キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】ヤバイTシャツ屋さん『“Tank-top Flower for Friends” ONE-MAN HALL TOUR 2023』@広島JMSアステールプラザ 大ホール

こんばんは、キタガワです。

『ヤバTが全国ツアーを行う』。この情報が解禁されたとき、全国のロックファンは歓喜に沸いたはずだ。何故ならヤバTはこれまでも精力的なライブを通して活動を行ってきた存在。よって「ライブがあれば出来る限り行こう!」というのが、ヤバTファンの習性でもあるためである。……ただ、今回のライブはふたつの意味でこれまでとは違った代物でもあった。

まず1つ目は、今回はニューアルバム『Tank-top Flower for Friends』のリリースを控えたライブであること。そもそもリリースツアーはアルバムリリース後に行われるのが定石だが、発売は3月。そのためこの日はいち早く新曲を聴くことの出来る貴重な機会。結果的にはほぼ未視聴の新曲を5曲ドロップする、ファン垂涎の流れとなったのだ。

そしてもうひとつ、ここが最も重要な部分で『声出しがOKになったこと』。思えばこの3年間ライブシーンは声出しNGの措置を取り続けていて、それはヤバTも例外ではなかった。ただ観客との掛け合いが大半を占める楽曲群を演奏する上で『声出し禁止』はとてつもないマイナスだった。それが試行錯誤するヤバTと、どんなことがあっても着いていくファンの双方向的な関係を続けて3年。ようやく声出しが解禁されるようになった。さあ、それらの条件が加味されたヤバTのライブは一体どのようなものになったのだろう……?

その答えが、ここから始まるライブレポート。会場に到着すると、まず目を引いたのは背後にある巨大なスクリーン。そこにはヤバTのメインキャラクター・タンクトップくんが大量の花に囲まれた画像が投影されていて、その中心には『ヤバイラジオ屋さん聞き逃し配信』と書かれたラジオのQRコードが。BGMにはヤバTのなかなか演奏されないレア曲や、ボン・ジョヴィの“Livin' on a Prayer”、“禁じられた愛”といった楽曲が流されていた。また集まったファンの年齢は様々で小学生らしき子供もかなり多く、改めてヤバTファンの年齢層の広さを認識する形であり、対してステージはエフェクターもほとんどないロックバンドとしては非常に簡素な作りになっていたのは印象深い。

定刻になるともうすぐ始まる雰囲気を察したファンが次々と立ち上がり、そのまま暗転。お馴染みのわんぱく☆パラダイスのオープニングである“はじまるよ”が流れる中、真っ黒な服に身を包んだこやまたくや(Vo.G.Key)、表に『12才』と書かれた道重さゆみのピンクTを羽織ったしばたありぼぼ(B.Vo)、ロングヘアーを靡かせつつ涼しい表情のもりもりもと(Dr.Cho)の3名が登場。瞬間ウワっと沸く会場である。そして開口一番、こやまは「広島ー!今日は声出しOKですよー!歌いなさーい!」と絶叫していて、テンションの高さが伺える。

ヤバイTシャツ屋さん - 「あつまれ!パーティーピーポー」Music Video[メジャー版] - YouTube

ヤバTのライブはセットリストは各地バラバラ。そのため「何の曲を最初に持ってくるんだ……?」というのはファン誰しもの疑問だったと思われるが、雪崩れ込んだ1曲目はなんと超キラーチューン“あつまれ!パーティーピーポー”!大ヒット曲を序盤に配置する、よもやよもやの幕開けである。CD音源と比べても明らかに速いアレンジで展開されたこの楽曲を、こやまは幾度も「踊りなさーい!」と叫びながら《シャッ!×16 エビバーディ! 》のレスポンスを要求。そして大声OKのライブらしく、思った以上にファンからのアプローチも強い。大ラスサビ部分では早くも左右に振り動くウェーブが形成され、ご満悦なメンバーたちである。それでも「もっともっと!」と炊きつける様は、彼らがこの声出しライブを楽しみにしていた証左だろうとも思った。

