリー展開を鑑みるに今年のアカデミー賞は、完全なる三つ巴状態にあった。よって入り込む余地はそもそもなかったのではと思うのだ。
僕は映画館で号泣したクチなのだが、泣ける映画が授賞するのかと言われるとそうでもないだろうし。
カメラを止めるな!
『話題性』という観点から見れば、昨年最も人気を獲得した映画ではなかろうか。300万円という低予算で作りながらも30億超えの興業収入を記録した、文字通りのバケモノ映画である。
映画を観た人は分かるだろうが、とてもチープな雰囲気に満ち溢れた映画である。血のついたシャツは血糊をぶち撒けた後に天日干しで乾燥させ、子どもを抱くシーンは監督の実際の子どもを使う。出番が終わった俳優は裏方に回って撮影の手伝い……。これほどのDIY映画、観たことない。
この映画は脚本が90%を占める映画だと思っている。僕自身この映画は劇場で4回観ているのだけれど、映画に精通した観客でも、このストーリー展開には唸るはずだ。別に難しいことは何もやっていない。しかしながら誰も考えもしなかった仕掛けがいくつも盛り込まれているため、「やられた!」と思った映画関係者は多いだろう。
しかし逆に、脚本に疑問が生まれた時点で、この映画は瞬時に破綻する。そう。かの盗作疑惑事件である。
あの事件は解決済みとされてはいるが、アカデミー賞審査員の心には膿を残しただろう。脚本ありきの映画の脚本が他者の盗作だったとなれば、話は大きく変わってくるからだ。実際今回の授賞式では、今作品の監督である上田監督は監督賞のみの受賞に終わり、それ以外の賞で壇上に上がることはなかった。
もしもこの映画を最優秀作品賞に選んだら、絶対にアカデミー賞は批判されるだろう。何せ盗作疑惑と詐称だ。今後のアカデミー賞の在り方も問われる結果になりかねない……。それを危惧したアカデミー賞サイドは、いろいろ悩んだ結果『カメ止めは最優秀作品賞に選ばない』という選択を下したのではなかろうか。
孤狼の血
R15の任侠映画で、撮影場所は広島県呉市。罵詈雑言と暴力が交差する、男らしさ満点の作品である。
まず冒頭2分で直視できないシーンが続く。この時点で耐性のない人なら、絵面的にも精神的にもズタズタにされるはずだ。
しかし見続けるうちに、この映画の完璧なストーリー展開に目を疑うことだろう。これはヤクザ映画ではない。最高峰のミステリー映画だ。中でも後半30分の展開は、まるで映画の教科書の如き素晴らしさがあった。僕個人としては今回の5作品の中でも、ぶっちぎりで1番面白かったと思っているほど。
だが万人受けしない映画であることもまた、確かな事実である。普通に首は飛ぶしグロい死体もバンバン映す。しかしそのグロさを上回るシナリオでもって、どんどんのめり込んでしまう魅力がある。
それを裏付けるように『万引き家族』の次に多数の賞を受賞したのはこの作品だった。そもそもアカデミー賞は、任侠映画を作品賞に加えること自体がイレギュラーなので、作品賞にノミネートされた時点で「よくやった」と言うべきか。
しかし選考の際には、間違いなくこのグロさはネックになったはずである。最優秀作品賞に選ばれようものなら、次の日からレンタルショップにはズラリと『孤狼の血』が並ぶことになる。もちろん中にはカップルで観る人や、家族で観ようとする人も大勢いるはず。
そんな中で超絶グロシーンが繰り広げられるわけだ。阿鼻叫喚の地獄絵図と化すのは目に見えている。そういったシーンのオンパレードのこの映画をプッシュするのにはアカデミー賞側も、相当な勇気が必要だったはず。だからこそ、今回は『万引き家族』に譲る形を取ったのでは。
万引き家族
この映画の人気がピークだった頃、僕は映画館で働いていた。まだ内容も知らない僕はシアターから出てきた客の顔を観察していたのだが、「うーん……?」と疑問の表情を浮かべている人と「良かったー!」と笑っている人が、完全に二極化していたのが印象に残っている。
はっきり言って、この映画の受け取り方は千差万別だと思う。『万引き家族』のストーリーはあまりにもゆっくりと進行するスタイルである。それを良しとするとするか悪いと判断するかで、最終評価は大きく変わる。更には含みを持たせたまま終わっていくため、人によっては突然打ち切られた漫画のような「ここで終わり!?」という印象を持ってしまうかもしれない。
前述した『北の桜森』については雰囲気映画という例えを出したが、『万引き家族』についてはそれを上回るほどのスローっぷりである。ボケーっと観ていたら絶対に寝る。
アカデミー賞内でも触れられていたので書くが、この映画は終盤で行われる安藤サクラの『とあるシーン』が大きなウェイトを占めている。おそらく「万引き家族で一番印象深いシーンは?」と問われれば90%の人がそのシーンに触れるだろう。それほどに衝撃的な演技だったのだから。
主演女優賞に安藤サクラが選ばれたことは、その証明だろう。逆に言えばそのシーンに『万引き家族』で言いたいことは全て詰まっている。
僕個人の意見を書くならば、『万引き家族』は家でDVDをレンタルして観るような映画では決してない。あれは大きなスクリーンで一瞬も目を離さずに見なければ、本質が掴めない。
少し深読みさせてもらうと、海外のアカデミー賞では『万引き家族』が落選に終わったりもしたため、「せめて日本のアカデミー賞では最優秀取らせてあげたい!」という思いが見え隠れしてしまったりもする。カンヌ国際映画祭であれほど持ち上げられた作品が落選続きだと申し訳が立たない。そんな気持ちも込められていたのでは。
……いろいろ書いてしまった後で本音を言うのは忍びないのだが、僕は元から『アカデミー賞』なる賞には興味がない。なぜなら嘘くさいから。
こういった授賞式は、必ず何かしらの隠れた考えがあっての結果だと思うのだ。「メディアで取り上げられやすいだろう」とか「DVDの売上が上がってほしい」とか。
昨年の映画で僕が個人的に選ぶ最高傑作は『祈りの幕が下りる時』なのだが、あの作品は今回名前すら上がってないわけで。そうなると「続編ものだから外されたのかな」などと勘ぐったりしてしまう。あれほどレビューサイトでボロクソに叩かれていた『未来のミライ』は最優秀アニメーションに選ばれたわけだし。
結局、一番面白い作品はひとりひとり違うのである。たまに『アカデミー賞受賞作 = 絶対面白い』という考えを持つ人がいるが、あくまでもひとつの結果として捉えて「面白いかもなあ」くらいの認識でいた方がいいと思っている。
僕は『万引き家族』微妙でしたし……。