キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】THE 2・ircle・四星球『ONE LINE BREEZE - LIVE 2023 SUMMER -』@岡山CRAZYMAMA KINGDOM

こんばんは、キタガワです。

瀬戸内海に面する中国地区の山口、広島、岡山の3県を繋ぐ形で開催された、此度の『ONE LINE BREEZE』と題されたライブイベント。アフターコロナの新風的な意味合いも込められたこのイベントは各ライブハウスの店長計3名の共同により進められ、言わば地方のライブハウスの意思表明としての意味合いすらあったように思う。

そんな記念すべき初開催の出演はTHE 2、ircle、四星球らライブハウスを主戦場とするバンド3組。また関西・関東圏を中心に活動している彼らは距離のグンと離れた中国地方へのツアーは非常に珍しく、そうした意味でも大変意義のあるライブである。この日の会場はツアーラストとなる岡山CRAZYMAMA KINGDOM。夏フェスシーズンのド平日ということもあってか集客こそ少な目ではあったが、集まったファンの視線は熱く、県外からも来場者が集まる環境に。

 

まず1組目は、現在1週間で5本のライブラッシュ中のTHE 2。この日は古舘佑太郎(Vo.G)、森夏彦(B)、サポートメンバーのホリエ(Dr)に加え、突発性過呼吸症候群によりキャンセルとなった加藤に代わり、元teto(現在はthe dadadadysにバンド名変更)の山崎陸(G)が帯同する新体制でのライブとなった。

NihiRhytm - YouTube

オープナーとして選ばれたのは“ニヒリズム”。圧倒的な音圧で鳴らされるサウンドの中心を、古舘の歌が突き抜ける感覚はCD音源でもある程度感じることができたが、やはり実際にライブで聴くと血湧き肉躍るというか、自然に体が動き出すエネルギーに満ちていた。

セットリストは去る2019年にリリースされた、自身3枚目となるアルバム『生と詩』が基盤。そこにファーストの『VIRGIN』やデジタル配信シングルを入れ込む、言わばTHE 2の今を強く感じさせるものになっていたのは印象深い。

2 / ケプラー (Official Music Video) - YouTube

以降は“ケプラー”や“ナイトウォーク”といったファストチューンを中心に、フロアの熱量を上昇させるTHE 2。その間のMCはほとんど行われず、ひたすらに昂るエネルギーが会場を満たしていく。昨今の世間的には朝ドラや映画出演で何かと俳優的なイメージも強い古舘だが、喉が張り裂けんばかりに熱唱する彼の姿を見て、「生粋のロックンローラーなのだなあ」と実感する一幕も多々。

中盤では一転、サポートメンバーの山崎を含めての軽快なMCで笑いを起こす。どうやらオリジナルメンバーの加藤が参加できないことが分かった瞬間から、彼らはスリーピース……つまり古舘がリードギターを兼任する形でツアーを行う予定で調整していたそう。そんな中で古舘が居酒屋に行った際、偶然居合わせた山崎が「俺やってもええで」と快諾したことにより、今回の編成が実現したとのこと。しかしながら山崎は、古舘に絶対に言いたいことがあると主張。それは古舘が誘ってくれた際に「訳わかんないところにツアー行くんだけど……」と言われたことで、出身地が岡山である山崎はその真意を問いただそうと熱弁。すかさず「それは語弊があるって!」と反論する古舘だったが次第に勢いがしぼみ、最終的には山崎と岡山県に謝罪して一件落着。

2 / ルシファー (2019.03.31 Live at 学芸大学MAPLE HOUSE) - YouTube

他にもENEOSでの給油時、父親であるアナウンサー・古舘伊知郎の顔がモニターに映ったことで「ああ、親父ちゃんと稼いでるんだなって……」と思った話や、ライブ前に滝に打たれた話などが展開されると、再び楽曲へ。ここからは後半戦として、恋愛関係にあるふたりのイニシャルをもじった“SとF”、山崎が渾身のボーカルパートで魅せた“DAY BY DAY”といったライブアンセムを投下、更に勢いを加速させていく。アンプから放たれる爆音にまみれながら盛り上がるのはもちろん、イントロが鳴った瞬間に飛び跳ねるファンも多数。ライブを通して活動を続けてきた彼らならではの状況が、熱く会場を震わせていたのが印象深い。

