今思い返せば、2024年はアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の動きに熱視線が注がれる年だった。実際にアニメ自体が終了したのは、一昨年ほど前のこと。ただ今年は新たな試みとして劇場総集編『ぼっち・ざ・ろっく! Re:』を、その数ヶ月後には後編となる『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:Re:』が公開されたことで、ブームが再燃。結果とてつもない動員数を記録するモンスター作品となった。
その一方で、件の作品と同じくして注目を集めたのは、劇中ユニット・結束バンドの存在だった。喜多郁代(Vo.G)、後藤ひとり(G)、山田リョウ(B)、伊地知虹夏(Dr)ら4名によるバンドの音楽はストーリー展開と共に劇中でも流れ続けていた訳だが、特に今年は現実における活動ペースが超加速。ミニアルバムやEPのリリース、果ては夏フェス出演と破竹の勢いだったことは言うまでもないだろう。
今回行われたツアーはタイトルの通り、今冬発売予定の新作EP『We will』を記念してのもの。アニメ効果もあってか、チケットは先行の時点でソールドアウト。それどころか、また惜しくも参戦出来なかったファンの救済措置として全国の映画館でのライブビューイングや生配信サービスも導入する異常事態となり、実際に会場に訪れたファンの何十倍もの人々が、様々な形でライブを鑑賞。今回はそんなライブの中日に位置する、Zepp Haneda公演について記載する次第だ。
野太い声が飛ぶパンパンの会場、開始前から既に沸いている感もある中で、ライブは定刻の17時半にスタート。akkin(G)、高慶“CO-K”卓史(G)、山崎英明(B)、比田井修(Dr)らサポートメンバー4名がセッションで熱を高めていく中、ステージ袖からひとりの女性が歩みを進める。そして印象的なギターストロークから放たれた歌声に、思わずハッとする。オープナーに選ばれたのは、劇場版主題歌でもある“月並みに輝け”。ある瞬間から一斉に明るくなった昭明の下で、キュートなボーカリスト喜多郁代役・長谷川育美が高らかな歌声を響かせて感動を誘っていく。
音の良さ、キャッチーなコード進行等に改めて感動した中でも驚いたのは、長谷川の歌声。『声優が歌を歌う』ということは今やよくある時代だが、そもそもキャラを演じる『声優』とメロディーに乗せて届ける『歌唱』は完全に別枠。だからこそ補正での誤魔化しの不可能なライブ会場では、ともすればガタガタな歌唱になってしまうことも多いのだが、長谷川の歌は正直感服するレベルで上手く、自信満々な表情も相まって「本業がシンガーなのでは?」と感じるほど。ファンもその歌声に呼応し、1曲目から飛んで叫んでの大盛り上がりだ。
続いて「こんばんは、結束バンドです!最後までよろしく!」と長谷川が放って始まったのは、アニメOPとしても知られる“青春コンプレックス”。前回のライブではアンコールラストに配置されていたこの楽曲が、2曲目でドロップされる衝撃たるや……。サビではもはやお馴染みとなった《掻き鳴らせ》部分を大合唱する一幕も見られ、早くも興奮はクライマックス的。結束バンドにおける新しい部分とかつての部分、両面を一気に見せて流れを作る流れはあまりにも若手バンドのそれであり、いちアニメから誕生したとは思えない存在感を携えていた。
先述の通り今回のライブは、新作EP『We will』にちなんだもの。一方でセットリストに関しては“ひとりぼっち東京”や“ラブソングが歌えない”といった初期の代表曲のいくつかが外されて新曲を中心に構成された、まさに『We will(私たちの今後)』を示したライブとなったのが印象的だった。ちなみにこのアルバムのコンセプトは『高校を卒業して大人になったメンバーが作った曲』であるそうで、初期曲と比べると落ち着いた雰囲気の、ある意味では予想外の楽曲が多い。先の“青春コンプレックス”が昨年のライブとは一変して2曲目に位置していたこともそうだが、『青春にコンプレックスを抱いていた少女が立ち上がる』という流れがこれまでの彼女たちであるとすれば、今回のライブは『立ち上がった少女がその後どう動いていくか』を表すような未来的な構成になっていたように思う。