今回のライブは冒頭にも記した通り新作『Tank-top Flower for Friends』の流れを汲んでいたものの、基本的には既存曲主体でバチバチに盛り上げる代物に。更には声出しが可能になったことを鑑みてか、どこかコール&レスポンス多めの楽曲をチョイスしている感もあって連帯感も抜群。ホール公演ながら汗ばむレベルの熱量を生み出していたことは特筆しておきたい。またある種の性急さを武器とするヤバTらしく、ロックバンドのライブでありがちな『チューニング→沈黙』の時間も極力削減。水分補給はペットボトルに刺したストローで一瞬で済ませたり、チューニングはスタッフに任せチェンジするのみ、果ては既存曲のBPM自体を速めるといった力技で乗り切り、結果アンコール含め2時間ジャストで25曲を鳴らしたのは流石と言うべきだろう。

ヤバイTシャツ屋さん - 「くそ現代っ子ごみかす20代」Music Video - YouTube

 

彼らの楽曲が切り取るのは、日常の何気ないひとコマや物のあれこれだ。以降の“無線LANばり便利”では「無線LANは有線LANより便利」とする事実を主張し、“Universal Serial Bus”ではUSBメモリを、更に“くそ現代っ子ごみかす20代”でぬるま湯に浸かる若者感を歌詞に起こしているが、それはこやま自身が物事を俯瞰して見ていることの証左なのだろう。そしてそれらをキャッチーなメロに乗せることで、ヤバTの音楽は成立している。

めちゃくちゃに格好良いヤバTだが、MCになると一気にだらけるのも彼ららしさ。まずは「広島と言えばPerfume?」としばたが発言したことに端を発し、そこからPerfumeと言えば香水→香水と言えば瑛人→瑛人といえば横でギター弾いてるジュンちゃん……とマジカルバナナ的に話がどんどん脱線。いろいろあって石田純一→いしだ壱成となったあたりでこやまが「石田純一『さん』な?」と突っ込むも、しばたが逆に「いや、いしだ壱成にも『さん』付けな」とトドメの一撃。「石田純一さん、いしだ壱成さんすみません」とこやまが二人に謝罪する形で大爆笑を生み出していく。

ヤバイTシャツ屋さん -「とりあえず噛む」リリックビデオ (ロッテ「キシリトールガム」20周年プロジェクトソング) ※1番のみ - YouTube

そこからはしばたが言うところの「聴いたことない曲たくさん聴かされる」ゾーンとして、ニューアルバム『Tank-top Flower for Friends』から“hurray”と“Blooming the Tank-top”を。既存曲としては昨今ライブで披露される機会の少なかったアッパーソングを連発する流れに。ともすればダレてしまいそうな感もある一幕だが流石はヤバT。どの楽曲においても「オイ!オイ!」のレスポンスを繰り出し、1秒たりともテンションを落とさない工夫が成されていて最高だ。またこの辺りから背後のスクリーンに時たま映像が投影されるようにもなり、“DANCE ON TANSU”では棒人間らしきキャラクターが踊ったり、新曲では歌詞が流れたりと、ホール公演ならではの仕掛けがあったのも面白かった。

ヤバイTシャツ屋さん - 「鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック」Music Video - YouTube

 

「適当に『ワン!』って言ってもらえれば」とのレクチャーから始まった新曲“ダックスフンドにシンパシー”、いろいろ詰め込み過ぎて語彙力がバカになった“鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック”で「ありがとうございました!ヤバイTシャツ屋さんでしたー!」とふたりがドラムセットから飛び降り、ジャーンと鳴らして終わる気配を見せつつ、実はまだまだ終わらないライブである。しかもこやまは「終わったと思って時計確認した人おるんちゃう?」とドSぶりを発揮しつつも、まだ折り返し地点にも達していないことを報告。

凄まじい熱狂を生み出したかと思えば、ここからのMCで再び脱線傾向に。「でもこれくらいの尺で終わるバンドもおるんちゃう?ビートルズとか」とのしばたの発言から、しばたが“Hello Goodbye”と“Yesterday”が好きなこと、次いで“Help!”のくだりからなんでも鑑定団の話に移ったりとやりたい放題。この展開には流石にマズいと思ったのか、これまでほとんど口を開くことのなかったもりもとが助け船を出すのだけれど、これも微妙な空気に。「俺MCで声が通らんってよう言われんねん」と語れば、会場にいる子どもがエヘヘと笑い出し、もりもとが「MCキミがやるか!?」と更なる爆笑に繋がったり……。そこにはお互いに何の緊張もない、とてもリラックスした空間があった。