THE 2 / 恋のジャーナル(Official Music Video) - YouTube

古舘のギター弾き語りから《友達の彼女に手を出したい》《親のこと裏切ってしまいたい》の歌詞にファンへの同意を求めるワンシーンで爆笑を巻き起こしつつ、ライブは“ルシファー”からの“恋のジャーナル”でシメ。待ってました!な楽曲の時点で盛り上がりは確約されたようなものだが、度重なる絶唱と強いピッキングがもたらす音圧により、その興奮は凄まじいものに。ラスト“恋のジャーナル”ではファンとのレスポンス(手拍子&腕上げ)もバッチリ決め、古舘の「訳わかんないとこって言ってごめん!岡山愛してます!」との叫びでもって終幕。ライブ後、翌日のライブ移動のため5分間しか物販ができないという状況ながら、大勢のファンが列を作っていたことからも、その熱量がどれほどの人の心を動かしたのかを表していたように思う。

【THE 2@岡山CRAZYMAMA セットリスト】
ニヒリズム
ケプラー
ナイトウォーク
急行電車
東狂
SとF
DAY BY DAY
ルシファー
恋のジャーナル

 

続いての出順は激しいライブでリピーターを増やし続けるロックバンド、ircle(アークル)。音が止んだ瞬間に客電が消えるオープニングを経て、ステージ袖から現れたのは河内健悟(Vo.G)、仲道良(G.Cho)、伊井宏介(B.Cho)、ショウダケイト(Dr)の4名。いきなりマイクに掴みかかった河内は「ロックンロールの救世主、ircleです!」とあの印象的なハスキーボイスで絶叫。

ircle -呼吸を忘れて- 【Official Video】 - YouTube

ライブは“呼吸を忘れて”からスタート。何かに取り憑かれたかのように限界突破で叫ぶ河内に、楽器隊が追随する形で極太サウンドを鳴らす様はircleならではで、『非日常のライブハウスに来た』という実感をひしひしと感じる。顔がマイクに当たって位置が変わればその場所に移動して歌い、ロングトーンが出なくなればその都度叫び……。普段は温厚な性格な河内だが、この瞬間は別。何が起こってもお構いなしの自傷的さえ思えるパフォーマンスで、グングンと引っ張っていく感覚がある。

間髪入れずに鳴らされた“セブンティーン”は、河内が「トップギア入れよう!」と何度も叫んでドロップされた。この楽曲はircleのライブでは終盤に鳴らされるイメージが強く、実際筆者が観てきたライブでは決まって最終曲に位置していたのだが、まさかこのスロットとは。歌詞を『歌う』というより、言葉のひとつひとつを『喋りかける』ように伝えつつ、叫ぶ箇所は一気にブチ上げるスタイルは不変にしろ、こうした盛り上げ方を何年もライブシーンで培ってきたことは本当に凄い。

ircle -セブンティーン- 【Official Video】 - YouTube

中盤のMCでは、今回のライブの意味合いについて説明。『ONE LINE BREEZE』と題された今企画は山口、広島、岡山の3つのライブハウスの店長が共同で行ったものであることを改めて示しつつ、「岡山には僕らは本当にお世話になっていて。今回は1回目の開催だけど、これから2回目3回目って続いていく企画だと思うし、僕らも次に出してもらえるように、力をつけていきます。次は休日でもソールドアウトになるように」と語った河内。我々が普段何気なく通っているライブ、それは決して当たり前などではないことを、はっきりと感じた瞬間だった。

その後も“決断はいまだ”、“サーチライト”と時にマイクを齧るような、時にギターのストラップが切れてしまうような荒々しいパフォーマンスで魅せたircle。伊井がファンを中央に集めるような仕草(おそらく今からダイブするから支えて、の意)を見せるなど、個人的に「アフターコロナのライブハウスっていいなあ……」と感じる箇所もいくつかあり、先のMCもそうだけれど、彼ら自身にとっても規制解除の今の環境は最良なのだなと。

「本当の事」Live at 2022.01.23 O-EAST - YouTube

ラストナンバーは“本当の事”。河内は楽曲中で、自分の好きなこと、やりたくないこと、社会で生きる上でのあれこれについて思いを巡らせながら、今まで以上の熱量でどしゃめしゃな音を響かせていく。そして「愛しいものの方にまっすぐ行ってもいいと思うよ。俺もそうする」と締め括り、出し惜しみなしの完全燃焼で終幕。最後に伊井はステージ上部に自身のベースをぶら下げてステージを去ったけれど、まるでベースがこのライブハウスの更に上から、我々の未来を見下ろしているようにも見えてウルッときた。

【ircle@岡山CRAZYMAMA セットリスト】
呼吸を忘れて
セブンティーン
2000
ロックンロールバンド
決断はいまだ
サーチライト
ばいばい
本当の事