以降は結束バンドのメンバーがそれぞれ合流し、時には離れながら新たな流れを作っていく。クールな天然ボケ山田リョウ役・水野朔による“カラカラ”と新曲“惑う星”はまさに一見すれば自由奔放、ただ胸にはバンドへの情熱を持った彼女らしい構成の楽曲で、《ダラダラ過ぎる日も愛して》との性格面や《青い夜に咲く》といった自身のイメージカラーにも触れた歌詞でグングンと引き込んでいく。冒頭はかなり緊張した様子で声が震える場面もあった彼女だが、次第に克服し楽曲を牽引していく様を見ていると、グッと来る気持ちにも。
再び長谷川、また後藤ひとり役・青山吉能にバトンが渡ったフェーズでは、高低差を持ったセットリストが光る。具体的には“僕と三原色”と“milky way”のミドルテンポな歌から、誰もが待ち望んだ“あのバンド”と“ドッペルゲンガー”のロックチューンへ繋げる流れである。ただ既存曲と比べてみても“僕と三原色”や“milky way”の2曲はやはり異質な曲調であり、アニメソングの側面からしても良い意味で攻めた印象を受ける。これはこれまで以上に多くの楽曲制作者に協力を依頼したためでもあるが、衝動的なファーストアルバムからセカンドへ行き、3枚目に行く頃には曲調が変化している……という数年かけて作られる『バンドあるある』を僅か1年で急速に描いた結束バンド。彼女たちはそんな愚直なバンド像を理想として掲げているのではないかと思ったり。また青山の歌唱については更にハイライト的な部分が後半に存在するので割愛するが、こちらも本当に素晴らしかった。
翻って、ここまで一切の姿を見せてこなかった最後のメンバー、伊地知虹夏役・鈴代紗弓の動向はライブ折り返し地点にてようやく明らかになる。彼女が歌唱したのは“なにが悪い”と新曲の“UNITE”。結束バンドの中でもポップとメロコアに振り切った独創的な2曲だ。鈴白はステージ上を縦横無尽に動き回りながら、時に振り付けあり、また時には拳を突き上げながら盛り上げるパワー特化のライブパフォーマンスでもって、会場を掌握。一気に後半戦の熱量へ変化させていく。特に新曲として披露された”UNITE“は、音源以上にライブで映える作りになっていたのが印象的。
この日最大のハイライトは間違いなく、抜群のタイミングで鳴らされた”忘れてやらない“→”星座になれたら“の、劇中でも大きな注目を浴びた2曲。まず前者の“忘れてやらない”では長谷川がロックテイスト全開のサウンドの下、ファンを煽り倒しながらボルテージを上げるバンド然とした雰囲気で盛り上げていく。そして「星が綺麗に見えるこの夜に、皆さんに届けたい曲があります」と長谷川が語って始まった“星座になれたら”では、空を見上げたり、腕を振ったりと千変万化の動きで魅了する長谷川にファンの視線もユラユラ動き、ライブならではの光景を作り出していく。気になる原作における喜多のギターバッキングとひとりのボトルネック奏法も、この日は完全再現。ファンの興奮を底上げする効果を果たしていたのも特筆しておきたい。
そして「伝えたいことはいろいろありますが、やっぱり『ありがとう』だなと思っていまして。原作やアニメ、音楽……。入り口は何でも良いと思うんですけど、たのしいことがたくさんある情報過多の世の中で『ぼっち・ざ・ろっく!』を好きになってくれて、ありがとうございます。私は原作者ではないんですけど、代表させて伝えさせてください」と思いを述べて“秒針少女”と“今、僕、アンダーグラウンドから”へ繋げると、袖からゆっくりとこの日2度目となる青山がエレキギターを肩から下げた状態で登場。ちなみにこの瞬間にはまだまだ「本編やるんだろうな」と思っていた我々だが、キッと正面を見据えた青山は「最後の曲です!」と一言。我々の悲痛な声が鳴らされたギターの音で掻き消される予想外の形で、本編はラストへ突入していく。
最後の楽曲は、映画のタイトルにも冠されていたASIAN KUNG-FU GENERATIONのカバー曲“Re:Re:”。この楽曲自体は2016年にリリースされたアルバム『ソルファ』に収録されたもので、ファンの間では作詞作曲を担当するフロントマンの後藤正文が、当時のインタビューにて「メールの返信にまた返信をする場面を描写した」と語っていることでも有名。本編ラストが結束バンドの曲ではないことについて疑問を抱いた部分もあるけれど、この楽曲がプレイされることで、新たな結束バンドの門出を祝う意味合いもあったのではと今なら思う。また青山が担当するギターパートは主にリード(イントロのテッテッテッテ部分)で、難易度的には低い部類に入るが、前を向きながらしっかりと演奏&歌唱を成し遂げていたのは素晴らしかったし、後半にかけての熱の入り方もまた、生のライブの醍醐味を感じさせる代物だった。
