キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】『SUPER ROCK CITY HIROSHIMA - 2023DX』@広島市内ライブハウス9会場

こんばんは、キタガワです。

広島で行われる、年に2日間のサーキットイベント『SUPER ROCK CITY HIROSHIMA』の季節が今年もやってきた。今回はライブハウスを好きなように巡りつつ、新たな音楽と出会う契機となるこの貴重な日の2日目に参加。ベテランからニューカマーなど様々なバンドが揃う中でこの日は『ニューカマー側』にあえてフォーカスし、今後絶対に頭角を現すであろうバンドをたくさん観てきた。この中から来年以降、一気に跳ねるバンドが出てくるのかと思うと今からワクワクする!以下レポです。

 

Conton Candy VANQUISH 12:30〜

流川を進んでVANQUISHを目指し、まずは若きロックバンド・Conton Candyを選択。今年リリースした“ファジーネーブル”がバズを生み、一気に全国的に知られるようになった彼女たちのライブを観ようと、トップバッターにも関わらず満員の客入りである。

客電が落ちると紬衣(Vo.G)、楓華(B.Cho)、彩楓(Dr.Cho)の3名がステージ袖から登場。そのまま全員で円陣を組んで気合を入れると楓華が「東京から来ました、Conton Candyです!」と一言。そこからオープナーの“baby blue eyes”へ移行していく。爆音の中にも透き通って聴こえる楓華のボーカルが心地良く、まだ温まっていないフロアを少しずつ溶かしていく感覚がある。

Conton Candy - baby blue eyes [Official Video] - YouTube

この日のセットリストは『PURE』と最新の『Charm』による、これまでリリースしてきた2枚のEPから抜粋。またConton Candyは同会場におけるバンド全体で考えても「行けるかー!」と扇動して盛り上げたり、雰囲気で楽しませるというよりは、楽曲の持つ魅力のみで勝負するバンドだが、曲が流れた瞬間に口ずさめてしまう圧倒的なキャッチーさで、グングン牽引していく姿は素晴らしかった。

ハイライトは、中盤での“ロングスカートは靡いて”から“ファジーネーブル”への流れ。明確にロックへ変貌したサウンドで多くの腕を挙げさせてから、誰もが知る楽曲を畳み掛ける作りで、30分の持ち時間を完璧に使うのはやはりライブの経験値によるものだろうなと。そしてここで来たか!な“ファジーネーブル”は、一見激しい楽曲のようにも思えるが、ライブで聴くと「彼女たちの楽曲の中では割とミドルテンポなのだなあ」と感じられたのもひとつの発見。

Conton Candy - ファジーネーブル [Official Video] - YouTube

MCでは、初の広島ライブへの思いが爆発する瞬間が多々。楓華は「さっき楽屋に、広島のbokula.っていうバンドが来てくれて。広島に来てくれてありがとうって言いに、ライブハウスの楽屋回ってるんだって。その他にもいろいろ、広島の土地をみんなが大切にしてるんだなと思って。凄く大好きな場所になりました。スーパーでロックなライブをして帰ります!」と語り、自分たちをトッパーに選んでくれた、今回のイベントへの思いを伝えてくれた。

Conton Candy - 好きなものは手のひらの中 [Official Video] - YouTube

ラストナンバーは初期曲の“好きなものは手のひらの中”。次第に過ぎ去る時間と大切な思い出をリンクさせ、未来に繋げていく彼女たちらしいポップロックだ。ワクワクするサウンドが鳴らされる中、楓華が「歌える人は歌って!」とサビ部分をファンに託し、全員で大合唱する多幸感溢れる空間に。誰も置いていかず、それでいて音楽の塊で印象付ける最高のライブは素晴らしい終着を迎え、終演後には物販に大勢の列が出来ていた。まだフルアルバムをリリースしてはいないルーキー状態のConton Candyだが、今この時点で観ることが出来たのは、大いなる意味があるように感じた。