 

さて、正真正銘のラストを飾るのは我らが四星球。今回の出演バンドの中では最もキャリアの長いコミックバンドであり、現在でも全国各地を飛び回るライブバンド、という事実はもはや語るまでもないが、『何が起こるか全く分からない』というのも四星球の面白さに繋がる要素。そのため「今回はどんなライブになるのか……」とワクワクしながら待機する我々である。

暗転すると、まずは半被&白ブリーフ姿の北島康雄(Vo)がステージに登場。すると開口一番「本日は90人限定ライブにお越しいただきありがとうございます!皆様ご覧ください、後ろまで超満員でございます!」とお世辞にも客入りが良いとは言えないフロアをイジって爆笑を巻き起こすと、北島は「THE 2もircleも凄いライブだったじゃないですか。言うても我々のキャリアは長いんで、若い彼らのライブ観てメンバーは『カッカカッカ』しとるんです……」と発言。すると突然「お前を蝋人形にしてやろうか!」の声が轟き、袖からU太(B)、まさやん(G.小道具)、モリス(Dr)がデーモン小暮『閣下』のコスプレをして登場!もちろんファンは大爆笑で、一気に流れを掴んでいく。

SU-XING-CYU LIVE Digest at ZeppFukuoka 14 October, 2020 - YouTube

1曲目はまさかまさかの“クラーク博士と僕”。まだ1曲目にしていきなりの往年のキラーチューン投下には心底驚いたが、こうした予測不能なセットリストも彼ららしさ。北島はハンドマイクで独壇場的に喋りまくり、小道具のフラフープを首や腰で回す回す。果てはファンにフラフープを放り投げ、ファンから投げてもらったものを首でキャッチする大道芸(?)を見せつつ、盛り上げにかかる四星球。

四星球のライブは基本全ての楽曲で笑いを引き起こすのが特徴で、それはこの日も健在。続く“UMA WITH A MISSION“ではスタッフが持ってきた4分間のストップウォッチの下、産まれたての子鹿になった北島が必死に立ち上がろうとする様を、我々が「がんばれー!」と鼓舞するカオスな時間。はたまた小道具を全て自身で制作しているまさやんを紹介する”鋼鉄の段ボーラーまさゆき“では、『↓まさゆき』と書かれた段ボールを背負ったまやさんがお手製のグッズを大盤振る舞い。中でもTHE 2とircleのアーティスト写真の顔をまさゆきに加工した小道具(下記参照)の破壊力は凄まじく、大爆笑をかっ攫っていた。

四星球 「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」MV紹介&「OTODAMA’17~音泉魂~“夏フェスというボケ編”」ダイジェスト - YouTube

以降も最近ツイッターを作成した知る人ぞ知る『ちょんまげマン』が降臨して《ちょんまげー ちょんまげー ちょんまげちょんまげマーン》の耳馴染みの良い歌唱&振り付けで楽しませた”ちょんまげマンのテーマ“で盛り上げつつ、モスキート音をモチーフにした”モスキートーンブルース“では「蚊が多すぎる」として、全員で蚊を払うアクションで一体感を生み出していく。ちなみに演奏が終わったかと思いきや「蚊がおる!……捕まえました!」と手をグーで握り込んだ瞬間に蚊が脱走し、「逃げてるよー!」の声と共にサビが再開する……という流れを計3回行っており、曲ごとの満足度も凄まじいものに。

「25年以上バンドをやっていますけれども、活動休止をする仲間もたくさん見てきました。最近はコロナもありましたし、いろんな悩みを抱えて辞める決断をした、そんなバンドもたくさん知ってます。……僕は活動休止したバンドがもう一度活動を再開したとき、安心して戻って来れるようなライブハウスをずっと守っていきたいと思います」と新曲披露後には一転、北島は現在のバンドの目標について語ってくれた。最もライブを行うバンドの1組として知られる四星球だからこそ、今の制限のなくなったライブハウスへの思いは強いものと推察した瞬間だったが、次の楽曲は彼の上記のMCのアンサーとも言うべきこの日のハイライトだったと思う。

