キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】claquepot・竹内アンナ『crosspoint 2023』@梅田クラブクアトロ

こんばんは、キタガワです。

足しげくライブに通っている人間にとって、よく人から問われることがある。それは「今年観たライブの中で誰が一番良かった?」とする極めて難しいもので、興奮なのかセトリが自分好みだったのかなど、何を基準に『良かった』とするかを考えた結果、有耶無耶な回答をするのが常だった。

どうあれ2022年、個人的に最も衝撃を受けたのはclaquepot(クラックポット、以下クラポ)のライブだった。当日のライブレポについては本人にリツイートいただいたこちらの記事に詳しいが、ほとんど曲も知らないミーハーな状況下において、あまりに完璧な1時間を見せ付けられてしまった。そこからフルアルバム『the test』を含めて彼の楽曲に心酔してしまったのは言うまでもないし、おそらく僕同様、音源以上に素晴らしいクラポのライブを体験し、ファンになった人は一定数いるものと推察する。

そして訪れたのが今回の『crosspoint 2023』。この対バンイベントはクラポ自身がブッキングを交渉、その土地土地で一緒にやるべきと思った相手と2時間のライブを行う全国ツアーだ。なおこの日の対バン相手は京都育ちの竹内アンナ。最終的には驚きのサプライズがあったことも含めて、この日集まったファンの心に大きな興奮をもたらしたことだろう。

会場となる梅田クラブクアトロに足を踏み入れると、既に大勢のファンがフロアに集まっていた。前回のツアーの広島会場では圧倒的に女性が多いイメージだったのだけれど、今回は比率で言えば女性6・男性4といった感覚で今か今かと始まりの時を待っている。次にステージに目を凝らすと、先行が竹内アンナというのは間違いないにしても、クラポで使われるドラムセットとキーボードは既に鎮座。対して竹内アンナ側の楽器としてはフォークギターとDJというミニマルな編成である。

 

ライブは定刻ジャストの19時にスタート。まずは今回のサポートメンバーのISSEI(Beatbox.Sampler)のみがステージに立ち、自身のボイパとサンプラーの打音をルーパーで繰り返しながら、ファンと作り上げる「イェー!」のコール&レスポンスで徐々に空気を温めていくISSEIである。そこから少し時間を置いて現れたのは竹内アンナその人で、満面の笑みでフォークギターを構えつつISSEIと呼吸を合わせていく。

Anna Takeuchi - ICE CREAM. (YouTube edition) - YouTube

 

オープナーとして選ばれたのは“ICE CREAM.”。サンプラーのキック音をバックに弾き語るスタイルで進む竹内のピッキングにはかなりの力が入っていて、ISSEIの音に負けない音でギターが鳴っているのには思わず感動。サウンドの中心を突き抜けるように響く竹内の歌声も軽やかな雰囲気なのはもちろん、英語と日本語を織り交ぜた歌詞も耳馴染みが良く、初見の人が多いであろう環境ながら、集まった観客が一様に体を動かしていたのが印象的。

先月に最新EP『at FIVE』をリリースしたばかりの竹内、てっきりセットリストはこのEPを軸にするものかと思っていたのだが、実際はキャリア全体の作品から満遍なくプレイする形。更には“alright”を除いた全編において『ボイパ+サンプラー+ギター』のサウンドで突き進んだ結果、CD音源とはまた違った雰囲気で駆け抜けたレアな時間でもあった。また序盤のMCで語っていたように、この日のライブは竹内的にはコロナ禍以後はじめてとなる『声出しOK』のルールだったそう。そのため楽曲はアッパーかつレスポンス前提の曲が多く選ばれていた感もあり、観客の興奮を全く落とさず進行していたのは明らかなプラスだった。

Anna Takeuchi - SUNKISSed GIRL (Studio Live) - YouTube

 

