キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

飲食店で撮影したアーティストのMV5選

こんばんは、キタガワです。


今やアーティストにとって楽曲に誘う貴重なツールのひとつ、MV(ミュージックビデオ)。MUSIC STATIONやCDTVといった大衆向け音楽番組においてもバズを記録しているアーティストのMVがこぞって取り上げられているように、現在の音楽シーンでは楽曲単体の魅力のみならず、楽曲にどのような付加価値を与えて注目へと至らせるか、という戦略も大きな肝となっていることは周知の通りである。


当ブログではこれまでも不定期更新カテゴリの一環として『学校を舞台にしたMV』や『映像がループするMV』『家で撮ったMV』など多種多様なジャンル分けでもって記述して深みに迫ってきたが、今回は『飲食店で撮影したアーティストのMV』と題し、更にニッチな世界へと読者を誘っていきたい。音楽への出会いは一期一会。であれば、音楽特化型のブログから知る音楽知識というのも存在して然るべしなのだ。

 

 

I Love LA/Starcrawler(場所:ドーナツ屋)

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アメリカ発の若きインディーズバンド・スタークローラー。188cmの長身から繰り出される、アロウ・デ・ワイルド(Vo)によるB級ホラーテイストたっぷりのライブが口コミで広がり、今世紀最強のエログロバンドとの呼び声高い彼らのキラーチューンのひとつが、以下の“I Love LA”である。


MVの舞台はドーナツ屋。例えばマクドナルドであれば全体的なボリュームの差、ケンタッキーではサイドメニューの充実と、海外と日本ではその内装然り品物然り、大小異なることは周知の事実ではあるが、こと海外の個人経営の店では客と店員の距離が近い(世間話は勿論個別オーダー、チップ関係等)ことも多い。そうした事実を踏まえた上でMVに目を向けてみると、店員であるアロウをはじめヘンリー・キャッシュ(Gt)も完全にやる気がなく、それどころか自らクビへの道を突き進むかのような勤務態度で進行。楽曲が展開した後も彼らの暴挙は留まるところを知らず、店内でどしゃめしゃな演奏を行うまさかの展開に。特にアロウの行動は目に余るところもあるが、実際のライブでもダイブな絶唱は当たり前、筆者が実際に参加した単独ライブでは自分の首をマイクコードで力一杯絞めたり、体を痛め付けて血塗れになるパフォーマンスに徹する、彼ららしいといえばらしい仕上がりだ。


昨年はコロナの影響により活動が停滞した他、メンバーの突然の脱退やアロウのセクハラ被害など多くの問題がスタークローラーを襲った悲痛な年でもあったが、それでも彼らはタフ。現在はオンラインライブを敢行することで注目を集めている。彼らのようなライブスタイルはある種若者特有の無敵感から来ていることは疑いようのない事実だが、どうかこのままのスタンスで動き続けて欲しいと願うばかりだ。

 

 

 

釣った魚にエサやれ/MOSHIMO(場所:ファミレス)

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かつて10代限定のオーディション型フェス『閃光ライオット(現:未確認フェスティバル)』でファイナルに進出され、その後CHEESE CAKEからMOSHIMOのバンド名を変更。今も変わらずポップロックの何たるかを体現する彼女たちが、大いなる変革を図った1枚こそ2019年にリリースしたミニアルバム『TODOME』。このアルバムでは岩淵紗貴(Vo.Gt)が恋愛事情の怒りをぶちまけ荒々しく、そしてパンクな作品となっていて、これまで恋愛の幸福感を主として展開してきた過去のアルバムとは大きく異なる代物と化している。


そんな『TODOME』のリード曲に位置しているのが“釣った魚にエサやれ”であり、彼氏への不平不満を人でごった返すファミレスで彼女(岩淵)が一方的に詰問する内容で、交際歴3年の若きカップルの壮絶な口喧嘩を見ることが出来る。その一部始終を見るに低予算のデートもバイトばかりの生活も、100%彼氏側が悪いとは言い切れない部分も多いけれど、彼女側の不満は収まることなく、一貫して彼氏側の言葉を一蹴。長い付き合いが返って悪い方向へ進んでしまう、倦怠期の悲しき終着駅がファミレス……。とんだバッドエンドである。


なおMOSHIMOはこのアルバムをリリースし全国ツアーを回った直後、メンバー2名の脱退を経験している。しかしながら時を同じくして新たに2名側加入したことからもMOSHIMOは前を向き続けていることが分かり、5月からは感染防止対策を徹底した上で全国ツアーを絶賛敢行中。独自の恋愛模様にコロナの鬱憤が合わさったとき、どのような化学反応をライブで見せてくれるのか……。その実態は、是非とも現場で確認すべきだ。

 

 

 

駄目なあなたのまま/しなの椰惠(場所:居酒屋)

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言葉のナイフで心中を突き刺すシンガーソングライター・しなの椰惠(読み:しなのやえ)。彼女のフルアルバム『世間知らず』収録曲であり、同アルバムで最もアッパーなライブアンセムとして位置しているのが“駄目なあなたのまま”だ。


話は少し逸れるが、彼女の名を広く知らしめた楽曲といえば、おそらく誰しもが同アルバム収録の“17歳”を挙げるだろう。この楽曲では父親と父親の愛人から逃げるように高校を自主退学、ホームレスとなり、夜の街で音楽と出会った経緯が赤裸々に描かれているが、“駄目なあなたのまま”では取り分け自身の人生観について綴られる場面が多いのも特徴だろう。その思いこそラストに歌われる《どんなに苦しくても/どうせ生きていくんだから》という過酷な青年期を過ごした彼女だからこそ至った真理だ。MV内でも所謂『路上飲み』でハイネケンを流し込んだり、居酒屋で生ビールを飲んだりと気ままに人生を謳歌する様子が記録されているけれど、そうした野良猫のようなのほほんとした暮らしの中で音楽を生産することが、彼女の性に合っているのだろう。


