キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

サカナクションのニューアルバム『834.194』の発売延期は正義なのか?

こんばんは、キタガワです。

 

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サカナクションの7枚目となるニューアルバム『834.194』。来月4月24日に発売が迫る中、先日公式サイトから急遽発売延期のアナウンスがあった。そして今この発売延期は、ネット上で物議を醸しているという。


SCHOOL OF ROCKの番組内で山口はリスナーに向け、次のようなメッセージを発した。

「一言でいうと、歌詞に妥協できず、このアルバムを完成するにはもう少しだけ時間が必要となり、延期させていただくことになりました。メンバーにもすごく怒られました。アルバムを待ってくれていた皆さまにまず、お詫びをしたいと思います」

 

「とことんやり続けてしまって、僕の体調的な面、精神的な面でも(限界を迎えてしてまっていて)、猶予をいただきました」

 

「ただ、時間が増えた分、より完成度の高いものにしていきます。もう間もなく完成するので、これ以上の延期はございません」


ここからは発売延期について、少し語らせてもらいたい。


大前提としてサカナクション(というか山口)は、ひとつの作品にかける思いがあまりにも強いことで知られている。それこそ今回のようなリリース延期は度々あった。


例に挙げると初の映画主題歌となった『新宝島』の制作や、アルバム『DocumentaLy』に収録した『エンドレス』の冒頭の歌詞のみを何ヶ月間も考えた事案であろうか。言っては悪いが、発売延期の措置はファンにとって、さほど大きな問題ではないのだ。

 


サカナクション - エンドレス(MUSIC VIDEO) -BEST ALBUM「魚図鑑」(3/28release)-


ではなぜ『834.194』の発売延期は、これほどまでに物議を醸しているのか。それは今回のリリース自体が、今までの状況とは意味合いが異なるからである。

 

異を唱える人が多い理由は、おそらくサカナクションが開催する予定のツアー『SAKANAQUARIUM 2019 “834.194” 6.1ch Sound Around Arena Session』の存在が大きい。4月~6月まで行われるこのツアーは、世間一般でいう『アルバムリリースツアー』の様相を呈している。もちろん全国ツアーは軒並みソールドアウトしており、かなりの参加者がいると予想する。


更には今回のツアーは、全会場にサラウンドシステムを導入するという画期的なもの。ライブ会場は通常、ステージの前方と後方で音の聴こえ方に大きな差が生じる。しかし今回のツアーでは、会場を囲い混むようにスピーカーを設置。要するにステージ前方とステージ後方がほぼ同じ最高の音質で聴こえるという、採算度外視の立体音響ライブだ。


そう。今回のニューアルバム延期の一報でもって、ライブのセットリストの大半を担っているであろう『834.194』の楽曲を、観客側が事前に予習することはほぼ不可能となった。


もっと言えば大迫力の爆音で楽しめる最高のライブのはずが、そのほとんどが知らない曲で埋め尽くされる事実を突き付けられた形となったのだ。そりゃ炎上するのも頷けるという話である。


さて、ここからは僕の個人的な意見を述べたいと思う。


結論を書いてしまうと、僕自身の素直な意見は「全然大丈夫です」である。アーティスト側の不祥事やレコード会社との揉め事が発端ならまだしも、「より良いものにしたい」と決めた末の延期なら平気。むしろこの程度でグチグチ文句を垂れ流している人は「本当にファンなの?」と疑ってしまうレベルであるとも思う。


それこそ昔からのファンは今回の決定には寛容で、僕と同様の意見を持つ人が多いと推測する。それはボーカル・山口一郎がいかに音楽にストイックな人間であるかを、にわかであるファン以上に知っているからだ。


ファン心理としては「時間がかかっても納得のいく作品を作り上げてほしい」と思うだろうし、今までの発売延期を鑑みれば「これほどの発売延期をしたアルバムが最高傑作でない訳がない」と、期待に胸を膨らませて待っているのではなかろうか。


しかし逆に一般的な音楽好きな人たちからすれば、今回の発売延期に「ふざけんなサカナクション!」と憤る人も多いだろうなーと思うのも事実である。アルバム購入に合わせて予定を立てている人、複数人のライブチケットを買い「俺が買うからみんなにCD-Rに焼いて渡すよ」と決めていた人……。そういった人たちのことを考えれば、一概に『発売延期は正義』と一蹴できない気もする。


だが考えてみてほしい。もしサカナクションが妥協した内容のアルバムを発売したら、世間はどう思うだろう。作品に注いだ情熱が少なければ、それは確実に聴き手に伝わる。ブランドは地に落ち、今後の期待値も低くなる。中には「サカナクションはオワコンだ」と反旗を翻す人もいるかもしれない。そんなサカナクション、見たくない。


だからこそ今回の発売延期は、間違いなく彼らにとっての正義なのだ。ミュージシャン自身が「延期したい」と言っていることが全てで、それに対してとやかく言うのはお門違い。


僕らはただ、最高のアルバムが完成されるのを待つしかない。公式ツイッターの更新に刮目しながら、ツアーで『834.194』の片鱗に触れながら、ひたすらその時を待つ。それこそが今僕らに出来る最良の応援である。

はてなブログ200記事突破。結果が出ない現実と今後のこと

こんばんは、キタガワです。

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来月4月1日をもって、はてなブログの活動を始めてから1年5ヶ月が経つ計算になる。


総記事数は200。読者数は15人。平均アクセス数は500。総コメント数は3回(全部アンチ)。はてなブックマーク数は0回。


当初はブログの限界点を見付けるまでの期間を2019年5月までと定めていた。その期間まであと1ヶ月。これまでに目に見える結果が出なければ、月収5万のフリーター生活から脱却し、手に職を付けるなり何なりするつもりだった。