以降のMCでは、竹内とclaquepotの出会いについて語られることに。これは正確には竹内と工藤大輝(Da-iCEのリーダーでclaquepotの弟)の関係性によるところが大きいそうで、当時デビューし立てだったという竹内の楽曲を工藤がラジオで紹介したことで交流がスタート。claquepotいわく「弟がお世話になっていて……」ということから、ほぼ初めまして状態での対バンに至ったのだという。今回大阪への出演となったのも、彼女が京都育ちであることが影響しているらしく、竹内は「クラポ兄さんホンマありがとうございます!」と大喜び。またこの日のサポートメンバーであるISSEIはclaquepotのライブカメラマン&サウンド面でも活動。更にはclaquepotのサポメンの神田リョウと舩本泰斗も、かつて竹内のバックバンドを務めていたとのこと。そのため彼女にとっては『ほぼ全員が身内』な状態であり、集まった観客を見渡しながら「めちゃくちゃアットホームな空間!」と嬉しそうだ。

Anna Takeuchi - Free! Free! Free! (Music Video) - YouTube

そこからはBPM速めの“SUNKISSed GIRL”、ミドルテンポな“Now For Ever”など、過去作から楽曲を次々投下。心なしか竹内のピッキングもどんどん強くなっている感覚さえあり、サウンドの厚みも加わっていて素晴らしい。中でも“Free! Free! Free!”→“WILD & FREE”のポップロック2連発の盛り上がりは凄まじく、“Free! Free! Free!”では発声が解禁されたこともあってか、サビの《Free! Free! Free!》の部分で声出しとハンズアップを要求。そこからも「会場温めんとclaquepotさん出てきはらへんから!」ともっともっとと興奮に導いていく様は圧巻。

Anna Takeuchi - ALRIGHT -Acoustic Session- (Music Video) - YouTube

ボイパとギターのみで魅せた“TOKYO NITE”、「楽し過ぎるからもうギター置いちゃおう!」と途中でハンドマイクに持ち替えた“YOU+ME=”を挟み、ラストの楽曲は竹内ひとりの弾き語りによる“ALRIGHT”。……今回のライブこそサポートメンバーありだったけれど、元々の彼女はアコースティックの弾き語りを主としていた。そんな彼女にとって初期曲の“ALRIGHT”でギター1本の原点に立ち返るパフォーマンスは、最も自分をストレートに見せることの出来る瞬間だったのではないか。演奏終了後、手を振りながら「この後のクラポ兄さん、一緒に楽しみましょう!」と叫んで会場を去っていった竹内。最後の最後まで客席をゆったり揺らした、極上の時間がそこにはあった。

【竹内アンナ@梅田クラブクアトロ セットリスト】
ICE CREAM.
SUNKISSed GIRL
Now For Ever
手のひら重ねれば
Free! Free! Free!
WILD & FREE
TOKYO NITE
YOU+ME=
ALRIGHT

 

ギターとDJセットが片付けられると、ステージ上はいつしかドラムとキーボード、マニピュレーターのみに。続いてのアーティストはもちろん、誰もが待ち望んでいたclaquepotだ。……ちなみに、本来対バンイベントというとセッティングに時間がかかることも多いのだけれど、彼のライブは『前アーティスト終わりに明転→ライブスタート』までの時間がやたらと早い。今回も少しドリンク交換で席を外して戻って来るまでの間に暗転していて、そのスピード感覚に改めて驚いた次第。

ライブはサポートメンバーの神田リョウ(Dr)、舩本泰斗(Key.Manipulater)両名によるフリーセッションからスタート。グングンと熱量が高まってきたところで、袖からまるで1階に間食を取りに来たような自然さで現れたのは、claquepotその人。色付きのサングラス、手には装飾。更には花柄のシャツの中に黒を織り交ぜたアーティスト然とした装いで、ニヤリと不敵に笑ったクラポ。その瞬間に「ヤバいライブが始まる……」と確信したのは、自分だけではないだろう。

useless / claquepot - YouTube

1曲目に選ばれたのは“useless”。バックサウンドにキーボード、ドラムの生楽器が合わさる音の海の中を、身振り手振りを繰り出しつつ軽やかに泳ぎ切るclaquepotに、思わず目は釘付けに。決して声を張り上げる訳でもないのに圧のある音像にも負けず鼓膜に響く歌声には驚かされるし、何より彼自身が余裕綽々な笑顔でステージに立っているのが様になって様になって……。バンドメンバーを観ようとしても気付けば彼に目が移ってしまうのは、彼の天性の魅力によるものに違いない。

