キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

邦洋アーティストの、学校を舞台としたMV6選

こんばんは、キタガワです。


令和の新時代に突入してからというもの、現代音楽シーンは明らかなMV時代の様相を呈している。昨年大いにバズったアーティストのみで考えても、例えば瑛人、YOASOBI、yamaなどは音楽性に加えてどのメディアでもそのMVの特異ぶりにも焦点を当てていた印象で、今やMVは誰も目から観ても知名度と『らしさ』を瞬間的に理解させるツールとして重宝されている。その中でも注目が広がっているのはまさしくAdoやyamaといったアーティストに顕著な『アニメーションを用いたMV』であろうが、その実彼女たちのMVは完全なアニメーションではなく、あくまで静止画をベースとし歌詞を随所に散りばめるリリックビデオ形式。そう。所謂『バズるアーティスト』のMVは明確なカテゴリーに分類されているようでいてジャンルレスなのだ。


これまでも独自のカテゴライズで、様々なMVを紹介してきた当ブログ。今回は取り分け珍しい『邦洋アーティストの、学校を舞台としたMV』に主軸を置き、ジャンルもテイストもバラバラな6組をピックアップして紹介する。……学校は学生が勉学に励むのみに非ず。そのサウンドと歌詞に没入する音楽勉強としても最適な手段であることを、是非とも今記事を以て証明したい所存だ。

 

 

Alone/MARSHMELLO

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稀有な出で立ちの若手DJとしてダークホース的にフロアを沸かせていたのも、もう過去のこと。今では単独ライブはプレミア化、各地のフェスではヘッドライナー起用と破竹の勢いで駆け抜ける逸材となったマシュメロ。そんな彼の名を広めた契機とも言える楽曲が、YouTube上で驚異の20億再生を記録している“Alone”。MVで描かれるのは、学生に扮したマシュメロによる憂鬱たる学校生活だ。その風貌から肩身の狭い思いを抱いているマシュメロだが、彼には自宅で陰ながら熱中するひとつの趣味があり、それこそが様々音楽を瞬間的に彩るDJ。偶然自宅でプレイを見掛けた友人は普段は寡黙な彼のよもやの行動に衝撃を受け、クラスでDJを披露するよう後押し。そうした緩やかな助走を踏んでのラスサビは、誰もが感動すること請け合いだ。《僕はひとりぼっち/家が一番心地良い》との冒頭の一幕も、楽曲タイトルを“Alone(孤独)”とする作りも。“Alone”は名実共にここ数年間の海外音楽シーン全体で見ても圧倒的なバズをもたらした作品として知られているけれど、MVを介して楽曲に触れることで、ある種のドラマ仕立ての感動をも呼び起こしていることも流行曲として広がった理由のひとつだろう。


曲調は流行りのハウス寄りで取っ付き易く、それでいてEDMにとって必修科目的なサビでの大きな盛り上がりも落とし混んでの秀逸なワードセンス。現音楽シーンはカルヴィン・ハリス然りデイヴィッド・ゲッタ然り脱EDMの傾向が強まってきてはいるが、やはりポップ路線を突き詰めたマシュメロのサウンドが再評価の兆しを受けていることは単純に嬉しく、またEDMシーンの希望のようにも思えてならない。

 

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偽物勇者/703号室

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某年以後、急激に発達を遂げるサブスクリプションサービス。その中でも昨年取り分け大きなブレイクを果たしたアーティストの1組が、シンガーソングライター、岡谷柚奈のソロプロジェクト・703号室だ。冒頭で『音楽の広がりの多様化』について綴ったが、確かにその恩恵としてかつてほぼ無名であったアーティストが突如世間に認知されることは今や珍しくない。ただそのバックボーンを紐解くと、特にずっと真夜中でいいのに。を筆頭として綿密に練り上げられたマーケティング戦略が行われていることもまた、ひとつの事実として位置している。ただ703号室がバズをもたらした理由としては、その楽曲の求心力によるところが何より大きいのではないか。事実正直な感想として楽曲自体の音も良質とは言い難いし、MVも当時岡谷が在学していた専門学校の友人らを招いて制作されたDIYな代物で、SNSのフォロワー数も1万人に満たない。となると考えられるのはひとつの解しかなく、十中八九『インターネット経由の口コミ』が、結果バズをもたらしたと推察される。