しかしこの結果を見ても分かる通り、どう考えても5月までに結果は出ないのは明白だ。


この記録を見るといかに自分自身が結果を出せていないのかが良く分かる。それこそ『ブログ 結果』等で検索して上位に食い込む人は、僅か数ヵ月で結果を出している。企業案件が舞い込んだり、広告収入で生計を立てたり。それぞれに合った『成功』を獲得し、記事内ではこれでもかと『こうすれば売れるぞ』というようなノウハウを垂れ流している。結構なことだと思う。


何を持って『結果』とするかは人それぞれだとは思うのだが、僕はブログ開始当初『注目を浴びること』が出来ればそれで万々歳だと思っていた。


僕がこういった思考の根底には、誰からも相手にされなかった過去が大きく影響していると自己分析している。


このブログでも耳が痛くなるほど語っているが、僕は社会不適合者である。仕事の覚えは悪い。悪態を付く。人との関わりを極端に避ける。ミスをする。挙動不審……。


社会で生きていける人……。ここでは正社員と定義するが、そういった人たちは皆無意識的に社会生活に合わせることができる力を備えていると思うのだ。最小限のコミュニケーション能力然り、物事の判断能力然り。


片や僕はそういったことが一切出来ない人間であると、この数年で痛感した次第だ。自分自身では真面目にやっているつもりだが陰口を叩かれたり、コミュニケーションを取るのも辛いという僕の性格は、絶対的に社会の『普通』とはかけ離れたものであった。


だからこそ僕はたったひとりで生きていこうと思い、ブログを始めたのだ。自分の文才を過信しているわけではないが、もう残された手段はこれしかなかった。ネットでは顔は見えないため、僕の態度を見て反旗を翻す人もいない。現実で関わる人がいなくとも、インターネット上で僕自身の文章だけを見て評価してくれる人がいるならば、それでいいかと思っていた。


そんな生活を1年半やった。投稿頻度は少ないながらも、自分が後々見て納得するレベルの文章だけを投稿した。


そしてその数は今、200本を超えようとしている。


結果が一切出ないまま、リミットを迎えようとしている。


さて、今後のことについて少し触れたいと思う。200記事で目に見える結果は出なかったが、僕はまだブログを辞めるつもりはない。結果がでないからと言って辞めるのはいつでも出来る。今出来るのは「限界までやり切った」と思えるほどに努力を重ねることしかない。


しかしながら正直に言って、全盛期と比べると僕のブログにかけるモチベーションは確実に減少しつつある。


特に今月は僕が文章を書く意義であったり、ブログという媒体そのものに関してあれこれ悩んだ時期だった。毎日更新に背き、ひたすら時間と分量をかけて熱意のある文章を書いてきた。当初は「時間をかけた文章は伝わって然るべし」と思ってはいたものの、実際はほとんど見向きもされなかった。


こんなブログ運営に意味はあるのだろうか。空き時間にバイトをやった方がいいんじゃないか。結婚をして子供が産まれ、マイカーを購入している周囲の同年代と比べて。僕の今の人生はどうだ。


そんな自問自答の末に至った結論は、悲しいかな『やるしかねえなあ』というものだった。僕にはもうこれしかないから。


今後どうなるかは分からない。ブログを綺麗さっぱり引退するかもしれないし、惰性でズルズル続けるかもしれない。でも今は反応がなかったとしても、書き続けていたい。


取り敢えず今後は、300記事目指して頑張ってみようと思う。自分の進退を決めるのはまだ早いと思うから。

 

→ブログ100記事更新の記事はこちら

【ライブレポート】四星球『SWEAT 17 BLUES 完成CELEBRATE? TOUR』@米子Aztic laughs

こんばんは、キタガワです。

 

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3月21日に鳥取県・米子Aztic laughsで開催された四星球全国ツアー『SWEAT 17 BLUES 完成CELEBRATE? TOUR』に参加した。今回は後攻・四星球のライブレポートを記す。


→先攻・MOROHAのレポートについてはこちら

 

音楽業界において、四星球について述べる際には専ら『コミックバンド』という括りで語られることが多い。


理由はひとつ。彼らのライブは常に笑いと共にあるからだ。小道具を多用し、世間のニュースを弄り、曲中にユーモアを織り混ぜながら、どこまでも笑いを突き詰めたライブを行う。それはさながら喜劇を観ているようでもあり、世間一般のライブ体験とはまた一味違った面白さがある。


ライブ開始前のフロアには安室奈美恵の『CAN YOU CELEBRATE?』他、彼女の有名な楽曲が繰り返し流されていた。おそらくこれは今回のライブツアーのタイトル『完成CELEBRATE?』の伏線回収なのだろう。こうした隠れた笑いの要素を見付けると「四星球らしいな」とも思ってしまう。


笑いの導火線の火は既に付けられている。あとは爆発するのを待つばかりというところ。


暗転しステージに降り立ったメンバー。バンド演奏を始めるかと思いきや、誰も楽器を持っていない。呆気に取られる観客をよそに、北島(Vo.Gt)が笑顔で語る。


「MOROHAのライブ最高やったなー。俺らもライブ聴きながら楽屋で『今すぐ歌いたい!』って思ったんやけど、あと10分間は歌いません」とまず一笑い。


ここで今回のライブツアーのタイトルに冠された『SWEAT 17 BLUES』の意味について説明する時間に。北島曰く『SWEAT』というのは直訳すると汗であることから、ライブの裏テーマは『汗を流すこと』であったと語る。


