キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【お笑いライブレポート】兵動大樹『兵動大樹のおしゃべり大好き。45』@中国新聞ホール

こんばんは、キタガワです。

『人志松本のすべらない話』で一躍脚光を浴びて以降、そのトークの妙に引き込まれる人続出。現在では単独ライブを年に数回行うお笑い芸人・兵動大樹。そんな彼の広島での単独ライブを、遂に観ることが出来た。タイトルは『兵動大樹のおしゃべり大好き。45』。この字面だけを観てもワクワクしてしまうのだが、何と言ってもこれが広島で東名阪でなく、広島で開催される意義は凄まじい。もちろんチケットはソールドアウトし、パンパンの客入りである。

会場に選ばれたのは、中国新聞の会社内部にあるホール。外から見れば完全に「今から出社する人」のイメージだが、ここで開催されるのは紛れもなくお笑いライブ。お客の年齢層は下は20代、上は60代くらいと幅広く、中でも40〜50代の人が圧倒的に多い印象を受ける。そしてそのほとんどが夫婦で来場しており、まさに兵頭家の話を繰り広げる今回のライブに合致した客層とも感じた次第だ。

 

①オープニング

14時に暗転すると、主人公たる兵動大樹が登場。兵頭は集まってくれたファンに感謝の気持ちを伝えると、この日が完全ソールドアウトであることを嬉しそうに語ってくれた。そんな拍手で迎えられた最高のオープニングトークだが、兵頭は「でもみんなこのライブのこと、どこで知ってくれはったん?」と疑問顔。すかさず前にいたマダムに尋ねると、「たまたま」というまさかの返答が。兵頭は「たまたま知ったお笑いライブに来はったん?そらリスキーやで!」と一気呵成。爆笑に包まれる会場である。

『人志松本のすべらない話』、更にはコンビである矢野兵頭の漫才でも知られている通り、彼のトークは全てが実体験。日常で起こった様々なことを、笑いに昇華して話すのが基本スタイルだ。この日も「『おしゃべり大好き。』は最近周りで起こった話しかしませんので」と前置きし、ゆっくりと話しはじめる。ただここからの約2時間は一見バラバラなストーリーに見えて、実は綿密に伏線が張られた巧妙な展開だった、というのは後から気付いたことだが……。

【おしゃべり大好き。】『一人で花やしき』 - YouTube

②妻に「せやな」と言わせたい

トークテーマ1本目は『妻に「せやな」と言わせたい』。まず兵頭は客席の旦那さんを何人か指名しつつ、「せやなって言います?奥さんは」と質問。言わずもがな、せやなは標準語で言うところの『そうだね』の意で、多くの旦那さんはYESと回答。しかしながら兵頭の奥さんは違うようで、どうやら何に対しても「せやな」と言わないそう。

例えば、車が急に横入りしてきた時。兵頭はなんの気無しに「何や今の!危ないと思えへん?」と聞く。その際に通常なら「せやな」で返してほしいところを、兵頭の妻は「急いでたんちゃう?」と返すらしいのだ。同じように、店が混んでいたり、態度の悪い店員に文句を言ってあくまでも共感してほしい場面であっても、奥さんは「せやな」は絶対に言わないとのこと。

そこで兵頭は、妻に「せやな」と言わせる計画を実施。その日1日で町中で見かける様々な場面をジャッジし、必ず「せやな」になるものを考えるというものだ。兵頭が捉えたのは、ショッピングモールの駐車場に置かれたカート。しかもすぐ側には置き場所もあるため、「急いでたんちゃうん?」は通らない状況!そこで兵頭は確実にイケると踏んでの「あれアカンやん。なあ?」と妻に言うも、結果はまさかの形に。妻は車から降りてそのカートを置き場所に戻し、「これでええやん……」と一言。兵頭の目論見は完全に外れたのだった。

【おしゃべり大好き。】『コンタクトレンズ』 - YouTube


③肩がつる

続いては、歳のせいか最近どんな場所でも肩がつる、という話に。中でも兵頭は腕をグッと引いた瞬間になりやすいらしく、この状況になったが最後、痛すぎて状況を問わずに「ア〜〜〜〜〜!」と絶叫してしまうのだそう。後ろのテレビリモコンを取ろうとした時、キャッチボールをした時……はまだ良いが、問題は店内の場合。兵頭はある日「こちらに袖を通しますね!」と店員さんとスーツの試着をする場面で「ア〜〜〜〜〜!」になってしまったらしく、店内のお客さんがこちらを見に来る、というカオス状態になったそう。兵頭いわく「そら見るわな。スーツの店で角曲がった先のところで大人がア〜〜〜〜〜!言うとったら」とのこと。

