キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】Hump Back・BBHF『Hump Back pre. "HAVE LOVE TOUR 2022"』@広島クラブクアトロ

こんばんは、キタガワです。

日本国内にロックバンド多しと言えど、ここまで毎月ライブを重ねているバンドは彼女たちしかいないのではないか……。そう考えてしまうほど、Hump Backは常に活動の中心にライブツアーを置いてきた。そして今年行うツアーについても同様に新作EP『AGE OF LOVE』のリリースを記念し全国各地を周り、今回の広島はセミファイナルとなる。

今回のツアーはもちろん全てソールドアウト。ただ広島公演のみ追加のチケット販売がされていたため、急遽参戦を決めたという個人的な経緯があった。そんなチケットの整理番号は749番とかなり遅めで、この時点で「こりゃめちゃくちゃ人いるだろうな」と思っていたのだが、それの驚きはやはり現実のものに。会場に着いたのは開演時間の10分前だったのだけれど、まだ整理番号200番台を呼んでいる状態で、とても時間内に全員を入れるのは不可能と思えた。……結局僕が入った時にはもうBBHFのライブは始まっていて、更には僕をフロアに入れた瞬間に何と扉が閉められ、残された人たちは音漏れを聴く異常事態。僕はといえば扉の前から一歩も前に進めないし、Hump Backの人気の高さを改めて感じる幕開けとなった。

 

https://birdbearhareandfish.com/

そんなこんなでBBHF。『Bird Bear Hare and Fish』から改名してから初めて観る、という人も決して少なくなかったと推察するが、つい先日Galileo Galileiが再結成を発表(ボーカルとドラムの尾崎兄弟が在籍している)した背景からも、その期待値は非常に高かったことだろう。ステージ上には左から尾崎和樹(Dr)、Newspeakとしても活動するサポートベースのYohey(B)、DAIKI(G.Key)、そしてフロントマンの尾崎雄貴(Vo.G)が横並びで演奏。これまでいろいろなバンドのライブを観てきたが、フォーピースでボーカルが一番右側で歌うのは割とレアなのではなかろうか。

BBHF『ホームラン』Music Video - YouTube

オープナーはニューEPから“ホームラン”。ややアッパーなサウンドに乗せて、他者の栄光とその後に訪れるであろう苦悩について暗喩した、尾崎兄らしい作りの楽曲だ。腕を挙げて聴く人はひとりふたりだけ、それ以外の全員がその楽曲にゆるやかに体を揺らしているのみという、稀有な環境こそ彼らのライブ。突飛なことは何もなく、ただ純粋に歌の力のみで魅せるのはやはりBBHFだからこそ成し得る技だなと実感した次第だ。

対バンイベントの出演自体が珍しいBBHF、当然そのセットリストに関しても注目が集まっていた中で、楽曲はほぼ全てのアルバムから満遍なく選出。その中でも注目すべきは最新EP『13』からの4曲で、彼らの今を明らかにする意味で大切なステージングだったように思う。…Galileo Galileiと、warbear(尾崎兄のソロプロジェクト)と、BBHF。その3つのバンドの違いとして、尾崎兄はGGの再結成の際に「未知のものが未知じゃなくなって、愛とかを自分なりに定義しちゃって。いくつもある答えの中から個体として得たものについて書いてます。BBHFは『こうだ!』と思ったら胸を張って言える自分」と語っていた。つまり、BBHFは最もストレートに尾崎兄の思いを具現化させたバンドということになる。

BBHF『どうなるのかな』Official Audio - YouTube

そんなBBHFらしさが如実に現れたのは、『13』からの“どうなるのかな”。自殺や暴行、憂鬱といったネガティブな行動をifの世界線で思考し、どうにもならない現実にやきもきする……。それは我々が実生活で感じているストレスの具現化でもあって、それらの歌詞が緩いロックテイストで鳴らされる環境は多幸感に溢れていた。まるで自分がふわりと浮いて、立っているのかどうかも分からなくなるような。『音楽でトリップする』というのはこうした感覚なのかもしれない。

BBHFはMCがほとんどないバンドとしても知られているが、今回唯一のMCとなったのはHump Backとのラジオ体操について。Hump Backはいつもライブ前にラジオ体操をするのが恒例なのだが、この日はBBHFも一緒に、我々観客がいるフロアで円になりながら行ったそう。ただ普段は北海道の個人スタジオで毎日を過ごす彼ららラジオ体操自体が久々だったようで、常にワンテンポ遅れて踊ってしまったことを笑顔で語ってくれた。その尾崎兄の語り口もゆったりしていて、楽曲全体に抱いた抱擁感は、彼の性格の柔らかさによるものなのだなと実感。「僕らはいつも対バンではアウェーのことが多いんですけど、いい雰囲気で。これもHump Backだからだと思います」と尾崎兄。

