キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】MAISONdes『MAISONdes LIVE #1』@Zepp Shinjuku

こんばんは、キタガワです。

ネット発の音楽が台頭するようになって長いけれど、ここまで謎に満ちたアーティストはいないのではないか。……"SNSで最も使われる音楽"を生み出す音楽プロジェクトであるMAISONdes(メゾン・デ)が活動を開始し、気付けば2年。多くのバズ曲の拡散と反比例するように、その正体は未だ謎。誰がどうやって作っているのかも不明なまま、楽曲の認知は今も広がりを見せている。

そんな彼らによる初ライブが、今回の『MAISONdes LIVE #1』。楽曲ごとにゲストを招き、そもそものコンセプトである『どこかにある6畳半アパートの、各部屋の住人の歌』を中心に披露された全15曲・時間にして約1時間半弱の夜会は、彼らのこれまでの存在証明の一端を見せてくれた重要なものだったように思う。

ライブはしばらくの暗転時間を経て、突如yamaによる「MAISONdesは6畳半アパート。インターネット上なのか、現実なのか。何処かに立っている」から始まる朗読から幕を開けた。続けて『MAISONdes』と名付けられたアパートの中には様々な住民が入居していること、それぞれの部屋にそれぞれの物語と歌があること……。更には「我々が聴くべき歌も、ここにはきっとある」と語ったyama。

【101】[feat. yama, 泣き虫☔️] Hello/Hello / MAISONdes - YouTube

朗読からシームレスに移った楽曲“Hello/Hello”で、ライブは幕開け。まるで本当の家のようにも思える四角い箱の中、バックバンドを率いてのパフォーマンスである。メインボーカルを務めるyamaの歌が印象深いのはもちろん、今楽曲は歌い手・泣き虫と共に作られた楽曲であることから、ステージには泣き虫も実在。しかしながら素顔を非公開にしていることもあり、姿は薄いカーテンに仕切られて全く見えない……という特殊性を反映させるものに。

記念すべきファーストライブとなったこの日、注目が集まった部分は主にふたつ。そのうちひとつは『豪華ゲストアーティストの共演は実現するのか?』というもので、そもそも顔出ししていないアーティストが多数存在する関係上、この奇跡的な集合があり得るのかは疑問ではあった。まずこの点においてこの日のライブはと言うと、完全にクリア。これは冒頭にyamaが述べた『六畳半アパートの各部屋の住人の歌』とのコンセプトを考えると自明だけれど、『同じ部屋に同じ考えの人間が住んでいる』状態で、もっと踏み込むところの『でも他の住人とは一切関わらない』という部分を、完璧に落とし込んでいた印象。

【107】[feat. りりあ。, 南雲ゆうき] 夏風に溶ける / MAISONdes - YouTube

そしてもうひとつは『MAISONdesは存在しているのか?』という、根本的な部分だ。ライブの在り方についてもMAISONdesは全国的に見ても特殊で、この日のライブでは1曲ごとに歌い手とステージの雰囲気を総替え。数分おきに全く違う様子を見せる、新鮮味溢れる時間が続いていた。結果としてこの千変万化な動きこそがMAISONdesであることは誰の目にも明らかで、住民が引っ越したり引っ越されたりと、まさに本当のアパートのように移り変わるのが彼らのスタンスなのだなと実感。

これまで発表された全ての楽曲に、多くのファンがつくMAISONdes。故にそのセットリストについては人それぞれの刺さりはあることと推察するが、その中でも空気を一変させたもので考えれば、はしメロとmaeshima soshiによる新曲“けーたいみしてよ”

【349】[feat. はしメロ, maeshima soshi] けーたいみしてよ / MAISONdes - YouTube

VJに男女の痴話喧嘩が音声付きで流れ、彼女側が「携帯見してよ」とすごむ場面こそ不穏だったが、そこからパッと明点しての“けーたいみしてよ”は一転、MAISONdesの代名詞とも言える印象的なフレーズとポップさが共存。これはアニメタイアップの際も感じたことだけれど、どんな思考・行動もポジティブに変換する部分がMAISONdesには絶対的にある。今回の楽曲に関しては内容自体がシリアスな分、ポジティブ要素をサウンドで発展させ、結果として屈指のダンスナンバーとして作り出したのは流石だ。これまで慎重にライブを楽しんでいたファンも完全に覚醒し、多くの腕が上がる空間はひとつのハイライトだったろう。

そして、今回のライブではMAISONdesの正体の一端も知ることができた。それは”本当は夜の端まで、“のワンシーンで、表向きとしては歌唱者としてステージに立ったくじら……もとい、その裏の顔はMAISONdesのプロデューサー担当者であるくじらの、間接的な思いであった。

【000】[ feat. おおお, くじら] 本当は夜の端まで、 / MAISONdes - YouTube

彼は楽曲の前のMCで、まず「普段私は曲を書いたり歌ったり、人様をプロデュースしたりしていて。その一環としてMAISONdesの内容をはじめの方から携わらせていただいておりまして」と告白。正直なところなぜMAISONdesが自分自身では全く歌わず、異なるゲストをボーカルに設定しているのか元々疑問ではあったのだけれど、これまでの音楽活動で『くじら feat.◯◯』名義でyamaやAdo、SixTONESといったアーティストに楽曲提供を続けてきたくじらによる手腕だと知り、妙に納得。