そこで『メンバーの中で誰が一番汗をかけるか』を競うライブを行うと宣言。具体的にはライブ開始前に計った体重とライブ後に計った体重を比較し、最も体重が減っていなかったメンバーには罰ゲームを与えるというもの。


ちなみに罰ゲームの内容は『全力のケツバットを食らう』。そんなケツバット担当として選ばれたのはMOROHAのギター、UK。スポーツ経験豊富なUKの豪腕でケツをぶっ叩かれるのは一体誰なのか。冷静に考えると馬鹿馬鹿しく思えるが、これが四星球のライブなのだ。


事前の体重測定(BGMはライザップ)の後、1曲目『四星球聴いたら馬鹿になる』からライブはスタートした。

 


四星球「射手座『四星球聴いたら馬鹿になる』」紹介&「お告げ ~さあ占ってしんぜよう~」ダイジェスト占い


〈下半身ロバ上半身人間 パッと見ケンタウロス〉

〈下半身鹿上半身馬 馬鹿タウロス〉


伝説の生き物を題材としながらも、まるで男子小学生が考えたような低レベルなボケを連発するこの楽曲は、聴いているだけでIQがぐんぐん下がっていくよう。「これが四星球の真骨頂だ!」と言わんばかりの演奏に、観客も皆一様に笑顔だ。


今回のライブはリリースツアーということもあり、ニューアルバム『SWEAT 17 BLUES』の楽曲を中心として進行していく。楽曲中には必ず何かしらの笑いの要素が含まれており、片時も目が離せないエンターテインメント性抜群の空間を形成していた。


『鋼鉄の段ボーラーまさゆき』では、まさやん(Gt)自作の作品が登場。大きく『まさゆき』と書かれた段ボールを背負ったかと思えば、ギターソロでは色とりどりの音符が次々出現。


『いい歌ができたんだ、この歌じゃないけれど』では早くも北島がフロアに降り、ぐるぐると回りながら大きなサークルを作り出す。しかし当初は「いい歌ができたんだ」のコール&レスポンスを行う予定だったが、客席に外国人の観客を見付けたことから急遽「ナイス・ソング・フォール」に変更することに。もちろん英語の教科書的には大間違いの翻訳なのだが、発語の勢いだけで大盛り上がり。


ちなみに海外のお客さんもその馬鹿馬鹿しさから、サークルに参加したり最前列で腕を挙げ、日本人以上のポテンシャルでライブを楽しんでいたのが印象的だった。国籍も言葉も、意味不明でも楽しめる。

 


四星球「モスキートーンブルース」Music Video(耳年齢診断つき)


その後も『モスキートーンブルース』や『HEY!HEY!HEY!に出たかった』、『言うてますけども』といったファストチューンを次々投下。『言うてますけども』に至っては演奏終了後の真面目なMC中に「~とか言うてますけども!」といきなりサビ部分の演奏に逆戻りするシーンも多々。笑いのエッセンスを散りばめるステージングには脱帽である。


ここで中間結果発表とのことで、上半身裸になっての体重測定へ移行。中でもピンボーカルで動き回る北島のカロリー消費量は凄まじく、短時間でかなり体重は減少。しかしその他のメンバーはあまり減っていない様子……。


見かねた北島から「ここからはサウナスーツとアウターを着用します!」という鬼発言が飛び出し、ここからは何とピッチピチのサウナスーツを着てライブを進行することに。更には最も体重の減りが芳しくなかったU太(Ba)とまさやんに対しては、サウナスーツ着用という地獄の所業。


その後は「ここからは15分間バラードやりますんで、靴紐結んだりしててください」との北島のMCから『ラジオネーム いつかの君』、会場が米子Aztic laughsであることにちなんでのレア曲『LAUGH LAUGH LAUGH』を演奏。

 


MUSIC JUNGLE TV #28(11月後半)Part.1


ゆったりとした時間が続き「そろそろ汗も引いたかな」と思いきや、次の瞬間には代表曲『クラーク博士と僕』を投下。客席にはマイクスタンドとフラフープが投げ込まれ、本来観客がいるはずのフロアではまさやんが大暴れする事態に発展。更には大きなフラフープを観客と一緒に回したり、観客にボーカルを託すなどやりたい放題。会場は灼熱のカオス地帯と化した。


終始抱腹絶倒の爆笑空間を作り出した四星球。本編最後の最後の曲として鳴らされたのは、今回のライブツアーのタイトルにも使われている『SWEAT 17 BLUES』。この演奏前、北島は長尺のMCでもって、四星球のライブの在り方について語った。


「先日『私はリウマチの患者です』というお客さんがおりまして。『普段は何をしても痛くて腕を挙げることすらできない。でも四星球のライブでは痛みを感じずにとても楽しめるんです』と言っておりました。皆さん、四星球は医療ですんで。なかなか治らんことあったら来てください」


これまでライブ中はおちゃらけたトークやボケに徹していた北島だが、この時始めて観客の目をしっかりと見ながら真剣に語っていた。


僕は今まで「四星球はずっと面白いことやってるけど、多分苦しいことを抱えてながら活動してるんだろうな」と漠然と思っていた。そしてその考えは、おそらく正しいのだろう。しかし彼らはそれ以上に、苦しいことを忘れるためのひとつのエンターテインメントとして、四星球という活動を行っていた。


だからこそ四星球の歌には、日々のストレスや怒りに満ちた言葉は一切使われていない。あるのは非日常的な馬鹿馬鹿しい笑いだけ。彼らはそんな治療薬にも似た笑いを届けるためだけに、15年以上も全国各地を渡り歩いているのだ。