【Conton Candy@広島VANQUISH セットリスト】
baby blue eyes
プードル
ロングスカートは靡いて
ファジーネーブル
102号室
好きなものは手のひらの中

THE BOYS&GIRLS VANQUISH 13:35〜

続いては同会場でTHE BOYS&GIRLS。少し休もうと外のソファーで座っていると、突然多くの感性が。なんだなんだと思ってステージを覗くと、なんとファンのひとりがステージに上がって“ボーイ”を歌っている!こうしたサーキットではバンドが直接リハーサルを行うことも珍しくないが、この時点で惹き込むケースは稀有過ぎる……。以降も時間ギリギリまで「誰か一緒にやりたいやついない!?バンドやろうぜ!」と叫びまくるワタナベシンゴ(Vo.G)である。

まさかのリハによって既に熱狂に包まれたフロアが暗転すると、ワタナベとサポートメンバー3名が登場。いつも白Tシャツにマジックで文字を直書きするワタナベ、この日は『30分を永遠にして』と記されていて、その言葉の通り、ワタナベは演奏前にも関わらずマイクを掴んでノンストップで言葉を発し続けている。そうこうしているうちに1曲目の“陽炎”へと雪崩れ込み、そこからはどしゃめしゃ、ステージを所狭しと駆け回りながらの、汗だくのパフォーマンスである。

THE BOYS&GIRLS「陽炎」MUSIC VIDEO - YouTube

他のバンドはともかくとして、基本的にボイガルはセットリストを固定化しない。実際に僕がこれまでに観たライブでも代表曲を全て廃したもの、昨日はやったのに今日はやらなかったもの……と様々だったが、この日も途中でワタナベは「セットリスト変える」とメンバーに指示する形で、急遽の変更を行った。これは先述のリハの一幕、更にはマイクでひたすら叫び続ける様にも表れているように、彼自身が『ロックンロールは内から出てくる衝動によるもの』なのだと認識しているからに他ならない。そしてそれが他者に飛び火し、もっともっと火種が出来て加速する、それこそがライブなのだと。

THE BOYS&GIRLS「ボーイ」LIVE VIDEO - YouTube

会場全体の楽しさが一体化したのは、彼らのライブの中では最も演奏される機会の多いキラーチューン“パレードは続く”。先述の「セットリスト変える」発言はこの楽曲の前に発せられたものであり、もしかすると本編で披露することは本来なかったのかもしれない。ただ結果としてこの楽曲は、一瞬にして雰囲気を固めてくれた。……リハの段階でワタナベは若干のアウェー感も抱いていた可能性はあるが、特に示し合わせるでもなく、サビで一斉に上がる腕を見たワタナベは歌唱を放棄し「うわ!ザワザワってした今!やべえよ。みんな一斉にブワーって手挙げてさ!やべえ!」と大興奮。そこからは「歌ってくれ!」と完全にサビをファンに委ね、満面の笑みのワタナベであった。

THE BOYS&GIRLS「最初で最後のアデュー」LIVE VIDEO - YouTube

熱狂的なライブは“最初で最後のアデュー”でシメ。ワタナベは楽曲が鳴らされるなりフロアに降り、端の方で観ていた男性をロックオン。男性の肩に乗って肩車状態になると、そのままステージへ移動するカオス過ぎる展開に突入していく。ワタナベはその男性に「おっちゃん!そこにいてくれ!」と叫び、以降は前方へダイブして移動しまくり。ふとその男性の顔を見るとにこやかな笑顔になっており、「これが彼らのロックなんだなあ」としみじみ。『30分を永遠にして』。その言葉の通り永遠に消えてほしくない、心震える最高の時間だった。

【THE BOYS&GIRLS@広島VANQUISH セットリスト】
陽炎
ライク・ア・ローリング・ソング
階段に座って
パレードは続く
その羅針盤
ボーイ
最初で最後のアデュー