四星球「茶番がないときのMr.Cosmo」 - YouTube

その楽曲はもちろん、ライブでは長尺のアレンジが加えられることでもお馴染みの“Mr. Cosmo”。『UFOを呼ぶために全員で協力する』という摩訶不思議な状況は今回も同様で、北島はフロアに突入すると周囲の観客を引き連れ、大きなミステリーサークルを作ろうと画策。前にも述べたようにこの日の客入りは寂しい部分もあったため、なかなか輪に入れない人もいるにはいたのだが、北島が「でっかいの作るんで後ろの幕も動かしてもらって、ここのは手動で動かさなアカンのですね。……広島のクアトロでは自動でしたけどねえ!」と面白トークでイジったり、悩める人の背中を優しく押したりとグングン引っ張った甲斐もあり、最終的には異常な大きさのサークルが完成!《嘘でもええ》の『ええ』部分で全員が飛び上がる場面でも、「今気付いたんですけど、ここってジャンプ禁止なんですね。ホンマすいません。……でもそれは満員で飛んだ時だけですよねえ!」と、この日の客入りを上手く使った思考変換で解決。笑顔が溢れる空間、これこそが彼の言う「安心して戻ってこれるようなライブハウス」なのだろう。

四星球「薬草」Music Video - YouTube

最後の楽曲は“薬草”。オナニーマシーンのイノマー氏が亡くなった後から、何度もライブにかけてきたときくメッセージソングである。この楽曲は主にダジャレで構成されていて《that's all》の歌詞は『薬草』にも、北島の名前である『康雄』にも繋げることができ、何度も出てくる《エンターテイメント》は『息抜き』。つまり『生き抜き』に変換できるなど、コミックバンドとしての要素とメッセージを共存させたものだ。そしてそれはイノマーのみならず、今この場にいる我々にも刺さる代物。《あなたが死にそうに 消えてしまいそうになったら/忘れちゃいそうになったら 歌が薬草になってやら》との歌詞についても同様で、毎日仕事だ学校だと辛い中でライブハウスに来てストレスを発散したり、音楽を聴いて楽しくなったり……。そうした『薬』を彼らは提供し続けることで、今まで変わらぬ活動に繋げてきたのだと実感。ラストにもう一度“モスキートーンブルース”の一節をやり、「このままじゃまた逃げられるなあ。ならこうしよう!」と『お前を蝋人形にしてやろうか』発言で動きを止める流れも含めて、感動と笑いが合わさった最高のライブであった。

アンコールは、北島以外のメンバーが先に出て「僕ら持ち曲はたくさんあるんですよね。どの曲にしようかな……」と悩むまさやんの発言をぶった切る形で、袖から二度目のちょんまげマンが登場してのテーマ曲。「1度しか言わないから良く聴け!」と言ったフレーズを2回言ってしまう本編とは異なり、アンコールでは3回連続で言ってしまった悲しきちょんまげマン、その謝罪の素早さにも磨きがかかっているのはニクいなと思ったり。

そしてアンコール最後は“ふざけてナイト”と題された新曲を投下。その全貌はまだリリースされていないため不明なれど、《大人になって分かったこと/ふざけてないと泣いちゃうよ》というフレーズ然り、この日のセットリストの中ではおそらく最も短い長さ然り、短時間に四星球らしさを詰め込んだ楽曲で、あっという間に終幕と相成った。終演後はなんと山口・広島・岡山のライブハウスの店長3人を胴上げしてシメ!今回の企画が第2回、第3回と続くよう願いを込める形で、記念すべきライブは幕を下ろしたのだった。

【四星球@岡山CRAZYMAMA セットリスト】
クラーク博士と僕
UMA WITH A MISSION
鋼鉄の段ボーラーまさゆき
ちょんまげマンのテーマ
モスキートーンブルース
がんばっTENDERNESS(新曲)
Mr. Cosmo
薬草

[アンコール]
ちょんまげマンのテーマ
ふざけてナイト(新曲)


日本を代表するライブバンド3組が集まり、中国地方の3県を回った今回の初企画。夏フェスシーズン、しかもド平日という中で敢行されたライブは紛れもなく、ライブシーンの重要性を感じさせる夜だったように思う。……コロナが明けて、ようやく様々な規制がなくなった今。コール&レスポンスも合唱も、モッシュダイブも不可能だった3年間を耐えて元に戻りつつあるが、完全に元通りになることはおそらくない。コロナ禍の節約志向やマスク着用が今でも尾を引いているように、一度離れたライブ好きの人が100%戻るのは、相当に難しい道のりだろう。

けれどもそんな中で、今回のライブはひとつの思いをファンに届けてくれた。そう。何よりも素晴らしい『ライブって最高だよね』という実体験である。その気持ちがある限りこの環境はなくならないし、なくなっては困るものだ。……全国各地にあるひとつの公演と言ったらそれまでだけれど、非常に大きな意義のある音楽体験が、そこには確かに存在した。