北島はMCを「先程演奏した発明倶楽部という曲は、時間を巻き戻す曲でございます。辛いことがあったらいつでも戻ってきてください。会いに行きますんで」という言葉で締め括った。


最終曲の盛り上がりは言わずもがなで、僅か1分少々ながら直前に発した北島のMCの内容を体現するような、汗と笑いに包まれた時間となった。


本編終了後は、待望の体重測定へ。北島はぶっち切りの体重減少で罰ゲーム回避となったものの、U太とモリス(Dr)、まさやんが共に0.4キロしか減っておらず、何とツアー開始後初となる3人同時罰ゲームへ。


ここでMOROHAのギター、UKを呼び込みケツバットを慣行。恐るべき豪腕で振り抜くUKの一撃は凄まじく、大きな音が響き渡る。そしてこの2時間のライブの熱量を象徴するかのように、叩かれた瞬間には大量の汗の飛沫が撒き散らされる。


アンコールではニューアルバムの中で本編でまだ演奏していなかった『Soup』と『Teen』、そして昨年台風によって中止となった米子初のロックフェス『Starry Night』にて、最後に演奏する予定であった『オモローネバーノウズ』を披露。

 


四星球「オモローネバーノウズ」ミュージックビデオ


〈オモローネバーノウズ まだ オモローネバーノウズ まだ〉

〈おもろいことが おもろいことが待っているはずだろ〉


辛いことも苦しいことも全部笑い飛ばせるようにと、徹頭徹尾笑えるライブを形成していた四星球。アンコールで演奏された『オモローネバーノウズ』では、そんな四星球の思いが内包された応援歌のようにも感じられた。観客の中には涙を流す人も見受けられ、結成から17年経った今でも四星球が愛される理由を目の当たりにできた。


きっと四星球は最大級の現実逃避を携えて、これからも全国各地を渡り歩くのだろう。笑いで日本中を笑顔にする日まで、彼らは戦い続ける。


全力の『オモローネバーノウズ』のパフォーマンスを見ながら、何故だか僕はセンチメンタルな気持ちになった。楽しい時間ももうすぐ終わってしまう。終わってほしくないなあ……。


……と思ったのも束の間、「最後はプロジェクトAのテーマソングでお別れしたいと思います!」との一言から中国語バリバリの『東方的威風』のカバーを 「◎△$♪×¥●&%#?!」と声高らかに歌い上げ去って行った。


僕はといえば一瞬でも感傷的になった自分が馬鹿馬鹿しくなって、また笑った。

 

【四星球@米子laughs セトリ】
四星球聴いたら馬鹿になる
鋼鉄の段ボーラーまさゆき
いい歌ができたんだ、この歌じゃないけれど
モスキートーンブルース
HEY!HEY!HEY!に出たかった
言うてますけども
ラジオネーム いつかの君
LAUGH LAUGH LAUGH
クラーク博士と僕
Mr. Cosmo
発明倶楽部
SWEAT 17 BLUES

[アンコール]
Soup
Teen
オモローネバーノウズ
東方的威風(プロジェクトAカバー)

3月某日

こんばんは、キタガワです。

午前2時。

酒をしこたま買い込んでいたはずが、気付けば最後の1本を残すのみとなった。くそったれと悪態を付くのは良いが、酒がどこからともなく現れ出るはずもない。仕方なく近所のコンビニに買いに出る事にした。

とは言え既に寝間着を身に付けている。面倒なので上半身には寝間着の上に厚手の服を羽織り、下半身にはスキニージーンズを履くことで「外出用の服」とした。服の下に着ている寝間着のせいで不自然に盛り上がって見え、酷く滑稽に思えた。

あまり寒くはないだろうと侮っていたが、現実は残酷だ。冷たい夜風が顔面をぶん殴り、僕は外出した事を一瞬にして後悔した。最高の仕打ちだ。コンビニまでは後何メートルだろうか。さほど遠くはないだろうが、気が遠くなる思いがした。先程かさぶたを剥いだ箇所が「早くしてよ」と喚いた。

深夜ともなれば、車の行き交いや人の往来は皆無と言っていい。それが島根県松江市という環境なら尚更だ。僕は赤信号が点滅した道路を渡りながら、一人優越感に浸っていた。午前2時、今この瞬間だけは僕の独壇場だ。

コンビニに着くと店員が忙しなく開梱作業に当たっていた。日付が変わって今日発売のヤングマガジンの数が多く悪戦苦闘しているようで、見たところ20冊はありそうだった。僕自身夜勤のコンビニ経験が長かったのでよく分かる。おそらく店員の脳内では全てのヤンマガを破り捨てたい欲求が膨らんでいる事だろう。

僕はビールを一缶買うと、直ぐ様コンビニを後にした。

帰る道中、体から酒が抜け始めている事に気付いた。これほど苛立つ事もない。幸せな時間は長くは続かないと言うが、アルコールも同様だ。今でこそ多幸感に満ち溢れているが、抜けてしまえば即座に絶望が目を覚まして憂鬱な現実に逆戻りだ。

そんな状態になるのが嫌で、今しがた買ったビールを胃に流し込んだ。それでも全く酔えない事に、また苛立った。

帰宅すると父がいた。どうも僕同様酒を飲み過ぎたあまり、途中で目が覚めたようだった。ふらりと僕を一瞥すると「おう、ビールなら冷蔵庫にあるで」と言い残し、また水で割ったウイスキーを片手に寝室へと戻っていった。