空白ごっこ VANQUISH 14:40〜

ボイガルの興奮冷めやらぬ中、次にチョイスしたのは空白ごっこ。“独りんぼエンヴィー”でも知られる電ポルPことkoyori、“STAGE OF SEKAI”を始めとした楽曲で注目されたHarryP)こと針原翼を中心とし、ボーカルにセツコ(Vo)を加えたニューカマーだ。ネクライトーキーの石風呂、おはようございますの鬱P……。他にもすりぃやヒトリエなど、元々ボカロPだった人物が生バンドを結成することは今や珍しくないが、その中でも異色なサウンドを持つ空白ごっこだからこそ、今の注目度の高さに繋がっているような気もする。

天 - YouTube

不穏な打ち込みサウンドが鼓膜を揺らす中、ベースも含めたリズム隊に少し遅れる形でセツコが登場。そこから鳴らされた1曲目は“天”、爆発的なサウンドから畳み掛けるロックチューンである。エレキギターが炸裂する中でセツコは何もない虚空を一点に見つめ、尋常ならざる声量で歌声を届けていく。キーが異常に高いこの楽曲を全くブレずに歌い上げる様には驚いたし、ゆっくりした足取りでステージ端まで移動して立ち止まったり、サビではスッと腕を挙げてレスポンスを任せたりと、フロントウーマンとしての強みもバッチリだ。

大前提として、空白ごっこは素顔を公開していない。バンドメンバーについても発起人でもあるkoyoriと針原翼が参加した……ということもなく、全く別のサポートメンバー3名が帯同した形だ。しかしながらライブでは照明に照らされ、完全に全メンバーの顔が分かるものに。やはり圧倒的なのはセツコの存在感で、あえて変な言い方をするなら宗教の教祖のような、はたまた今にも屋上から飛び降りてしまいそうなダークな雰囲気を纏っていて、それが我々ファンを沈黙させ、曲に没入させる力を宿していたように思う。事実、「フウー!」と声を上げる人も多かったこの日この場所で、最もファンが静かだったのは間違いなく空白ごっこだった。

空白ごっこ - なつ(Music Video) - YouTube

「観るのは好きですが、私はサーキットイベントに出演するのは苦手です。歌っている途中に人が出ていってしまうと『ちゃんと楽しんでもらえたかな』と不安で、緊張してしまうので。……私は緊張するとふざけてしまうタイプで、無駄に煽ったりとか、普段はしないことをしてしまうんです。でも、今日はふざけることはしません。私はここに立って全力で歌います。だから皆さんも、私から目を離さないでください」。セツコは最初のMCで、赤裸々にこう語ってくれた。直後、ファンからは複数の拍手が巻き起こったが、セツコが飲んでいたミネラルウォーターのペットボトルを袖に放り投げ、グシャッという音を響かせた瞬間に停止。この緊張感は、一体なんだろう。

空白ごっこ - 運命開花(Music Video) - YouTube

《この先くりんくりんくしたい》で指をクルクル回した“リルビィ”、訴え掛けるような熱唱が爆発した“なつ”と続き、ラストナンバーは代表曲たる“運命開花”。大勢の手が挙がるその先で、セツコは感情の全てを放つような歌唱で魅せていて、これまで全く見せなかった声がブレる場面も含め、自身のネガティブな感情で歌を引っ張っていくような感覚があった。楽曲が終わって拍手に包まれる会場で、持っていたマイクをテーブルに置こうとしたセツコ。しかし転がってなかなか定位置に戻らないそれを、彼女は上から叩き付ける形で強制的に留めた。その際に鳴った『ゴツッ』という音が、今でも頭から離れない。

この日、セツコが笑顔を見せた時間は5秒もなかった。鬼気迫る歌唱で訴え掛けたかと思えば、次の瞬間には電池が切れたように直立不動で佇んでいた彼女が歌に込めていたのは怒りだったのか、はたまた悲しみだったのか……。その真実は闇の中だが、漠然とした「何かとてつもないものを観た」という衝撃は、我々の心に明確に与えてくれたように思う。