BBHF『なにもしらない』Music Video - YouTube

以降も愛する洋楽テイストをふんだんにまぶした“僕らの生活”、終わりなき日々を競走馬と照らした“サラブレッド”、無知を『無知の知』的な幸福に昇華する“なにもしらない”と淡々と楽曲を進行し、ラストは今回披露された中でもかなり古い“ウクライナ”でシメ。今のご時世だからこその選曲なのかもしれないが、結果ラストとしては素晴らしい熱量を観せてくれたように思う。尾崎兄が「ありがとうございました、BBHFでした」と発してすぐに去っていったBBHF。我々観客はしばらくポカンとしたままだったが、すぐさま「何かヤバいもの観ちゃった」との感覚が襲ってきた。ライブ終了後に多くの観客が退室するのを観たけれど、要はそれほど彼ら目当てに訪れたファンが多かった証左だろう。『静かな爆発』と称するに相応しい、青い炎がそこにはあった。

【BBHF@広島クラブクアトロ セットリスト】
ホームラン
どうなるのかな
バック
僕らの生活
あこがれ
死神
レプリカント
Torch
サラブレッド
なにもしらない
ウクライナ

 

https://www.humpbackofficial.com/

BBHFのライブ終了後、……おそらくはBBHF目当てのファンか、ドリンク交換をしに行ったお客さんがいたからだろう、前のスペースが少し空いた。その空いた場所を目掛けて、グワッと押し寄せる人、人、人。後方こそスペースはあるものの、前方はもはやかつてのライブハウスそのままで隙間なしの広島クラブクアトロである。「俺たちはロックを求めてるんだよ!」とも感じられる、確かな興奮。それを見てウルッと来てしまったのは、やはりこの3年間の抑圧ゆえか。

暗転後、お馴染みとなったハナレグミの“ティップ ティップ”のSEと共に姿を見せたのは林 萌々子(Vo.G)、ぴか(B.Cho)、美咲(Dr.Cho)。こちらも恒例となる、握り拳を突き合わせて「オイ!」と叫ぶ号令から、各々の立ち位置へ。その時からオフマイクでぴかは「めっちゃ雰囲気ヤバいやん」と心境を吐露していたが、ここで林が一言。「BBHFのライブ観た?めっちゃ美しかったよなあ。でもここからは、汗まみれのロックンロールで行きたいんですけど良いですか!」と叫ぶと、1曲目の“LILLY”へ雪崩れ込み。

Hump Back -「LILLY」Music Video - YouTube

一瞬にして爆発したフロア。みんな歌っていて、体がぶつかる距離で楽しんでいる光景にまたもウルッと。後のMCで「ライブハウスにあまり来たことない人はごめん。無理にまざらんでも。後ろでスペース保って楽しんでいい。でもみんないろいろ思いながら生活してると思う。会社とか学校とか辛いこと耐えて、ここにいると思う。この場所は誰のためでもない、自分のためにあるんや!(意訳)」と林は語っていたけれど、明らかにこの日のファンの熱量は凄まじかった。みんなが辛い日々を毎日続けて、ようやく来たこの日……。だからこそ裸の感情で楽しませようと、彼女たちは試みていたのだ。

この日のセットリストはほぼ予想不可能な代物。もちろん最新EPである『AGE OF LOVE』の楽曲は全て披露されたが、それ以外の楽曲は彼女たちが自由に決めた楽曲が配置されており、アンコール含め約1時間で18曲という驚きの構成。純粋に楽曲自体がファストチューン多めなのもあるが、それにしてもこの曲数と爆発力には拍手を送りたくなる。そしてそれら全てでファンは大合唱、前方はほぼおしくらまんじゅう状態、気付けば汗だくなライブハウスだ。繰り返すが、僕らが求めていたのはこれなのである。

Hump Back - 「がらくた讃歌」Music Video - YouTube

加えて、笑いに溢れたMCも彼女たちのライブの魅力。前日のハルカミライとの対バンが終わり、ドラムの小松謙太と無茶な飲み会で盛り上がったというぴかは完全なる二日酔い状態。移動時の車中ではグロッキーだったそうだが、ライブが始まればあら不思議。健康体になっていたらしい。また「結婚おめでとう!」と声が飛べば「みんな観たことないやろ?これが人妻バンドです」とメンバーが薬指を見せたり、BBHFとのラジオ体操の思い出を語ったりと自由奔放。そんな予定調和なしの緩さが、DVDやYouTubeの配信などでは絶対にあり得ない『生のライブ』感を形作っていく。

ライブは新旧入り混じった楽曲が続き、一度バンドが林ひとりとなった時に制作した“サーカス”、長らく披露されてこなかった“チープマンデー”といった珍しい楽曲が鳴らされると、Hump Backのライブでは恒例となる、林の弾き語りへ。この場面では自宅で曲を作るような即興感で歌われるのは元より、そのツアー先ならではの要素も盛り込んだ歌詞が特徴的だが、この日は広島にまつわるフレーズはほぼ使われなかった。代わりにメインテーマに置いていたのは『人生』という、考え得る限り最も大きい代物だった。以下、ギター1本で朗々と歌い上げる林のイメージと共に、ざっくりとした歌詞を。