父は、僕が冷蔵庫にあった酒を盗んで飲んでしまっている事に、最後まで気付いていなかった。

今は買ってきたビールを飲みながら、まるで遅効性の毒のように回るアルコールに翻弄されつつブログを書いている。「たまにはこういう日もいいな」と思ったが、直後にこの日々こそが日常である事に気付き、一人で高らかに笑うのだった。

【ライブレポート】MOROHA『SWEAT 17 BLUES 完成CELEBRATE? TOUR』@米子Aztic laughs

こんばんは、キタガワです。

 

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3月21日に鳥取県・米子laughsで開催された四星球の全国ツアー『SWEAT 17 BLUES 完成CELEBRATE? TOUR』に参加した。今回は先行、MOROHAのライブレポートを記す。


四星球と言えば、日本を代表するコミックバンドとして確固たる地位を築いてきたバンドである。ライブでは観客を抱腹絶倒の渦に巻き込み、終始笑顔に満ち溢れたライブを行う。その姿はまさに『THE・コミックバンド』といった様相だ。


片やMOROHAは、そんな四星球とは対極に位置するグループだ。地を這ってでも前に進む泥臭さや生きる意思、絶対に諦めない頑固さを、血を吐くような勢いでもって叩きつける。そこには笑いの要素などひとつもなく、ヒリヒリとした緊張感が会場を支配する。


だからこそ僕は今日一日のライブのイメージが全く湧かなかった。例えるならば水と油。月と太陽。空と大地……。ジャンルも演奏形態も異なるこの2組のライブは、どんな化学反応を起こすのだろう。ひとつだけ言えるのは「唯一無二の一夜になるだろう」ということだけ。


定時を少し過ぎた頃に暗転。通常、ライブはSEに乗せてメンバーが現れるものなのだが、アフロ(MC)とUK(Gt)はいつの間にかステージに上がっており、発生練習やストレッチに励んでいた。


開口一番「四星球に『お前は眼帯を取った丹下段平だ』と言われました。ギターUK、MCアフロ。MOROHAです、よろしくどうぞ」とアフロ。


朗らかな語り口からスタートした1曲目は、先日動画サイトでPVが公開され話題を呼んだ楽曲『ストロンガー』だ。

 


MOROHA「ストロンガー」MV


〈肩で風をぶった切って 胸を張って出かけよう〉

〈破壊する ぶっ壊す 駄目なものは全部〉


ロボットの如き手数でアコースティックギターを掻き鳴らすUKをバックに、思いの丈を吐き出すアフロ。極めて最小限の演奏形態だが、その姿はさながらエレファントカシマシの楽曲『ガストロンジャー』を彷彿とさせる。血管が浮き出るほど全力で叫ぶ彼の顔面からは、早くも大量の汗が滴り落ちていた。


僕はドリンクコーナーで注文したアルコールのため少し酔った状態だったのだが、気付けば酔いは一瞬にして冷めていた。観客もその圧倒的な迫力からか、演奏が終わっても拍手も歓声も上げないのが印象的だった。静寂に包まれた会場にはアフロの荒い吐息だけが響いており、時折背後で扉を開く僅かな音すらはっきり聞こえるほど。


彼らの音楽は音楽であって音楽ではない。もっとそれ以上の何か……例えるなら一種の演説や説得に近いものを感じた。


この日は新曲を中心としたセットリストで進行。そのため会場に集まった観客の大半が初見の楽曲も多かったと推測するが、力強いメッセージ性でもって届けられる楽曲群に、皆微動だにせず聴き入っていた。

 


MOROHA「上京タワー」MV


『上京タワー』『東京タワー』という意図せずこの日既存曲の扱いとなった2曲は、どちらも東京に進出する切実な思いを孕んだメッセージソング。故郷を離れ、遠く離れた地でもがく痛烈な歌詞が続く。客席からはどこからともなく啜り泣く声が聞こえてくる。


その後もふたりは水分補給もインターバルも一切挟むことなく、驚くべき集中力で演奏を続けていく。「俺らがはるばる米子に来たのは、別に知ってもらうためじゃない。金稼ぎに来たんだよ!」というMOROHAらしいMCの後、貧乏暮らしの葛藤を歌った新曲『米』、かつての彼女目線の悲しき新曲『拝啓、アフロ様』を立て続けに披露。


途中のMCでアフロが語っていたが、今回のライブは四星球側から「絶対にソールドアウトさせたい」という強い思いを受けていたそうだ。そのため他のライブと比べて少しばかり告知に力を注ぎ、四星球の熱意に答えようとしていたという。


結果としてこの日はソールドアウトにはならなかったのだが、四星球の公式ツイッターで『残り僅か』と表記されるまでには売れ、フロアはパンパンの客入り。……そんな光景をアフロは感慨深そうな目で見ていた。


最後に演奏された楽曲はニューアルバムのリード曲でもある『五文銭』だった。

 


MOROHA「五文銭」Official Music Video


〈この先に何があるか なんてことは知らない〉

〈想像を絶する 地獄かもしれない〉

〈俺は弱い すぐに調子のる〉

〈それでも愛された記憶だけは 片時も離さない〉


過去を問い、現在を問い、そして希望に満ちた未来を渇望するこの楽曲でもって、MOROHAは改めて自身の進む道を示した。


思えば今回のセットリストは、5月29日に発売予定のニューアルバム『MOROHA Ⅳ』の収録曲を中心として進行していた。『三文銭』や『革命』といった定番曲は軒並み省かれており、中には否定的な声ももしかしたらあったかもしれない。