【空白ごっこ@広島VANQUISH セットリスト】


乱(新曲)
リルビィ
なつ
運命開花

TETORA クラブクアトロ 15:50〜

この日、待ち時間にとにかく多く耳にしたバンド名は『TETORA』だった。リストバンド交換時に「お目当てのバンドは?」と聞かれてそう答えた人、転換中に「今日は◯◯と◯◯と、あとTETORAは絶対観たい!」と選択肢に上げた人。更には「TETORAは入場規制になるから早めに行こう」といった声も聞こえてきたりもして、前評判の高さをはっきりと示す形になっていたのだ。個人的にも行きたかったワンマンツアーが全公演即ソールドした経験もあり、念願叶ってのライブだ。

会場である広島クラブクアトロは、広島市内でも最もキャパの大きいライブハウス。にも関わらずパンパン過ぎてほぼ入れず……。何とか2階で観ることが出来たが、ここまでとは思わなかった。上野羽有音(Vo.G)、いのり(B)、ミユキ(Dr)がステージに足を踏み入れた瞬間から前にギュウっと詰める絵からも、TETORAの期待値の高さを伺わせる形に。それはオープナーの“Loser for the future”からも感じられるもので、TETORAの楽曲の中ではミドルテンポなこの楽曲で、フロアは既に押し合い状態。彼女たちによる愚直なロックこそ至高であり、最強なのだということを早くも証明していた。

TETORA - Loser for the future - Music Video - YouTube

TETORAのセットリストはそれが全国ツアーであっても、会場ごとに大幅に変更されることでも知られる。この日は『教室の一角より』と『こんな時にかぎって満月か』の2枚のアルバムから中心に選ばれたセトリで、特にファン人気の高い楽曲を多く披露していた印象。全バンドに平等に与えられた持ち時間30分をなるべく演奏に使う姿勢も素晴らしく、なんと総曲数にして8曲をやり切ったTETORAである。時にはいのりと立ち位置を真逆にしたり、膝からのスライディングでギターを弾き倒す上野のアクションも、ロック大好き!を体現しているようで最高だ。

TETORA - 今日くらいは Official Live Music Video- - YouTube

「一人ぼっちでもええ。音楽だけは味方や」……。上野が曲間の短い時間に、そう語っていたのが印象に残っている。每日学校に通い、仕事に忙殺され。そんな中で音楽好きにとっての救いとなっているのは、間違いなくライブだ。ライブでしか感じられない何かを求めてTETORAを観に来たファンも、そして彼女たち自身もそうだろう。他にも彼女は「大阪の心斎橋BRONZEからやってきたTETORAです」と地元のライブハウスを紹介したり、今回のサーキットの関係者の思いも代弁してくれていたけれど、それはライブハウスへの強い気持ちがあるからこそ。

TETORA - レイリー - Official Music Video - YouTube

ラストは代表曲の“レイリー”でシメ。上げて上げてそのまま終わるバンドがこの日多かった印象だが、幾度も続いてきたファストチューンの波を、ミドルテンポな楽曲で穏やかにしつつ終わるという一風変わった流れをこの日のTETORAが選択したのは、彼女たちなりの「まだライブは続くから無理しないように」との思いが込められていたのではないか……。そう感じてしまうほどに、グサリと心に刺さりながらも、他者への感謝を欠かさない姿勢がグッと出たステージングだった。最後に「今谷さんありがとう!」と今サーキットイベントの主催者である今谷修司へ思いを伝え、颯爽と去っていった3人。最高でした。