演奏が終わると、すぐさま暗転。手拍子に加えて「虹夏ー!」「喜多ちゃーん!」と各自の推しを絶叫する声も聞こえる中、姿を現したのは青山。彼女は再度ギターを持ってステージ中央へと進み出ると、会場含めライブビューイング、配信勢にまだまだ盛り上がるようアピール。しばらくすると穏やかに手に持ったギターをボロボロと鳴らしつつ「このギターもだんだん鳴らせるようになって。今回のライブも……。自分みたいな人間が夢なんて叶えられる訳が無いと思ってたんですけど、皆さんのおかげで自分の希望のようなものが見え始めました」と語り、拍手の海に包まれる会場である。
「私に勇気をくれたこの曲を歌いたいと思います」と語ってアンコール1曲目に披露されたのは、こちらもアジカンのカバー曲“転がる岩、君に朝が降る”。そもそも『ぼっち・ざ・ろっく!』はアジカンのメンバーと名前が一緒(後藤正文と後藤ひとり・喜多郁代と喜多建介etc)、各話のタイトルが曲名をもじっている(“君の街まで”が君の家まで・“長谷サンズ”が馳せサンズetc)など、大ファンである作者の意向により多くの部分でアジカンとの類似性が見られる。ゆえに先の“Re:Re:”と同じくカバーは必然ではあるが、この楽曲における様々な出来事に悩みながら《何を間違った? それさえも分からないんだ》《そんな僕に術はないよな》と綴られていたものが、最終的には《凍てつく世界を転がるように走り出した》と着地させる歌詞を見ていると、改めてアジカン楽曲との親和性にも気付かされたり。
ここからはメンバー全員が総出演で来年のアリーナライブの告知をしたり、新作アルバム“We will”の購買意欲促進活動をしたりしつつ、ライブはいよいよラストスパートへ。ラスト2曲は全てが長谷川ボーカル曲で、誰もが期待していたキラーチューン“ギターと孤独と蒼い惑星”はここでドロップ。どしゃめしゃなバンドサウンドを突き抜けるように響く長谷川のボーカルが、この日何度目かの熱狂を作り出していった点でも感動的だが、熱狂するファンとの双方向的な関係性が光るのも“ギターと孤独と蒼い惑星”の魅力。最初の勢いそのままに最後まで駆け抜けた長谷川とメンバーに、鳴り止まない拍手が送られる会場である。
ラストに披露されたのは“光の中へ”。比較的ミドルテンポな楽曲であり、これまでの活動の中では中盤に披露されることが多かったこの曲。それが活動開始から唯一最後に演奏されたという点でも、やはり配置やタイトルの意味も含め、未来へ繋げて行く意味が強く込められているように思った。そして待ち受けるラスサビでは青山・鈴代・水野らこれまで楽曲を彩ってきた3名のボーカリストも袖から現れ、《今を 明日を もっと きっと 何処までも》の歌詞を全員で熱唱。多くのライブ終了を惜しむような歓声を背中に浴びながら、ライブはその幕を閉じたのだった。
名実ともに『今一番チケットが取れないバンド』となった彼女たち。確かにその人気の背景には『ぼっち・ざ・ろっく!』が覇権アニメとなった流れもあるし、遡れば『けいおん!』や『BanG Dream!』他、二次元バンドブームの行き着いた先という見方もあるだろう。ただ驚きなのは、少なくともバンドとしての彼女たちの歩みは一貫して下積み的な点。楽曲をリリースして、ライブをして、少しずつ技術も上がっていく……。ロックバンドのリアルを愚直に見せ続けていることは、評価すべき大切なストーリーだと思う。
では渦中の彼女たちはこの過去最大規模のライブツアーでもって、何を示したのか。それはズバリ『成長し続ける等身大の姿』なのではないかなと。……原作で結束バンドは大失敗したライブの後その映像がバズってレーベルとの契約に至るが、現実に降り立った彼女たち結束バンドもまた、同じく華々しい道へ進んでいくはずだ。来年に放送されるであろうアニメ2期と合わせて、歩みを今後もじっくり観測していきたい。そう強く思わせる運命的なライブだった。
【結束バンド@Zepp HANEDA セットリスト】
月並みに輝け
青春コンプレックス
カラカラ
惑う星(新曲)
僕と三原色
milky way(新曲)
Distortion!!
夢を束ねて(新曲)
あのバンド
ドッペルゲンガー
なにが悪い
UNITE(新曲)
忘れてやらない
星座になれたら
秒針少女
今、僕、アンダーグラウンドから
Re:Re: (ASIAN KUNG-FU GENERATIONカバー)
[アンコール]
転がる岩、君に朝が降る (ASIAN KUNG-FU GENERATIONカバー)
ギターと孤独と蒼い惑星
光の中へ