そんな今回の40分のライブを観て僕は「MOROHAらしいな」と思ってしまった。もちろん事前に知っていて何度も聴き込んだ楽曲の方が、観客の満足度も高いだろう。しかし常に前を向き、その時々でしか伝えられないメッセージを込めて歌うMOROHAにとっては、それは過去のもの。彼らが求めているのは常に『未来』なのだから。


〈今作のアルバムリリースはメジャー〉

〈ユニバーサル vs 二本の中指だ〉

〈俺たちのために 俺たちが選んだ〉


演奏終了間際「俺は俺のこと幸せにしたい」と繰り返し絶叫したアフロ。この言葉は間違いなく、将来の自分に充てたものだ。


昨今はスマートフォンや飲食店のCMのナレーションが話題となり、注目を集めているMOROHA。それはひとつの形として彼らを知るきっかけにはなるだろう。


だが彼らの真骨頂はやはりライブ。直接目で見て感じることでしか、MOROHAの本質は理解できない。フラつきながらステージを去るアフロを見ながら、僕はそう確信したのだった。

 

【MOROHA@米子laughs セトリ】
ストロンガー
上京タワー
東京タワー
米(新曲)
拝啓、MCアフロ様(新曲)
遠郷タワー
五文銭

AKB48、46グループのCDが爆発的に売れる理由を知ってしまった

こんばんは、キタガワです。

 

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最近音楽番組を見るたびに『同じベクトルの女性アイドルたちばかりが取り沙汰されているな』と感じる。


CDを出すたびに音楽番組に出演し、オリコンチャートでも上位を独占するそのグループの名は『AKB48』という。いや、AKBに限った話ではない。SKE48やNMB48、HKT48もその中のひとつだ。もっと言えば乃木坂46や欅坂46、日向坂46、吉本坂46も同様。


間違いなく彼女たちは現代音楽シーンのポップアイコンのひとつだろうし、彼女たちなくして邦楽の繁栄はなかっただろう。

 

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……今や48、46系のグループは国内外問わず存在しており、その数はおよそ16にのぼるという。僕個人、今回の記事を執筆する際に事前調査を行ったのだが、そのあまりの数の多さに頭が痛くなってしまったほどだ。


さて、本題に入る前にそもそもの話として『なぜ48、46グループはこれほどCDが売れているのか』という話から進めねばなるまい。


CDが爆売れするということは必然的に『爆買いする側の者』が存在する。しかし見立てによれば、そういった人たちの目的は『楽曲』ではないのだ。彼女らはアーティストにとっての最重要項目であるはずの音楽ではなく、それ以外の付加価値でもって売上を伸ばしている。


では『音楽以外の付加価値』とは、具体的にどのようなことを指すのか。彼女たちの付加価値はズバリ『握手券』である。


48、46グループでは各地で『握手会』なるものが定期的に開催される。『会いに行けるアイドル』というキャッチコピーからも分かる通り、普段テレビの外側で観るしかできなかった彼女らと、実際に触れ合ったり会話をしたりできるという画期的なものだ。


ここで押さえてもらいたいことは、『CD1枚につき1枚の握手券が封入されている』点。


よく「1枚あれば何分でも握手できるの?」と勘違いする人がいるが、通常握手券は1枚につき約10秒という、極端に短い時間設定がされている。


10秒。たった10秒である。ファンが「いつも応援してます!頑張ってください!」と語り、アイドル側が「ありがと~」と返す。この流れで10秒経過である。時間に関しては係員がストップウォッチでしっかり記録しているため、10秒経ったら瞬時に終わる仕組みとのこと。


もちろんファンは考える。「どうすれば長く推しと話せるのか」と。

 

答えは簡単。複数枚買えばいいのだ。1枚で10秒ならば、10枚=100秒。100枚買えば1000秒間会話できる。


僕は普段、自分たちの実力でCDを売り上げて必死に活動しているロックバンドやシンガーについて文章を書いている人間だ。そんな僕からすれば考えれば考えるほど、彼女ら(というか運営側)のやり方は悪どい商売だなと思ってしまうのだ。

 

m.huffingtonpost.jp


上の記事は、AKB48の不法投棄されたCDについてまとめたものだ。その数585枚。容疑者は「総選挙に必要な投票権を抜いたCDの処分に困って山に捨てた」と供述しているという。


1枚2000円だとしても、単純計算で117万円に及ぶ。しかもこれは氷山の一角に過ぎない。廃棄する人は少ないにしろ、他にも同様に大量購入するファンは大勢いるはずだ。

 

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更に上の画像は、乃木坂46の卒業を発表した西野七瀬の最後の握手会に並んだファンを撮影したもの。まさに「人がゴミのようだ」と呼びたくなるほど、無数の人々で埋め尽くされている状況だ。


こう言っては悪いが、ファッション雑誌の付録目当てに購入させたり、値引き目的でクレジットカードを登録させる不動産屋とやり口はほぼ同じである。しかも運営側はこれを一回ではなく何十回何百回と開催し、ファンから大金を巻き上げているのだ。


……さて、ここまで鼻息荒く勢いに任せて書き殴ってきたが、僕自身AKB系統のアイドルは嫌いではない。有名な楽曲はカラオケで歌うこともあるし、純粋にひとつの楽曲としてレベルが高いと思っている。


中でも今僕の中で一大ブームを引き起こしているのが、欅坂46である。

 

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かつても何度か記事を執筆したほど(下記参照)で、「今一番ライブを観たいアーティスト」と言っても過言ではない存在だ。


そんな彼女たちの8枚目のシングルである『黒い羊』を先日購入した。

 

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もちろん中には握手券が封入されている。こうして直接握手券を観るのは初めてだが、キラキラとカメがかった作りになっており、ある種崇高な物のような感覚を覚えてしまう。

 

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この部分を切り取らずに会場まで持参すれば、握手券変わりとして使えるとのこと。確かにこの光る握手券を持って会場に赴けば、まさにキラキラと光輝く素晴らしい体験が出来ることだろう……。


しかしそう思ったのも束の間。握手券にとある表記を見付けてしまった僕は、顔が青ざめるのを感じた。

 

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は?