【TETORA@広島クラブクアトロ セットリスト】
Loser for the future
バカ
嘘ばっかり
言葉のレントゲン
素直
ずるい人
今日くらいは
レイリー


yutori  VANQUISH 15:45〜

パラパラと降る雨を退けながらクアトロから急いでVANQUISHにカムバックし、続いては若き新星・yutoriのライブを観ることに。yutoriは元々音源についてはチェックしていたものの、至る所でとにかく「ライブが凄すぎる!」という前評判を聞いていて。個人的にもリアルサウンド社に寄稿した記事で彼らについて書いたことはあったが、ライブ経験はなし。故に「どんなライブなのかな?」と期待する気持ちで鑑賞したのだけれど、ライブを観てぶったまげてしまった。今はまだニューカマーにしろ、一気に飛躍して背中が見えなくなるのも近いな、と思うくらいには。

yutori「センチメンタル」 lyricvideo - YouTube

定刻になり、袖から佐藤古都子(Vo.G)、内田郁也(G.Cho)、豊田 太一(B)、浦山蓮(Dr.Cho)が登場。1曲目は“センチメンタル”で、ギターを中心とした荒々しい世界に誘っていく。ともすれば激しいサウンドで埋もれそうなものだが、そんな中でも佐藤の中性的な歌声はしっかりと届いていたのが素晴らしく、観客によるメロ間の「ワンツー!」の掛け声もピッタリハマり、メンバーも嬉しそう。……と同時に、この場にいる観客の多くがこれまでyutoriの音楽に心掴まれたファンである事実が、期せずして証明された形だ。 

この日のセットリストは全7曲中、“君と癖”以外の楽曲をミニアルバム『夜間逃避行』から抽出。最近まで行われていたアルバムツアーを踏襲するように、最新の楽曲を惜しみなく投下していた。深夜帯の未遂の経験をリアルに描写した“安眠剤”ではまるで泣いているように声を震わせたり、前髪で隠れた表情の下で絶唱し、どこか精神的不安定ささえ抱いてしまう佐藤の姿も、そのメッセージ性に拍車をかける。

yutori「ワンルーム」 Official Music Video - YouTube

ハイライトは、すっかりライブアンセムとなった“ワンルームの一幕”。演奏開始時から佐藤はギターを前傾姿勢で弾き、フラつく足取りになった時点で不穏な感覚はあったが、1〜2曲目では見られなかった目をひん剥いて歌う場面が増えたことで、次第に会場全体が佐藤の雰囲気に呑まれていくのが分かる。そして熱狂を繰り返した果てに佐藤がステージに倒れながらも演奏を続けるシーンを観て、(他者と比較するのは良くないと思いつつ)平手友梨奈や秋山黄色、後藤まりこといった『感情が自分を支配していくアーティスト』の儚さをも感じた次第だ。

yutori「煙より」Official Music Video - YouTube

「あなたには今にもここから飛び出したいくらい、大好きな人はいますか?その人を思い浮かべながら聴いてください」との一言からの“会いたくなって、飛んだバイト”、力強い歌声で魅了した“君と癖”と続き、ラストナンバーはアルバムの最終曲でもある“煙より”。ふと後ろを観ると開始時よりも遥かに多いファンが敷き詰めていて、多くの手が挙がっていた。一度音楽を聴いたが最後、離れられない程の魅力があるのだなあと実感すると共に、最もストレートな歌の届きを見るようでもあった。

【yutori@広島VANQUISH セットリスト】
センチメンタル
安眠剤
ワンルーム
ヒメイドディストーション
会いたくなって、飛んだバイト
君と癖
煙より

MOSHIMO VANQUISH 17:55〜

最後に選んだのはMOSHIMO。かねてより精力的な活動を続けてきたライブバンドであり、今回はニューアルバム『CRAZY ABOUT YOU』のリリース&全国ツアーも控えた抜群のタイミングでの出演だ。同時刻には新進気鋭のバンドが多く出演していた中で、オープナーの”電光石火ジェラシー“が始まる頃にはライブハウスの外から猛ダッシュする人も大勢。MOSHIMOはここ広島でも多くライブをしている印象だけれど、彼女たちのライブが確かに心を掴んでいて今に至っている、というのを実感した次第だ。

