キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『すばらしき世界』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

 

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振り返れば「幸せになりなさいよ」との理想的な言葉を祖母や先生、果ては書籍に至るまで、直接的に何度も伝えられた気がする。けれども当人の境遇にもよるが、ある程度の年齢まで歳を重ねればその逆。漠然と「生きていれば辛いことの方が圧倒的に多いのだなあ」という真理じみた結論に達する人は、きっと少なくないとも思う。

もちろん1ヶ月に何回かは、絶対に楽しいことは訪れるものだ。ただ、そこには少なからず発生する楽しいイベントでは埋め合わせが効かないほどの日常的なモヤモヤがある。そして極めてたちが悪いのは、そうした自傷的な『モヤモヤ思考』を整理した結果、例えば学生時代に虐められた経験だったり、親に愛されなかった幼少期だったりと、今更どうしようも出来ない遥か過去の出来事が密接に関係している点。じゃあどうしようと悩んでも、もう何十年も積み重なってきた自分を変えることなど到底出来ない悪循環。……ならどうするか。答えはひとつ。そんなクソッタレな自分の性格のまま、生き続けるしかないのだ。

来たる3月放送の日本アカデミー賞にもノミネートされた映画『すばらしき世界』は、こうした絶対にリセット出来ない最悪な過去を引き摺って現代を生きる、ひとりの男の生き様が描かれる。主人公は約13年間刑務所内で過ごしてきた元殺人犯(演:役所広司)で、彼は十数年ぶりにシャバに出、人並みの生活をしようと思い至る。ただ、現代社会はは前科持ちにはあまりにも生き辛いものだった。持っていた免許も失効、文化は発展し様々な電子機器が当たり前になっている。更には元ヤクザの遡行の悪さから、本人の意思とは裏腹に周囲と折り合いもつかない。言わば生き地獄と言っても差し支えないほどのリアルな絶望が、この映画の前半部分では痛烈に描かれている。故に前半だけを見ると、何というか「自分はこんな人生じゃなくて良かった」と、安堵する気持ちをどこかに感じてしまう人も多いだろう。

しかしながら、映像を観続けているとはたと思う。この映画で描かれている苦しい生活は、実は我々にも通じているのではないかと。それこそ主人公の境遇ひとつとっても、自分は一生懸命に生きているのに報われない辛さを知っているのも、もっと言えば「○○さんってちょっと……」「他の同年代の人と比べたら……」など、意図せずして他者を蔑ろにしてしまっているのも、今この世に生きる我々なのである。今作のストーリーを全く理解できない人がもしいるとすれば、それは誰かの悪口を言ったことが一度もない人、ないしは一度も悩んだことがない人だと断言できるが、もちろんそんな人などひとりもいない。つまりは、誰が鑑賞しても心に風穴を空けられてしまう、前代未聞の大傑作なのだ。

さて、ここでひとつ今記事を読んでくださっている貴方に問いたい。「貴方はこの人生をどう思っていますか?」と。冒頭でも記した通り、本当に辛いことの多い世の中である。毎日辛くて動けない人も、もしかするといるかもしれない。でも、それ以上に深く残っているのは、他者から与えられた温かい感情のはずで、この映画を最後まで観たとき、貴方はきっととてつもない映画体験に心揺さぶられることだろう。……日常に憂う全ての人に観てほしい名作『すばらしき世界』。日本映画界きっての大問題作に一刻も早く、多くの人が出会えることを祈って、僕は今回文句なしの最高得点とした。この映画に出会うことで、間違いなく人生観は変わると断言する。今年の日本アカデミー賞、おそらくは『孤狼の血 LEVEL2』と『ドライブ・マイ・カー』に競る形で話題になること確定の映画。お見事でした。


ストーリー★★★★★
コメディー★★★☆☆
配役★★★★★
感動★★★★★
エンターテインメント★★★★☆

総合評価★★★★★

 

映画『すばらしき世界』本予告 2021年2月11日(木・祝)公開 - YouTube