ヤバイTシャツ屋さん - 【LIVE】「ハッピーウェディング前ソング」 from 2nd LIVE DVD「Tank-top of the DVD Ⅱ」 - YouTube

「ダイブやモッシュが毎回起こる曲」とのウソ情報から繰り出された“週10ですき家”、自分抜きで沖縄に3泊したりといった悲しいこやまの実話を元にした“俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ”などハイライトはいくつかあった中で、ひときわ盛り上がりを見せたのは“ハッピーウェディング前ソング”の一幕。ヤバTはいわゆる『キラーチューン』と呼ばれる代物に関しては毎回セットリストに組み込む形を取っており、“ハウ前ソ”もほぼ例外なくライブで披露されてきた。が、この日は先述の通り声出し解禁ライブ。《キッス!》と《入籍!》の連打が鼓膜にビリビリ伝わる音量で叫ばれる会場は圧巻で、嬉しさのあまりこやまは声が渇れんばかりの絶唱を、しばたはステージを走り回りながら灼熱の演奏を繰り広げてくれた。

MCがダダ滑りし「今日って声出しNGでしたっけ?」と爆笑を生み出す場面を挟みつつ、ライブは後半戦へ。コロナ禍と完全に被ったことで声を聞く機会が長らく失われていたとする“泡 Our Music”、メーター振り切りのヘドバンの海が形成された“ヤバみ”、圧倒的な言葉数で捲し立てる”ちらばれ!サマーピーポー”といった楽曲がギャンギャンに盛り上げる中で、一風変わった雰囲気で爆笑を誘ったのは“肩 have a good day”。

ヤバイTシャツ屋さん - 「肩 have a good day -2018 ver.-」Music Video - YouTube

この楽曲は『肩幅が広い人の方が発言に説得力が増すし、みんなから支持される』といったド偏見を記した曲。ただこの楽曲はこの日披露されたもののうち最もバラード寄りのものであり、そのためファンは腕を左右にゆっくり振って楽しんでいた。そんな中でこやまは突然目頭を抑えて号泣(注:もちろん嘘泣きです)し、しばたがこやまの肩を叩いて励ますシーンで会場は大盛り上がり。終いには『手をグーにして胸を2回叩く→そのまま前に出す』という感動スポーツ漫画チックな展開に移行していき、ラストは涙で歌えなくなったこやまに対して、ファンが歌詞を大合唱して応援する状況に。……繰り返しますが、この楽曲で歌われているのは『肩幅が広い人の方がいろいろ上手くいく』という内容です。

ヤバイTシャツ屋さん - 【LIVE】「かわE」 from 3rd LIVE Blu-ray/DVD 「Tank-top of the DVD Ⅲ」 - YouTube

そして気付けばライブもクライマックス。最後に演奏されたのは“かわE”で、完全燃焼な幕引きを図るヤバTである。最後の曲と知ってかファンは徹頭徹尾、声を大にして熱唱する半カラオケ状態で、こやまはその歌声をどんどん大きなものとするべく焚き付けまくる環境だ。モッシュやダイブは出来ないけれどそこにあったのは在りし日のライブハウスの風景で、思わずウルッときたり。ラスサビではこの日一番のレスポンスで熱量をもう1段階引き上げて去っていったヤバT、まだまだ行けそうな涼しい表情にまだ見ぬ可能性すら感じた次第だ。

アンコールと言えば手拍子が定番だが、この日はひとりのファンが発した『ヤバイ!Tシャツ屋さん!』のリズムに乗せて全員が叫ぶという珍しい展開に。その声に呼び込まれて再びステージに立った3人は「そうそう。前はこんな感じでアンコールやってたんですよ」としみじみ語りつつ、ここでこの日集まったファンの年齢層を確認。結果20代が最も多く「前は10代に人気って言われてたけど、そのとき10代だった人が俺らと一緒に歳を重ねてるってこと?」とこやま。