【おしゃべり大好き。】『おっちゃんの悲哀』 - YouTube

④僕ビビリなんです

兵頭といえば、ビビリエピソード。彼のビビリエピソードは様々あり、過去も妻が作ってくれたわらび餅を幼虫だと勘違いし、外に捨ててガチギレされた(以下参照)話があったが、今回はもう少し踏み込んだ話を。

ひとつは、兵頭が車内でいたときの一幕。当時彼は深夜に帰宅するも家には入らず、しばらく真っ暗な車の中で調べ物をしていたそう。もちろんその光景は外からは目立つもので、偶然そこに通りかかったのは知り合いの噺家さん。真っ暗な中、突然ドアをコンコン叩いて「兵頭さーん?」と尋ねられた声に兵頭は飛び上がり、大恥を晒すことに。

更にその後家に入ろうと家のカギを開けた瞬間、家の横に置いてあった発泡スチロール(縦に積み上がって人つぽく見える)が風で倒れかかり、思わず「うわあ!」と叫んでしまったことを回顧。ここで兵頭は自分の不甲斐なさと共に、「もしこれが本当の人(泥棒など)なら、今自分がカギを開けてしまったことで侵入され、家族に危害が及んだかもしれない」と考え、本格的にビビリを克服することを考え始めたのだった……。

【おしゃべり大好き。】『めちゃくちゃ虫が怖い』 - YouTube

⑤キックボクシング入会

そこで兵頭が選んだのが、キックボクシング。以前もボクシングは挑戦したことがあるそうだが、プロのようにサンドバッグを『バシッ!バシッ!』と鳴らすはずが、彼が叩くと『モチッモチッ』という変な音が鳴るのだそう。そのため恥ずかしさで挫折→また新しいことをやる→挫折の悪循環に陥っていたが、今回ばかりは一念発起。本気で強い男になろうと決心した兵頭である。

当然、最初の頃はボロボロ。ボクシングの時点で『モチッモチッ』だったものを、更に足も使って繰り出す……というのはなかなかに難易度が高かったらしく、早くも挫折しそうに。その中でも奮起する契機になったのが、兵頭と同じ40代〜50代のオヤジたちが行うキックボクシング・バトルイベント。これはプロではなく完全に一般の人たちが定期的に行うものなのだが、素人のオジサンたちが一生懸命に頑張る姿に、見学しに行った兵頭は心から感動。自分もまだまだ頑張れると考え直し、また練習を重ねていく。

そして記念すべき初対戦の日。相手は兵頭の通っているジムの中では最も有段者の人物で、言わば一足飛びでのチャレンジとなる。おそらく負けるだろうと踏んではいたものの、兵頭には成し遂げたい思いがあった。それは『パンチ3発までは耐えよう』『当たるか分からないけど、全力で当てにいこう』というもの。勝てる見込みはほぼないがビビリを克服するため、それらは必ず行おうと決意した兵頭!……だったが、いざゆかんと腕をグッと引いた瞬間、例の「ア〜〜〜〜〜!」が再発。開始2秒で棄権試合となり、そのまま兵頭はキックボクシングを退会したそう……。

【おしゃべり大好き。】『ボクシングジム入門』 - YouTube

⑥藤田兄さんとのハイキング

続いてはファンにはお馴染み、兵頭が慕う芸人でもある藤田兄さん(大阪キッズ・藤田)とのエピソード。現在の兵頭はキックボクシングもそうだが、これまで経験してこなかった様々なことに挑戦したいモードに突入しているそうで、そのうちのひとつがハイキング。兵頭いわく「山登りのどこがおもろいねん」の固定観念をなくすことで、新たな自分に出会おうとしたとのこと。

挑戦したのは、大阪にあるビギナー中のビギナーであるハイキング道。人にとってはちょっと傾斜のある散歩程度だが、普段なかなか運動をしない人にとっては難しいもの。そこで兵頭は藤田兄さんを誘ってハイキングへと臨んだものの、藤田兄さんは現在足を悪くしており、ゆっくりしか歩けないことを当日に思い出した兵頭。しかし藤田兄さんは「行こかー」と快諾してくれたため、いざハイキングへ。