「みんな仕事や学校、ホンマに大変やと思う。生きる意味が分からん人らもおるかもしらん。人は何のために産まれてきたんやろう。それは多分、人に優しくするために産まれてきたんや。そして私たちは、今日ライブをしに来ました。なんでか分かるかい?それは、形に残らないものを届けるためさ」

思えばこの日のHump Backのライブでは、何度も『感情の爆発』が生まれた。声を振り絞って歌詞を届ける林のボーカル。何度も最前に立って注目を浴びていたぴか。重い打音で鼓膜を揺らす美咲。我々はひとり残らず熱狂し、それを観た林が「行こかー!」と更に焚き付ける……。ただ、その光景は絶対に日々の生活ではあり得ないものなのだ。人の顔色を伺って、どうでも良い会話を無理矢理聞かされて、帰宅すればヘトヘトになる生活。そこにある自分の感情は、言わば偽りの仮面のようにも感じられるだろう。そんな中でHump Backは、常に本気の姿勢で我々の眼前に立っていた。「頑張れ」「負けるな」「生きろ」といった言葉を日常で聞いても右から左に抜けるけれど、彼女たちの飾らない姿は確固たる『リアル』を伝えてくれる。だからこそ泣けるし、笑えるし、楽しめるのだ。

Hump Back - 「新しい朝」Music Video - YouTube

最後の楽曲として選ばれたのは『AGE OF LOVE』より“君は僕のともだち”。母親になっても変な恋人を作っても、関係性が変わろうとも、友情は絶対に変わらない。実に彼女たちらしい前向きな楽曲でシメたのはやはり、彼女たちが人を無常の愛を持って見ている、その証左でもあろうと思う。だからこそ、サビで歌われる内容は、まぶしい笑顔で歌われる《君は太陽》なのだ。最後の最後まで満面の笑顔を絶やさずに終えたHump Back、絶叫にも似た歓声を背に去っていった3人の姿は、まさしく太陽のようだった。

アンコールはぴかが先陣を切って登場。先程とは打って変わってほぼ無口な林をよそに、ぴかはBBHFへの愛を熱弁。どうやら今回のライブはぴかのラブコールによって実現したものらしく、その感動を未だ抑えられない様子。先日発表されたGalileo Galileiの再結成にも触れたぴかは「私の夢を実現させたい。Galileo Galileiと対バンするっていう……」と、素晴らしい思いを吐露し、林からは「えっ?ここ(広島)で?」とツッコミ。その一言から大いに沸く会場である。

Hump Back - 「番狂わせ」Music Video - YouTube

アンコールは“番狂わせ”と“夢の途中”。「ちょっと待って。そう言えば今日平日やで。それでみんな、こんな汗だくのライブハウスに来とる。……あんたらロクな大人になりませんよー!」と林が叫び、まずは1曲目の“番狂わせ”。Hump Back流のファストチューンということもあり、一気に熱量を高めていく様はもちろん圧巻。ただそれ以上に、アンコールで一旦興奮が収まった後にも関わらず、曲が始まった瞬間また一気にブチ上がったことには正直驚いた。

ラストの“夢の途中”は、この日披露された楽曲の中ではかなりミドルテンポ寄りな選曲。この曲を選んだ理由は漠然とだが、やはり「この先10年後20年後、50年後100年後もバンドを続けていきたい」とMCで語っていたように、まだまだ彼女たちが『夢の途中』であると本心で思っているためであろう。アウトロでは何度もファンと目を合わせながら、最後まで意思疎通を図ったHump Back。ライブ終了後にはステージの写真を撮る人々で前方が埋め尽くされていたけれど、それほど素晴らしい代物だったのだ。今回のライブは。

この日の数日後に行われたツアーファイナル後に、彼女たちは来年の新たなツアーを発表した。『tour tour tour 2023』と題された場所には今回の広島クラブクアトロも含まれているが、当日は「またツアーをします」とは全く語られなかったし、今でも公式ツイッターは沈黙状態。ただ公式サイトにアクセスすると「見つけちゃったかい?そう!わたしたちは2月からまたツアーを周るのさ!休む暇なんてナイナイナイ!ライブハウスにおいでよ〜!」というハイテンションな林のコメントがあり、彼女たちにとってはSNSより何より、ライブが活動の原動力であることがはっきり分かった次第だ。

林は弾き語りにて「サブスクはしてないし、他の配信もしてない。時代錯誤なバンドです」というようなことを歌っていたけれど、それはある意味では否定できない事実ではある。でも多分、ツアーを続けてその合間に曲を作って、気付けば1年が終わっている生活……。Hump Backにとってはそれがいいのだ。今回のBBHFとの念願の対バンを経て、来年は更に凄い1年になることは確定している。その結末がどうなるのかは当然ながら、我々の目で直接確認する必要がありそうだ。

【Hump Back@広島クラブクアトロ セットリスト】
LILLY
生きて行く
HIRO
オレンジ
宣誓
犬猫人間
しょうもない
サーカス
チープマンデー
〜即興弾き語り〜
がらくた讃歌
ティーンエイジサンセット
クジラ
僕らの時代
新しい朝
君は僕のともだち

[アンコール]
番狂わせ
夢の途中