昨年の12月にニューアルバム『the test』をリリースしたクラポ。そのためセットリストの大部分は今作からのドロップで、結果的にこれまでの歩みを総括する意味合いを込めた代物となった。おそらく来年からはこのうちのどれかの楽曲は外れていき、新規の楽曲が加わることになるのだろうが、その未来すら楽しみになってくるような現時点でのベストセットだ。

ahead / claquepot - YouTube

ライブは体揺らし特化型の“pointless”、曲中の歌詞を「我が道を行ける人はプチョヘンザ!」と変化させ、サビの《進め》でハンズアップを要求した“ahead”と進行。思った以上に盛り上がり過ぎたのか、水を飲んだ拍子に咳き込み始めたりと珍しい光景もありつつ、すかさず「おじさんみたいだと思ったでしょ?……でも違うんですよ。何故なら(年齢的に)おじさんだから」との自虐発言でフォロー。不測の事態さえもエネルギーに変えて会場を沸かすクラポ、明らかに場馴れしている!

「さっきも言いましたけど、この3年間は長かったですね。それは僕たちアーティストもそうで、ライブも出来ないから家で制作をしてネットに上げて、っていう活動をみんなしていて。でもそれを見せる場所もないと思って。だから僕はコロナの規制が少し緩和されつつあった頃から今回のイベントを考えて、声をいろんな人にかけていったんです」

「そこで考えたのは、自分から行動することの大切さで。それこそ今回の竹内アンナちゃんも『ちょっとやめとこうかな』と思ってたら実現してないし。皆さんも何かがひとつ違ったら、今日来れなかったかもしれない」

claquepot 「hibi (blackboard version)」 - YouTube

ライブ前半部で印象的に映ったのは、メッセージ性の強い楽曲“hibi”。彼は楽曲に込められた思いについて上記の通り語った上で《当たり前だった日々が 当たり前じゃなくなって/当たり障り無く過ごしていられなくなっていく》と、コロナ禍の生活に思いを馳せてくれた。それは確かな『日々』でありながらも心に生じた『ヒビ』をも意味していて、この改善しつつある状況下だからこそ、当時の辛い日々を思い返す役割を担っているように感じた。

彼の涼しげな顔にも汗が見えるようになってからのMCでは、トークスキルをいかんなく発揮する一幕に。涼しげな顔に汗をにじませた彼は「大阪今日、暑くないですか?一昨日の香川ではギンギラな服でキメてたんですけど、今日はこんな感じで……」と自身のラフな服装を紹介。更には「香川行ったー!」と高音の声で叫んだファンに対して「そうなのぉー?アナタ行ったのぉ?」と裏声で返したり、ファンによる「フゥ~!」の声にはすかさず「これこれぇ!これが欲しかったのよ!3年間我慢したもんね。当たり前だった日々が当たり前じゃなくなりましたからね」と先程の“hibi”の歌詞に繋げたりと、舌好調なクラポである。

choreo / claquepot - YouTube

 

以降は興奮を底上げする煽りを随所に取り入れながら代表曲のひとつ”resume“、ライブで初聴きの人も多かったであろう”rwy“、サビの《Up down》部分で腕が上下に揺れた“choreo“と、グッと盛り上がりに拍車をかける楽曲をドロップ。ふと周囲に目をやると、ライブ前には少しに陰りのある顔でスマホを見ていた人も、フロアの後ろの方でじっとしていた人も、誰しもが笑顔で体を動かしている。この感情の変化も、claquepotでなければ出来ない芸当だろうなと。


そして今回もclaquepotの最近のライブでは恒例となっている、動画撮影タイムも敢行。これは『SNSが発達した時代だからこそクラポのライブを共有してほしい』とするサービス精神と『この日行きたくても来れなかったファンのために雰囲気を届けたい』という、彼自身の思いが具現化されたものだ。ちなみに昨年のライブで行われたライブでも”むすんで“を我々がほぼ直立不動で撮る時間が作られていたわけだが、今回はその撮影方法を一新!今回のルールはズバリ『ブレブレの動画なら撮影・SNS投稿可』。つまりはカメラを構えながら動き続けなければならない成約が追加されたのだ。言うまでもないが、これはライブ中の撮影におけるスマホ集中状態を避けるための試みで、動画を撮りたくない人はそのまま観てもOKとのこと(逆に動画撮影を中断しない人は垢バンのペナルティ)。