MOSHIMO「電光石火ジェラシー」MOSHIFES.2022 ライブ映像 - YouTube

……というわけで1曲目。岩淵紗貴(Vo.G)、一瀬貴之(G)、高島一航(Dr)、サポートメンバーで空想委員会のバンドでも活動する岡田典之(Dr)が登場すると、《アウト?セーフ?よよいのよいよい》のボイスSEがどこからか流れ始める。岩淵は何度も振り付けをレクチャーし、実質的なハンドマイク状態でフロアに火を焚べていく。そうして全員がある程度理解した状態でのサビの連続は、あまりにもキャッチー!初っ端からフルスロットルで駆け抜けていく様は、やはりMOSHIMOでしか得られない興奮があるなと改めて感じた。

後のMCで岩淵が「今のMOSHIMOは原点回帰をテーマにしている」と語っていた通り、何とこの日のセットリストはニューアルバム、更にはコロナ禍にリリースされた楽曲も全てカット。3年以上前からこれまでにかけて、ライブでブラッシュアップしてきた代表曲のみを投下するものに。必然30分の持ち時間は言わば『全部がハイライト』とも言うべき盛り上がりを記録し、初見の人にも強みを見せ付ける作りに。

MOSHIMO「バンドマン」 Lyric Video - YouTube

一方で楽曲は5曲と短めだったが、その理由のひとつはトーク。これもMOSHIMOらしい爆笑展開が炸裂していたのが最高で、まずは場所が広島であることから、一瀬による「岩淵は最近まで広島出身の人と付き合っていた」という暴露で幕開け。ただ暴露された側である岩淵は「お前マジで……」と笑いながらも、「すいません、実は広島プライベートで何回も来てました」と更なる笑いへと繋げていくのも流石である。他にもレーベルメイトである超能力戦士ドリアンに「広島駅まで乗せていってほしい」とパシリ的に扱われたことなどをトークテーマに、どんどん笑いを高めていく様は『ライブ慣れ』を地で行くようでもあった。

MOSHIMO「命短し恋せよ乙女」MV - YouTube

一度聴いただけで歌いたくなるキャッチーロック“バンドマン”を経て、最後に披露されたのは待ってました!な“命短し恋せよ乙女”。代表曲を聴けるのはライブあるあるだと分かっていても、この曲のリフで思わず「おお!」となってしまうのは今も昔も変わらない。ファンの中にはMVの振り付けをマネして踊る人もおり、ライブのラストを飾るには最強の楽曲だなあと理解。終演後は「30分は短いからもっと聴きたい!」と心底思ってしまったのだが、これも「ツアーでまた広島に来ます!」という岩淵の宣言により購買意欲がそそられる、という幸福な流れも含めて、100点中100点の時間だった。今のMOSHIMOは、強いぞ。

【MOSHIMO@広島VANQUISH セットリスト】
電光石火ジェラシー
釣った魚にエサやれ
誓いのキス、タバコの匂い
バンドマン
命短し恋せよ乙女


この日、参加者は総じて様々なバンドを観ることが出来たはずだ。……チケット代にして約5000円。にも関わらずフェスでも単独でもソールドアウト必至の若手筆頭株を多く目撃出来たのは、やはりサーキットイベントの強みであろうと思う。終電の関係で早めに切り上げた自分でさえ6バンドを鑑賞したのだから、人によっては本当にチケット代以上の、貴重な経験になったことだろう。

ただTETORAが語っていたように、基本的にはサーキットイベントは大阪や東京といった都市部がほとんど。ゆえに今回のイベント成功にはALMIGHTYと尾道BxBの店長である今谷さん含め、多くの広島バンドの功績が下支えになっているということは、絶対に理解しなければならない。今回の記事では詳しくは書かなかったが、マタノシタシティーや南風とクジラなど、様々な広島バンドのライブも合間に観に行ったが、本当に素晴らしかった。それらのバンドが1日中、それもたくさん出演しているこの広島の現状を、大切にしていく必要があるとも思った。音楽との新たな出会いとなった今回のイベントが、まだまだずっと続きますようにと願いを込めて。