しかしながら藤田兄さんの持病もあり、当日は1時間かかるところを1時間半以上かかる、ゆっくりとした歩みに。その時間の大部分を占めていたのは藤田兄さんのストレッチで、具体例には中腰になって足を何度か曲げ、両腕を前に突き出しながら「ううー。ううー。」とするそれを定期的に行いながら、山を登っていったのだそう。結果としては登頂に成功したものの、その間兵頭にとっては「ホンマか!?と思ったことベスト3」があったようで、まずひとつは兵頭が隣にいるはずの藤田兄さんに「兄さんとはじめて会ったのはあの頃でしたね……」と感動的な話をしている最中、当の本人はストレッチをしていて話を全然聞いていなかったこと。もうひとつはあと数100メートルに差し掛かったにも関わらず、藤田兄さんが「もうやめよかぁ」と放ったこと、そして最も予想外だったのは、兵頭が「このストレッチどないですか?効果あります?」と語った際、藤田兄さんは「効果はないねん」と返した一幕。もちろん会場中が大爆笑に包まれたのは、言うまでもあるまい。

 

【おしゃべり大好き。】『中華料理屋』 - YouTube

 

⑦物忘れがひどい

予想外のエピソードが続出する兵頭、その中でもこれまでにはなかった『年相応』の場面で笑いを生んだのは、物忘れについての場面。いわく最近はそれに拍車が掛かった状態であるそうで、階段を駆け上がってその瞬間に何をしに駆け上がったのかわからなくなったり、牛乳を買いにコンビニに行ったのに他のものを買って帰って怒られたり……と、割と「マジでヤバイ」ようで。ただ物忘れをした当人はビビリなので、何か物忘れの出来事が起こった時には驚いて、何かにつけて「ママ〜!ママ〜!」と妻を呼ぶことを繰り返していたために、もう妻からは「それ怖いから呼ばんといて!」と釘を刺されていたという。

そこで語られたのは、お笑いコンビ・ミルクボーイの駒場から譲り受けたゴルフボールの話。3玉がセットになったゴルフボールを楽屋で貰った兵頭は、そのままカバンに突っ込んだまま完全に忘れて数日生活。ズボラな兵頭はそのカバンに(ゴルフボールのことは忘れてるので)どんどん物を詰め込んでいき、どうやらそれのケースが次第にひしゃげていったらしく。ある日の最寄り駅でカバンからゴルフボールが1個『カン……カン……カン……』とコンニチハ。しかし貰ったこと自体を忘れていた兵頭は「何でこんなんが駅にあんねん」と思い、そのまま帰宅。

その翌日、河川敷を歩いている際に同じように、今度は2個目のゴルフボールが『カン……カン……カン……』とカバンから落下。ただこの状況は明らかにこれまでとは違う。なにせ昨日も同じことが起こったのだ。しかも今回は大人数が集まる場所ではないので、明らかに自分を狙っていると分かる状態!運の悪いことに、ちょうどその頃の兵頭は心霊番組の司会をやっていたこともあり、すぐに彼の頭にはふたつの可能性が思い浮かんだ。それは『誰かが俺を隠れて狙っている!』。もしくは『ゴルフの霊に取り憑かれている!』というもので、ビビリな彼は戦々恐々。

そして運命の3日目。この日は帰宅してゆっくりしていた兵頭だったが、バランスが崩れたのか、掛けていたカバンがグラリ。そこから最後のゴルフボールが『カン……カン……カン……』となった時、もういよいよ「家まで狙われている!」と理解した兵頭。1回目や2回目はまだ外だった。けれども今は自宅。魔の手が目前まで迫っていると感じた兵頭は「ママ〜!ママ〜!」と妻を呼んでしまったのだが、ここでミルクボーイ駒場からゴルフボールを貰ったことを完全に思い出してしまう。ただ既に妻は呼んでしまっていて、兵頭はすかさず「すいませんゴルフボールでした!」と弁明。それに対して「お前それ言うな言うたやろ」と冷たく一蹴。彼の威厳がまたひとつ失われたのでした。

【おしゃべり大好き。】『ビジネスクラス』 - YouTube


⑧泥酔して自撮り&コピー機が……

続いては話が変わって、泥酔した夜のシーン。後輩と夜の街に繰り出してしこたま酔った兵頭は、次の日の仕事に備えてホテルにチェックイン。そんな中でも未だ酔っている兵頭は、アルコール特有のふわふわ感から、TikTokなどの投稿者に影響されたのか、パンツ一丁の自分の姿を自撮り。その日は「ヒャッヒャッヒャ」と笑いながら寝て、そのことはすっかり忘れていたそう。