blank / claquepot - YouTube

そこからの流れから披露されたのは”blank“。ブレブレの動画を撮るにはうってつけのアッパーチューンである。「行くぞ大阪!」と彼が叫んだ瞬間を合図に一斉に揺れる会場、そのファンの手にはスマホが掲げられるカオスな光景の中、どんどん迫力を増していくライブの対比がアツい。この場面の様子は『claquepot ライブ』でのエゴサーチに詳しいが、ファンがどんな動画を撮影したのかを観るのもまた一興である。余談だが、彼いわく「iPhoneだとカメラが優秀過ぎて、動きに合わせてブレないようにしてくれるから全然ブレない」とのこと。そうしたことも踏まえて皆様、ぜひ様々な方の動画をご覧ください……。

finder / claquepot - YouTube

気付けばライブも終盤戦。「竹内アンナちゃん最高でしたね!ISSEIのボイパも最高でしたね!では、claquepotのライブは最高でしたか?……聞くまでもなくない?」との一言から本編の実質的なラストとして鳴らされたのは“finder”!『キャッチー&チル&盛り上げ』なclaquepotのライブを1曲で体現するような代物だ。これまで以上に全身全霊で楽しむファンを目で追いかける彼は、まるでこの瞬間のひとつひとつを記憶しようとしているようにも見えた。《いつの日かまた合いましょう》と次なるライブの未来を予言させて軽やかに終えた“finder”がどれほど幸福だったことか、我々は帰宅の途で改めて感じたはずだ。

ここで終わると思いきや、claquepotからサプライズが。突如呼び込まれたのは先程出演した竹内アンナで、手にはマイクが握られている。驚くファンをニコっと見つめつつ、彼は「実はclaquepotはですね、新曲を作っております」との一言で、ファンの脳内の点と点を線で結んでいく。なんと最後に披露されるのは完全未発表の楽曲で、その名も“space feat.竹内アンナ”!

気になる楽曲については、サウンドとしてはゆったりとチル風。そこに竹内のボーカルが加わったことで、既存曲にはない新たな息吹を加えている印象だ。個人的に印象に残ったのはその歌詞で、あなたが月なら私は太陽、私が太陽なら僕は宇宙……といったように、近くて遠い存在の大切さを改めて示すメッセージ性が強いものになっていたのは素晴らしかった。それこそ“hibi”は『日々』と『ヒビ』のダブルミーニングだったけれど、この“space”も我々が距離を取りたいときに「スペースを取ろう」と言うように、無限の『宇宙』と人との空間の『距離』を意味しているように思えた。まだリリース日は未定なれど、claquepotいわく「必ずリリースします」とのことなのでファンは期待しておこう。

【claquepot@梅田クラブクアトロ セットリスト】
useless
pointless
ahead
hibi
resume
rwy
choreo
blank
finder
space feat.竹内アンナ(未発表新曲)

 

冒頭に記した通り、今回のライブは僕個人としては2度目の参加。1度目の広島の参加理由は恥ずかしながら「claquepotという名前を最近よく聴くから」とするミーハーな気持ちから。翻って、遠路はるばる向かった今回の大阪は逆に「前回のライブがめちゃくちゃ良かったから」という、ライブの素晴らしさに魅了されての確固たる参加だった。

そして今回、前回とは違って発声が可能になったライブで見えてきたものがあるとすれば、それは『ファンから見た彼への信頼度』だ。ともすれば「キャー!」といった黄色い声も上がりそうな部分も落ち着いて。全員が満面の笑顔でライブを観る、などなど。……もっと言えば、ゲストの竹内アンナのライブでさえも「claquepotの友達なら絶対に良いライブをしてくれる!」とする絶対的な信頼感があったのは素直に驚いた点だ。

言うまでもなく今回のライブの参加者は次のclaquepotのライブにも足を運ぶだろうが、彼自身が見据えている方向も、一貫して前である。この日初披露となった“space feat.竹内アンナ”のように、おそらく今ツアーの終了後には新たな情報が解禁されるのは明白。その未来はやはり、また彼と一緒に歩んでいって初めて分かることなのだろう。