現在ではバンド名義であった703号室をソロ名義として変更し、不変かつ愚直な活動を行っている彼女。良くも悪くも一度ブレイクを果たしたアーティストに対しての世間の目は厳しい傾向にあるが、きっと703号室はどれほどの逆風も“偽物勇者”よろしく強いエネルギーでもって、はね除けてくれるはずだ。

 

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つくり囃子/パスピエ

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四つ打ちロック界のポップマエストロ・パスピエによる自身3枚目となるフルアルバム『娑婆ラバ』のリード曲たる“つくり囃子”。なおかつてのパスピエは素顔を一切公開していなかった関係上、以下のMVも狐の面を被りある種の匿名性を前面に押し出した作りとなっている。


今回紹介するアーティストの多くはその教室内を主な舞台として展開するが、“つくり囃子”では冒頭からクライマックスにかけての長時間は基本的に学校の廊下でシナリオを組み立てている点も興味深い。《今夜が作り話なら 共犯だね/そら化け騒ぎ 娑婆だかなんだか》とのサビ部分の歌詞の通り、今作は楽曲とアルバムタイトルを暗喩することに加えて、狐の面は人間を化かすとして昔話で広く言い伝えられてきた狐、共犯はパスピエの楽曲自体に心酔する我々リスナーを表しているようにも思える。ファンからはその歌詞のミステリアスぶりも語られることの多いパスピエであるが、“つくり囃子”は『娑婆ラバ』の中でも特に深意に迫ってしまう魅力に溢れた作品であり、特に大胡田がおもむろに屋上に歩みを進めてのラスサビは圧巻の一言。必ずや観る者に多大なる興奮を呼び起こすことだろう。

 

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エマ/go!go!vanillas

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各地のフェスを中心に、若手ロックシーンを牽引する一組となったバニラズ。彼らのメジャーデビュー1曲目を飾った記念すべき楽曲こそ、今なおセットリストに組み込まれ続けているダンスナンバー“エマ”である。思えばバニラズが一気に頭角を表す要因となったのは、メジャーコードを多用しポジティブにロックを鳴らす独自のサウンドメイクだった。ミュージシャンはアルバムごとに作風が変化するのも常で、事実年齢を重ね、メンバーの体調不良や新型コロナウイルスといった様々な変化を経験した現在の彼らのレンジは広がっている。そんな中“エマ”はと言えば徹底して明るいイメージに振り切った楽曲に位置していて、MVに出演する女子高生が象徴しているようにネガティブな要素が一切出現しないことも特徴。過去作にも顕著に現れていた彼らのポジティブなイメージは、“エマ”で完全に確立されたのだ。

 

近年、バニラズは変化の一途を辿っている。前述の通り作風は少しずつ良い意味で向上しているし、『鏡 e.p.』ではメンバー全員が作詞作曲に加えボーカルを務める挑戦的なEPに。そしてコロナ禍に行われた自身初の日本武道館ライブも大成功と、かつて四つ打ちロックシーンに突如現れた若手バンドは、素晴らしきロックンロールバンドとなった。……とすると目指すは前人未到の領域しかない。果てなき旅路へ向けて。進め、バニラズ。

 

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ドレミFUN LIFE/たんこぶちん

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当時17~18歳の現役高校生ながらメジャーデビューを果たし、ROCK IN JAPAN FESTIVAL含め多くのライブに出演しガールズバンド・たんこぶちん。彼女たちの記念すべきファーストシングルが、以下の『ドレミFUN LIFE』。なおたんこぶちんは人気絶頂の中2019年2月をもって活動休止中であるが、現在も公式SNSは稼働を続けている。