気になるアンコール1曲目は新曲の“インターネットだいすきマン”。どうやら全国各地で行われている今回のツアーにおいて、この楽曲のみどこにも演奏していない未発表曲だそう。気付けばステージの傍らにはキーボードが置かれていて、こやまは椅子に座りつつ「真面目な曲なんで。失敗でけへんから」と何やら集中モード。が、そこから始まった“インターネットだいすきマン”は内容としては『ツイッターで有名人にクソリプを送る友人』、『承認欲求に惑わされてSNSを悪用してしまう人』といったコミカルなもので、ファンは一様に大爆笑。ちなみにボーカルはしばたともりもとで、楽器は持たずにスタンドマイクのそばで体を上下させながら《インターネット〜♪インターネット〜♪インターネット〜だいすきマーン♪》とリズミカルに歌うという、物凄く変な例えをすれば『有吉の壁』で言うところの芸人の歌ネタに近い形のエンタメ曲というか。ライブ後の今でも頭の中をグルグルするレベルの中毒曲。

そして「この曲が次のアルバムのリード曲になります。えー、僕らの10年の集大成がこれです……」と再度爆笑を生み出した後、こやまは真剣に語り始めた。

「僕らは今年絶対に紅白に出ます。『なんかヤバT調子いいらしいよ』とか『ヤバT今年10周年らしいよ』とか。雰囲気作りをよろしくお願いします」

「……ほんでこの3年、みんなよう頑張った!俺らも下がっていく動員とか制限とかホンマにキツかったけど、その中でも頑張ってツアーを回ってきました。でも、あとちょっとやから!今回はホールツアーでやったけど、次は必ずグチャグチャ(ダイブ&モッシュありのライブハウス)になれる。また広島にも来ます。そのときはみんなでグチャグチャになりましょう」

ヤバイTシャツ屋さん - 「NO MONEY DANCE」Music Video - YouTube

そうして最後に披露されたのは、限界突破のアッパーチューン“NO MONEY DANCE”。金欠状態にも関わらず金を使ってしまう、悲しきサイクルを歌ったナンバーである。こやまは「最後やぞー!」と焚き付け焚き付け、ファンもその煽りに負けじと大声で応戦!もしここがライブハウスであればもみくちゃになっていたこと間違いなしの盛り上がりが、会場を包み込んでいく。ラストはこやまとしばたと両名がドラムセットからジャーンと飛び降り、ライブは終幕。会場には非日常的な熱気と興奮が残された。

終演後まもなくして流れ始めた、とっとこハム太郎の“ハム太郎とっとこうた”。《大好きなのは〜♪》→「はいっ!せーの!」→《ひまわりのたね〜♪》→「俺もー!」という伝説のレスポンスを絶叫する会場で、改めて今回のライブを噛み締める。

コロナ前はあり得なかった、ライブにおける『声を出さない』とする決まり。それは今や当たり前になり、それこそこの日も「ライブで声出すのってどうだったっけ?」と一瞬分からなくなった人も多かったことと推察する。……そしてそれはイコール、最もシンプルな形で『ライブハウスから奪われたもの』でもあって、特にファンとの掛け合いが重要なヤバTとしては、非常に苦しい3年間だったと思う。

ただ、そんな中でも彼らは歩みを止めなかった。収益的にも厳しい状況にも負けず全国ツアーやフェス参加、新曲リリースを続けてきた結果が、今回の満員御礼・大合唱ありのライブに繋がったのである。……決して当たり前ではない『ライブ』という娯楽。それを取り戻してくれた彼らに感謝の気持ちを込めて、これからもその道程を共に歩んでいきたい。最高のライブでした。

【ヤバイTシャツ屋さん@広島 セットリスト】
あつまれ!パーティーピーポー
無線LANばり便利
Universal Serial Bus
くそ現代っ子ごみかす20代
hurray(新曲)
Blooming the Tank-top(新曲)
とりあえず噛む
DANCE ON TANSU
ダックスフンドにシンパシー(新曲)
鬼POP激キャッチー最強ハイパーウルトラミュージック
週10ですき家
Bluetooth Love
俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ(新曲)
ZORORI ROCK!!!
ハッピーウェディング前ソング
泡 Our Music
肩 have a good day -2018 ver.-
Beats Per Minute 220
ヤバみ
ちらばれ!サマーピーポー
Give me the Tank-top
かわE

[アンコール]
インターネットだいすきマン(新曲)
ざつにどうぶつしょうかい
NO MONEY DANCE