 

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僕は慌てて裏面を確認する。あった。プレゼント応募券……。


そう。僕が思っていた以上に、運営のやり方は常軌を逸していたのだった。プレゼントに応募するならその時点で握手券としての効力を失い、握手券として使用するならプレゼントに応募できない。あちらを当てればこちらが立たない、地獄のような紙切れがそこにあった。

 

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しかもよく見ると『プレゼント応募券』も、集めた枚数によって内容が異なるという鬼畜仕様。一応確認だが、これは『絶対にプレゼントが貰える』と確約するものではない。「プレゼント貰えるかもよ?」という僅かな可能性に対し、何枚もの応募券を要求しているのである。


ここで一旦整理してみよう。


握手券に使う場合……

・集めた枚数によって握手時間が延びる
・握手券に使うならば、プレゼント応募はできない


プレゼント応募に使う場合……

・集めた枚数によって当たる確率が増える
・集めた枚数によって応募できる内容が変わる
・プレゼント応募に使うならば、握手券に参加できない


……なんということだ。これではまるで守銭奴ではないか。一歩間違えば告発できるレベルの壮大な金儲け。いわば『合法的な詐欺』である。


しかもこの悪どい行為を全48、46グループが行っているのだからたちが悪い。一体秋元康の懐には何億円入るのだろう。


『握手券は金がかかるもの』という認識は、無知な僕にもあった。「人それぞれ好きな推しと触れ合えるなら、まあそれでもいいんじゃない?」と思っていた。しかし『プレゼント応募券』なるプラスアルファで搾取する存在は一切聞いたことがなかった。


この事実を知ってしまった今、僕の目にはあのグループが金の塊に見える。


今日もどこかで彼女らは握手会を開催していることだろう。そこには大勢のファンが集まっている。秒数を求めてCDを買い漁り、何万円もの価値を込めて推しに会いに行っている。


片やその裏ではプレゼント応募券をひたすら集めている人もいる。生写真やスペシャルイベントを追い求め、世に蔓延る賭け事以上に金を使って『可能性』を買っている。


そして握手券とプレゼント応募のふたつを一緒に行う人も一定数いるだろう。そこには『音楽』の概念は存在しない。CDは一枚あれば音楽機器に落とし込めるわけで、それ以上のCDはただの不必要な光ディスクでしかない。そう考えると、前述した不法投棄の動機も頷ける。


今の音楽業界はこのままでいいのだろうか。付加価値で集客したアーティストをオリコンチャートに入れても良いのか?『○万枚突破!』との触れ込みで音楽番組に出まくるあのアイドルたちは、コアな音楽ファンに本当に望まれているのだろうか。


僕には音楽の未来は皆目分からないが、「このまま行くと邦楽が死ぬだろうな」ということは、間違いないと断言できる。

 

でも、てち(平手友莉奈・欅坂46のセンター)の握手会があればCD買っちゃうかもなあ、とも思う……。

 

 

→欅坂46『アンビバレント』の記事はこちら

→欅坂46『黒い羊』の記事はこちら

米津玄師は宗教だ

こんばんは、キタガワです。

 

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米津玄師ブームが止まらない。止まる気配さえない。


『Lemon』のPVは日本人初の3億回越え、ダウンロード数200万回。発売から1年以上が経過しているにも関わらず、CD売上では未だトップに君臨し続けている。更には音楽番組であるスペースシャワーTV内で『週間CDランキング』なるものが放映されれば、放送時間の4分の1は米津玄師の楽曲だ。

 


米津玄師 MV「Lemon」


どこもかしこも米津玄師。米津玄師、米津玄師……。もはや「広辞苑に載るんじゃなかろうか?」と疑問に感じるほどに、今の日本音楽シーンは米津玄師一強時代と言える。


先に書いておくが、別に僕は米津玄師アンチではない。彼のCDも聴くしカラオケでも歌う。彼の楽曲は純粋に「完成度の高い楽曲だなあ」と思うし、耳馴染みも良いので、それは売れるだろうなと感心する部分は多い。


そう。米津玄師は何も悪くない。問題なのは『日本全体が米津玄師に盲目になりすぎている』という点である。こう言っては失礼かもしれないが、彼の人気とそれに影響されるファンの構図は、一種の宗教じみた怖さを感じてしまうのだ。


今回はそんな話。

 

 

米津玄師の言葉は総理大臣より重い

彼のツイッターが分かりやすいのだが、彼の発言に関しては皆一様に、ストーカーじみた目付きで刮目している。


おそらく彼が「おはようございます」といった空虚な言葉オンリーで呟いたとしても、数千リツイートは下らないだろう。これはあながち冗談ではない。極端な話、もし米津玄師が自民党政権を批判したり犯罪者を擁護する発言をしたとしても、「ヨネケンが言ってるから」という理由でもって肯定する盲目な若者は一定数いると思う。

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例えば上記のツイート。教師のひとりの行動によって、ひとりの生徒の心が蹂躙される様を痛烈に描いている。「今なお人格の一部として機能してる実感がある」と述べているのは、『かつての米津青年はこの事件によって今の人格を形成してしまった』という隠喩だろうか。