人生経験をたっぷり積んだ大人がこぞって「多くの経験を積んだ人間こそが強い」と語るように、まさに辛い経験を一般的な若者より若い時分に消化した彼女が織り成す言葉は聴くものの心を打ち、更なるリピーターとなっている現状。ことYouTubeやサブスクの発達で音楽への敷居が低くなってはきたが、未だ『売れる』『売れない』との線引きで評価されるのが実情。けれどもこれほどの才能を未聴に終わるのは酷く損と言うもの。リアルのみを見つめて曲を生み出す彼女の才能に触れる契機は、今しかない。

 

 

 

ないものねだり/KANA-BOON(場所:中華料理屋)

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もはやファンにとってもロック好きにとっても「KANA-BOONと言ったらこれ!」な代表的ナンバーたる“ないものねだり”。現在のKANA-BOONと聞けば、体育館を貸し切りダンサーを引き連れてのMVや有名アスリートを起用したMV等が注目を集めているが、当時の彼らはまだインディーズ。故にMVの制作も低コストに抑えていて、MVの舞台となる中華料理屋での一幕然り、彼女とのデート中、目元まで覆われたマッシュヘアーの谷口鮪(Vo.Gt)が煙草をふかすシーン然り、今ではほぼ描かれない日常的な描写が点在するMVに仕上がっている。


ただ前述の通り、KANA-BOONにとってブレイクの契機となった重要な楽曲がこの“ないものねだり”であることは間違いないし、実際ライブでも最もセットリスト入りを期待されている楽曲でもあるため、現在までの軌跡を追った上で回顧すると、逆にこのチープさこそが若き彼らの魅力を最大限引き出している気もしないでもない。


なお“ないものねだり”はライブにおいては更に化けることでも知られていて、原曲にはない観客総出で叫ぶシーンや、Cメロ部分の手拍子など『魅せる』演出もたっぷり。特に昨今はメンバーの突然の失踪や、谷口の精神的不調による療養などネガティブな事件もKANA-BOONには多かった印象だが、先日のライブで完全復活をアピール。地位も名声も獲得した彼らだが、今後もある種途方もない、それこそ『ないものねだり』な活動を続けていってほしい。

 

 

 

クリームソーダ/THEラブ人間(場所:カフェ)

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恋愛至上主義のポップマエストロ・THEラブ人間。某年にリリースされたミニアルバム『恋は全部まぼろし』に収録されている“クリームソーダ”は、彼らの楽曲の中でも甘味に甘味を混ぜたかの如き一際甘酸っぱい余韻を残すアンセムとなっている。


“クリームソーダ”と冠されたタイトルと同じく、その内容も胃もたれレベルの幸福度だ。ひとつのテーブルに向かい合わせて座るふたりの男女のシーンから、物語は幕を開ける。主人公役を務めるのはフロントマンの金田康平(Vo.Gt)その人であり、おそらくは実際の恋人にもするような幸福な一時を体現して見せる。けれどもそのストーリーは次第に不穏な雰囲気に変化し、主人公の過去の彼女が走馬灯のように思考を駆け巡り、果ては現実世界に存在すると見まごう一幕まで飛躍。結果ハッピーエンドで締め括られるラストまで、どこまでもTHEラブ人間らしいポップなテイストだ。


THEラブ人間の過去の楽曲では喧嘩や浮気などネガティブな内容が挟まれた後、それらを解決してクライマックスへと雪崩れ込むものが多く存在する。以下の“クリームソーダ”も例に漏れず様々な出来事が介入する代物にはなっているけれど、その明るい照明や雰囲気も相まって幾分ポジティブだ。当然ながらアッパーな“クリームソーダ”は長らくTHEラブ人間のライブのセットリストに組み込まれていて、金田が歌詞中の彼女の仕草を体現するパフォーマンスが今でも印象深く記憶されている。なおコロナ禍で今までのような活動が不可能となった彼らは現在、新たなラブソングの制作に着手。現時点までに公開されている楽曲には彼ららしいアンセムは当然として、ラブソングの中でも一風変わった作品も多々(新曲“晴子と龍平”ではよもやの……)。“クリームソーダ”で興味を抱いたリスナーにもきっと突き刺さる、珠玉のアンセムの宝庫。是非とも。

 

 

 

……さて、いかがだっただろうか。飲食店で撮影したアーティストのMVの世界。


そもそも論、今回は『飲食店で撮影したアーティストのMV』と題して5つの作品を列挙してきたが、同様のMV特集記事の後書きに都度記しているように僕個人としてはMVに内容如何はほぼ必要ないものと考えている。確かに暗転した空間での独特な歌唱スタイルは話題を呼んだ瑛人然り、縄跳びダンスが大いなるバズを引き起こしたNiziU然りMVの在り方が結果重要な起爆剤の役割を果たしたアーティストは存在するが、ほぼ固定画面で進行するAdoやyamaもバズを記録しているし、それでは軒並みMVが流行するSixTONESやSnow Manはどうかと言えばまた違うはずだ。


とどのつまり、今回の『飲食店で撮った』ことは単なるひとつのジャンル分けに過ぎない。ただこうしたジャンル分けが誰かの目に留まり、また新たな出会いに繋がればそれは完全に不明瞭とも言えないと思うのだ。カラオケで友人が歌った曲を好きになっても、ふいに街中で流れた曲に耳を奪われても良い。それならば『飲食店で撮影したMV』たるジャンル分けでもって更なる音楽の深みへ嵌まる機会があっても良いじゃないか。