加えて、こうした『くじらの音楽プロデュース』のひとつの結果がこのMAISONdesであることもまた、はっきりと感じることができた。思えばこれは今まで気付かなかったのが不思議なくらいだが、全ての楽曲に部屋番号が設定されている中、この楽曲が部屋番号にして『000室』となっているのも、くじら自身がMAISONdesというアパートの管理人である、という事実の証左だったのだ。となればこの楽曲における《死にたいと嘆くばかりで 二次元に溶けてく/一人芝居を延々と続けている》とするワンシーンにしても、彼が育て続けてきた架空のアパートが、こうして三次元として召喚されたことの彼なりの思いが込められているようにも感じた。

【373】[feat. 美波, SAKURAmoti] アイウエ / MAISONdes - YouTube

以降は怒涛の勢いで楽曲をドロップ。緩やかにスタートした前半とは異なり、発表された楽曲のうちアッパーなものを選んだ盛り上げセトリだ。あたしやむトといった表舞台になかなか出てこないアーティストがステージに立つのも新鮮で、対してasmiやyamaらライブ常連組については盛り上げ役として徹していたのは印象深くもあり。当然ながらその誰もが記念すべき初ライブに華を添えようとしており素晴らしい。特に歌い手を中心としたネット発アーティストを追っている人にとっては、ある種フェスのような感覚さえ抱くものでもあった。……ひとつの部屋の様子を覗き見た後、すぐにまた次の部屋をノックし続ける『アパートMAISONdes』。それぞれ異なる人間が住んでいることを確認する我々の図式は、まさに管理人のそれだ。

「こーんなに盛り上がっているのに、実は最後の曲なんです……」と言いつつ、ファンが驚きの声を上げたことで「もっとやろか!」と発言したりと、この日一番の元気印だったasmi。そして彼女は……これはasmi自身が語っていたことだけれども、間違いなくこの日の出演アーティストの中で、MAISONdesの楽曲によって最も注目されるようになった人物でもある。

そして彼女は続いて披露する楽曲”ヨワネハキ“によって、元々はゆっくりアーティスト活動を続けていこうとしていたイメージから、一気にアーティスト人生が変わったことを語ってくれた。THE FIRST TAKE、音楽番組、音楽フェスにも次々に出演が決まり「ウチにとってはほんまに、MAISONdesは人生を変えてくれた存在なんです!」と笑顔で語るasmi。我々の生活に彩りを与えるのみならずアーティストにとっても、今やこのプロジェクトが重要なものになっている証左でもあった。

「私はMAISONdesが存在してくれることで、生きやすくなりました。みんなもここを出たら日常に戻って、いろんなことが起こると思います。でも『これからの生活にMAISONdesがあれば、何とかやっていけそう!』と思ってもらえたら嬉しいです。今日みんなが観たのは、そんなみーんなのMAISONdesです!」とasmiが叫ぶと、正真正銘ラストとなる楽曲が鳴らされる。

【102】[feat. 和ぬか, asmi] ヨワネハキ / MAISONdes - YouTube

“ヨワネハキ”はマニュアル通りの生活を繰り返し、正体不明のネガティブな感情に支配されるまさしく『弱音吐き』の一面を見せつつも、それでも前を向こうとする楽曲だ。長いこと生きていると、人生は楽しいこと以上に苦しいことが起こることに気付くけれども、結果的には「生きていくしかないよね」と思いながら淡々と生きる……つまりは半ルーティーンワーク状態になってしまうもの。彼女は先述のMCでこの日作られた『フィクションのアパート・MAISONdes』における唯一の存在として、我々に現実を突き付けた。ただそれも「弱音を吐きながら。でもたまには笑おうよ!」という、MAISONdesの在り方を体現したゆえの一言だったように思う。

謎に包まれたプロジェクト・MAISONdesの記念すべき初ライブとなった『MAISONdes LIVE #1』。即日ソールドアウトの会場で繰り広げられたのは、多種多様な住人が入り乱れる、コンセプト的な音楽アパートだった。どの部屋にも様々な思いを持った住人が住んでいて、それを現実世界にそのまま出現させた試みは本当に発展的だったし、逆に言えば完全に異世界にいる花譜が歌うバズ曲“トウキョウ・シャンディ・ランデヴ”をセットリストから外したことも、今回のコンセプトに沿った形だからだろう。

今回は持ち曲の関係上、歴代の楽曲を凝縮したコンパクトなものだった。しかしながらライブの最後に『MAISONdes LIVE #2』の開催が発表されたことからも、今後MAISONdesはネット上で更に曲数を増やしながら、来年からは再び集大成としてのライブを行うに違いない。……これからどんな住人が入居し、どんな風景を歌にするのか。未知なるアパートに虜になった我々の生活もまた、この日を境に変わっていくはずだ。

【MAISONdes@Zepp Haneda セットリスト】
Hello/Hello feat. yama, 泣き虫
ラリー、ラリー feat. Pii, meiyo
infinite feat. 空音, meiyo
ダンボールの色 feat. 4na, もっさ
Grumpy feat. 春野, Aqu3ra
夏風に溶ける feat. りりあ。, 南雲ゆうき
けーたいみしてよ feat. はしメロ, maeshima soshi
ねぐせ feat. こはならむ, ぜったくん
本当は夜の端まで、 feat. おおお, くじら
わかっちゃない feat. あたし, zumiTa
アイワナムチュー feat. asmi, すりぃ
トラエノヒメ feat. むト, Sohbana
アイタリナイ feat. yama, ニト。
アイウエ feat. 美波, SAKURAmoti
ヨワネハキ feat. 和ぬか, asmi