機材を運び、部室で練習する……。“ドレミFUN LIFE”のMVで描かれているのは端的に言えば、軽音楽部に所属する高校生たちによる他愛ない日常だ。長きに渡る活動の末、映画のタイアップも手掛ける存在となったたんこぶちんだが、その活動自体が学生時代のバンド活動の延長線上に位置していることが視覚的に分かるその映像はかつての青春を我々に強く想像させる。前述の通り、たんこぶちんは以後音楽で生活を担う『バンド』として確立。音楽的にも歌詞的にも年々変化を続けてきた。ただたんこぶちんが長期的な活動休止状態となった今“ドレミFUN LIFE”のMVを観て思うのは、彼女たちにとって最高速度で駆け抜けた青春は紛れもなくあの地点にあったということ。『青春』という言葉が少しずつ薄れつつある年齢に差し掛かった彼女たちが今後どのような音楽を鳴らすのか……それを期待すると共に、来たる再結成を座して待ちたいところだ。

 

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ain't on the map yet/Nulbarich

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独特の浮遊感でもって、こと緑豊かな環境で練り上げられた各地フェスへの出演で話題を集めるバンド・ナルバリッチ。緩やかな楽曲を多数産み出す彼らの中でも幾分かアッパー、更には「僕たちはまだ何も成し得ていない」……つまりは以降の旅路の意思表示の意味も込められた1曲こそ“ain't on the map yet”である。MVはJQ(Vo)による日本語と英語がない交ぜになった歌詞とサウンドのもと、女性教師に恋心を抱く少年が特技のダンスでもってアプローチを試みる内容となっていて、後半部には画面が遷移。女性教師と少年が心を通わせる進展を見せるも、ラストはその行動全てが少年の妄想であった事実が明かされ、映像は幕を閉じる。一見荒唐無稽な作りにも思えるが、ライブではJQ以外のメンバーが流動的に入れ替わるという、ナルバリッチらしいミステリアスな作りには脱帽だ。


昨今のナルバリッチはコロナウイルスを経て強い意識改革を時を迎えており、他者とのコラボレーション楽曲の制作や楽曲提供など、メジャーデビュー以降最も意欲的とも言うべき軽快さで活動を続けている。過去のインタビューにおいてJQは「同じような楽曲は作りたくない」という趣旨の発言をしていたが、確かにナルバリッチの楽曲はどんどんレンジの広い代物と化すばかりで、“ain't on the map yet”が収録された初のフルアルバムが彼らのひとつの区切りとなったのはおよそ間違いない。先進的な試みを成しつつ、ナルバリッチはこれからも続いていくのだ。

 

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……さて、いかがだっただろうか。学校を舞台としたMV6選。上記のMVを回顧すると、今回紹介した楽曲は若かりし頃の学校生活に思いを馳せたり、10代の頃にしか経験し得ないifの世界線をなぞったが大半を占めている。それはすなわち、楽曲の持つメッセージ性を強く伝える手段として『学校』が何より適していると判断してのこと。今回紹介したMVで言えば特にMARSHMELLOの“Alone”のように、人間誰しもが義務教育として必ず通った道を視覚的に見せるからこそ、より心に刺さる部分も必ずや存在するはずなのだ。


無関心に観ればそれまで。しかし深く掘り下げつつMVに刮目すると、見えてくる世界も少しばかり変化するはず。……様々なMV紹介でも繰り返し綴っている通り、音楽に触れる契機は端的に記すならば『何でも良い』の一言に尽きる。それはつまり、今回の『学校を舞台としたMV6選』との題材からふと興味を抱いたことから初めて出会う楽曲も多いということに等しい。読者の方々には是非とも、今後も様々な音楽を聴き、またその派生として次なる音楽、次なる音楽と深みに突き進んで行って欲しいと強く願っている。