このツイートに関しては、米津玄師が強い怒りを内包して呟いたものだと推測する。どれだけ軽はずみな行動であっても、年端もいかない人間にとっては大きな傷となり得るのだということを身をもって体験した、彼にしか書けない辛い思いだ。


しかしひとつ気になったのは、このツイートを見たファンの反応だ。そこには1600を超えるリプライでもって、多くの反響が寄せられていた。


一読して驚いた。「感動した」「私もそう思います」「米津さんありがとう」……肯定意見のオンパレードがそこにあった。反対意見はただのひとつもない。まるで国の圧力で大規模な検閲が行われたかのように、口を揃えて称賛の声を送っていたのだ。


今は某動画サイトの有名配信者のコメント欄でさえ、賛否両論が交わされる時代である。テレビ番組にも、コメンテーターの発言にも。絶対に『否』の意見は存在しなければおかしいのだ。にも関わらず、米津玄師のリプライ欄は皆一様に『賛』のみ。中には「泣きました」という人さえいた。

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更にはこのツイート。紅白歌合戦で歌唱後に呟いたものと見られるが、何と13万リツイート、62万いいねを記録している。ツイッターでは『1万リツイート達成する=大きくバズった』と見なされる傾向があるが、米津玄師がふいに呟いた「紅白歌合戦ありがとうございました」はそれを遥かに凌駕する。


何時間も執筆して色付けした絵師のイラストよりも、猫がはしゃぐ動画よりも、流行りのパロディーネタよりも。その何倍もの拡散力でもって、米津玄師の言葉は日本列島を駆け巡っているのだ。


僕が冒頭で「宗教じみた怖さを感じる」と述べたのはこういった理由のためだ。全員ではないにしろ、物事を『米津玄師』というフィルターを通して見るだけで黒が白になり、反対が賛成になり、嫌悪が愛好に変わり、何もかもが輝いて見える人は少なからず存在するのである。

 

日本の音楽シーンへの影響

先程は彼の発言に焦点を当てたが、次は音楽シーンへの影響について見ていこう。


まず大前提として、米津玄師の音楽は今のジャパニーズ・ミュージックのド真ん中に位置していることをご理解いただきたい。

 

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上の画像はある時期に発表されたYouTubeの音楽チャート『音楽ランキング』の結果である。ご覧の通り1位~10位までの楽曲のうち、4つもの楽曲が米津玄師だ。しかもこの結果は米津玄師人気の、ほんの一部分に過ぎない。初期の代表曲『アイネクライネ』や『ゴーゴー幽霊船』等を鑑みれば、おそらく11位以下のランキングにおいても米津玄師の名前は至るところに出現していることだろう。

 

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更に前述した『音楽ランキング』をアーティスト別に分けたものがこちらだ。何とTwiceやBTS(防弾少年団)といった今をときめくK-POPアーティストや、あいみょんやMr.Childrenら誰もが知っている日本人歌手を抑え、堂々の1位に君臨。良く見ると動画の再生回数もとんでもない。そこには『ある程度人気があるミュージシャン』が束になっても勝てないほどの、高い高い壁が立ちはだかっていた。


米津玄師ブランドは、彼自身の人気に留まらない。最近音楽チャートで数ヶ月間上位に食い込んでいる『Foorin』というグループがいるが、調べたところ『米津玄師プロデュース』という触れ込みで知名度を獲得したグループだった。ロックシーンの革命児と謳われるKing Gnuも、思えば最初に導火線に火が点いたのは米津玄師がツイッターで取り上げたのが理由だったという。


他にもTempalayや中村佳穂といったアーティストもそう。某動画サイトを分析してみると、米津玄師が引用リツイートした動画の再生数だけが群を抜いて高かい状態にある。そうした現状を考えると次第に「音楽シーンでさえも米津玄師に踊らされているのでは?」という疑念が真実味を帯びてくるのだ。


『打上花火』以外のDAOKOの楽曲を、あなたはいくつ歌えるだろうか。『灰色と青』で有名な菅田将暉のアルバムを聴いたことはあるか?『NANIMONO』で映画主題歌を書き上げた中田ヤスタカが、一体どんな人物か知っているか?


これらの問いにしっかりと答えられる人は、日本に一体何人いるだろうか。『米津玄師がオススメしたアーティストは100%有名になる』というのもあながち間違いではない。ゆっくりと確実に、今の日本の音楽シーンは米津玄師を中心に回っているのである。今年(2019年)の紅白歌合戦の出演者のうち、米津玄師経由で売れたアーティストは何組いるだろう……。

 

さて、今回の記事について、あなたはどう感じただろう。いろいろな解釈があって然るべきではあるが、特に米津玄師ファンにとっては憤慨するような内容になっていることと思う。


しかしタイトルにも本文にも繰り返し書いた『今の米津玄師は一種の宗教である』という点に関しては、完全に否定できない部分もあると思う。


僕は米津玄師アンチではない。単に今の日本が米津玄師を中心に回っている構図が気に食わないだけなのだ。


今後何年間とこの構図が続けば、日本はどんどん悪い方向へと突き進むだろう。「自分はあまり好きじゃないけどヨネケンが勧めてくれたから好きになっちゃった」と『自分の考え<米津玄師』になる人。彼のツイートに目を光らせる若者。彼のおこぼれに預かろうと、媚を売る人も出てくるかもしれない。


そうなったら日本は終わりだ。


読者貴君も今一度、米津玄師一強時代となった現状を考え直してみてほしい。


それでは。