そして話は再び変わって、自宅。深夜近くまで働いてヘトヘトになった兵頭が家へ帰ると、長女・あいねちゃんと妻が何やら口論中。どうやら話を聞くに、長女は明日学校に提出しなければならない写真(海外の観光都市の風景)があったそうだが、コピー機の用紙が不足していて出来なかったようで、それを母親に「明日どうすんのよぉ!」とヒステリーを起こしていたとのこと。そこで見かねた兵頭はコピー用紙を買いに、ヘトヘトの体を動かして一緒にコンビニへと向かう。

コンビニへ向かう道中、兵頭は長女に訥々と怒る。「お前なぁ。これかて何日も前に言われとったことやろ。それをギリギリになってやろう思てアカンかったか知らんけど、それでお母さんにギャーギャー言うんはアカンやろ」と。ただ現在反抗期である長女はそう言われてもブスッとしていたようで、重苦しい雰囲気のままコンビニへ到着。

そこで「さて当初の予定通りコピー用紙を買うか」と思っていたところ、娘から「わざわざ買わなくても、Wi-Fiで飛ばせば今コピー出来るらしい」との情報を入手。しかしその方法までは娘は知らないらしく、更には「お父ちゃんやってや」と指示。仕方なく兵頭は店内の大学生のあんちゃんを捕まえてコピー機の前で悪戦苦闘するも、なかなか出来ず……。そうこうしているうちに後方には列ができていて、焦った兵頭は画像選択でズバババ!と様々な画像をとりあえず選択して印刷すると、コピー機から出てきたのは、兵頭がホテルで上裸で自撮りした写真の数々……。真っ赤になって逃げるように車へと戻った兵頭に対して、娘は「最低な大人やな」とトドメの一撃を放ったのだった。

【おしゃべり大好き。】『ドリラちゃん』 - YouTube

⑨17万のスイートルーム

最後のエピソードは、スイートルーム。この話は全体として約30分近くあり、今回のトークのオチとしても機能していた印象だ。この話を語る上で絶対的に重要になってくるのは、先述の⑥の話。というのもこの頃の兵頭は、高校生になり反抗期になってしまったふたりの娘に、行き場のないやるせなさを感じていたためである。昔は兵頭が帰ってきたら「パパー!」と笑顔で抱きついてくれたが、今は自分の部屋にこもりがち。楽しい話をしても、今は無感動に返事するだけ……。そんな日々を重ね、いつしか兵頭は自宅に帰ることに対して、優先度が低くなってしまったそうだ(④で兵頭が家の外にずっといたのも、それが理由)。

だが、このままではいけない。そこで考えたのが『旅行へ行こう』というもの。というのも、これまで兵頭家は年に1度は必ず旅行に行っていたのだが、コロナ禍で中止に。今回は都合3年ぶりとなる家族旅行だったからだ。

中でも第一候補としてあったのは、とあるリゾートホテル。ここは景色も風呂も素晴らしく人気の場所とのことだが、兵頭は絶対にここを抑えたかったという。その理由は今から数えて約10年以上も前、同じく家族旅行で訪れたとき、娘たちから「たのちかった!」「またぜったいにみんなでこようね!」と言われるほど、本当に楽しい時間が娘たちの頭に刻まれていたため。

実際に娘たちにその旅行計画を話すと、みな「あそこだったらええんちゃう?」と乗り気。そこで兵頭は宿を押さえることを考えたのだが、直前での予約だったためかスイートルームしか空いておらず、なんと金額は込み込みで17万。これには大いに悩んだ兵頭、1日悩み、2日悩み。遂に「今日決めないともう取れない」という日まで追い込まれてしまう。日付が変わった瞬間に受付終了になる画面でずっと悩んでいた中、ふと近づいてきた2番目の娘(りりあちゃん)が、兵動の目の前で笑顔で一言「お父ちゃん!あのホテル楽しみだね!」の声で全てを決断。急いでPC画面を動かし、かくして兵頭家は1泊17万のスイートルームの予約を完了したのである。

そして待ちに待った運命の日。17万のスイートルームで家族で宿泊するという様々な意味でも重要な日だが、出発前、兵頭は毎年行うとあるルーティンをしようとしていた。それは『車を動かす前、運転席から後部座席を振り返る』というもの。……かつては1年おきに敢行していた旅行。ある年は、生後間もないため泣いている娘と妻が。その翌年には座席がチャイルドシートになり、また翌年には椅子。その翌年は妻は助手席に移動し、後ろにはお菓子をこぼしながら食べる娘が。またその翌年は、娘の横に新しい命が座っている……。彼はそうした光景を1年おきに更新するのが、密かな楽しみであったと語る。しかも今回はコロナ禍を経て、約3年ぶりときた。

ただ実際に兵頭が後ろを向くと、娘ふたりはリクライニングを完全に倒した状態でスマホを見ているという、あの頃の思い出とは対極の光景が。そしてこの開幕から予想出来た通り、旅行は散々な結果に。ホテルに入るも、娘ふたりは美しい光景には目もくれず、ベッドでダラダラ。更にはスマホをずっと触っていて、豪華な食事への関心も薄く、特に楽しい出来事もないまま、夜になってしまう。

……兵頭は家族全員が寝静まった後、ひとり窓を開けて外に出て、お酒を飲みながら今回の旅行を考え直し始める。17万をはたいて旅行に来たが、その結果は芳しくなかった。当時は可愛かった娘も今は反抗期。最近は家に帰るのも億劫になってきた。……こんな生活がずっとこれからも続くのだろうか。それなら娘のことはあまり真剣になりすぎず、妻と二人三脚で成長をサポートする形で動いた方が良いのでは……。そんなことを考えれば考えるほどネガティブになっていき、かくして夢見ていた旅行は幕を閉じたのだった。

旅行が終わり仕事場。ふいにラインが来たことに気付いた兵頭は、そこに娘から兵頭に宛てた写真がムービーとして送られていることに気付く。ホテルで楽しそうにしている写真。バイキングを食べる写真。車の後部座席から撮った写真……。兵頭は「スマホばっかりして!」と思っていたが、実際の娘たちは旅の途中で無音カメラで父親の姿を撮影し、それをアプリで編集していたらしい。端から見れば感動的な流れだ。

【おしゃべり大好き。】『MVS』 - YouTube

⑩海外の占い師と……

けれども兵頭は釈然としない気持ちの方が大きく、未だ「あの旅行は正解だったのか?」と悩んでいた。そこで占い師に今後の親子仲を診断してもらおうと考えた兵頭は、とある海外の有名占い師にリモートで接触。現時点での悩みを、相談しようと考えたのだった。

定刻になり、画面の前に現れたのは歳をとった占い師。その人に対して兵頭は相談する。「最近、娘と会うのが気まずいんです。先日も久々に旅行に行きましたが、距離が縮まりません。これから私はどうしたら良いのでしょうか」と。すると占い師は、しっかりとしたアドバイスで道筋を示す。「あなたは今疲れています。娘さんはあなたのことを理解しています。だからあなたは言いたいことをしっかり言ってください。それを娘さんは嬉しく思います。なのであなたは自分に嘘をつかず、言いたいことを言うべきなのです」……。カタコトの日本語で示されたのは、今後の在り方だった。その言葉に兵頭派いたく感動し「これからは言いたいことを言う!俺が今言うべき言葉はこれや」と、リモートを切り、ドタドタと家族の待つ居間に走っていく。

「みんな、よお聞け!」と突然大声で喚く兵頭に、ポカンとする妻、あいねちゃん、りりあちゃんの3人。そして兵頭は「ワシはみんなに、ひとつだけ言いたいことがある!」と告げると、大きく一言。

「あのスイートルーム、17万!!!」

そして涙を堪えながら、兵頭は続ける。「あいね!お母さんといつまでも仲良くしてくれ。りりあ!つまらんかっても、今日のことを覚えとってくれたらええ。みんないろいろ変わっていくけど、ワシらは家族や。言いたいこと言って、これからも一緒に仲良う生きて行こうや!」と。

そんな兵頭を見て、妻は一言、はじめての「せやな」を返してくれたのだった。

【おしゃべり大好き。】『おばあとサイン会』 - YouTube

おわりに

この日兵頭が語ったのは、広く我々が彼について知っている『すべらない話』の延長線上の話だった。これについては彼が稀有なエピソードを呼び込んでしまう性質があることはもちろんだが、それを人前で話すことについては、確実に彼のトークスキルによるものだと強く感じた。上げて上げて、最後は少し落として、ドン!……出来るようで出来ない、会話の妙。それが彼を彼たらしめている理由なのだろう。

恒例となった写真撮影では、袖で見ていた藤田兄さんも含めて全員でパシャリ。これまで僕が観たライブと言えば音楽ばかりだったけれど、もしお笑いライブに足繁く通っていたとしても、この完成度のトークにはなかなかありつけないだろうなと思った。多分今回の話も、いつか『すべらない話』でも披露されることだろう。そのときを楽しみにしつつ、じっくり余韻に浸りたい。最高の時間でした。